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静岡地方裁判所 昭和33年(行)2号 判決 1960年4月26日

原告 松本広

被告 静岡市 外二名

主文

原告の被告山田順策に対する訴を却下し、被告静岡市および被告静岡信用金庫に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

原告訴訟代理人は「原告と各被告間において、被告山田順策が静岡市長として昭和三二年四月二日被告静岡市と被告静岡信用金庫との間に締結した、静岡市所有の静岡市追手町一六番地の二宅地二五八坪七合五勺と静岡信用金庫所有の同市七間町二番地の三宅地九二坪との交換契約は無効であることを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、

被告三名訴訟代理人らは、いずれも本案前に「本件訴を却下する。」との判決を、本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、静岡市追手町一六番地の二宅地二五八坪七合八勺(以下「追手町の土地」という。)は被告静岡市(以下「被告市」という。)が、同市七間町二番地の三宅地九二坪(以下「七間町の土地」という。)は被告静岡信用金庫(以下「被告金庫」という。)が、それぞれ所有していたものであるが、被告市は、被告金庫との間に昭和三二年四月二日右追手町の土地を七間町の土地と交換する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

二、しかしながら本件契約は次の理由により違法、無効のものである。

(一)  被告市がその所有にかかる追手町の土地を被告金庫所有の七間町の土地と交換するについては、地方自治法第二四三条第二項及び「静岡市議会の議決又は住民の一般投票に付すべき財産営造物又は議会の議決に付すべき契約に関する条例」(昭和二三年一一月二二日静岡市条例第五二号。以下「契約条例」という。)第四条の定めるところにより一件の予定価格一五〇万円以上の不動産の譲渡に該るものとして、静岡市議会の出席議員の三分の二以上の同意(いわゆる「特別決議」)を必要とする。しかるに、被告市は本件契約締結に当つて単に通常の過半数による決議をしただけで右特別決議による市議会の同意を得ていないので、本件契約は前記法令に違反して締結された違法、無効のものである。

(二)  「静岡市有財産条例」(昭和二三年一一月二二日静岡市条例第五一号)第二四条には「財産は他の同一種類のものと交換することができる。この場合において、その価格が等しくないときは、その差額を金銭で補足しなければならない。」と規定されている。本件追手町の土地と七間町の土地の前記交換契約は右各土地の価格とが等しいものとして締結されたものであるが、通常実際の取引価格より遥かに低い登記官吏(静岡地方法務局)の規定基準価格においても、追手町の土地の価格は金九、二四五、一〇〇円、七間町の土地の価格は金八、二八〇、〇〇〇円と評価されており両者の間には、凡そ一、〇〇〇、〇〇〇円の差がある。従つて、実際の取引においては右以上の差があるものと考えざるを得ないから本件契約は明らかに前記条例に違反し、その契約内容に違法がある。

(三)  静岡市有財産条例第七条には静岡市が「買入、交換、寄附等により財産を取得しようとするときは、あらかじめその財産について必要な調査を行ない、私権の設定その他特殊の義務を負担するものについては、所有者又は権利者をして、これを消滅せしめる等適当の措置を講じた上、取得しなければならない。」と規定されている。しかるに、本件契約によつて被告市の取得した七間町の土地には、契約当時から被告金庫所有にかかる家屋番号七間町二番木造瓦葺平屋建事務所一棟(建坪四二坪三合五勺)、家屋番号七間町二番の二、土蔵造瓦葺二階建倉庫一棟(建坪六坪外二階六坪)の各建物が存し、右土地は負担つきのものであつた。従つて被告山田順策は、本件契約締結に先立つて同条に定める「適当な措置」を講ずべきであつたにも拘らず、同被告は何らそのような措置をとらなかつたから、本件契約は右条例に定める手続に違反し、違法である。

(四)  静岡市有財産条例第四条には「財産に関する事務に従事する職員は、その取扱いにかかわる財産を譲り受け、又はその所有物と交換してはならない。」と規定されておりこの規定の趣旨とするところは、市有財産の管理処分等の公正を保障するに在る。ところで、被告山田順策は、市長として静岡市の事務を自己の判断と責任とにおいて処理すべき機関でありながら、他方において本件契約の相手方である被告金庫の代表理事をも兼ねていた。従つて被告山田順策が一方において被告市の、他方において被告金庫の、各代表者として締結した本件契約はその締結手続が右条例の趣旨に反するばかりでなく、民法第一〇八条の趣旨にも反し著るしく不当である。

