静岡地方裁判所下田支部 平成19年(ワ)22号 判決 2009年10月29日
原告
甲野太郎
同訴訟代理人弁護士
野間啓
同
塚本亜里沙
被告
西伊豆町
同代表者町長
藤井武彦
同訴訟代理人弁護士
宮原守男
同
倉科直文
同
吉田大輔
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,176万5331円及びこれに対する平成19年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告のみが指定ごみ袋を販売するものとして,被告が販売しているものと同一の規格・成分のごみ袋であっても民間業者がそれを指定ごみ袋として販売することを認めないのは憲法の定める営業の自由に反して違法である等として,原告が被告に対して,国家賠償法1条1項に基づき,販売利益等合計176万5331円の損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実等(当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠によって容易に認定できる事実)
(1)ア原告は,「X社」の屋号で西伊豆町内で商いを行う者である。
イ 被告は,平成17年4月1日に旧西伊豆町と賀茂村が合併して誕生した地方公共団体である(なお,合併前の旧西伊豆町も含め,単に「被告」という。)。
(2)被告は,平成12年4月1日以降,概要以下の内容で,一般廃棄物の収集及び運搬に関する制度を運用していた(以下「本件制度」という。)。
ア 被告は,指名競争入札の方法を用いた見積合わせにより決定した納入業者から,西伊豆町ごみ処理指定袋に関する規則(以下「本件規則」という。)3条所定の要件に適合したごみ袋を一括して購入する。
イ 被告は,上記ごみ袋を,被告町長の指定するごみ袋(以下「指定ごみ袋」という。)として小売店に売却する。
ウ 小売店は,住民に指定ごみ袋を販売する。
エ 被告は,一般廃棄物の収集に際し,指定ごみ袋に入れられた廃棄物のみを収集し,一般廃棄物処理施設に搬入する。
(3)地方自治法234条(平成12年3月31日法律第13号による改正後のもの。以下同じ。)には,要旨以下の規定がある(顕著な事実)。
ア 第1項 売買,賃借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。
イ 第2項 前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる。
ウ 第3項 普通地方公共団体は,一般競争入札又は指名競争入札に付する場合においては,政令の定めるところにより,契約の目的に応じ,予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とするものとする。
(4)廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成11年12月22日法律第160号による改正後のもの。以下同じ。)には,要旨以下の規定がある(顕著な事実)。
ア 第1条(目的) この法律は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。
イ 第2条の3(国民の責務) 国民は,廃棄物の排出を抑制し,再生品の使用等により廃棄物の再生利用を図り,廃棄物を分別して排出し,その生じた廃棄物をなるべく自ら処分すること等により,廃棄物の減量その他その適正な処理に関し国及び地方公共団体の施策に協力しなければならない。
ウ 第4条(国及び地方公共団体の責務)
第1項 市町村は,その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進を図り,及び一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めるとともに,一般廃棄物の処理に関する事業の実施に当たっては,職員の資質の向上,施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならない。
エ 第6条(一般廃棄物処理計画)
第1項 市町村は,当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関する計画(以下「一般廃棄物処理計画」という。)を定めなければならない。
第2項 一般廃棄物処理計画には,厚生省令で定めるところにより,当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関し,次に掲げる事項を定めるものとする。
1 一般廃棄物の発生量及び処理量の見込み
2 一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項
3 分別して収集するものとした一般廃棄物の種類及び分別の区分
4 一般廃棄物の適正な処理及びこれを実施する者に関する基本的事項
5 一般廃棄物の処理施設の整備に関する事項
6 その他一般廃棄物の処理に関し必要な事項
オ 第6条の2(市町村の処理等)
第1項 市町村は,一般廃棄物処理計画に従って,その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し,これを運搬し,及び処分しなければならない。
第2項 市町村が行うべき一般廃棄物の収集,運搬及び処分に関する基準並びに市町村が一般廃棄物の収集,運搬又は処分を市町村以外の者に委託する場合の基準は,政令で定める。
2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)違法な公権力の行使の有無
(原告の主張)
