静岡地方裁判所 昭和56年(行ウ)15号 判決 1985年12月20日
原告 ニユージヤパンヨツト株式会社
被告 島田税務署長
代理人 窪田守雄 三浦道隆 ほか三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五五年五月一三日付けで原告の別表一記載の各課税期間の物品税についてした同表「更正処分」欄記載の各更正処分のうち同表「申告」欄記載の各課税標準額を超える部分及び同表「賦課決定」欄記載の各過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
請求棄却の判決を求める。
第二請求の原因
一 本件の経緯
1 原告は、ヨツトの製造販売を業としているが、別表一の「課税期間」欄記載の各課税期間(以下「課税期間」という。)に原告の製造場から移出した大型及び中型ヨツトの物品税について、被告に対し、同表「申告」欄記載のとおりの課税標準額及び納付すべき税額を納税申告した。
2 被告は、昭和五五年五月一三日付けで、右物品税について、同表「更正処分」欄記載のとおりの各更正処分(以下「更正処分」という。)及び同表「賦課決定処分」欄記載のとおりの各過少申告加算税賦課決定処分(以下「賦課決定」という。)をし、同月一四日そのむね原告に通知した。
3 原告は、被告に対し、昭和五五年七月一〇日に更正処分及び賦課決定について、異議を申し立てたが、被告は、同年一〇月七日付けで、右異議申立てを棄却する旨の決定をし、右決定謄本は、同月八日原告に送付された。
4 原告は、国税不服審判所長に対し、昭和五五年一一月六日に、更正処分及び賦課決定について、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和五六年五月一二日付けで、審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は、同月二八日原告に送達された。
二 更正処分及び賦課決定の違法事由
しかし、被告がした更正処分のうち、各納税申告に係る課税標準額を超える部分は、いずれも課税物品の範囲を過大に認定したことによるものであるから違法であり、したがつて、また、更正処分を前提としてされた賦課決定も違法である。
三 よつて、更正処分及び賦課決定の取消しを求める。
第三請求原因事実に対する認否及び被告の主張
一 請求原因一1ないし4の各事実は認める。
二 被告の主張
1 更正処分の根拠
(一) 原告は、別表二のIIの1ないし5「型式、順号」欄記載のヨツト(以下「本件ヨツト」という。)を製造し、同表「月区分」欄記載の各年月に同表「移出先」欄記載の者に、同表「取引価額」欄記載の金額で売り渡し、本件ヨツトを原告の製造場からそれぞれ移出した。
(二) 原告は、ヨツトを製造、販売するに当たり、艇体に艤装する部品又は附属品について、ヨツトの各型式毎に標準となる標準艤装艇(以下、「標準艇」という。)を設定し、それ以外に艤装する部品又は附属品(以下「オプシヨン品」という。)は、顧客の注文により艤装することとしていた。
(三)(1) 本件ヨツトには、別表二のIIIの1ないし16の「内訳」欄記載のオプシヨン品がそれぞれ艤装されていた。右オプシヨン品の性能、機能、用途、性状等は別表三の「性能、機能、用途、性状等」欄の各点線の上の段に記載されたとおりであり、右オプシヨン品の取付け等の場所、方法は、それぞれ、同表の「取付け等の場所」欄、「取付け等の方法」欄の各点線の上の段に記載のとおりである。
(2) 物品税法第三条第二項に定める「製造」とは、材料又は原料に物理的若しくは化学的な変化を与え、若しくは操作(不課税物品である材料又は原料を容器に充てんするなどの方法を含む。)を加え、新たな課税物品を造り出す行為をいい、その材料又は原料の新旧、また素材であると製品であるとを問わないのであるからオプシヨン品が、ヨツト本体に結合されてその一部となるか若しくはこれに従属し通常一体として使用されるものであり、かつ、一体として取引されるのが通例と認められる場合には、オプシヨン品をヨツトに装備する行為もヨツト製造行為に該当する。
(ア) 右の「結合」とは、課税物品本体と合わさることによつて当該物品が本体そのもの、あるいはその一部と見られるようになり、その結果、社会通念上一個の課税物品と認識される状態になることをいい、製造場内において結合されるものである限りは、その工程手順、脱着の難易性及び離脱後の状態の良否は問わず、結合後の状態においてその全体が課税物品に該当するのかどうかを判定することとなる。
(イ) 次に「一体として使用される」とは、ヨツトを本来の使用目的にそつて使用する際に、当該物品を使用する状態をいい、その使用頻度、使用価値の高低、ヨツトの航行に使用されるか否か、その物品がヨツト以外にも使用されるものであるか否かを問わない。
そして、その判定は、当該製造場からの移出時点を基準とする。
(ウ) さらに、「一体として取引されるのが通例のもの」とは、取引の際、ヨツトに艤装されており、ヨツトの使用目的等からみて、特に反対の特約がない限り、艤装されたまま引き渡されることが相当と認められるものをいう。
(3) 別表三記載のオプシヨン品とヨツト本体との関係は、それぞれ、同表「ヨツト本体との関係」欄記載のとおりであり、いずれも、前記(2)の要件を十分に充足している。
(四) したがつて、本件ヨツトの物品税の課税対象価額は、それぞれ別表二のIIの1ないし5「課税対象価額・標準艇」欄に掲げる標準艇の価額と別表二のIIIの1ないし16「内訳」欄記載のオプシヨン品(以下「本件オプシヨン品」という。)の価額との合計金額であり、原告は、同表「内訳」欄中の「値引」欄記載の金額を値引いているから、これを差し引くと本件オプシヨン品の合計金額は、同表「課税対象価額」「その他」欄記載の金額となる。(右金額は別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」欄中の「その他」欄記載の金額と同一である。)
そこで、本件ヨツトのそれぞれの物品税の課税対象価額は、別表二のIIの1ないし5の「課税対象価額」欄の「計」欄記載の金額のとおりとなる。
