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静岡地方裁判所沼津支部 平成22年(ワ)483号 判決 2013年9月25日

原告

X1

X2

X3

X4

X5

亡X6訴訟承継人 X7

X8

X9

X10

X11

X12

X13

上記12名訴訟代理人弁護士

萩原繁之

田辺幸雄

小賀坂徹

西ヶ谷知成

荻大祐

角替清美

原島年央

鈴木秀忠

近藤雄亮

被告

Y1社

同代表者代表清算人

Y4

Y2社

同代表者代表取締役

Y4

Y3社

同代表者代表取締役

Y4

上記4名訴訟代理人弁護士

山西克彦

西芳宏

主文

1  本件訴訟のうち、亡X6が被告Y1社、同Y2社又は同Y3社に対し労働契約上の権利を有する地位にあったことの確認を求める部分は、平成22年11月19日同人が死亡したことにより終了した。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X13は、被告Y1社、同Y2社又は同Y3社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  原告X7と被告Y1社、同Y2社又は同Y3社との間において、亡X6は、平成22年11月19日死亡時において、被告Y1社、同Y2社又は同Y3社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあったことを確認する。

3  被告Y1社、同Y2社又は同Y3社は、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X13に対し、平成22年3月1日以降、毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告らの「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

4  被告Y4は、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X13に対し、平成22年3月1日以降、毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告らの「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

5  被告Y1社、同Y2社又は同Y3社は、原告X7に対し、平成22年3月1日から同年11月19日まで毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>のX6の「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

6  被告Y4は、原告X7に対し、平成22年3月1日から同年11月19日まで毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>のX6の「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

7  被告らは、各原告らに対し、連帯して、それぞれ360万円及びこれに対する平成22年2月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

8  被告Y1社、同Y2社及びY3社(3項で認容された被告を除く。)は、原告X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X13に対し、連帯して、平成22年3月1日以降、毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告らの「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

9  被告Y1社、同Y2社及び同Y3社(5項で認容された被告を除く。)は、原告X7に対し、連帯して、平成22年3月1日から同年11月19日まで毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>のX6の「平均給与額」欄記載の金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、被告Y1社(以下「被告Y1社」という。)の従業員であった原告ら(原告X7を除く。)及び亡X6(以下、原告X7を除く原告らと亡X6を併せて呼称する場合には「原告等」という。)が、平成22年2月9日に被告Y1社から会社解散を理由として同日をもって解雇する旨の意思表示を受けたことから、原告らが、前記解雇は解雇権濫用により無効であるなどと主張して、被告Y1社、被告Y2社(以下「被告Y2社」という。)又は被告Y3社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、被告らに対し、同年3月1日以降の賃金(前記労働契約上の権利を有する地位の確認が認められた被告に対して)又は不法行為に基づく賃金相当額の損害賠償金(前記被告を除く被告らに対して)の支払を求め、さらに、違法な前記解雇により原告等が精神的苦痛を被ったなどと主張して、被告らに対し、不法行為(被告Y4(以下「被告Y4」という。)については不法行為又は会社法429条1項)に基づく損害賠償金360万円及びこれに対する同年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提事実

(1)  当事者等

ア 原告等は、別紙労働条件一覧表<省略>の各原告等の「入社年月日」欄記載の各年月日に被告Y1社の前身であるa社に入社し、平成22年2月8日当時、いずれも被告Y1社の従業員であった。そのうち原告Y4は運行管理者であり、同人を除く原告等はタクシー運転手であった。(争いのない事実)

原告等は、b組合(以下「本件組合」という。)の組合員であり、原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成8年9月に本件組合の執行委員長に就任した(争いのない事実、人証<省略>)。

亡X6は、平成22年○月○日に死亡した(当裁判所に顕著な事実)。原告X7は、亡X6の妻であり、亡X6の相続人であるB、C、D、E、F、G、H、I及びJとの間で、亡X6の遺産のうち、本件訴訟における原告たる地位を原告X7が単独で相続する旨の遺産分割合意をした(当裁判所に顕著な事実)。

イ 被告Y1社は、平成15年4月1日に設立された静岡県富士宮市内に本店を置く会社であり、タクシー事業等の一般旅客自動車運送事業等を営んでいたが、平成22年2月8日株主総会の決議により解散(以下「本件解散」という。)し、現在清算中の会社である(争いのない事実、書証<省略>)。

ウ 被告Y2社は、平成15年4月1日に設立された静岡県富士宮市内に本店を置く会社であり、タクシー事業等を営んでいる(争いのない事実、書証<省略>)。

エ 被告Y3社は、被告Y1社及び被告Y2社の全株式を保有する持株会社である(争いのない事実)。

なお、a社は、平成15年4月1日に会社分割を行い、新設会社として被告Y2社及び被告Y1社を設立し、両社にタクシー事業等を承継するとともに(以下「本件会社分割」という。)、被告Y3社に商号変更した(争いのない事実。以下、この商号変更前のa社を「aタクシー」という。)。

オ 被告Y4は、平成22年2月8日当時、被告Y1社及び被告Y2社の代表取締役であり、本件解散後の被告Y1社の代表清算人である(争いのない事実、書証<省略>)。

(2)  被告Y1社の解散及び原告等の解雇

被告Y1社は、平成22年2月8日株主総会の決議により解散(本件解散)し、同月9日、原告等に対し、会社解散を理由として、同日をもって解雇する旨の意思表示をした(争いのない事実、書証<省略>)。以下、この意思表示による解雇を「本件解雇」という。)。

同日における原告等の前3か月間(平成21年10月16日から平成22年1月15日まで)の30日分の平均賃金は、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告等の「平均給与額」欄記載のとおりであり、同年2月9日、被告Y1社は、各原告等に対し、解雇予告手当として前記30日分の平均賃金と同額の金員を支払った(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

2  争点

(1)  本件解雇が無効か否か

(2)  被告Y2社及び被告Y3社の労働契約上の責任の有無

(3)  被告らの損害賠償責任の有無

(4)  損害等

3  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件解雇が無効か否か)について

(原告らの主張)

ア 本件解雇は会社解散に伴う解雇無効の判断基準に照らして無効であること

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会的に相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効となるところ(労働契約法16条)、会社解散に伴う解雇であっても、それが労働者の生活に重大な影響を与えることから、この規定が適用されることは明らかである。

そして、会社解散に伴う解雇が無効か否かの判断は、①事業廃止(解散)の合理性(使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置ということができるか)、②解雇打撃軽減義務(解雇に当たって労働者に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか、予想される労働者の収入減に対し経済的な手当てを行うなどその生活維持に対して配慮する措置を執ったか、他社への就職を希望する労働者に対してその就職活動を援助する措置を執ったか)、③解雇手続の相当性(労働組合又は労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか)という3つの基準に照らして総合的に判断すべきである。

(ア) 事業廃止の合理性について

a 平成22年2月8日解散時における被告Y1社の負債の状況についてみると、親会社である被告Y3社からの2000万円の短期借入金が存在するものの、金融機関からの借入れに係る債務はなく、その他の債務も、本件解散に伴って発生した債務や、被告Y3社、被告Y2社及びグループ会社に対する債務がほとんどであり、銀行取引停止になるような状況にはない上、被告Y3社等の関係会社から直ちに弁済を求められるような状況にもなかったのであるから、同日において本件解散をする必要性は全く存在しなかった。また、被告Y1社は、本件解散時に会社の建物に防護策を設置する等の費用を支出する余力を有していた。

b 被告Y1社の代表取締役であった被告Y4は、賃金改定により被告Y1社を黒字化することができた旨供述しているにもかかわらず、本件組合との賃金改定に関する団体交渉を2回で打ち切り、従前の賃金改定の際に実施していた就業規則の変更を行うことなく、本件解散を行っている。また、被告Y1社は、前記団体交渉の際に本件組合に対して解散の可能性を一切明示しなかった。

c 被告Y1社は、親会社である被告Y3社に対する業務委託費の減免措置を求める等の経費削減策を行っていない上、解散直前に受託金額1390万円という収益性の高い受託事業を無償でグループ会社に譲渡している。このように、本件解散直前の被告Y1社は、経営状況の改善に向けた行動ではなく、経営状況の悪化に向けた行動をとっている。

d 被告Y1社の営業収益の内訳は、旅客運賃、広告料及び運行管理受託収入であるが、平成19年度及び平成20年度の旅客運賃は減少しているものの、収益が半減するような大きなものではない。運行管理受託収入については、平成17年度に約1164万円の収益を上げ、その後減少したものの、平成20年度には約1261万円、平成21年度には約2364万円に増加しており、旅客運賃の減少を運行管理受託収入によって補うことは十分に可能であった。

e 被告Y1社の営業費についてみると、被告Y3社に支払う事務委託料は旅客運賃が減少した平成18年度以降変化していない。事務委託料は、経営判断によりいかようにも増減しうる支出であるのに、不相当に過大な支出をしている。被告Y1社は、被告Y3社に対して従前は赤字拡大等を理由に免除されていた経営指導料を平成21年度に支払っており、このことは被告Y1社が突如の会社解散を行わなければならないような財務状況にないとの当時の経営判断によるものである。平成20年度の被告Y1社の営業費におけるブランド料、事務委託料、GPS使用料及び業務請負料の合計額は2029万7287円であり、被告Y1社の同年度の営業損失より多額である上、前記ブランド料、GPS使用料及び業務請負料の額も適正なものとはいえない。

また、営業外費用についてみると、平成17年度から平成20年度までの間被告Y2社の営業外費用が平成15年度と比して半減しているにもかかわらず、被告Y1社の営業外費用は高止まりしている。被告Y1社においてもこのような不透明な支出は削減できたはずである。

以上のような不当な支出等を削減すれば被告Y1社を黒字化することができたにもかかわらず、被告Y1社はこれらの支出削減を行わなかった。

f 以上のような被告Y1社の経営状況等を考慮すれば、平成22年2月8日に被告Y1社を突然解散する必要性がなかったことは明らかである。

(イ) 解雇打撃軽減義務について

被告らは、被告Y1社の取締役会において従業員らに対する解雇による打撃軽減措置を検討することなく解散の方針を決定し、原告等を突然解雇したため、原告等は再就職のための時間的猶予は一切与えられなかった。

被告らが本件解雇に伴って実施した措置は、業界団体に対してファクシミリを送信して挨拶をする程度の簡潔なものであり、各従業員に対して個別に就職先を紹介するようなあっせんは一切なされなかった。

以上のような被告らの対応は、解雇打撃軽減義務を履行したとは到底いえないものである。

(ウ) 解雇手続の相当性について

a 被告らは、平成22年1月28日に被告Y1社の取締役会にて被告Y1社を解散する方針を固めたが、この取締役会は10分程度行われたにすぎず、被告Y1社の従業員の受入れ等についての検討はなされなかった。同年2月8日、株主総会により被告Y1社の解散が決議されたが、それまでに被告Y1社の従業員対策について被告Y1社や被告Y3社の取締役らが協議することはなかった。被告らは、前記解散決議の後、被告Y1社の事務所にバリケードを設置し、営業車両を全て移動させた上で、同月9日、同日をもって被告Y1社の従業員を解雇した。同日の会社説明会においては、被告Y4は、既に会社の解散が決まり、清算人には権限がない旨述べ、従業員からの説明要求を拒否した。

b 前記aのとおり、被告らは、本件解雇の前に被告Y1社の従業員に対して解散の必要性等について何ら説明をしておらず、従業員との間で協議もしていない。また、本件解雇の態様についてみても、営業車両を移動させるとともに事務所にバリケードを設置し、従業員が事務所に入れないようにし、従業員の私物を事務所の外に山積みにするといった悪質なものである。本件解雇後の説明会においても、被告Y4は従業員からの説明要求を拒否している。

以上によれば、本件解雇は、適正手続の観点からみて不当を極めるものといわざるを得ない。

(エ) 以上のとおり、被告Y1社を解散する必要性、合理性が認められない上、本件解雇の手続が極めて不当であり、被告らが従業員の解雇打撃軽減措置をほとんど実施していないことからすれば、本件解雇が無効であることは明らかである。

イ 本件解雇は不当労働行為に当たり無効であること

(ア) 会社分割前のaタクシーの富士営業所(被告Y1社)には本件組合が、富士営業所(被告Y2社)には民間統合労働組合系の別の組合(以下「別組合」という。)が多数組合として存在していた。別組合は、会社側の意向に沿った労働条件の変更に応じる組合であった。他方、本件組合は、賃金体系の是正等についての活動を実施してきたが、本件組合の活動は、より多額の賃金を要求するというものではなく、違法不当な内容の賃金体系等を是正し、法規範によって保障される賃金等の支払を求めるものであった。

これに対し、aタクシーや会社分割後の被告Y1社は、違法不当な賃金体系等を是正することなく、本件組合が、やむを得ずに行政機関に対して行政指導、是正勧告を求め、行政機関がこれらを実施した場合にようやく一部について渋々是正するという対応を繰り返してきた。特に、原告X8(以下「原告X8」という。)への被告Y1社の対応は異常であった。すなわち、同人が最低賃金規制に違反している状態の是正を求め、これを契機として他の従業員も同様の是正を求めたことから、同人が被告Y1社から目の敵とされることになり、同人は平成20年3月の雇用契約更新時に違法な2か月間の雇用契約を締結させられ、同年4月8日には退職届を作成するよう強要され、同人は意に沿わないまま同年5月15日付けで退職する旨の退職届を作成させられてしまったのである。このような本件組合や組合員に対する被告Y1社の対応の中に、被告Y1社の不当労働行為意思の存在が十分に示されているといえる。

こうした状況の下、平成21年5月に本件組合の組合員の数が被告Y1社の従業員の過半数を超え、そのわずか8、9か月後に被告Y1社を解散して本件解雇がなされたことに照らすと、本件解雇が、不当労働行為意思によってなされたものであることは明らかである。

(イ) また、前記ア(ア)のとおり、被告Y1社には事業廃止の合理性、必要性が認められないことから本件解散は偽装解散であり、この偽装解散が本件組合の影響力を排除しようとする意思に基づきなされたものであることは明らかである。

