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静岡地方裁判所富士支部 昭和63年(フ)3号 決定 1988年4月22日

申立人

秋山功

主文

本件破産の申立を却下する。

理由

一本件申立の趣旨、原因

申立人は、「申立人秋山功を破産者とする。」旨の裁判を求め、その原因は別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

本件記録によれば、(一) 申立人は、昭和五六年一〇月一九日、静岡地方裁判所富士支部に富士信用金庫外四名の債権者に対し合計一億一五〇三万九一〇二円の債務を負担し、支払不能の状態にあることを原因にして破産の申立(昭和五六年(フ)第一号)をしたこと、(二) 同裁判所は、右破産事件について審理の結果、昭和五六年一一月五日午前一〇時、申立人がその主張のとおり富士信用金庫外四名の債権者に対し合計一億一五〇三万九一〇二円(なお、決定書に「一一五、一〇二円」とあるのは、「一一五、〇三九、一〇二円」の誤記と認められる。)の債務を負担し、これが支払不能の状態にあり、かつ、破産財団をもって破産手続の費用を補うに足りないことを認定したうえ、「債務者秋山功を破産者とする。本件破産を廃止する。」旨の破産宣告及び同時廃止の決定をなし、右決定に対しては抗告の申立をする者がなく、同決定は同月二八日の経過により確定したこと、(三) こうしたのち、申立人は、右同時廃止決定確定後六年余り経った昭和六三年三月一六日、再度、前記破産事件における債務と全く同一の富士信用金庫外四名の債権者に対する合計一億一五〇三万九一〇二円の保証債務を負担し、支払不能の状態にあることを原因にして本件破産の申立をしたものであり、本件破産の申立については前記破産宣告及び同時廃止後に新たに債務を負担したとか、新たに破産財団に属すべき財産を発見したとかの事実はその理由に挙げられていないこと、(四) 申立人は、前記破産宣告及び同時廃止決定確定後、現在まで免責の申立をしておらず、復権の決定も得ておらず、本件破産の申立をした目的ないし動機として再度破産宣告を受けたうえ、今度は破産手続の解止に至るまで又は同時廃止決定確定後一か月以内に免責の申立をなし、免責の許可を得たい旨述べていること、以上の事実が認められる。

そこで、右事実に基づき、本件申立の適否につき考えるに、破産法一四五条一項により破産の廃止は、破産原因のある債務者について一旦破産を開始し、それと同時に破産を終了させる手続であって、これにより、債務者は破産者になるが、宣告後の破産手続は行なわれず、将来に向かって解止されるものであり、破産廃止の決定に対しては即時抗告(破産法一一二条)によって争いうるにとどまり、同時廃止については、強制和議による破産終了の場合(同法三三五条)のように破産手続の続行に関する規定は存しない。しかして、一旦破産廃止の決定が確定したときは、破産手続はここに確定的に終了し、以後、破産債権者は各自その債権について破産手続によらないで権利行使ができるようになり、同一の債権に基づき再度の破産の申立をなすことは許されないと解すべきである(大審院昭和八年七月三一日決定・裁判例(七)民事一九九項参照)一方、債務者もまた同一の債務の負担を理由にして再度の破産の申立をすることはできないと解するのが相当である。なお、破産法九七条一項後段はいわゆる第二破産の宣告に関する規定であるから、同条項をもって同一の債務負担を原因として再度の破産宣告をなしうる根拠とすることはできない。

申立人は、前記同時廃止決定の確定後一か月以内に免責の申立をしなかったので、本件により再度破産宣告を受けたうえ、破産法三六六条ノ二第一項所定の期間内に免責の申立をしたい旨述べるが、そうだとすれば、免責申立の追完(破産法三六六条ノ二第五項)を試みるのが本則であり、本件のような場合に再度の破産宣告を安易に許容すれば、破産法三六六ノ二が免責申立の期間につき厳格な定めをした趣旨を没却することになるので、相当でないといわざるをえない。

三結論

以上のとおり本件申立は不適法なものであるからこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官榎本克巳)

別紙申立の原因

一、申立人は現在、富士市田子浦所在の上野輸送株式会社田子浦事業所(本店、横浜市山下町)に油類輸送の運転手として勤務中で、月収は二二万円余である。

二、ところで申立人は昭和四五年三月妻文惠と婚姻の際偶々申立て人が当時静岡県富士川用水に地方公務員として在職中同僚であった杉浦方美が申立人夫妻の媒酌人となって婚姻した。

