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静岡地方裁判所 昭和59年(行ウ)5号 判決 1991年4月26日

静岡県伊東市湯川一丁目一二番一六号

原告

北沢治雄

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

田中晴男

萩原繁之

静岡県熱海市春日町一丁目一番地

被告

熱海税務署長 小野田公一

右指定代理人

武田みどり

山田昭

永田英男

玉田眞一

望月国雄

遠藤次男

山下純

主文

一  本件各訴えのうち、原告の確定申告に係る総所得金額昭和五三年分一八四万八二四五円、同五四年分三五四万五六六二円及び同五五年分三五七万七一二七円を超えない所得金額の取消を求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して

(一) 昭和五七年三月一三日付けで行った昭和五三年分以後の青色申告の承認の取消処分

(二) 昭和五七年三月一三日付けで行った昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分

は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同じ

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、静岡県伊東市において靴小売商を営むものであるが、昭和五三年分、昭和五四年分及び昭和五五年分の所得税について、確定申告期限までに、青色申告書を提出して、次のとおり申告した。

(一) 昭和五三年分

総所得金額 一八四万八二四五円

内訳 事業所得の金額 三三二万四七一〇円

不動産所得の損失の金額 一四七万六四六五円

還付金の額に相当する税額 二万一〇〇〇円

(二) 昭和五四年分

総所得金額 三五四万五六六二円

内訳 事業所得の金額 二九一万九三九八円

不動産所得金額 六二万六二六四円

納付すべき税額 二二万六七〇〇円

(三) 昭和五五年分

総所得金額 三五七万七一二七円

内訳 事業所得の金額 四七六万七八八二円

不動産所得の損失の金額 一一九万〇七五五円

納付すべき税額 七万七八〇〇円

2  被告は、昭和五七年三月三一日付をもって昭和五三年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分と右各年分について次のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(一) 昭和五三年分

総所得金額   七三一万八三〇二円

内訳 事業所得の金額 八二九万四七六七円

不動産所得の損失の金額 九七万六四六五円

納付すべき税額 一〇六万一九〇〇円

過少申告加算税の額 四万六〇〇〇円

(二) 昭和五四年分

総所得金額 六六三万四六一七円

内訳 事業所得の金額 六〇〇万八三五三円

不動産所得金額 六二万六二六四円

納付すべき税額 八八万一二〇〇円

過少申告加算税の額 一万五五〇〇円

(三) 昭和五五年分

総所得金額 六七六万九五二五円

内訳 事業所得の金額 七九七万四〇二五円

不動産所得の損失の金額 一二〇万四五〇〇円

納付すべき税額 七五万四一〇〇円

過少申告加算税の額 一万四六〇〇円

3  原告は、これら各処分について昭和五七年五月一一日に異議の申立てをしたところ、被告は、昭和五七年八月一一日付でそれぞれ棄却の決定をした。そこで、原告は、昭和五七年九月一〇日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、昭和五九年三月二三日付をもってこれをいずれも棄却する裁決をし、右裁決謄本は、昭和五九年四月一七日原告に送達された。

4  しかしながら、被告のした右青色申告の承認取消決定、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下それぞれ「本件青色申告承認取消決定」、「本件各更正処分」、「本件各賦課決定処分」という。)はいずれも違法であるから、原告は、その取消を求める。

二  本案前の抗弁

1  申告納税制度の下においては、納税義務者の申告によって納税義務が確定し、申告内容の訂正については、他に特段の事情がない限り、修正申告及び更正の請求という手続き以外の方法でこれを主張することは許されないし、また、確定申告に係る所得金額について税務署長による課税処分が存在するわけでもない。

2  したがって、本件原告の昭和五三年分一八四万八二四五円、同五四年分三五四万五六六二円及び同五五年分三五七万七一二七円の確定申告に係る各総所得金額を超えない所得金額の取消しを求める訴えは、いずれも法律上存在しない処分の取消しを求めるものであって不適法として却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は認める。

4  同4は争う。

四  抗弁

被告のなした本件青色申告承認取消決定、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、いずれも適法である。

1  本件青色申告承認取消決定

(一) 所得税法一五〇条二項該当性

本件青色申告承認取消決定の青色申告承認取消通知書には、原告につき所得税法第一五〇条第一項第三号に該当する事実があったとしたうえ、その基因となった事実として、原告の出納帳に記載されている現金残高が現実の現金残高を反映していないと認められること及び現金出納帳に記載されている日々の売上金額の総額の記載を裏付けるレジペーパーの提示がされてないことから、現金出納帳の記載事項全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由があると認められる旨記載されているが、これは、本件青色申告承認取消処分の基因となった事実を相手方たる原告が具体的に知り得る程度に特定して摘示したものであるから、その記載は理由の附記として充分なものであって、この点において、本件青色申告承認取消処分は、適法であるというべきである。

(二) 所得税法一五〇条一項の要件該当性

原告の現金出納帳には、妻の旧姓名義の預金通帳に対してなされた取引上の小切手入金の記載がない等事実と相違する内容の取引が記載され、かつ、現金の出納が日々個別具体的に記載されることなく、月末に一括して記載されており、現金出納帳に記載された現金残高が毎日の現金有高を反映していないことが明らかであって、原告の帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるというべく、同法一五〇条一項三号に該当する事実があるから、本件青色申告承認取消処分は、適法であるというべきである。

(三) 税務調査の適法性

被告のした税務調査は、適法なものであるから、それに基づく本件各更正処分も適法である。即ち、所得税法二三四条一項は、税務署の職員が所得税に関する調査について必要があるときのいわゆる質問検査権を定めているが、この権限は、適正な所得税の申告を担保し、課税の公平適正な運用を図るためその行使が必要である場合においては、常になし得るものであるうえ、その権限の行使にあたっては、直接調査ないし反面調査によるか否かという点も含め、その実施の細目については社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務署職員の合理的な判断に委ねられているというべきところ、本件における税務調査は、反面調査をも含め、社会通念上相当の限度内のものであったのであるから、適法である。