(被告らの主張)

ア 会社解散に伴う解雇は、会社解散により会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなることは明らかであるから、労働契約法16条の解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合」に該当し、原則として、会社解散に伴う解雇は有効であると解すべきであり、一部事業閉鎖に伴う解雇とは異なり、整理解雇の法理の適用の余地はない。

イ 被告Y1社は、タクシー需要の落込みの影響を受け、平成19年度以降、営業収益が年々減少し、平成20年度には459万8225円の債務超過に陥り、被告Y1社は各種経費削減等を実施したが、解散時における債務超過額は2257万3187円にまで増加した。

被告Y1社は、人件費削減を実施せざるを得なくなり、賃金体系の見直しを求めるために本件組合との間で団体交渉を実施し、厳しい経営状況や賃金改定が実施できないと会社経営が危うくなる旨説明したものの、本件組合から賃金改定には応じられない旨の回答を受け、また、本件組合の執行委員長である原告X1からも協議にも一切応じない旨述べられた。被告Y4は、慢性的な債務超過に陥っている上、営業収入の増加も期待できず、かつ、人件費削減についても協力が得られない状況においては、事業継続をすればするほど債務超過額が増加することから、被告Y1社の存続を断念し、解散もやむを得ないと考え、平成22年1月28日の取締役会で解散の方針を固め、同年2月8日の株主総会で被告Y1社の解散が決議された。

同月9日午前に実施された会社解散等に関する説明会において、被告Y1社の清算人となった被告Y4は、原告等を含めた従業員に対して約2時間にわたり、解散に至った事情、従業員を解雇すること及び今後の事務手続等について説明するとともに、従業員からの質問について回答できる範囲で回答した。被告Y1社が債務超過を理由に解散を余儀なくされたことから、従業員を解雇するに当たり、解雇予告手当以外の金員を支給する余力は一切なかったため、従業員の再就職のあっせんを静岡県タクシー協会東部会という業界団体に依頼したり、ハローワーク富士宮に対して再就職説明会の実施を依頼したり、静岡県タクシー協会富士・富士宮支部会の席上で就職あっせんの依頼をしたりするなどの再就職支援措置を講じ、その結果、平成22年8月ころまでに被告Y1社の元従業員5名が就職あっせんを依頼した会社に就職することができた。

以上のとおり、本件解散は、被告Y1社が債務超過に陥って再建の見込みがないために行われたものであり、真正解散であることは明らかである。そうであれば、本件解散により会社を清算する必要があり、従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、本件解散に伴う本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合に該当する。

また、本件解雇後に、被告Y1社は、解雇した従業員に対し、解散に至った経緯等を説明し、再就職支援を実施しており、可能な範囲での配慮を行ったのであるから、本件解雇が解雇権濫用として無効となることはない。

ウ 原告らは、会社解散に伴う解雇が無効であるか否かは、①事業廃止の合理性、②解雇手続の相当性、③解雇打撃軽減義務という3つの要素を総合考慮して判断すべきところ、本件解雇には、事業廃止の合理性がなく、解雇手続の相当性もなく、解雇打撃軽減義務が履行されていないから、本件解雇は無効である旨主張する。

しかし、前記判断基準は恣意的なもので採用し得ない上、仮に前記判断基準によるとしても、以下のとおり、本件解雇が権利濫用として無効となることはない。

すなわち、前記イのとおり、被告Y1社は、債務超過の状況下において、賃金改定について本件組合の協力が得られなかったことから、再建の見込みがないために本件解散に至ったのであり、事業廃止の合理性は認められる。

被告Y1社は、本件解散の前に本件組合との間で2回にわたって団体交渉を行い、経営状況を具体的データに基づき説明し、賃金改定の必要性を示し、これが実現できなければ会社が立ちゆかなくなる旨指摘したにもかかわらず、本件組合は賃金改定の交渉には一切応じない旨回答したのである。そして、会社解散に至る経緯や理由を事前に説明することは困難であることや、解散について事前に説明・協議する義務が存在しないことからすると、前記のような手続を経ている以上、解雇前に解散理由についての説明等がなかったことをもって解雇手続の相当性を欠いているとはいえない。

被告Y1社解散時における被告Y2社には人員を受け入れる余地がなく、被告Y1社の元従業員を受け入れることはできなかったが、前記イのとおり、業界団体への就職あっせんの依頼等を行い、その結果、被告Y1社の元従業員のうちの5人が就職するに至っており、被告Y1社は解雇打撃軽減措置についても可能な範囲で尽くしている。

以上によれば、原告らが主張する判断基準に照らしても、本件解雇が解雇権濫用として無効となることはない。

エ 原告らは、本件解雇が本件組合に対する不当労働行為に該当するから無効である旨主張する。

しかし、前記イのとおり、本件解散に至ったのは、タクシー需要の減少など経営環境の悪化等に起因して経営不振により債務超過に陥ったために解散を余儀なくされたのであり、本件解散につき不当労働行為意思は存在しない。そもそも、本件組合の執行委員長である原告X1が自認しているとおり、aタクシー及び被告Y1社と本件組合との労使関係は、基本的には話合いをしながら事を進める関係にあり、被告らが本件組合を嫌悪していることを推認させる事情はない。

したがって、被告Y1社の解散に伴う本件解雇が不当労働行為に該当することはなく、原告らの主張は採用できない。

(2)  争点(2)(被告Y2社及び被告Y3社の労働契約上の責任の有無)について

(原告らの主張)

ア 本件解散が偽装解散であること

偽装解散とは、親会社が労働法的規制の回避を主たる目的として、一つの子会社を解散させ、他の子会社にその事業を承継させる行為であるところ、以下のとおり、本件解散は偽装解散であったといえる。

(ア) 被告Y1社の事業が被告Y2社に承継されたこと

aタクシーは、本件会社分割により被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の3社に分割されたが、被告Y1社と被告Y2社の営業区域が同一交通圏であること、両者の配車業務が一体化されており、a1社等の共通の対外的表示を利用していたこと、両者の業務マニュアルが共通すること、両者の事業計画の内容がほぼ同一であること等、本件会社分割後の被告Y1社から被告Y2社への事業承継が容易な状況にあった。被告らは、これを奇貨として、本件解散前の被告Y1社が使用していた営業用電話番号を被告Y2社に承継させたり、本件解散前の被告Y1社のタクシー待機場所に被告Y2社のタクシーを待機させるなどして、本件解散後に被告Y1社から被告Y2社への事業承継を実現している。

また、本件解散直前に被告Y1社は、同社の受託事業(cバス事業)を関連会社に無償譲渡しており、この事実に照らすと被告らが被告Y1社の事業を真実放棄しているとはいえない上、被告Y1社の事業廃止に合理性がないことは前記(1)ア(ア)の原告らの主張のとおりである。

(イ) 本件組合排除目的が存在していたこと

本件解散が本件組合を排除する目的であったことは前記(1)イの原告らの主張のとおりである。

また、被告らが、本件解散に至るまで、本件組合に対して、本件解散について一切秘匿していた事実からすれば、被告らが本件組合を正当な交渉相手たる労働組合として否認していたこと、すなわち、本件組合を嫌悪していたことが強くうかがわれる。さらに、本件解散後に被告Y2社に再雇用された被告Y1社の元従業員は3人であるが、いずれも本件組合員ではなかったこと、本件解散を決定する取締役会において、被告Y1社の従業員の雇用確保策につき議論することなく解散決議をしたことからすれば、本件組合排除目的が存在したことが強くうかがわれる。

イ 法人格否認法理が適用されること

(ア) 本件解散及び本件解雇が不当労働行為規制等の労働法規の潜脱を主たる目的としてなされたこと(目的要件を充足する)に加え、親会社である被告Y3社が子会社である被告Y1社の法人格を意のままに道具として実質的・現実的に支配できる地位にあった(支配の要件を充足する)場合には、法人格否認法理により被告Y1社の法人格は否定されるところ、前記アのとおり、本件解散が偽装解散であることから前記目的要件を充足することは明らかである。

(イ) 支配の要件についてみると、被告Y3社は、被告Y1社及び被告Y2社の100パーセント持株会社であり、その営業収益の約95パーセントが被告Y2社及び被告Y1社からの業務受託収入であること、被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の主要役員はK(以下「K」という。)及び被告Y4の両名であることからすれば、被告Y3社は、資本関係及び人的関係の両面で被告Y1社及び被告Y2社を支配していたといえる。

また、被告Y1社及び被告Y2社の①従業員の雇用・労働条件、②収支管理、会計管理全般、経営方針の指導等の現業に属さない業務全般について、被告Y1社及び被告Y2社ではなく、被告Y3社が決定していた。

以上によれば、被告Y3社は被告Y1社を実質的・現実的に支配していたことは明らかである。

ウ 被告Y3社及び被告Y2社の雇用責任

(ア) 本件解雇が無効であることは前記(1)の原告らの主張のとおりであるところ、前記ア、イのとおり法人格否認の法理が適用されることから、被告Y1社の親会社である被告Y3社は、原告等に対して雇用責任を負う。したがって、原告等は、被告Y3社に対して労働契約上の地位を有する。

(イ) 仮に被告Y3社に雇用責任が認められないとしても、被告Y1社の事業を承継した被告Y2社に雇用責任が認められるから、原告等は、被告Y2社に対して労働契約上の地位を有する。

(ウ) なお、被告Y3社及び被告Y2社に雇用責任が認められない場合であっても、本件解雇が無効である以上、被告Y1社は雇用責任を負うから、原告等は、被告Y1社に対して労働契約上の地位を有することは当然である。

(被告らの主張)

ア 前記(1)イの被告らの主張のとおり、被告Y1社は債務超過に陥って再建の見込みがなくなったため、その存続を断念して本件解散に至った。

また、被告Y2社は、被告Y1社の営業所の土地・建物や被告Y1社の営業車両など営業資産を一切引き継ぐことなく、静岡県富士市内を中心に営業している。被告Y1社の顧客との取引関係も本件解散に伴っていったん解消しており、そのうちの一部の顧客からの要請を受けて被告Y2社が新たに取引を開始しているにすぎない。そして、本件解散後の平成22年度の被告Y2社の営業収入は、富士・富士宮営業区域や静岡県内のタクシー会社の営業収入と同様の減少傾向を示しており、このことからも被告Y2社が被告Y1社の営業を承継していないことは裏付けられている。

以上によれば、本件解散は、偽装解散ではなく真正解散であることは明らかである。

イ 原告らは、法人格否認の法理が適用される旨主張するが、以下のとおり、支配の要件及び目的要件のいずれも充足しないから、法人格否認の法理の適用はない。

すなわち、被告Y1社は、本件会社分割により成立し、約7年にわたって被告Y3社や被告Y2社と独立した事業会社として事業経営を行っており、かかる事実によれば法人の形骸化が認められる余地はない。

また、被告Y3社は被告Y2社及び被告Y1社の純粋持株会社であるから、その収入は事業会社からの受託業務等に依存するのは一般的であり、そのことをもって被告Y3社が被告Y1社を実質的に支配しているとはいえない。そして、被告Y3社の代表権を有する取締役が被告Y2社及び被告Y1社の取締役を兼任することはなく、被告Y3社と被告Y1社及び被告Y2社は一定の独立性を保っていたこと、一般的な事業会社と純粋持株会社との関係と同様に事業会社である被告Y1社及び被告Y2社が事業活動に専念し、一般的な事務を被告Y3社に委託していたにすぎず、その判断・決定まで被告Y3社に委ねられてはいなかったこと、被告Y1社及び被告Y2社は求人事務を被告Y3社に委託していたが、求人内容の決定は各事業会社において決定し、教育についても添乗指導は各事業会社が実施しており、被告Y3社が事業会社の従業員の労務関係について決定していた事実はないこと、経理関係の事務は委託していたものの経理処理は各事業会社が独立して行っていたことからすれば、被告Y3社が被告Y1社及び被告Y2社を実質的に支配していたとはいえず、支配の要件は満たさない。

次に、目的要件についてみると、前記(1)イないしエの被告らの主張のとおり、本件解散は被告Y1社の再建の見込みがなくなったために行われたものであって、本件組合を排除する目的をもってなされたものではないから、この要件を満たさない。

(3)  争点(3)(被告らの損害賠償責任の有無)について

(原告らの主張)

ア 前記(2)の原告らの主張のとおり、被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社のいずれかは原告等に対する雇用責任を負うが、その他の被告2名については、法人格を濫用して違法無効な本件解雇をしたことにより、原告等に対して共同不法行為責任を負う。

イ 被告Y4は、本件解散当時、被告Y1社及び被告Y2社の代表取締役であり、被告Y3社の取締役であった。そして、被告Y4は、平成21年11月26日及び同年12月24日に実施された本件組合との団体交渉に会社側代表として出席したことや、本件解散に主導的役割を果たしたことから、本件解散に伴う違法な本件解雇について重大な責任があり、原告等に対して不法行為に基づく責任を負う。

また、本件解雇は一見して違法・無効なものであるから、被告Y4には、職務を行うにつき故意又は重過失があったことは明らかである。したがって、被告Y4は、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。

(被告らの主張)

前記(1)の被告らの主張のとおり、本件解雇は有効であるから、被告らが不法行為等に基づく損害賠償責任を負うことはない。

(4)  争点(4)(損害等)について

(原告らの主張)

ア 前記(2)の原告らの主張のとおり、被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社のいずれかは原告等に対する雇用責任を負うから、原告ら(原告X7を除く。)に対し、平成22年3月1日以降、毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告ら(原告X7を除く。)の「平均給与額」欄記載の未払賃金を支払う義務を負い、原告X7に対し、平成22年3月1日から同月11月19日まで毎月25日限り、同一覧表<省略>の亡X6の「平均給与額」欄記載の未払賃金を支払う義務を負う。

