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静岡地方裁判所 昭和51年(行ウ)11号 判決 1982年1月22日

静岡県浜松市馬郡町二一五七番地

原告

河合平太郎

右訴訟代理人弁護士

鈴木光友

静岡県浜松市元目町三七番地の一

被告

浜松税務署長

浅井良平

右指定代理人

阿部三郎

右同

寺田郁夫

右同

井奈波秀雄

右同

山本正一

右同

板倉道俊

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四九年一〇月一五日原告の昭和四四年分の所得税についてした再更正処分及び重加算税の賦課決定はこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は原告に対し、昭和四四年分の所得税について、昭和四五年一〇月二四日付で、総所得金額を五〇五三万六五二五円、税額を二八六四万一二〇〇円とする決定及び無申告加算税を二八六万四一〇〇円とする賦課決定をした。被告はその後、昭和四七年七月八日付で、総所得金額を一六九四万五〇四一円、税額を七四二万三六〇〇円とする更正決定及び無申告加算税を七四万二三〇〇円とする変更決定をしたが、更に昭和四九年一〇月一五日付で、総所得金額を二〇七八万七四一六円、税額を九五四万六八〇〇円とする再更正決定(以下「本件再更正処分」という。)及び重加算税を七四万三〇〇〇円とする賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

原告はこれを不服として被告に対し異議の申立てをしたが、被告がこれを棄却したので、更に名古屋国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は昭和五一年八月一一日付でこれを棄却する裁決をした。

2  しかしながら、本件再更正処分は、原告の譲渡所得を過大に認定した違法があり、これを前提としてなされた本件賦課決定も違法である。

よつて、本件再更正処分及び本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三  被告の主張

原告の昭和四四年分の総所得金額は四六三六万二五六八円であるから、その範囲内でなされた本件再更正処分及びこれを前提とする本件賦課決定はいずれも適法である。

1  本件再更正処分の適法性

(一) 原告の昭和四四年分の総所得金額四六三六万二五六八円の内訳は次のとおりである。

不動産所得金額 七二万三二二〇円

給与所得金額 九〇万八〇〇〇円

譲渡所得金額の二分の一 四四七三万一三四八円

(二) 右のうち譲渡所得金額の算出根拠は次のとおりである。

(1) 譲渡収入金額 九六九五万円(左記イ、ロの合計額)

イ 原告が昭和四四年中に株式会社マルサに対して売却した静岡県浜松市伝馬町二〇番及び同町二二番の各宅地(以下「伝馬町の土地」という。)の売却代金合計額九五〇〇万円

ロ 原告が同年中に刑部功に対して売却した同市篠原町字西前一〇六七番四の畑(以下「篠原町の土地」という。)の売却代金額一九五万円

(2) 取得費 六九四万九三〇三円(左記イ、ロの合計額)

イ 伝馬町の土地分 六五九万二九三三円

内訳は別表(一)被告主張額欄記載のとおりである。

<1> 取得価額(三五六万五七三〇円)の根拠

原告は昭和三五年八月一〇日、土地収用法等の規定に基づいて収用されることとなるものとして、日本電信電話公社に静国県浜松市板屋町三七一番六外二筆の土地(以下「板屋町の土地」という。)を買い取られ、その対価四一四一万三〇七二円を取得したが、その譲渡所得の計算について、原告は昭和三六年三月一〇日被告に対し、右対価の一部に相当する一五一七万〇九八〇円をもつて同年七月三日までに河合敏司から伝馬町二〇番の土地を、三一四万一〇〇〇円をもつて同年四月五日までに内田政治から伝馬町二二番の土地をそれぞれ取得する見込みである旨の「租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下同じ)第三一条第二項の規定による代替資産の取得価額の見積額等の承認申請書」を提出し、被告の承認を受けた。

したがつて、伝馬町の土地の取得価額については同法三四条一項の適用を受けるところ、板屋町の土地(譲渡資産)の取得価額は八〇六万四〇〇〇円であるから、同法施行令二三条一項一号によつて伝馬町の土地の取得価額を算出すると三五六万五七三〇円となる(別紙計算式参照)。

<2> 登記費用額の根拠

伝馬町二〇番の土地の登記費用額(一二万四四四五円)は、同町二二番の土地の登記費用額(九万一七八七円)に、同町二〇番の土地の同町二二番の土地に対する地積割合を乗じて得た推計額である。

