静岡地方裁判所 昭和30年(行)3号 判決 1955年7月01日
磐田市二之宮一、三七三番地
原告
勅許家元正四位菊坡安信司家乾押院儒教陰陽道孔子教団総帥府上海司庁公許祭祀法人儒学孔子教団総帥府東亜大司片総帥府司長宣教主李明俊宗教法人皇衛治教神祗陰陽道殖産興業寮総管大教主陰陽医学頭宣教司 木舟晴善
(以下宗教法人殖産興業寮と略称する)
右代表主管者
李明俊
木舟直太郎
原告
勅許家正四位菊坡晃司家祭祠法人儒学治教孔子教団聖庁宗教法人皇道治教信徒共同美容理髪寮
(以下宗教法人美容理髪寮と略称する)
磐田市見付二、三八五番地の四
被告
磐田税務署長
元木精一郎
右指定代理人
山田良平
村松実
片桐信
竹下重人
北岡三郎
右当事者間の差押処分取消請求事件について当裁判所は昭和三〇年六月一七日終結した口頭弁論に基いて次のように判決する。
主文
原告らの訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
原告らは被告が昭和三〇年四月一三日原告宗教法人美容理髪寮所有の別紙記載の有体動産に対してなした差押処分を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求の原因を次のように述べた。
被告は原告宗教法人美容理髪寮所有の別紙目録記載の有体動産に対し同寮が昭和二九年度分法人税金二五、一六〇円を滞納したことを理由として昭和三〇年四月一三日差押処分をなした。しかし元来同原告は従来より免税事業として営業して来た宗教法人であるのにこれに対して課税することは違法であり従つてこれに基く本件差押処分も又違法であると言わなければならない。しかして原告宗教法人殖産興業寮は原告宗教法人美容理髪寮を管理監督しておるから本件差押処分に利害関係を持つている。よつて原告らはここに右差押処分の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の本案前の抗弁に対しては抗弁事実は全部認めると述べた。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め本案前の抗弁として次のように述べた。
被告が原告宗教法人美容理髪寮に対する昭和二九年度法人税の滞納処分として原告主張のような差押処分をなしたことは認めるが、原告らは本訴提起に際して国税徴収法所定の前置手続を経ていない。即ち原告宗教法人美容理髪寮は本件差押処分に対し昭和三〇年四月一五日国税徴収法三一条の二の規定により被告に再調査の請求をしたので被告は同年五月四日付で右請求を棄却する決定をなし同決定は同月一二日右理髪寮に送達された。ところが同理髪寮はこれに対し同法三一条の三の規定による審査の請求をなさないから結局本訴を提起するについて審査の決定を経ていない。又原告宗教法人殖産興業寮は本件差押処分に対し国税徴収法所定の再調査の請求をしていないから結局本訴を提起するについて再調査の決定は勿論審査の決定も経ていない。従つて原告らの本訴請求は不適法として却下さるべきである。
理由
先ず本訴が適法であるかどうかについて検討する。税務署長のなした国税滞納処分の取消を訴求する場合には国税徴収法三一条の二乃至四、行政事件訴訟特例法二条により原則として当該処分をなした税務署長に対し右処分の通知を受けた日から一ケ月以内に不服の事由を記載した書面で再調査の請求をなしその決定に対して不服がある場合には更に書面で国税局長に審査の請求をなしその審査決定を経なければならないことは明らかである。
しかるに法人税滞納処分の執行としてなされた本件差押処分に対して原告宗教法人美容理髪寮が審査請求の手続を又原告宗教法人殖産興業寮が再調査請求の手続をいづれも経ていないことは原告らの自認するところであり、なほ原告らが前記国税徴収法所定の手続を経ることなく直ちに本訴を提起するについて正当の理由があるとは認められないから原告らの本訴はいづれも訴訟要件を欠くものと言わなければならない。
よつて原告らの本訴はその余の点について判断する迄もなく不適法として却下し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条九三条を適用して主文のように判決する。
(裁判長裁判官 戸塚毅造 裁判官 田嶋重徳 裁判官 大沢博)