イ 被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社のうち、原告等に対する雇用責任を負わない被告2名と被告Y4は、共同不法行為に基づき、連帯して、平成22年3月1日以降、毎月25日限り、別紙労働条件等一覧表<省略>の各原告ら(原告X7を除く。)の「平均給与額」欄記載の賃金相当の損害賠償金を支払う義務を負い、原告X7に対し、連帯して、平成22年3月1日から同年11月19日まで毎月25日限り、同表<省略>の亡X6の「平均給与額」欄記載の賃金相当の損害賠償金を支払う義務を負う。

ウ 被告らによる違法な本件解雇により、原告等は安定した給与収入の支払を受けることができなくなり、雇用の継続に対する不安にさいなまれることになり、それ自体が原告等に対して極めて大きな精神的苦痛を与えている。原告等の受けた精神的苦痛は、前記ア、イの未払賃金又は賃金相当損害賠償金の支払を受けたとしても慰謝されず、被告らは、共同不法行為(被告Y4については共同不法行為又は会社法429条1項)に基づき、原告らに対し、前記精神的苦痛に対する慰謝料として300万円の支払義務を負う。

また、本件事案の内容等の諸般の事情を考慮すると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は原告らにつき各60万円が相当である。

以上によれば、被告らは、連帯して、各原告らに対し、360万円及びこれに対する違法な本件解雇がなされた平成22年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

(被告らの主張)

争う。

第3当裁判所の判断

1  前記前提事実並びに括弧内に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  本件会社分割に至る経緯等

ア 静岡県タクシー協会の資料によれば、aタクシーがタクシー事業を営んでいた静岡県富士市及び富士宮市区域における平成12年度から平成14年度のタクシー収入は、それぞれ40億1511万3000円、39億3699万円及び39億8503万9000円であった(書証<省略>)。

平成12年法律第86号により改正された道路運送法が平成14年2月1日に施行され、タクシー事業への新規参入が免許制から許可制となり、増車については許可制から届出制となるなど、規制緩和がなされた(証拠<省略>)。

イ aタクシーの47期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)、48期(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)及び49期(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)における営業収益は、それぞれ8億7223万8779円、8億6090万1489円及び8億1018万8289円であり、47期、48期及び49期においてそれぞれ7924万5039円、3854万5131円及び2648万8955円の営業損失を計上した(書証<省略>)。

前記のとおり、aタクシーは3期連続で営業損失を計上することになったが、営業所等の所在する所有不動産を売却し、その売却価格と薄価との差額を特別利益として計上し、営業損失を補填して営業を継続していた(証拠<省略>)。また、aタクシーの47期、48期及び49期における流動負債の額は1億4243万5197円、8608万9369円及び7343万2374円であり、3年間で大幅に減少しているが、これは前記土地の売却金を借入金の返済に充てたこと等によるものである(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

ウ 前記ア、イのような経営状況等のもと、aタクシーは、静岡県富士市及び富士宮市内に4つの営業所(富士宮、富士、富士第二、富士元町)を設け、富士市及び富士宮市を営業区域としてタクシー事業等を営んでいたが、富士市及び富士宮市のそれぞれに事業会社を新設するとともに、aタクシーが両社の持株会社となる本件会社分割を実施することとし、本件組合に対し、平成14年12月21日付けの申入書によりその旨申し入れた(書証<省略>)。

前記申入書には、会社分割の背景と理由として、「タクシー業は平成14年2月これまでの各種規制が緩和され、各地で増車・運賃の多様化など大競争時代に入りました。この厳しい時代を乗り越え更なる発展を目指す為には、営業地域にあった独自の戦略、スリムな組織で迅速かつ柔軟な経営が必要であります。よって、富士宮営業地域とそれ以外の営業地域の2社に会社を分割するものであります。これにより当社は新設する2社の持株会社となり、各子会社の事業に関する研究調査・共通課題への対応、更には新業種への進出等業容拡大を目指すものであります。」と記載されていた(書証<省略>)。

エ 本件組合は、平成15年1月8日付けで、aタクシーに対し、会社分割について団体交渉を申し入れ、同月11日、会社分割についての臨時大会(書証<省略>)を開催するなど、aタクシーとの間で本件会社分割に関する協議等を行った(証拠<省略>)。

そして、aタクシーと本件組合は、同年3月28日付けの協定書を取り交わし、本件会社分割を実施するに当たり、aタクシーの富士宮営業所に所属している全従業員を被告Y1社に従事する労働者とすること、現労働契約、現労働協約の全てを承継すること、年次有給休暇の日数、退職金の算定、永年勤続表彰等にかかる勤続年数を通算すること、組合及び組合員の活動は従前のとおり認めることについて合意した(証拠<省略>)。

オ aタクシーは、同年4月1日、本件会社分割を行うとともに、被告Y3社に商号変更した(前提事実)。

なお、本件会社分割当時、静岡県富士市及び富士宮市内でタクシー事業を営む法人は15あり、そのうちの2法人が富士市及び富士宮市の双方に営業所を設けていたが、残りの13法人はいずれか一方のみに営業所を設けていた(証拠<省略>)。

(2)  本件会社分割後の被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の事業内容並びに各社の関係等

ア 被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の事業の概要

本件会社分割後、事業会社である被告Y2社及び被告Y1社がタクシー事業等を行い、被告Y3社は、被告Y2社及び被告Y1社の経理業務全般、給料計算、社会保険事務、官公庁提出書類の作成、一般的な新人教育等の非収益部門の業務や経営上の指導等を行うことになった(書証<省略>)。

イ 被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の組織構成等

平成18年6月29日から平成20年9月1日までの被告Y1社の取締役はK、L、M、N及びOの5人であり、同人らは被告Y2社の取締役も務めていた。Kは、前記期間において両社の代表取締役を務めており、K、L、Mは被告Y3社の取締役も務めていた。平成20年9月1日から平成22年2月8日の本件解散までの被告Y1社及び被告Y2社の取締役は、前記5人に被告Y4が加わり、平成20年9月1日にKが被告Y2社及び被告Y1社の代表取締役を辞任し、同日、被告Y4が両社の代表取締役に就任した。被告Y4は、同日、被告Y3社の取締役に就任した。(書証<省略>)

なお、被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社は、取締役に対する報酬を支払っておらず、各取締役は被告Y3社から使用人部分の給与の支払を受けていた(証拠<省略>)。

また、平成19年3月1日時点における被告Y3社、被告Y2社及び被告Y1社の営業部長はP、営業課主任はQが兼務していたが、これらの者は被告Y3社から給与の支払を受けており、被告Y2社及び被告Y1社の運行管理者は各々異なる者が選任されていた(証拠<省略>)。

ウ 被告Y3社の事業内容等

被告Y3社と被告Y2社及び被告Y1社は業務請負契約を締結しており、被告Y3社は、同契約に基づき、被告Y2社及び被告Y1社の現金出納帳・預金出納帳の記帳・整理、給料計算等の給料関係の事務、収入金の預金、未収金の回収等、各種支払関係、会計事務全般、官公庁等への提出書類の作成、新規顧客の与信調査や顧客へのセールス等の営業的に必要と思われる対外的交渉など、旅客の運送、配車、点呼等の現業に属さない事務的な仕事全般について業務委託を受け、これらの業務を行っていた(書証<省略>)。なお、以上のように被告Y1社及び被告Y2社の事務手続等は被告Y3社が行っているが、その際に用いられる給与支給明細書等の用紙については「aタクシー株式会社」や「a社」と記載されているものが利用されることもあった(争いのない事実、書証<省略>)。

また、被告Y2社及び被告Y1社の求人業務についても、各社から委託を受けた被告Y3社が行い、採用面接については被告Y2社の営業所で実施していた(争いのない事実、書証<省略>)。採用後の業務マニュアル及び新人教育マニュアルを利用した新人教育についても被告Y3社が行い、その際、被告Y2社及び被告Y1社のいずれに採用された従業員に対しても同一のマニュアルを使用した新人教育がされていた(争いのない事実、書証<省略>)。他方、新人に対する添乗指導については、被告Y1社及び被告Y2社の各々のタクシー運転士が指導運転士となって実施しており、指導運転士は指導手当を受給していた(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

被告Y3社は、以上のような被告Y2社及び被告Y1社から受託した業務のうち、会計業務については株式会社d(以下「d社」という。)に委託しており、被告Y1社や被告Y2社の会計帳簿の作成はd社が行っていた(証拠<省略>)。

エ 被告Y2社及び被告Y1社の事業内容及びその運営等

被告Y2社及び被告Y1社は、それぞれ独立して運行管理者を選任し、運行管理者を中心として車両管理、乗務員の交番運用、点呼等の運行管理業務を実施し、被告Y2社は富士市を中心に、被告Y1社は富士宮市を中心にタクシー事業等を行っていた(書証<省略>)。

被告Y2社及び被告Y1社は、タクシー事業を運営するに際し、「△△」ブランドを利用しており、営業車両の外装については行灯以外は共通したものを利用していたが、他の△△グループのタクシー事業を行う会社も同様の外装の車両を利用していた(争いのない事実、証拠<省略>)。また、被告Y2社及び被告Y1社は、タクシー事業に関するチラシや時刻表等の広告に「a1社」という表示をした上で「富士」、「吉原」、「富士宮」の各電話番号を掲載したものを共通で利用していた(書証<省略>)。また、被告Y2社及び被告Y1社のホームページには、各々の社名、住所、電話番号が掲載されているが、保有車両台数や従業員については両社の合計数が掲載されていた(書証<省略>)。被告Y2社及び被告Y1社は、各々が発行するチケットでタクシーを利用することができるようになっており、チケット利用に対する請求は被告Y2社及び被告Y1社がそれぞれ行うことになるが、実際の事務手続は前記業務委託契約により被告Y3社が行っていた(書証<省略>、弁論の全趣旨)。なお、タクシーチケットについては、被告Y1社及び被告Y2社以外の他社のチケットも例外的に利用できるようになっていた(書証<省略>)。

被告Y1社及び被告Y2社の各従業員に対する給与や賞与等の支払は、各々の従業員が属する会社の預金口座から振り込まれていた(書証<省略>)。また、被告Y1社の保有する自動車の保険契約、リース契約、被告Y1社の営業所の土地建物の賃貸借契約は被告Y1社が各々の契約相手方との間で締結しており、被告Y1社の預金口座から保険料、リース料、賃料の支払がなされていた(書証<省略>)。これらの給与等の支払手続は、前記業務委託契約に基づき被告Y3社が行っていた(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

被告Y2社及び被告Y1社は、各々事業計画書を作成していた(書証<省略>)。

本件会社分割直後の被告Y2社と被告Y1社の賃金体系は同一であったが、平成16年10月に被告Y1社の賃金が改定されたことにより、賞与の支給率と精勤手当の額が異なることとなり、また、乗務員の1か月の拘束時間の限度についても被告Y2社が322時間であるのに対し、被告Y1社は299時間であり、両社において相違していた(証拠<省略>)。

オ 配車室の統合

本件会社分割後、被告Y2社及び被告Y1社は、各々配車室を設け、電話予約があった顧客の対応をしていたが、平成16年2月に全車両にGPSの導入が完了したことから、同年3月ころ、両社の配車室を統合することを決定した(証拠<省略>)。被告Y2社及び被告Y1社は、共同無線組合を設立した上で、被告Y2社の方が電話件数(配車件数)が多く、被告Y2社に統合する方が電話転送費用を抑制できることなどから、配車室を被告Y2社に統合することとした(証拠<省略>)。被告Y2社は、GPSを利用した配車を行うため、同月23日、e社との間で、「GPS―AVM自動配車装置」センター機器パソコン等一式等(以下「GPS配車システム」という。)を賃借する旨のリース契約を締結し、前記機器等を賃借した(書証<省略>)。同リース契約によるリース料は月額116万6200円(消費税額5万8310円)であった(書証<省略>)。配車室の統合により、被告Y2社及び被告Y1社の配車担当者は3人減員され、そのうちの1人がアルバイトに変更された(証拠<省略>)。

被告Y2社と被告Y1社は、同月15日、業務請負及び機械使用料契約(以下「機械使用料等契約」という。)を締結し、被告Y1社は被告Y2社に配車業務を委託した(書証<省略>)。

統合された配車室には、被告Y1社側からはRと原告X13が配置される以外は被告Y2社の従業員が配置されており(証拠<省略>)、被告Y2社の電話番号にかかってきた電話に対応する端末と被告Y1社の電話番号にかかってきた電話に対応する端末がそれぞれ設けられていた(書証<省略>)。そして、統合された配車室では、当初、顧客の近隣に車両がある場合に自動的に当該車両に文字情報を送信して配車する自動配車機能を利用していたが、トラブルが生じたことから、配車室の担当者が担当車両を決めて手動操作により当該車両のみに文字情報を送信する手動操作に変更され、配車室の担当者であった原告X13は、顧客の近くにある車両を配車すべき車両として選択し、その車両に文字情報を送信していた(人証<省略>)。なお、原告X13は、配車室にいる間、他の配車室の担当者が被告Y1社の車両が顧客の近隣にいるにもかかわらずそれよりも遠方にいる被告Y2社の車両に配車したことを現認していない(人証<省略>)。

カ GPS使用料等

被告Y2社と被告Y1社の間で締結された機械使用料等契約においては、被告Y2社は電話予約による配車業務を請け負うこととされ、被告Y1社は被告Y2社に対して196万円(平成16年4月1日から1年間)の業務請負料及び750万円の機械使用料を支払うこととされた(書証<省略>)。電話予約による配車業務の業務請負料は、平成15年度の年間電話回数見込み8万2000回に120円(1回の電話予約による迎車料金)を乗じた金額の20パーセントの金額であり、前記機械使用料は、機械年間リース料1400万円と機械運用の増加人件費1020万円の合計2420万円を被告Y2社(75台)と被告Y1社(34台)の車両台数で按分計算したものである(証拠<省略>)。平成17年4月1日からの1年間については、平成16年度の電話予約受付件数に基づく転送経費を適正にするため、被告Y1社が被告Y2社に対して支払う前記配車業務の業務請負料が150万円に変更された(書証<省略>)。

