静岡地方裁判所 昭和53年(ワ)504号 判決 1980年7月17日
原告
山崎勝久
ほか一名
被告
協木運送有限会社
ほか一名
主文
一 被告らは、原告山崎勝久に対し、連帯して金四六五万一九六九円及び内金四二三万一九六九円に対する昭和五二年五月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告山崎てるに対し、連帯して金四六五万一九六九円及び内金四二三万一九六九円に対する昭和五二年五月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
五 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告山崎勝久に対し、連帯して金八五九万七九五四円及び内金七一六万四九六二円に対する昭和五二年五月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告山崎てるに対し、連帯して金八五九万七九五四円及び内金七一六万四九六二円に対する昭和五二年五月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
訴外山崎兼弘(以下、兼弘という)は、次の交通事故(以下、本件事故という)によつて死亡した。
(一) 日時 昭和五二年五月一一日午前七時二〇分頃
(二) 場所 清水市袖師町一、四七一番地の八先丁字路交差点(以下、本件交差点という)
(三) 加害車 ポール・トレーラー(大型貨物自動車静岡一一き五三四一が台車をポールで牽引する車両、以下、ポール・トレーラーという。特に、前部の大型貨物自動車のみを示すときは、前部車両、後部の台車のみを示すときは台車という)
(四) 運転者 被告滝田誠一(以下、被告滝田という)
(五) 被害者 兼弘
(六) 態様 (1) 兼弘は、県立清水南高等学校に登校するため、自転車に乗つて大協石油清水油槽所前道路(市道袖師九〇号線)を本件交差点に向かつて東進し、本件交差点に差しかかり、自動信号機の停止(赤色)の合図に従い本件交差点の手前で一時停止したが、信号が進め(青色)の合図に変わつたので本件交差点で右折するため進行道路左端の延長線上に沿つて本件交差点に進入した。
(2) 当時、前記道路を東進してきて本件交差点手前で先頭車として兼弘乗用の自転車と並んで停止していたポール・トレーラーは、前記のとおり信号が進め(青色)に変わつたので発進し左折を開始したが、兼弘は、本件交差点内においてポール・トレーラーに衝突され転倒し轢過された。
(七) 事故の結果 兼弘は、頭部外傷、骨盤骨折、右肘部骨折等の傷害により即死した。
2 責任原因
(一) 被告協木運送有限会社(以下、被告協木運送という)
(1) 被告協木運送は、ポール・トレーラーを保有し、自己のために運行の用に供し、本件事故は右運行によつて発生したものである。
(2) 被告協木運送は、本件事故当時、被告滝田を雇傭し、被告滝田は、被告協木運送のため材木運搬の業務の執行としてポール・トレーラーを運転し、後記過失により本件事故を発生させたものである。
(3) よつて、被告協木運送は、自賠法三条本文又は民法七一五条一項に基づく損害賠償責任がある。
(二) 被告滝田
ポール・トレーラーがやむを得ず、一旦、ハンドルを右に切り道路中央に寄つてから大まわり左折をするに際しては、並進もしくは後続する車両に対し右折をするものと判断を誤らしめる恐れが大であるからこのような大まわり左折をする自動車運転者としては特に左側方の安全を十分に確認すべき注意義務があるにもかかわらず、被告滝田は、本件交差点手前で信号待ちのため停止している間、ポール・トレーラーの左側方に自転車等があるかどうか全く確認せず、発進後もアンダーミラー、サイドミラー等で十分に左側方の安全を確認することなく、漫然、左折を開始し、右過失により本件事故が惹起されたものであるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
3 損害
(一) 兼弘の損害
(1) 逸失利益 金一八六六万四四二四円
