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静岡地方裁判所沼津支部 平成16年(モ)622号 決定 2005年1月26日

静岡県●●●

申立人(原告)

●●●

同訴訟代理人弁護士

髙橋広篤

東京都目黒区三田1丁目6番21号

相手方(被告)

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

上記当事者間の平成16年(ワ)第191号不当利得返還請求事件につき,申立人から文書提出命令の申立てがあったので,当裁判所は次のとおり決定する。

主文

相手方は別紙文書目録記載の文書を当裁判所に提出せよ。

理由

第1申立ての趣旨及び理由等

1  申立人の本件申立ての趣旨及び理由は,別紙「文書提出命令申立書」記載のとおりである。

2  これに対し,相手方は,①別紙文書目録記載1の文書(以下「本件エントリーカード等」という。)につき,当該文書は顧客の同一性を確認するために作成するものであり,専ら相手方の利用に供するための文書であるから,民訴法220条4号ニに該当し,提出義務はない,②別紙文書目録記載2の文書(以下「本件契約書等」という。)につき,契約書の原本は,取引の終了時又は契約が更新された際に顧客に返還しているから存在せず,また,写しも破棄しているから存在しない,③別紙文書目録記載3の文書(以下「本件取引履歴」という。)につき,相手方においては,平成15年10月ころまで,取引履歴の自動消除システムを採用しており,10年を経過した取引履歴のデータを消除してきたから,原告が提出を求めている平成6年5月15日以前の取引履歴はコンピューターから既にデータが消除されている,④別紙文書目録記載4の文書(以下「本件営業譲渡契約書」という。)につき,そもそも証拠調べの必要性がない上,当該文書は民訴法220条1号ないし3号のいずれにも該当せず,また,同条4号ハ・同法197条1項3号に該当するから,提出義務はないとして,本件申立ての却下を求めた。

第2当裁判所の判断

1  基本事件の概要

基本事件は,相手方と継続的に金銭消費貸借取引を行ってきた申立人が,利息制限法による制限利率を超過して支払った利息を元本に充当して計算し直すと既に過払いが発生しているとして,相手方に対し,不当利得の返還等を求めた事案である。

これに対し,相手方は,株式会社レイク(以下「旧レイク」という。)から営業の譲渡を受けたものであるが,申立人と旧レイクとの従前の金銭消費貸借取引は,申立人が相手方から借り入れた金員をもって弁済したことにより終了し,新たに申立人と相手方の金銭消費貸借取引が始まったもので,営業譲渡により旧レイクと申立人との金銭消費貸借取引を承継したものではないとした上で,申立人と相手方との金銭消費貸借取引においては過払いは発生していないとして争っている。

2  別紙文書目録記載の各文書の提出義務について

(1)  本件エントリーカード等について

本件エントリーカード等は,顧客が相手方(旧レイクも含む。)に対して金員の借入れを申し込むに当たって,顧客が記載するものであり,かかる文書が,民訴法220条3号の法律関係文書に該当することは明らかであるから,相手方は,同条同号により提出義務がある。

なお,相手方は,本件エントリーカード等は「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(同条4号ニ)」に該当するから,文書提出義務はないと主張するが,同条4号ニに該当することを理由に同条3号に該当する文書の提出を拒むことができるか否かについてはさておき,同条4号ニのいわゆる自己使用文書は,①およそ外部の者に開示することを予定していない文書であって,②開示されると,個人のプライバシーや個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されるなど,文書の所持者に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるものと解されるところ,本件エントリーカード等の上記のような作成経緯に照らすと,これが同条4号ニのいわゆる自己使用文書に該当しないことは明らかであって,相手方の主張には理由がない。

(2)  本件契約書等について

本件契約書等が,民訴法220条3号の法律関係文書に該当することは明らかであって,相手方は,同条同号により提出義務がある。

この点,相手方は,契約書の原本は,取引の終了時又は契約が更新された際に顧客に返還しているから存在せず,また,写しも破棄しているから存在しないと主張する。しかしながら,本件契約書等は,貸金業の規制等に関する法律43条のいわゆるみなし弁済の適用を受けるために交付が必要な同法17条に規定する書面であると解されるところ,近時,相手方を含めた貸金業者に対する過払金返還請求訴訟が多発していることにかんがみれば,みなし弁済の主張・立証に必要な本件契約書等について,相手方が写しも含めて全く保管していないという主張は採用し難い。

