静岡地方裁判所沼津支部 平成15年(ヨ)149号 決定 2004年8月04日
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別紙当事者目録のとおり
主文
本件申立てをいずれも却下する。
本件申立て費用は債権者の負担とする。
理由
第一本件申立ての趣旨
1 債権者ら
1) 債権者らが債務者の従業員であることを仮に確認する。
2) 債務者は債権者らに対し、別紙(略)賃金目録記載の賃金を仮に支払え。
2 債務者
債権者らの請求をいずれも却下する。
第二本件の争点
債務者御殿場自動車株式会社(以下「会社」という)による本件解雇が不当労働行為ないし解雇権濫用による解雇として無効であるか否か。
第三申立ての原因等
1 会社は、昭和二五年五月創業で、従業員四四名を擁し、自動車運送事業、自動車運送取扱事業、倉庫業等を目的とする株式会社であり、主に貸し切り観光バス事業を行っていた会社であって富士急行株式会社が株式を保有し、役員も出向を受けている富士急行グループ系列会社である。
なお、富士急行グループには、本件会社の他、富士急行観光株式会社、富士急平和観光株式会社、富士急山梨バス株式会社、富士急横浜観光株式会社、富士急静岡バス株式会社、富士急シティバス株式会社、株式会社フジエクスプレス、富士急湘南バス株式会社といった観光バス事業を営む会社が存在する。
2 債権者らは、会社の従業員であり、全日本建設交運一般労働組合御殿場自動車支部(以下「建交労」もしくは「建交労御殿場自動車支部」と言う)の組合員である。
3 会社は平成一五年一〇月二日付けで各従業員に対し、同年九月三〇日付けで会社を解散し、同年一一月五日付けで全員解雇する旨の通知をした。
4 債務者会社は合理化を進めた結果、富士急行グループの会社の中でトップの労働条件を維持しつつ発展してきたが、会社は平成一四年の賃金改定交渉の際に、運転手の賃金切り下げを提案し、債権者らとの間で、同年八月一三日から平成一五年三月二八日まで八回にわたって団体交渉を行ったものの、会社がバスの減車、希望退職者の募集及び整備の外注の提案をしたことから激しく対立して中断した。その後、同年七月二日会社と債権者らの間で、一時金の団体交渉が持たれたが、その第三回団体交渉の場で、会社は賃金改定を一時金支給に絡ませて再提案してきた。債権者らは、容易な人件費削減のみでなく、会社全体で経営改善すべきものとの観点から「経営改善委員会の設置」を要求し、会社もこれに応じる姿勢を示した。しかし、その後も債権者らから団体交渉の開催を申し入れるも、会社は「賃金改定の交渉は当分しないから、団体交渉は待って欲しい」との返答をしてきたものの、会社の仕事の受注が減りだし、他のグループ子会社からは「御殿場自動車は潰される」との噂が入ったため、同年九月二六日労使懇談会を申し入れた。それに対し、会社は、「会社からも提案したいことがある。一〇月二日にやれるかどうか、社長に確認してみる」との返答があったものの、労使懇談会が開催されることはなく、同年九月三〇日突然会社解散の通知が債権者らになされたのである。
5 しかしながら、本件の会社解散は、債権者らの組合潰しを目的としたものであり、かつまた、新たにグループ子会社内で結成された組合に対する牽制としてなされた不当な解散であるから解雇も無効である。
すなわち、富士急行グループには、上記のとおり多数の関連会社があるが、唯一御殿場自動車のみが建交労を上部団体とする組合であり、債権者らが主要な組合員であって組合活動が充実していたため会社側は、安易な労働条件の切り下げを容易に行うことができなかった。賃金改定も他のグループ会社に比べて解決が遅れていたので、富士急行グループから債権者らの組合は敵視されていたのである。
また、富士急行グループの関連会社においても、平成一五年九月一日富士急シティーバスが、同年九月二六日富士急静岡バスがそれぞれ労働組合を結成し、そして富士急静岡バスは債権者らの組合と同じく建交労に加入したため、富士急行グループとしては、これら組合が債権者らの組合と団結して、今後、乗務員の労働条件改善を求める大きな運動体となることを恐れたのである。