三、その後右杉浦は昭和五一年二月、ニチエキ株式会社(昭和五五年六月一三日倒産)なる商号のもとに豆腐類の製造機械の製作を主業とする会社を設立し、自らその代表者に就任した。

四、爾来、右杉浦は会社運営資金を金融機関から調達を受けるに当り申立人を保証に立てせしめるため、再三、申立人方を訪れた。

申立人は昼間は前記会社に勤務のため不在であったが、妻文惠に「決して迷惑をかけないから」と申向け、申立人等も媒酌人の為すこととて万一にも間違いないものと信じ何らの疑義も抱かず、右杉浦の要請のままに悉く応じ申立人の妻文惠は記名押印して融資の保証に協力した。

五、ところが、前記杉浦の経営するニチエキ株式会社は事業の伸悩み、ないし融通手形の交換等の悪循環から脱し切れず、昭和五五年六月一三日遂に不渡りを出し総額四億数千万円余の負債を抱え事実上倒産した。かくして右会社が倒産するや、代表者の杉浦はいち早く前住居の富士市森島を引払って熱海市春日町一三番一二号に転居し、債権者の追究の手を逃れ、彼自ら破産宣告の法的手続をなすに至り、現在は東京都町田市金森一三八〇番地の六二に居住している。

そこで債権者(金融機関)は当然保証人である申立人にその鋒先を向けて来たのである。

六、右の次第で、申立人が保証の責を負うべき債務は、別表のとおり総額一億一千五〇〇万円余であって、関係金融機関からは矢継早に請求、督促を受けている現状で申立人は全く居た、まれず、再三に亙り、右杉浦にその善処方を要請して来たが、同人はその都度、居留守を使い、又は言を左右にして一向にその善後措置を講じる気配はない。

七、申立人は一介のしがない給料取りで借家住いであり、前示の如く億余の負債を到底背追い込むことは不可能であり、かつ、財産はなく、弁済の方途も全くない。

更に按ずるに申立人と前記倒産会社とは利害関係は全く存在せず、唯々、代表者の杉浦との個人的縁故関係のみであって今となっては右杉浦の奸策に乗ぜられたのがその実情であって、このまヽでは悔いを千載に残すことヽなるので過般来親族一同と協議の結果、破産により処理する外ないと思料せられたので、昭和五六年一〇月二〇日御庁に自己破産の申立をなし、御庁は同年一一月五日破産宣告及び同時廃止の決定をした(昭和五六年(フ)第一号)。

八、ところが、申立人は免責の申立をすることに気付かず今日まできたが、最近金融機関から再び右の督促を受けるに至り、再度破産宣告の申立をなし、その宣告決定を得て免責を受けたく、この申立に及んだ。

九、なお、前回の破産宣告後、財産状況には何ら変更はない。

別紙債務一覧表

一、富士信用金庫

割引手形 二九、二八〇、〇〇〇円

手形貸付 二六、九〇八、〇〇〇円

証書貸付  二、四七九、〇〇〇円

計五八、六六七、〇〇〇円

二、静岡信用金庫

割引手形 二五、三五六、五七九円

手形貸付    九五六、〇五三円

〃    一、〇〇一、四七〇円

計二七、三一四、一〇二円

三、信用保証協会(静岡銀行)

計一七、七八〇、〇〇〇円

四、国民金融公庫

計 八、六五〇、〇〇〇円

五、静岡商工資金

計 二、六二八、〇〇〇円

総計一一五、〇三九、一〇二円

別紙保証状況一覧表

一、富士信用金庫

債務者 ニチエキ株式会社

保証人 杉浦方美、秋山功、小西康夫、石井正市

二、静岡信用金庫

債務者 ニチエキ株式会社

保証人 杉浦方美、石井正市、秋山功

三、信用保証協会

債務者 ニチエキ株式会社

保証人 杉浦方美、小西康夫、秋山功

四、国民金融公庫(二口)

(一)債務者 ニチエキ株式会社

保証人 杉浦方美、植田勝美、秋山功

(二)債務者 前 同

保証人 杉浦方美、小西康夫、秋山功

五、静岡商工資金共同組合

債務者 杉浦方美

保証人 小西康夫、秋山功

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