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静岡地方裁判所沼津支部 昭和59年(モ)931号 1985年4月24日

当事者の表示

別紙当事者目録〔左記・編注〕記載のとおり

主文

一  債権者らと債務者間の当庁昭和五九年(ヨ)第二六四号地位保全等仮処分申請事件について、当裁判所が昭和五九年一二月二七日になした仮処分決定は、これを認可する。

二  訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  債権者ら

主文と同旨

二  債務者

1  主文第一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)はこれを取り消す。

2  債権者らの本件仮処分申請を却下する。

3  訴訟費用は債権者らの負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者

(一) 債務者

債務者は、静岡県沼津市に本店を置き、静岡県を中心に、西は大阪から東は東京まで、一二〇の支店を有する地方銀行で、資本金一〇二億四、〇〇〇万円、従業員約三、一〇〇名の株式会社である。

(二) 債権者ら

債権者らは、いずれも債務者の従業員であり、大橋光雄は昭和四六年四月入行し、解雇時、個人金融部勤務、勝俣寿人は昭和三六年九月入行し、解雇時、集中計算部広域交換課勤務、柿畑孝は昭和三一年四月入行し、解雇時、事務部用度庫勤務、小塚竹司は昭和三七年四月入行し、解雇時、富士吉田支店勤務、大石和行は昭和四六年四月入行し、解雇時大阪支店勤務、というようにそれぞれ債務者に入行し、おのおのその業務に従事していたものである。

また、債権者らは、昭和二一年六月八日結成された駿河銀行従業員組合(以下「従組」という。)の組合員である。従組は、昭和五八年七月一日現在組合員約二、六〇〇名であったが、昭和五九年一〇月一日現在組合員約一五〇名である。従組は、全国地方銀行従業員組合連合会に加盟し、また、静岡県労働組合評議会、沼津地区労働組合会議をはじめとする県下七地区労及び神奈川県金融労働組合共闘会議に加盟している。

そして、債権者らは、いずれも組合役員として、大橋は、中央執行委員長(昭和五八年一〇月末日まで組合専従)を、勝俣は、書記長(昭和五八年一〇月末日まで組合専従)を、柿畑は、中央執行委員(昭和五八年一〇月末日まで組合専従)を、小塚は、中央執行委員(昭和五九年四月四日まで島田支店勤務、現在従組の志太支部担当)を、大石は、中央執行委員(昭和五九年四月四日まで浜松駅南支店勤務、現在も従組の遠州支部担当)をそれぞれ担い、従組中央執行委員会(一〇名)の半数を占め、従組活動の中心メンバーである。

2  被保全権利

(一) 債権者らに対する懲戒解雇通告と解雇理由の不存在

債務者は、昭和五九年一〇月八日、債権者らに対し、「就業規則第三条及び服務規定第一条に違反並びに就業規則第四一条一号、第三号、第五号、第六号、第七号、第一〇号に該当する行為があったので、同規則第四二条第六号により懲戒解職する」として懲戒解雇の通告を行なった。

債権者らは、債務者に対し、右解雇理由に該当する具体的事実を明らかにするよう求めたところ、債務者が明らかにしたのは、債権者らが、事故欠勤二〇日以上に当ることと、従組が配布したビラに問題があるということだけで、それ以上は明らかにしていない。

債務者が主張する債権者らの事故欠勤というのは、債権者らが従組の指令に基づき指名ストに参加したことを指しているのであり、従組がビラを配布したことも正当な組合活動である。

債権者らは、右正当な組合活動に従事しただけで、就業規則等に違反した事実はなく、解雇理由は存在しない。

(二) 債権者らの本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるもので、無効である。

(1) 従組は、結成以来、従業員の経済的地位の向上をめざし、債務者の経営民主化のため、あるいは職場から労基法違反をなくすため活発な組合活動を行なってきた。債務者は岡野家一族が経営を支配する典型的な同族会社であり、昭和四五年には地方銀行六三行中、一三位の業績を挙げていたが、経営政策の失敗により、昭和五八年には二四位に転落した。債務者は業績不振の原因を従組の活動に責任転嫁し、従組壊滅を図った。

