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静岡地方裁判所 昭和33年(ワ)368号 判決 1960年9月02日

被告 静岡銀行

事実

原告国は「被告は原告に対し金五万円及びこれに対する昭和二十八年十月十日から金五万円及びこれに対する同月十八日から、金五万円及びこれに対する同月二十二日から、金五万円及びこれに対する同年十一月一日から、金五万円及びこれに対する同月二十三日から、金五万円及びこれに対する同年十二月二日から、金五万円及びこれに対する同月六日から、金十万円及びこれに対する同月三十一日から、金二十万円及びこれに対する昭和二十九年一月十二日から、金九万千円及びこれに対する昭和三十年十二月十一日から、右各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として「訴外浅野栄一(以下訴外人という)はピアノの製造販売を業とするものであるが、昭和二十八年九月二十九日現在において同年分物品税百七十五万二千五百四十円を滞納したので、浜松税務署長山岸克治は、右滞納税金を徴収するため、同日訴外人が被告に対して有する別紙第一目録記載の債権を差押え、該差押通知書を同日その取扱先である被告の中野町支店に送達したから、訴外人に代位して、右各債権元金及びこれに対する各満期日の翌日から右各完済に至るまで商法所定の損害金の支払を求めるため、本訴に及ぶ」と陳述し、被告の抗弁に対し「該主張事実中質権設定および相殺の予約の点は知らない。悪意の点は否認する。原告は質権、相殺の予約のいずれについても善意であつたものである。その余の事実は認める。しかしながら、第三債務者は、自動債権の弁済期が差押前に到来した場合にのみ、差押債権者に対し相殺を対抗しうるものと解すべきであり、従つて、自動債権の弁済期が差押後に到来する場合は、被告主張のような相殺の予約があつても、これに基いて差押前に相殺の意思表示をしない限り、自動債権の弁済期が差押前に到来したことにはならないし、また、右制限に反する相殺の予約を差押債権者に対抗し得ないことは当然であるから、第三債務者は差押後の相殺を差押債権者に対し主張し得ないものというべきである。また、……本件質権は対抗要件を備えていないから、被告はこれを原告に対抗し得ない……」と述べた。

被告静岡銀行は答弁として「原告主張事実は全部認めるが、本件被差押債権は相殺により消滅しており、仮にそうでないとしても、これについて被告の訴外人に対する貸金債権を被担保債権とする質権が設定されているから、右貸金債権が弁済されるまで本件被差押債権を支払う義務はない。すなわち、訴外人は昭和二十八年八月十四日から同年九月十八日までの間に、本件被差押債権について被告に対し、現在及び将来負担する銀行取引上の債務を担保するため、質権を設定し、その債権証書を交付すると共に被告は昭和二十七年三月二十二日訴外人と合意の上、同人が他より差押を受ける等債務の不履行のおそれがあると認められる場合は被告は、弁済期のいかんにかかわらず、訴外人に対する債権債務を相殺しうることと定めていたが、被告は昭和二十八年十月九日到達の書面で、訴外人に対し訴外人に対する別紙第二目録記載の手形貸付債権合計七十四万千円と本件被差押債権合計七十四万千円とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたから、これにより本件被差押債権は消滅したものであり、仮にそうでないとしても、被告は質権の留置的効力によりその支払を拒みうるものである。(以下省略)

理由

原告は被告と訴外浅野との間に弁済期のいかんにかかわらず訴外人に対する債権債務を相殺しうる特約があつても、差押前に相殺の意思表示をしない以上被告はその主張の相殺を原告に対抗し得ない旨主張する。しかしながら、原告は本件被差押債権の譲渡を受けたものでも、転付を受けたものでもなく、単に訴外人の債権を代位行使するに過ぎないのであるから、特別の制限規定の存しない限り、被告は訴外人に対して主張しうるすべての抗弁を原告に対して主張しうるものと解すべきところ、相殺については民法第五百十一条に第三債務者は差押後に取得した債権による相殺を差押債権者に対抗し得ない旨の制限が存するだけで、他になんら原告の主張するような制限はないのであるから、被告は本件相殺の予約を差押債権者たる原告に対抗しうるものと解するのが相当である。

従つて、本件被差押債権が被告主張の相殺の意思表示により消滅したことは明白であり、その支払を求める原告の請求はその他の点につき判断するまでもなく理由がない。

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