(五) ところで、本件ヨツトの物品税の課税標準額は、昭和三八年五月一日国税庁告示第八号において国税庁長官が定める金額すなわち本件ヨツトの課税対象価額に三〇パーセントを乗じて得られた金額と右ヨツトに課されるべき物品税額に相当する金額との合計額を、販売価額から控除した金額となる。
そうすると、本件ヨツトの物品税の各課税標準額は
課税対象価額×(1-0.3)×[1/(1+物品税率)]
の算式により得られることになり、その額は、それぞれ別表二のIIの1ないし5の「課税標準額」欄記載の金額となる。(なお、本件ヨツトに課されるべき物品税の税率は、別表二のIIの5備考欄に記載のとおりであり、国税通則法第一一八条第一項の規定により一〇〇〇円未満の端数は、切り捨てた。)
(六) したがつて、原告の本件課税各月分毎の課税標準額の合計金額は、それぞれ別表二のIの1、2の「課税標準額」欄記載の金額となり、被告の更正処分による原告の課税標準額といずれも同額であるから、更正処分はいずれも適法である。
2 賦課決定の根拠
原告は、本件課税各月分の物品税の申告を過少に行つていたので、国税通則法第六五条第一項の規定に基づき、更正処分により納付すべき物品税額である別表二のII1ないし5の「税額」欄記載の各税額(同表「課税標準額」記載の金額に同表IIの5備考欄記載の物品税率を乗じて得られた金額。ただし、同法一一九条第一項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた。)と、別表一記載の「申告」欄中の「納付すべき税額」欄記載の各税額との差額(同法第一一八条第三項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた。)に、それぞれ一〇〇分の五を乗じて計算した別表一「過少申告加算税額」欄記載の各金額(同法第一一九条第四項により一〇〇円未満の端数を切り捨てた。)を過少申告加算税として賦課した賦課決定は 適法である。
第四被告主張事実に対する認否及び反論
一 被告主張事実に対する認否
1 被告主張1(一)の事実中、別表二のIIの2の型式、順号「P6」(以下「P6」という。)を製造したとする点は否認する。右ヨツトは、原告代表者が昭和五三年のヨツトの世界選手権に出場するため自己使用の目的で自作したものである。(ただし、右ヨツトの移出時の評価額が金一五〇万円であることは認める。)
その余の各事実は認める。
2 同1(二)の事実は、認める。
3 同1(三)(1)の事実中、別表二のIIIの1の型式、順号「E27」のヨツト(以下「E27」という。)にエクステンシヨンテイラーが艤装されていたとする点は否認し、その他のオプシヨン品がそれぞれ艤装されていたとする点は認める。
右オプシヨン品の性能 機能、用途、性状等についての被告の主張に対する認否は、別表三の「性能、機能、用途、性状等」欄の各点線の下の段に記載のとおりであり、右オプシヨン品の取付け等の場所、方法についての被告の主張に対する認否は、別表三の「取付け等の場所」欄、「取付等の方法」欄の各点線の下の段に記載のとおりである。
4 同1(三)(2)、(3)の各主張は争う。
5 同1(四)の主張中、本件ヨツトの物品税の課税対象価額は、それぞれ標準艇の価額と本件オプシヨン品の価額との合計金額とする点は、争う。本件ヨツトの標準艇の価額が、それぞれ別表二のIIの1ないし5の「課税対象価額」欄中の「標準艇」欄記載のとおりであること、本件ヨツトの本件オプシヨン品の価額が別表二のIIIの1ないし16の「内訳」欄記載のとおりであること(ただしE27のヨツトに艤装されたフオアデツキ作業灯の価額は、一万八五〇〇円ではなく、三〇〇〇円である。)、原告が同欄中の「値引」欄記載の金額を値引いていること、E27のヨツトの分を除いて、本件オプシヨン品の合計価額が同表及び別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」「その他」欄記載の金額であることは認める。
本件ヨツトのそれぞれの物品税の課税対象価額が別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」欄の「計」欄記載の金額であるとの点は争う。
6 同1(六)及び同2の主張は、争う。
二 原告の反論(本件オプシヨン品を課税対象としたことについて)
1 (標準艇が生まれた経緯)
ヨツトは、かつては、全て木造で船大工が一艇ずつ注文に基づいて設計し、注文者の希望などにより種々修正を加えながら製造していた。そのため、艤装品は、その種類が少なく、ヨツト毎に各別に作られヨツトに合わせて改造されるなどしたためヨツトと一体のものと考えられ、オプシヨン品を含めたヨツト全体を課税対象と見ることも必ずしも不当ではなかつた。ところが、同一艇型のヨツトの大量生産が可能となり、その定型化が進み、汎用オプシヨン品も豊富となり、ユーザーの底辺も拡大した。そこで、ヨツトメーカーは、すぐ使えるヨツトが欲しいというニーズに対応して、ヨツト本体に、ヨツトとしてはなくてはならない附属品あるいはユーザーによる取付けが困難ないし不適当なためメーカーで取り付ける必要がある附属品を艤装した標準艇を設定するようになつた。それ以外の附属品であるオプシヨン品は、ほとんど全て汎用品でユーザーがメーカーや専門店から購入して自分で取り付けることができるものであるが、ユーザーの中には、ヨツトを購入するついでに、メーカーに対し希望のオプシヨン品を全て付けて欲しいという者も多いので、メーカーは、これをヨツトに取り付けあるいは添えたうえでユーザーに引き渡すようになつた。したがつて、製造場から移出する際に、ヨツト本体に取り付けられたオプシヨン品全てを課税対象とする解釈は、実情にそぐわない。
2 (憲法第八四条違反)
(一) 本件ヨツト本体には本件オプシヨン品の外にも別表四記載のオプシヨン品(その内容は別表五に記載したとおり)が取り付け又は備え付けられ、もしくはヨツト本件とともに製造場から移出されている。
