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静岡地方裁判所 昭和63年(ワ)219号 判決 1991年2月27日

主文

一、本訴請求について

(一)  別紙物件目録一ないし四記載の各不動産について、原審山本三郎、原告山本勝は三八分の八、原告山本春子はは三八分の七、原告山本夏子、原告山本進、原告山本一代はそれぞれ各三八分の三、被告らはそれぞれ各三八分の二ずつの共有であることを確認する。

(二)  別紙物件目録一ないし四記載の各不動産について、競売を命じ、その売得金を原告山本三郎、原告山本勝に三八分の八、原告山本春子三八分の七、原告山本夏子、原告山本進、原告山本一代にそれぞれ各三八分の三、被告らにそれぞれ各三八分の二の各割合で分割する。

二、反訴請求について

(一)  別紙物件目録一ないし三記載の各不動産について、原告山本三郎、原告山本勝は三八分の八、原告山本春子は三八分の七、原告山本夏子、原告山本進、原告山本一代はそれぞれ各三八分の三、被告らはそれぞれ各三八分の二ずつの共有であることを確認する。

(二)  被告らのその余の反訴請求を棄却する。

三、訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、全部被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(本訴について)

一、請求の趣旨

1. 主文第一項と同旨

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告らの請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

(反訴について)

一、被告の趣旨

1. 原告らは、別紙物件目録一ないし三記載の各不動産に対し、原告、被告並びに左記訴外人らが各々左の割合による持分権を有することを確認する。

(一) 訴外 中山一郎 三八分の一

(二) 訴外 中山幸子 三八分の一

(三) 訴外 中山春江 三八分の一

(四) 訴外 中山泉 三八分の一

(五) 訴外 山本みよ 一九分の一

(六) 訴外 山本浩 九五分の一

(七) 訴外 山本茂 九五分の一

(八) 訴外 山本武 九五分の一

(九) 訴外 中口操 九五分の一

(一〇) 訴外 中川きよみ 九五分の二

(一一) 訴外 山本泉 一九分の二

(一二) 訴外 中田末子 一九分の二

(一三) 原告 山本三郎 一九分の二

(一四) 原告 山本春子 一九分の二

(一五) 原告 山本勝 一九分の二

(一六) 訴外 山本かおり 一九分の二

(一七) 被告 池田キミ子 一九分の一

(一八) 被告 大田八重子 一九分の一

(一九) 被告 山本五郎 一九分の一

2. 訴訟費用は原告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 被告らの請求を棄却する。

2. 訴訟費用は被告らの負担とする。

第二、当事者の主張

(本訴について)

一、請求原因

1. 山本一馬(以下「一馬」という。)は、山本はると婚姻し、二人の間には長女中山冬子、長男山本二郎、二男山本泉、二女中田末子の四人の嫡出子がいる。

2. 一馬は、大山きくとの間に、原告山本三郎、被告池田キミ子、山本一雄、被告大田八重子、被告山本五郎の五人の非嫡出子がいるが、山本一雄は昭和二〇年五月三〇日戦死した。

3. 原告山本三郎は、原告山本春子と昭和二〇年六月一一日婚姻し、その間に原告山本勝、原告山本進、原告山本夏子の三名の子がいる。

4. 原告山本勝は、山本かおりと昭和四四年一〇月一一日婚姻し、同五六年四月離婚した。

5. 原告山本進は、同五〇年一〇月一九日原告山本一代と婚姻した。

6. 一馬は、同四七年一二月四日原告山本三郎とその妻原告山本春子、と原告山本勝とその妻山本かおりとそれぞれ養子縁組をした。

7. 別紙物件目録一ないし四記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)は、いずれも一馬の所有であったが、一馬は、同四九年一月八日死亡したため、その嫡出子中山冬子、山本二郎、山本泉、中田末子とその養子、原告山本三郎、原告山本春子、原告山本勝及び山本かおりがそれぞれ持分一九分の二、その非嫡出子である被告池田キミ子、被告大田八重子、被告山本五郎がそれぞれ持分一九分の一の各割合で相続に基づき、本件不動産を承継取得した。