(2) 債務者は、昭和五八年三月から職能給導入強行等を契機として、公然と従組攻撃を開始したが、同年七月の債務者による第二組合結成とともに、一層激しく従組攻撃を行なった。

すなわち、同年七月から債務者は、駿河銀行職員組合(以下「職組」という。)を作り、職制を使って、銀行全体において一斉に従組脱退=職組加入工作を繰りひろげ、そのてこにするために従組役員に対して、みせしめ的に遠隔地配転を強行するなど、従組壊滅を目的とする不当労働行為攻撃を展開した。その結果、従組組合員は同年九月初旬ころには、七月時点の組合員二、六〇〇名の約八割が脱退し、職組に加入することに至った。

そして、債務者は、昭和五八年九月ごろから昭和五九年四月にかけて、従組壊滅攻撃の焦点を従組執行部に定め、従組執行委員の時間中の組合活動の慣行否定、それを口実にする非専従中央執行委員に対する懲戒処分、専従中央執行委員全員に対する「組合専従者に関する協定」(以下「専従協定」という。)破棄に伴う職場復帰命令の強制及び中央執行委員二名に対する遠隔地配転を事前協議慣行を無視して強行するなど様々な不当労働行為を次々に実行してきた。

また、債務者は、第二組合による数の上での多数派形成後は、それを基盤として、当初の目論見どおり就業時間の延長(昭和五八年一〇月)、職能給導入(同年一〇月)及び慶弔見舞金規定改悪(同年一二月)と着々と全従業員の労働条件の大幅切り下げを実施してきた。

(3) これらの攻撃に対して、従組は、静岡県地方労働委員会(以下「地労委」という。)において六件の不当労働行為救済事件を、静岡地方裁判所沼津支部において職組及び債務者からの各債権仮差押事件をそれぞれ闘い、また、職場において労働条件の大幅切り下げに反対し、引き続き繰り返される従業員に対する脱退工作に反撃し、組織を防衛するため闘い、かつ、組織防衛のため、静岡県労働組合評議会及び地区労や全国地方銀行従業員組合連合会に加入するなど、昭和五八年七月から昭和五九年一〇月解雇時まで争議状況が継続するなかで、やむを得ず活発な組合活動を展開した。

しかも、就業時間中の組合活動の慣行を懲戒処分を脅迫手段として一方的に奪われ、専従執行委員全員が職務命令で職場に戻され、さらに中央執行委員二名の遠隔地配転の攻撃を受けた従組は、その心臓部ともいうべき中央執行委員会のこれまで果してきた機能がこのままでは停止せざるを得ず、このままでは従組自体が崩壊するという危機に立たされた。そのため従組は、債務者の数々の不当労働行為に抗議し、組織を防衛するためストライキ権を確立した。また、従組は、従来からの賃上げ要求、退職金要求等の諸要求実現のためのストライキ権を確立していた。そして、従組は、右ストライキ権の行使として、債権者ら五名にストライキ指令を発し、債権者ら五名は、その指令に基づき指名ストライキを実施したものである。いうまでもないことであるが、この指名ストは正当な労働組合活動である。

(4) ところが、債務者は、従組破壊攻撃が一定の効をそうしたものの、従組の活発な組合活動を著しく嫌悪し、昭和五九年一〇月一日現在なお、約一五〇名の従組組合員が従組に残り頑張っているうえ、従組に対してなした債権仮差押が債務者敗訴となり(昭和五九年九月一三日却下)、また、静岡地労委における昭和五八年第三号事件が昭和五九年一一月六日に結審を迎える状況となったので、逆にこの機会に従組中央執行委員の主たるメンバーを企業外に排除し、完全に従組を破壊することを企て、それによってさらなる労働条件の大幅切り下げと大収奪を目論見、本件解雇を強行したのである。

つまり、本件解雇は、従組の正当なストライキ権行使そのものを理由として、従組中央執行委員の主たるメンバーを企業外に排除し、それによって従組破壊を企てたものであるから、労働組合法第七条一号、三号に該当する明白な不当労働行為であり、法的には全く無効なものであることはいうまでもない。