ロ 篠原町の土地分 三五万六三七〇円(左記<1>、<2>の合計額)

<1> 買受代金 三三万九四〇〇円

<2> 仲介手数料 一万六九七〇円

(3) 譲渡費用 二三万八〇〇〇円(左記イ、ロの合計額)

イ 伝馬町の土地分(鉄骨等除去工事代金)

一五万円

ロ 篠原町の土地分(昭和二七年静岡県告示第五九八号に基づいて計算した仲介手数料額)

八万八〇〇〇円

(4) 譲渡所得の特別控除額(昭和四六年法律第一八号による改正前の所得税法三三条四項)

三〇万円

(5) したがつて、右(1)から、(2)ないし(4)の合計額を控除した八九四六万二六九七円が譲渡所得金額である。

2  本件賦課決定の適法性

(一) 原告は、伝馬町の土地の譲渡所得について、控除すべき取得費として、当初は不実の記載をした訴外松本雅央宛の借用証書(借用額二七〇〇万円)の写しや、同人名義の右借入金の元利金領収書(元金二七〇〇万円、利息三〇三八万九三一六円)の写し等を被告に提出して虚偽の申立てをなし、これに基づき減額処分(更正処分)を受けたが、その後被告の調査により、その虚偽性が明らかになると、右申立てを翻し、訴外花島甲一からの借入れであると申し立て、改めて同人宛の借用証書(借用額二七〇〇万円)の写しや、同人名義の元利金領収書(元金二七〇〇万円、利息二〇八〇万二〇〇〇円)の写し等を提出したが、前記のとおり、伝馬町の土地は板屋町の土地の代替地として取得したものであり、借入金によつて取得したものではないから、原告は明らかに課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装し、これに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかつたものと認められる。

(二) そこで、原告に対する重加算税額は、前記総所得金額四六三六万二五六八円を基礎として計算した場合の所得税額二五七一万九四〇〇円から、右仮装に係る部分(花島甲一に支払つたとする利息二〇八〇万二〇〇〇円の二分の一に当る一〇四〇万一〇〇〇円)を控除した総所得金額を基礎として計算した場合の所得税額一八九一万九九〇〇円を控除した税額六七九万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)を基礎とし、これに一〇〇分の三五の割合を乗じて計算して二三七万九六〇〇円となる(別表(二)参照)。

したがつて、右重加算税額の範囲内でなされた本件賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張の冒頭部分は争う。

2  同1(一)の事実中、不動産所得金額及び給与所得金額については認めるが、その余は否認する。

同1(二)(1)の事実は認める。同(2)のイの事実中、原告が板屋町の土地を譲渡した際、その譲渡所得について被告主張のような申請書を提出し、租税特別措置法三一条二項による特例の適用を申請したこと、白石弁護士に対して五〇万円の謝礼を支払つたこと、小沢組に対する整地費が一八五万円であつたことは認め、その余は否認する。伝馬町の土地の取得費は、後記原告の反論のとおり、被告主張の額をはるかに上回るものである。同(2)のロの事実は認める。同(3)のイの事実中、鉄骨除去工事代金が一五万円であつたことは認めるが、その余は争う。伝馬町の土地の譲渡費用は、後記原告の反論のとおり、被告主張の額をはるかに上回るものである。

3  同2(一)の事実は否認する。原告が松本雅央や花島甲一からそれぞれ二七〇〇万円を借りたことは真実であり、原告に課税標準や税額の計算の基礎となる事実を仮装した事実はない。

五  被告の主張に対する原告の反論

伝馬町の土地の譲渡所得における取得費及び譲渡費用は次のとおりである。

1(一)  原告は、被告主張のとおり、板屋町の土地を日本電信電話公社に譲渡した際、租税特別措置法三一条二項による特例の適用を申請したけれども、実際には右土地の譲渡代金は原告の県議会議員立候補の選挙運動資金に使用されたのであつて、伝馬町の土地の購入代金に充てていない。したがつて、伝馬町の土地の購入代金一九九〇万円(伝馬町二〇番の土地が一四九〇万円、同町二二番の土地が五〇〇万円)はそのまま取得費として計上されるべきであり、これを含めた伝馬町の土地の取得費は別表(一)原告主張額欄記載のとおりである。