このように多種多様なオプシヨン品のうち、被告がこれを選別して一部を本件オプシヨン品とし、それ以外を課税対象外とした判断の規準は明確でなく、法的安定性を害する虞れが大きい。
(二) 被告は、昭和五二年六月二九日付島田間第四三号で、原告に対し、昭和五〇年一一月から昭和五一年八月までに原告の製造場から移出されたヨツト一七艇に関し、移出年月日偽記、過少申告等を理由として通告(以下「昭和五二年通告」という。)をしたが、移出年月日偽記のみを理由として処分を受けた石川冷宛移出のエクメ・スポーツ(中型ヨツト)及び内藤裕三宛移出のエクメ・ド・メール(中型ヨツト)は別表六のとおり、本件オプシヨン品の一部を艤装していたのに、被告は、右ヨツトには、課税対象となるオプシヨン品は装備されていないと判断して、これを、課税対象とせず、また、過少申告を理由として処分を受けた品川卓一宛及び吉野真宛にそれぞれ移出した各パサトーレバカンス(中型ヨツト)、渡辺平太郎宛及び中村豊久宛にそれぞれ移出された各エクメ・ド・メール(中型ヨツト)は、別表六のとおり、本件オプシヨン品の一部を艤装しているのにやはり課税対象としなかつた。(このことは、本件オプシヨン品の価額を各艇毎に合計した金額すなわち同表「合計」欄記載の金額が、右五二年通告において、被告が過少申告を評価して販売価額に算入したオプシヨン品の価額すなわち同表「昭和五二年通告処分に係る『算入しなかつた標準外艤装の価額』」欄記載の金額を大幅に上回ることから明らかである。)
(三) 以上のとおり、昭和五二年通告における判断基準と更正処分における判断基準との整合性はなく、更正処分の基準には合理的で明確な基準が存在せず、法的安定性及び予測可能性を著しく害するものであつて、課税要件明確主義に反する。
(四) 本件オプシヨン品は、昭和五二年通告で課税の対象とされていたオプシヨン品の範囲を超えている。
そして、更正処分に至るまで、この点に関する法令の改正はなく、また原告は、被告から本件オプシヨン品の範囲まで課税対象を拡張する旨を告知されたことはなかつた。したがつて、更正処分は、法令によらない課税の対象の拡張であつて、課税要件法定主義に反し、租税立法不遡及の原則にも反する。
3 (課税要件の解釈の違法)
(一) 物品税法別表課税物品表の適用に関する通則(以下「通則」という。)二によれば、課税物品本体以外の他の物品が課税物品と一体のものとみなされ、当該他の物品の価額が課税対象価額に算入されるための要件としては、当該他の物品が課税物品本体と混合又は結合されることを要する。そして、右にいう「結合」とは単なる合体では足りず、当該他の物品がその独立性を失い、課税物品本体の一部、構成部分になつたものと認められる程度に達し、両者を破損しないで分離することが不可能又は著しく困難であるか、著しく多額の費用を要する場合か当該他の物品が課税物品本体を本来の使用目的に従つて使用するのに必要不可欠な場合であることを要する。
(二) 然るに本件オプシヨン品は、これらいずれの要件にも該当せず、しかも、ヨツトの引渡しを受けたユーザーが自分で購入して艤装した場合には、ヨツトの一部として課税されることはなく、課税の対象とすべき合理的理由も見あたらない。
第五原告の反論に対する認否
一1 原告の反論1については、争う。
2 従来のいわば手造り的ヨツトと現在の定型化された大量生産によるヨツトとの間で、物品税法第三条第二項に定める要件に差異を設ける合理的理由はない。また、オプシヨン品もユーザーが購入してみずから艤装する場合は別として、製造者がその製造場で、艤装する場合には右の課税要件に該当することになる。
二1 同2(一)の事実は知らない。
2 被告は、更正処分に係る調査をし、原告代表者が原告の製造場で艤装されたと説明するオプシヨン品を確認のうえ更正処分をしたもので、本件ヨツトに、別表四記載のとおりのオプシヨン品が艤装されていたことは原告代表者から説明もなく、右事実を知らなかつた。もし、被告が右事実を知つていたならば、これらのオプシヨン品の価額も当然課税標準額に含めて更正処分をした。
三1 同2(二)の事実のうち、原告が石川及び内藤にそれぞれ移出したヨツトに原告主張の本件オプシヨン品の一部が艤装されていたとする点は不知、被告が右本件オプシヨン品を課税対象にしないものとして昭和五二年通告を行つたとする点は否認する。
2 品川に移出したパサトーレバカンスにコンパス、ビルヂポンプ、フオールデイングプロペラ、バツテリー(変更)、スプレツダーライトが艤装され、それぞれの価額が原告主張のとおりであることは認め、その余の本件オプシヨン品について不知。課税されなかつたオプシヨン品合計額が三八万三〇〇〇円であつたことは認める。
3 吉野に移出したパサトーレバカンスにバツケリー(変更)、船名、フオールデイングプロペラ、ビルヂポンプ、フアデツキ作業灯、メインハリヤードウインチ、レーシングウエイト、チンクポンプ、ナツシカムクリート差額、YS―8ヨツト用が艤装され、それぞれの価額が、原告主張のとおりであることは認め、その余の本件オプシヨン品については不知。なお 右ヨツトにはジプシートウインチ(三万六〇〇〇円)が艤装され、七万一七四五円の値引がされたから、課税されなかつたオプシヨン品合計額は二四万六〇五五円であつた。
4 渡辺に移出したエクメ・ド・メールには、コンパス、スピードメーター、マリン・トイレ、ハル特別色が艤装され、それぞれの価額が原告主張のとおりであることは認め その余の本件オプシヨン品については不知。なお、このヨツトについては八万五六一二円の値引がされ、課税されなかつたオプシヨン品合計額は一六万五三八八円であつた。
5 中村に移出したエクメ・ド・メールには、コンパス、ビルヂポンプ、スピードメーター、ライフ・ラインが艤装されそれぞれの価額が、原告主張のとおりであることは認め、その余の本件オプシヨン品については不知。なお、右ヨツトについては、六万九二〇七円の値引がされ、課税されなかつたオプシヨン品合計額は、一一万五七九三円であつた。
6 被告は、原告代表者らに対する聴取り等の調査により右各ヨツトに本件オプシヨン品が艤装されていないものと判断したものであつて、かりに原告主張のとおり本件オプシヨン品が右各ヨツトに艤装されていたことを知つていた場合には、本件オプシヨン品の価額を課税対象価額に算入して昭和五二年通告を行つたはずである。
