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静岡地方裁判所 昭和53年(行ウ)6号 判決 1979年5月22日

原告 長野時男

被告 静岡県建築審査会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五三年一〇月二〇日付を以てした原告に対する建築確認処分審査請求参加不許可の処分は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一  建築確認処分の存在

靜岡県建築主事松本宗作は靜岡県富士宮市大中里六九四番地の二藁科勇に対し、同所二階建居宅三二・七二平方メートル及び同所平家建店舗一九・八七平方メートルの各建物の建築につき、第三一一八号及び第四二二九号をもつて各建築確認処分をした。

二  右各処分の違法性と審査請求

1 藁科勇の右居宅建築は河川敷の上になされた違法な建築であるにも拘らず、建築主事松本は違法な確認処分をした。又、右店舗の建築は建築確認のない事前着工であつたため工事中止命令が出されたものであるところ、藁科勇は佐野健司作成にかかる官有地道路を自己の敷地のように記載した虚偽の土地求積図を添付して確認申請し、同建築主事が確認処分をしたものであり、これは建築基準法第四四条・第四五条に違反し、又、第五三条の建ぺい率の制限規定に反する違法建築に対してなした違法処分である。

2 そこで、右土地に隣接する富士宮市大中里六九四番地の七の土地の所有者市川悦久は、右各建築により官有地である道路の通行権を侵害されることになるので、昭和五一年六月七日付をもつて被告に対し前記各二件の各確認処分について審査請求の申立をしたが、その際、被告から再三補正の手続を求められた。

三  参加の申立

原告は、昭和五〇年春ころ藁科勇の前記土地に隣接する富士宮市大中里六九五番地一(七九一平方メートル)の土地を後藤哲男から購入したものであるが、市川悦久のした右審査請求に対し、昭和五二年一二月一二日付をもつて行政不服審査法第二四条に基づき参加人として審査請求に参加するため、被告に対し参加の許可を申立てた。

四  不許可の処分とその違法性

被告は右参加許可の申立に対し昭和五三年一〇月二〇日付をもつて不許可の処分をした。

ところで、建築基準法第九四条第二項によれば、建築審査会は審査請求を受理した日から一月以内に裁決をすべき覊束義務が定められているにも拘らず、被告は市川悦久の審査請求に対し未だに裁決をしていない。従つて、原告の参加許可の申立に対する前記不許可の処分には重大な手続違反がある。又、原告は自らも前記の違法な各確認処分によつて国民が道路から受ける反射的利益である通行権を阻害されているのであるから、本件参加不許可の処分は違法である。

よつて、右不許可処分の取消を求める。

(請求原因に対する答弁及び被告の主張)

一  請求原因一記載の事実は認める。第三一一八号の確認処分というのは昭和五〇年一〇月三〇日付でなされたものであり(これを「第一次確認」という。)、第四二二九号の確認処分というのは昭和五一年六月四日付でなされたものである(これを「第二次確認」という。)。

二  請求原因二について

1 記載の事実中、事前着工及び建築主事が一時工事を中止させたことは認め、その余は争う。

2 記載の事実中、市川悦久の申立があつたこと及び補正命令を三回出したことは認める。但し、右市川の審査請求の申立の対象は第一次確認処分に対するものであり、第二次確認処分は対象とされていない。その余の事実は争う。

三  請求原因三記載の事実中、原告が原告主張の土地を取得したかどうかは知らない。原告が昭和五二年一二月一二日に審査請求参加の申立をしたことは認める。

四  請求原因四記載の事実中、被告が昭和五三年一〇月二〇日付をもつて原告の参加申立不許可の通知をしたことは認める。

市川悦久の審査請求に対する裁決は昭和五四年二月九日付でなされ、被告は第一次確認に対する申立は棄却・第二次確認に対する申立は却下し、右各裁決は同年二月二六日に市川悦久に送達された。ところで、建築基準法第九四条第二項の期間の不遵守については利害関係人でない原告には関係がなく、又、右不遵守は参加不許可について違法の有無とも関連がない。