8. 本件不動産につき、昭和五二年八月三一日、

(一) 中山冬子は、その持分一九分の二を、原告山本三郎と原告山本春子にそれぞれ一九分の一ずつ、

(二) 山本二郎は、一九分の二の持分を、原告山本進と原告山本一代にそれぞれ一九分の一ずつ、

(三) 山本泉は、一九分の二の持分を、原告山本夏子と松本弘にそれぞれ一九分の一ずつ、

(四) 中田末子は、一九分の二の持分を、原告山本勝と山本かおりにそれぞれ一九分の一ずつ、

それぞれ贈与し、いずれも同五二年九月九日、その旨それぞれ各登記した。

9. 松本弘は、本件不動産につき昭和五三年一二月一三日持分一九分の一を、原告山本三郎と原告勝にそれぞれ三八分の一ずつ贈与し、同年一二月二六日その旨登記した。

10. 山本かおりは、昭和五五年七月七日本件不動産につき、持分三八分の六を、原告山本三郎、原告山本春子、原告山本勝、原告山本夏子、原告山本進及び原告山本一代にそれぞれ三八分の一ずつを各贈与し、同年八月二日その旨登記した。

11. したがって、本件不動産につき、原告山本三郎は三八分の八、原告山本春子は三八分の七、原告山本勝は三八分の八、原告山本夏子、原告山本進、原告山本一代はそれぞれ各三八分の三、被告らは各三八分の二ずつの持分を有する。

12. しかしながら、被告らは、原告らの本件不動産に対する各持分を争うとともに、原告らの本件不動産の分割請求ないし分割調停に対しても、持分を争うなどして、協議が調わない。

13. よって、原告らは、被告らとの間において、本件不動産に対する持分が主文第一項の(一)記載の持分であることの確認を求めるとともに、民法二五八条に基づき本件不動産を競売に付し、その売得金を原告らと被告らとの各持分に応じて分割する旨の裁判を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の事実は認める。

3. 同3の事実は認める。

4. 同4の事実は認める。

5. 同5の事実は認める。

6. 同6の事実は認める。

7. 同7の事実は認める。

8. 同8の事実は否認する。

9. 同9の事実は否認する。

10. 同10の事実は否認する。

11. 同11の事実は否認し、その主張は争う。

12. 同12の事実は否認し、その主張は争う。

三、被告らの主張

1. 本件不動産についての中山冬子、山本二郎、山本泉、中田末子の各持分の贈与は、次のようにいずれも要素の錯誤により無効である。

すなわち、右各持分贈与は、右受贈者本人にしてその余の受贈者らの総代理人である原告山本三郎が、右贈与者本人にしてその余の贈与者らの代理人である山本泉に対し、一馬には多額の負債があるので、同人の遺産相続はこれを放棄した方が得策である旨を説いたため、これを信じた山本泉が、原告山本三郎の持参した書類に同人の言われるままに署名捺印すれば、一馬の残した負債は相続しなくてすむと考えて、同書類の記載内容を確認しないまま、これに署名捺印したことによりなされたものであるが、真実は一馬には生前の負債は実質的に存在しなかったものである。

したがって、山本泉は、一馬の生前の負債に関し、原告山本三郎によって事実を偽られ、右偽られたことにより、実際には存在しない負債を存在すると誤認させられ、また、右贈与を法律上の放棄と誤認するという錯誤に陥し入れられて、結果的に右持分贈与をなすに至ったもので、右錯誤なかりせば、右贈与はこれをなさなかったものである。

よって、右錯誤は要素の錯誤となるものであるから、右持分贈与は無効である。

2. 松本弘は、山本泉から譲受けた右持分一九分の一を、昭和五三年一二月一三日原告山本三郎、原告山本勝に対し各三八分の一ずつ贈与したとされているが、山本泉の右持分贈与が無効であることは前記のとおりであるから、松本弘の原告山本三郎らに対する右持分贈与もまた当然に無効である。