ア 被告町内においては,平成11年以前は,成分等指定された条件を満たし,被告町長の承認を得たごみ袋であれば,一定の手続を経さえすれば誰でも被告町内で,小売店へ卸すことができた。
ところが,被告は,平成12年4月以降本件制度での運用を開始し,被告町内では,小売店への納入は被告が一括して行うようになり,被告は指名競争入札により指定された単一の業者から本件ごみ袋を一括して購入することとなった(以下,この方式を「一括購入・一括販売方式」という。)。
被告は,平成11年11月,原告に対し,一括購入・一括販売方式を導入するため,今後はごみ袋の販売にあたって入札に参加しなければならないとして入札通知を送付してきた。原告は,一方的な制度変更に納得できなかったため,入札通知を無視し,入札に参加しなかったところ,平成12年度以降の販売業者としての指定が受けられず,以後,ごみ袋の販売ができなくなった。
イ(ア)本件制度による一括購入・一括販売方式は,被告による事実上の専売制であり,原告をはじめとする全ての国民にとって,被告町内で指定ごみ袋を小売店に販売するという営業の自由がなくなったことを意味する。
したがって,このような手続の変更は条例上の根拠が必要であることはもちろんであり,かつ,その規定が,目的に照らし合理的かつ必要な限度にとどまることが必要である。
(イ)一般廃棄物取扱手数料(以下「ごみ処理手数料」という。)を町民から徴収すること及びその徴収方法につき指定ごみ袋を購入するときに徴収する方式を採ることは,条例及び規則上に規定されている。しかし,その運用として一括購入・一括販売方式を採ることについては法令上明文の根拠規定はない。
一括購入・一括販売方式について,行政手法の合理性が認められるのか,認められるとしてもそれほど強いものであるかは疑問であるうえ,一括購入・一括販売方式は自由主義経済・営業の自由を極めて強い態様にて制限するものである。したがって,仮に一括購入・一括販売方式の導入が認められるとしても,それは法律あるいは条例により,国民あるいは住民からの明確な付託に基づいて初めて実施されることが許容されるというべきであり,行政が裁量によってこのような一律排除規制を導入することは到底許されない。
(ウ)a被告は,一括購入・一括販売方式の合理性として,①排出廃棄物量等に関する正確なデータの収集,②ごみ処理手数料の確実な徴収,③指定ごみ袋の供給及び販路の確保,④指定ごみ袋の価格を統一する必要性を挙げる。
b 一括購入・一括販売方式で把握できるのは,販売された指定ごみ袋の総量にすぎず,ごみの総量そのものではない。指定ごみ袋への詰め方は家庭ごとに千差万別であり,指定ごみ袋の容量総量が判明したからといって,ごみの排出量そのものが正確に特定できるわけではない。
また,ごみ総量の把握単位は「リットル」ではなく「トン」であって,その数値はごみ収集車の運搬実績や焼却場の稼働実績でほぼ正確な量を推計することが可能であり,かつ,その方が合理的な数値である。
ごみを圧縮する前の袋の容量を総計したとしても,その量は収集車の圧縮より直ちに無意味な数値となるから,ごみの総量の把握には役立たない。日本中の多くの自治体,とりわけ,総量の大きい大都市であっても,被告のような一括購入・一括販売方式を採用しておらず,かかる方式によるデータが不要であることを示している。
したがって,排出廃棄物量等に関する正確なデータを収集するための手段として一括購入・一括販売方式は相当ではない。
c 小売店は,確定申告・納税をする義務がある以上,売上商品の販売実績を記録・管理することはその基本的資料であって,指定ごみ袋の購入・販売数量を抽出・申告させることによる小売店の事務処理負担はさほど大きくない。しかも,被告町内における指定ごみ袋の販売小売店がそれほど多数に上るわけではないから,販売実績の把握はさして困難ではない。このように,ごみ処理手数料は,小売店に購入・販売した総数に基づく数値を申告させることで徴収することが可能である。
被告が62店の小売店の販売実績調査に困難を伴うとしても,そのこと自体は営業の自由を制限する理由としては相対的に重いものではなく,かえって,本件制度において毎月2回,62店の小売店からの発注を一括集計して発注する業務を行っていることと比較すれば,回数を減らすこともでき,支払などの会計処理も軽減されることから,むしろ手間がかからない。
また,一括購入・一括販売方式による被告の利得の総額は,被告の歳入総額のわずか1.2パーセントないし1.5パーセントにすぎず,その徴収のために包括的に営業の自由を奪うことが許容されるものではない。
したがって,ごみ処理手数料の確実な徴収という目的を達成するための手段として一括購入・一括販売方式が合理的であるとはいえない。
d 被告が指定ごみ袋の供給及び販路確保を図りたいのであれば,指定ごみ袋の供給元をできるだけ数多く確保することが有益であり,その上で非常時の為に一定量を購入して在庫すれば足りる。
一括購入・一括販売方式を採用し,入札制度により他の業者を排除して単一業者からの購入とすることは,供給継続に対するリスクを増加させるもので,方法として不適切である。
e そもそも,町民の義務として町民全体に不公平が生じないようにすべきなのは手数料額であって,指定ごみ袋の価格そのものではない。したがって,被告において指定ごみ袋の価格を統一する必要性はなく,目的自体の合理性が認められない。
ウ また,一括購入・一括販売方式により,被告が条例の定めなくごみ処理手数料のみならず,「調整金」名目の売買差益を得ていることは租税法律主義に反する。
エ 以上のとおり,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式は,憲法の定める営業の自由,租税法律主義に反するもので違憲であって,国家賠償法上も違法である。
なお,原告は,ごみ処理手数料の従量制そのものや,被告が一括購入することを前提とした指名入札方式そのものを問題としているわけではない。
