静岡地方裁判所 昭和33年(行)17号 判決 1958年12月09日
原告 山田洋
被告 静岡県人事委員会
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告が昭和三十三年三月十日付で原告の勤務条件に関する措置要旨についてなした判定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として「原告は静岡県立富士高等学校に教諭として勤務する教育公務員であるが、昭和三十二年二月八日被告に対し(一)原告が昭和二十四年四月から昭和三十二年二月までの間に勤務校においてなした宿直(合計十回)、日直勤務に対してその勤務に相応して計算される超過勤務手当、夜勤手当、休日給の支給額から宿日直手当としてすでに支給された額を控除した額を支給するよう、(二)静岡県教育委員会は原告が宿日直勤務に服することを応諾し、かつ、宿日直勤務の内容が昭和二三、九、一三基発一七号、昭和二三、四、一七基収一〇七七号の基準を下回らない場合に限り、被告に対し宿日直勤務の許可を求め、かつ、被告の許可のない限り宿日直勤務に服させないよう、(三)宿日直手当の額は超過勤務手当を下回らないよう、それぞれ措置すべきことを勧告することを求めたところ、被告は昭和三十三年三月十日付で、該要求を棄却する旨の判定をし、該判定書は同月三十日ごろ原告に送達された。しかるに、原告は教諭であるから、原告の職務は児童(生徒)の教育をつかさどることにあるが、宿日直勤務は「正規の勤務時間外並びに休日に、本来の勤務に従事しないで、庁舎、設備、備品、書類等の保全、外部との連絡、文書の収受及び庁舎の監視を目的とする勤務」であるから、原告の職務外のものであり、原告の勤務条件については原則として労働基準法の適用があるから、同法第三十六条により、時間外、休日労働について同法第三十二条、第四十条、第三十五条の適用を除外するためには、原告の職場の労働者との書面による協定、行政官庁に対する届出が必要である。従つて、これに反する静岡県条例は無効であり、なお、労働基準法施行規則第二十三条も憲法第二十七条第二項に違反し、無効であるから、原告に対し宿日直勤務を無条件に命ずることは許されず、原告が一方的に余儀なくされていた宿日直勤務は何ら法律的根拠のない強制労働であつたにもかかわらず、職務命令で原告に宿日直勤務を命じうるという誤つた判断のもとに原告の措置要求を棄却した本件判定は違法であるから、その取消を求めるため、本訴に及ぶ。なお、被告の訴訟代理人への本件に関する委任は、何ら法令に規定がないから、無効である」と述べた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その理由として「本件判定は給与、勤務時間その他の勤務条件について関係機関により適当な措置がとられるべきであるとの職員の要求に対する人事委員会の判断、意見の表明に過ぎず、直ちに要求者の権利義務に影響を及ぼすものではなく、行政訴訟の対象たり得ないものであるから、本訴は不適法である」と述べ、本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として「原告主張事実は全部認めるが、本件判定は適法である。すなわち、宿日直勤務が教諭の本来の勤務でないことは明白であるが、その職務は本来の勤務の外に教育目的遂行のための補助的な勤務をも含むものと解するのが相当であり、児童、生徒を教育することと直接教育の用に供される物的設備の管理保全とは密接な関係にあり、宿日直勤務は教育業務を遂行するための一環の業務として教諭の職務に含まれる補助的な勤務と解すべく、また、労働基準法第四十一条第三号は専問的に監視または断続的労働に従事する者だけに適用されるものではないから、原告にも当然適用されるべきである。従つて、同法施行規則第二十三条も右規定を前提とするものであることは明白であるから、何ら憲法第二十七条第二項に違反するものではなく、これを前提として定められた職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例(静岡県条例第三十二号)第九条(任命権者は職員に対し宿直勤務または日直勤務を命ずることができる)により原告に対し宿日直勤務を命ずることはもとより適法であり、本件判定は違法ではないから原告の請求は失当である」と述べた。
理由
まず、被告の本案前の主張について考えると、本件判定は地方公務員法第四十六条、第四十七条に基いてなされた原告の勤務条件に関する措置要求に対する判断、意見の表明に過ぎず、原告の権利義務に直接なんら影響を及ぼすものではなく、また、これを前提として原告の権利義務に直接影響を及ぼすべき行政処分が必ずなされるものでもないから、行政訴訟の対象となり得ないことは明白であり、本訴は不適法といわざるを得ない。なお、原告は、被告の訴訟代理人への本件に関する委任は無効である旨主張するけれども、特に禁止規定のない限り、一般原則により被告は当然本件について弁護士たる訴訟代理人を選任し、これに訴訟を追行させうるものと解するのが相当であるから、原告の右主張は理由がない。よつて、本件訴を却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 大島斐雄 田島重徳 浜秀和)