また、平成18年4月1日以降、業務請負金額は年間389万7000円に、機械使用料は年間442万3000円にそれぞれ変更された(書証<省略>)。この業務請負金額は、GPS配車システム導入時に増員された人件費を車両台数で按分して算出したものに電話代等の諸経費を加算したものであり、機械使用料は、年間リース料1390万円を車両台数で按分することにより算出されたものである(書証<省略>)。

なお、被告Y2社の第2期(平成16年4月1日から平成17年3月31日まで(平成16年度))ないし第7期(平成21年4月1日から平成22年3月31日まで(平成21年度))までの収益費用明細表における各年度のGPS使用料の額は、前記機械使用料等契約に基づき被告Y1社が負担するGPS使用料の額より小さいが、これは被告Y2社がe社に支払ったGPS使用料(前記リース契約に基づく年間リース料のうち被告Y2社の車両台数に応じて按分して算出した額)から、被告Y1社が被告Y2社に支払った前記業務請負料(平成18年4月以前については機械運用の増加人件費(車両台数で按分したもの)と業務請負料の合計)を控除した金額を収益費用明細表に誤って記載したものであり、被告Y2社はe社に支払うべき年間リース料のうち、被告Y2社の保有車両台数に応じて按分した額について負担していた(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

キ 経営助言料等について

被告Y3社は、平成15年9月、被告Y2社及び被告Y1社との間で、各事業会社の事業に関わる、教育、事故対策、市場調査等の経営上の指導・助言を与える旨の契約(以下「経営助言契約」という。)を締結し、経営助言契約においては、被告Y2社及び被告Y1社は、被告Y3社に対し、前年売上げの1パーセント相当、以後前年売上げに0.5パーセントずつ加算して最高3パーセント相当の報酬を支払うこととされ、ただし、経営内容により調整することがある旨合意された(書証<省略>)。

被告Y3社は、経営助言契約に基づき、被告Y2社及び被告Y1社の新入社員に対する教育や事故対策等の安全講習を実施したり、タクシー事業以外の事業の可能性を市場調査・分析して新規事業への参入を援助しており、具体的には、被告Y3社による市場調査を契機として、被告Y1社は平成15年にタクシー代行業を開始し、平成17年度はf町営バスの受託業務を行うことになった(証拠<省略>)。

被告Y2社は、経営助言契約に基づき、被告Y3社に対し、第1期(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで(平成15年度))から第6期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで(平成20年度))までの各年度において前年売上げのおおむね1パーセントに相当する経営助言料(平成15年度及び平成16年度は567万6000円、平成17年度ないし平成20年度は各516万円)を支払ったが、第7期(平成21年度)は被告Y2社の経営状況に鑑み、被告Y3社と被告Y2社との間で経営助言料を前年売上げの0.45パーセントとすることに合意したことから、同割合に基づく経営助言料231万5000円を支払った(書証<省略>)。

他方、被告Y1社は、その経営状況に鑑み、経営助言契約における「経営内容により調整することがある」旨の条項に基づき、第1期(平成15年4月1日から平成16年3月31日まで(平成15年度))から第6期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで(平成20年度))までの各年度において、被告Y3社に対し、経営助言料の免除を申請し、被告Y3社がこれを承認したことから、その間経営助言料を支払っていない。被告Y1社は、第7期(平成21年4月1日から平成22年2月8日まで(平成21年度))にf町営バスの運行受託業務を受注することができ、売上げの上昇が見込めたことから、平成21年8月17日、被告Y3社との間で、同期(なお、合意時においては平成22年3月31日まで)における経営助言料を前年度売上げの0.45パーセントに相当する90万7000円とすることに合意し、現実には同年度の経営指導料として77万6714円(同年度の営業費に占める割合は0.43パーセント)を支払った。(証拠<省略>)

ク 業務委託料等について

前記ウのとおり、被告Y3社は、被告Y2社及び被告Y1社との間で締結した業務請負契約に基づき、非収益部門の事務を請け負い、同契約に基づき被告Y2社及び被告Y1社から業務委託料(事務委託料)等の支払を受けており、その金額は以下の(ア)、(イ)のとおりである(証拠<省略>)。

被告Y3社と被告Y1社は、平成15年9月30日、前記の業務請負契約を締結したが、同契約においては、平成15年度の年間業務委託料は1750万円(税抜き)、平成16年度の年間業務委託料は1850万円(税抜き)と定められたが、平成16年度については、厳しい変換があった場合は調整するとされており(書証<省略>)、平成16年度はこの規定に基づき業務委託料が一部免除された(書証<省略>)。

また、平成17年度及び平成18年度については、被告Y3社と被告Y1社との間で、非収益部門も含めて被告Y1社のみで経営する場合に必要となる取締役等の人件費や一般管理費を想定した金額(平成17年度は1794万円、平成18年度は1736万円)から一部を控除した1330万円(税抜き)を業務委託料とすることに合意した。なお、平成18年度から平成20年度(第6期)についてはf町営バスの運行管理受託業務の受注ができなかったことから、被告Y1社が被告Y3社に対して一部免除を申請し、これが承認されたため業務委託料が一部免除された。(証拠<省略>)

(ア) 被告Y1社から被告Y3社に支払われた事務委託料(括弧内の数字は事務委託料の営業費に占める割合である。)

平成15年度 1798万円(7.56パーセント)

平成16年度 1496万円(6.56パーセント)

平成17年度 1378万円(6.09パーセント)

平成18年度 1174万円(5.40パーセント)

平成19年度 1174万円(5.60パーセント)

平成20年度 1176万円(5.47パーセント)

平成21年度 1181万2000円(6.54パーセント)

なお、被告Y1社は、平成20年度及び平成21年度において、出向運転士の給与計算事務等をd社に委託したことに対する計算委託料としてそれぞれ3万6300円及び3万円を支払っている(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

(イ) 被告Y2社から被告Y3社に支払われた事務委託料(括弧内の数字は事務委託料の営業費に占める割合である。)

平成15年度 3610万円(6.65パーセント)

平成16年度 3576万円(6.79パーセント)

平成17年度 3576万円(7.00パーセント)

平成18年度 3576万円(7.03パーセント)

平成19年度 3576万円(6.79パーセント)

平成20年度 3576万円(6.81パーセント)

平成21年度 3576万円(7.48パーセント)

ケ ブランド料について

前記エのとおり、被告Y2社及び被告Y1社は、タクシー事業を運営するに際し、△△グループのシンボルマークを印刷物等に示したり、行灯に掲げたりして△△グループのブランドを利用しており、この対価としてブランド料を被告Y3社に支払っていた(証拠<省略>)。被告Y2社及び被告Y1社が支払ったブランド料の額は、以下の(ア)、(イ)のとおりである(書証<省略>)。

(ア) 被告Y1社から被告Y3社に支払われたブランド料(括弧内の数字はブランド料の営業費に占める割合である。)

平成15年度 103万5471円(0.44パーセント)

平成16年度 97万2300円(0.43パーセント)

平成17年度 94万7537円(0.42パーセント)

平成18年度 20万4858円(0.09パーセント)

平成19年度 23万0857円(0.11パーセント)

平成20年度 20万9287円(0.10パーセント)

平成21年度 19万4451円(0.11パーセント)

(イ) 被告Y2社から被告Y3社に支払われたブランド料(括弧内の数字はブランド料の営業費に占める割合である。)

平成15年度 241万0100円(0.44パーセント)

平成16年度 226万8700円(0.43パーセント)

平成17年度 212万4465円(0.42パーセント)

平成18年度 53万9143円(0.11パーセント)

平成19年度 51万3144円(0.10パーセント)

平成20年度 46万5713円(0.09パーセント)

平成21年度 50万5140円(0.11パーセント)

(3)  被告Y1社の経営状況等

ア 営業収益について

被告Y1社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業収益は次のとおりである(書証<省略>)。

(ア) 旅客運賃(括弧内は平成15年度を100パーセントとした場合の割合を示している。)

平成15年度 2億2698万7615円(100パーセント)

平成16年度 2億1923万3567円(96.58パーセント)

平成17年度 2億2134万0216円(97.51パーセント)

平成18年度 2億2071万2415円(97.24パーセント)

平成19年度 2億0496万7835円(90.30パーセント)

平成20年度 1億8832万7333円(82.97パーセント)

平成21年度 1億4020万4362円

なお、平成21年度については平成22年2月8日の本件解散の日までであり(以下の項目においても被告Y1社については同様である。)、単純に日数で1年間分に換算すると(×365/314)、1億6297万6408円(71.80パーセント)となる。

(イ) その他

被告Y1社の第1期から第7期までの旅客運賃以外の営業収益は、広告料、運行管理受託収入、雑収入があり、その合計金額(括弧内は運行管理受託収入の額を示している。)は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 50万6500円(0円)

平成16年度 44万4000円(0円)

平成17年度 1208万5110円(1164万1110円)

平成18年度 258万5200円(214万1200円)

平成19年度 265万1300円(220万7300円)

平成20年度 1327万0650円(1261万3950円)

平成21年度 2419万9987円(2364万3439円)

なお、被告Y1社は、平成17年度及び平成21年度において芝川町の町営バスの運行管理受託業務を受注し、平成20年度及び平成21年度において平成20年4月1日から運行を開始したcバスの運行管理受託業務を受注し、前記運行管理受託収入にはこれらの収入が含まれているが、平成22年度のf町営バスの運行管理受託業務については入札したものの、落札できなかった(証拠<省略>)。また、被告Y1社は、平成21年12月15日よりも前に、cバスの受託業務をg株式会社に無償で移管したが、cバス事業については平成20年度及び平成21年度(本件解散の日まで)は営業損失が生じており、平成21年度は213万5000円の営業損失が生じていた(証拠<省略>)。

イ 営業費について

被告Y1社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業費は次のとおりである(書証<省略>)。なお、かかる営業費には、前記(2)カないしケの費用が含まれている。

(ア) 一般乗用旅客自動車運送事業営業費

平成15年度 2億3790万1170円

平成16年度 2億2821万0937円

平成17年度 2億2614万1614円

平成18年度 2億1733万7807円

平成19年度 2億0963万9990円

平成20年度 2億1513万0552円

平成21年度 1億8062万1950円

(イ) 一般乗用旅客自動車運送事業営業費の人件費(括弧内は平成15年度を100パーセントとした場合の割合を示している。)

平成15年度 1億7786万3714円(100パーセント)

平成16年度 1億6185万2506円(91.00パーセント)

平成17年度 1億5964万3211円(89.76パーセント)

平成18年度 1億5197万2625円(85.44パーセント)

平成19年度 1億4249万9255円(80.12パーセント)

平成20年度 1億4016万5491円(78.80パーセント)

平成21年度 1億2430万0191円

ウ 営業外費用について

被告Y1社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業外費用は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 92万0194円

平成16年度 62万2946円

平成17年度 101万2768円

平成18年度 118万8777円

平成19年度 84万2946円

平成20年度 94万0935円

平成21年度 225万6456円

エ 営業損益について

被告Y1社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業損益(▲は営業損失であり、括弧内は営業損益率を示している。)は次のとおりである(書証<省略>(枝番を含む。))。

平成15年度 ▲1040万7055円(4.6パーセント)

平成16年度 ▲853万3372円(3.9パーセント)

平成17年度 728万3712円(3.1パーセント)

平成18年度 595万9808円(2.7パーセント)

平成19年度 ▲202万0855円(1.0パーセント)

平成20年度 ▲1353万2569円(6.7パーセント)

平成21年度 ▲1621万7601円(9.9パーセント)

オ 債務超過

被告Y1社は、平成20年度に459万8225円の債務超過に陥り、平成21年度(本件解散まで)には2257万3187円の債務超過となった(書証<省略>)。なお、本件解散当時に被告Y1社が負担していた2000万円の短期借入金債務は被告Y3社からの借入金であり、銀行等の金融機関からの借入金はなかった(書証<省略>)。

(4)  被告Y2社の経営状況等

ア 営業収益について

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第8期(平成22年度)までの営業収益は次のとおりである(書証<省略>)。

(ア) 旅客運賃(括弧内は平成15年度を100パーセントとした場合の割合を示している。)

平成15年度 5億3112万4119円(100パーセント)

平成16年度 5億1772万6854円(97.48パーセント)

平成17年度 5億1264万4490円(96.52パーセント)

平成18年度 5億1103万2445円(96.22パーセント)

平成19年度 5億1351万8864円(96.69パーセント)

平成20年度 4億9023万9330円(92.30パーセント)

平成21年度 4億2215万6615円(79.48パーセント)

(イ) その他(括弧内は運行管理受託収入の額を示している。)

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの旅客運賃以外の営業収益は、広告料、運行管理受託収入、雑収入があり、その金額は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 126万8976円(0円)

平成16年度 476万8400円(0円)

平成17年度 672万4000円(0円)

平成18年度 687万9729円(544万4300円)

平成19年度 1307万6382円(1164万7382円)

平成20年度 2412万2778円(2262万2850円)

平成21年度 4032万1502円(3910万7489円)

(ウ) 第8期(平成22年度)における被告Y2社の営業収益は4億4233万1995円であり、そのうち旅客運賃収入は約3億9564万9000円(74.49パーセント(平成15年度を100パーセントとした場合の割合である。)、前年度比は93.72パーセント)であった(書証<省略>)。

イ 営業費について

(ア) 一般乗用旅客自動車運送事業営業費

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第8期(平成22年度)までの営業費は次のとおりである(書証<省略>)。なお、かかる営業費には、前記(2)カないしケの費用が含まれている。

平成15年度 5億4257万7071円

平成16年度 5億2665万1684円

平成17年度 5億1056万2666円

平成18年度 5億0849万5502円

平成19年度 5億2649万4304円

平成20年度 5億2501万7006円

平成21年度 4億7807万9415円

平成22年度 4億3504万3763円

(イ) 一般乗用旅客自動車運送事業営業費の人件費(括弧内は平成15年度を100パーセントとした場合の割合を示している。)

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業費のうちの人件費は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 3億9747万6928円(100パーセント)

平成16年度 3億7338万0909円(93.94パーセント)

平成17年度 3億5364万7468円(88.97パーセント)

平成18年度 3億4930万0764円(87.88パーセント)