(被告の主張)
ア(ア)被告は,昭和47年ころより,町民からごみ処理手数料を徴収してきた。その徴収方法は,平成11年度末(平成12年3月31日)までは,排出量に関係なく,世帯人数や事業規模に従って,定額のごみ処理手数料を徴収する定額制を採用していた。
(イ)被告は,平成10年ころ,ダイオキシン対策や焼却炉の保全等のため,ごみ袋の成分や強度につき一定の規格を定め,その規格と同等,あるいは同等品以上の製品について,被告が推奨する指定袋(以下「旧指定袋」という。)であると呼称する取扱いを始めた。
もっとも,旧指定袋は,小売店や町民にその販売や使用を推奨するにすぎず,旧指定袋以外のごみ袋によって排出されたごみの収集を拒むものではなかったし,旧指定袋の価格にごみ処理手数料を加算して販売されることもなかった。
(ウ)被告は,平成11年9月9日に改正された西伊豆町廃棄物の処理及び清掃に関する条例(以下,西伊豆町廃棄物の処理及び清掃に関する条例を「本件条例」といい,改正との関係が必要となる場合は「平成11年9月9日改正後の本件条例」などと記載する。)及び本件規則により,平成12年度より,ごみ処理手数料を従来の定額制から従量制へと移行させ,本件条例に指定ごみ袋を規定し,指定ごみ袋にごみ処理手数料を加算して販売する方法によりごみ処理手数料を徴収する方式をとっている。また,ごみ処理手数料の公正な徴収を実現するため,本件規則において,指定ごみ袋は被告が小売店に販売し,小売店はこれを町民に販売するものとし,小売店は売りさばき手数料を取得する制度を採用した。これにより,焼却場への直接搬入の場合を除き,町民は指定ごみ袋で一般廃棄物を排出することが必要となった。
(エ)被告は,上記従量制への移行を数年前から検討しており,原告に対しても遅くとも平成11年度の初めまでに,平成12年度から従量制へ移行する予定であることを説明した。
イ 被告は,町内の廃棄物を町民の生活環境の保全上支障が生じないよう収集,運搬及び処分する責務を負うところ,指定ごみ袋は,町民の日常生活の必需品であるとともに,廃棄物処理行政の運営上重要な役割を担う物品となっている。したがって,被告は,全ての町民が継続的・安定的に指定ごみ袋を購入できるようにその供給及び販路を確保する責務がある。また,指定ごみ袋の価格については,町民が購入しやすい適正な価格設定を図るよう留意することはもちろん,それに加え,指定ごみ袋の使用を義務づけられている町民の間で不公平が生じないようにその価格を統一することも必要である。
これらの要請を同時によりよく満たすために,被告は本件制度及び一括購入・一括販売方式を採用している。
ウ(ア)ごみ処理手数料を町民から徴収すること及びその徴収方法につき指定ごみ袋を購入するときに徴収する方法をとることは,本件条例及び本件規則上規定されており,法的根拠は明らかである。
(イ)本件規則第6条第2項は,「指定袋を販売する者は,町から袋を購入した月の翌月末日までに前項の手数料を差し引いた金額を町長に納入するものとする。」と規定し,小売店が被告から指定ごみ袋を購入することが明記されている。
また,町民が指定ごみ袋を購入するときにごみ処理手数料を徴収する制度が適切に機能するためには,町民は購入した指定袋の数量に応じたごみ処理手数料を小売店に確実に支払い,かつ,各小売店は町民が支払ったごみ処理手数料を漏れなく被告に対して納入することが必要である。そこで,被告が予めごみ処理手数料を織り込んで各小売店に指定ごみ袋を売却する方法により,徴収漏れその他不正の余地のない公正な徴収を可能としている。このような制度導入の趣旨からしても,本件条例及び本件規則は,小売店に指定ごみ袋を販売するのは被告のみであることを予定しているといえる。
(ウ)以上のとおり,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式は,本件条例・本件規則に基づくものである。
エ(ア)一括購入・一括販売方式の下では,被告が各小売店に対して指定ごみ袋を販売する際に,実際に排出される廃棄物の数量に応じたごみ処理手数料を正確に回収することができ,徴収漏れその他不正の余地のない公正な徴収が可能となる。
また,一括購入・一括販売方式の下では,町民が小売店から購入して一般廃棄物の排出のために使用した指定ごみ袋の数量と,小売店が被告に対して発注する数量は一致することが予定されている(各小売店は,販売した数量を補充するために被告に指定ごみ袋を発注することになる。)。そのため,被告は,各小売店からの指定ごみ袋発注数を把握することにより,被告の廃棄物関連の施策を合理的に計画・実行するために必要な,町民が購入した指定ごみ袋の数量や排出される廃棄物の数量に関する正確なデータを把握することができる。
さらに,小売店は,指定ごみ袋の仕入額に既にごみ処理手数料が含まれていることから,仕入額を被告に支払うことによりごみ処理手数料の被告への納入が完了し,小売店側で被告へ納入すべきごみ処理手数料の金額の計算をしたり,特別な納入手続を行う必要がなく,小売店の事務処理上の負担軽減に資する。
これに対し,指定ごみ袋を製造業者が各小売店に直接卸し,各小売店がごみ処理手数料を加算した価格で町民に販売した後,被告に対して販売実績を申告して,それに応じたごみ処理手数料を納付するとの方法では,ごみ処理手数料納付額が各小売店の自己申告に任されることとなり,適正な徴収の実現,廃棄物処理行政上必要不可欠なデータの収集は困難となる。また,零細小売店が多い実情の下では,小売店に販売実績の正確な記録とごみ処理手数料の納付という事務処理の負担を課することは事実上困難である。