兼弘は、本件事故当時満一六歳の健康な男子であつたから、高校卒業後一八歳で就労した場合の就労可能年数は六七歳までの四九年間である。ところで、昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計新制高校卒業労働者の平均給与額は、年間二二六万五一〇〇円であるから兼弘の生活費割合を五〇パーセントとして右平均給与額から控除した額が兼弘が将来四九年間の就労可能期間中毎年得べかりし収益となり、兼弘は本件事故により死亡せしめられ、右期間毎年右収益を喪失し同額の損害を蒙つたものといえる。そこで、右期間の逸失利益をライプニツツ計算方式に従い民法所定の年五分の中間利息を控除して現価に引きなおして算出すると次の計算式のとおり、金一八六六万四四二四円となる。
2,265,100円×(1-0.5)×16.480=18,664,424円
なお、ライプニツツ係数一六・四八〇は、一六歳から六七歳までの五一年間についての係数一八・三三九より、一六歳から就労の始期である一八歳までの二年間についての係数一・八五九を控除したものである。
(2) 慰藉料 金一〇〇〇万円
兼弘は、学業成績良好で、清水南高校を卒業後は理科系大学に進学したうえ将来電気関係技術者になる志望を持つていた。兼弘は、明るい性格で友人が多く、趣味も豊かで、その前途は洋々たる好青年であつた、しかし、本件事故により、思いもかけず若い命を奪われたことは悲痛の極みであり、その精神的苦痛を慰籍するには頭書の金額以下ということはない。
(3) 原告らの相続
原告山崎勝久、同山崎てるは兼弘の父母で、兼弘は原告らの長男である。原告らは、それぞれ、各二分の一の相続分に応じ兼弘の被告らに対する右損害賠償請求権を金一四三三万二二一二円ずつ相続した。
(4) 損害の填補
原告らは、本件事故による兼弘の損害賠償として、自動車損害賠償責任保険金一五〇〇万円を受領したので、原告らは、それぞれ、その相続分に応じた金七五〇万円ずつを各自が相続した損害賠償請求権につき損害の填補として充当する。
(二) 原告ら固有の損害
(1) 葬儀費用 各金三三万二七五〇円
原告らは、本件事故により左記のとおり葬儀費用を支出し、原告らは、その二分の一ずつを負担した。
(ア) 東光禅寺 金三五万円
(イ) 新村造花店 金三一万五五〇〇円
(ウ) 合計 金六六万五五〇〇円
(2) 弁護士費用 各金一四三万二九九二円
原告らは、被告らから任意の賠償が得られなかつたので、本件訴訟を原告ら訴訟代理人に委任した。その弁護士費用は、原告各自につき、前記損害合計額の二〇パーセントの各金一四三万二九九二円とするのが相当である。
4 よつて、原告山崎勝久及び同山崎てるは、被告らに対し連帯して、各金八五九万七九五四円及び弁護士費用を除く内金七一六万四九六二円に対する本件事故当日の昭和五二年五月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項の(一)ないし(五)の事実、(七)の事実は認める。同項の(六)の(1)のうち、兼弘が一時停止した地点が本件交差点の手前であるとの事実は否認するが、その余の事実は認める。(2)のうち、ポール・トレーラーが本件交差点手前で先頭車として一時停止していた事実及び兼弘の自転車がポール・トレーラーと並んで停止していた事実は否認するが、その余の事実は認める。
2 同2項の(一)の(1)、(2)の事実は認めるが、(3)の責任は争う。
同項の(二)の過失は争う。
3 同3項の(一)の(1)の事実は知らない。(2)の事実は争う。(3)の事実のうち、原告らが兼弘の父母で、相続人であることは認めるが、その余の事実は否認する。(4)の填補の事実は認める。同項の(二)の事実は知らない。
三 抗弁
被告滝田は、ポール・トレーラーを運転し本件交差点の手前で、予め左側方を進行する自転車等のないことを確め、前部車両の前、後部各左側及び台車の後部左側計三個の方向指示燈で左折合図をしながら本件交差点に差しかかり、自動信号機の停止(赤色)の合図に従い前車である大型貨物自動車とともに道路左側にポール・トレーラーを停止させ、約三〇秒後、信号が進め(青色)の合図に変わつたので、前車が左折したのに続いて、時速約一五キロメートルの速度で本件交差点まで進行し、ポール・トレーラーの車両が長いので、一旦、ハンドルを右に切つて道路中央寄りに進出したところで、左助手席の窓越しに、左側方を進行する自転車等のないことを確認しながら右同一速度で左折した。
兼弘は、右のとおり信号待ちのため停止していたポール・トレーラーの台車の左後部付近に他の二台の自転車に続いて自転車を停止させていたが、自動信号機が進め(青色)の合図に変わつたので、本件交差点を右折するため右二台の自転車を追越して本件交差点を通過しようとしたが、ポール・トレーラーの左折合図を見落し、ポール・トレーラーが前記のとおり、一旦、右にハンドルを切つて道路中央寄りに出たのをポール・トレーラーが右折するものと感違いして、ポール・トレーラーの左側方に近接して右折する態勢にあつた。