平成19年度 3億5440万9423円(89.17パーセント)

平成20年度 3億5089万2868円(88.28パーセント)

平成21年度 3億1875万5005円(80.20パーセント)

ウ 営業外費用について

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第7期(平成21年度)までの営業外費用は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 335万6546円

平成16年度 254万2079円

平成17年度 151万7404円

平成18年度 186万1394円

平成19年度 181万9629円

平成20年度 164万4554円

平成21年度 410万4801円

エ 営業損益について

被告Y2社の第1期(平成15年度)から第8期(平成22年度)までの営業損益(▲は営業損失であり、括弧内は営業損益率を示している。)は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 ▲1018万3976円(1.9パーセント)

平成16年度 ▲415万6430円(0.8パーセント)

平成17年度 880万5824円(1.7パーセント)

平成18年度 941万6672円(1.8パーセント)

平成19年度 10万0942円(0.0パーセント)

平成20年度 ▲1065万4898円(2.1パーセント)

平成21年度 ▲1560万1298円(3.4パーセント)

平成22年度 728万8232円(1.6パーセント)

オ 被告Y2社は、平成15年の会社設立から平成22年度までの間、債務超過に陥っていない(書証<省略>)。また、被告Y2社における平成21年3月末時点及び平成22年3月末時点におけるタクシー1車両当たりの運転者数はいずれも1.25であった(弁論の全趣旨)。

(5)  被告Y3社の経営状況等

ア 営業損益について

被告Y3社の第50期(平成15年度)から第56期(平成21年度)までの営業損益(▲は営業損失である。)は次のとおりである(書証<省略>)。

平成15年度 ▲257万0164円

平成16年度 96万5850円

平成17年度 220万6708円

平成18年度 159万9529円

平成19年度 11万8763円

平成20年度 24万3172円

平成21年度 ▲1560万1298円

イ 平成21年度における被告Y3社の流動比率等

被告Y3社の平成20年度の貸借対照表によれば、被告Y3社の純資産合計は2億0970万7223円、負債・純資産合計は2億1488万9386円、流動資産の額は1億1351万5636円、流動負債の額は467万5263円であり、自己資本比率は97.59パーセント、流動比率は2428.01パーセントであった(書証<省略>)。

(6)  タクシー事業の経営環境等

ア 富士市・富士宮市のタクシー運賃収入の推移

静岡県タクシー協会の資料によれば、平成12年度から平成22年度までの富士市・富士宮市営業区域のタクシーの運賃収入は次のとおりである(書証<省略>)。

平成12年度 40億1511万3000円

平成13年度 39億3699万0000円

平成14年度 39億8503万9000円

平成15年度 39億2342万2000円

平成16年度 39億1583万6000円

平成17年度 39億0436万6000円

平成18年度 39億0148万3000円

平成19年度 39億2499万6000円

平成20年度 36億3993万2000円

平成21年度 32億2249万8000円

平成22年度 30億5831万3000円

なお、同営業区域における平成22年度のタクシー運賃収入は前年度比94.91パーセントである。

イ 富士市及び富士宮市のタクシー1両当たりの運転者数

静岡県タクシー協会の資料によれば、富士市内の平成21年3月、平成22年3月、平成23年3月、同年9月における運転者数/車両数は、1.25、1.23、1.23、1.26であり、富士宮市内の前記各時期における運転者数/車両数は1.08、1.11、1.21、1.18であった(書証<省略>)。

(7)  本件組合とaタクシー及び被告Y1社との関係

ア aタクシーと本件組合は、平成7年11月16日、歩合型(B型)の賃金体系に変更する旨の協定を締結した(書証<省略>)。この賃金体系においては、平均稼働額が85パーセント以下の者については所定支給率の賃金3パーセント減、賞与4パーセント減、平均稼働額が75パーセント以下の者については所定支給率の賃金5パーセント減、賞与5パーセント減とするという累進歩合制が採用されていた(書証<省略>)。

前記協定締結後、本件組合は、aタクシーに対し、前記賃金体系が累進歩合制であること等を理由にその是正を求めていた(証拠<省略>)。

イ aタクシーによる割増賃金の未払分があったことから、本件組合は、労働基準監督署に対してその旨申告したところ、労働基準監督署は、平成12年11月14日、aタクシーに対して割増賃金の未払分を支払うよう勧告し、aタクシーは従業員に対して割増賃金の未払分を支払った(争いのない事実、書証<省略>)。

なお、本件組合の組合員らは、平成14年4月、aタクシーに対して割増賃金の未払分の支払を求め、富士簡易裁判所に少額訴訟を提起した(書証<省略>)。同訴訟において、aタクシーと同組合員らは、aタクシーが割増賃金の未払分を支払う旨の和解をした(争いのない事実)。

ウ aタクシーは、平成13年2月1日付けの文書により、乗務員に対し、同年1月16日から前記アの累進歩合制を廃止する旨告知した(書証<省略>)。また、aタクシーは、同年1月22日から勤務交番表を変更し、これについて本件組合は反対した(書証<省略>)。aタクシーは、同年2月3日付けの「乗務員勤務交番表の変更について」と題する文書をもって、乗務員に対して、同年1月21日以前の勤務交番表に戻す旨通知した(書証<省略>)。

エ aタクシーは、平成13年3月、従業員に対して、賃金改定案を提示し、別組合はこの改定案に賛成した(争いのない事実、書証<省略>)。また、賃金改定に当たり、aタクシーは、従業員代表の選挙について告示し、従業員代表の立候補の締切日は同年4月6日とされ、同日は原告X1が有給休暇を取得する日であった(証拠<省略>)。同選挙では原告X1が従業員代表に選出され(争いのない事実、書証<省略>)、原告X1は就業規則(賃金支給規則)の変更には反対である旨の意見書を提出したが、aタクシーは、同年4月16日、就業規則(賃金支給規則)の一部を改定した(争いのない事実、書証<省略>)。

本件組合は、この就業規則改定による賃金体系の改定について、aタクシーに団体交渉を求めたり、aタクシーの親会社であるh株式会社に文書を送付したり、国会議員に対して協力を求めたりするなど、抗議活動を実施した(書証<省略>)。

オ 原告X1は、平成14年5月27日、入院することになった(書証<省略>)。aタクシーは、同年6月3日、36協定締結のために従業員代表の選挙の告示をし、同告示においては、立候補の締切日は同月6日とされたが、非組合員の立候補者はなかった(争いのない事実、証拠<省略>)。

原告X1は、肺結核症疑いとなり、同年5月27日から3か月程度入院し、その後3か月程度の自宅療養を経て、同年5月21日から非定型抗酸菌症にて治療中であり、同年12月1日まで自宅療養を要し、同月2日から就労可能である旨記載された診断書を持参して出勤した(書証<省略>)。aタクシーは、当初の診断書の病名が肺結核症疑いであったことから、原告X1に対し、会社指定の病院の診断書を提出するよう指示した(証拠<省略>)。原告X1は、これを提出しなかったが、まもなく勤務に復帰することになった(証拠<省略>)。

カ aタクシーと本件組合は、平成15年3月28日付けの協定書を取り交わし、aタクシーの会社分割を実施するに当たり、現労働契約、現労働協約の全てを承継すること、組合及び組合員の活動は従前のとおり認めること等について合意した(証拠<省略>)。

なお、aタクシーにおいては、富士営業所所属の従業員が所属する主たる組合は別組合であり、富士宮営業所所属の従業員が所属する主たる組合は本件組合であった(人証<省略>、弁論の全趣旨)。本件会社分割時における被告Y1社の従業員51人のうち16人が本件組合員であった(人証<省略>)。本件会社分割前にaタクシーの富士営業所所属の従業員の中にも本件組合の組合員が少なくとも1人おり、同人は本件会社分割後被告Y2社の従業員として勤務していた(人証<省略>)。

キ 本件組合は、aタクシーに対し、GPS配車システムでは不公正な配車がなされ、被告Y1社の従業員の運賃収入が減少する等の理由で従前の配車室に戻すよう要求したが、GPS配車システムによる配車はその後も継続された(証拠<省略>)。

ク 被告Y1社は、平成16年7月21日、本件組合に対し、月例賃金歩率及び賞与歩率を下げる等の賃金改定、給食費補助の廃止及び休日の扱いに関する改定を行う旨の申入れをした(争いのない事実、書証<省略>)。これに対し、本件組合は、労働条件の引下げは許さない旨記載した通告書等を提出して経理資料の開示を求め、同年11月24日の団体交渉でも反対した(書証<省略>)。被告Y1社は、前記賃金改定等のための就業規則変更に当たり、従業員代表の選出を要請したが、立候補者が現れず、その旨上申した上で、同年10月16日より就業規則の改定を実施した(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

その後、被告Y1社と本件組合とは、本件組合の上部団体の役員も出席の上で団体交渉を行い、平成17年3月11日、平成16年10月16日施行の賃金体系について労働協約を締結すること、変形労働制における法定労働時間を遵守すること、最低賃金法に基づく静岡県の最低賃金を下回った場合の差額補償の措置を講ずる規定を盛り込むこと等について合意した(証拠<省略>)。これを踏まえ、被告Y1社と本件組合は、平成17年4月19日、前記賃金体系等について協定を締結した(書証<省略>)。なお、被告Y1社と本件組合との間で前記賃金改定に関する合意等に至る過程において、被告Y1社は、本件組合に対して経理資料を開示した(争いのない事実、人証<省略>)。

ケ 被告Y1社は、平成20年7月3日、本件組合に対し、定年退職後の再雇用制度対象者の基準を提案した(争いのない事実、書証<省略>)。

同基準によれば、以下の①ないし⑩のいずれにも該当する者(乗務員)又は会社が指定する所属長の推薦のある者については再雇用することとされていた(書証<省略>)。

① 勤労意欲に富み、引き続き勤務を希望する者

② 定年前1年において各年度の出勤率が80パーセント以上であること

③ 定年前1年間において無断欠勤がないこと

④ 定年前1年間において、懲戒処分の出勤停止以上の処分を受けていないこと

⑤ 定年前1年間において、乗客からの苦情等2件を超えていないこと

⑥ 定年前1年間の各月の稼働高が対象乗務員の下位から30パーセント以上の者

⑦ 定年前3年間において、行政当局への報告対象となる重大事故を起こしていない者

⑧ 定年前1年間において過失割合が5割以上の有責事故を2回以上起こしていない者

⑨ 定年前1年間においてアルコール検知器にてアルコールが検知されていない者

⑩ 直近の健康診断の結果、業務遂行に支障がなく、また、再雇用時においても健康等に支障のない者

コ 本件組合は、平成20年9月25日、第48回定期大会を開催し、組合員の最低賃金の補填分を調べたところ、原告X8については2年間にわたって15か月分の最低賃金の補填がされていなかったことが判明した。そこで、被告Y3社に対し、不足分を支払うよう要求したところ、事務手続上の計算違いであったことから、被告Y1社は、数日後に同人に対して18万9558円を支払った。また、平成21年2月25日の本件組合の臨時大会においても、原告X8以外の組合員や非組合員の最低賃金の補填分を計算したところ、補填がされていなかったことが判明したことから、これを請求したところ、被告Y1社はこれらを支払った。(争いのない事実、書証<省略>)

サ 被告Y4は、平成20年4月から同年10月までの7か月間のうち6か月において原告X8が最低賃金補填を要する営業収入であったことから、同年11月及び12月、同人に対して個人指導を実施したが、その後も営業収入の改善が認められなかったため、平成21年3月5日、被告Y1社の会議室において原告X8と面談した(証拠<省略>)。その席上、被告Y4は、同月15日で1年間の有期契約が満了することから、当面2か月間の勤務状況を見てから契約更新について検討したい旨述べ、原告X8は、期間を2か月とする雇用契約書に署名押印した(証拠<省略>)。

本件組合は、被告Y1社に対し、同月12日付けの要求書を提出し、原告X8の継続雇用の短縮を行った理由を説明するよう要求し、1年の継続雇用契約を締結するよう抗議した(争いのない事実、書証<省略>)。

被告Y4は、同年4月8日、被告Y2社の会議室において、勤務状況が改善しないことを理由として原告X8に退職を促したところ、原告X8は、同年5月15日付けで退職する旨の退職届を作成して提出したが(証拠<省略>)、原告X8は、同月10日付け文書をもって被告Y1社に対してこの退職届を撤回する旨通知した(書証<省略>)。また、原告X8は、静岡労働局長及び富士労働基準監督署長に対し、同月16日付けの「Y1社における不当解雇通告にかかる緊急要請書」と題する書面を提出し、不当な解雇に対する迅速な対応を求めた(書証<省略>)。

被告Y1社は、静岡運輸支局から乗務員との3か月に満たない期間の労働契約を締結することが違法であるとの指摘を受けたことから、同月24日、原告X8との間で、1年間の継続雇用契約を締結した(争いのない事実、証拠<省略>)。

なお、平成20年度における原告X8の勤務時間1時間当たりの営業収入は被告Y1社の乗務員の勤務時間1時間当たり平均収入額の74.4パーセントであり、平成20年度のうち11か月間最低賃金の補填を受けていた(書証<省略>)。

シ 被告Y1社は、平成21年5月8日、本件組合との団体交渉において、平成20年7月3日に提案した定年退職後の再雇用制度対象者の基準を就業規則に盛り込むことを提案した(証拠<省略>)。

本件組合は、前記提案に反対し、h株式会社に対して要請書を提出するなど、抗議活動を行った(争いのない事実、書証<省略>)。また、このころ、本件組合の組合員数は23人となり、被告Y1社の従業員数(41人)の過半数を超えた(争いのない事実、証拠<省略>)。

被告Y1社は、平成21年5月30日、従業員に対し、高年齢者雇用者安定法に基づく定年退職後の再雇用制度(対象者基準の設定)に係る就業規則の変更はせず、今後、労働組合との協議事項とする旨通知した(書証<省略>)。

ス 被告Y4は、被告Y1社の従業員に対し、同年5月26日付けの「個人面談の実施について」と題する文書により、従業員と個人面談を実施する旨通知し、同月28日から個人面談を実施し、被告Y1社の顧客である大石寺の大口輸送に関すること等が話された(書証<省略>、弁論の全趣旨)。