(イ)入札方式の採用により,随意契約による場合とは異なり,入札した業者のうち,最も低額の金額を提示した業者が納入業者に選定されるのであるから,業者間の公正な競争が促進されることになる。指定ごみ袋の原価は,町民にとって最も有利な価格に設定される仕組みとなっているのであるから,入札方式の採用は合理的であり,町民の利益となる。
実際にも,被告町内における指定ごみ袋の販売価格は,近隣市町と比較してことさら高額なわけではなく,適正な販売価格である。
なお,指定ごみ袋の価格は,ごみ袋の原価,ごみ処理手数料,販売店手数料及びその他販売価格との差額(以下,販売価格との差額を「調整金」という。)から構成される。ごみ袋の原価は指名競争入札の結果によって定まり,ごみ処理手数料及び販売店手数料は本件条例等に定められている。また,調整金は,入札価格の高騰あるいは低落による指定ごみ袋価格の急変を予防する機能を有しており,町民の廃棄物処理行政に対する理解と協力を得るために必要なことであるうえ,調整金は全て一般会計の歳入に組み込まれ,廃棄物処理費用や清掃処理関係の費用に充当されており,調整金によって被告が不当な利得を得ているとか,町民に不利益が生じているということはない。
(ウ)被告以外の地方公共団体においても,入札により業者を選定したうえで,選定した業者からの一括購入・一括販売方式を採用しているものが大多数を占めており,静岡県内でも,被告以外に15市町が一括購入・一括販売方式を採用している(ただし,入札方式をとらない市町もある。)。このような他市町の動向は,一括購入・一括販売方式が,廃棄物処理行政上,優れた合理的な方法であることを裏付けている。
(エ)以上のとおり,一括購入・一括販売方式は,廃棄物処理行政運営上の見地及び町民の経済的負担軽減の見地のいずれにおいても十分な合理性を有する。
オ(ア)原告は,被告が実施する平成12年度以降の指定ごみ袋納入業者選定のための指名競争入札に参加し,他の入札業者よりも低額の入札価格を提示して落札すれば指定ごみ袋納入業者に指定され,指定ごみ袋の製造及び販売をなし得る。現に,原告は,平成12年1月17日実施の入札において入札業者に指名されているし,その後も所定の手続さえ踏めば上記入札に参加することができる。なお,被告は,本件条例・本件規則に定められた「町長の承認」の手続を経ることなく,本件条例・本件規則に規定した規格及び要式の要件に適合するごみ袋の製造あるいは調達能力があると認められる業者を指名し,指定ごみ袋の納入について競争による見積合わせを実施し,最も低額の金額を提示した業者を当該年度にかかる指定ごみ袋の納入業者に選定し,被告が納入業者から購入したごみ袋を指定ごみ袋とする取扱いとしている。また,被告は,上記入札に参加を希望する業者が,本件条例・本件規則上の規格及び要式を満たすごみ袋を製造あるいは調達することができるものであると判断されるときには当該業者を指名して入札へ参加させる運用としており,入札への参加にあたり,「町長の承認」を予め受けていることを参加資格とはしていない。
(イ)被告が実施する一般廃棄物の収集,運搬,処分という廃棄物処理の公共サービスは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づいて,市町村がその責務として自律的に実施する事務である。被告がその事務として遂行する廃棄物処理業務において,どのような容器で廃棄物を排出するよう町民に義務づけるか,あるいはその容器の指定や供給方法としてどのようなものを採用するかといった問題は,被告が自律的に判断して遂行すべき問題である。また,ゴミ処理手数料について,いかなる徴収方法を採用するかは,民主的討議・検討を経た上での政策判断に委ねられるべきものである。したがって,被告が自らの事務の処理方法として自治立法により採用した制度,仕組みを無視して,民間業者が独自のごみ袋を指定ごみ袋として販売することにつき営業の自由の保障が及ぶものではない。
(ウ)原告が,被告町内において,指定ごみ袋ではないごみ袋を原告の計算で小売店に販売することが禁止されているわけではない。原告の在庫であるというごみ袋やその他のごみ袋を,指定ごみ袋の使用が義務づけられていない用途(焼却場への直接搬入ごみなど)のごみ袋として販売することは自由である。
カ 租税法律主義違反が原告の権利侵害とどのような関係に立つかが不明であるが,その点を措くとしても,被告が運営する廃棄物処理事業を利用する者が指定ごみ袋の購入を通じて支払う廃棄物処理サービス利用料の対価は租税には該当せず,租税法律主義には反しない。
キ 以上のとおり,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式は適法である。
(2)損害及びその額
(原告の主張)
ア 無価値在庫 34万8250円
原告が販売を企図して仕入れたごみ袋は,販売できなくなったため無価値となった。これにより,以下の損害が生じた。
(ア)20リットルのごみ袋(小)
52箱×1箱25冊入り×1箱あたりの仕入れ価格100円=13万円
(イ)30リットルのごみ袋(中)
24箱×1箱25冊入り×1冊あたりの仕入れ価格120円=7万2000円
(ウ)45リットルのごみ袋(大)
39箱×1箱25冊入り×1冊あたりの仕入れ価格150円=14万6250円
(エ)合計34万8250円
イ 無価値在庫の保管料 67万2000円
保管料年額9万6000円×保管期間7年=67万2000円
ウ 販売利益 28万5081円
原告は,ごみ袋の販売により少なくとも年間9万5027円の利益をあげることができたところ,被告の不法行為により少なくとも3年分の販売利益を喪失した。
9万5027円×3年=28万5081円
エ 慰謝料30万円
オ 弁護士費用16万円
カ 合計176万5331円
キ なお,仮に平成11年度以前のごみ袋の規格と平成12年度以降のごみ袋の規格とが異なる場合であっても,原告は上記ウ及びエの損害を被ることとなるから,これらの合計額に弁護士費用5万8508円を加えた64万3589円の損害が発生している。