3. 山本かおりは、不動産登記簿上自己が養子として相続した本件不動産に対する持分一九分の二と、中田末子から譲受けたとする右持分一九分の一の持分合計一九分の三を昭和五五年七月七日原告山本三郎、原告山本春子、原告山本勝、原告山本夏子、原告山本進、原告山本一代に対し、各三八分の一ずつ贈与したとされているが、右持分贈与は全体として、山本かおりがこれに関与しなかったことにより無効であり、また中田末子からの贈与による分は、同女の持分贈与が前記のとおり無効であることによって当然に無効となる。

4. また、持分権を有する原告らの本件不動産についての共有物分割請求は、本件については未だ民法二五八条一項が要求する共有物分割についての協議がなされていないので棄却されるべきである。

四、被告らの主張に対する認否

1. 被告らの主張1の事実は否認する。

2. 同2の事実は否認し、その主張は争う。

3. 同3の事実は否認し、その主張は争う。

4. 同4の事実は否認し、その主張は争う。

(反訴について)

一、請求原因

1. 一馬の所有であった別紙物件目録一ないし三記載の不動産について、同人の相続人である中山冬子、山本二郎、山本泉、中田末子らは、同人らが右不動産について有する各持分一九分の二を、昭和五二年八月三一日に、中山冬子においては原告山本三郎及び原告山本春子に対し各一九分の一ずつ、亡山本二郎においては原告山本進及び原告山本一代に対し各一九分の一ずつ、山本泉においては原告山本夏子及び松本弘に対し各一九分の一ずつ中田末子においては原告山本勝及び山本かおりに対し各一九分の一ずつ、それぞれ贈与により持分移転をしたとし、その旨の登記がなされている。

2. しかし右各持分贈与は、右受贈者本人にしてその余の受贈者らの総代理人である原告山本三郎が、右贈与者本人にしてその余の贈与者らの代理人である山本泉に対し、一馬には多額の負債があるので、同人の遺産相続はこれを放棄した方が得策である旨を説いたため、これを信じた山本泉が、原告山本三郎の持参した書類に同人の言われるままに署名捺印すれば、一馬の残した負債は相続しなくてすむと考えて、同書類の記載内容を確認しないまま、これに署名捺印したことによりなされたものであるが、真実は一馬には生前の負債は実質的に存在しなかったものである。

したがって山本泉は、一馬の生前の負債に関し、原告山本三郎によって事実を偽られ、右偽られたことにより、実際には存在しない負債を存在すると誤認させられ、また、右贈与を法律上の放棄と誤認するという錯誤に陥れられて、結果的に右持分贈与をなすに至ったもので、右錯誤なかりせば、右贈与はこれをなさなかったものである。

よって、右錯誤は要素の錯誤となるものであるから、右各持分贈与は無効である。

3. したがって、一馬の相続人は、中山冬子ら八名の嫡出子と、原告池田キミ子ら三名の非嫡出子となるから、その各持分は、左記のとおりとなる。

訴外 中山冬子 一九分の二

同 山本二郎 一九分の二

同 山本泉 一九分の二

同 中田末子 一九分の二

原告 山本三郎 一九分の二

同 山本春子 一九分の二

同 山本勝 一九分の二

訴外 山本かおり 一九分の二

被告 池田キミ子 一九分の一

同 大田八重子 一九分の一

同 山本五郎 一九分の一

4. しかるところ、中山冬子は、平成元年一〇月一三日死亡したところ、その相続人は、中山一郎、中山幸子、中山春江、中山泉の四人の子であるから、同人らは中山冬子の持分を各三八分の一ずつ相続した。

5. また、亡山本二郎は、昭和六二年七月六日死亡したので、右同人の持分は、その妻山本はるが一九分の一、その子山本浩、山本武、中口操、中川きよみ、山本茂の五人が各九五分の一ずつこれを相続した。

