静岡地方裁判所沼津支部 平成21年(わ)314号 判決 2009年10月28日
主文
被告人を懲役7年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aから現金を強取しようと企て,平成21年6月2日午後1時ころ,静岡県a市b町c番地B公園北側駐車場において,同人(当時38歳)に対し,背後から同人の口を手で塞ぎ,持っていたナイフ様の刃物を同人の顔面付近に突き付け,「金を出せ。」と言うなどの暴行・脅迫を加え,その反抗を抑圧した上,同人から同人所有の現金1万円を強取し,その際,前記暴行により,同人に加療約10日間を要する右前腕切創の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目) 省略
(累犯前科)
被告人は,平成14年4月9日静岡地方裁判所沼津支部で常習累犯窃盗罪により懲役3年に処せられ,平成17年2月7日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法240条前段に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,上記の前科があるので同法56条1項,57条により同法14条2項の制限内で再犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の事情)
強盗致傷罪は,法定刑が無期又は6年以上の懲役刑と定められており,重い犯罪である。
被告人は,人々が憩う公園の駐車場において,昼間に犯罪を犯したのであるから,大胆な犯行であるといえる。また,無防備の被害者に対して,背後から突然口を塞いで刃物を顔面付近に突き付けたのであるから,卑劣で危険な態様である。
この点,弁護人は,被告人には,けがを負わせるつもりがなかったことを有利に考慮してほしいと主張するが,刃物を突き付けられた被害者の対応次第では重大な結果が生じかねないことを考慮すると,あまり有利な事情とはいえない。
また,弁護人は,犯行は計画的ではないと主張する。しかし,計画的な犯行であるとはいえないものの,先に述べた態様からすると,これが有利な事情であるとまではいえない。
そして,被害の結果について見ると,被告人は,先に述べた行為の危険性を現実化させている。つまり,被害者は,右前腕部に5針縫う切り傷を負ったのであり,傷害の程度は軽くはない。被害者は,被告人の犯行によって恐怖感を抱き,その後も,夜眠れないとか体調が不良であるとか子供と公園には行きたくないと述べているのであって,その精神的苦痛は多大なものがある。
しかも,被告人は,被害者の子供が泣いている状態で,少なくない現金を奪ったのであり,この点も非難すべきである。被害者は,被告人を許せないと述べて,厳しい被害感情を表している。ところが,被告人は,被害弁償をしていない。
以上によれば,行為は悪質で,結果は重い。
また,被告人は,金欲しさに犯行に及んだと述べており,身勝手である。
さらに,被告人は,これまでに窃盗又は常習累犯窃盗罪による前科5犯を有しており,その一つは,先に指摘したように累犯前科となっている。被告人が,再び犯罪を行うのではないかと心配である。
そうすると,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
他方,被告人が逮捕されたためではあるが,結果的に現金は被害者に戻されたこと,被告人は,女性である被害者に対して犯罪を犯したことについて,反省していること,また,我が子のために今後就労したいと述べていること等の酌むべき事情も認められる。
これらの事情を総合的に検討して,主文の量刑を定めたものである。
(求刑 懲役8年)
(裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 松岡崇 裁判官 西谷大吾)