(被告の主張)
ア 被告は,平成12年度からごみ処理手数料を従量制に移行するにあたり,新たに条例に指定ごみ袋を規定し,指定ごみ袋の表面には「処理手数料納入済」と記載される様式としているところ,原告の在庫は「処理手数料納入済」という従量制を前提とした印字・図柄を有するものとは考えがたいから,結局条例・規則上規定された指定ごみ袋の規格を満たさず,平成12年度以降,指定ごみ袋として販売することができないものである。したがって,それらが原告の在庫になっているとしても,被告が一括購入・一括販売方式を採用したこととは無関係である。
また,被告は,原告に対して,遅くとも平成11年4月末ころまでには,平成12年度からごみ処理手数料を従量制に移行することに伴い,指定袋をごみ処理手数料を加算した新たなものとする旨予告説明し,平成11年度末までの数量を見込んで在庫調整をするよう予め助言していた。したがって,平成11年度にごみ袋を必要以上に製造し,あるいは仕入れて在庫となったり,その保管料等を要することとなったとしても,それは原告自身の責任である。
イ 原告は,平成12年度以降の指定ごみ袋として販売しうるごみ袋を現に製造あるいは調達していたわけではないから,平成12年度以降の指定ごみ袋の販売利益が生じる余地はない。
ウ 被告は,被告への本件ごみ袋の納入業者選定のための指名競争入札(平成12年1月17日入札期日)を実施するにあたり,事前に原告を入札指名者として指名し,原告に対して見積入札書を交付していた。ところが,原告はことさら上記入札に参加せず,被告がその後実施している同様の入札に対しても指名入札参加願いの届出すらせず,本件ごみ袋の納入の機会を自ら放棄している。このような原告の態度からすれば,原告に平成12年度から3年間分の指定ごみ袋の販売利益が存在するとはいえない。
エ 以上のとおり,原告に損害は発生していない。
第3 争点に対する判断
1 証拠(甲2,甲9,甲22の1ないし6,乙1,乙3ないし7,乙9ないし12,乙13の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)被告は,昭和47年3月15日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき被告が行う廃棄物の処理及び清掃に関して必要な事項を定めることを目的として,本件条例を制定した(乙1,弁論の全趣旨)。
(2)被告は,平成11年9月9日以前は,本件条例において,ごみ処理手数料として一定額(1人世帯の場合月額80円,2人から4人世帯の場合月額150円,5人以上の世帯の場合月額200円)を毎年8月及び2月(大沢里区は2月のみ)に徴収する方式を定めていた(平成11年9月9日改正前の本件条例第7条。乙7)。
(3)被告は,従量制によるごみ処理手数料への移行を検討するため,西伊豆町廃棄物処理対策審議会を設置した。被告町長は,平成10年10月19日,西伊豆町廃棄物処理対策審議会会長あてに,ごみ処理手数料を定額制から従量制に移行するにあたり,定額制から従量制に移行する期日と,定額制から従量制に移行した場合の手数料について諮問をした(乙11,12)。
西伊豆町廃棄物処理対策審議会は,各界代表の委員,事業者代表の委員及び一般家庭の委員による協議を行った結果,平成11年1月25日,被告町長に対して,概要以下の答申を行った(乙11,13の1及び2)。
ア 定額制から従量制に移行する場合,収集ごみは,指定ごみ袋に処理料金を加算し,直接搬入ごみは持込量に応じて処理料を徴収することが最も望ましい。
旧指定袋は,1年間の販売実績があるものの,現在直接搬入している事業所の大半が旧指定袋を使用していること,個人による旧指定袋の買い置きがどの位あるのかの想定がつきにくいため,1年間の販売実績だけでは旧指定袋の使用量は測りにくい。これに対し,大手事務所等の完全持込量は,各月平均が大きく変動することなく推移している。
従量制によるごみ処理手数料への移行については,収集ごみと直接搬入ごみに分けて実施すべきとの結論に至った。移行にあたっては,①町民・事業者等の理解が得られるよう説明会等を実施し,周知期間を設けること,②実施期日は,収集ごみは平成12年4月1日とし,直接搬入ごみは平成11年4月1日とすること,③ごみ処理手数料は公平な負担を基本とし,完全直接搬入事業所以外にも本件条例第6条に規定する事業所については完全持込を実施するよう指導徹底を図ることの諸点に配慮して実施すべきである。
イ 定額制によるごみ処理手数料は,大量に排出する者,減量化に努力している者,自己処理をしている者,あるいは週3回収集する地区と週2回収集する地区の区別なく徴収され,また,住民登録者しかごみ処理手数料を徴収されないため,ごみ処理に要する経費が公平に負担されているとはいえない状況にある。
ごみ処理手数料を従量制に移行することにより,ごみ発生の抑制,リサイクルの推進なども期待できると思われるので,ごみの減量化及び公平な費用負担を目的に実施を図るべきである。
移行にあたっては,①移行することで実質値上げとならないようにすること,②収集ごみは指定ごみ袋に処理料金を加算し,直接搬入ごみは持込量により料金を決定すること,③指定ごみ袋での排出が困難と認められる場合は,従来の排出方法とし,処理料金を検討すること,事業系ごみは本来事業者自らの責任で処理することになっているので,自己搬入又は業者委託等に切り替えるよう,移行年月日を目途に指導することの諸点に配慮して手数料を決定すべきである。
(4)被告は,平成11年4月,原告から旧指定袋の承認を求めるとの申請を受け,審査をした結果,当時の要件に適合していたため,同月30日にこれを承認した。その際,被告は,原告に対して,平成12年度以降は旧指定袋が使用できなくなることを説明した。