(四) 他事考慮の有無

本件青色申告承認取消決定は、民主商工会(以下「民商」という。)の構成員である原告に対する不当な差別に基づくものではなく、また、原告が修正申告に応じないことに対する報復措置でもない。

また、課税処分における課税の多寡が争われている事件においては、他事考慮の有無は、課税処分の違法性には関係しないというべきである。

2  本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の適法性

(一) 本件青色申告承認取消決定は、いすれも適法であることは、前記1(一)ないし(四)のとおりである。

(二) 被告の行った本件青色申告承認取消処分は、昭和五八年三月一三日に、本件各更正処分は、昭和五八年三月一五日に、それぞれ原告に送達されたところ、課税処分は、送達されて始めて成立し効力を生じると解すべきであるから、本件各更正処分は、本件青色申告承認取消処分の後に、それを前提としてなされたものと解すべきである。

(三)(1) 前記1(二)の事情より、原告の事業所得の金額の実額を把握することは不可能であった。

(2) そこで、被告は、原告の本件係争各年分の各不動産所得の金額の実額と事業所得の金額についての推定額を合計して、各年度につき原告主張のような更正処分をした。

その計算方法は、以下のとおりである。

<1> 本件係争各年分の各総所得金額とその内訳

昭和五三年分

総所得金額 七六五万六一八三円

(内訳)

不動産所得の金額 △ 九七万六四六五円

事業所得の金額 八六三万二六四八円

昭和五四年分

総所得金額 七一三万八九八五円

(内訳)

不動産所得の金額 六二万六二六四円

事業所得の金額 六五一万二七二一円

昭和五五年分

総所得金額 八四一万二三三六円

(内訳)

不動産所得の金額 △ 六六万九六五二円

事業所得の金額 九〇八万一九八八円

<2> 本件係争各年分の各不動産所得の金額とその算出根拠

原告の本件係争各年分における不動産所得の金額及びその算出根拠は、次の表に掲げるとおりである。

<省略>

<3> 本件係争各年分の各事業所得の金額とその算出根拠

原告の本件係争各年分における事業所得の金額は、前述したとおり推計によってこれを求めたものであり、その計算過程は以下に述べるとおりである。

ア 総収入金額(売上金額)

原告の本件係争各年分の各事業所得に係る総収入金額(売上金額)については、前述したとおり、これを実額で把握することができず、他方、同各事業所得に係る売上原価については、後記で述べるとおり、被告の調査によりその実額を把握し得た。

そこで被告は、同各事業所得に係る総収入金額を、後記の同各事業所得に係る売上原価を基礎として、これに売上原価率(別紙「同業者の抽出基準」により抽出した者(以下「同業者」という。)の売上原価の額を売上金額で除して得た割合の平均値をいう。以下「原価率」という。)を適用して、次の算式により算出した。

なお、原価率は、別表(一)のとおり算出したものである。

(算式)

売上原告 ÷ 原価率 = 総収入金額

a 昭和五三年分 六一〇九万八〇三二円

四四〇九万三六一七円÷七二・三七%=六〇九二万八〇三二円

なお、原告は、昭和五二年分において価格変動準備金一七万円を必要経費に算入している(租税特別措置法一九条一項)ので、昭和五三年分の総収入金額は、右算式による金額に価格変動準備金の繰戻額一七万円を加算した六一〇九万八〇三二円となる(同条二項)。

b 昭和五四年分 五七一三万六六二四円

四一八九万八二九七円÷七三・三三%=五七一三万六六二四円

c 昭和五五年分 六八三四万四五八二円

四八五九万二九九八円÷七一・一〇%=六八三四万四五八二円

イ 売上原価

原告の本件係争各年分における売上原価の額は、被告が原告の仕入先に対する反面調査等を実施した結果に基づき、次のとおりその実額を把握したものであり、各仕入先毎の各年分の売上原価の額は別表(二)に掲記したとおりである。

a 昭和五三年分 四四〇九万三六一七円

b 昭和五四年分 四一八九万八二八七円

c 昭和五五年分 四八五九万二九九八円

ウ 売上差益

売上差益は、事業所得に係る総収入金額から売上原価の額を差し引いた残額で、前述のア及びイの金額から、次のとおり算出したものである。

(算式)

総収入金額 - 売上原価 = 売上差益

a 昭和五三年分 一七〇〇万四四一五円

六一〇九万八〇三二円-四四〇九万三六一七円=一七〇〇万四四一五円

b 昭和五四年分 一五二三万八三三七円

五七一三万六六二四円-四一八九万八二八七円=一五二三万八三三七円

c 昭和五五年分 一五二三万八三三七円

六八三四万四五八二円-四八五九万二九九八円=一九七五万一五八四円

エ 一般経費についても、前述と同様の事情により、これを実額で把握することができなかったため、同業者の一般経費率(各年毎同業者の一般経費の額を総収入金額で除して得た割合の平均値をいう。)を別表(一)のとおり算出し、これを原告の一般経費率と認め、前述の総収入金額(昭和五三年分については、価格変動準備金の繰戻額を加算する前の金額)に乗じて、原告の一般経費の額を次のとおり算出したものである。

(算式)

総収入金額 × 一般経費率 = 一般経費の額

a 昭和五三年分 五一六万六六九七円

六〇九二万八〇三二円×八・四八%= 五一六万六六九七円

b 昭和五四年分 五一四万二二九六円

五七一三万六六二四円×九・〇〇%= 五一四万二二九六円

c 昭和五五年分 六七〇万四六〇三円

六八三四万四五八二円×九・八一%= 六七〇万四六〇三円

オ 算出所得

算出所得は、売上差益から一般経費を差し引いた残額で、前述のウ及びエから、次のとおり算出したものである。

(算式)