セ 被告Y1社は、富士労働基準監督署の調査があり、最低賃金補填分に関わる時間外等「割増賃金」の計算不足を指摘されたことから、乗務員に対し、平成21年8月31日文書をもって不足分を支払う旨通知した(争いのない事実、書証<省略>)。

(8)  本件解散及び本件解雇に至る経緯

ア 前記(3)のとおり、被告Y1社の営業収益は減少しており、平成19年度は前年度比約7パーセント減、平成20年度は前年度比約3パーセント減と減少傾向にあったこと、平成20年度の営業損益は1353万2569円(営業損益率6.7パーセント)の赤字であったこと、平成20年度に459万8225円の債務超過に陥ったことから、当時の代表取締役であった被告Y4は、このような状況を回避するため、アイドリングストップによる燃料費削減、事務用備品や使用電気、水道の削減、営業車両の減車といった経費削減を行った(証拠<省略>)。

イ 平成21年度はいわゆるリーマンショックの影響等もあり、タクシー需要が減少していたこと(前記(6)参照)。従業員の約27パーセントに対して最低賃金を補填する状況に至ったことから、被告Y4は、賃金改定が必要であると判断し、平成21年11月26日、本件組合との団体交渉(以下「第1回団体交渉」という。)において、賃金改定を提案した(証拠<省略>)。その際、被告Y1社から本件組合に交付した申入書(書証<省略>)には、提案理由として、タクシー業界がかつてない厳しい状況下にあること、被告Y1社営業区域について平成20年12月からの落ち込みが非常に大きく、その状態がいまだに継続しており、前年比20パーセント近い落ち込みがあること、運行受託などの収益源を開拓するもタクシー需要の減少には到底追いつかず健全な経営を維持するための収入確保が困難な状況にあること、減車を実施して経費削減に取り組んでいるが、タクシー収入の減少から資金繰りが悪化し、平成21年度の月次決算については4月から連続して赤字を計上する深刻な経営難に陥っていること、年度決算においても平成19年度、平成20年度と2年連続赤字決算であり、平成21年度の決算見込みについては更に赤字が拡大し、債務超過に陥っていることから金融機関からの借入れは不可能となり、売却資産も残っていないことから資金繰りに行き詰まり倒産の危機に直面していること、これらのことから現在の賃金体系を維持することは既に限界に達しており、安定した経営をするためには賃金改定は避けられない状況であり、タクシー事業を取り巻く経営環境が好転して回復に向かうことは容易でなく、従業員の雇用確保を優先して会社を存続させていくため、賃金改定を提案した旨記載されていた。

被告Y1社が提案した賃金改定案は、月例賃金については、現行の賃金支給率から一律4.5パーセント引き下げ、精勤手当を廃止し、賞与の支給を勤続年数に応じた支給率から4か月稼働営収額に応じた支給率に変更するというものであった(証拠<省略>)。

ウ 第1回団体交渉は、平成21年11月26日午後1時30分から午後2時23分ころまでの間実施され、その内容は、要旨、次のとおりであった(証拠<省略>)。

第1回団体交渉において、被告Y4は、まず、本件組合員である原告X1、原告X2及び原告X3らに対し、前記申入書の提案理由に記載された内容に沿って賃金改定の提案に至った経緯を説明し、その際、「債務超過になっている関係上ですね、もうこれ以上おそらく金融機関からの借入れは非常に難しいと思っております。」、「このままいくと、いずれにしても資金ショートということで、まず借入れができないですね。こういう赤字になってくると。経営そのものができなくなってしまうということです。」、「従業員の雇用確保等を優先して、いずれにしても、会社の再建に向けた皆さんのですね、ご協力とご理解をお願いしたい。」、「賃金については来年2月給料から実施したい。」、「次の賞与、3月から新しい制度でもってですね、対応させていただきたい。」等と述べ、その後、賃金改定案の内容について説明した。

本件組合の組合員らは、被告Y4に対し、非乗務員の賃下げについての具体的な説明や被告Y1社の赤字の原因の説明を求め、赤字の原因は経営責任であること、GPS配車システムの稼働や他社よりも営業努力が不足していることが顧客減少の理由であること、本件の賃金改定案は賞与に関する部分が累進歩合制であり、禁止されているものであること等を指摘し、前記賃金改定に反対の意向を示した。

これに対し、被告Y4は、組合員らに対し、非乗務員の賃金も引き下げる予定であること、データ上は被告Y1社のタクシー業の売上げの減少率は富士宮市内全体のタクシー業の売上げの減少率よりも小さく、他社に負けているわけではないこと、顧客への営業についても一定の努力をしていること、減車等の経費節減を実施したことなどを説明した。

以上のような交渉がなされた後、原告X1は、被告Y1社が提示した賃金改定案について、「これ持ち帰って、ちょっと皆に話してみます。」と述べ、第1回団体交渉は終了した。

エ 本件組合は、被告Y1社に対し、平成21年12月9日付け「団体交渉の申し入れ」と題する文書により同月18日に団体交渉を実施するよう求めた。同文書には「団体交渉では、会社役員報酬、運転手以外の人件費、会社の収支決算の説明を求めますので、資料の準備を宜しくお願い致します。」と記載されていた。(書証<省略>)

オ 被告Y1社と本件組合は、同月24日午後4時から午後4時46分ころまでの間、賃金改定について2回目の団体交渉(以下「第2回団体交渉」という。)を実施したが、賃金改定について交渉は成立しなかった。第2回団体交渉の内容は、要旨、次のとおりであった。(証拠<省略>)

第2回団体交渉において、被告Y4は、まず、本件組合員である原告X1、原告X2及び原告X3に対し、前記エの申入書において説明を求めるとされていた事項について、役員報酬については被告Y1社が負担していないこと、被告Y1社の運転手以外の人件費負担は運行管理者4人分であり、これらについては給料額を4.5パーセント(支給率に換算すると8ないし9パーセント)減額すること、同年11月までの債務超過額が1752万円となっており、赤字の累計が約3200万円に達していること、同月までの同年度についても1270万円の赤字決算であり、3期連続の赤字となっているなど非常に厳しい現状であることなどを説明した。

本件組合の組合員らは、被告Y4に対し、営業努力が不足していること、配車室の電話対応が悪く、それについて指導すべきであること、提案された賃金改定による賃金体系は累進歩合制であり、禁止されているものであることなどを指摘した。

これに対し、被告Y4は、一定の営業努力はしており、データ上被告Y1社の営業収入が他社と比較して悪いわけではないことなどを説明した。また、被告Y4は、原告X1に対し、賃金改定案に対する本件組合の意見を確認したところ、意見は聞いたが賛成する人は一人もいない旨回答した。その後、被告Y4は、「もしね会社はこのままとすると、存続がこのままするとできなくなるから。」と述べ、また、「就業規則を変更してやろうとすると。どうなるんですか。」と尋ねると、原告X1は「労働協定がある以上、勝手に無視して就業規則だけを変えるなんてことは、ちょっとこれできませんよ、そんなことは。これ不利益変更でしょう。」、「できません。」と回答した。

なお、第2回団体交渉において、被告Y4は、財務諸表を持参していたが、本件組合の組合員が被告Y4に対し、前記エの申入書で準備を依頼していた資料の開示を求めることはなかった。

カ 同日の第2回団体交渉後、本件組合は、被告Y1社に対し、同日付け「申し入れ書」と題する文書を提出した。同文書には、「会社からの賃金改正の申し入れについては会社の経営責任を運転手に押し付けたものであり、全員反対で受け入れることはできません。」、「賃金改正の内容についても、あおり行為により、事故につながる危険があるとして、法律で厳しく禁止されている累進歩合が盛り込まれ、歩合給の歩率もより多くの人が最低賃金にかかるような内容です。」、「会社に対し、労働協約に反し、一方的な不利益変更の法律違反を行うことのないよう申し入れます。」、「会社が法律違反の一方的な賃金改正を行うとするならば、組合は、自交総連本部、静岡地連、地域の労働組合の協力のもと、法律違反を阻止する抗議行動を行います。」等と記載されていた。(証拠<省略>)

キ 被告Y4は、同月28日、原告X1に対して電話をかけ、賃金改定について交渉に応じるよう求めたが、原告X1は賃下げには応じない旨述べた。また、被告Y4は、被告Y2社の賃金改定交渉が妥結したことから、平成22年1月27日、原告X1に対して電話をかけ、その旨伝えて賃金改定の交渉に応じるよう求めたが、原告X1は、賃金改定の交渉には応じられない旨述べた。(証拠<省略>)

ク 被告Y4は、前記イの理由で賃金改定を提案したものの、原告X1から賃金改定交渉に応じない旨電話で述べられ、人件費削減等の経費削減に限界がある状況では事業を継続すれば債務超過額が増加することから、被告Y1社の存続を断念し、解散もやむを得ないと考え、被告Y1社の他の取締役と協議の上、同月28日の被告Y1社の取締役会において、被告Y1社の解散を諮るための臨時株主総会を開催することを決議した(証拠<省略>)。被告Y4は、解散後の精算事務を円滑にするため、従業員に対する説明会の会場を手配し、第三者から賃借している事業所不動産やリース車両等の返還を要するものについて保全の措置を講ずることとした(証拠<省略>)。

ケ 被告Y4は、同年2月8日、被告Y1社の臨時株主総会において、被告Y1社の株主である被告Y3社に対し、被告Y1社を解散せざるを得ないとの判断に至った事情を説明し、解散について賛否を求めたところ、異議なく承認され、被告Y1社の解散が決議された(書証<省略>)。そして、同日の夜間から同月9日の朝にかけて、被告Y1社の事業所をバリケードで囲う等して閉鎖し、タクシー車両を移動させる等の保全措置を講じた(証拠<省略>)。

コ 被告Y1社は、同日朝、原告等を含む従業員に対し、本件解散及び本件解雇を通知し、本件解散について説明会を開催する旨案内した(争いのない事実、書証<省略>)。

(9)  本件解雇後の事情等

ア 本件解散に関する説明会は、平成22年2月9日午前10時から午後零時まで実施され、被告Y1社の代表清算人となった被告Y4、山西克彦弁護士及び従業員のほぼ全員が出席し、従業員には「会社の解散について」と題する文書が配布された(書証<省略>)。

この文書には、タクシー業界がかつてない厳しい状況にあり、事業エリア内においても売上高が前年比20パーセント近くも落ち込む等の異常な状態の継続下で経営維持のための収入確保が困難となっており、赤字決算が連続し、債務超過の状態にあって金融機関からの借入れが事実上不可能な状態であることなどから、不本意ながら解散をすることにした旨記載されていた(書証<省略>)。

同説明会において、被告Y4は、前記文書に記載された内容に沿って解散に至る事情を説明した。また、被告Y4は、債務超過の原因は不況の影響と最低賃金を補填し、累進歩合制を導入していないこと等によること、被告Y2社は賃金改定を受け入れたが、被告Y1社は本件組合が賃金改定を拒否したこと、従業員を被告Y2社で雇用する枠はないこと等を説明し、健康保険証の返納など退職手続を行うよう依頼した。(書証<省略>)

イ 被告Y4は、同月10日、ハローワーク富士宮に対し、元従業員らの失業保険給付、再就職に関する説明会の実施等を依頼し、静岡県タクシー協会東部会長に対しては、同月15日付け「当社元職員の就職斡旋について(お願い)」と題する文書に元職員の名簿を添付して送付し、静岡県タクシー協会富士支部長及び富士支部会員に対しては、同月19日付け「当社元職員の就職斡旋について(お願い)」と題する文書に元職員の名簿を添付してファクシミリ送信し、元職員の就職あっせんの協力を依頼した(証拠<省略>)。

なお、平成22年6月から9月ころまでに、被告Y1社の元タクシー乗務員のうち5人が他のタクシー会社に就職した(証拠<省略>)。

ウ 本件組合は、同年2月17日及び同月24日、被告Y1社と団体交渉を行い、その際、被告Y4は、前記イのとおりハローワークや静岡県タクシー協会に就職のあっせん等を依頼していることを伝えた(書証<省略>)。

エ 被告Y2社は、被告Y1社の営業所の土地建物や車両等の営業資産を承継していない(証拠<省略>)。また、被告Y2社は、被告Y1社が有していたタクシー事業に関する許認可権を承継していない(人証<省略>)。

本件解散後、被告Y2社は、本件解散前に被告Y1社が利用していた営業所の電話番号(<省略>)を利用して事業を行っている(争いのない事実、書証<省略>)。この電話番号は、被告Y3社が西日本電信電話株式会社との間の契約に基づき取得した権利によるものである(書証<省略>)。

本件解散後、被告Y2社のタクシー車両は富士宮市内でも営業しており、被告Y2社のタクシー車両は、JR東海西富士宮駅前のタクシー乗り場、JR東海富士宮駅北口前、大石寺前のタクシー乗り場(本件解散前から被告Y2社の待機場所が存在していた。)、富士フイルム株式会社富士宮工場タクシー停車場所前及び富士宮富士急ホテル付近路上で待機したり、イオン富士宮店付近路上で待機することもあった(証拠<省略>)。本件解散前の被告Y1社のタクシーチケットは、顧客から回収したものの、回収できなかったものについては被告Y2社で使用することができた(人証<省略>)。なお、富士フイルム株式会社及び大石寺は本件解散前の被告Y1社の大口顧客であった(人証<省略>)。

被告Y2社は、平成23年9月15日付けの静岡新聞に求人広告を掲載し、タクシー乗務員を募集した(書証<省略>)。また、それ以降、被告Y1社の元従業員3人が被告Y2社に正社員として就職しており、それらの者はいずれも本件組合の組合員ではない(争いのない事実、証拠<省略>)。