(5)被告は,上記答申を受け,本件条例の改正案を策定し,平成11年第3回(9月)西伊豆町議会定例会に上程した。同定例会では,ごみ処理手数料を被告収集分と直接搬入分に分け,被告収集分については定額制を従量制に移行し,ごみ処理手数料を指定ごみ袋に加算する方式とすること,全ての直接搬入分について定額制から従量制に移行することとの改正内容が説明され,また,質疑中,被告の住民課長により,指定ごみ袋の流通方法として,今後は被告が一括購入をし,販売手数料30円を加算して小売店に購入してもらう方法をとるとの説明が行われた。同定例会での質疑,討議を経て本件条例の改正案に関する採決が行われ,原案どおり可決された(乙4)。
これを受け,被告は,平成11年9月9日,本件条例を改正し,町民が自ら処分しない一般廃棄物については,可燃物と不燃物に区分し,可燃物については町長が指定した容器(指定ごみ袋)により排出しなければならないこととし,ごみ処理手数料を従量制(容量20リットル入りのもの1枚あたり5円,容量30リットル入りのもの1枚あたり15円,容量45リットル入りのもの1枚あたり20円)にして一般廃棄物を排出しようとする者が指定ごみ袋を購入する際に徴収する方法へと変更するとともに,町民がごみ処理施設に自ら廃棄物を搬入した場合の処理手数料につき,廃棄物10キログラムあたり70円を乗じて得た額と定めた(平成11年9月9日改正後の本件条例第5条第2項,第8条第1号ないし第3号。乙5,9)。
(6)被告は,平成11年9月17日,平成11年9月9日改正後の本件条例第5条第2項の規定による指定ごみ袋に関して必要な事項を定めることを目的として本件規則を制定し,本件規則は平成12年4月1日から施行された。本件規則には,要旨以下の規定がある(乙3,6)。
ア 第2条(指定袋)
町長が指定するごみ袋は,第3条に規定する必要要件に適合し,第4条第1項の規定により町長の承認を受けて製造されたものをいう。
イ 第3条(指定袋の要件)
指定袋は,炭酸カルシューム入りポリエチレン製の半透明袋で1セット20枚入りとして,次に掲げる規格のものとする。
(ア)20ミリリットル入り長さ600ミリメートル×折径500ミリメートル×肉厚35ミクロン
(イ)30ミリリットル入り長さ700ミリメートル×折径600ミリメートル×肉厚35ミクロン
(ウ)45ミリリットル入り長さ800ミリメートル×折径650ミリメートル×肉厚35ミクロン
(エ)炭酸カルシューム含有率30パーセント以上
(オ)強度縦方向300キログラム/平方メートル以上,横方向200キログラム/平方メートル以上
ウ 第4条(指定袋の承認)
第1項 指定袋を製造しようとする者は,様式第2号による指定袋承認申請書を提出し,町長の承認を受けなければならない。
エ 第6条(指定袋の売りさばき手数料)
第1項 指定袋を販売する者の手数料は,20枚30円の手数料の額に100分の105を乗じて得た額とする。
第2項 指定袋を販売する者は,町から袋を購入した月の翌月末日までに前項の手数料を差し引いた金額を町長に納入するものとする。
(7)ア被告は,被告に対して指定ごみ袋を販売する業者を選定するため,平成12年1月17日,平成12年度指定ごみ袋に関する指名競争入札を行った。同入札における被指名者は,A有限会社,X社,B株式会社,C株式会社,D株式会社の5者であったが,X社は欠席し,入札の結果,536万8000円でA有限会社が落札をしたため,被告はA有限会社との間で平成16年度西伊豆町指定ごみ袋購入契約を締結した。(甲9,甲22の2及び3)
イ 被告は,平成17年度,平成19年度及び平成20年度,平成21年度及び平成22年度の指定ごみ袋購入先についても指名競争入札を行い,落札者との間で契約を締結した。なお,平成16年度については,平成17年度の市町村合併のため随意契約をした。(甲22の1,甲22の4ないし6,弁論の全趣旨)
(8)本件条例は,平成14年3月7日に改正され,ごみ処理手数料に関して,指定ごみ袋の容量10リットル入りのもの1枚あたり3円とする旨が規定され,これに伴い,本件規則が平成15年7月11日に改正され,容量10リットルの指定ごみ袋の仕様に関する規格が規定された(乙2,10)。
2 争点(1)(違法な公権力の行使の有無)について
(1)上記認定事実のとおり,被告は,平成11年9月9日に本件条例を改正し,平成12年4月1日以降,ごみ処理手数料を従来の定額制から従量制へと変更するとともに,町民が排出するごみ(町民が直接処理施設に搬入するものを除く。)については指定ごみ袋を使用することを義務づけ,町民が指定ごみ袋を購入する際にごみ処理手数料を徴収する制度を採用していること,これに併せて本件条例を制定し,町民に対して指定ごみ袋を販売する小売店は,被告から指定ごみ袋を購入する際に,指定ごみ袋の販売価格から小売店の売りさばき手数料を差し引いた金額を支払うこととしていることが認められる。
このうち,本件規則の内容は,被告が小売店に対して指定ごみ袋を販売することとしているところ,本件規則の文言に加え,同規定以外に,被告がごみ処理手数料を徴収する具体的な方法について規定した法令等はないこと,上記認定事実のとおり,平成11年第3回(9月)西伊豆町議会定例会において,本件条例の改正後は,被告による一括購入・一括販売方式での運用を考えているとの説明がされているところ,これに対する反対意見等が出されたことを伺わせる証拠が存在していないこと,本件規則は西伊豆町廃棄物処理対策審議会の答申内容及び上記定例会での議論の結果を踏まえて本件条例の具体的な実施方法として規定されたものと理解できることからすれば,本件規則は,被告による一括購入・一括販売方式を規定したものと評価することができる。
したがって,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式は,本件条例,本件規則及び地方自治法234条に基づくものといえる。