したがって、会社は手形不渡りの危険のような切迫した事情もないのに、一年の収益の約三分の一以上を挙げる観光シーズンの一〇月に慌てて会社を解散する必要は一切なく、むしろ、会社が解散することにより、既に受注していた仕事を、時期的に繁忙な他の会社に割り振りお願いし、旅行者、旅行会社にも迷惑を掛けることになる等の社会的影響の大きいこの時期に、あえて解散する必要がないのである。しかるに、突然会社が本件解散をしたということは、会社は受注済みの仕事を他のグループ子会社で受注させれば、グループ全体としてみれば、大きな損失はないとの判断の下に、他のグループ子会社における新たな組合結成の動きに対し、会社解散・全員解雇という方法により債権者らの組合を潰すことで他のグループ子会社を牽制する意図に出たものに他ならない。
よって、本件の会社解散は、会社を解散・消滅させることによって活発な組合活動をしてきた建交労御殿場自動車支部を潰すことを目的としたものであり、労働組合法第七条一号に定める不当労働行為に該当する無効なものであるから、本件解雇も無効である。
6 そうでないとしても、本件解雇は権利濫用であり無効である。
使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的理由を欠き、社会通念上到底是認することができない場合には権利濫用として無効になるというべきである。
業績悪化を理由とする会社解散に伴う従業員の全員解雇において、権利濫用か否かを判断するにあたっては、当然整理解雇四要件が斟酌されるべきであり、本件にはそれを満たさないから権利濫用として無効である。
(1) 人員削減の必要性 ~解散・全員解雇の必要があったのか。
従業員の解雇を伴う会社解散は、従業員に多大な負担をかけるものであるから、企業の社会的責任の観点からも、会社解散に合理的理由がなければならず、業績悪化を理由とする解散・全員解雇に合理的理由が必要であるところ、本件には、合理的理由が認められない。
(2) 会社は解散の理由として、「年々悪化してゆく経営環境」をあげているが、会社の経営状態は必ずしも悪くない。
会社の損益計算書によれば、ここ三年の経常利益は
平成一二年度 一九、四四九、〇一三円
平成一三年度 一、九八八、七七一円
平成一四年度 △四、九二二、二一七円
であり、赤字となっているのは、平成一四年度のみである。しかも、その赤字額は、約五〇〇万円であり、約四億六五〇〇万円もの営業収益のある会社から見れば回復は充分に可能な赤字である。
貸借対照表においても、その総資産は約六億七三〇〇万円であるのに対し、負債は約四億八〇〇〇万円に過ぎない。また、会社は、本社所在地の他に、沼津市(略)及び東京都江東区(略)に、それぞれ固定資産の土地を有しており、貸借対照表上は簿価評価であるが、時価評価で見ると、総資産額が相当額にのぼり、貸借対照表上も余力のある会社である。
従って、会社は、債務超過になっていないばかりか、その虞もない会社であり、会社解散をする合理的理由は全く存在しない。
(3) 会社は解雇回避の努力もしていない。
従業員の全員解雇は最終手段であるから、それを実施する前に当然に経費の削減(役員報酬を含む)、賃金カット、一時帰休、希望退職等の雇用調整を行い、解雇回避の努力をすべきところ、会社はこれを行っていない。
即ち、債権者らは、平成一五年七月の一時金交渉後も会社との約束どおり賃金改定の交渉を積極的に持とうとしたものの、会社がこれに応じず、賃金改定に向けた団体交渉を持とうとしなかった。人件費以外の経費削減についても、債権者らは経営改善委員会を設置して、経費削減に協力しようとしたが、会社はこれを開こうともしなかった。
さらに、会社は、平成一五年に入った頃から、毎年受けていた日本旅行からの仕事受注を断るなど、積極的な営業活動は勿論、消極的な営業活動すらしてこなかった。