売上差益 - 一般経費 = 算出所得

a 昭和五三年分 一一八三万七七一八円

一七〇〇万四四一五円-五一六万六六九七円= 一一八三万七七一八円

b 昭和五四年分 一〇〇九万六〇四一円

一五二三万八三三七円-五一四万二二九六円= 一〇〇九万六〇四一円

c 昭和五五年分 一三〇四万六九八一円

一九七五万一五八四円-六七〇万四六〇三円= 一三〇四万六九八一円

カ 特別経費の金額

特別経費の金額及びその内訳は、次の表に掲げるとおりである。

<省略>

キ 事業専従者控除 四〇万円

原告の妻君代は、原告の事業に従事していた者で、所得税法五七条三項所定の「事業専従者」であると認められるため、各年分の事業所得の金額の計算につき、同人に係る事業専従者控除として四〇万円を必要経費と認めたものである。

ク 事業所得の金額

事業所得の金額は、算出所得から特別経費及び事業専従者控除額を差し引いた残額で、次のとおり算出したものである。

(算式)

算出所得 - 特別経費 - 事業専従者控除額 = 事業所得の金額

a 昭和五三年分 八六三万二六四八円

一一八三万七七一八円-二八〇万五〇七〇-四〇万〇〇〇〇円=八六三万二六四八円

b 昭和五四年分 六五四万六七一四円

一〇〇九万六〇四一円-三一八万三三二〇-四〇万〇〇〇〇円=六五一万二七二一円

c 昭和五五年分 九〇八万一九八八円

一三〇四万六九八一円-三五六万四九九三-四〇万〇〇〇〇円=九〇八万一九八八円

なお、前述のアないしクによる、各年分の事業所得の金額の算出過程については、別表(三)に掲記したとおりである。

(3) 右推計方法は、合理性がある。

被告は、原告の類似業者を選定するにあたり、選定の範囲を原告居住地を所轄する熱海税務署管内及び隣接署である下田税務署、沼津税務署及び三島税務署の各管内に限定した上、本件係争各年分について、売上原価を原告の売上原価の二分の一を超え二倍以下との選定基準を採用するとともに、資料としての信頼性を確保するため、前掲の一定の条件を付した。また、その選定は無作為であり、選定された件数は七件であるから、同業者間に通常生じうる程度の営業上の個別的な差異による影響は平均化され、その推計の結果は、充分近似的な数字を示し得ている。

(4) そして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分は、右推計による事業所得額と不動産所得の実額の合計額を超えない所得を前提とするものであるから、適法である。

五  抗弁に対する認否・反論

1(一)  抗弁1(一)については、被告が青色申告承認取消通知書にその主張するような取消事由を記載した事実は認めるが、その余は争う。

被告の主張する記載は、理由の附記として不十分であるから、そのような記載しかない青色申告承認取消処分は、違法である。

(二)  抗弁1(二)の事実のうち、被告主張の妻名義の小切手入金があったこと、現金出納帳には、現金の出納が日々個別具体的に記載されることなく、月末に一括して記載されていたことは認めるが、その余は否認する。

被告主張の妻名義の預金通帳への取引上の小切手入金の記載がない点については、右入金は、原告が妻に対し専従者給与ないし生活費を渡したものであって、それを、帳面上は、商品を売った際に、日々のレジペーパーに売り上げを記載し、他の売り上げと右売り上げを合計して、月末に現金出納帳に記載し、一方、専従者給与等もまとめて支払った形式で処理したもので、帳面上売り上げ漏れはない。また、現金出納帳に、日々の記載がない点についても、レジペーパーに日々の売り上げの記載があり、その記載が現金出納帳の記載と一致している。したがって、この程度の記載の簡易化は、我が国の青色申告者一般の水準からして問題はなく、これらの事実からしても、現金出納帳の記載が真実に反するものとはいえない。

また、仮に、被告主張の事実がすべて真実であっても、軽微な問題であるから、現金出納帳の記載が真実に反するものであるとはいえない。

(三)  抗弁1(三)の事実は否認し、主張は争う。

被告の税務調査は、違法であって、このように違法な税務調査によってなされた本件各更正処分及び本件各賦課決定処分も違法である。

税務調査は、客観的必要性のある場合にのみ行われるべきものであるところ、被告のした税務調査は、その必要性がないのに行われたものであるから、違法である。特に、反面調査は、納税者本人の調査によっても不明な点がある場合に始めて行われるべきものであるところ、本件では、反面調査は、原告に対する調査に並行しておこなわれているから、この点からも違法である。

税務調査の過程で、被告の担当官は、原告に対し、前記妻名義預金を簿外資金ではないとして事業所得上不問に付すと虚偽の質実を申し向け、真実は妻名義の預金には生活費も含まれているのに、専従者給与のみしか含まれていない旨の書面を作成させたものであるから、このような、不相当な方法でなされた税務調査は、違法である。

(四)  抗弁1(四)の事実のうち、原告が民商の一員であることは認め、その余は否認し、その主張は争う。

本件青色申告承認取消決定は、民商の構成員である原告を差別し、かつ民商を破壊する目的のためにされたものであるから、憲法一四条、二一条に違反する違法なものである。

また、本件青色申告承認取消決定は、修正申告に応じなかった原告に対する報復措置であるから違法である。

2(一)  抗弁2(一)は争う。

(二)  抗弁2(二)のうち、本件各更正処分と本件青色申告承認取消処分が同日付けでなされていることは認め、その余は否認し、その主張部分は争う。

(三)(1)  抗弁2(三)(1)は争う。

原告の課税実額は、各年とも原告提出の青色申告書の通りであり、それによって、被告は、原告の所得を正確に把握することができるのであるから、推計課税をする必要性はない。

