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静岡地方裁判所 昭和37年(ヨ)3号 判決 1962年5月11日

申請人 三輪耕作

被申請人 協立電機株式会社

主文

被申請人は、本案判決確定にいたるまで、申請人をその従業員として取り扱い、かつ、申請人に対し昭和三七年一月一日から毎月二五日限り一か月金二一、八五〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その理由として次のとおり述べた。

一、被申請人会社(以下たんに会社ともいう)は、富士電機製造株式会社の系列販売店として、電気機械器具の販売ならびに工事等を営業の目的とし、清水市に本社を、静岡、沼津両市に営業所を有する株式会社(従業員現在数約八〇名)である。

一方、申請人は、昭和三三年五月その従業員に採用され、まず沼津営業所に勤務した後、同三六年二月静岡営業所の家庭電気器具販売の係長に昇任し、終始業務に精励してきたものである。

二、ところが会社は、突然、昭和三六年一二月三一日付で申請人を解雇し、その理由として次のとおり主張している。

申請人は同月一五日夕刻清水市の港ホテルで行なわれた会社主催の忘年会終了後、静岡市内の飲食店を、本社工業部計測課所属の岡村繁(当時一八歳)が無断で使用する会社所有の小型自動車ライトバン(一九六一年式トヨペツト・コロナライン、以下事故車という)に同乗して岡村とともに飲み廻つたあげく、さらに泥酔状態にある岡村にその運転をさせて清水市へ遊びに行こうと企て、静清国道を同市に向かつて進行中、午後八時五〇分ごろ静岡市日出町先で岡村は泥酔のため運転を誤り、対向して来る貨物自動車と衝突事故を惹起し、事故車は大破して修理不可能となり、岡村は全治約七か月の重傷を、申請人も全治約一〇日間の傷害を負つた。

ところで申請人は、岡村とその所属を異にするとはいえ、静岡営業所の係長であるから会社の幹部社員としてその他の従業員一般を常に指導監督すべき立場にあるのみならず、年令的にも岡村よりはるかに年長者である。しかるに申請人は、岡村の事故車の右無断使用、泥酔運転をなんらとがめないのみか、それを容認助長し、ついに右事故を招来せしめたものであつて、事故車の直接の運転者ではないけれども、その責任は重大で、法的には道路交通法第一一八条第二号違反及び刑法第二一一条の各罪の岡村との共犯というべきである。

申請人の以上の行為は、その身分、地位、事故車の損害の程度、犯罪の性質、態様等にてらすと、会社の就業規則第六四条第七号、第六五条第一二号及び同条第一〇号(別紙のとおり)に該当し、当然懲戒解雇を相当とする事案であるが、とくに申請人の将来を考慮し、通常の解雇にしたものである。

以上のとおり主張する。

三、しかし、右解雇は次の(一)ないし(三)の理由によつて無効である。

(一)  会社主張の就業規則は、昭和三六年八月一日から施行されたことになつているが、右就業規則は労働基準法第九〇条第一項(労働者の意見聴取)及び同法第一〇六条第一項(労働者への周知)の手続を欠いており無効であるというべきである。そして、使用者は就業規則(もちろん有効な)にその根拠がない以上、懲戒権を行使することができないと解すべきであるから、無効な右就業規則の規定を根拠とする右解雇は無効であるといわなければならない。

(二)  右就業規則が有効であるとしても、申請人には会社主張の懲戒事由が存しない。

(1)  会社が懲戒事由であると主張する事実に関することの真相は次のとおりである。

申請人は、昭和三六年一二月一五日夕刻清水市の港ホテルで行なわれた会社主催の忘年会に出席し、そのさい一人当りビール二本ていどが出されたのでそれを飲み、閉会後自分で会社の自動車(ハイゼツト)を運転して静岡営業所にもどつた。同営業所の河守次長、伊藤汎用係長らは右岡村の運転する事故車に同乗して帰所した(岡村の港ホテルにおける飲酒量も申請人と同じていどであつた)。そして一同で静岡市常盤町三丁目の飲食店「上下」へ行き、岡村は日本酒をちよこに二杯ほど飲んだ。それから、申請人は岡村に誘われ清水市へ同行することとし、事故車に同乗して静清国道を同市に向かつたが、午後八時五〇分ごろ静岡市日出町先で岡村は運転を誤り対向して来る貨物自動車と衝突事故を惹起し、二人とも負傷し、事故車は損傷をうけた。