以上のように、会社は「経営環境」を改善し、会社解散・全員解雇を回避する努力を怠り、むしろ、経営悪化させるような経営を続けたのである。
4) 事前説明・協議義務
会社解散、従業員の全員解雇においても、当然にその手続の適正さが求められるべきであるところ、本件では、会社と債権者らの組合との間で、賃金改定・労働協約締結についての団体交渉が継続されていたのにもかかわらず、組合に対して一切の事前通知もなく、突然解散、解雇を通告してきたもので、当時の会社が企業継続が困難であって組合との話し合いの余裕も持てずに、直ちに解雇を実行しなければならないように切迫した客観的状況にあったわけでないのに、事前になんらの協議もすることなく、解散・解雇を決定して通告してきたのは、事前説明・協議義務を一切尽くしていないものというべきである。
さらに、解雇通知後も、団体交渉を求める債権者らに対し、清算人は「清算業務しかできない」と述べて、内容のある話し合いを持とうとしない。
5) 以上の次第であるから、会社の解雇権の行使は合理的理由がなく、また手続的適正にも欠けたものであって、権利濫用と言わざるを得ず、本件解雇は無効である。
7 請求する賃金
したがって、本件解雇は無効であるから債権者らは従業員たる地位があるので債務者である会社は債権者らに対し、賃金を支払うべきである。
債権者らの平均賃金は別紙(略)賃金目録のとおりであり、毎月末日締めの翌月一〇日支払いの定めである(なお、平均賃金は原則として、平成一五年四月から平成一五年九月までの六か月分を六で割って算出したが、六か月分の賃金明細書のない者については、保有している数か月分の平均を出し、また、一切の賃金明細書のないX7については、平成一四年の給与所得から推定して算出した)。
8 債権者らの多くは一家の支柱であり、会社から支払われる賃金を唯一の収入として一家を支えてきた者であり、また、バスガイドも仕事が特殊で、研修を受けた会社以外での採用は殆どなく(長年のキャリアが有れば、例外的に派遣として働くことができるが、債権者らの多くは三年未満の研修中の者ばかりである)、今後バスガイドとしての仕事を続ける道は閉ざされたに等しい。
9 よって、会社の解散・全員解雇は無効であるから債権者らは会社に対し、雇用契約に基づく従業員としての地位確認請求権および賃金請求権を有する。
第四会社の認否及び反論
1 会社は、従業員四五名の会社であるが、富士急行株式会社が債務者会社の九八パーセントの株式を保有していたことはなく、約一〇パーセントを保有していたに過ぎない。また、会社の役員等がすべて富士急行からの出向者ではなく、M取締役は富士急行からの出向者ではない。しかるに、本件会社は富士急行の子会社ではないのである。
2 債権者らが建交労の組合員であることは、争わない。富士急行観光株式会社、富士急平和観光株式会社、富士急山梨バス株式会社、富士急行横浜観光株式会社、富士急静岡バス株式会社、富士急シティバス株式会社、株式会社フジエクスプレス及び富士急湘南バス株式会社に建交労の組合が存在しなかったこと、及び平成一五年九月二六日に富士急静岡バスで建交労の組合が結成されたことはいずれも知らない。
3 会社が、債権者ら主張のとおり解散する旨の通知を発したこと、同年一〇月二日付けで全従業員に対し、同年一一月五日付けで解雇する旨の通知書を送付したことは認める。建交労の執行部が債権者一八名分の解雇通知を一括して会社に返却したことはあるが、全員が返還したわけではない。
4 債権者らが組織する建交労と会社が賃金改定、労働条件について団体交渉を行ったこと、債権者らが賃金改定及び労働条件の変更に応じなかったこと、団体交渉は合理化案を巡ってなされたが、第四回団体交渉で会社が貸借対照表及び損益計算書の提出を拒否したとの主張は否認する。会社としては、提出を検討する旨回答し、バス事業の厳しい経営環境とバス事業の赤字につき説明し、このままではバス事業の廃止を検討せざるを得ないので、是非協力してほしいと述べたのである。なお、平成一四年一一月二七日第五回団体交渉の席上、取下前の債権者のLから「会社は四月まで持たないと言う話があり、組合員の中には第二の道を選んでいる人もいる」との発言がなされた事実がある。