また、仮に、被告の主張するとおり、妻名義の預金通帳への入金が簿外収入であったとしても、それらを上乗せすることで事業収入の実額を把握すれば足り、推計課税する必要性はなかった。

(2)<1> 抗弁2(三)(2)<1>のうち、昭和五三年分及び同五四年分の不動産所得額は認め、その余は否認する。

<2> 同<2>のうち、昭和五三年分及び同五四年分の記載についてはすべて認める。同五五年分の記載については必要経費の部分は認め、その余は否認する。同五五年分の不動産総収入は三九万九〇〇〇円、不動産損失は一一一万六一五二円である。

<3>ア 同<3>アの売り上げ金額は各年とも争う。

但し、昭和五三年分の価格変動準備金と繰戻額が一七万円であることは認める。

イ 同イの売り上げ原価のうち、昭和五五年分の仕入金額、同五三年分の仕入金額のうち、合計額及び川崎商事、共和産業、スタンダード靴、柳原商事からの仕入金額を除いた各仕入金額を認め、同五四年分の仕入金額のうち、合計額及び田辺商事からの仕入金額を除いた仕入金額を認め、その余の仕入金額は否認する。

昭和五三年分の右否認した仕入金額は、川崎商事が一四〇二万七五五七円、共和産業が一一六万〇六六〇円、スタンダード靴が一三五万四五三〇円、柳原商事が一〇四万八七五〇円、合計額が、四四三七万八三四七円である。

昭和五四年分の右否認した仕入金額は、田辺商事からの仕入額が、六六万五九一〇円、合計額が、四一八五万七四八七円である。

ウ 同ウの売上差益は各年とも争う。

エ 同エの一般経費は争う。

一般経費の実額把握は可能であり、現に、原処分庁及び異議審理庁でも争いがなかった。

オ 同オの所得額は争う。

カ 同カの特別経費のうち、減価償却費を除く各年の数額については認め、その余は否認する。

減価償却費は、昭和五三年分及び同五四年分が各五六万二四〇八円、同五五年分が五三万六〇五七円である。

キ 同キは本件青色申告承認取消処分が取り消されるべきであるから争う。

ク 同クの事業所得の金額は、各年とも争う。

(3) 抗弁2(三)(3)は争う。

推計の方法としては、種々のものがあるところ、被告側で、その採用した推計方法が最適であることを立証しない以上、その推計方法が合理的であるとはいえず、本件では、その立証がないので、被告の採用した推計方法が合理的であるとは認められない。

仮に、被告の採用した同業者の平均利益率による比率法が合理的であるとしても、被告が同業者とするものの氏名、住所、業態、業歴、規模、立地条件、取扱品目、販売方法、従業員の数、売り上げ金額、売り上げ原価等が特定していないので、原告の業態等と比較ができず、それらの利益率の平均が原告の利益率であると推認する基礎に欠けることになるから、被告の推計には、合理性がない。

また、被告は、推計課税に利用した同業者の青色申告書の写しの提出さえ拒んでいるので、被告の主張する同業者の存在さえ疑わしい。

その上、被告は、本件各更正決定について、異議審理ないし本訴において、色々な同業者をとり、異なった額の推計をなしており、この事実からも、被告の推計に合理性がないことが明らかである。

(4) 抗弁2(三)(4)は争う。

六  再抗弁

原告の係争各年の所得額は、以下に記載するとおりである。

1  昭和五三年分

総所得額 一八四万七五九五円

内訳 事業所得額 二八二万四〇六〇円

(事業所得金から青色申告控除金一〇万円を差し引いた額)

不動産所得損失の額 九七万六四五六円

2  昭和五四年分

総所得額 三九〇万一七七二円

内訳 事業所得額 三二七万五五〇八円

不動産所得の額 六二万六二六四円

3  昭和五五年分

総所得額 三二三万五七九二円

内訳 事業所得額 四三五万一九三一円

不動産所得損失の額 一一一万六一五二円

七  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1のうち、不動産所得損失の額は認め、その余は争う。

2  同2のうち、不動産所得損失の額は認め、その余は争う。

3  同3は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中、書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本案前の抗弁について

納税者が確定申告書を提出すれば、原則として、それによって納税義務が確定するものであり、例外的に申告書の記載の無効を主張しうる場合以外は、更正の請求という手続によってのみ、その金額の減額変更を求め得るにすぎないのであるから、その手続を経ないで、申告額を超えない部分の取消を求めることはできないというべきであって、本件各訴えのうち、原告の各年度の確定申告に係る総所得金額を超えない所得金額の取消を求める請求に係る訴えは、不適法として却下されるべきである。

二  請求原因1ないし3については、当事者間に争いがない。

したがって、以下、本件青色申告承認取消処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の適法性について判断する。

三  本件青色申告承認取消処分の適法性について

1  理由附記の点について

本件青色申告承認取消処分についての青色申告取消通知書には、所得税法第一五〇第一項第三号に該当する事実があったとしたうえ、その基因となった事実として、原告の出納帳に記載されている現金残高が現実の現金残高を反映していないと認められること及び現金出納長に記載されている日々の売上金額の総額の記載を裏付けるレジペーパーの提示がなされてないことから、現金出納帳の記載事項全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由があると認められる旨の記載があることについては、いずれも当事者間に争いがない。

そして、青色申告承認取消通知書にその取消しの処分の基因となった事実を記載することを要求した所得税法一五〇条の趣旨は、右取消し処分の基因たる事実を相手方に知らせ、その者に対し不服申立てに便宜を与えることにあるところ、右記載は、相手方である原告が右取消処分の基因たる事実を知り、右取消処分に対し不服申立てをすることができる程度に具体的に特定して摘示したものといえるから、理由の附記として充分なものであって、この点については、本件青色申告承認取消処分は、適法であると解するのが相当である。