(2)  そして右事実に、

(イ) 全く所属の異る本社工業部計測課勤務の岡村に対し、静岡営業所の一係長に過ぎぬ申請人が年長者とはいえその指導監督をすべき立場にないことはいうまでもないこと

(ロ) その当時、会社はその営業の性質上、自動車(以下、たんに車という)数が多いのにガレージが少く、多くの従業員は自分が会社で使用している車をそのまま自宅に乗つて帰り保管していた(静岡営業所についていえば、六台ある車のうち、五台までそうしており、ガレージがあるのは一台のみであつた)こと

このため、従業員が勤務時間外に会社の車を使用することは日常広く行なわれており、従業員の中には、休日に県外までドライヴをしている者すらあつたこと

(ハ) 会社における従来の部下に対する指導監督責任及び交通違反、事故についての責任の追及、処分はきわめてゆるやかであり、前者の例としては、昭和三六年九月、沼津営業所の一所員が会社の金を五三万余円も費消したという事件が発覚したが、その所長ら上司の責任は問題にされなかつたし、また後者の例としては、昭和三七年一月一〇日午前〇時五分ごろ静岡市西門町の国道上において、本社管理部管理課業務主任の大久保和男が酒に酔つて会社の車を運転し、歩行者に重傷を負わせた事件があつたが、同人に対する処分は資格降等及び出勤停止三日間に過ぎないこと

を合わせ考えれば、申請人は、岡村の事故車の無断使用及び交通違反、事故についてきわめて軽度の倫理的責任を有するにとどまり、法的に道路交通法第一一八条第二号違反及び刑法第二一一条の各罪の共犯としての刑責はないし、また会社に対し、事故車の損傷について損害賠償責任を負うべき筋合もないのである。かりにその倫理的責任を追及されるとしても、それはとうてい就業規則所定の懲戒解雇の事由にはあたらないというべきである。

(三)  右解雇は労働組合法第七条に該当する不当労働行為であるから無効である。

申請人は、全国金属労働組合静岡地方本部(以下「全金」という)所属の同組合員である。そして会社従業員の労働条件の向上をはかるべく、その労働組合の結成を、志を同じくする十数名の従業員とともに企て、そのため昭和三六年九月以降、しばしば打合わせの会合を重ねたり、静岡大学の労働法担当の角田助教授を招いて研究会を行なつたりし、ついに同三七年一月三日静岡市の県労働会館において結成大会を開催する予定にまでことを運んだ。その間申請人は、終始中心的、主導的存在として働いたのであるが、会社はひそかにこのことを一部の従業員を通じて探知、認識していた。

かくして会社は、組合の結成を妨害する意図からその中心的、主導的存在たる申請人を遠方の営業所に配置転換することを企て、昭和三六年一二月中、申請人を新設予定の掛川市の営業所に配置換えすることを決定したのであつたが、その後間もなく前記交通事故が起きたのでこれさいわいと、たんに事故車の同乗者に過ぎぬ申請人の責任をしつように追及したあげく、ついに右解雇の挙に出たものである。

このことは、前述のとおり申請人の処分と他の事例のそれとの間に甚だしい不均衡があることならびに社長はじめ会社幹部が昭和三七年一月一日から三日にかけて、正月休みにもかかわらず、わざわざ多くの従業員の私宅を訪問して、組合に加入しないよう説得して廻つている事実等に徴して明らかである。

以上のとおりで、右解雇は申請人が労働組合を結成しようとしたことを理由とするものであるから、不当労働行為として無効であるといわなければならない。

四、以上の理由から本件解雇は無効であり、したがつて申請人は依然会社の従業員たる地位を保有するものであるから、会社に対し解雇無効確認ならびに賃金請求の本案訴訟を提起する考えであるが、申請人は賃金を唯一の生活手段とするものであつて、右本案判決の確定をまつてはそれまで解雇の取扱をうけることによつて回復しがたい損害を被るので、これを避けるため、会社に対し、本案判決確定にいたるまで、申請人をその従業員として取り扱い、かつ、申請人に昭和三七年一月一日から毎月二五日限り二万一、八五〇円の金員の仮の支払(申請人は解雇当時まで、毎月二五日限り、基本給二万〇、八五〇円、役付手当五〇〇円、特殊技能手当五〇〇円合計二万一、八五〇円の賃金の支払をうけていた)を命ずる仮処分命令を求める。