ポール・トレーラーには地上から高さ約一・五メートルの範囲に、アンダーミラー、サイドミラーでは全く視界に入らない所謂死角があるので、被告滝田は、ポール・トレーラーの左側方に近接して並進する兼弘の自転車に気付くことができず、前部車両左前車輪フエンダー付近で右自転車に衝突し、左後車輪で兼弘を轢過した。
以上のとおり、兼弘にも先行するポール・トレーラーの左折合図を見落し、かつ、ポール・トレーラーが左折するため、一旦、道路中央部分に寄つたのを軽卒に右折するものと判断した過失があり、本件事故は右過失が半ば以上起因となつて発生したものであるから、右過失割合は五〇パーセント以下ではない。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実のうち、ポール・トレーラーが本件交差点で、一旦、右にハンドルを切つて道路中央寄りに出てから大まわり左折した事実及び兼弘が本件交差点でポール・トレーラーに轢過された事実は認めるが、その余の事実は否認する。
ポール・トレーラーは、当時、本件交差点の停止線から車体前部を前に出し、車体の左側面と道路側端との間隔を一・五ないし二メートルとり、先頭車として信号待ちのため停止していたし、兼弘は、ポール・トレーラーの左側方にほぼ並列して停止していた。ポール・トレーラーの前車として大型貨物自動車が停止していた事実及び兼弘が他の自転車二台を追越して本件交差点を通過しようとした事実は、全くない。
仮に、兼弘に過失があつたとしても、その過失は軽く本件事故態様、車両の大小、その他諸般の事情に照らし、過失相殺をすることは相当でない。
第三証拠〔略〕
理由
一 本件事故の発生
請求原因1項の(一)ないし(五)の事実、(六)の(1)のうち、兼弘が一時停止した地点が本件交差点の手前であるとの点を除くその余の事実、(2)のうち、ポール・トレーラーが本件交差点手前で先頭車として一時停止していた点及び兼弘の自転車がポール・トレーラーと並んで停止していた点を除くその余の事実、(七)の事実は総ての当事者間に争いがない。そこで、本件事故態様及び被告滝田の過失の有無につき判断するに、いずれも成立に争いない甲第五ないし第七号証、第一三号証、乙第二ないし第四号証、第五号証の一一部、証人高塚勇(一部)、同繁竹好雄の各証言、被告滝田誠一本人尋問の結果の一部を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、
1 本件事故現場は、興津方面から島崎町方面に通じる袖師臨港道路(以下、臨港道路という)と国道一号線に通じる市道袖師九〇号線(以下、九〇号線という)とが丁字形に交差する自動信号機の設置された交差点(本件交差点)内である。臨港道路は幅員約一二・二メートル、九〇号線は幅員約八・四メートルであり、ともに平坦なアスフアルト舗装である。本件交差点の北側と西側に横断歩道が設けられており、九〇号線には本件交差点約八・九メートル手前に一時停止線が引かれていた。そして、本件交差点の位置形状は別紙見取図記載のとおりである。(なお、現在の一時停止線は更に約一・一メートル手前に引かれている)
2 ポール・トレーラーは、その前部車両(大型貨物自動車)の車長七・二二メートル、同車幅二・五メートル、同車高二・八メートル、後部の台車の車長五・九メートル、同車幅二・五メートル、同車高一・五八メートル、ポールの長さ二・五ないし三メートルであつて、被告滝田は、当時、このようなポール・トレーラーを運転し、国道一号線を右折して九〇号線に出たうえこれを東進し、本件交差点を西方から北方へ左折通過しようとし本件交差点手前約三七メートルから左折合図をしていたが、対面する信号機の信号が注意(黄色)から停止(赤色)に変わつたので、前を走つていた繁竹好雄の運転する四・五トン積み貨物自動車(車長五・五メートル)が先頭の位置で前記一時停止線附近に停止したのに続いて同車と約二メートルの間隔を開け、本件交差点約一七メートル手前別紙見取図記載<1>の地点(以下、単に地点の番号又は記号を表示するにとどめる。)