オプシヨン品に関する取扱いは、昭和五二年三月の調査時と昭和五五年一月の調査時とは全く同一であり、オプシヨン品の課税対象範囲を拡大したことはない。
四 同(三)及び(四)の主張は、争う。
五1 同3の主張は、争う。
2 通則二は、課税対象物品には、他の物品と混合又は結合した物品を含み、かつ、混合又は結合により、当該物品の性状、機能、用途その他について二以上の特性を与えることになつた場合に重要な特性を与えることのない物品の価額も課税標準額に含まれることを定めたもので、結合又は混合の概念自体を定めた規定ではない。また、他の物品が課税物品本体の一部になつたと認められる場合を、原告主張のように厳格に限定する合理的理由は存しない。
第三証拠関係<略>
理由
一 本件の経緯について
請求の原因一1ないし4の各事実は、当事者間に争いがない。
二 更正処分の適法性について
1 原告が本件ヨツト(P6を除く。)を製造し、別表二のIIの1ないし5の「月区分」欄記載の各年月に、同表「移出先」欄記載の者に、同表「取引価額」欄記載の金額で売り渡して、原告の製造場からそれぞれ移出したことは、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告がP6を製造したか否かについて検討する。
(一) <証拠略>によれば、P6は、昭和五三年八月一一日から同月三〇日までの間、原告の製造場で製造され、同月末、三浦市三崎町所在のシーボニアヨツトクラブに移出された後、同年九月横須賀市佐島所在の佐島マリーナに転送されて、同月一八日、全日本コータートン・カツプ予選大会で使用され、その後は、前記シーボニアヨツトクラブで使用され、昭和五四年八月六日、原告から大野秀昭という一般のユーザーに二三〇万円で売り渡されたこと、P6は、昭和五三年九月三〇日付けの原告の決算書の棚卸し資産に計上されていたことが認められる。
(二) 右に認定した事実によると、たとえ、原告主張のとおり、P6が原告代表者の友人、学生らの手も加わつて製造されたものであるとしても、原告がP6を製造したものということができる。
(三) そして、原告が、その製造にかかるP6を、昭和五三年八月、原告の製造場から移出したことは前記のとおりであり、その時のP6の価額が金一五〇万円であることは当事者間に争いがない。
3(一) 被告の主張1(二)の事実は、当事者間に争いがない。
(二) E27のヨツトにエクステンシヨンテイラーが艤装されていたとする点及びE27に艤装されていたフオアデツキ作業灯の価額が一万八五〇〇円であつたとする点を除いて、本件ヨツトに別表二のIIIの1ないし16の「内訳」欄記載の本件オプシヨン品がそれぞれ艤装されていたことは、当事者間に争いがない。
そして、<証拠略>によれば、更正処分に係る調査の際、原告代表者は、E27にエクステンシヨンテイラーが艤装され、また、同艇に艤装されていたフオアデツキ作業灯の価額が一万八五〇〇円であることを認めていたことが明らかであり、しかも更正処分の調査にあたつた被告係官の言動が高圧的であつたとする原告代表者の供述はたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、右艤装及び価額の事実を認めることができる。
(三) 次に、本件オプシヨン品の性能、機能、用途、性状等並びにその取付け等の場所及び方法については、<証拠略>によれば、次のとおりであると認められる。
(1) コンパスは、マグネツトにより方位を見る航海器具で、船体にそれが入る穴をあけて貫通ボルトでとめる方法により取り付けるものである。
(2) スピードメーターは、対水速度を測る航海器具で、船体に取り付け穴を開け、蝶ナツトによりコの字型の裏座板に取り付けられたボルトの先端の曲つた部分をスピードメーターの突起にひつかけてから蝶ナツトを締め上げて、スピードメーターのフレーム部分を船体に圧着固定する方法により取り付けるものである。
(3) ロブメーターは、対水速度をもとにして距離を測定する航海器具で、コツクピツトにスピードメーターと同一の方法で取り付けるものである。
(4) バツクステイアジヤスターは、デツキにシヤツクル止めにより取り付けるものでフオアステー及びメインセールの調整金具であり、これをヨツト本体とともに製造場から移出する時は、その部品一式を箱詰めした状態で移出し、現地で、組み上げ、ヨツト本体に取り付けるものである。
(5) ライフ・ラインは、デツキにシヤツクル止め及びロープ止めにより取り付けるもので艇首のステンレス製手すり(パウパルピツト)と艇尾のステンレス製手すり(スタンパルピツト)の間を結び、その間のスタンシヨンベースに差し込まれてピンで固定されたスタンシヨンの穴を通つているロープであり、人がデツキから海中に転落しないように艤装するものであつて、標準艇には、一段艤装されているが、顧客の注文によつてさらにもう一段追加することができ、これをヨツト本体とともに製造場から移出する時は、その一式を箱詰めにした状態で移出し、現地で、ヨツト本体に取り付けるものである。
(6) メインハリヤードウインチは、メインセールを引き上げる時のウインチであり、デツキに穴を開けて通しボルトで取り付けるものである。
(7) フアオデツキ作業灯は、前部デツキ用照明であり、マストにビス止め又はリベツト止めにより取り付けるものである。
(8) シートストツパーは、セールの引上げロープの固定器具の予備であり デツキに穴を開けてボルトナツトで固定するものである。
(9) ジプシートウインチは、ジプセール引込み用ウインチであり、デツキ又はマストにボルトで固定して取り付けるものである。
(10) エクステンシヨンテイラーは、舵棒に木ネジで取り付けてこれを延長する装置である。
(11) ウインデツクスは 風向計でマスト先端に取り付けられた金属板に開けられた穴に支柱の下のボルトを差し込み、下からナツトでとめて取り付けるものである。
