静岡地方裁判所沼津支部 事件番号不詳 判決
本籍と住居
沼津市西間門四二三番地ノ一
工員 川口〓
大正十三年八月二十八日生
本籍と住居
同市小諏訪四四七番地ノ二
工員 廣瀨七郞
昭和二年十月十日生
本籍と住居
同市岡宮五五二番地
工員 永田甚作
大正十二年六月四日生
本籍と住居
三島市中二八二番地ノ二
工員 磐事 川口盤
昭和二年十一月三十日生
本籍
三島市二四〇五番地
住居
靜岡縣駿東郡淸水村伏見八一八番地
工員 大嶽千代子
昭和三年六月二十六日生
右の者等に対する公務執行妨害電信法違反被告事件に付当裁判所は檢事杉村傳関與の上審理を遂げ次の通り判決する。
主文
被告人川口〓、同廣瀨七郞、同永田甚作、同川口盤を各懲役八月に、同大嶽千代子を懲役六月に処する。
理由
第一 (一)事実
被告人川口〓、同廣瀨七郞、同永田甚作は、孰れも沼津市所在大川螺子製作所の工員で全日本金属労働組合大川螺子分会の執行委員、被告人川口盤、同大嶽千代子は電業社三島工場の工員で川口盤は前記労働組合電業社三島工場分会の常任執行委員、大嶽は同分会の常任書記である処、昭和二十三年十月上旬沼津市沼津郵便局電話課電話交換手等が同郵便局長に対してスリッパ及び交通費の支給を要請し、同局長に於て右は自己の権限外であるから上司に上申して善処するという事になり、同月十五日朝同局長から其の結果に付回答があつたけれども單に右要請は容れられなかつたと言うのみで余りに簡單なので交渉委員が右上申の模様を詳細に説明して呉れと迫つたものの之に應じないままに其の交渉を同日午後に持越す事になつたが、其の頃被告人等は孰れも駿豆地区労働会議と称するものから全逓沼津支部の右爭議状況調査方の依賴を受けて同郵便局に赴き、同郵便局長に面会を要求して面会人数を制限され結局拒絶されたものとして憤慨し、被告人大嶽を除く他の被告人等は同所に集つた局員外の者十数名と共にスクラムを組み、労働歌を歌つて同局内中庭より殆ど女子交換手のみ執務中の電話課電話交換室内に至り、同所で被告人大嶽も加わつて、孰れも暗黙の内に同室で勤務中の交換手等を煽動して右局長に対する爭議要求に参加させ其の爲同交換手が職場を離れるのも已むを得ないと共謀の上、同所の狭隘な通話台の間でインターナショナルの歌を高唱し、或いは同所を土足で数回練り歩き、局長と交渉中の組合員の應援に行けとせき立て氣勢を挙げて不当に威圧を加え、右電話交換事務に從事中の一部交換手をして椅子を立たせ、或いは泣き出させ因つて電話交換監督香泉きみ外電話交換事務從業員の公務の執行妨害し電話に依る通信を障碍したものである。
(二)証拠
一、第一回公判調書中被告人川口〓、同廣瀨七郞、同永田甚作、同川口盤、同大嶽千代子の各供述記載
一、第二回公判調書中証人山田修保(沼津郵便局電話課主事)同鈴木鎗次(同郵便局電話課長)同茗荷佐喜司(同郵便局長)の各供述記載
一、香泉きみに対する昭和二十三年十一月一日付檢事聽取書
(三)適條
電信法第三十七條、刑法第九十五條第一項第六十條第五十四條第一項前段十條
第二、(一)被告人等及び弁護人等は被告人等の本件所爲が労働組合の活動として当然爲し得るものと認められた正当な團体交渉其の他の行爲であるから労働組合法第一條第二項により刑法第三十五條の適用を受け違法性を阻却され無罪である旨主張する故、此の点に付判断するに、抑々労働組合法に於て労働組合とは使用者に対し之に使用される労働者が主体となつて自主的に労働條件の維持改善其の他経済的地位の向上を図る事を主な目的として組織する團体又は其の聯合團体であると謂うべき処、被告人等が本件使用者である沼津郵便局の労働組合に所属していない事は判示認定の如くであるのみならず、前記聯合團体は労働組合法第五條第一項所定の届出をして始めて同法に所謂労働組合として取扱われるものであるが本件に於て右聯合團体と見るべき判示駿豆地区労働会議と称するものがかかる届出を爲した事を認めるべき何等の証拠もないから被告人等が同法の適用を受ける聯合團体である労働組合にも属していると言う事が出來ない。
從つて被告人等の本件所爲は孰れの点より見ても之を同法第一條に所謂労働組合の行爲と言う事が出來ないから被告人等及び弁護人等の主張は之を採用しない。
(二)弁護人佐々木茂は被告人等の本件所爲が沼津郵便局労働組合員の生命身体若しくは財産に対する現在の危難を避ける爲已むことを得ず爲したもので被害法益が保護法益を超えないから無罪である旨主張するけれど判示認定程度を以ては未だ右の如き現在の危難があるものとは言い得ないから右主張は之を採用しない。
依つて主文の通り判決した。
(裁判長判事 豊田太郞 判事 高橋淸 判事補 土橋義廣)