(三) 債権者らの賃金

(1) 債務者は、毎月の賃金について当月一日から当月末日までの賃金を当月二五日に支給している。債権者らは、昭和五九年一〇月八日付で解雇されたのであるが、同年一〇月一日から同月八日までの賃金も未だ受領していない。従って、債権者らは同年一〇月一日以降の賃金を毎月二五日限り仮払いするよう求めるものである。

(2) 債権者らの昭和五九年一〇月八日現在における各自の賃金は次の表(略)のとおりである。

3  保全の必要性

(一) 債権者らは、いずれも債務者銀行に勤務し、そこから得られる賃金を唯一の収入として生活している労働者である。したがって、債権者らが、債務者から解雇されて収入の道を断たれることは、生活面においてはもちろん、精神的な面においても耐え難い苦痛を強いられることは言うまでもないことである。

また、債権者らは、いずれも三〇代後半から四〇代後半にわたるいわゆる働き盛りの年代に属し、いずれも二人ないし三人の子供をかかえ、そのほとんどは幼稚園、小学校、中学校、高校の園児、児童生徒であり、これらの子供らの教育費の負担は多大なものがあるばかりではなくいわゆる食べ盛りの子供らの食生活も充実したものにしていかねばならない。そのため、やむを得ず債権者らの妻も何人かは働きに出ているが、その収入は日本の中高年婦人労働者の資金水準の例にもれず、きわめて少ないものであり、その収入だけで債権者らの各家族の生活を維持するには収入が絶対的に不足しているのである。したがって、各家族の生活は、本件解雇により即座に危機に直面し、債権者らとその家族は、経済的にも精神的にも筆舌に尽くし難い苦痛・被害を被むることは明らかである。

(二) 債権者らとその家族にとって、健康保険の重要性はいうまでもない。特に、債権者勝俣寿人は、七〇才を超える老齢の両親をかかえ、経済面で大変なばかりでなく、両親の病院通いもひんぱんなため、本件解雇により健康保険を奪われると、まさに明日から高額の医療費の負担を強いられることになる。また、債権者らは、健康保険を失うと、子供の急病や発熱の際に安心して医療機関にゆだねることができなくなってしまうのである。

債権者小塚竹司及び同大石和行は、昭和五九年四月五日付配転命令により、自宅から到底通勤できない遠隔地に配転されたために夫婦別居を強いられ、やむを得ず債務者の社宅(寮)に居住している。そして、債務者は本件解雇通告の際、いずれも債権者小塚及び同大石に対し、社宅(寮)からの立ち退きを請求している。しかし、現在社宅(寮)からの立ち退きをせまられると生活の場所を失うことになり、同時に活動の拠点を奪われることになるため、右二名は社宅(寮)を明け渡すことはできないのである。

また、債権者大石は、債務者からの住宅貸付金残金四、六七〇、〇〇〇円の一括返済を債務者から解雇通告の際、請求されているが、右返済を行なえる状況にはなく、このままでは、折角努力して入手した自宅を人手に渡さざるを得なくなるのは明らかである。

(三) さらに、債務者は、これまでの組合敵視の行為・処分にてらし、今後、「債権者らは解雇され、既に従業員ではない」との口実のもとに、債権者らが参加する団体交渉には応じないとか、団体交渉や組合活動等のため債務者の本店、支店に入ること自体を禁止するなどという蓋然性が高いといわねばならない。このような事態が発生すると現行の労働法体系において法の要請する基本骨格の一つである「労使間の紛争(本件解雇問題を含め)を労使が自主的・自律的に解決する」ことが、著しく困難に陥ることは明らかである。

そのうえ、従組の中心メンバーである債権者ら五人が、このまま地位を認められず放置されると、まさに債務者が企てた組合壊滅の危機が現実のものになりかねない。この面からも地位保全の必要性は、極めて強いのである。

4  したがって、本件仮処分決定は正当なのでその認可を求める。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1(一)の事実は認める。