又、原告は行政不服審査法第二四条第一項で定める利害関係人に該当しないのであるから、被告のした参加不許可については違法の問題は生じない。

第三証拠<省略>

理由

一  静岡県建築主事松本宗作が、藁科勇による富士宮市大中里六九四番地の二 二階建居宅及び同所平家建店舗の建築確認申請に対し、原告主張の各確認処分をしたこと、市川悦久が、右第三一一八号の確認処分につき被告に対し、昭和五一年六月七日審査請求の申立をしたこと、原告が右審査請求につき昭和五二年一二月一二日被告に対し参加許可の申立をしたこと。被告が昭和五三年一〇月二〇日右申立に対し不許可の通知をしたことは、当事者間に争いがない。

二  被告の右不許可の理由とするところが、「原告が参加申立書において本件審査請求に利害関係がある理由として記載している事実は建築確認の対象とはならないので、原告は本件建築確認によつて法律上の不利益をこうむるとは認めがたい。」というにあることが、「審査請求参加申立について(通知)」と題する書面(成立に争いのない甲第二号証)によつて認められる。

そこで被告が参加不許可としたことにつき取消事由の有無を検討するのに、まず、行政不服審査法第二四条第一項の規定は利害関係人が審査庁の許可を得て参加人として審査請求に参加することができる旨定めているものであるところ、同規定は裁決の結果が自己の権利利益に直接影響すると考える者に十分な主張の機会を与えて事件の適正な審理判断を通じてその者の権利利益の保護を図ろうとする反面、いたずらに参加人が多くなるなど簡易迅速に事案を処理するという不服申立制度の目的に反するような結果を生ずることのないよう考慮して、参加の可否を審査庁の裁量に基づく許可の有無にかからしめることを定めたものと解すべきであり、利害関係人から参加申立があつた場合にはすべて参加させる旨を定めたものと解することはできない。又、参加申立をなし得る者は右規定によれば利害関係人とされているが、ここにいう利害関係人とは、審査請求に対する裁決の主文によつて直接自己の権利利益を侵害される者、即ち審査請求の結果に法律上の利害関係を有する者と解される。

ところで、原告は建築主事の違法な確認処分によつて国民が道路から受ける反射的利益である通行権を阻害されたから、原告には参加について利害関係がある旨主張するが、建築主事は建築確認に際して当該建物の敷地の所有権、利用権の有無等の実体的権利関係につき審査することは要件とされていないものと解されるから、原告のいう付近の住民の通行権も建築確認の審査対象に含まれるものではないと解すべきである。従つて、仮に原告主張のような通行権の阻害事実が存在するとしても、右事実は審査請求における取消事由に該当しない。そうすると、通行権の侵害を主張する原告には、審査請求の結果について法律上の利害関係はないものといわざるをえない。よつて、右と同様の判断により原告の参加申立を許可しなかつた被告の処分は違法であるということはできない。

右に加えて、参加の可否は審査庁の裁量に委ねられていると解すべきこと前示のとおりであるところ、被告が本件参加申立を不許可にするにつき、裁量権を逸脱したものと認むべき事実の存在は全証拠によつてもこれを認めることができないから、この点からも、本件不許可処分が違法であるということはできない。

又、原告は本件参加不許可が違法である理由として、市川悦久の審査請求に対する被告の建築基準法第九四条第二項の規定の期間不遵守を挙げているが、審査請求手続が係属していることが参加申立の前提である以上、右期間の不遵守は参加を申立てようとする者になんらの不利益を与えるものではないから、右期間不遵守は参加許否の違法とは全く関係がない。

以上のとおりであるから、被告の本件参加不許可の処分には、これを取消すべき違法事由は存在しない。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松岡登 紙浦健二 稲葉耶季)

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