被申請人代理人は「申請人の申請を却下する」旨の判決を求め、申請の理由に対する答弁として次のとおり述べた。

一、申請の理由一の事実は認める。

二、同二も認める。

三、同三(一)ないし(三)の主張はすべて争う。

(一)  同(一)について、就業規則は昭和三六年七月作成し、同年八月一日から施行したが、その作成については、会社従業員全員の親睦団体である協和会の代表者が慣例上全従業員の代表者としての資格を認められているので、右協和会の代表者の意見を聴取し、かつ各営業所ごとにその従業員の代表者の意見を聴取し、所定の労働者に対する周知の手続もとつており、その適法有効なことは明らかである。

(二)  同(二)について、同(1)は、申請人及び岡村の飲酒の量及びめいていの程度は否認するが、その余の事実は認める。なお、当時の事情の詳細は、申請の理由二のとおりである。

同(2)(ロ)は、前段の( )内の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

同(ハ)は、申請人主張の各事件があつた事実及び大久保に対する処分が申請人主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

沼津営業所の事件については、その監督責任者たる同営業所長の処分は、同所長が被害の弁償について本人の親族をして完全に履行させるため適切有効な措置をとつた情状をしん酌し、譴責処分に付している。

また、大久保のばあいは、慎重に事情を調査検討した結果、同人は事故当時、夜遅くまで会社の業務に服し、その後ビールを一本飲んだだけでほとんど酔つていなかつたこと、被害者も相当酒に酔つており過失があつたこと、大久保と被害者との間で示談ができ、会社にはなんら損害が及んでいないこと等を合わせ考え、その情状に照し懲戒解雇より一等を減じ資格降等及び三日間の出勤停止の処分に付したのである。

なお、申請人の処分までに、会社の車を勤務時間外に飲酒のうえ運転して事故を起こした事例が一件あるが、その従業員はいずれも解雇しており、これが会社の従前からの取扱いの慣行なのである。

(三)  同(三)は、申請人主張のとおり昭和三七年一月一日から三日にかけて、社長はじめ会社幹部が従業員の私宅を訪問した事実は認めるが、申請人が全金の組合員であること、申請人主張の組合結成の準備がなされていたことは不知、その余の事実は否認する。

会社は富士電機の製品の販路拡張のため、静岡県下、下田、清水、島田、掛川の四市に富士電機センター株式会社という名称の右販売会社の設立を企図し、会社の幹部社員中からその役員を派遣することとし、掛川富士電機センター株式会社には申請人をその代表取締役として任命することを決定したのであるが、この措置には申請人も大いに満足の意を表していたのである。

また、社長はじめ会社幹部が従業員の私宅を訪問したのは、次のような事情からである。

従来、会社は労使協調して社業の発展と従業員の地位の向上に努めてきており、労使間に対立的な空気など全くなかつた。ところが申請人は昭和三六年一二月三〇日、前記事故の責任をとつて任意辞職することを一旦承諾しながら、前言をひるがえし、翌三一日静岡営業所の所員の朝礼の席上、「自分は絶対に会社をやめない。会社とたたかうから諸君も応援してほしい」と発言し、従業員間に申請人に対する会社の処分は不当であるとの考えを植えつけようとするので、いままでこのような闘争的事態に未経験な会社では大いにろうばいし、従業員にことの真相を知らせ、右処分の正当性をなつとくしてもらうべく、説明して廻つたものであつて、決して組合結成を妨害するためではないのである。

四、同四は、申請人の賃金額及びその支払日が申請人主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

以上のとおりであるから、申請人の本件仮処分申請は失当で却下されるべきである。

(疎明省略)

理由

一、申請人主張の一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで以下に、申請人主張の無効事由の存否について判断するのであるが、右就業規則はその制定の手続にかしがあり無効であるとの申請人の主張三(一)についての判断はしばらくおき、まず、同(二)の、申請人に会社の主張するような、就業規則所定の懲戒事由があつたかどうかを検討する。

(一)  申請人主張の忘年会から事故発生までの経過、事情が、申請人及び岡村繁の飲酒の量及びめいていの程度を除き、申請人主張の三(一)(1)のとおりであることは当事者間に争いのないところである。そして、証人松崎圀夫の証言により成立を認める乙第一一号証、成立に争いのない第一八号証、前掲松崎証言、証人大久保和男の証言及び被申請人代表者尋問の結果を合わせると、事故当時及びその前後における岡村の飲酒めいていの程度は、泥酔状態とはとうてい言えないが、いわゆるほろ酔いの状態を超えていたものと認められ、右認定に反する申請人本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第六号証の記載は措信できず、他に右認定に反する疏明はない。

