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静岡地方裁判所 昭和31年(行)5号 判決 1960年4月05日

原告 井戸栄 外七七名

共同訴訟参加人 上田勝平 外五名

被告 伊東市農業委員会・静岡県知事

主文

被告伊東市農業委員会に対する本件各訴をいずれも却下する。

被告静岡県知事に対する原告ら及び参加人らの主たる請求を棄却する。

訴訟費用(参加費用を含む)は原告ら及び参加人らの連帯負担とする。

事実

第一、請求の趣旨及びこれに対する答弁

一、主たる請求の趣旨

(一)  被告農業委員会との関係において、伊東市伊東地区農地委員会が昭和二十三年二月十二日別紙目録記載の土地について定めた農地買収計画の無効であることを確認する。

(二)  被告知事との関係において、被告知事が前項の土地について昭和二十四年七月二十日付でなした買収処分の無効であることを確認する。

(三)  訴訟費用(参加費用を含む)は被告らの連帯負担とする。

二、予備的請求の趣旨(主たる請求が不適法として却下される場合)

(一)  被告農業委員会との関係において、伊東市伊東地区農地委員会が昭和二十三年二月十二日別紙目録記載の土地に対する原告ら及び参加人らの別紙第一表記載の各持分権について定めた農地買収計画の無効であることを確認する。

(二)  被告知事との関係において、前項の各持分権に関する被告知事の昭和二十四年七月二十日付買収処分の存在しないことを確認する。

(三)  前項のみの予備的請求

被告知事との関係において、前項の各持分権に関する被告知事の昭和二十四年七月二十日付買収処分の無効であることを確認する。

(四)  訴訟費用(参加費用を含む)は被告らの連帯負担とする。

三、本案前の答弁

(一)  原告ら及び参加人らの主たる請求につき訴を却下する。

(二)  訴訟費用は原告ら及び参加人らの負担とする。

四、本案についての答弁

(一)  原告ら及び参加人らの主たる請求及び予備的請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告ら及び参加人らの負担とする。

第二、請求原因

一、本件第一、二、第六の各土地は明治二十六年五月一日、第三、四、第七の各土地は明治二十七年二月三日、第五、第八の各土地は明治二十六年四月二十日原告ら及び参加人ら(以下単に原告らと略称する)の別紙第三表第一欄記載の先代(先々代を含む)らを含む八十九名が、第九、十の各土地は、大正十年十二月二十日原告らの同記載の先代らを含む八十七名がそれぞれ所有権を取得し、第一、二、第四ないし第八の各土地については明治三十四年三月二日、第三の土地については同年二月九日、第九、十の各土地については大正十一年一月十日それぞれ共有持分権取得の登記を了し、その後原告らは右各持分権をそれぞれ別紙第三表記載のように家督相続、遺産相続、贈与、売買等によつて取得した。本件各土地は原告らの先代らがその所有権を取得した以降昭和十八年末ごろまでは共有者の内一部の者にこれを小作地として耕作させてきたが、昭和十九年一月ごろから、食糧事情悪化のため、使用区画を定めて各共有者に別紙第二表記載のように割当て、これを耕作収益させてきたものである。

二、伊東市伊東地区農地委員会は昭和二十三年二月十二日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第五項第四号の「法人その他団体の所有する小作地」として本件各土地につき買収計画を樹立し、翌十三日これを公告したが、本件各土地は原告ら自身が利用しているその共有地であるから、該買収計画は、本件各土地を団体所有地とした点においても、小作地とした点においても違法であり、右各違法はいずれも重大かつ外観上明白であるから、本件買収計画は無効である。

三、被告知事は本件買収計画に基いて昭和二十四年七月二十日付で本件各土地に対する買収令書を発行し、昭和二十五年中これを原告木村繁造に交付して本件各土地の買収処分をしたが、右買収処分は無効な本件買収計画に基いてなされたものであるから、違法であり、この違法は重大かつ外観上明白であるから、本件買収処分も無効である。仮に本件買収計画が無効でないとしても、原告らは本件各土地について持分権を有しているのであるから、買収令書自体において共有者を明示、特定し、買収令書を各共有者ごとに発行、交付すべきであるのに、右買収令書は一通で、これに本件各土地の表示の外に所有者を「亘四郎外八十七名」と記載してあり、これが原告木村繁造、一名に交付されたに過ぎないから、この点においても本件買収処分は違法であり、この違法は重大かつ外観上明白であるから、本件買収処分は無効である。