同1(二)のうち、債権者らが債務者によって懲戒解職されるまで債務者の従業員であり、その主張の時期に債務者に入行し、懲戒解職当時、その主張のような部所に勤務していたこと、債権者らが従組の組合員であること、従組の組合員が昭和五八年七月当時約二、六〇〇名であったこと、従組が全国地方銀行従業員組合連合会に加盟していること、小塚及び大石を除く債権者らがその主張のような組合の役職にあること(但し、組合専従期間は、大橋は昭和五三年一一月から、勝俣及び柿畑は昭和四六年六月から、それぞれ、昭和五八年一〇月末日までである。)、小塚及び大石が中央執行委員であって、その主張の日までその主張の支店に勤務していたこと及び債権者らが従組中央執行委員一〇名中の半数に当たることは認めるが、その余の事実は知らない。

2  同2(一)のうち、債務者が、昭和五九年一〇月八日、債権者らに対してその主張のように懲戒解職する旨通告したこと、その際、債権者らが所属長に対し懲戒解職の理由を明らかにするよう求めたので、所属長が根拠となる就業規則等の各条項等について説明したことは認めるが、その余の事実は否認する。

債権者らの本件懲戒解職は、債権者らが従組の指令に基づき指名ストに参加したこと及び従組がビラを配布したことを理由とするもので、いずれも債権者らの正当な組合活動を理由とするものであり、債権者らが就業規則等に違反した事実はなく、解雇理由は存在しないとの主張は争う。

同2(二)(1)のうち、債務者の業績が昭和四五年には地銀六三行中一三位であったところ、昭和五八年には二四位に低下など芳しくなかったことは認めるが、従組が結成以後、債権者ら主張のようなことを目ざして、活発な組合活動や経営民主化のための活動や、職場から労基法違反をなくすための活動等を行なったとの点は不知。その余の事実は否認する。

債務者が、業績不振の原因を自らの経営政策の失敗ではなく従組の活動に責任転嫁し、従組壊滅策にのりだしたなどということはない。

同2(二)(2)のうち、昭和五八年九月初旬ころの従組組合員は、七月時点の組合員約二六〇〇名の約八割が脱退し、職組に加入するに至ったこと、昭和五八年一〇月に就業時間の延長と職能給導入を行ったこと、同年一二月に慶弔見舞金規定を改定したことは認め、その余の事実は否認する。

同2(二)(3)のうち、従組が全国地方銀行従業員組合連合会に加入したこと(但し、加入の動機は不知)、従組が債権者ら五名にストライキ指令を発し、債権者ら五名はその指令に基づき指名ストライキを実施したことは認めるが、その余は不知。指名ストが正当な組合活動であるとの債権者らの主張は争う。

同2(二)(4)のうち、債務者が従組に対してなした債権仮差押申請が債務者敗訴となったことは認め、昭和五九年一〇月一日現在の従組組合員数が約一五〇名との点は不知、その余は否認し争う。

本件懲戒解職は債権者ら主張のように従組の正当なストライキ権行使を理由として、従組中央執行委員の主たるメンバーを企業外に排除し、それによって従組破壊を企てたものではなく、後に述べるように正当なものである。

同2(三)(1)のうち、債務者銀行が当月一日から当月末日までの職務手当、滞在手当、現物給与、通勤手当を当月二五日支給しているとの点、及び昭和五九年一〇月一日から同月八日までの賃金も未だ受領していないとの点は否認し、その余は認める。

職務手当、滞在手当、通勤手当、現物給与は前月分をいずれも当月二五日に支給しているものである。

昭和五九年一〇月一日から同月八日までの賃金は債権者らがいずれも受領拒否したので、債権者大橋、同勝俣、同柿畑に対しては、同月一五日、同小塚に対しては同月一六日、同大石に対しては同月一一日各供託し支給ずみである。

同2(三)(2)のうち、債権者らの現物給与の算出額は否認し、その余は認める。

昭和五九年一〇月八日現在の各債権者の現物給与の額は、大橋一、八〇〇円、勝俣一、三二〇円、柿畑一、二〇〇円、小塚一、九二〇円、大石一、九二〇円である。

3  同3(一)のうち、債権者らが債務者に勤務していたこと、債権者らが債務者から解雇されていること、債権者らがいずれも三〇代後半から四〇代後半にわたるいわゆる働き盛りの年代に属し、いずれも二人ないし三人の子供をかかえていることは認めその余は不知。