(2)ア憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。もっとも,職業の自由に関する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとることから,当該規制措置が憲法22条1項に適合するかどうかは,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによる職業の自由の制限の程度等を検討して決定されなければならない。この場合,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる場合には,立法府(憲法94条により法律に違反しない限りにおいて条例を制定するという自主立法権が認められている地方公共団体の議会も含まれる。)の判断がその合理的裁量の範囲内にとどまる限り,立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきである。ただし,合理的裁量の範囲については事の性質上自ずから広狭がありうることから,その合理的裁量の範囲内であるか否かは,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らしてこれを決すべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁,最高裁昭和63年(行ツ)第56号平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2829頁参照)。
イ(ア)これを本件についてみると,本件条例は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づいて地方公共団体である被告が行う廃棄物の処理及び清掃に関して必要な事項を定めることを目的としている。そして,廃棄物の処理及び清掃に関する法律は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生,処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし,これを実現するための地方公共団体の責務として,市町村は,その区域内における一般廃棄物の減量に関し住民の自主的な活動の促進を図り,及び一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努めるとともに,一般廃棄物の処理に関する事業の実施に当たっては,職員の資質の向上,施設の整備及び作業方法の改善を図る等その能率的な運営に努めなければならないと定めている。
このような本件条例の目的及び本件条例の前提となる廃棄物の処理及び清掃に関する法律の目的,規定内容に照らすと,本件条例及び本件規則に基づく本件運用及びそれに伴う一括購入・一括販売方式は,被告町内における一般廃棄物の収集,運搬,処分等の処理に関する被告の能率的な運営,被告町内の生活環境の保全及び公衆衛生の向上等をその目的とするものと解され,このような目的は公共の福祉に合致するものといえる。
(イ)そして,本件条例及び本件規則に基づく本件運用及びそれに伴う一括購入・一括販売方式は,指定ごみ袋に関する規制であって,ごみ袋の製造・販売に関して一般的な規制をかけるものではない。指定ごみ袋は,町民が本件条例第5条第2項に基づく一般廃棄物の収集,運搬,処理業務という被告の行政サービスを受ける際に使用を義務づけられるものであるが,それ以外の,排出者が自らごみ処理施設に廃棄物を搬入する等の場合には使用が義務づけられるものではないから,指定ごみ袋に関する規制は,職業活動の一内容又は一態様に対する規制であるにすぎない。
また,指定ごみ袋を製造しようとする者は,被告が行う指名競争入札に参加して落札することにより,被告に対して指定ごみ袋を販売することができるのであって,指定ごみ袋の販売の機会の確保及び製造業者間での公平が図られている。
(ウ)原告は,①排出廃棄物量等に関する正確なデータの収集,②ごみ処理手数料の確実な徴収,③指定ごみ袋の供給及び販路の確保,④指定ごみ袋の価格を統一する必要性は,一括購入・一括販売方式を採用する目的として不適切であるか,その合理性を基礎づけるものではないと主張する。
確かに排出廃棄物量それ自体の数量把握単位は「トン」であることが証拠上明らかである(甲14ないし18。枝番を含む。)。しかし,被告は,法律上,一般廃棄物処理計画を定めることが求められており,その内容の一つとして一般廃棄物の排出の抑制のための方策に関する事項を定めるものとされている。そして,証拠(甲21の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,一般廃棄物の排出の抑制のための具体的な施策の策定に関し,指定ごみ袋の販売方法や配布方法の検討,ごみ処理費用の有料化の方策の検討等を行うことが考えられるところ,これらの検討資料として指定ごみ袋の販売数量を把握することは有用な手段の一つと考えられる。また,被告が上記(ア)の目的を実現するための施策として指定ごみ袋の供給及び販路の適切な確保を図る際,年間に費消される指定ごみ袋の数量を把握することは一つの有益なデータであると解される(なお,このデータは,一括購入・一括販売方式において指名競争入札を行う際の入札業者の選定手続等への活用や,被告において平成12年3月31日以前に行われていた旧指定袋の販売方式を実践するとした場合の申請業者に対する状況の説明等への活用なども想定しうる。)。