2  税務調査の違法の点について

(一)  証人富岡幸子の証言によって真正に成立したと認められる甲第一六号証の一、二、証人和田広、証人北沢君代及び証人富岡幸子の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 和田広(以下「和田」という。)は、昭和五三年七月から同五七年七月まで熱海税務署に勤務し、所得税の調査事務を担当していたが、昭和五六年八月二〇日以降、その上司である統括官徳浜の指示により、原告の税務調査に携わった。

徳浜が、原告を税務調査の対象としたのは、原告の本件係争各年分の利益率が、同業者に比して低いこと及び昭和五三年分の不動産収入の貸し倒れが二〇〇万円あったところから、申告内容の確認と申告に係る所得金額の適否について調査する必要があると判断したからである。

(2) 和田は、昭和五六年八月二〇日、事前の通知なしに、原告店舗を訪れ、原告に対し所得税の調査のために来訪した旨告げ、調査協力を依頼したが、原告から、突然の税務調査であるので準備もなく、仕事の都合もあって調査に協力できないので、後日来て欲しい旨言われたため、その日の調査を断念した。

(3) 和田は、その後、二、三回、事前の約束をしないで、原告店舗を訪れて、原告に調査協力を求めたが、同様の理由で拒否されたので、原告の都合のよい日の連絡を求めたところ、原告は、同年一一月一九日に調査を受ける旨連絡してきた。

(4) そこで、和田は、右同日、原告店舗を訪れたところ、原告が、その調査に、原告の帳簿の記載を担当したと称する民商の事務局員の富岡幸子(以下「富岡」という。)及び数名の民商会員の立ち会いを求めたので、止むなく、調査の妨害をしないように協力を求めたうえ、同人らの立ち会いを認め、調査に入った。

和田は、同日、約二時間、原告から提示を受けた総勘定元帳と金銭出納帳等により原告の売上げ及び仕入れの各取引金額などの調査をしたが、その際、原告及び富岡らが、右調査を妨害したことはなく、原告は、和田の求めた資料をすべて提示した。

(5) 同年一一月二六日、和田は、前同様の調査を行ったが、その間、原告に告げずに、銀行等に反面調査を行い、石井君代名義の預金及びその預金口座によって、原告が取引先から受領したと認められる小切手が取り立てられていることを発見した。

(6) 和田は、同年一二月二二日及びその後、数回原告店舗を訪問し、原告に対し石井君代名義の預金について尋ねたところ、原告から、右預金口座が、石井君代名義であるのは、原告の妻の旧姓のままにしてきたものであって、右預金口座への小切手入金は、原告が受取り小切手を専従者給与等として妻に支払ったものを妻が取り立てたものであって、小切手による右収入は、原告の現金出納帳には、すでに、小切手を受取った際に現金入金として記載されている旨説明した。

そこで、和田は、石井君代名義の預金について、署内で検討したうえ、翌五七年二月二四日及び三月三日、原告店舗を訪れ、現金出納帳を調査したが、小切手による入金があったか否かについては不明であった。

(7) 和田及び同僚の渡辺調査官は、同年三月八日、原告店舗を訪れ、原告に対し、石井君代名義の預金口座への小切手入金について上司に報告するためであると説明して、渡辺が起案した石井君代名義の普通預金への小切手入金は、専従者給与の支払のため入金したものである旨の質問顛末書に署名、押印を求め、原告から署名、押印を得たが、原告は、右顛末書に署名、押印することによって、石井君代名義の預金口座への小切手入金は専従者給与の支払いとして認められ、自己の申告額が確定すると期待していたし、専従者給与と生活費の区別に思いがいたらなかったことから、内容を子細に検討せず、生活費の記載がないことについて特に異議を述べることなく、右質問顛末書に署名、押印をした。

(8) 和田は、同年三月九日、原告店舗を訪れ、原告に対し、これまで調査した内容を説明して修正申告をするよう勧奨するとともに、同月一一日には、実額による所得認定を前提とし、具体的な計算方法を挙げて、本件係争各年合計で約五〇〇万円程加算した額で修正申告をするよう勧奨したが、その場合では、原告の同意を得ることができなかったので、翌一二日、原告に電話をかけ、重ねて修正申告するように勧奨したが、原告は、それに応じなかった。

(9) そこで、被告は、本件青色申告承認の取消処分、本件各更正処分並びに本件各賦課決定処分をするに至った。

(二)  以上認定の事実からすると、和田らは、原告に対して事前の通知なしに臨戸して税務調査に臨んでいるうえ、質問顛末書作成の際、原告に対し、その書面の趣旨が原告の主張を認めるものではないことを明示的に説明しないで署名、押印を求め、また、修正申告勧奨の際、原告に修正申告の理由、内容、課税標準、税額等を具体的に示してその理解を得るための努力に欠けていたというべく、これらの点は、税務署職員の納税者に対する対応としてはやや配慮を欠くものであるといわさるを得ないが、それらの点だけでは、税務調査を違法とする事由とはなり得ず、また、反面調査について、原告の承諾を得ず、原告本人の調査と並行して行っている点についても、税務署職員の裁量の範囲内のものというべく、他に、右一連の税務調査が違法であることを窺わせる事実はない。

3  帳簿書類の記載の真実性の点について

(一)  前記認定の事実に、前記甲第一六号証の一、二、成立に争いのない甲第一号証、甲第六ないし第九号証、乙第一二号証、原告が署名したから真正に成立したと推認される乙第七号証、原告本人尋問の結果によって真正に成立したと認められる甲第一三号証、証人北沢君代の証言によって真正に成立したと認められる乙第六号証、証人富岡幸子、証人北沢君代(但し、後記措信しない部分を除く。)、証人和田広及び証人小原彦之の各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(1) 帳簿の記載状況

本件係争各年の原告の現金出納帳の記載においては、現金有高と帳簿上の現金残高の照合がされた形跡はなく、日々の売上については、合計額で記載されており、数日まとめて、売上が記載されている月もあり、売上・経費とも、記載の日が前後している部分も少なくない。