同3(二)のうち、債権者勝俣が七〇才を超える老令の両親をかかえていること、債権者小塚及び同大石が昭和五九年四月五日付配転命令により自宅から通勤できない遠隔地に配転されたこと、当時夫婦別居をしていたこと、債務者が本件解雇通告の際、債権者小塚及び同大石に対し、社宅(寮)からの立ち退きを請求したこと、債権者大石が債務者からの住宅貸付金四、六七〇、〇〇〇円の一括返済を銀行から解雇通告の際請求されていることは認め、その余は不知。

本件懲戒解雇により、債権者らが健康保険を奪われ、債権者小塚及び大石が社宅(寮)に居住しており、これを明渡すことはできないとの主張事実は争う。

同3(三)は争う。

三  債務者の主張

債務者が債権者らを懲戒解職した理由は次のとおりである。

1(一)  債権者大橋は、昭和五八年一一月ないし昭和五九年一〇月当時、従組の中央執行委員長の地位にあった者であるが、右委員長として別紙(略)職場放棄一覧表(一)ないし(五)記載の指名ストライキを企画、決議、執行、指揮して、債権者勝俣外三名に対し、右一覧表(二)ないし(五)記載の指名ストライキを実施させ、更に自らも右一覧表(一)記載のように、昭和五九年一月二三日から同年一〇月三日までの間に六五日間にわたって指名ストライキを行った。

しかしながら、右指名ストライキはいずれも指名ストライキに名を藉りて、実は専ら就業時間中に組合用務に従事するため、職場を放棄することを目的としたものであるから、その目的において正当性を欠くか、又はストライキ権を濫用したものであって、違法なものである。

従って、大橋の右行為は、債権者らをして職場を放棄させ、又自ら職場を放棄したものであって、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第一、三、五及び一〇号に該当する。

(二)  大橋は、昭和五八年九月ないし昭和五九年九月当時、従組中央執行委員長の地位にあった者であるが、右委員長として別紙ビラ等一覧表記載の(一)ないし(六)のビラ等の配布を企画、決議、執行、指揮し、従組員らをして、右一覧表記載の日時、場所において、一般の第三者らに対し、右ビラ等を配布させ、さらに自らも、同一覧表の(二)ないし(六)記載のビラを同一覧表記載の日時、場所において、一般の第三者らに対し配布した。

しかしながら、右ビラ等は、右一覧表記載のように事実無根ないし事実を誇張、歪曲して記載したものであって、これによって、銀行の信用を毀損するものである。

従って、大橋の右行為は、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第六、七及び一〇号に該当する。

2(一)  債権者勝俣は、別紙職場放棄一覧表(二)記載のように、昭和五八年一一月九日から昭和五九年一〇月五日までの間に一七五日間にわたって指名ストライキを行った。

しかしながら、右指名ストライキは、前述のように、目的において正当性を欠くか、又はストライキ権を濫用したものであって、違法なものである。

従って、勝俣の右行為は、職場放棄であって、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第一、三、五及び一〇号に該当する。

(二)  勝俣は、別紙ビラ等一覧表の(六)記載のパンフレットを、同一覧表記載の日時、場所において、銀行取引先等に対し配布した。

しかしながら、右パンフレットの配布は、前述のように、銀行の信用を毀損するものである。

従って、勝俣の右行為は就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第六、七及び一〇号に該当する。

3(一)  債権者柿畑は、別紙職場放棄一覧表(三)記載のとおり、昭和五八年一一月九日から同五九年一〇月二日までの間に、一九七日間にわたって指名ストライキを行った。

しかしながら、右指名ストライキは、前述のように、目的において正当性を欠くか又はストライキ権を濫用したものであって、違法なものである。

従って、柿畑の右行為は、職場放棄であって、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第一、三、五及び一〇号に該当する。