さらに,上記認定事実によれば,ごみ処理手数料の従量制が導入されたのは,定額制による不平等を是正する点に主眼があったものと解されるところ,一括購入・一括販売方式は,町民のごみ処理にかかる実質的な費用負担についての平等(すなわち指定ごみ袋の価格の統一)を図ることを目指したものと評価することができる。
また,ごみ処理手数料の確実な徴収に関しても,被告,指定ごみ袋製造業者,指定ごみ袋の販売小売店,利用者たる町民それぞれの利害得失,被告によって実現されるべき廃棄物の適正処理の具体的内容,生活環境の保全及び公衆衛生の向上の具体的内容並びにそれに要する費用等の諸事情を総合考慮して判断されるべき事項といえる。
以上のとおり,原告の主張は,ある政策目的を実現するための手段を検討する際に考慮すべき関連要素,利害得失,諸条件等といった政策的判断について,特定の側面からの事情を主張するにすぎず,原告の主張する内容以外にも様々な状況,内容が想起しうるところであって(かかる意味において上記判示部分は,想起しうる例を示したにすぎない。),結局のところ,被告の議会に委ねられた裁量的判断の問題にすぎないものと言わざるを得ない。
(エ)上記(ア)の規制目的に,以上の検討内容を照らし合わせれば,本件条例及び本件規則による本件制度の運用及びそれに伴う一括購入・一括販売方式の採用は,被告の立法政策上の問題として合理的裁量の範囲内にとどまるものと評価することができる。
ウ なお,原告の提出する意見書(甲23)は,前提とする事実関係及びその評価並びにその判断基準が上記認定事実及び上記基準と異なることから,採用することができない。
エ 以上のとおり,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式が,憲法22条1項に違反するものとは認められない。
(3)ア国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税にあたるというべきである。また,憲法84条に規定する租税にあたらない場合であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては憲法84条の趣旨が及ぶものと解される。もっとも,租税以外の公課は,租税との相違点もあり,また,その内容等も賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,その規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきである(最高裁平成12年(行ツ)第62号同18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)。
イ これを本件についてみるに,そもそも原告が被ったと主張する損害との関係において,被告が調整金名目の売買差益を得ている点が租税法律主義に違反するとの主張がどのような意味を有するかが必ずしも明らかではなく,とりあえずこの点は措くとしても,指定ごみ袋の購入に際して徴収されるごみ処理手数料及び調整金は,町民が,被告の行う一般廃棄物の収集,運搬,処理業務という行政サービスを受けるための対価的性質を有するものであるから,憲法84条に規定する租税には該当しない。
ウ 次に,本件条例第5条第2項によれば,町民が一般廃棄物の収集,運搬,処理業務という行政サービスをうけるためには指定ごみ袋を購入し,これを利用してごみの排出を行わなければならず,また,本件条例第8条第3号及び本件規則第6条によれば,町民は,ごみ処理手数料及び調整金が代金額に含まれた指定ごみ袋を購入する仕組みとなっており,ごみ処理手数料及び調整金は,指定ごみ袋の小売店を介して被告に納入されることとなる。かかる点において,ごみ処理手数料及び調整金は租税に類似する強制徴収としての側面を有するものといえる。
もっとも,ごみ処理手数料及び調整金は,上記のとおり被告による一般廃棄物の収集,運搬,処理業務という行政サービスの対価的性質を有するものであるうえ,ごみ処理手数料の従量制の導入及び調整金は,ごみ処理手数料の定額制における町民間の不平等を解消してごみ処理に要する経費の公平な負担を実現するとともに,安定した上記行政サービスの提供を行うことに目的があるものと解され,この目的は合理性を有するものと評価することができる。また,ごみ処理手数料の額は本件条例第8条第1号に具体的な金額をもって明記されている。そして,上記のとおり本件条例及び本件規則は一括購入・一括販売方式を規定しているものと理解できるところ,調整金の額は,同方式及び本件規則第6条に基づき,指定ごみ袋の販売価格から売りさばき手数料,ごみ処理手数料及び袋原価を差し引くことで算定することが可能であり,その根拠が不明確であるとまではいえない。さらに,証拠(甲20の2ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,被告は調整金を含め,小売店から支払われた指定ごみ袋代金を一般会計として予算に組み込み,予算に対する審議の方法によって被告の議会による審査(民主的統制)を経ているものと認められる。
以上の点に,上記(1)及び(2)記載のとおり,本件制度の運用及びこれに伴う一括購入・一括販売方式が,法令上の根拠に基づくものであり,かつ,本件条例の目的(被告町内における一般廃棄物の収集,運搬,処分等の処理に関する被告の能率的な運営,被告町内の生活環境の保全及び公衆衛生の向上等)に照らして被告の合理的な裁量の範囲内の施策(運用方式)であることを併せ考えれば,ごみ処理手数料及び調整金に関する規律・運用が憲法84条の趣旨に反するものと評価することはできないというべきである。
(4)そうすると,本件運用及びそれに伴う一括購入・一括販売方式が,国家賠償法1条1項の違法性を有するものとはいえない。
3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 藤倉徹也)