(12) フオールデイングプロペラは、ヨツト用補機の推進装置でプロペラシヤフトの先端のボルトにダブルナツトで取り付けられ、ヨツト後方に約九〇度倒れるように折りたたむことによつて水の抵抗を低くすることができるものである。
(13) アイスボツクスは、キヤビンに組み込むものでクーラー自体は置くだけで、ヨツトがゆれた場合に動かないようにキヤビンの横に高さ三〇ミリメートル程度の根太を張つたものである。
(14) マリン・トイレは、キヤビンに取り付けるものでマリン・トイレのねじ穴にボルトを通してナツトで締めることにより取り付けるものである。
(15) ビルヂポンプは、手動式排水ポンプで、コツクビツトベンチの下部付近の艇体に通し、ボルトで固定して取り付けるものである。
(16) ハル特別色は、船体表面に標準色以外の色を吹き付け、又はテープにより張り付けて塗装するものである。
(17) バツテリー変更は、標準艤装の四〇アンペアのバツテリーを七〇アンペアのバツテリーに変え、これを船体にビスで止めたバツテリー箱に入れて置くものである。
(18) エンジン変更とは、標準艤装の八馬力を一二馬力に変えることをいい、船体のエンジンベツドに通しボルトで固定して取り付けるものである。
(19) シヤワーは、キヤビンにビス止めにより取り付ける。
(20) マストヘツド航海灯は、マスト上部に木ねじで取り付けるものである。
(21) 風速計は、風の速度を測定する航海計器であり、マストにスピードメーターと同じ方法で取り付けるものである。
(22) 風向クローズ計は、風の吹いてくる方向を測定する計器で、マストにスピードメーターと同じ方法で取り付けるものである。
(23) 測深機は、船底から音波を発しその反射によつて海底の反射像をブラウン管に表示するものであり、本体はコの字形のブラケツト(金具)を艇体に木ねじで取り付け、これに本体をひつかけて外れないようにボルトで止める方法により取り付けるものである。
(24) ボトムペイントとは、貝及び海草付着防止のため船底に塗料をはけ塗りすることで標準塗料以外の良質な塗料を使用したときの差額である。
(25) アンメーターは、ヨツトのバツテリーの電流計でキヤビンにビス止めによつて取り付けるものである。
(26) コツクピツトベンチチーク張りは、コツクピツトベンチにチーク材をビス止めによつて張ることである。
(27) ミズン・ステースル・マストは通常の帆二枚、マスト一本のほかにミズンのマストを取り付けられるように設備したものであつて、船体を改造し、ワイヤーで固定するものである。
(28) 洗面台はキヤビンにビス止めにより取り付けるものである。
(29) メインセールは、主帆でマストに備え付けるもので、その取外しが可能である。
(30) ジブセールは、前帆で取外しが可能なものであり、マストサポート用ワイヤーに取り付ける。
(31) ホームバーセツトは、キヤビンに組み込むもので、艇内の仕切りに開口部を設け、裏側から箱を付け、さらに瓶が倒れないように、丸い穴の開いた透明アクリル板等を付けたものである。
(32) バースクツシヨンは、ウレタンを布で包んだ普通のクツシヨンで、艇内のベンチやベツトに敷くものであるが、その敷き場所の形に合わせてカツトされており、原告が製造する標準艇には必ず備え付けられ、顧客の注文により、高級品に変更していた。原告は、標準艇のバースクツシヨンの価格のみを課税の対象となると考え、高級品のバースクツシヨンに変更した場合のその差額部分はオプシヨン品の価額として取り扱つていた。
(33) コンセント追加とは、コンセントをビス止めによりキヤビンに取り付けるものである。
(34) ボルトメーターは、ヨツトのバツテリーの電圧を測定する電圧計で、艇内の壁などにビスナツトで止める。
(35) 物入れ追加とは、開口部のない所に開口部を設けたり、キヤビンの背もたれの後ろの隙間に仕切板をはめて物を置けるようにすることである。
(36) ハンギングロツカーとは、艇内の仕切と仕切との間の空間に洋服を掛けられるようになつているもので、その改造とはロツカー内に棚を設け、その位置を変更し、又は仕切りを設けることである。
(37) スタンチヨツクは、アンカーロープを船体にガイドする部品の予備のものであつて、船尾の縁に通しボルトで取り付けるものである。
(38) バラ打とは、キヤビンに、内装のためスプルース、チーク材料等の木材を木ねじで張ることである。
(39) アイは、デツキにビス止めにより取り付けるものでその穴にロープを通し、ロープをガイドするものである。
(40) クリートは、ロープ止めの予備のものであつて、艇体に通しボルトで止めロープを巻きつけて取り付けるものである。
(41) 水タンク点検口・レベルゲージは、水タンクの残量測定設備で、キヤビンにビス止めにより固定された水タンクに「 」字型パイプをつめこみこれにビニールパイプを組み込むものである。
(42) シンク変更とは、標準艤装のFRP製のシンク(洗し)をオプシヨン艤装のステンレス製のものに変更することをいい、シンクは、キヤビンにビス止めにより取り付けるものである。
(43) 棚変更とは、船内の棚の改造をいい、棚は、根太だけ本ねじで固定し棚板はこの根太に乗せるだけのものである。
(44) 魚群探知機は、水深及び魚群を電波によつて探知する器具であり、測深機と同様の方法でキヤビンに取り付けるものである。
(45) アイ・ストラツプは、環止めで、デツキにビス止めにより取り付けるものである。
(46) セルフ・テーリングは、自動捲取式ウインチで、デツキに穴を開け通しボルトで取り付けるものである。
(47) 船名は、船体に筆書き又はステツカーで表示するものである。
(48) ジブ・リーフ装置とは、ジブセールの下端より上の部分にロープを通すことができる穴を開けることをいい、ジブ・セールは通常その下端をロープで止めるが、下端より上の部分の穴にロープを通して止めることによつて縮帆することができるようにするためのものである。