四、よつて、被告農業委員会に対し本件買収計画の無効確認を、被告知事に対し本件買収処分の無効確認をそれぞれ求めた。

仮に右各訴が不適法であるとすれば、被告農業委員会に対し原告らの本件各土地の持分権について本件買収計画の無効確認を、被告知事に対し右持分権についての買収処分の不存在確認を、不存在確認が理由なしとすれば、その無効確認を求める。

第三、被告らの主張に対する答弁

(一)  第三者が共有物に対して使用収益の妨害その他所有権を侵害する行為をするときは、各共有者は単独で共有物全部について妨害排除請求権、返還請求権等の物権的請求権を行使しうるし、持分権は共有物全体の上に及ぶのであるから、本件のように違法な行政処分によつて共有物の所有権が侵害されている場合は、各共有者が共有物全部について行政処分の効力を争いうることは当然であり、被告らの本案前の抗弁は失当である。

(二)  被告らの本案に関する主張事実は全部争う。

第四、請求原因に対する答弁及び被告らの主張

一、本案前の抗弁

仮に本件各土地について原告らが持分権を有しているとしても、本件のような行政処分の無効確認を求める訴は共有物の保存行為ではなく、むしろ処分行為というべきであるから、共有者全員でない原告らによつて提起された請求の趣旨一の(一)、(二)の各訴は、当事者適格を欠き、不適法であり、却下されるべきである。

二、請求原因に対する答弁

原告主張事実中登記、買収計画の樹立及び公告、買収令書の発行及び交付の点は認めるが、その余の事実は争う。

三、被告らの主張

(一)  本件各土地の所有関係

本件第四ないし第七の各土地はいずれも明治二十四年の鎌田区の大火に際し、罹災者から買上げたものであり、第一ないし第三、第八ないし第十の各土地はいずれも区民中の区費永年滞納者から区費の整理のために買上げたものであつて、元来鎌田区の所有であつたが、形式的には住民の各家を代表する戸主総員八十九名もしくは八十七名で代表される区民の共同所有の形式をとつていた。

しかるに、その管理形態の面において区有の実質は次第に稀薄となり、本件各土地は、他の区有財産と異り、区民から選出された保護委員及び保護委員長にその管理処分の権限がゆだねられ、区民は収益の分配にあずかるという形に転化し、区民または登記簿上の所有名義人によつて構成される人格のない社団の所有に帰属するに至つたものである。

(二)  本件各土地の利用関係

本件第一、第二の各土地は訴外藤原国雄外六名が、第三の土地は訴外小田源治、土屋正直がいずれも昭和十九年ごろから、第四の土地は訴外北川淳一郎が、第五の土地は訴外大川源城が、第六、第八の各土地は訴外藤原一男が、第七の土地は訴外稲葉良一が、第九の土地は訴外大川巖、柿戸尚樹が、第十の土地は柿戸尚樹がいずれもずつと以前から引続きそれぞれ小作してきたものであり、その小作米は鎌田区の郷倉に保管され、火災、風水害等の災厄用に用いられると共に、残余は鎌田区の消防団、青年団関係費等に供されてきたが、昭和十九年ごろから食糧不足のため、その小作米は、本件第一、二の各土地の分はいわゆる十組々員に、第三の土地の分は下方組々員に、第四の土地の分は久保方組々員に、第五、六の各土地の分は海立組々員に、第七の土地の分は堀川組々員に、第八の土地の分は八代田組々員に、第九、十の各土地の分は仲町組々員にそれぞれ分配されてきたものである。

(三)  従つて、本件各土地は「法人その他の団体の所有する小作地」であるから、本件買収計画にはなんら違法な点はないし、これに基く本件買収処分も原告らを含む本件各土地の総有団体の代表者である原告木村繁造に対して買収令書を交付してなされたものであるから、適法である。