原告の帳簿の記載については、その妻君代が一切を担当していたが、同女は、本件係争各年当時、大動脈閉鎖不全を患っており、体調が悪く、他に、家事及び店舗での客への応対も担当していないため、帳簿を毎日記載するこはできず、数日間まとめて一括記載することもあり、原告の支払った仕入先への伝票類についても、原告自身が帳簿に記載しないこともあって、数日後に君代がみつけた後に記帳することもあった。

君代は、本件係争各年において、現金出納帳上の現金残高と、手持現金有高の照合をほとんど行っていなかった。

また、日々の個々の売上を記載した資料については、原処分の調査当時も保存されていなかった。

(2) 小切手の扱い

売上代金として受領した小切手は、帳簿上、特に小切手収入があった旨の記載はなかった。また、その取立は、石井君代名義預金に入金する形で処理していたが、右入金のあった日に、現金出納帳の該当日付欄に小切手を取立てたことによって入金した旨記載する方法もとっていない。

原告は、調査当時から、右小切手収入は、現金出納帳上、日々の現金売上代金中に含めて記載されている旨主張していたものの、それを証する資料として提出したものは、日毎の売上合計額を記載したレジペーパーのみであって、その記載からは、原告の主張を正当と認めることはできなかった。

原告は、原処分調査当時から、和田らに、石井君代名義で小切手の取立をさせるのは、妻に対する専従者給与の支払ないし生活費の支払である旨説明しているが、例えば二月四日振出し、二月一七日入金小切手のように、現金出納帳には、小切手振出日から小切手入金日の間に、専従者給与ないし生活費の支払をなした旨の記載がない場合が多々あり、昭和五三年五月には、帳簿上一か月分として支払った生活費及び専従者給与の合計額一〇万円を超える一三万三九四〇円が、石井君代名義の預金口座で小切手の取立てがなされていた。

また、原告は、国税不服審判の手続当時から、取立債権と帳簿上の支払額については、月毎に精算し、帳簿と現実の金員の授受を一致させている旨主張しているが、それ以降どの段階においても、清算の具体的方法や額を明らかにする資料を一切提出していない。

なお、証人北沢君代の証言及び原告本人尋問の結果中には、金銭出納帳については、日々、現金有高と帳簿上の現金残高を照合していたとする部分もあるが、同証人及び原告本人らの右供述は、反対尋問の過程において種々変遷し、首尾一貫しないものであるから(原告は、その本人尋問において、日々の残高確認は記載されている部分以外は照合しておらず、記帳されている部分についても、大体やるだけで、月末に一括して精算する旨述べている部分さえある。)、たやすく措信できず、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  以上認定の事実からすると、原告の金銭出納帳では、日々の現金有高と帳簿上の現金残高が一致していたとは到底いいがたく、帳簿上、総額で記載されている日々の売上高を裏付けるに足る充分な資料もないうえ、原告の主張する月毎の清算が正確に行われたことを担保とする資料もまったくないので(かえって、記帳に従事した君代は、その証人としての証言において、清算は、翌月になったこともあり、時によって清算処理の方法は異なったと供述している。)、現金出納帳の記載事項全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由があると認められる。

4  他事考慮の点について

原告が民商の一員であることについては当事者間に争いがないが、本件青色申告承認取消し決定が、民商の構成員に対する差別かつ民商を破壊する目的のものであると窺わせる事実は認められない。

また、前記のように、原告に対し修正申告を勧奨した際に被告の側に原告の理解を得るための努力が欠けている点があったことは否めないが、それによっても、本件青色申告承認取消決定が、修正申告に応じなかった原告に対する報復措置であると認めることはできない。

5  したがって、本件青色申告承認取消処分は、適法であって、取消すべき事情は存しない。

四  本件各更正処分及び重加算税賦課決定処分の適法性について

1  本件青色申告取消処分適法性について

本件青色申告取消処分は、適法であることは、前判示のとおりである。

2  本件青色申告取消処分と本件各更正処分の関係

本件青色申告承認取消処分及び本件各更正処分が昭和五八年三月一三日付けでなされていることについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一三、第一四号証によると、前者については、同日に送達されており、後者については同月一五日に送達されていることが認められる。右事実に照らせば、本件各更正処分決定は、本件青色申告承認取消処分と同日付でなされているとはいえ、同取消処分を前提としてなされていると容易に推認し得るところであるから、この点について、違法はない。

3  原告の本件係争各年度の所得額について

(一)  不動産所得について

(1) 昭和五三年分の不動産所得の金額が九七万六四六五円の所得損失であること及び同五四年分の不動産所得の金額が六二万六二六四円であることについては、当事者間に争いがない。

(2) 昭和五五年分の不動産所得については、必要経費が一五一万五一五二円であることについては、当事者間に争いがない。

総収入については、被告は、原告の主張額をこえる八四万五五〇〇円と主張するので判断するに、成立に争いのない甲第九号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和五五年当時伊東市猪戸にアパートを所有し、これを賃貸に供していたことが認められ、右甲第九号証によれば、被告の主張する賃料が原告に対し支払われた旨の記載があるが、これは、原告の異議申立に対する被告の判断を示す異議の決定書にすぎず、その判断の根拠となるべき資料がなく、その信用性に疑問があること、右各証拠によれば、原告は、同年一一月ごろ、一二四〇万七六七〇円かけて右アパートの改築をしたこと、原告本人尋問によれば、原告は、右アパートの改築のため、賃借人に建物を明け渡してもらう必要が生じたので、同年、住人から一定期間賃料を受け取らなかったことが窺われること、などに照らすと、前記甲第九号証の記載は、にわかに採用できず、他に被告の主張を認定するに足る証拠はない。よって、原告の認める部分を超える不動産収入を認めることはできない。