(3)  本件取引履歴について

本件取引履歴が,民訴法220条3号の法律関係文書に該当することは明らかであって,相手方は,同条同号により提出義務がある。

この点,相手方は,相手方においては,平成15年10月ころまで,取引履歴の自動消除システムを採用しており,10年を経過した取引履歴のデータを消除してきたから,原告が提出を求めている平成6年5月15日以前の取引履歴はコンピューターから既にデータが消除されていると主張する。しかしながら,かかるシステムを構築・導入する必要性があるか甚だ疑問である上,相手方は,システムの目的や具体的内容について一切明らかにしていないことにもかんがみれば,10年を経過した取引履歴のデータは既に消除されていて存在しないとの相手方の主張は採用し難い。

(4)  本件営業譲渡契約書について

相手方は,本件営業譲渡契約書につき,そもそも証拠調べの必要性がない上,当該文書は民訴法220条4号ハ・同法197条1項3号に該当する文書であるから提出義務はないと主張する。

しかしながら,上記1のような基本事件における争点に照らせば,旧レイクから相手方に対する営業譲渡の具体的内容が記載された本件営業譲渡契約書の証拠調べの必要性がないということはできない。また,民訴法220条4号ハ・197条1項3号にいう「技術又は職業の秘密に関する事項」とは,その秘密が公開されてしまうと,技術の有する価値が下落し,当該技術に依存する活動が不可能あるいは困難になったり,当該職業に深刻な影響を与え,以後の職業の維持遂行が不可能あるいは困難になるものをいうところ,本件営業譲渡契約書がかかる文書に該当しないことは明らかである。

そうすると,相手方には,民訴法220条4号により,本件営業譲渡契約書を提出する義務がある。

3  以上によれば,申立人の本件申立ては理由があるから,主文のとおり決定する。

(裁判官 新阜創太郎)

文書目録

1 被告(いわゆる旧レイクを含む。以下同じ)作成にかかる、原告と被告との間の取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における借入申込書一切(エントリーカードという名称の書類を含む)

2 原告及び被告作成にかかる、原告及び被告との間における取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における金銭消費貸借契約書あるいはその写し一切

3 被告作成にかかる、被告の業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行令16条3項、17条2項に定める書面又はこれらの書面により作成された原告と被告との間の取引経過を記載した書面のうち、原告及び被告との間における取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日、貸付金額、弁済年月日及び弁済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む)

4 被告作成にかかる、いわゆる旧レイクから新レイクに営業譲渡がなされた際に作成された営業譲渡契約書あるいはその写し一切

文書提出命令申立書

平成16年11月29日

静岡地方裁判所沼津支部民事部3A係 御中

申立人代理人弁護士 髙橋広篤

上記当事者に関する頭書請求事件について、原告は、以下のとおり文書提出命令の申立をする。

第1 申立の趣旨

相手方は、申立人に対し、別紙文書目録記載の文書を提出せよとの裁判を求める。

第2 申立の理由

1 文書の表示及び趣旨

(1) 被告(いわゆる旧レイクを含む。以下同じ)作成にかかる、原告と被告との間の取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における借入申込書一切(エントリーカードという名称の書類を含む)

(2) 原告及び被告作成にかかる、原告及び被告との間における取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における金銭消費貸借契約書あるいはその写し一切

(3) 被告作成にかかる、被告の業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行令16条3項、17条2項に定める書面又はこれらの書面により作成された原告と被告との間の取引経過を記載した書面のうち、原告及び被告との間における取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日、貸付金額、弁済年月日及び弁済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む)