第五、証拠<省略>

理由

第一、本件買収計画無効確認の訴は、主たる請求も、予備的請求も、不適法である。本訴は同一の農地買収手続における買収計画と買収処分の無効確認を同時に求めるものであるが、もし両処分の取消、無効確認訴訟で主張されている買収計画の違法事由が買収処分も違法にするものであれば、行政訴訟事件の判決は関係行政庁を拘束するのであるから、買収処分がなされた後でも買収計画を訴の対象とすることができるという前提に立つても、両処分のいずれか一方を訴の対象とすれば足り、両処分を対象とする必要なく、もし買収計画の違法事由が買収処分を違法にするものでないならば、買収手続が目的としている法律効果を発生させるのは買収処分であり、買収計画はその前提となる手続の一部に過ぎず、従つて、買収処分がなされてしまつたあとで買収計画の違法を確定しても、原告らの権利義務に直接影響はないし、また、買収計画が適法であつても、買収処分が違法でありうる場合もあり、結局、買収処分の違法事由は買収処分に影響のある買収計画の違法事由を包含するけれども、買収計画の違法事由は必ずしも買収処分の違法事由を全部包含するものではなく、いわば買収処分の取消無効確認は手続全体に関するものであり、買収計画の取消、無効確認は手続の一部に関するものであるから、少なくとも本件のように、同時に両処分の無効確認を求めた場合は、買収計画無効確認の訴は訴の利益を欠くものと解するのが相当である。

第二、本件買収処分無効確認の訴についてなされた被告らの本案前の抗弁は理由がない。被告らは共有物についてなされた行政処分の取消、無効確認の訴は共有者全員から提起されなければならない旨主張するが、共有物についてなされた行政処分の取消、無効確認の訴は妨害排除の請求に外ならず、共有物の保存行為と解するのが相当であるから、共有者の一部であると主張する原告らの被告知事に対する主たる請求は適法であり、これを不適法として却下を求める被告らの本案前の抗弁はこれを採用するに由ない。

第三、原告らの被告知事に対する主たる請求の本案については理由がない。本件各土地について原告ら主張のような登記の存すること、本件買収令書が原告ら主張のころ原告木村繁造に交付されたことは当事者間に争なく、成立に争のない甲第四ないし第十号証、第十二、十三号証、第十四号証、第二十一、二十二、二十三号証、第三十、三十一号証の各一、二、第三十三、三十四号証、第四十号証、第百六号証、乙第一ないし第十二号証、第二十一号証の一、二、第五十二号証、印影の真正に争がないから、原告三枝春野が作成したものと推定すべき同第四十五、四十六、四十七号証、証人小田源治、北川淳一郎、柿戸善作、藤原浜作、藤原由蔵の各証言、鑑定人井林栄次の鑑定の結果、原告木村繁造、三枝春野の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、賀茂郡鎌田村は明治二十二年三月一日同郡伊東村に合併されたが、これに先立ち、村有不動産の一部を村内の各戸を代表する村民八十数人の所有名義とし、その後所有名義人で他に居住するような者も出、登記簿上持分権の売買による移転もなされたが、所有名義人の大部分は鎌田区に居住し、右不動産を管理するため、毎年あるいは一年おきに区民の総会の際右所有名義人の総会が開かれ、保護委員会の構成員である数名の保護委員及び一名の保護委員長が選任され、該保護委員会が右不動産の管理、処分を行い、その収益から鎌田区在住者の共同の利益のための諸費用を支出、その残額を共有名義人に分配し、該分配金から区費が徴収されてきたこと、本件各不動産は右不動産の収益またはその一部を処分した代金等により購入され、前記共有名義人らの共有名義となり、すくなくとも昭和十八、九年ごろまでは保護委員会によつて直接管理され、小作地として共有名義人の一部の者に貸付けられてきたこと、原告木村繁造は本件買収令書受領当時前記保護委員長をしていたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、仮に原告ら主張のように本件各土地が原告らその他の者の共有に属し、かつ、買収当時小作地でなかつたとしても、その共有者は非常に多数で、一種の団体を形成し、総会、保護委員会、保護委員長等の機関を有し、共有者の一部の者が従前小作地であつた本件各土地を耕作していたことになり、外部からみると、登記簿上は共有名義になつていても、本件各土地が団体の所有か否か、また、小作地か否か判然としないから、これを「法人その他団体の所有する小作地地」と解して、その買収計画を樹立し、保護委員長に該団体を代表する権限ありと解して、保護委員長である原告木村繁造に買収令書を交付してその買収処分をすることは無理もないことであり、違法ではあつても、明白な違法をおかしたものとは解し難い。従つて、該違法は取消事由となつても、無効事由とはならないから、本件買収処分の無効確認を求める原告らの請求は失当であるといわざるを得ない。

第四、なお原告らの被告知事に対する各予備的請求は被告らの本案前の抗弁が容れられ、主たる請求が却下された場合の請求であるから、既に右抗弁の排斥された以上判断を要しない。

よつて、原告らの被告農業委員会に対する各訴を却下、被告知事に対する主たる請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 半谷恭一)

(目録省略)

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