したがって、昭和五五年の不動産所得は、原告の主張するとおり、一一一万六一五二円の所得損失であると認めるのが相当である。

(二)  事業所得について

(1) 推計課税の必要性

前記のように、原告の現金出納帳には、その記載全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるから、そのような帳簿で事業所得実額を認定することはできず、前記認定の税務調査の経緯に照らすと、税務署の職員の適正な調査によっても、他に、本件係争各年度の事業所得を実額によって認定するに足りる資料は収集できなかったものというべく、原告の事業所得について、推計課税をする必要性があるといわざるを得ない。

(2) 推計課税の合理性について

<1> 実額把握できる範囲について

ア 売上原価について

抗弁2(三)(2)<3>イの売上原価のうち、昭和五五年分の仕入金額、同五三年分の売上原価中合計額並びに川崎商事、共和産業、スタンダード靴及び柳原商事からの各売上原価を除いた売上原価、同五四年分の売上原価のうち、合計額及び田辺商事からの売上原価を除いた売上原価については、当事者間に争いがない。

a 昭和五三年分の売上原価について

その形式及び趣旨から公務員が作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第一号証の一、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる乙第一号証の二によると、昭和五三年分の川崎商事からの売上原価(関連会社フオーカスも含む。)は、一三九四万五四二七円あると認められ、その形式及び趣旨から公務員が作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第二号証の一、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる乙第二号証の二によると、昭和五三年分の共和産業からの売上原価は、一一五万九四六〇円であると認められ、その形式及び趣旨から公務員が作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第三号証の一、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる乙第三号証の二によると、昭和五三年分のスタンダード靴からの売上原価は、一一六万二八三〇円であると認められ、昭和五三年分の柳原商事からの売上原価は、その形式及び趣旨から公務員が作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第四号証の一、弁論の全趣旨から真正に成立したと認められる乙第四号証の二によると一〇三万九〇五〇円であると認められ、右各認定に反する原告本人尋問の結果は、にわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

したがって、昭和五三年分の売上原価は、被告の主張の四四〇九万三六一七円となる。

b 昭和五四年分の売上原価について

その形式及び趣旨から公務員が作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第五号証の一、証人宮嶋洋治の証言によって真正に成立したと認められる乙第五号証の二によると、昭和五四年分の田辺商事からの売上原価は、七〇万六七一〇円であると認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は、たやすく措信し難く、他に、右認定を覆すに足る証拠はない。

したがって、昭和五四年分の売上原価の合計は、四一八九万八二八七円となる。

c 前記のように、昭和五五年の売上原価は、四八五九万二九九八円である。

イ 特別経費について

抗弁2(三)(2)<3>カの特別経費のうち、減価償却費を除き、各年とも争いはない。

減価償却費については、前記乙第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、各年とも、一七万六一五七円であると認めることができ、右認定に反する証拠はない。

したがって、原告の特別経費は、昭和五三年分が二八〇万五〇七〇円、翌五四年分が三一八万三三二〇円、翌五五年分が三五六万四九九二円であると認めることができる。

ウ 一般経費について

原告は、一般経費についても実額認定ができる旨主張するが、前記のように、金銭出納帳の記載には信用性がなく、前記認定の税務調査の経緯に照らすと、右税務調査によっても、他に、本件係争各年度の事業所得を実額によって認定するに足りる資料は収集できなかったものというべく、この部分について実額認定することはできなかったといえるから、推計の必要があるといわざるを得ない。

<2> 推計の方法の合理性について

被告は、抗弁<3>記載のとおり、前記の売上原価を実額で把握した上、同業者の平均原価率を用いて総収入額を推認し、一般経費についても、同業者の平均経費率を用いて推認したうえ、特別経費については、実額で認定し、それらを総合して本件各係争年度の原告の所得を推認するものである。

まず、被告が、比率法を採用した点については、仕入実額が判明している場合の総収入の推計方式のうち、比率法が最も妥当であることは公知の事実であるから、被告がこの方法を採用するについて、他の推計方式に比し適切であることを立証する必要はないと解すべきである。

次に、被告の同業者比率の算定方法に合理性があるかについては、その方式及び趣旨から公務員が職務上作成したと認められるので真正に成立したと推認すべき乙第八号証の一ないし四、第九号証の一ないし四の各一ないし三及び証人宮嶋洋治の証言によれば、名古屋国税局長が、熱海税務署及びその隣接署である三島、沼津、各税務署の各署長に対し、通達によって、(a)昭和五三年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間において、くつ小売業を継続して営んでいる者で、その期間の中途において、開廃業、休業又は業態を変更した者及び更正処分及び決定処分が行われたもののうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の者を除いた者、(b)係争各年の売上原価が、原告の前記認定売上原価の半分を超え、その二倍以下である者、(c)係争各年分のくつの売上原価の額が売上原価の額の過半数を占める者という条件を満たす者の売上金額、売上原価、売上原価率、売上差益、一般経費、一般経費率、算出所得売上原価に占めるくつの割合等について報告を求め、各署の職員がその抽出にあたり、各署長は右条件を満たすものとして別表(一)記載の合計七件の報告をし、(以下「通達方式」という。)、次に、被告において、その七件の所得率の平均として昭和五三年分七二・三七パーセント、昭和五四年分七三・三三パーセント、昭和五五年分七一・一〇パーセントを算出し、本件で主張する同業者比率としたうえ、経費率についても同様な方法で、昭和五三年分八・四八パーセント、翌五四年分九・〇〇パーセント、翌五五年分九・八一パーセントとし、所得額を算出したことが認められる。