2  争点(1)(本件解雇が無効か否か)について

前記1で認定した事実等に基づき、本件解雇の有効性について検討する。

(1)  解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効となるところ(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決・民集29巻4号456頁参照。労働契約法16条)、会社が解散した場合、会社を清算する必要があり、もはやその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、会社解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものとして、原則として有効であるというべきである。しかし、会社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠き、会社が解散したことや解散に至る経緯等を考慮してもなお解雇することが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認できない場合には、その解雇の意思表示は、解雇権を濫用したものとして無効となるというべきである。

(2)  以下、前記(1)の見地に立って、本件解雇の有効性について検討する。

ア 前記1認定によれば、被告Y1社の営業区域におけるタクシー需要が減少していること、それに伴って被告Y1社のタクシー事業による営業収入が減少し、平成19年度及び平成20年度と2年連続で営業損失を計上し、平成21年度も更に営業損失が拡大する見込みであったこと、平成20年度以降債務超過の状況にあったこと、本件組合に提示した賃金改定案が受け入れられなかったことなどから、被告Y4が被告Y1社の存続を断念し、平成22年1月28日の被告Y1社の取締役会において、被告Y1社の解散を諮るための臨時株主総会を開催することを決議し、同年2月8日の被告Y1社の臨時株主総会において本件解散が決議されたことが認められ、本件全証拠によっても、この臨時株主総会における本件解散の決議について法令又は定款違反の瑕疵があるとは認められない。

したがって、本件解散により被告Y1社はその従業員の雇用を継続する基盤が存在しなくなるから、その従業員を解雇する必要性が認められ、本件解散に伴う解雇は、客観的に合理的な理由を有するものということができる。

イ 次に、被告Y1社による本件解雇に当たっての手続面について検討するに、前記前提事実及び前記1認定によれば、同年1月28日の被告Y1社の取締役会において解散の方針が固まっていたにもかかわらず、被告Y1社は、同年2月9日の本件解雇前の段階において、従業員に対し、被告Y1社を解散し、それに伴って従業員を解雇する予定である旨説明することなく、事業所を閉鎖するなどした上で本件解散及び本件解雇を通知したことが認められる。解雇が従業員の生活に極めて重大な影響を与えることに鑑みると、被告Y1社と本件組合との間で会社解散前に事前協議を行う旨の協定の存在が認められないことを考慮しても、前記のような被告Y1社の対応に手続的配慮を欠く面があったことは否定できない。

他方、前記1認定によれば、被告Y1社は、前記のような厳しい経営状況から脱却して黒字化を図るために、平成21年11月26日に本件組合に対して賃金改定の提案をしたこと、その際の申入書には「資金繰りに行き詰まり倒産の危機に直面していることから、現在の賃金体系を維持することは既に限界に達しており、安定した経営をするためには賃金改定は避けられない状況」等、被告Y1社が倒産の危機に直面している厳しい経営状況下で賃金改定が避けられない旨記載されていたこと、同日及び同年12月24日に実施された団体交渉においても、被告Y4は具体的な数値を示して厳しい経営状況を説明し、「存続がこのままするとできなくなるから。」等と述べたものの、本件組合が賃金改定については反対の意向を示したことが認められる。このように、被告Y1社は、本件組合との団体交渉において、被告Y1社の厳しい経営状況について具体的に説明するとともに、賃金改定ができなければ会社の存続に関わる旨説明するなど、本件解散及び本件解雇前に会社の存続に関わる厳しい経営状況であること等については具体的な説明をしており、原告等が被告Y1社のこのような経営状況や賃金改定ができない場合に会社の存続が危ぶまれること等について何ら知らされることなく、本件解散及び本件解雇に至ったというものではない。

また、前記1認定によれば、本件解雇後まもなく、被告Y1社は、静岡県タクシー協会富士支部長等に対して元従業員の就職あっせんを依頼したり、ハローワークに対して再就職説明会の実施等を依頼するなどしており、本件解雇後ではあるものの、元従業員の再就職あっせんに関する措置を講じている。そして、前記1認定によれば、富士市・富士宮市営業区域内のタクシー需要が減少している状況下において、同区域を営業区域とする被告Y2社も2年連続で営業損失を計上する経営状況の下で賃下げを実施したというのであり、このような本件解散時における被告Y2社の経営状況等に照らすと、被告Y2社で被告Y1社の元従業員を受け入れなかったことが不合理であるとはいえず、その他当時の被告Y2社において被告Y1社の元従業員を雇用することができたと認めるに足りる証拠はない。また、タクシー需要が減少している状況下においては、被告Y1社が同業他社から再就職枠を確保することも困難であった可能性は高く、前記のような再就職のあっせん依頼の他に再就職枠の確保等ができなかったこともやむを得ないものといわざるを得ず、その他当時の被告Y1社の企業努力等により他社において再就職枠を確保できたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告Y1社は、同時点において可能な範囲で再就職に関する措置は講じていたものということができる。そして、本件解雇前の段階であれば、他社における再就職の枠を確保できた等、被告Y1社が本件解雇後に実施した前記再就職あっせんに関する措置以上の有効な措置を講じることができたと認めるに足りる証拠もない。

さらに、前記のとおり、被告Y1社は、タクシー需要の減少という状況下において、連続して営業損失を計上しており、かつ、その損失額も拡大傾向にある中で債務超過に陥っていたというのであり、被告Y1社を存続させて事業を継続すれば債務超過額が拡大することは容易に想定される状況にあったということができ、このような状況下において早期に被告Y1社を解散するという経営判断自体が不合理であるとはいい難い。

以上のとおり、本件解散やそれに伴う解雇予定等について事前に説明がないまま本件解雇に至ったことについては手続的配慮を欠く面があったことは否定できないが、従前の賃金改定に関する団体交渉等において被告Y1社が賃金改定がなされなければ存続できなくなる厳しい経営状況にあること等について説明がされていたこと、本件解雇後ではあるものの、元従業員の再就職に関する措置を講じており、これ以上の再就職に関する措置をなし得たと認められないことに加え、タクシー需要が減少している状況や被告Y1社の経営状況から早期の解散という選択が不合理であるとはいえないことを併せて考慮すれば、被告Y1社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠いているとまではいえない。

ウ 以上によれば、本件解散に伴う本件解雇は、客観的に合理的な理由を有し、社会通念上相当であると認められるから、無効とはいえない。

(3)  原告らの主張について

なお、原告らは、前記第2、3(1)(原告らの主張)記載のとおり、本件解雇は無効である旨主張するが、いずれも採用できない。その理由は次のとおりである。

ア 事業廃止の合理性がないこと

原告らは、被告Y1社には金融機関からの借入れがないこと、黒字化を可能とする賃金改定について就業規則を変更することにより実施できたにもかかわらずこれをしなかったこと、旅客運賃の減少は運行管理受託収入で補えたこと、被告Y3社等に対する不適正で過大な支出を削減することで黒字化ができたこと等から、被告Y1社の事業廃止には合理性がない旨主張する。

(ア) そこで検討するに、前記1認定によれば、本件解散時に被告Y1社が負担していた短期借入金の債権者は被告Y3社であり、その他金融機関からの借入債務は存在しなかったことが認められる。

しかし、被告Y3社に対する債務が返済義務を負わないというものではない上、前記のとおり、被告Y1社は、営業区域におけるタクシー需要の減少という状況下において、2年連続して営業損失を計上し、かつ、その損失額も拡大傾向にある中で債務超過に陥っていたというのであり、このような状況下においては金融機関からの新たな借入れが困難であり、被告Y1社を存続させて事業を継続すれば債務超過額が拡大することは容易に想定される経営状況にあった。このような被告Y1社の経営状況等に鑑みると、金融機関からの借入債務が存在しないことをもって被告Y1社の事業廃止が不合理であるということはできない。

(イ) また、前記1認定によれば、被告Y1社の平成19年度ないし平成21年度の運行管理受託収入は、それぞれ220万7300円、1261万3950円及び2364万3439円であり、平成19年度以降増加している。

しかし、前記運行管理受託収入の増加によっても平成19年度から平成21年度にかけての旅客運賃の減少の全てを補うには至っていない上、前記1認定のとおり、公営バスの運行管理受託業務は毎年入札できるものとは限らず、現に平成22年度のf町営バスの運行管理受託業務については入札するものの落札できなかったことや、受注したcバス事業については平成20年度及び平成21年度において営業損失を計上するに至っていることを併せて考慮すれば、旅客運賃の減少を運行管理受託業務により十分に補うことができたとはいえず、平成19年度以降の運行管理受託収入が増加していることをもって、被告Y1社の事業廃止が合理性を欠くものであったとはいえない。なお、被告Y1社は、cバス事業を無償で他社に移管しているが、前記のとおり、同事業が営業損失を計上するものであったことからすれば、この移管をもって事業廃止が不合理であったということはできない。

(ウ) 次に、被告Y3社等に対する不適切かつ過大な支出がある旨の主張について検討するに、前記1認定によれば、被告Y1社は、被告Y3社に対し、平成21年度に77万6714円の経営助言料(同年度の営業費に占める割合は0.43パーセント)、平成15年度ないし平成21年度に1174万円ないし1798万円の業務委託料等(平成18年度以降の営業費に占める割合は5.40ないし5.60パーセント)及びブランド料19万4451円ないし103万5471円(平成18年度以降の営業費に占める割合は0.09ないし0.11パーセント)を支払っている。

前記経営助言料及びブランド料については、いずれも親会社であるとはいえ別法人である被告Y3社との間の契約に基づく支出である上、被告Y3社による市場調査を契機として運行管理受託業務を受注したり、営業車の外装等に△△ブランドを利用するなど、その金額に照らして対価性を著しく欠いた不合理なものとはいい難く、また、これらの支出はその額に照らして被告Y1社の経営状況の悪化に大きな影響を及ぼしているとは考え難い。

また、前記1認定によれば、被告Y1社は、被告Y3社に対して経理業務等の旅客の運送等の事業以外の事務全般を委託し、業務委託料等はその対価として支払われていること、被告Y1社は前記事務全般を行っておらず、前記業務委託料等以外に事務担当者の人件費等を負担していないことが認められ、これらの事実によれば、業務委託料等を支払うことが対価性のない不適切な支出であったとはいえない。そして、前記1認定によれば、平成17年度以降の業務委託料等の金額は、被告Y1社がこれらの業務も全て行う場合に必要となる人件費や一般管理費を想定した金額よりも低い金額に設定されていたことや、その営業費に占める割合が被告Y2社(被告Y1社よりも営業損失率が低い)における平成18年度以降の業務委託料等の営業費に占める割合よりも低いことが認められ、被告Y1社が業務委託料等として支出した金額及びその営業費に占める割合が、同規模の会社が事務一般をも自ら行う場合に必要となる人件費や一般管理費等の支出額や営業費に占める割合と比して明らかに高額で対価性を著しく欠いているなど、その金額が不合理であることを認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、被告Y1社が被告Y3社に対して不適切かつ過大な支出をしたことを前提とする原告らの主張は採用することができない。

なお、前記1認定によれば、被告Y3社は、従前、被告Y1社に対し、経営助言料や業務委託料等の一部を免除していたこと、被告Y3社の財務諸表からは本件解散当時の被告Y3社の経営状況は安定していたことがうかがわれ、平成21年度以降においても経営助言料や業務委託料の一部や全部を必要に応じて免除することにより被告Y1社の営業損益を一定の範囲で調整し得た可能性は否定できない。しかし、タクシー需要の減少という状況下において事業を継続すれば債務超過額が拡大することが容易に想定される経営状況にある被告Y1社に対し、被告Y3社が契約に基づく業務委託料等の免除の方法により被告Y1社の営業収益の改善に努めなかったことが経営判断として不合理であるとはいえず、仮にこのような免除措置等の継続的な実施により被告Y1社が営業損失を減少又は営業収益を上げることができ、債務超過額を減少させることができた可能性があるとしても、そのことを前提として被告Y1社の事業廃止に合理性がなかったということはできない。

また、被告Y1社が機械使用料等契約に基づき被告Y2社に支払ったGPS使用料等の額は、被告Y2社と被告Y1社の車両台数に応じて按分することにより算出されたものであり、このような被告Y1社の被告Y2社に対する支出が不適切かつ過大であったということはできない。

(エ) 次に、被告Y1社が賃金改定について就業規則を変更しなかった点について検討するに、この点について、被告Y4は、強引に賃金改定を実施しても経営ができなくなる旨判断した旨供述する。

そして、前記1認定によれば、平成21年5月ころに本件組合の組合員が従業員の過半数を超えたこと、賃金改定案を提示した第2回団体交渉において、本件組合の執行委員長である原告X1が労働協定を無視して就業規則を変えることはできない旨述べ、第2回団体交渉後に本件組合が提出した「申し入れ書」にも一方的な賃金改正を行えばこれを阻止する抗議行動を行う旨記載されていたことが認められる。このような事実に加え、当時の被告Y1社の経営状況(前記(2)参照)を併せて考慮すれば、被告Y4が本件組合の同意を得ずに就業規則を変更しても本件組合との関係で経営が困難であると判断したことが明らかに合理性を欠く判断であったとはいい難く、本件組合の同意を得られない状況において賃金改定に関する就業規則を変更しなかったからといって、被告Y1社の事業廃止の合理性がなかったということはできない。

また、原告らは、前記賃金改定については2回の団体交渉で終了しており、これは再雇用制度に関する団体交渉の回数よりも少ない旨主張する。しかし、被告Y1社において団体交渉を3回以上継続しなければならない義務を負うものではない。また、前記(2)のとおり、当時の被告Y1社は、営業を継続すれば債務超過額が増加することが容易に想定される状況にあり、このような状況下において、第2回団体交渉後に本件組合が賃金改定に反対する旨の文書を提出し、その後の被告Y4からの電話に対しても原告X1が賃金改定の交渉に応じない旨述べたという本件の経過等に鑑みると、被告Y1社がそれ以上の賃金改定交渉を継続せずに本件解散を選択したことが不合理であったとはいえない。

(オ) なお、証拠(書証<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、本件解散の際にバリケードの設置等に要した費用や本件解散に伴うリース契約の解除による返還債務など、本件解散により生じた債務が1268万5455円であることが認められるが、これらを負担する前の被告Y1社が債務超過にあり、厳しい経営状況にあったことは前記(2)のとおりであるから、被告Y1社がこれらの債務を負担したことをもって被告Y1社の事業廃止の合理性がなかったということはできない。

