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静岡地方裁判所富士支部 平成4年(モ)41号 決定 1992年7月15日

債権者

大石寺

右代表者代表役員

阿部日顕

右代理人弁護士

三宅信幸

小川秀世

小長井良浩

債務者

甲野一郎

外三名

右四名代理人弁護士

松浦安人

主文

一  債権者と債務者ら間の当庁平成四年(ヨ)第一二号宗教活動等防害禁止仮処分申立事件について、当裁判所が平成四年二月二六日になした仮処分決定はこれを認可する。

二  申立費用は債務者らの負担とする。

理由

一申立

1  債権者

主文第一、二項同旨。

2  債務者ら

(1)  主文第一項掲記の仮処分決定を取り消す。

(2)  債権者の本件仮処分申立を却下する。

(3)  申立費用は債権者の負担とする。

二当裁判所の判断

1  本件疎明資料並びに参考人山崎慈昭審尋の結果によれば、以下の事実が一応認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

(1)  債権者は、日蓮正宗の総本山で、教義を広め、儀式行事を行い、信者の教化育成等の事業を行う宗教法人であり、寺院の境内及び施設の敷地等として別紙物件目録記載の土地を所有ないし管理し、同土地上に正本堂、宗務院等の施設を所有して(これら一体の土地建物を総称して以下、本山という。)、同所においてその業務を行うものである。

(2)  債務者らは、いずれも右翼政治団体の代表者であり、平成三年一一月一七日頃約四〇名で街頭宣伝車一四台を連ね、本山に押し掛けて、その周辺において街頭宣伝活動を行った上、ほぼ全員が戦闘服を着用しドーベルマン二匹を連れ、本山の三門から境内に侵入し、約一時間にわたって威勢を示したのを始めとして、以後平成四年四月頃まで連日のように本山に押し掛け、共同して次のような行為を含む街頭宣伝活動等(以下、本件街頭宣伝等という。)を繰り返した。

① 債権者の儀式行事に対する妨害

債権者の二大法要の一つである「御会式」が挙行された際や、約四〇〇名の信徒が参詣して行われた成人式の際、債務者らは、街頭宣伝車数台で長時間にわたり街頭宣伝活動をし、拡声機のボリユームを最大にして軍歌あるいは他宗のお経を流し、式典参加者らに対し罵声、怒号を浴びせた。また、本山から南へ約二キロメートル離れた下之坊において債権者住職、僧侶約五〇名が出席して執行された「御会式」の際、下之坊の入口に街頭宣伝車を停止させ、債権者住職の入場を妨害した外、法要中軍歌を流し、怒号を繰り返して、式の進行を妨害した。

② 宗務行政事務の執行に対する妨害

宗務行政全般を司る宗務院近くに街頭宣伝車を停止させ、電話交換業務が出来ない程の大きな音量で軍歌や他宗のお経を流したり、演説等をするため、宗務行政事務の執行が妨害され、各種の研修会や勉強会の進行にも支障が生じた。

③ 債権者に対する名誉棄損

宗務院前路上に赤スプレーで「天誅日顕死ね、すけべ坊主日顕、天誅タコ坊主日顕」と落書したり、宗務院近く等で多い時で一一台の街頭宣伝車を連ねて演説し、「極悪坊主」、「バカ坊主」等の侮辱的表現や「天誅」、「天罰」、「仏罰」等過激な言葉を用い、債権者代表者を名指しで誹謗中傷したり、あからさまに敵意、反感の感情を露にし、あるいは「日顕は出ていけ。」等のシュプレヒコールを繰り返した。

④ 不法侵入及び暴力行為

無断で境内に侵入することがあり、平成三年の大晦日には本山で遅くまで行事が行われ、かつ、多くの参拝者がある中を債務者らのうち三名が境内に侵入したため、警備の者と揉み合いになり、警察官が出動する騒ぎになった。その翌々日大型の街頭宣伝車二台が宗務院前のバリケードを破ってその北側の境内に侵入した上、警備の者が暴行された。右の暴力行為により債務者丁山とその配下の者が逮捕された。