(二)  その上、右取得費合計額二六八五万円及び伝馬町の土地上に存する鉄骨の除去工事代金(これが譲渡費用に当ることは被告主張のとおりである。)一五万円の合計二七〇〇万円は、原告が昭和三五年一二月一〇日花島甲一から借り受けて支払つたものであるから、右借入金に対する完済時昭和四四年六月一五日までの利息二〇八〇万二〇〇〇円も取得費として計上されるべきである。

2(一)  訴外志賀祐幸こと崔泳安は、伝馬町の土地上の建物の賃貸借に藉口して不法に右建物を取り壊してしまつたが、それが伝馬町の土地を更地として譲渡するきつかけとなつたのであるから、右取り壊された建物の価額(建物改造費二三〇〇万円、什器八四九万六〇〇〇円の合計額)は、伝馬町の土地の譲渡に伴つて原告が被つた損失となり、譲渡に要した費用として計上されるべきである。

(二)  また、原告が右崔に対して支払つた損害賠償額二〇〇〇万円は、右支払いにより伝馬町の土地についての紛争を終結させ、更地としての譲渡を可能にさせた費用であるから、右譲渡に際して直接支出した費用とみるべきであり、譲渡に要した費用に当る。

六  原告の反論に対する被告の認否及び再反論

1  原告の反論1(一)の事実中、伝馬町の土地の購入代金額は認めるが、前記被告の主張に反する部分は否認する。

2  同1(二)の事実は否認する。原告は花島甲一から借入れをしていない。また、土地を取得するための借入金の利息は、その全額が取得費となるのではなく、右土地の使用開始に至るまでの期間に対応する部分のみが取得費となるのである。

3  同2(一)の主張は争う。原告主張の建物は、原告と崔との賃貸借契約条項に基づき、右崔が同人の費用負担により取り壊したものであり、伝馬町の土地の譲渡に伴つて取り壊されたものではないから、譲渡に要した費用に該当しない。

4  同2(二)の事実は否認する。原告の主張する損害賠償金二〇〇〇万円の実質は、伝馬町の土地上に存した建物を崔に賃貸するに当り、原告が右崔から受領した保証金一三五〇万円、敷金一五〇万円及び前受家賃三〇〇万円(一年分)と、右賃貸借契約に付随した合意に基づくルームクーラー及びレジスターの売買代金二〇〇万円との合計額を、右賃貸借契約をめぐる紛争の和解成立に伴つて、原告が崔に返還したものである。したがつて、右金額が伝馬町の土地の譲渡に要した費用に当らないことは明らかである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、二号証の各一ないし五、第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一ないし三、第一一、一二号証

2  証人古橋貞次、原告本人

3  乙第九、一〇号証、第一二号証、第一四号証の成立は認め、第一、二号証、第四、五号証、第一一号証の原本の存在及び成立は認め、第三号証の原本の存在及び成立は不知。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし五、第七号証の一、二、第八ないし第一四号証、第一五号証の一ないし三

2  証人大山義隆、同溝国康人、同杉村功、同渡辺隆夫、同白井政美

3  甲第一号証の一ないし五、第六号証の成立は認め、第三号証、第七号証の原本の存在及び成立は認め、第八号証の一、第一一号証の原本の存在及び成立は不知。第二号証の一ないし五の成立は否認し、その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1の事実、被告の主張1(一)の事実中、原告の昭和四四年分の不動産所得金額が七二万三二二〇円であり、給与所得金額が九〇万八〇〇〇円であることはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の昭和四四年分の譲渡所得金額について検討する。