(四) ところで、物品税の対象となるのは、物品税法別表課税物品表類別欄及び品目欄に掲げられた物品であるところ、課税対象となる各物品が具体的に、どのような物を指称するかについて、明文の定義規定が存しないときは、一般社会通念に従い、その物品の意義、範囲を定める必要がある。そして、ヨツトに関しては、同表「第二種の物品」の「番号」欄八の「類別」欄で品目欄の1、6及び7に記載されてはいるもののヨツトの意義及び範囲について明文の規定はない。ところで、ヨツトは、通常、ヨツト本体に航行上の必要、便宜等から多種多様な部品及び付属品が艤装され、そのうえで使用され、かつ、取引されるものであるから、課税の対象としてのヨツトの範囲は、ヨツト本体に限られず、たとえ、部品又は付属品でも、それがヨツト本体に結合されて、通常、ヨツト本体と一体として使用され、かつ、ヨツト本体と一体として取引されるのを通例とする場合及びヨツトの部品又は付属品がヨツト本体に結合される場合でなくとも、それがヨツト本体に従属し、通常、ヨツト本体と一体として使用され、かつ、ヨツト本体と一体として取引されるのを通例とする場合は、かかるヨツトの全体が課税物品たるヨツト本体に該当するものと解すべきである。
ところで、原告が、ヨツトを製造、販売するに当たり、ヨツト本体に艤装する部品又は付属品について、標準艇を設定し、それ以外に艤装するオプシヨン品は、顧客の注文により、艤装していたことは、当事者間に争いがないところ、原告は、ヨツトとしての課税対象の範囲を標準艇の範囲に限定し、それ以外に艤装するオプシヨン品は、課税対象の範囲外である旨主張するが、課税対象の範囲を原告主張のとおりとするならば、あるオプシヨン品が課税対象の範囲内にあるか否かは、ヨツト製造者が右オプシヨン品を標準艇の一部と考えるか否かによつて決められることになり、課税対象の範囲を客観的基準によつて決することにはならないから、原告の右主張は相当でなく、採用しえない。
原告は、また、通則二を根拠として、反論3のとおり主張する。しかし、通則二は、課税対象物品には、他の物品を混合又は結合した物品も含まれ、かつ、混合又は結合したことにより当該物品の性状、機能、用途その他について二以上の特性を与えることになつた場合、他に別段の定めがないかぎり、当該物品は、貴重な特性を与える物品のみから成るものとみなし、重要な特性を与えることのない物品の価額も課税標準に含まれることを明文で明らかにしたものであつて、結合又は混合の意義を定めた規定ではないと解される。したがつて、原告の右主張は、右規定につき、これと異なる解釈を前提とするものであつて、採用できない。
(五) そこで、前記(三)の四八品目の本件課税対象オプシヨン品は、これをヨツト本体に艤装した場合に、ヨツトの一部として課税の対象となるかを判断することとする。
(1) 前記(三)に認定したところによれば、ハル特別色、ボトムペイント(差額)、船名、ミズン・ステースル・マストは、いずれも、ヨツト本体に艤装されることによつてヨツト本体の構成部分になるものであるということができる。したがつて、これらのオプシヨン品をヨツトの一部として、課税の対象とすることは、適法である。
(2) 前記(三)に認定したところによれば、コンパス、スピードメーター、ログメーター、メインハリヤードウインチ、フオアデツキ作業灯、シートストツパー、ジブシートウインチ、エクステンシヨンテイラー、ウインデツクス、フオールデイングプロペラ、マリン・トイレ、ビルヂポンプ、エンジン(変更)、シヤワー、マストヘツド航海灯、風速計 風向クローズ計、アンメーター、コツクピツトベンチチーク張り、洗面台、コンセント(追加)、スタンチヨツク、バラ打、アイ、クリート、シンク(変更)、アイ・ストラツプ、セルフ・テーリング、バツクステイアジヤスター、ライフ・ライン、アイスボツクス、ホームバーセツト、ボルトメーター、物入れ(追加)、ハンギングロツカー(改造)、棚(変更)、測深機、魚群探知機、水タンク点検口・レベルゲージは、いずれも、ヨツト本体に結合され、本件各ヨツトの一部となつたものということができる。そして、以上の二八品目のオプシヨン品のそれぞれの性能、機能、用途、性状等は、前記のとおりで、いずれも通常ヨツトと一体として使用されるものであり、<証拠略>によれば、右オプシヨン品は、いずれもヨツト本体と一体として取引され、移出されるものと認めることができる。なお バツクステイアジヤスター及びライフ・ラインは、いずれも原告の製造場から移出された時は、その部品一式が箱詰めされた状態で移出され、現地において、ヨツト本体に取り付けたものであるが、バツクステイアジヤスターはシヤツクル止めにより、ライフ・ラインはシヤツクル止め及びロープ止めで比較的容易にヨツト本体に取り付けることができるものであるから、実質的にヨツト本体が移出された時に、これらのオプシヨン品がヨツト本体に取り付けられていたのと同視することができる。
(3) メインセール及びジブ・セールは、いずれも、ヨツト本体から取外し可能であるものの、ヨツト本体に従属し通常一体として使用され、一体として取引されるのが通例であり、ジブ・リーフ装置は、前記のとおりメインセールを穴開け加工したものであるから、いずれもヨツトの一部として、課税の対象となるというべきである。
(4) バツテリー(変更)及びバース・クツシヨンは、前記(三)に認定したとおり、ヨツト本体に結合するものということはできないが、ヨツトには、通常、電気の供給を要するエンジン、オプシヨン品が多数備え付けられているから、バツテリーをヨツトに装備することはヨツトの使用に必要不可欠で通常ヨツトと一体として使用されるものであるということができ、<証拠略>によれば、バツテリーは、ヨツト本体と一体として取引されるのが通例のものであることが認められる。したがつて、一旦ヨツト本体に備え付けられたバツテリーは、ヨツト本体に従属し、通常、ヨツト本体と一体として使用され、かつ、ヨツト本体と一体として取引されるのを通例とする場合に該当しヨツトの一部として課税の対象となるというべきである。そして、標準艤装の四〇アンペアのバツテリーを七〇アンペアのものに変えたとしても、ヨツトとしての課税対象の範囲を標準艇の範囲に限ることが相当ではないことは前記のとおりであるから、七〇アンペアのバツテリーの価額と四〇アンペアのバツテリーの価額との差額分も、課税対象の価額に算入すべきであるということができる。