また、第六回団体交渉においても、会社は、再度バス事業の廃止を検討する必要がある旨組合に伝えているし、第八回団体交渉では、会社がバス六両の減車、六名の希望退職者の募集、整備の外注化を債権者らに提案したところ、組合が反対して団体交渉がストップしたことはある。しかし、会社は、この合理化案を突然債権者らに提案したのではなく、平成一五年三月一三日の第七回団体交渉の席上でも、バスの減車を口頭で提案しているのである。
なお、第八回団体交渉において、会社は組合に対し、減車計画案及び希望退職者募集案を口頭で伝え、関係書類を交付しようとしたところ、組合員はこの受領を拒否した。また会社は、平成一五年四月四日及び同年五月八日にも、減車計画案及び希望退職者募集案を債権者らに提案したが、同じく減車計画案及び希望退職者募集案の受領を拒否していたのである。
5 平成一五年七月二日の一時金についての第一回団体交渉の開始前にも、平成一五年度第一四半期における営業収益が前年比マイナス二六〇〇万円であり、平成一四年度と比較し、大幅に悪化していることを債権者らに説明し、バス事業の廃止を検討する必要がある旨組合に伝えた。そして、同月四日の一時金の第二回団体交渉の開始前にも、平成九年度から同一四年度の会社の決算内容を説明し、特に平成一三年度及び同一四年度のバス事業の収支が赤字となっていること、平成一五年度第一四半期の収入減による経営悪化の状況を説明し、会社が提案している四二〇万円(当時、組合は四五〇万円までは応じると表明していた)までの賃金改定を早期に実施する以外、会社の経営破綻を回避できないおそれが強いことを組合に説明している。同月九日開催された第三回団体交渉においても同様の説明をした。
この席上、組合が経営改善委員会の設置を要求したこと、これに対し会社が労使間で建設的な意見を述べることを目的とする限りにおいて設置要求に応じる旨回答したことは認める。
そして、第四回団体交渉において、賃金改定について会社がこのままでは事業の継続が困難と説明したにもかかわらず、組合は全く歩み寄りの姿勢を見せず、賃金改定の合意の見込がなくなったことから、その後賃金改定の団体交渉が行われなくなったのである。
6 平成一五年九月二六日組合が会社に対し、労使懇談会の開催を要望したことは認めるが、この時点で既に取締役会は会社の継続を断念する議案を株主総会に諮ることを決断していたこともあって、労使懇談会の開催には至らなかった。債務者会社は、平成一五年九月三〇日をもって会社を解散する旨の株主総会決議がなされたので、債権者らに解雇通知を出したのである。
7 会社解散の目的は断じて組合潰しではない。まして、新たにグループ子会社内で結成された組合に対する牽制としてなされたものであるとの債権者らの主張はナンセンスであり、事実の歪曲なので強く否認する。解散は会社の経営が悪化し続けるばかりか、年を追ってその傾向が顕著となり改善の兆しもないことから、会社として事業継続の客観的理由が見込めず、已む無く行った真の解散である。
8 毎年一〇月一一月は会社の一年の収益のうち約四分の一以上を上げる繁忙期であるが、債権者等の言うように約三分の一ではない。本件解散により、旅行者、旅行会社に迷惑をかけないように対応したので迷惑をかけていない。
9 本件解散は業績悪化によるもので、会社を解散する合理的理由は全くないとの債権者らの主張は争う。会社の本来事業であるバス事業において、規制緩和による競争の激化を反映して、自動車一台当たりの営業収入の激減傾向が顕著となり、将来的に改善の見込みがないとの企業判断の結果の解散である。