1  被告の主張1(二)のうち、(1)の事実(譲渡収入金額)及び(2)のロの事実(篠原町の土地の取得費)は当事者間に争いがない。

2  そこでまず、伝馬町の土地の取得費について判断する。

(一)  取得価額

原告が昭和三五年八月一〇日に板屋町の土地を日本電信電話公社に譲渡した際、その譲渡所得について、被告に対し、被告主張のような内容で「租税特別措置法第三一条第二項の規定による代替資産の取得価額の見積額等の承認申請書」を提出し、譲渡所得計算上の特例を受けたい旨申請したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一四号証、証人白井政美の証言により真正に成立したものと認められる乙第一五号証の一ないし三、同証言によれば、被告は、右板屋町の土地の譲渡所得の計算について、原告のした右特例の適用申請を承認し、伝馬町の土地外一五筆の土地を代替資産として右特例を適用したことが認められる。したがつて、代替資産たる伝馬町の土地を譲渡した場合における譲渡所得の計算については同法三四条が適用され、その取得価額は同法施行令二三条一項に基づいて、原告が同法三一条二項により被告の承認を受けた取得価額の見積額が当該対価の額のうちに占める割合を当該譲渡資産たる板屋町の土地の取得価額に乗じて計算されるべきである。前掲乙第一四号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一号証によれば、代替資産たる伝馬町の土地の取得価額の見積額は一八三一万一九八〇円であり(伝馬町二〇番の土地は一五一七万〇九八〇円であり、同町二二番の土地は三一四万一〇〇〇円である。)、譲渡資産たる板屋町の土地の取得価額は八〇六万四〇〇〇円、その譲渡価額は四一四一万三〇七二円であるから、伝馬町の土地の取得価額は三五六万五七三〇円と算出される。(別紙計算式参照)。

原告は、板屋町の土地の譲渡所得の計算において、前記特例の適用を申請したが、実際には右譲渡代金は原告の選挙運動資金に使用したのであつて、伝馬町の土地の購入代金に充てていないから、伝馬町の土地の購入代金一九九〇万円がそのまま取得価額になると主張するけれども、右各規定の適用は、実際に譲渡資産の譲渡代金を代替資産の購入代金に充てたか否かを問わないこと右各規定から明らかであるから、原告の右主張は失当である。

(二)  その他の取得費

原告が伝馬町二〇番の土地を一四九〇万円、同町二二番の土地を五〇〇万円で買い受けたこと及び別表(一)記載の取得費の内訳中、項目<4>白石信明弁護士に対する謝礼五〇万円、項目<6>古橋貞次に対する仲介手数料三〇万円、項目<9>小沢組に対する整地費一八五万円については当事者間に争いがなく、項目<11>不動産取得税八万九九九一円については原告は明らかに争わないから、自白したものとみなす。

右争いのない事実に原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証、同第四、五号証、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、証人古橋貞次の証言を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 河合敏司は昭和三六年二月一六日、訴外金原淳から伝馬町二〇番の土地を買い受け、原告は右同日、右河合から右土地を代金一四九〇万円で転買し、その際、原告は右売買代金の他に、仲介人古橋貞次に対し仲介手数料として三〇万円、整地費として四万五四〇〇円、金原の代理人である山根七郎治弁護士に対し謝礼として二万五五八〇円を支払つた。原告は右河合に対し、右土地上の建物の取壊料として二〇〇万円を支払つたが、これは右売買代金以外に支払つたということではなく、売買代金のうち二〇〇万円を右取壊料として支払つたにとどまり、また金原と交渉して売買代金を五〇万円減額させたことにより、右五〇万円を河合が一八万円、その代理人たる斉藤準之助弁護士が九万円、仲介人古橋が八万円、原告が一五万円と分配したけれども、右五〇万円も代金一四九〇万円に含まれているから、結局、原告が伝馬町二〇番の土地の購入に関し、売買代金の他に支出したのは(後記認定の登記費用は除く。)、前記認定の古橋に対する仲介手数料三〇万円、整地費四万五四〇〇円、山根弁護士に対する謝礼二万五五八〇円であつた。

(2) 原告は訴外内田政治から伝馬町二二番の土地を代金五〇〇万円で買い受けたが、その際右売買代金の他に、右内田の代理人たる白石信明弁護士に対し謝礼として五〇万円、司法書士河村竹次郎に対し登記費用として九万一七八七円を支払い、以上の他に原告は小沢組に対し、伝馬町の土地の整地費として一八五万円を支払つた。

以上のとおり認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できない。

原告は、右認定の諸費用以外に、山根七郎治弁護士に対する謝礼八五万円、梅津淳に対する仲介手数料五〇万円、諸費用二二万円の支出を主張するが、これらの支出を認めるに足りる的確な証拠はない(甲第三号証、同第四号証の一、二、同第九号証は措信しない。)。

なお、伝馬町二〇番の土地の登記費用は、これを直接認める証拠が存しないので、同町二二番の土地についての前認定の登記費用額を基準とし、これに伝馬町二〇番の土地(五一・九〇一坪)の同町二二番の土地(三八・二八一坪)に対する地積割合を乗じて算出するのが合理的であり、この方法によれば(右各土地の地積は前掲乙第一四号証により認められる。)、右登記費用は一二万四四四五円と算定される。