6. 山本かおりは、不動産登記簿上自己が養子として相続した不動産に対する持分一九分の二と、中田末子から譲受けたとする右持分一九分の一の持分合計一九分の三を昭和五五年七月七日原告山本三郎、山本春子、山本勝、山本夏子、山本進、山本一代に対し、各三八分の一ずつ贈与したとされているが、右持分贈与は全体として、山本かおりがこれに関与しなかったことにより無効であり、また、内中田末子からの贈与による分は、同女の持分贈与が前記のとおり無効であることによって当然に無効となる。

7. 松本弘は、山本泉から譲受けた右持分一九分の一を、昭和五三年一二月一三日原告山本三郎、原告山本勝に対し各三八分の一ずつ贈与したとされているが、山本泉の右持分贈与が無効であることは前記のとおりであるから、松本弘の原告山本三郎らに対する右持分贈与もまた当然に無効である。

8. よって現在、別紙物件目録一ないし三記載の不動産について各共有者が有する持分の割合は、請求の趣旨第一項記載のとおりとなるので、被告らは、原告らに対し、これについての確認を求めるものである。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の事実は否認し、その主張は争う。

3. 同3の主張は争う。

4. 同4の事実のうち、中山冬子の死亡日、その相続人は被告ら主張であることは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

5. 同5の事実のうち、山本二郎の死亡日、その相続人は被告ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実を否認し、その主張は争う。

6. 同6の事実は否認し、その主張は争う。

7. 同7の事実は否認し、その主張は争う。

8. 同8の主張は争う。

第三、証拠<略>

理由

第一、本訴請求について

1. 請求原因1ないし7の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2. そして、<証拠>を総合すれば、請求原因8の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

被告らは、中山冬子、山本二郎、山本泉、中田末子の各持分贈与は要素の錯誤により無効である旨主張するが、右主張は、証人山本泉の証言及び被告山本五郎各本人尋問の結果によっても認めるに足りず、他に右主張を認めるに足りる証拠はないから、採用の限りではない。

3. 甲第一ないし第三号証、原告山本三郎及び原告山本勝各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因9の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

被告らは、山本泉の松本弘に対する持分贈与が無効であるから、松本弘の原告山本三郎及び原告山本勝に対する持分贈与も無効である旨主張するが、山本泉の松本弘に対する持分贈与は無効とは認められないこと前判示のとおりであるから、右主張は、採用することができない。

4. 甲第一ないし第三号証、同第三六号証、原告山本三郎及び原告山本勝各本人尋問の結果によれば、請求原因10の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

被告らは、右山本かおりの持分贈与がその前提事実を欠き当然無効である旨主張するが、右主張は採用に由ないことは、前判示のとおり明らかである。

5. したがって、本件不動産についての共有者は原告ら六名と被告ら三名であり、その持分割合は原告ら主張のとおりであると認められる。

6. そして、原告山本三郎本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告らは、昭和五九年二月、被告らを相手方として静岡簡易裁判所に対し共有物分割の協議をするため調停の申立てをしたが、協議が調わなかったし、本件不動産はその性質、構造等諸般の事情に微し、右建物については共有者の持分に応じた区分所有に適せず、右土地についても分割に適せず、現物をもって分割することができないものと認められるから、これを競売して、その売得金を持分の割合に応じて分割するのが相当である。

7. よって、原告らの本訴請求は、いずれも正当として認容すべきものである。

第二、反訴請求について

1. 請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2. しかしながら、請求原因2の持分贈与が要素の錯誤により無効であるとする被告らの主張が採用できないことは、本訴請求において判示したとおりである。

3. また、請求原因6、7の持分贈与が無効である旨の被告らの主張は、いずれも採用し難いことは、本訴の請求において判断したとおりである。

4. したがって、別紙物件目録一ないし三記載の不動産についての共有者は原告ら六名と被告ら三名であり、その持分割合は原告ら主張のとおりであると認められる。

5. よって、被告らの反訴請求は、主文第二の(一)の範囲で理由があるとして認容するが、その余は失当として棄却すべきである。

第三、結論

以上の次第であるから、原告らの本訴請求はすべて正当として認容し、被告らの反訴請求は前判示のとおり主文第二の(一)の限度で一部認容するが、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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