三、以上のように、被告山田順策が被告市の代表者として被告金庫との間に締結した本件契約はその手続、内容において違法があり、これらの違法は個々に、或は競合して本件契約を無効ならしめるものであることは、地方自治法第二条第三項第一四号第一五号の規定によつても明白である。

四、そこで原告は静岡市の住民として、地方自治法第二四三条の二第一項に基き、静岡市監査委員に対し、当該行為の制限又は禁止に関する措置を講ずべきことを請求したところ、昭和三二年一二月二四日付をもつて監査委員から、かかる措置は必要がない旨の通知を受けたが、原告はこれに対して不服なので、同条第四項に基き、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

なお、本訴において被告山田順策を個人として被告としたのは、本件交換契約の無効を前提とする同被告に対する将来の損害補てんに関する請求を考慮したためである。

第三、被告らの答弁及び主張

一、本案前の抗弁

原告の本訴請求は訴訟要件を欠く不適法のものである。すなわち、地方自治法第二四三条の二第四項の訴は、元来監査委員の監査を前提とし、監査の結果に対する不服申立方法として認められたものである関係上、その訴の対象は監査委員において監査を行ない、普通地方公共団体の長に対して当該行為の制限又は禁止の措置を講ずることを請求し得べき事項に限られるものと解すべきであり、そして、監査委員が普通地方公共団体の長に対して右のような請求をなし得る事項は、普通地方公共団体の長がその権限内においてなし得る事項例えば長以下の執行機関が議会の議決によることなく或いは議会の議決に反して違法若しくは不当の支出、又は違法若しくは権限を超える契約の締結若しくは履行をした場合等に限られるからいやしくもその支出或いは契約の締結等が議会の議決を経た場合には、最早普通地方公共団体の長には右議会の議決を無視してこれを差止める権限はなく、監査委員も亦右議決を経た事項については普通地方公共団体の長に対してその禁止制限等の措置を請求することはできないものといわねばならない。もし、議会の議決を経た事項についても監査委員に監査を請求し得るものとすれば、地方公共団体の最高機関である議会の意思が監査委員の意見によつて取捨判断されることになり、ひいては議決の執行が拒否されるような結果を生じ、地方公共団体の基本的な組織が崩壊することになるからである。

ところで、本件契約は昭和三二年三月二九日の静岡市議会の議決に基いて締結されたものであつて、監査委員の監査の対象とはならないからこれについて地方自治法第二四三条の二第四項の訴を提起することはできない。

二、本案に関する答弁

(一)  請求原因一の事実は認める。

(二)  請求原因二の(一)の事実のうち、本件契約の締結に静岡市議会の出席議員の三分の二以上の同意が必要であることおよび本件契約締結に当り静岡市議会が通常の過半数による議決をしたことは争う。

地方自治法第二四三条第二項において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならないものとされているのは財産の売却、譲渡及び貸与等に関する普通地方公共団体の議決で「条例で定める特に重要なもの」であるところ、本件契約については、静岡市の条例には何らの定めがないから、法第二四三条第二項の特別決議を要するものではない。

すなわち、静岡市の場合、同条同項にいう条例とは、原告主張の契約条例がこれに該当するが、右条例第四条第一項は法第二四三条第一項本文に基く競争入札に付する場合を規定したものであり、同条例第四条第二項は法第二四三条第一項但書に基いて競争入札以外の方法による場合を規定したものであつて、いずれも、本件契約の如くその性質上当然に随意契約によらねばならない場合には適用がない。なおまた、静岡市有財産条例第六条は財産買入につき随意契約によることのできる場合を定め、同第二五条は財産売却につき指名入札或いは随意契約によることのできる場合を定めているが、いずれも財産の買入、または売却に関する規定であつて交換に関するものではないから、本件契約はこれらの条項によつて随意契約とされたものでもない。

その他、本件契約に関して地方自治法第二四三条第二項の特別決議を要することを定めた条例はないから、本件契約締結について静岡市議会の特別決議がなされなかつたとしても何ら違法の点はない。

しかのみならず本件契約締結についての静岡市議会の議決はいずれも出席議員の三分の二以上の同意によつたものである。すなわち本件契約を審議した昭和三二年三月二九日の静岡市議会の議決に際しては出席議員竹内浅吉以下三六名のうち、本議案について二四名以上の多数が同意、また後に述べる本件契約の一部変更契約を審議した同年一二月一三日の市議会の議決に際しては出席議員竹内浅吉以下三四名のうち、本議案について二四名以上の多数が同意したものである。