で、ポール・トレーラーの車長が長いので、あらかじめ、大まわり左折をする準備のため、ポール・トレーラーの左側面を道路側端から約一・五メートル離し道路中央寄りに一時停止し、約五六秒間一時停止した後、進め(青色)の信号に従い前記繁竹好雄運転の貨物自動車に続いて発進し、時速約一五キロメートルの速度で本件交差点直前まで道路中央寄りを直進し、そのまま本件交差点直前の<2>地点でハンドルを一旦、右に切つてから左に切り返して大まわり左折を開始し、前部車両の運転台右前部が北側横断歩道付近<3>地点に至つたとき「ガチヤン」という音を聞くのと同時に前部車両左後輪が何かに乗り上げたようなシヨツクを感じて、一瞬、何かに衝突したのかとはつとしたが、そのまま進行したところ、臨港道路を興津方面から島崎町方面に進行してきて本件交差点直前で信号待ちをしていたタンクローリー車の運転手中津川勝に北側の横断歩道あたり<4>地点を指で示されて後方を振り返り、その横断歩道上<ア>地点に転倒している兼弘を認めた。しかし、被告滝田は、前記のとおり本件交差点手前で信号待ちのため停止してから信号が進め(青色)に変り発進するまで、さらに、右発進後左折を開始するまでの間、ポール・トレーラーの左側方の安全を確認せず、左折中にも助手席窓越しに左方を見ただけで、左側方の安全を十分確認しなかつた。
以上のとおりである。証人中津川勝、同高塚勇の各証言中右認定に反する供述部分は措信できず、乙第五号証中に被告滝田が左折の際アンダーミラー、サイドミラーで安全を確認した旨の供述記載部分が存在し、右被告本人尋問の結果中にも同旨の供述部分があるが、いずれも、甲第一三号証に照らし措信できない。
ところで、大型車両が交差点において、交差する道路の幅員、交差点の形状、その他周囲の状況等により、やむを得ず進行道路中央寄りから大まわり左折をする場合には、その車両の左側方を直進又は右折するため他の車両が並進することは十分に予測されるところであつて、予め、できる限り進行道路の左側に寄つてから左折する通常の場合より、はるかに慎重な方法、態度で左側方の安全を確認すべき注意義務があるものといわねばならない。
しかるに、被告滝田は前記認定のとおり、ポール・トレーラーの左側方の安全を確認しないまま大まわり左折して本件交差点を進行したため本件事故を発生させたのであるから被告滝田に過失があることは明らかである。
前掲甲第五号証によれば、加害車には、運転席から助手席窓越しに左方を見た場合かなり大きな死角ができ、本件事故発生の直前、兼弘がこの死角の中に入つていたことが推認できるが、同号証中の「アンダーミラー・バツクミラーをとおして運転席から見た見とおし範囲」によれば、被告滝田が一時停止中あるいは発進直後、アンダーミラー、サイドミラーで左側方の安全を確認すれば兼弘を認めることができたとすることができるから、前記死角の存在によつて被告滝田の過失を否定することはできない。
二 責任原因
(一) 被告協木運送
原告らと被告協木運送との間では、請求原因2項の(1)の事実は争いがないので、被告協木運送は自賠法三条本文に基づく損害賠償責任がある。
(二) 被告滝田
本件事故が被告滝田の過失によつて発生したものであることは前認定のとおりであるから、被告滝田は民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。
三 損害
1 兼弘の損害
(一) 逸失利益 金一八六六万四四二四円
原告山崎勝久本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第一四、第一五号証を総合すれば、当時、兼弘が一六歳の健康な男子であつたことが認められる。従つて、特段の事情のない本件においては、兼弘の就労可能年数は同人が一八歳に達した時から六七歳までの四九年間とすることが相当であり、兼弘はその間、すくなくとも毎年得べかりし平均的賃金相当額の利益を喪失し同額の損害を蒙ることとなるといえるところ、昭和五〇年度賃金センサス第一巻第一表産業計企業規模計新制高校卒業労働者の平均給与額は年間金二二六万五一〇〇円であることが明らかであり、兼弘の生活費は収入の五〇パーセントとすることが相当であるから、以上の数値を基礎としてライプニツツ方式により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除して兼弘の逸失利益を現価に引きなおして算定すると左記の算式のとおり金一八六六万四四二四円となる。
2,265,100円×(1-0.5)×16.480=18,664,424円
(二) 慰藉料
即死した兼弘に慰藉料請求権の発生を認めるのは相当でないと解するが、後記のとおり、その相続人である原告らの慰藉料として検討する。
(三) 原告らの相続