(4) 被告作成にかかる、いわゆる旧レイクから新レイクに営業譲渡がなされた際に作成された営業譲渡契約書あるいはその写し一切

2 文書の所持者

被告

3 証明すべき事実と証拠調の必要性

(1) 証明すべき事実

原告と被告との取引関係が別紙計算書記載のとおりであって、原告が、被告に対し、不当利得返還請求の一部として181万4149円の支払い請求権を有していること。

(2) 証拠調の必要性

本件訴訟の主たる争点は、別紙計算書記載の期間までにどれだけの貸付及び返済があり、別紙計算書の頭書時点ですでに過払いの状態にあったか、少なくとも残高はゼロであったという点にある。

原告と被告との間の本件貸付取引にかかる過払金の存否等の紛争を適正に解決するためには、上記の取引履歴を明らかにする必要性があるから、本件文書を取調べる必要性があるというべきである。

そもそも、金融業者からの借受金債務を整理して経済的更生を図ることは、債務者の利益にかなうものであるが、経済的困窮から生じる犯罪や家庭の崩壊等を防止し、ひいては一般市民が安全かつ幸せに暮らせる社会を維持するという観点からも非常に重大な関心事である。

ところが、長年にわたり消費者金融業者から金員を借り受けた者が債務を整理するころには、その返済等に関する資料を保管しておらず、その取引経過の詳細を明確にすることが困難である場合が多い。このような中、金融業者が過払金の返還を免れるなどの不当な目的のために債務整理に協力せず、取引履歴の開示を拒むのは社会的相当性を欠くものである。

本件において、被告が10年を経過した取引履歴を開示しないのは、過払いの状態が明らかになるのを回避し、これを隠蔽する意図があるのではないかと疑われるのである。

したがって、文書提出命令を出し、被告にすべての取引履歴を提出させる必要性がきわめて高い。

4 文書の提出義務の原因

(1) 文書目録記載1~3の文書

民事訴訟法220条3号、4号及び商法35条。

本件文書は、原告と被告との間の取引開始時から平成6年5月15日までの期間内における金銭消費貸借契約に関する借入申込書、契約書及び原告と被告との間の上記期間内における各貸付及び返済について、その年月日及び金額を記載した文書である。

これら文書は、契約年月日・貸付年月日・貸付金額・弁済年月日・弁済金額などが記載されたものであり、原告と被告との間の金銭消費貸借契約及びその後の弁済状況という法律関係の本質的要素を記載した文書であるから、挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書(民訴法220条3号)に該ることは明らかであるが、念のため、同法220条4号及び商法35条も挙げておく。

(2) 文書目録記載4の文書

民事訴訟法220条1号、4号。

本件文書は、いわゆる旧レイクと新レイクとの間における免責特約が記載された文書である。被告は、準備書面において、新旧レイク間には免責特約が存在する旨述べ、平成16年11月29日には、弁論準備期日において、被告代理人自ら営業譲渡契約書を見たことがあること、上記営業譲渡契約書には免責特約が記載されていることを明言した。また、免責特約の存在は、本来、被告が主張・立証すべき事項である。

したがって、上記営業譲渡契約書が引用文書に該ることは明らかであるが、念のため、同条4号も挙げておく。

なお、かりに被告が営業の秘密を理由に提出を拒むなら、民訴法223条6項に基づき、裁判所に提示されたい。

5 被告の意見に対する反論

(1) 被告の意見

この点、被告は、取引履歴を電磁的記録として保管しているが、10年を経過した取引履歴については消去するシステムを導入し、順次消去してきた、そのシステムの詳細は企業秘密であるので明かせない旨、準備手続で述べた。

そのため、本申立に対しては、保存していない取引履歴にかかる文書を提出せよといわれても提出できない旨答弁すると思われる。

(2) 反論

原告が被告に提出を求めている文書は、金銭消費貸借契約書及び被告の業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)又はこれに代わる同胞施行令16条3項、17条2項に定める書面である。貸金業者は、顧客に対する債権を管理し、必要な法的手続を行う必要があるから、当然、貸付に関する資料を保管し、貸付の事実や支払を受けた事実についてはこれを記録してその業務に当たるのが通常である。これらの資料の保管や事実の記録なしに貸金業を営むことは不可能に近い。

