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静岡地方裁判所富士支部 昭和49年(わ)113号 判決 1975年1月16日

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

押収してある改造けん銃一丁を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、大川勝志、竹沢好子と共謀のうえ、竹沢好子の株式会社新東海スーパー(代表者代表取締役西森章)に対する額面合計一、一二五万円の手形小切手等有価証券債権と西森章に対する一、〇〇〇万円の貸金債権を取り立てることを口実にして、右西森及びその家族を脅かして金員を喝取しようと企て、被告人及び右大川において、昭和四九年五月九日午後一一時ころ、富士市伝法字小林一、四八二番地の一右西森章方に押しかけて同人方に入り込み、同人とその妻愛子に対し、被告人において一、〇〇〇万円、右大川において二、五〇〇万円の債権を竹沢好子から譲り受けているからこれを支払えと執拗に要求したうえ、大川において「俺らはお前から金を取りに来ているんだ。どんなことがあっても取って帰るからそのつもりでおれ。」「兵庫でも元警察署長の家に居座って取り立てをしたことがある。」被告人において「金を出さなければ俺達も帰らないし、俺が号令をかければ若い者が五〇人でも一〇〇人でもやって来る。今は地元の土屋の顔をたてておとなしくしているが、そうでなければ何をしていたかわからんぞ。」などと申し向け、右西森らが容易にこれに応じないと見るや、そのまま同人方に居座り、爾来同年六月二五日までの間、同人の退去要求にも応ぜず、その意思に反して寝具、電話器等を運び入れ、輩下の池田明生、平井久継ら数名を加えて約四八日間にわたり交互に泊り込みを続けて同人方を不法に占拠し、もって故なく人の住居に侵入すると共に、その間右不法占拠の状態を利用して右西森らに対し、こもごも「子供じゃああるまいし二〇〇万や三〇〇万で俺達が帰れると思うか。」「金を払わなければお前なんか殺してやる。明日はお宅らを大阪へ連れて行くから夫婦で生命保険に入っておけ。」などと執拗に申し向け、もし同人らにおいて右要求に応じなければ、本件居宅から退去せず、いつまでも不法に占拠して家庭生活の平穏を破壊するばかりか、同人らの身体、自由に対しどのような危害を加えるかも知れない旨の気勢を示して脅迫し、同人らをしてその旨困惑畏怖させたが、ついに富士警察署員に逮捕されてその目的を遂げなかった。

第二、法定の除外事由がないのに、昭和四九年六月二五日午前一〇時五〇分ころ、富士市伝法字小林一、四八二番地の一西森章方において、コルトフロンテアスカウトモデルけん銃を改造したけん銃一丁を所持した

ものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為中西森章の住居に侵入した点は刑法六〇条、一三〇条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、西森章、西森愛子を恐喝してその目的を遂げなかった点はいずれも刑法六〇条、二五〇条、二四九条一項に、判示第二の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の一号、三条一項に該当するところ、判示第一の住居侵入と恐喝未遂の所為は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として刑及び犯情の重い西森章に対する恐喝未遂罪の刑で処断することとし、判示第二の罪につき所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の西森章に対する恐喝未遂罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から四年間右の刑の執行を猶予し、押収してある改造けん銃一丁は判示第二の銃砲刀剣類所持等取締法違反の犯罪行為を組成した物で犯人以外の者に属しないから、刑法一九条一項一号、二項によりこれを没収することとする。

(判示第一の住居侵入罪と恐喝未遂罪の罪数関係を観念的競合と判断した理由について)

判示第一の住居侵入罪と恐喝未遂罪の罪数関係につき考察すると、本件住居侵入行為は、判示のとおり、金員喝取行為の内容そのものであって、継続的な住居侵入行為の途中において一時的に恐喝行為に及んだ場合と異なり、右両行為は時間的にもその大部分において一致するばかりでなく、相互間に極めて密接した統一的関連性が認められるのであるから、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとでこれを評価すれば、社会的見解上一個の行為と評価しうるものである。したがって、本件における住居侵入罪と恐喝未遂罪とは観念的競合の関係にあるものと解するのが相当である。

(量刑の理由)

前掲各証拠によれば、被告人の判示第一の所為は債権取り立て名下に多額の金員を喝取しようと企てたうえ、四八日間という長期間にわたって他人の住居を不法に占拠し続けたものであって、極めて悪質な犯行と評されてもやむを得ないところであるが、被告人は、他の共犯者との関係においては従たる地位にあったものと認められること、事件後深く反省して被害者の慰藉に尽くし、西森夫妻との間に示談が成立し、同人らから寛大な処罰を望む旨の嘆願書が提出されていること、被告人は現在工務店に就職してまじめに稼働しており実刑を科することは更生の努力への妨げになることなどの諸事情を考慮し、刑の執行を猶予する。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 北野俊光)

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