(三)  また、原告は、伝馬町の土地の購入代金及び原告主張の諸経費を花島甲一からの二七〇〇万円の借入金により支払つたため、右借入金の返済に際し、利息として二〇八〇万二〇〇〇円を支払つたとして、右利息を取得費として計上すべき旨主張するけれども、証人杉村功の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、二及び同証言によれば、右主張に沿う甲第一号証の一ないし五及び原告本人尋問中の供述部分はたやすく措信し難く、甲第二号証の一ないし五(花島甲一作成にかかる昭和四四年六月一五日付の合計四七八〇万二〇〇〇円の原告宛の五枚の領収証)は偽造にかかるものと認められ、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。かえつて、前掲各証拠によれば、右甲第一、二号証の各一ないし五の各書面は、いずれも、原告が伝馬町の土地譲渡における譲渡所得金額を少なくするため、取得費として、借入金利息支払いの事実を仮装する意図のもとに被告に提出されたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  そうすると、伝馬町の土地に関する取得費は、別表(一)記載の被告主張の項目と金額のとおり認めることができるから、その合計額は六五九万二九三三円となる。

3  次に、伝馬町の土地及び篠原町の土地の譲渡に要した費用について判断する。

(一)  伝馬町の土地に関し、鉄骨除去工事代金が一五万円であつたことは当事者間に争いがない。

原告は、伝馬町の土地の譲渡費用として、更に、右土地上の建物をその賃借人崔泳安に取り壊されてしまい、これが右土地の譲渡のきつかけとなつたのであるから、右取り壊された建物等の価額も譲渡費用に当る、あるいは、原告が右崔に対して支払つた損害賠償額二〇〇〇万円は、伝馬町の土地を更地として譲渡することを可能にさせた費用であるから、これも譲渡費用に当る旨主張するけれども、原本の存在及び成立に争いのない乙第一一号証、成立に争いのない同第一二号証によれば、崔が右建物を取り壊したのは、原告と崔との伝馬町二二番の土地上の建物の賃貸借契約の内容として、賃借人たる崔が用途に応じて自己の費用において右建物の増改築をなし得ることが合意されていたためであるし、右損害賠償額も、原告と崔との右賃貸借契約をめぐる紛争についての和解に際し、契約当初に原告が受領していた保証金等を返還したものと認められ、いずれも右伝馬町二二番の土地を譲渡するために支出された費用でないことは明らかである。したがつて、原告の右主張は失当である。

(二)  篠原町の土地の譲渡費用についてみるに、証人杉村功の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証及び同証言によれば、原告は、右土地の売買の仲介をした鈴木弥一郎に仲介手数料を支払つたことが認められ、成立に争いのない乙第一〇号証によれば、右仲介手数料額は八万八〇〇〇円と推計できる。

(三)  したがつて、伝馬町の土地と篠原町の土地の譲渡費用の合計額は二三万八〇〇〇円と認められる。

4  特別控除額

昭和四六年法律第一八号による改正前の所得税法三三条四項によれば、譲渡所得の特別控除額は三〇万円である。

5  以上の各金額に基づき、昭和四四年分の譲渡所得金額を算出すると、被告主張のとおり、八九四六万二六九七円となる。

三  右一、二認定の各事実によれば、原告の昭和四四年分の総所得金額は四六三六万二五六八円と認められるから、この範囲内でなされた本件再更正処分に違法はない。

四  次に本件賦課決定について判断するに、前記二2(三)認定の事実中、原告が、花島甲一に対する借入金利息二〇八〇万二〇〇〇円の支払いを仮装した事実が国税通則法六八条二項に該当することは明らかであり、その重加算税額は別表(二)のとおり二三七万九六〇〇円となるから、この範囲内でなされた本件賦課決定に違法はない。

五  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高瀬秀雄 裁判官 吉村正 裁判官 荒井勉)

別表(一)

伝馬町の土地についての取得費の内訳

<省略>

別表(二)

重加算税額計算表

<省略>

別紙

伝馬町の土地の取得価額の計算式

(租税特別措置法施行令23条による)

<省略>

<省略>

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