次に、<証拠略>によれば、本件ヨツトは、全てセーリングクルーザーであつて、比較的長期間の航海のためのヨツトであり したがつて、船内には、乗組員が海上で日常生活を送るためのオプシヨン品等が備え付けられる必要があること、バース・クツシヨンは、これを船内のベツドやベンチに敷くことによつて船内における居住性を高めるものであること、そのため、バース・クツシヨンは、通常ヨツトと一体として使用され、かつ、ヨツト本体と一体として取引されるのを通例とするものであることが認められる。そして、バース・クツシヨンは、前記のとおり、船内におけるその敷き場所の形に合わせてカツトされているものであるから、一旦、船内におけるその敷き場所の形に合わせてカツトされ船内に備え付けられたバース・クツシヨンは、当該ヨツト本体に特有なものとなり、当該ヨツトに従たる性質を有するにいたり、したがつて、ヨツト本体の一部となるというべきである。そして、また、ヨツトとしての課税対象の範囲を標準艇の範囲に限ることが相当でないことは前記のとおりであるから、顧客の注文により標準艇のバース・クツシヨンを変更して高級品のバース・クツシヨンを備え付けた場合のその差額部分も、課税対象の価額に算入すべきであるということができる。
以上のとおり右四八品目の本件課税対象オプシヨン品は、その全部が、前記の課税要件を充足しているものということができる。
(六) 次に、原告の反論2(一)の主張について判断する。
<証拠略>によれば、本件課税対象オプシヨン品の外に、別表四課税対象外オプシヨン品一覧表のとおりのオプシヨン品(以下「対象外オプシヨン品」という。)が存在することが認められる。そして、被告係官は、更正処分に先立ち、原告の製造場に赴き、原告が保存していた売買契約書、請求書、見積書等を調査し、そのコピーを持ち帰り、これらを一資料として更正処分及び賦課決定を行つたもので対象外オプシヨン品は、本件各ヨツトに関する請求書に記載されているが、右請求書に記載されているオプシヨン品であつても、必ずしもヨツト本体に艤装されたとは限らない(これらの事実は、<証拠略>により認められる。)から、これらの請求書から直ちに、本件ヨツトに対象外オプシヨン品が艤装されていたということができず、また、仮に、対象外オプシヨン品が本件各ヨツトに艤装されていたことがあつたとしても、これらの請求書の記載から直ちに、被告が対象外オプシヨン品の艤装事実を把握したということもできない。むしろ、被告は、原告の製造場等を調査した結果、本件ヨツトに本件オプシヨン品が確実に艤装されていると把握し、右把握した事実に基づき、かつ、その限度で、更正処分及び賦課決定を行つたものであり、本件ヨツトに対象外オプシヨン品が艤装されていた事実が仮にあつたとしても、右事実を把握したうえ、これらを課税の対象外としたものではなかつたと認められるので、被告が、不明確な基準によつて、オプシヨン品に関する課税の対象範囲を選別したとの原告の主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
(七) 原告は、種々のオプシヨン品のうち、ヨツトの一部として課税の対象となる範囲が原告にとつては明確ではない旨主張する。
<証拠略>によれば、昭和五一年六月一四日付けで、当時ニユージヤパンヨツトセールス株式会社の代表取締役であつた原告代表者は、横須賀税務署から、ヨツト本体にメインセール、ジブ・セール、コンパス、スピードメーター、エンジン、アンカー、マリン・トイレ等の部分品を付加したときは、その部分品も課税の対象となる旨の通知を受けていたことが認められる。そして、<証拠略>によれば、原告は、被告から昭和五二年六月二九日付けで、昭和五二年通告を受けたが、これに先立ち、被告からの調査を受け、オプシヨン品については、前記昭和五一年六月一四日付の横須賀税務署の通知のとおり処理をするように指示を受けたうえ、昭和五二年通告に係るヨツトのオプシヨン品につき、それが本社工場でヨツト本体に付加し、又はヨツト本体とともに移出したものか質問を受けるなどしたことが認められるのであり、これらの事情によれば、原告は、本件処分がある前から、被告らから、オプシヨン品のうち課税の対象範囲を判断するのに必要な一般的基準を指示されていたものであるということができる。そして、右一般的基準の内容は、前記(四)の基準の内容と、ほぼ同一のものと解される。しかも、<証拠略>によれば、原告代表者は、横須賀税務署から、昭和五一年六月一四日付け通知の中で、「物品税の取扱いについて疑問を生じた場合は、当署間税部門にお尋ねください。」といわれていたことが認められるのである。以上の諸事実からすると原告は、本件処分を受ける前から、被告らから、オプシヨン品のうち課税の対象範囲を判断するに要する一般的基準を指示されていたのであるから、原告にとつては、オプシヨン品のうち、ヨツトの一部として課税の対象となる範囲が明確ではなかつたということはできない。しかも、あるオプシヨン品が、課税の対象となるか疑問が生じた場合は、税務署側に尋ねておくことができたのであるから原告は、それによつて、オプシヨン品に対する課税に関して不測の損害を受けることを十分回避することができたというべきである。
(八) さらに、また、原告の反論2(二)について検討する。