(二)  柿畑は、別紙ビラ等一覧表の(三)、(四)記載のビラを同一覧表記載の日時、場所において、一般の第三者らに対し、配布した。

しかしながら、右ビラの配布は、前述のように、銀行の信用を毀損するものである。

したがって、柿畑の右行為は、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第六、七及び一〇号に該当する。

4(一)  債権者大石は、別紙職場放棄一覧表(四)記載のとおり、昭和五九年四月一八日から同年一〇月二日までの間に、七八日間にわたって指名ストライキを行った。

しかしながら、右指名ストライキは、前述のように、目的において正当性を欠くか、又はストライキ権を濫用したものであって、違法なものである。

従って、大石の右行為は、職場放棄であって、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第一、三、五及び一〇号に該当する。

(二)  大石は、別紙ビラ等一覧表の(一)及び(六)記載のビラ等を同一覧表記載の日時、場所において一般の第三者らに配布した。

しかしながら、右ビラの配布は、前述のように、銀行の信用を毀損するものである。

従って、大石の右行為は、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第六、七及び一〇号に該当する。

5(一)  債権者小塚は、別紙職場放棄一覧表(五)記載のとおり、昭和五九年四月一八日から同年一〇月二日までの間に、八七日間にわたって指名ストライキを行った。

しかしながら、右指名ストライキは、前述のように、目的において正当性を欠くか、又はストライキ権を濫用したものである。

従って、小塚の右行為は、職場放棄であって、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第一、三、五及び一〇号に該当する。

(二)  小塚は、別紙ビラ等一覧表の(二)及び(三)記載のビラを同一覧表記載の日時、場所において、一般の第三者らに対し配布した。

しかしながら、右ビラの配布は、前述のように、銀行の信用を毀損するものである。

従って、小塚の右行為は、就業規則第三条及び服務規定第一条に違反し、就業規則第四一条第六、七及び一〇号に該当する。

四  債務者の主張に対する認否(略)

第三疎明関係(略)

理由

一  以下の事実は当事者間で争いがない。

1  債務者は静岡県沼津市に本店を置き、静岡県を中心に一二〇支店を有する地方銀行で、その従業員は約三一〇〇名である。

2  債権者らは、債務者の従業員であり、昭和二一年六月八日結成された従組(昭和五八年七月一日現在組合員約二六〇〇名。)の組合員である。従組において、債権者大橋は中央執行委員長、同勝俣は書記長、同柿畑、同小塚、同大石は中央執行委員であり、債権者らは従組中央執行委員会(委員一〇名)の半数を占めていた。

3  債権者大橋は、従組の中央執行委員長として、その決議に基づいて別紙職場放棄一覧表(一)ないし(五)記載のとおりの指名ストライキ(以下「指名スト」という。)を執行、指揮し、債権者勝俣、同柿畑、同小塚、同大石をして指名ストを実施させるとともに、従組員らをして別紙ビラ等一覧表記載の(一)ないし(六)のビラ等を一般の第三者らに対して配布させた。

4  債権者大橋は、別紙職場放棄一覧表(一)記載のとおり、同勝俣は、同表(二)記載のとおり、同柿畑は、同表(三)記載のとおり、同大石は、同表(四)記載のとおり、同小塚は、同表(五)記載のとおり、指名ストを実施した。

5  債権者大橋は、別紙ビラ等一覧表(三)ないし(六)のビラを、同勝俣は、同表(六)のパンフレットを、同柿畑は、同表(三)・(四)のビラを、同大石は同表(一)ないし(六)のビラ等を、同小塚は、同表(二)・(三)のビラを、それぞれ同表記載の日時・場所において配布した。

6  債務者は、前記3・4の指名ストの執行・指揮、実施は、就業規則三条、服務規定一条、就業規則四一条一・三・五・一〇号に該当し、前記3・5のビラ配布の執行・指揮、実施は就業規則三条、服務規定一条、就業規則四一条六・七・一〇号に該当するとして、債権者らに対し、昭和五九年一〇月八日、懲戒解雇する旨の通告をした。