兼弘が原告らの長男であり原告山崎勝久及び同山崎てるがいずれも各二分の一の相続分を有する相続人であることは当事者間に争いがない。よつて原告らは相続により兼弘の被告らに対する損害賠償請求権を各二分の一の各金九三三万二二一二円ずつをそれぞれ取得した。
2 原告ら固有の損害
(一) 葬儀費用 各金三三万二七五〇円
原告山崎勝久本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし三を総合すれば、兼弘の葬儀が執り行なわれ、葬儀費用金六六万五五〇〇円が支出されたことが認められ、これを原告らが各二分の一ずつ負担したものとすることができる。
(二) 慰藉料 各金五〇〇万円
本件事故の態様、兼弘の年齢、原告らとの身分関係その他諸般の事情を考慮すると原告らに対する慰藉料を各金五〇〇万円と認めるのが相当である。
3 原告らの損害合計額各金一四六六万四九六二円
四 過失相殺
1 前掲甲第五ないし第七号証、第一三号証、乙第二ないし第四号証、第五号証の一部、証人繁竹好雄の証言、被告滝田誠一本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、兼弘は本件事故発生前、自転車に乗り本件交差点の西方にある滝鉄工場の西側道路を左折して九〇号線に出て、道路左側を本件交差点に向かい走つてきたが、停止(赤色)信号によりすでに、ポール・トレーラーが前記のとおり停止していて、その台車左側方には二台の自転車が停止していたので、右自転車に続いて一時停止したが、信号機が進め(青色)の信号に変わつたので発進し、右二台の自転車をその右側から追越して本件交差点手前まで来た。兼弘は、本件交差点を西方から南方へ右折通過しようとしていたが、ポール・トレーラーが前記のとおり左折合図をしているのに気づかず、かつ、ポール・トレーラーが大まわり左折に備えて交差点直前で一旦進路を右へ変え道路中央寄りに進出したためポール・トレーラーもまた右折するものと感違いして、ポール・トレーラーの前部車両の左側方を並進しながら本件交差点に進入した。ところが、ポール・トレーラーが前記のとおり本件交差点内で大まわり左折をしたので、ポール・トレーラーと並進していた兼弘は、別紙見取図<×>地点でポール・トレーラーの前部車両の左フロントボデー前輪泥よけフエンダーに接触されて転倒し、前部車両の左後輪で轢過され、頭部外傷、骨盤骨折右肘部骨折等の傷害を負い、即死した(ただし、兼弘が右傷害を負い即死したことは当事者間に争いがない)。以上のとおりである。原告山崎勝久本人尋問の結果中右認定に反する供述は措信できず、他に、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。
以上一及び四に認定した本件事故の発生状況からすれば、兼弘がポール・トレーラーの左折合図に気づかず、かつ、ポール・トレーラーが右折するものと感違いした過失があり、この過失が本件事故発生の一因となつたことを否定することはできない。兼弘の右過失と被告滝田の過失の内容を比較検討すると過失割合は兼弘が二割、被告滝田が八割とするのが相当である。
2 そして、兼弘の過失は同人と原告らの身分関係に照らし被害者側の過失と扱うのが相当であるから、原告らの損害を算定するに当つては同一割合により過失相殺をすべきである。
3 原告らの各損害額につき、右割合に従い過失相殺すると、各金一一七三万一九六九円(一円未満切り捨て)となることが明らかである。
五 損害の填補
請求原因3項の(一)の(5)の自動車損害賠償保険金受領の事実及びその相続については当事者間に争いがない。過失相殺後の原告らの各損害賠償請求金額からそれぞれ相続した各自動車損害賠償保険金七五〇万円ずつを差引くと残余の額は各金四二三万一九六九円となることが明らかである。
六 弁護士費用 各金四二万円
本件訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告らに負担せしむべき弁護士費用は原告ら各自につき金四二万円とするのが相当である。
七 結論
よつて、原告らの本訴請求は、原告山崎勝久及び同山崎てるが、被告らに対し連帯して各金四六五万一九六九円及び弁護士費用を除く内金四二三万一九六九円に対する本件事故当日の昭和五二年五月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから、右限度でこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 高瀬秀雄)