昭和五二年通告において、原告が、被告から、石川に移出したエクメ・スポーツ(中型ヨツト)及び内藤に移出したエクメ・ド・メール(中型ヨツト)につき、移出年月日偽記のみを理由として処分を受け、また、品川及び吉野にそれぞれ移出されたバサトーレバカンス(中型ヨツト)、渡辺及び中村にそれぞれ移出されたエクメ・ド・メール(中型ヨツト)につき、過少申告を理由として処分を受けたこと 品川に移出したバサトーレバカンスにコンパス(二個、価額一四万円)、ビルヂポンプ(価額三万五〇〇〇円)、フオールデイングプロペラ(価額七万二〇〇〇円)、バツテリー変更(価額二万四〇〇〇円)及びスプレツダーライト(価額一万二〇〇〇円)が艤装され、そのオプシヨン品合計額は、二八万三〇〇〇円であつたこと、吉野に移出したバサトーレバカンスにバツテリー変更(価額一万七八〇〇円)、船名(価額一万五〇〇〇円)、フオルデイングプロペラ(価額八万円)、ビルヂポンプ(価額三万五〇〇〇円)、フオアデツキ作業灯(価額一万三〇〇〇円)、メインハリヤードウインチ(価額二万一〇〇〇円)、レーシングウエイト(価額五万円)、チンクポンプ(価額一万五〇〇〇円)、ナツシカムクリート差額(価額五〇〇〇円)、YS―8ヨツト用(価額三万円)及びジブシートウインチ(価額三万六〇〇〇円)が艤装され、七万一七四五円の値引がされてそのオプシヨン品合計額が二四万六〇五五円であること、渡辺に移出したエクメ・ド・メールには、コンパス(価額八万円)、スピードメーター(価額六万三〇〇〇円)、マリン・トイレ(価額五万八〇〇〇円)及びハルカラー特別色(価額五万円)が艤装され、八万五六一二円の値引がされてそのオプシヨン品合計額が一六万五三八八円であること、中村に移出したエクメ・ド・メールにコンパス(二個、価額八万円)、ビルヂポンプ(価額三万五〇〇〇円)、スピードメーター(価額五万円)及びライフ・ライン(価額二万円)が艤装され、六万九二〇七円の値引がされてそのオプシヨン品合計額が一一万五七九三円であることは、いずれも当事者間に争いがない。
そして、<証拠略>によれば、右各ヨツトの請求書には、別表六のとおり、右各ヨツトに右に掲げたオプシヨン品以外にも、本件オプシヨン品の一部(以下「当該オプシヨン品」という。)がそれぞれ艤装されたような記載があることが認められるが、しかし、請求書に記載があるからといつてそのオプシヨン品が当該ヨツトに艤装されたものとは必ずしもいえないことは、前記認定のとおりであり、したがつて、右請求書の記載をもつて右各ヨツトに当該オプシヨン品が艤装されたということはできず、また、仮に、当該オプシヨン品が右ヨツトに艤装されていたことがあつたとしても、これらの請求書の記載から直ちに、被告が当該オプシヨン品が右ヨツトに艤装されている事実を把握し、かつ、そのうえで当該オプシヨン品を課税の対象としなかつたということもできない。むしろ、<証拠略>によれば、被告は、昭和五二年通告の際、原告の製造場等を調査した結果、右ヨツトに一定のオプシヨン品が確実に艤装されていると把握し、右把握した事実に基づき、かつ、その限度で、昭和五二年通告を行つたものであり、右ヨツトに当該オプシヨン品が艤装されていた事実が仮にあつたとしても、右事実を把握したうえこれらを課税の対象外としたものではなかつたことが認められるのであり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、昭和五二年通告において、被告が、更正処分に関する基準と異なる基準によつて、オプシヨン品に関する課税の対象の範囲を判断したとする原告の主張は、その前提を欠き、採用できない。
以上のとおり、オプシヨン品に関する課税の対象の範囲を判断する基準は明確であり、また、昭和五二年通告における右判断基準と本件処分における右判断基準との整合性がなく、かつ、時を異にして異なる基準によつて、課税の対象の範囲を判断したということはできないから、更正処分及び賦課決定が、課税要件明確主義に反するということはできず、したがつて、憲法第八四条に違反するものということはできない。
次に、原告は、本件オプシヨン品は、昭和五二年通告で課税の対象とされていたオプシヨン品の範囲を超えている旨主張するが、昭和五二年通告の時と更正処分及び賦課決定の時とで、被告が、オプシヨン品に関し、課税の対象の範囲を異なる基準で判断したわけではないことは前記のとおりであり、また、前記認定事実によれば、昭和五二年通告において課税の対象とされたオプシヨン品以外のオプシヨン品が本件処分において課税の対象とされたのは、更正処分に係る調査によつて、昭和五二年通告に係る調査によるよりも、より多くの、ヨツトの一部として課税の対象となることが認められるオプシヨン品を、把握することができたことによることが認められるのであり、これらの事実関係から、租税立法不遡及の原則に反すると認めることができる事情を窺うことはできない。したがつて、更正処分及び賦課決定が憲法第八四条に違反するという原告の主張は、その前提を欠き、採用できない。
3 以上のとおり、本件ヨツトの物品税の課税対象価額は、それぞれ標準艇の価額と本件課税対象オプシヨン品の価額との合計金額となる。
本件ヨツトの標準艇の価額がそれぞれ別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」欄中の「標準艇」欄記載のとおりであること、原告は、本件課税対象オプシヨン品につき、別表二のIIIの1ないし16「内訳」欄中の「値引」欄記載の金額を値引いていることは当事者間に争いがなく、本件ヨツトの本件オプシヨン品の価額は、同表「内訳」欄記載の各価額であることは、前記のとおりであり、その本件ヨツト毎の本件オプシヨン品の合計額から、右値引額を差し引いた額が同表及び別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」欄中の「その他」欄記載の額となる。
したがつて、本件ヨツトのそれぞれの物品税の課税対象価額は、別表二のIIの1ないし5「課税対象価額」欄の「計」欄記載の金額のとおりとなる。そして、本件各ヨツトの物品税の課税標準額は、被告の主張1、(五)、(六)のとおりである。
以上のとおり、原告の本件課税各月分の課税標準額の合計金額は、被告の更正処分による原告の課税標準額といずれも同額であるから更正処分に、違法な点は存しないといわなければならない。
三 (賦課決定の適法性について)
前記二のとおり、原告は、本件課税各月分の物品税の申告を過少に行つていたことは、明らかであるから、被告は、原告に対し、国税通則法第六五条第一項の規定に基づき、被告の主張2のとおりの賦課決定をしたものであり、したがつて、賦課決定に、違法な点は存しないといわなければならない。
四 よつて、更正処分のうち、別表一の「申告」欄記載の各課税標準額を超える部分及び賦課決定の取消しを求める原告の本件請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 三井哲夫 富越和厚 伊藤茂夫)
別表 <略>