また、前記事故による申請人及び岡村の受傷の程度が被申請人主張のとおりであることは申請人の明らかに争わないところであるから自白したものとみなし、前掲松崎証言及びこれにより成立を認める乙第七、八号証、第九号証の一、二を合わせると、前記事故の結果、事故車は大破してほとんど修理不能の状態になり、会社は、昭和三六年九月一六日価格六二万五、〇〇〇円で購入したばかりの新車である事故車を、やむをえず、わずか五万円のいわゆるポンコツ価格で処分するにいたつたという損害を被つたことが認められる。

なお、前掲松崎証言、証人山田三郎の証言及び被申請人代表者本人尋問の結果により成立を認める乙第五号証(就業規則)に右松崎証言及び被申請人代表者本人尋問の結果を合わせると、(1)申請人のこれまでの勤務状態は良好で、とくべつの問題はなく、このことはなんら本件解雇の理由になつていないこと(2)就業規則第六四条第一号には「監督不行届により事故を起こしたとき」とあり、このばあいもその情状が特に重いときは、第六五条第一二号により懲戒解雇の事由となるのであるが、右は本件解雇の理由にはなつておらず(その主張もない)、申請人が前記のように、地位、年令とも岡村より上であることが被申請人主張の懲戒事由の情状として考慮されているにとどまることが認められる。

(二)  そこで、以上の事実関係にもとづいて、被申請人主張の懲戒事由の存在が就業規則の解釈適用上、客観的に妥当なものとして肯認できるかどうか考えよう。

まず、申請人に岡村との道路交通法第一一八条第二号違反ないし刑法第二一一条の各罪の共犯(共同正犯の意か、それとも教唆及び従犯をも含む意か、会社の主張は明確でないが、後者をも含む意に解して以下に判断する)が成立するかどうかを判断する。

以上の事実によれば、道交法第一一八条第二号違反の罪の点は申請人に共犯としての若干の疑いがないではないが、これを認めるべき的確な疏明はなく、また、刑法第二一一条の罪の点も含めて、申請人は静岡中央警察署において前記事故の参考人として一度取調べをうけただけで、今日にいたるまで、共犯としての取調べないし刑事上の処分をうけていないことが成立に争いのない甲第七号証及び申請人本人尋問の結果によつて窺われることを合わせ考えると、申請人に右各罪の共犯の成立を肯定するのは困難であるといわなければならない。

つぎに、申請人が故意又は過失により会社に損害を与えたとの点について判断する。

前記事故の結果、会社が損害を被つたことは上述したところであるが、以上認定のとおり申請人に刑法第二一一条の罪の共犯の成立が認めがたい以上、他にとくべつの事情の認められない本件においては、前記事故による事故車の損害を申請人の故意又は過失によるものとみるのも困難であるというべきである。

以上のとおりであるから、申請人の前記行為は、被申請人主張の就業規則第六四条第七号、第六五条第一〇号のいずれにも該当しないといわなければならない。

のみならず、かりに右各号に該当するとしても、これら該当行為のすべてについて解雇の許されないことは、当該行為の情状により戒告、譴責、減給、出勤停止、資格降等、辞職勧告または懲戒解雇の各種の処分を定めている就業規則第六四条、第六五条によつて明らかであり、懲戒解雇はその情状がとくに重く客観的に雇傭関係を継続することが困難視されるときに限られるものと解さなければならない。ところで以下に述べる諸点を考慮すると、申請人に対し懲戒解雇の理由があると認めるのは、被申請人主張の就業規則の規定の客観的、妥当な解釈適用を誤つたものとして無効であるというべきである。

すなわち、

(1)  前記事故による損害は、純然たる財産的損害なのであるから、その補てん、弁償の有無、程度及びこれについての誠意が、情状として大きく考慮されるべきものと考えられるところ、前掲松崎、山田各証言、申請人本人及び被申請人代表者各尋問の結果を合わせると、会社は、前記事故発生後、同月二二日以降再三、申請人の処分について役員会を開いたり、申請人に辞職勧告をしたりしたのみならず、同月三一日には宮坂社長及び松崎管理部長がわざわざ御殿場市の申請人の両親の許まで申請人の退職について了解を求めに行つているのに、その間申請人ないしその両親に対し、前記損害の補てん、弁償についてはなんらの話し合いもしておらず、会社の役員会においては、申請人の前記損害の補てん、弁償の意思の有無を全く問題にしないで解雇することを決定したことが認められること。