また、解雇回避の努力を怠ったとの主張に対し、会社は、再三賃金改定のために組合側に団体交渉を申し入れており、一時金についての第四回団体交渉において、賃金改定について組合と会社との主張がかけ離れており、賃金改定の合意の見込みがなくなったことから、その後賃金改定についての団体交渉が行われなくなったものであり、組合が提案した経営改善委員会の設置及び開催がされなかったのは、既に時期遅れであったからに過ぎない。
なお、債権者らは、会社が経営を悪化させるような経営を続けたと主張するが、営利を目的とする株式会社で自ら経営状態を悪化させる経営者などいるはずがなく、会社は経営改善の努力をし、会社解散及び従業員解雇を回避するため、経営努力を続けてきたのである。
会社は、組合に対し、会社解散につき直接的な事前通知をしなかったが、会社の解散は株主総会の専決事項であり、総会決議の前に組合に通知することは取締役として越権行為であるから、直接的な言い方では通知しなかった。しかし、これは何ら不自然なことではない。そして、団体交渉の過程で、会社は組合に対し、再三、経営が危機的状況にあり、選択肢の一つとして解散もあり得ることを明言していたのであって、解散という事態のありうべきことは可能な範囲で説明してきたのである。企業継続が困難であって事業継続が見込めなくなった状況につき、再三組合に訴えてきたのであるが、組合はいつもの会社の不況宣伝として、まったく取り合わなかったのが実情である。
また、解散後の会社は清算業務しかできないものの、会社は解散後の平成一五年一〇月一日から同月一八日にかけて合計五回債権者らと団体交渉を行い、再就職のあっせんを行うことを債権者らに説明し、現実に希望者に対する再就職のあっせんを行い、平成一五年一〇月二八日現在、会社解散時の従業員四五名のうち一四人が再就職している。
第五会社の主張
1 会社の本件解散は偽装解散でなく、真実の解散であり会社解散は有効である。即ち、会社は、平成一五年九月三〇日開催の株主総会の決議により解散したのである。解散に至る経緯は、以下のとおりである。
会社は、平成一二年二月一日から実施された一般貸切自動車運送事業の参入規制の緩和の結果、貸切バス事業への新規参入者が増加し、貸切バス事業者間で運賃競争が激化し、運賃が低下した結果、貸切バス事業者の多くが、営業収入、稼動日車収入(実働一曰一車当たりの収入をいう)の減少をきたした。
債務者会社も例外ではなく、上記規制緩和や我が国経済の長期不況の影響をまともに受け、第五〇決算期(平成一〇年四月一日から同一一年三月三一日まで)から第五四決算期(平成一四年四月一日から同一五年三月三一日まで)にかけて貸切バス事業の純貸切収入及び稼動日車収入が減少し、第五二決算期から第五四決算期にかけて営業収益、経常利益及び当期純利益も逐次減少した。
そこで、会社は事業収支を回復するため、燃料費、車両購入費、消耗品費、整備費等多岐にわたる経費節減を行ったり、平成一〇年一〇月に組合との間で労働協約を締結し、労働条件の改定を行ったり、退職金支給規定を廃止したりして人件費の低減に努め、また、平成一〇年度から一一年度にかけてバスの減車を行ったりするなど、事業収支回復のための経営努力を続けた。
しかし、かかる会社の経営努力も規制緩和と不況の影響から逃れることはできず、事業収支は回復しなかった。そこで、会社は事業廃止や解散を避けるため、組合に賃金改定を打診した。組合と会社は、平成一四年八月一三日から同一五年三月二八日まで合計八回に亘り団体交渉を行い、賃金改定について話し合ったが、団体交渉を重ねても、組合と会社との間で賃金改定について合意に至らなかった。さらに平成一五年三月の団体交渉において、会社がバス六両の減車、六名の希望退職者の募集、整備の外注化を組合に提案したが、組合の反対により、バスの減車計画を実行できなかった。
第五五決算期に入っても、純貸切収入及び稼動収入の減少傾向は回復せず、営業収益は、第五四決算期よりもさらに減少した。
平成一五年七月二日から同月二二日まで合計三回行われた賞与についての団体交渉においても、会社は組合に対し、再度、賃金改定を提案したが、結局、組合は会社の賃金改定案に同意しなかった。