従つて、仮に本件契約の議決について地方自治法第二四三条第二項の特別決議を要するものとしても、本件契約に関しては所定の多数の同意があつたものであるから、本件契約締結にはなんら違法の点はない。

(三)  請求の原因一の(二)の事実のうち、静岡市有財産条例に原告の主張するような規定のあることは認めるが、その余の事実は否認する。本件契約締結当時被告市所有の追手町の土地と被告金庫所有の七間町の土地は等価であり、本件契約において補足金を徴収する必要はなかつた。

仮に、本件契約締結当時、追手町の土地と七間町の土地が等価でなかつたものとしても、被告市はその後昭和三二年六月二八日被告金庫との間に本件契約を一部変更する契約すなわち被告金庫から被告市に対し、本件土地交換の補足金として金六七一、八一八円を支払うべき旨の、議会の議決を条件として効力を発生する旨の留保を附した仮契約を締結し、同年一一月一八日被告金庫から右金員の支払を受け、更に同年一二月一三日右仮契約について市議会の議決を経て同月一四日本契約を締結(以下右契約を「一部変更契約」という。)し、本件契約を価額の点において改訂した。

従つて、仮に本件契約を締結した当時その契約内容に等価でない違法があつたものとしても、右一部変更契約に基く補足金の授受によつて当然その瑕疵は治癒されたことになるので、結局条例違反とはならない。

(四)  請求の原因二の(三)の事実のうち、同条例に原告の主張するような規定があること、本件契約締結当時七間町の土地に原告の主張するような建物二棟が存在していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告山田順策は、本件契約締結に際し、被告金庫から、七間町の土地に存する建物につき何時たりともこれを撤去し、かつ撤去に至るまでの間は使用料として坪当り一ケ月金二〇五円を支払うべき旨の確約を得ているのであるから、被告市の取得する財産について何らの負担もないように適当な措置がとられているのである。

(五)  請求の原因二の(四)の事実のうち、同条例に原告の主張するような規定のあること、被告山田順策が被告市の市長、被告金庫の代表理事として双方を代表して本件契約を締結したことは認めるが、その余の主張はすべて争う。

被告山田順策は被告市の「財産に関する事務に従事する職員」ではないし、また、個人として追手町の土地を譲受けたものでなければ、個人の所有物と交換したものでもないから右条例は適用されない。

更に、民法第一〇八条の規定も専ら本人の利益を考慮した規定であつて、本人の許諾ある場合には双方代理も無効ではないと解されているが、本件契約については、被告市は市議会の議決をもつて、被告金庫はその理事会の承認をもつていずれもこれを許諾しているから、何ら右民法の規定の趣旨に違反するものではない。

(六)  請求の原因四の事実のうち、原告が静岡市の住民であること、原告の主張するような監査請求のあつたことはこれを認めるがその余の点は争う。

第四、被告らの主張に対する原告の陳述

一、本案前の抗弁について

本件契約の締結について被告市の市議会の議決があつたことは認めるが、右議決は、原告が請求の原因二の(一)乃至(四)に述べたような違法のものであるから被告山田順策は市長として拘束されることなく、違法と認めるときは議会の再議に附さなくてはならないし、更に違法な議決があつた場合には裁判所に出訴することもできたのである。従つて、議会の議決があつても被告山田順策の本件契約締結行為が適法化し、本件の訴を起こすことができなくなるものとは解されない。

二、本案に関する主張について

(一)  被告らの主張二の(一)に対し、静岡市においては、地方自治法第二四三条第一項但書により競争入札によらない場合、同法第九六条第一項第九号により議会の議決に付すべき場合同法第二四三条第二項により出席議員の三分の二以上の者の同意を必要とする場合を一括して契約条例第三条、第四条に規定したものである。被告らは地方自治法第二四三条第一項但書により競争入札以外の方法により得る場合の条例の規定としては市有財産条例第六条および第二五条のみである旨主張するが、契約条例第三条第二号、同第四条第二号にはそれぞれ市有財産条例第六条および第二五条に規定する売却または買入以外の契約である譲渡についても定めているのであるから、被告らの主張は誤りといわねばならない。

本件契約は契約条例第四条によつて競争入札以外の方法によるべきものとされると同時に法第二四三条第二項の特別決議を要するものと定められたと解すべきである。

(二)  同二の(二)に対し本件契約締結について静岡市の市議会において事実上出席議員の三分の二以上の者が同意したことは争う。仮りに出席議員の三分の二以上の多数が同意したとしても特別決議の方法によつたもでなければ特別決議としての効力はない。