⑤ 本山の平穏を害し、信徒の墓参を妨害する行為

戦闘服を着用して本山周辺を徘徊したり、本山周辺で昼夜を問わず爆竹を鳴らして、本山の住人や信徒並びに付近の住民に不安と緊張を与え、また、本山に隣接する墓地に通じる道路の各入口に街頭宣伝車を停止させて、信徒の墓参を妨害する行為を継続した。右のうちには警察官が出動する騒ぎになったものもある。

⑥ 債権者理事や僧侶に対する面会強要

債権者僧侶の自宅や本山の宗務院等に押し掛けて、家族を脅したり、乱暴な口調で債権者理事らや本山の僧侶との面会を度々強要し、面会を断られると、「何が起こるかわからんぞ。」と言って脅迫した。

(3)  本件街頭宣伝等は、本山の近隣における債務者らの街頭宣伝等を禁止する旨の主文第一項掲記の仮処分決定が債務者らに送達された後も継続された。

(4)  債務者らの本件街頭宣伝等は、債権者の業務を妨害しただけに止まらず、地元住民の生活を脅かした。地元の富士宮市区長会上野支部は平成三年一二月九日頃富士宮市や富士宮警察署等に対し、「大石寺周辺に右翼と目される一団が街頭宣伝活動をしている。騒音は常軌を逸しており、当地区住民の迷惑は極度に達し、日常生活の安定が脅かされている。一日も早く地域住民が平常の生活に戻れるよう解決に当たることをお願いする。」旨の陳情書を提出し、具体的な騒音被害として、①夜間勤務者の帰宅後の安眠妨害、②乳幼児の睡眠妨害及び恐怖心の助長、③区民の住宅前に車を駐車させ、住宅への出入りの妨害、④小・中・高校生の自宅学習の妨害及び学校行事の中止、学校教育への被害、⑤自宅療養中の病人への安静度の妨害などを挙示した。そして、陳情を受けた富士宮市及び同市議会は、街頭宣伝行為に対する規制の必要を認め、その対策として、静岡県による暴騒音規制条例の設置に向けて、関係行政機関に積極的に要請していくことで検討を開始した。

2 右認定の事実関係によれば、債務者らの本件街頭宣伝等は、直接的な暴力を用いたものはもとよりのこと、それ以外の行為にあっても、何台かの街頭宣伝車で押し掛け、拡声機を用い、地元住民の生活さえ脅かす態様で繰り返された過激な演説等は物理的威力を用いた暴力に外ならず、その他本山の平穏を害する行為等も、債権者代表者らに対する反感から、債務者らにおいて債権者を威嚇脅迫し、あるいはその宗教活動を妨害して畏怖困惑させることを意図した一連の行動というべきであって、債権者の財産権や名誉及び宗教法人として平穏に社会活動をなしうる権利を侵害する違法行為であることが明らかである。もっとも、債務者らは、本件街頭宣伝を行うにつき道路交通法に基づく警察の道路使用許可を得たこと、あるいは憲法上の政治的表現の自由、政治活動の自由を主張するけれども、右道路交通法上の許可は道路交通の秩序維持の見地からなされるものであって、右の結論を左右する事由ではなく、また憲法上の表現の自由、政治活動の自由も、本件街頭宣伝等の如き違法行為を許容するものではないから、採用の限りではない。

3 以上によれば、債権者は、債務者らに対し、財産権又は人格権に対する侵害行為の差止請求権に基づき、その侵害行為たる自己の所有ないし管理する本山に対する立ち入り、債権者の僧侶、従業員等に対する面会の強要、本山の近隣(周辺二〇〇メートル以内)における街頭宣伝等の各禁止を求めることができるというべきである。よって、その旨の本件仮処分申立を認容した主文第一項掲記の仮処分決定は相当であるので、これを認可することとし、申立費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官髙橋勝男)

別紙物件目録

富士宮市上條字大石原二〇五七番一(地目境内地、三六一三二平方メートル)を含む末尾添付地図の橙色で表示された部分。

別紙添付地図<省略>

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