(カ) 以上によれば、被告Y1社の事業廃止が不合理であるということはできず、事業廃止の合理性がないことを前提とする原告らの主張は採用できない。

イ 原告らは、被告Y1社は、元従業員らの解雇による打撃軽減措置を検討することなく解散の方針を決定し、突然本件解雇を行うなど、解雇打撃軽減義務を履行していないから、本件解雇は無効である旨主張する。

そこで検討するに、被告Y1社は、従業員に対して本件解散及び本件解雇の方針を事前に通知することなく本件解散に伴う本件解雇を行い、元従業員らが再就職のための準備期間等を十分確保できなくなるなど、このような被告Y1社の対応に手続的配慮を欠く面があったことは否定できないことは前記(2)のとおりである。しかし、被告Y1社が本件解雇後ではあるものの、可能な範囲で再就職あっせんに関する措置を講じていること等の事情を考慮すれば、被告Y1社が従業員を解雇するに当たっての手続的配慮を著しく欠いているとまではいえないことは前記(2)のとおりであり、これに反する原告らの主張は採用することができない。

なお、本件全証拠によっても、本件解散を諮るための臨時株主総会の開催を決議した被告Y1社の取締役会において長時間にわたって従業員の再就職に関する措置等を検討した事実を認めることはできない。しかし、このような検討に要した時間の長短が問題となるわけではないから、取締役会でほとんど検討がされていないことをもって手続配慮を著しく欠いたということはできず、被告Y1社が可能な範囲で再就職に関する措置を講じたことは前記(2)のとおりである。

ウ 原告らは、本件解雇前に解散の必要性等について何ら説明はなく、協議もなされていない上、事務所にバリケードを設置するなどの態様も悪質であること等から、本件解雇は解雇手続の相当性を欠いている旨主張する。

そこで検討するに、被告Y1社は、従業員に対して本件解散及び本件解雇の方針を事前に通知することなく本件解散に伴う本件解雇をしており、このような被告Y1社の対応に手続的配慮を欠く面があったことは否定できないものの、本件解雇を無効にしなければならない程度に著しく手続的配慮を欠いたといえないことは前記(2)のとおりであり、これに反する原告らの主張は採用できない。

エ 原告らは、本件解散が本件組合を排除する目的をもって被告Y1社の事業を被告Y2社に承継させた上でなされた偽装解散であり、本件組合を排除する意思に基づきなされたものであるから、本件解雇は不当労働行為に当たり無効である旨主張する。

(ア) まず、被告Y2社の事業承継について検討するに、前記1認定によれば、被告Y2社は、被告Y1社の事業所や車両等の営業資産を承継しておらず、被告Y1社の従前の顧客を被告Y1社との契約に基づいて承継した事実も認められない。他方、被告Y2社は、本件解散前の被告Y1社が使用していた電話番号(権利は被告Y3社所有)を利用していること、本件解散前の被告Y1社の中心となる営業区域であった富士宮市内でも営業をしていること、被告Y1社の大口顧客の一部を顧客として事業を行っていること等が認められ、これらの事実によれば、被告Y2社は本件解散前の被告Y1社が行っていた事業の一部を実質的に行っているということができる。

しかし、富士市と富士宮市は同一の営業区域とされているところ(弁論の全趣旨)、本件解散前にもGPS配車システムによる配車等により富士市内で被告Y1社の車両が顧客を乗車させることもあれば、富士宮市内で被告Y2社の車両が顧客を乗車させることもあったことが認められ(人証<省略>)、被告Y2社が被告Y1社の営業圏の中心であった富士宮市内においても営業を行っているからといって直ちに被告Y2社が被告Y1社の事業を実質的に承継したということはできない。

そして、前記1認定によれば、被告Y2社は本件解散から1年7か月が経過した後に求人募集をしているものの、それ以前に求人募集をしておらず、平成21年度に比して平成22年度の営業費が約4300万円減少していること、本件解散後の平成22年度の被告Y2社の旅客運賃が前年比93.72パーセントと減少しており、その減少率(6.28パーセント)が富士市・富士宮市営業区域の運賃収入の減少率(5.09(100-94.91)パーセント)よりも大きいことが認められる。これらの事実関係によれば、本件解散後に被告Y2社において被告Y1社の事業を承継して従前の被告Y1社が得ていた営業収入を確保するために増車や増員等の事業体制の増強を図り、本件解散前に被告Y1社が得ていた営業収入の多くを被告Y2社が代わりに得ていたとは考え難い。

以上によれば、本件解散後の被告Y2社は、被告Y1社から事業に関する財産を承継しておらず、また、実質的に見ても被告Y1社の事業を承継したとは認められない。

なお、原告らは、被告Y1社と被告Y2社の営業圏が同一であること、両者の配車室が統合されていたこと、営業車両の外装等の対外表示が共通していたこと、業務マニュアルが共通していること、両者の事業計画がほぼ同一であることから、被告Y2社が被告Y1社の事業を承継することが容易であった旨主張する。確かに、原告ら指摘の事情によれば、新たに法人を設けて被告Y1社から事業を承継する場合と比べて被告Y2社が被告Y1社の事業を承継することは容易な状況にあったといい得るが、容易な状況にあるからといって被告Y2社が被告Y1社の事業を承継したということはできず、本件解散の翌年度の被告Y2社の営業費や旅客運賃収入等に照らせば、被告Y2社が従前の被告Y1社が得ていた営業収入を確保するために増車や増員等の事業体制の増強を図っていたとは考え難く、実質的に事業を承継したとは認められないことは前記のとおりである。

(イ) 次に、本件組合を排除する目的の有無について検討するに、前記1認定によれば、aタクシー及び被告Y1社は、賃金体系、勤務交番表及び再雇用制度等の提案について本件組合から反対や抗議活動を受け、結果として導入することができなかったこと、本件組合の申告を契機として行政機関からの是正勧告を受け、従業員に未払の割増賃金等の金員を支払うこともあったが、本件組合がaタクシー又は被告Y1社と団体交渉を行い、当初は本件組合が反対のまま賃金体系(就業規則)を変更したものの、その後も交渉を継続してその賃金体系について合意するということもあった。

以上のような本件組合と被告Y1社等の関係に照らすと、賃金体系等について両者の意見の対立があり、aタクシー又は被告Y1社が本件組合を好意的に捉えていたとは認定できないものの、基本的には意見が相違する場合には両者が団体交渉という場で協議をしていたことが認められる。加えて、aタクシー又は被告Y1社が本件組合の組合員に対して脱退を促して利益誘導をしたり、本件組合員であることを理由に不利益を課したりするといった事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、前記1認定によれば本件組合の組合員の数は増加していることが認められることからしても、被告Y1社が本件組合の弱小化を図るために具体的な妨害措置を実施していたと認めることはできない。

(ウ) 以上のとおり、本件解散後に被告Y2社が実質的に被告Y1社の事業を承継しているとはいえず、本件解散前にaタクシー又は被告Y1社が本件組合の弱小化を図るなど、その活動を妨害したという事実は認められない。これらの事情に加え、前記(2)のとおり、被告Y1社は、タクシー需要の減少という状況下において、連続して営業損失を計上し、かつ、その損失額も拡大傾向にある中で債務超過に陥っており、このような状況下において会社解散という選択が不合理なものといえないことも併せて考慮すれば、本件解散の決定的な動機は被告Y1社の厳しい経営状況にあったというべきであり、本件解散が本件組合を排除するという不当な目的を決定的な動機として行われたものと認めることはできない。

(エ) なお、原告らは、原告X8への退職強要等の被告Y1社の行為には、本件組合を排除する不当労働行為意思が示されている旨主張する。

そこで検討するに、前記1認定によれば、原告X8が最低賃金の補填を求めたことを契機として他の組合員らもそれを求めるようになり、その後に原告X8が被告Y4から退職を促されたことが認められる。

他方、前記1認定によれば、原告X8の営業収入が他の乗務員と比して低く、被告Y4が個人指導をしても営業収入の改善が認められなかったことから、被告Y4が原告X8に対して1年の有期雇用契約の満了から2か月間の勤務状況を見てから契約更新について検討する旨述べ、原告X8の勤務状況に改善が見られないことから平成21年4月8日に前記2か月間の満了時における退職を促したことが認められる。

これらの事実関係によれば、被告Y4が、原告X8の営業成績が芳しくないことを理由として同人に退職を促したことがうかがわれるのであり、その他原告X8が本件組合員であり、その組合員を排除することを目的として被告Y1社が原告X8に退職を促したと認定するに足りる的確な証拠はない。

(オ) また、原告らは、同年5月ころに本件組合の組合員数が従業員の過半数を超え、そのわずか8、9か月後に本件解散がなされたことからすれば、本件解散に伴う本件解雇は本件組合を排除するという不当労働行為意思に基づくものである旨主張する。

なるほど、前記1認定によれば、平成21年5月ころに本件組合が労働者の過半数で組織する組合となり、就業規則の作成又は変更についての意見聴取(労働基準法90条1項)等、本件組合には法令上種々の権限等が付与されることになったことが認められる。このことは、被告Y1社が厳しい経営状況下において賃金改定を提案したが、本件組合に反対されたことにより賃金改定を断念し、本件解散を選択したという被告Y4の判断に影響を与えた可能性は否定できないが、前記(ウ)のとおり、本件解散前にaタクシー又は被告Y1社が本件組合の弱小化を図るなど、その活動を妨害したという事実は認められないことや、当時の被告Y1社の厳しい経営状況下で本件解散という経営判断が不合理とはいえないことに鑑みると、本件組合が過半数組合となってから8、9か月後に本件解散が行われたことをもって、本件解散が本件組合を排除するという不当な目的を決定的な動機として行われたものと認定することはできない。

(カ) さらに、原告X1は、平成13年及び平成14年の従業員代表選挙の際及び病気休養後の復帰の際に本件組合の執行委員長としての活動を妨害された旨供述する。

そこで検討するに、前記1認定によれば、平成13年の従業員代表選挙の立候補締切日が原告X1が有給休暇を取得する日であったこと、平成14年の従業員代表選挙が原告X1の入院休養中に実施されたことが認められるが、そもそも従業員の有給休暇中や入院による休養中に従業員代表選挙を行うこと自体が妨害活動とはいえない上、平成13年の従業員代表選挙の前にはaタクシーから賃金改定に関する提案がされていたこと、平成14年の従業員代表選挙がその実施時期から36協定を締結するためのものであったことを考慮すれば、これらの従業員代表選挙の実施が原告X1の委員長としての活動を妨害する目的であったと認定することはできず、その他妨害目的であったことを認定するに足りる的確な証拠はない。また、前記1認定によれば、病気療養中の原告X1が就労可能である旨の医師の診断書を提出したにもかかわらず、aタクシーが会社指定の病院の診断書の提出を指示したことが認められるが、aタクシーは当初提出された診断書の病名が肺結核症疑いであり、その病名から感染の疑いがあるから求めたというのであり、その指示自体の当否はともかく、前記指示が本件組合の活動を妨害する意思に基づくものであったと認定することはできない。

3  争点(2)(被告Y2社及び被告Y3社の労働契約上の責任の有無)について

原告らは、被告Y3社が被告Y2社に被告Y1社の事業を承継させた上で本件組合を排除する目的で被告Y1社を解散させたのであるから、本件解散は偽装解散であり、そうであれば法人格否認の法理により被告Y1社を実質的に支配していた被告Y3社が原告等に対して労働契約上の責任を負う旨主張する。

しかし、被告Y2社が被告Y1社の事業を承継したことや、本件解散が本件組合を排除する目的であったことが認められないことは前記2(3)エのとおりであるから、原告らの主張はその前提を欠いており、採用することができない。

4  争点(3)(被告らの損害賠償責任の有無)について

(1)  原告らは、被告Y1社、被告Y2社及び被告Y3社が法人格を濫用して違法無効な本件解雇をしたのであるから、原告等に対して共同不法行為責任を負う旨主張する。

しかし、本件解雇は有効であり、違法、無効であると認められないことは前記2のとおりであるから、本件解雇が違法・無効であることを前提とする原告らの主張は採用できない。

(2)  原告らは、被告Y1社及び被告Y2社の代表者として本件解散に主導的な役割を果たした被告Y4には、本件解散に伴う違法・無効な本件解雇について重大な責任があり、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う旨主張する。

しかし、本件解雇は有効であり、違法、無効であると認められないことは前記2のとおりであるから、本件解雇が違法・無効であることを前提とする原告らの主張は採用できない。

5  亡X6の労働契約上の権利を有することの確認を求める部分について

原告らは、死亡退職金請求等の諸権利を含む権利関係の総体について、一括して解決する根本的な権利関係を確認する利益があるから、亡X6死亡時における労働契約上の地位確認を求める必要がある旨主張する。

しかし、労働契約上の地位自体は当該労働者に一身に専属的なものであって相続の対象となり得ないものであるから、労働者の提起した労働契約上の地位を有することの確認を求める訴訟は、当該労働者の死亡により当然に終了すると解するのが相当であるところ(最高裁平成元年9月22日第二小法廷判決・裁判集民事157号647頁参照)、前記前提事実によれば、亡X6は、平成22年○月○日死亡したことが認められる。したがって、本件訴訟のうち、亡X6が被告Y1社、被告Y2社又は被告Y3社に対し労働契約上の権利を有する地位にあったことの確認を求める部分は、同日同人が死亡したことにより終了したというべきである。

第4結論

以上によれば、本件訴訟のうち亡X6の労働契約上の権利を有する地位にあったことの確認を求める部分については訴訟が終了しており、その余の原告らの請求はいずれも理由がない。

よって、上記終了部分につき訴訟の終了を宣言し、その余の原告らの請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 古閑美津惠 裁判官 松井俊洋 裁判長裁判官山﨑まさよは、転補のため署名押印することができない。裁判官 古閑美津惠)

(別紙 当事者目録を除き<省略>)

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