そして、証人宮嶋洋治の証言によると、右通達方式による同業者の抽出は、同業者の抽出が公務員の日常の反復継続して行われる仕事の一環としてなされるものであって、その全体に関与する人間は複数であるから作為の介入するおそれは低いものであることが認められるので、被告主張の同業者が存在し、通達に記載された条件を正確に満たす各業者が抽出されているものと認めることができる。また、通達に記載された右記(a)、(c)によって、正確な所得申告をなしたこと及び同業を営むことが、右記(b)によって、ほぼ原告と同規模の営業を営むという各条件を満たしている同業者が抽出されていることが、調査対象を熱海税務署及びその隣接署に限ったことによって、原告の近隣地域での営業者に限ったものと認められる。また、抽出された業者は七件であるので、通常予想される特徴は平準化されていると解されるのであるから、それらの同業者が原告と営業形態等が類似していることについてまで立証しなくとも、原告は特殊な営業形態であって一般の同業者に比し所得率が低いと窺わせるような特段の事情の立証のない本件においては、原告の所得率、経費率を推認するのに適切であるといえる。

(3) 専従者給与について

これについては、弁論の全趣旨によると本件各係争年度とも金四〇万円であると推認でき、右認定に反する甲第一号証及び甲第五号証の一、二は、前記のように信用できない。

(4) 認定事業所得額について

以上の事実及び昭和五三年分については、昭和五二年分の価格変動準備金一七万円を必要経費に算入していることに争いはないので、昭和五三年分については、その繰戻額一七万円を収入に加算すべきであることからすると、本件係争各年度の原告の所得額は、以下のとおりの方式で算定するのが相当である。

売上原価÷同業者平均原価率(なお、昭和五三年分については、繰延額一七万円を加える。)=総収入額

総収入額(昭和五三年分については、繰り戻し額一七万円を加える前のもの)×同業者平均経費率=一般経費

総収入額-売上原価-一般経費-特別経費-専従者給与=事業所得金額

<1> 昭和五三年分 八六三万二六四八円

四四〇九万三六一七円÷〇・七二三七+一七万円=六〇九二万八〇三二円+一七万円=六一〇九万八〇三二円(総収入額)

六〇九二万八〇三二円×〇・〇八四八=五一六万六六九七円(一般経費)

六一〇九万八〇三二円-四四〇九万八〇三二円-二八〇万五〇七〇円-四〇万円=八六三万二六四八円(事業所得額)

<2> 昭和五四年分 六五四万六七一四円

四二〇三万九三五七円÷〇・七三三三=五七三二万九〇〇一円(総収入額)

五七三二万九〇〇一円×〇・〇九〇〇=五一五万九六一〇円(一般経費)

五七三二万九〇〇一円-四二〇三万九三五七円-五一五万九六一〇円-三一八万三三二〇円-四〇万円=六五四万六七一四円(事業所得額)

<3> 昭和五五年分 九〇八万一九八八円

四八五九万二九九八円÷〇・七一一〇=六八三四万四五八二円(総収入額)

六八三四万四五八二円×〇・〇九八一=六七〇万四六〇三円(一般経費)

六八三四万四五八二円-四八五九万二九九八円-六七〇万四六〇三円-三五六万四九九三円-四〇万円=九〇八万一九八八円(事業所得額)

(三)  原告の認定所得額について

以上認定、判断したところにより、本件係争各年度の原告の所得額は、

(1) 昭和五三年分 七六五万六一八三円

八六三万二六四八円(事業所得)-九七万六四六五円(不動産損失)=七六五万六一八三円

(2) 昭和五四年分 七一三万八九八五円

六五四万六七一四円(事業所得)-六二万六二六四円(不動産所得)=七一三万八九八五円

(3) 昭和五五年分 七九六万五八三六円

九〇八万一九八八円(事業所得)-一一一万六一五二円(不動産損失)=七九六万五八三六円

であって、本件各更正処分とも、右認定所得額を下回る所得額を前提としているものであるから、この点においても、本件各更正処分は、適法であるというべきである。

五  実額反証について

なお、原告は、昭和五三年分の所得を立証する資料として甲第五号証の一、二を提出するが、これは、原告の説明によっても原告の現金出納帳をまとめたものにすぎず、前記のように、現金出納帳には、その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるので、これによっても原告の事業所得実額を確保することはできないというほかない。

六  本件各賦課決定処分について

前記のように、本件各更正処分は適法であり、本件過少申告加算税賦課決定処分も、右認定所得額を下回る所得額を前提としているものであるから、適法であることはいうまでもない。

七  結論

以上の次第であるから、本件訴えのうち、原告の確定申告に係る総所得金額を超えない所得金額の取消を求める部分を不適法却下するとともに、原告のその余の請求を理由がないものとして却下することとし、訴訟費用について、民事訴訟法八九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林登美子 裁判官 水野有子)

別紙

同業者の抽出基準

熱海税務署管内及び静岡県東部地区を所轄する各税務署(下田、沼津、三島の各税務署)管内において、くつ小売業を営む個人のうち、所得税法一四三条(青色申告)の承認を受けて、昭和五三年分以降昭和五五年分までの所得税の確定申告について青色申告書を提出している者で、次の(1)から(5)のいずれにも該当する者

(1) 昭和五三年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間において、くつ小売業を継続して営んでいる者

ただし、次のイ、ロに該当する者は除く。

イ (1)の期間の中途において、開廃業、休業又は業態を変更した者

ロ 更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立て中又は訴訟中の者

(2) 昭和五三年分の売上原価の額が二二〇四万六八〇八円を超え、八八一八万七二三四円以下の範囲内にある者

(3) 昭和五四年分の売上原価の額が二一〇一万九六七八円を超え、八四〇七万八七一四円以下の範囲内にある者

(4) 昭和五五年分の売上原価の額が二四二九万六四九九円を超え、九七一八万五九九六円以下の範囲内にある者

(5) (2)ないし(4)の各年分のくつの売上原価の額が売上原価の額の過半数を占める者

別表(一)

同業者比率一覧表

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

<省略>

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