(2)  前掲松崎証言、証人河守総一の証言及び被申請人代表者尋問の結果によると、申請人のみは解雇という極刑にあたる処分をうけながら、直接の運転者である岡村はいまだになんらの処分もうけておらず、また、前述のとおり事故当夜事故車に同乗した河守次長は減俸五〇〇円の処分に過ぎず、同じ伊藤汎用係長にいたつてはなんらの処分もうけていないことが認められること(会社は、岡村の処分については、現在同人が入院中なので精神的影響を考慮し、退院後処分を決することになつているというが、役員会の内部においてすら同人に対する処分が全然問題になつていないことは右松崎証言及び尋問の結果によつて明らかである)。

(3)  その当時、会社はその営業の性質上、車の数が多いのにガレージが少なく、多くの従業員は自分が会社で使用している車をそのまま自宅に乗つて帰り保管していた事実は被申請人の明らかに争わないところであるから自白したものとみなし、静岡営業所についていえば、六台ある車のうち、五台までそうしており、ガレージのあるのは一台のみであつたことは当事者間に争いがなく、以上の事実に前掲河守証言、証人望月恒夫、大久保和男の各証言及び申請人本人尋問の結果を合わせると、会社の車は、従業員の勤務時間外の無断使用をきわめて誘発し易い管理状況にあり、右使用の実例も少なくないことが認められること。

(4)  前記大久保和男の事故のばあいは、会社主張のように、被害者にも過失があり、かつ会社になんら損害が及んでいないとしても、成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証、第一四号証に前掲大久保証言の一部を合わせれば、勤務時間外に飲酒めいていし、被害者に重傷を負わせた事実は明らかであるから、就業規則第六五条第一〇号に該当し、申請人が事故車の同乗者であつたのとは異なり、直接の運転者としてその罪責は軽くないと考えられるのに、その処分は前述のとおりであること。

以上(1)ないし(4)の事実を合わせ考えると、申請人に対する処分は、被申請人代表者尋問の結果によつて認められる、それまでに会社の車を無断使用し、飲酒めいていの上事故を起こした事例(二件)では、いずれも解雇しているとの事実を考慮にいれても、被申請人主張の就業規則の規定の客観的、妥当な解釈適用を誤つたものとして無効であるといわざるを得ない。

三、以上のとおりで、申請人に会社主張の懲戒解雇の事由に該当する行為があつたとは認められないから、これを理由とする本件解雇はその余の判断に及ぶまでもなく無効であり、したがつて、申請人は依然として会社従業員たる地位を保有するものといわなければならない。

そして被申請人代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせると、会社は昭和三七年一月一日以降本件解雇を理由に申請人の就労を拒否していることが認められるところ、右就労拒否は上述のとおりで理由がなく、会社の責に帰すべき事由によるものと認められるから、申請人は会社に対しなお労働契約にもとづく賃金請求権を失わないものというべきである。

そして、その賃金額及び支払日が申請人主張のとおりであることは当事者間に争いのないところであるから、申請人は被申請人に対し、本件解雇の翌日である昭和三七年一月一日以降毎月二五日限り、前記賃金の割合による賃金額を請求できるというべきである。

そこで進んで、仮処分の必要性について考えると、申請人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば申請人は賃金を唯一の収入源とする賃金労働者であつて、本件解雇後は僅かばかりの貯蓄を引き出したり、国許の両親、友人、かつての同僚などから些少の援助をうけたりして、漸く最低生活を維持しており、本案判決の確定をまつにおいては回復しがたい損害を被るおそれがあると認められる。したがつて本件仮処分はこれを求める緊急の必要性があるというべきである。

以上のとおりであつて、申請人の本件仮処分申請はその他の主張について判断するまでもなく理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大島斐雄 萩原金美 合谷基子)

(別紙)

就業規則第六四条 従業員が次の各号の一に該当すると認められたときはその情状により譴責、減給、出勤停止又は資格降等に処する。但しその程度が軽微であるか、特に情状酌量の余地があるか、又は改心の情が明らかに認められるときは戒告に止めることがある。

1ないし6  省略

7 故意又は重大な過失により会社に損害を与えたとき

8ないし10 省略

同第六五条 従業員が次の各号の一に該当すると認められたときは辞職勧告又は懲戒解雇に処す。但し情状により、出勤停止又は資格降等に止めることがある。

1ないし9  省略

10 刑罰法令にふれる行為があつて従業員としての体面を著しく汚したとき

11 省略

12 前条各号の一に該当しその情状が特に重いとき

13 省略

以上

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