これにより、会社はもはや事業収支回復のための経営上の方策がなくなり、これ以上経営を続けても、会社の経営状況の回復は見込めなくなった。そこで、会社の取締役会は、もはや経営を続けることは困難と判断し、会社解散を株主総会に提案した。平成一五年九月三〇日の株主総会により会社解散の決議が行われ、商法の規定に従い、同年一〇月一〇日会社の解散事由及びその年月日並びに清算人の氏名及び住所を、静岡地方裁判所沼津支部に届け出た。同月二日静岡地方法務局御殿場出張所において会社の解散登記がなされた。また、同月二日会社は国土交通省中部運輸局静岡陸運支局に事業廃止の届出を行ったのである。
2 本件解散は、組合潰しを目的としたものではないこと。
債権者らは、本件解散は組合潰しを目的とした不当労働行為に当たる解散であるから解雇は無効であると主張する。しかし、これはまったく的外れの主張である。債権者らは本件会社解散が組合に与える影響と不利益性を強調するが、債権者らの主張においても、会社の不当労働行為意思、すなわち会社が組合の組合活動を嫌悪しているとの事実が明らかにされていないばかりでなく、会社が反組合的な意図に基づく労務政策を行った事実や組合嫌悪の意思を持っていたことを窺わしめる主張が明らかになっていない。それはそのような事実がない証である。
第六当裁判所の判断
1 当事者間に争いのない事実及び一件記録によれば、会社は取締役会の決議を経て、平成一五年九月三〇日の株主総会により会社解散の決議が行われ、商法の規定に従い、同年一〇月一〇日会社の解散事由及びその年月日並びに清算人の氏名及び住所を、静岡地方裁判所沼津支部に届け出た。同月二日静岡地方法務局御殿場出張所において会社の解散登記がなされ、更に、同日会社は国土交通省中部運輸局静岡陸運支局に事業廃止の届出を行ったもので本件会社解散は有効適式な解散であると認められる。
企業主即ち株主にはその経営する企業を廃止するか継続するかを決する自由があるので、社会経済上は別であるが、労働組合のために企業を存続させなければならない法律上の義務はないのである。
株主総会決議の無効は、その事由が法定されており(商法二五二条)、単に決議をなす動機、目的に公序良俗違反の不法がある場合でも、株主総会決議は無効となるものではないのである。
かくして、会社が解散決議によって解散し、企業そのものを廃止してしまう場合には、これに伴う措置として、従業員の解雇が為されるが、これは会社の清算のための当然の措置であり、従ってこの場合には、別段不当労働行為の問題を生ずる余地はないのである。
また、会社の事業廃止に伴う解散の場合には、従業員は解雇されて従業員たる身分を失うのであり、会社の経営改善の一貫としてなされる一般の整理解雇の場合とは異なるから、債権者らが主張する、いわゆる整理解雇の法理は適用されないと解する。
したがって、債権者の不当労働行為の主張は失当である。
2 次に、会社の本件解雇は権利濫用であるとの債権者らの主張について検討するに、一件記録及び本件審尋の全趣旨によれば、上記債務者の主張の事実が概ね認められ、解散の経緯、団体交渉等を通じての債権者らへの説明、事後の対応等概ね適切に対応していることが認められ、本件の解雇が権利の濫用であると認めるに足りる事情が窺えない。
3 したがって、本件において、債権者らが解雇が無効であるとして従業員の地位保全を求め、かつ賃金の仮払を求める本件各仮処分申立はその被保全権利の疎明がないものとして、その余の点につき判断するまでもなく、却下を免がれない。
第七結論
以上の次第であるから、当裁判所は主文のとおり決定する。
(裁判官 堀滿美)
<別紙> 当事者目録
債権者 X1
債権者 X2
債権者 X3
債権者 X4
債権者 X5
債権者 X6
債権者 X7
債権者 X8
債権者 X9
債権者 X10
上記債権者一〇名代理人弁護士 阿部浩基
同 宮﨑孝子
債務者 御殿場自動車株式会社
代表者代表清算人 K
上記債務者代理人弁護士 山西克彦
同 峰隆之
同 富岡武彦
<他別紙略>