(三)  同二の(三)に対し被告市と被告金庫間において本件契約締結後交換補足金を支払うべき本件契約の一部変更契約が締結され、これに基き被告市が右金員を受領し、かつ右変更契約について市議会の議決があつたことは知らない。仮りに右事実があつたとしてもなお本件各土地の交換は等価となるものではない。しかのみならず被告らの主張によると、被告市は昭和三二年六月二八日議会の決議を経ずに一部変更契約の仮契約を締結し、その履行をなしたというのであつて、右契約が仮契約であるとしても議会の議決なしに契約を締結することは違法であつて本件契約および右一部変更契約はいずれも無効である。

第五、証拠関係<省略>

理由

一、被告らの本案前の抗弁は理由がない。

被告らは、地方自治法(以下「法」という。)第二四三条の二第四項の訴訟の対象となるべき事項は、普通地方公共団体の監査委員がその長に対して当該行為の制限又は禁止の措置を講ずることを請求しうべき事項、換言すれば普通地方公共団体の長がその権限内で処理しうべき事項に限られ、執行機関である長の権限の及ばない議会の議決を経た事項については、これを同条の訴訟の対象とすることは許されないと主張する。

しかし、普通地方公共団体の長は、違法な議決に対しては、これを再議に付さなければならないのであり、再度の議決がなお違法のときは議会を被告として裁判所に出訴することも認められているのである(法第一七六条)からその長がこれらの方法をとらないで右議決に基く事務を執行するときは長の行為として違法であり、地方自治法第二四三条の二の監査や訴の対象となるものというべく、被告らの抗弁はそれ自体理由がないから採用しない。

二、被告山田順策には本訴の被告適格がない。

本訴は法第二四三条の二第四項に基き被告市が当時の市長山田順策によつて被告金庫との間に昭和三二年四月二日締結した土地交換契約の無効確認を求めるものであるが、右契約の法律上の効果は被告市と被告金庫とに帰属し事実上右契約締結の衝に当つたに過ぎない被告山田順策にはなんらその効果は及ばない。従つて本件の訴の被告としては直接具体的な利害関係を有する被告市と被告金庫とを共同被告とすれば足るのであつて被告山田順策を被告とする部分は正当な当事者適格を欠くものとして不適法といわねばならない。

三、進んで被告および被告金庫に対する請求について考察する。地方公共団体の長が当該団体の議会の議決を経て契約の締結若しくは履行をしたとしてもそれが明らかに無効な議決に基くものであれば法第二四三条の二にいう「違法な契約の締結若しくは履行」に該当するものと解すべきであるが、右長の違法行為につき同条による監査を請求し、訴訟を提起するためには、更に当該地方公共団体に対してこれに伴う損害を与えていることが必要である。何となれば同条の規定は地方公共団体の職員が違法又は権限を超えた行為によつてその団体に不利益を齎らす場合に住民に対し監査を請求し、更に当該団体に代位して訴訟を提起する権能を認めたものであるから株式会社における株主の代表訴訟又は差止請求の場合と同様に間接には請求人の利益の保護も考えられているが、直接には団体自体の利益の保護を目的としているものである。従つて団体に不利益を与えるような違法行為のみがその対象となるのであつて監査の請求又は訴訟を提起できるのは当該団体に損害を与え或いは与えるおそれのある場合に限られる(株式会社における株主の代表訴訟又は差止請求にあつてはこのことを法文上明記している。)と解するのが相当だからである。

四、以上を本件についてみるとまず、本件契約の締結について法第二四三条第二項に定める「出席議員の三分の二以上の者の同意」(以下「特別決議」という。)を得ることが必要であつたかどうかが問題となる。同条同項は「財産の売却、譲渡及び貸与、工事の請負並びに物件、労力その他の供給に関する普通地方公共団体の議会の議決で条例で定める特に重要なもの」については特別決議によらなければならないとし、静岡市の場合、「静岡市議会の議決又は住民の一般投票に付すべき財産営造物又は議会の議決に付すべき契約に関する条例(昭和二三年静岡市条例第五二号)第四条には「法第二四三条第二項の規定により、議会において出席議員の三分の二以上の者の同意を得なければならない契約は、次のとおりとする。一、法第二四三条第一項本文の規定により、競争入札によるもの(中略)(三)一件の予定価格三〇〇万円以上の不動産又は一件の予定価格八〇万円以上の動産の売却若しくは譲渡二、法第二四三条第一項但書の規定により、競争入札以外の方法によるもの(中略)(三)一件の予定価格一五〇万円以上の不動産又は一件の予定価格七五万円以上の動産の売却若しくは譲渡」と規定されていることは当事者間に争がない。右条例の規定によれば、一見動産又は不動産の売却又は譲渡は法第二四三条第一項本文によつて競争入札による場合及び同項但書によつて競争入札以外の方法による場合にのみ、特別決議の対象となるものとするようである。