被告も貸金業者であって、その営業にかかる金銭消費貸借につき、各顧客の取引の当初分から貸金業法19条および同法施行令16条所定の事項(法定取引履歴)を記載した帳簿を作成し、これを備え付けてきたものと思われる。とすれば、被告の顧客である原告についても同様の管理をしてきたはずである。現に、被告は、多数の顧客の取引履歴の記録を電算化し、原告の取引履歴についてもこれをコンピュータに記録してきた。

これに対し、被告は、10年を経過した取引履歴は順次消去する取扱いをしているので、10年を経過した取引履歴にかかる文書は所持していない旨準備期日において主張している。

しかし、取引が継続している顧客につき、その取引経過にかかる情報を消去する必要はない。10年を経過した取引履歴をコンピュータに記録したままにしておいても、コンピュータの容量や維持管理の面で多大の費用を要するわけでもない。また、管理上の便宜を考慮しても、コンピュータに記録された情報の一部を消去する必要性は乏しいばかりか、当該顧客にかかる取引経過を電算化しているのであるから、その性格上、繋がりのある情報の一部を消去するには格別の事情が必要であろう。かえって過払金返還請求訴訟において、過去10年分以上の取引が問題になることも十分予想される(過払金返還請求権の消滅時効が完成するには、貸付取引が開始したあと一定の期間が経過し、過払金返還請求権が発生したあと10年が経過する必要があるから、10年を経過した取引履歴を保存しておく必要があるのである)。その場合、いわゆる貸金業法上のみなし弁済の抗弁の主張・立証のためにも10年分以上の取引履歴が必要となるのである。また、被告のような消費者金融業者が、10年を経過し消滅時効期間が経過した貸付金について、一切その回収をしないことを前提にその取引経過にかかる資料を消去するなどという処理をしているとは考えにくい。

そうすると、いったんコンピュータに記録された取引履歴については、その情報の一部を消去した理由やその時期について具体的な説明がなされ、どのような方法で消去されたかが明確にされない限り、その消去がされたなどとは認めがたい。

被告は、他の裁判所で、10年を経過したデータについてはこれを一律に自動的に消去するソフトを導入しているなどいう主張を繰り返している(大阪高裁決平成16年2月20日を参考のために疎甲1として提出する。この決定別紙「即時抗告申立書」において、被告の自動削除システムの概要が被告代理人弁護士によって詳しく説明されている。大阪高裁は、かかる即時抗告を棄却し、大阪地裁による文書提出命令を維持した。なお、即時抗告申立書本文5行目の「近畿財務局にも報告し、同局からの了解も得た」との記載は虚偽であることは、近畿財務局長作成にかかる疎甲2調査嘱託回答書記載のとおりである)。かりにそうだとすると、従前、コンピュータに記録されたデータのうち10年を経過したものを自動的に消去するシステムを開発し、これを従前のシステムに組み込む等の措置を取ったことになる。

しかし、格別の理由もないのに一部のデータを消去する新たなソフトを組み込むなどという措置を取るはずがない。また、顧客によっては、10年を経過したデータを保存しておく具体的必要性がある場合があるのに、保存の要否について個別的な検討を経ることなく一律に10年経過したということで自動的にデータを消去することは考えにくい。

さらに、被告は、上記の一部データを消去するシステムが、いつ、どのようにして開発されたのかとか、システムの詳細(コンピュータの機種・性能・台数、磁気ディスクの種類・容量・保管や管理の方法、プログラムの概要等)の具体的事情を一切説明せず、システム開発にかかる資料等も企業秘密を理由に提出しないのである。その上、被告代理人である●●●弁護士は、弁論準備期日において、自動削除システムが信用できないという高裁決定が続出しているにもかかわらず、自らそのシステムの詳細について被告の担当者に対し説明を求めようと思ったり、そのシステムの説明書を入手して読もうと思ったことはない旨断言している。被告及び被告代理人弁護士の上記主張は、不可解というほかない。

6 結語

以上の次第であるから、申立の趣旨記載の決定を求める。

疎明資料

疎甲1 大阪高裁決平成16年2月20日

疎甲2 調査嘱託回答書(近畿財務局長作成)

<以下省略>

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