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静岡地方裁判所 昭和46年(行ウ)8号 判決 1972年6月30日

原告

見原寅一

被告

静岡税務署長

右指定代理人

篠原一幸

ほか五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

「被告が、昭和四四年一二月一六日原告の昭和四三年分所得金額を金四五〇万三、九八〇円とした更正処分のうち金二一八万七、八三〇円を超過する部分は、これを取消す。」との判決。

二、被告

主文と同旨の判決。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は被告に対し昭和四三年分所得を、金二一八万七、三八〇円と確定申告したところ、被告は昭和四四年一二月一六日、右金額を金四五〇万三、九八〇円とする本件の更正処分をした。

2  しかしながら右更正処分において確定申告よりも所得金額を二三一万六、六〇〇円増額して課税するのは次の理由で不当であり、取消されるべきものである。すなわち被告は原告の昭和三七年分の所得に対して、昭和四一年三月一四日付で更正決定処分をしたが、右処分は名古屋国税局長によつて昭和四三年二月二六日取消され、すでに納付してあつた本税が還付されるにともない、還付加算金として二三一万六、六〇〇円が同年三月二二日原告に支払われた。被告は本件の更正処分において右還付加算金を原告の昭和四三年分の所得として他の所得二八一万七、三八〇円とあわせて総合課税するのである。しかし、国の誤まつた課税によつて約二年間凍結された税金を返すのであるから、その加算金は本来税金の利子および過誤による課税をした罰科の性格をもつもので非課税のはずである。かりに還付加算金が課税をまぬがれないとしても、総合課税をすべきではなく分離課税をすべきである。租税法の条文を形式的にあてはめて本件更正処分の課税が適法であるというのではなく、実質的に公平な課税をしなければならない。

3  よつて本件更正決定の取消を求める。

二、被告の認否および主張

1  請求原因1の事実は認める。

同2の事実のうち、本件更正処分の経緯、内容は認める。

2  本件課税処分は正当である。

すなわち、還付加算金は国税を滞納した場合に延滞税が課税されることとのバランスなどを考慮して還付金に対する一種の利子とみられる。かりに原告が還付金を他に運用していたとしてもその利息は課税される。還付加算金もこれと同じく課税をまぬがれない。そしてその課税について不法行為などに基づく損害賠償金とはその性質を異にし所得税法第九条一項二一号に規定する非課税所得にはあたらない。また還付加算金は利子的性格のものであつても、ただちに所得税法上の利子所得に結びつくものではなく、利子所得は同法第二三条に限定的に定められており、還付加算金がこれに含まれないことは文理上明らかである。さらに同法第三四条までに規定する所得区分にもあたらないから結局還付加算金は同法第三五条に規定する雑所得に該当し、他の所得と合算して課税されるものと解される。本件の更正処分はまさに右見解に立つて、昭和四三年三月二二日付をもつて原告に支払われた還付加算金二三一万六、六〇〇円を原告の昭和四三年分の雑所得と認め、他の所得二一八万七、三八〇円と合算して賦課決定をなしたものであつて、何ら違法はない。

理由

一、請求原因1、2の事実な、課税の当不当に関する主張をのぞき、当事者間に争いがない。

二、本件の場合のように、税務署長が納税者の所得を増額する更正決定をしたところ、それが審査請求の結果取消されたときは、税務署長はその過納金をすみやかに還付しなければならない。その還付は一種の不当利得の返還といえよう。そして租税を滞納した場合に延滞税が課されることとのバランスなどを考慮して右の還付金には還付加算金が加算して支払われる。この還付加算金は当該税金が納付された日の翌日から還付のための支払決定の日までの日数に応じその金額に年7.3パーセントの割合を乗じて算出される。それは国が不当利得を返還するに当つて還付金に附する一種の利子と考えられる。原告は還付加算金に課税の過誤に対する罰科の性格があるというが、それは納税者を右過誤がなかつたのと同じ経済的立場に置こうとする配慮から課税官庁の悪意とか過失の有無にかかわらず支払われるものであつて、損害賠償ないし罰科の性格をもつものとはいえない。

この還付加算金を非課税とする規定は所得税法に見当らない。原告がもし還付金に相当する額を課税されることなく預金する等利用できたとしても、そこから生れる果実には課税されるわけであるから、その果実に相当する還付加算金にも課税されるのはやむをえない。

さらに還付加算金に対する課税方法であるが、還付加算金は前記のとおり一種の利子と考えられるが、所得税法第二三条にいう利子所得に含まれないことは右規定の文理上明らかであり、さらに同法第三四条までに規定する所得区分にも当らないから、結局還付加算金は同法第三五条にいう雑所得にあたることになる。そうすると原告のいうように還付加算金だけを分離して課税することはできない。

原告は法規の形式にこだわらず実質的に公平な課税をすべきであるといい、そのこと自体はもつともなことであるが、本件の還付加算金に課税することとその課税方法とに実質的な不衡平があると認められる根拠はない。

三、原告が取消を求める本件更正決定は本件還付加算金をその支払われた昭和四三年分の原告の雑所得として、それを原告の他の所得二一八万七、三八〇円と合算して、同年度の原告の所得金額を四五〇万三、九八〇円であると更正し、それに所得税を課すものであつて、前記二の判断と同じ見解に立つた処分であり、正当である。原告がその取消を求めるのは理由がない。

よつて原告の本訴請求は、これを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(水上東作 安田実 中島尚志)

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