しかし、法第二四三条第二項が財産の「譲渡」について規定しているのに同条第一項本文は財産の「譲渡」についてなんらの規定もしていないからこれを受ける同項但書においても「譲渡」について格段の規制をしていないとみるのが相当であり、そうすると、前記市条例第四条第一号及び第二号の各(三)に規定する「譲渡」はそれぞれ「法第二四三条第一項本文の規定により、競争入札によるもの」或いは「法第二四三条第一項但書の規定により、競争入札以外の方法によるもの」を受けるのではなく、それぞれ「競争入札によるもの」或いは「競争入札以外の方法によるもの」とある部分のみを受けるものと解さなければならない。もしそう解さなければ市条例第四条第一号および第二号の各(三)に規定する「譲渡」は空文となり、また法第二四三条第二項の特別決議を必要とする趣旨からみて売却以外の「譲渡」についてだけ特別決議を要しないとする合理的な理由は見いだしえないからである。

ところで追手町の土地の価格が一五〇万円以上であることは弁論の全趣旨から明らかであるから本件契約は前記市条例第四条第二号(三)の「一件の予定価格一五〇万円以上の不動産(中略)の譲渡」に該るものとして、同条本文、法第二四三条第二項の規定により、その締結について静岡市議会の特別決議を必要とすると解すべきである。

しかるに、本件契約およびその一部変更契約の締結について静岡市議会が特別決議によることなく単に過半数をもつて議決したことは成立に争ない乙第四号証の一、二からこれを認められ、これに反する証拠はない。被告らは仮りに本件契約の締結について議会の特別決議が必要であつたとしても、前記議会の議決は事実上出席議員の三分の二以上の多数の同意をもつて議決されたものであるから本件契約は有効である旨主張するが、法定要件を欠いた議決は当然無効であるから右主張を認めるに由なく議決は違法であるといわねばならない。

そうだとすれば、本件契約はその締結手続に重大な違法がありその他の点についての判断をするまでもなく無効というべきである。

五、しかしながら甲第一号証の一、二、乙第四号証の一、二、同第五号証の一、二証人鈴木信市の証言によつて真正に成立したものと認められる丙第二号証、証人田中利刀の証言によつて真正に成立したものと認められる丙第三号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる丙第四号証及び右鈴木、田中両証人の証言に弁論の全趣旨を綜合すれば、被告市は学校建設の財源をうるため昭和三二年四月二日前記市議会の議決に基きその所有の追手町の土地と早期に処分しやすい被告金庫所有の七間町の土地とを対等の価格で交換する契約を締結したが、その後日本勧業銀行静岡支店および静岡税務署の評価により右追手町の土地の価格は一五、〇三六、九〇〇円ないし一五、一七七、四四六円、七間町の土地の価格は一四、一五〇、七〇九円ないし一四、七二〇、〇〇〇円と評価されたため、被告金庫と協議し、同年六月二八日さきの交換契約を価格の点について補正し、被告金庫より被告市に補足金六七一、八一八円を支払うべき交換契約に変更し、同年九月三日所有権取得登記をした上同年一一月一八日右補足金を受領したこと、および更にその後被告市は本件交換によつて得た七間町の土地を二〇、〇〇〇、〇〇〇円で東京都中央区八重洲三丁目七番地訴外日本橋興業株式会社(代表取締役中沢嘉明)に売却処分したことが認められ他にこれを左右すべき証拠はない。

しかして右事実によれば追手町の土地と七間町の土地とはその価格の差が少く、七間町の土地に補足金六七一、八一八円を加えるときは両者は全く等価と認めるのが相当で、本件交換によつて被告市としては何らの損害をも蒙つていないことが看取される。

してみると、本件契約の締結は無効であるけれども、その無効な契約がすでに履行を終り被告市に何らの財政上の損害を生じておらず、且つ、追手町の土地を失うこと自体が被告市にとつて損害と考えられるような特段の事情も本件においては認められないから被告市の住民として原告が被告市および被告金庫に対して本件契約の無効確認を求める訴はその要件を欠き失当というほかない。

六、よつて原告の被告山田順策に対する訴を却下、その他の被告らに対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 半谷恭一)

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