二  債権者らは、本件指名ストは正当であって、債権者らに対する懲戒解雇は不当労働行為に当たり、無効であると主張し、債務者は、右各指名ストは正当目的を欠くか、又はストライキ権の濫用であって違法であるから、これを理由に職場放棄をしたことは、懲戒解雇事由に該当すると主張する。

以下、右主張の当否につき判断する。

(証拠略)によれば、以下の事実が一応認められ、この認定を動かすに足りる資料はない。

1  昭和五八年三月一四日、債務者は従組に対し、職能給制度の導入を提案した。従組は右制度が実質的賃金引下げになるとして、これに消極的態度をとり、同年四月二〇日、同制度の導入に反対し、最低保障賃金の引上げ等を目的としてストライキを決議した。

しかし、その後、債務者と従組との右交渉が決着をみないでいたところ、同年七月八日、債務者は従組に対し、給与規定を職能給制度に基づくものに変更するについての意見を求め、同年七月二一日までにその提出がない場合は、反対意見とみなす旨通告したが、その後も両者の間で交渉が続けられた。

2  同年六月一五日、債務者は従組に対し、専従協定の改訂提案(専従者を三名に減らし、かつ、専従者の任期を一年に限るとするもの。)を行い、同年七月六日には、同年一〇月五日をもって昭和四六年六月二五日締結の専従協定を解約する旨の通告を行った。これに対し、従組は、昭和五八年七月二九日、地労委に不当労働行為救済命令の申立てをした。

3  同年七月一九日、職組が結成された。そして、債務者の浜松支店、磐田支店においては、支店長らによる従業員に対する職組加入の勧誘がなされた旨の報告が相次いだため、従組は、同年七月二九日と同年一〇月二一日に地労委に対し、これについての不当労働行為救済命令の申立てをした。

4  債務者は、同年七月二七日従組執行委員土屋郁夫に対し、同年八月一五日従組中央委員横山之利、従組会計監事金子信一、支店長代理であった従組員山室光延らに対し、昭和五九年四月五日債権者小塚、同大石に対し、それぞれ、転居を要する他の支店への配転を命じた。右の者らは、これを従組員であることを理由とする不利益取扱いであるとして異議をとどめつつも、右命令に応じた。従組は、昭和五八年八月二二日及び翌五九年五月一〇日、右各配転は不当であるとして、地労委に不当労働行為救済命令を申し立てた。

5  昭和五八年一〇月一二日、債務者は、従組の専従者である債権者大橋、同勝俣、同柿畑、申請外加藤友次、同中野利敏明に対し、休職を解き、それぞれの勤務場所に勤務を命ずるとの辞令を発した。右の者らは、これを従組の弱体化をねらう不当労働行為であるとして異議をとどめつつも、右命令に従った。

6  昭和五八年一一月二六日、従組は、職能資格制度導入阻止、組合組織防衛、就業規則改悪阻止、同年度下期臨給(臨時給与)要求の四項目を掲げてストライキを決議し、次いで昭和五九年四月二一日には、同年の賃金引上げ要求、同年度上期臨給要求の二項目についてストライキを決議した。

以上のとおり認められ、これらの事実によれば、債務者と従組との間には、債務者が昭和五八年三月一四日に職能給制度の導入を提案して以来、両者は、右導入問題のほか、専従協定、職組の結成等多くの問題を懸案の交渉事項として、断続的に団体交渉と反発を繰り返し、その間従組は、組合の要求実現の闘争手段として、別紙職場放棄一覧表記載のとおり、各指名ストを行ってきたものと一応認めることができる。

そして右各指名ストを行うについては、従組は、その各期日前に債務者に対して、別紙職場放棄一覧表(一)ないし(五)記載のとおりの目的である旨を書面で通告していたことは当事者間で争いがない。

そうすると、本件各指名ストは、正当な組合活動の一環として行われたものであるというべきである。

債務者は、右指名ストは、被指名者をして、ストライキの名目で職場を離脱させ、従組の用務に従事させることを意図したものであるから、違法ストライキであると主張する。確かに、被指名者には、従組の役員で、活発に組合活動をしている者の多いことが一応認められるが、指名ストによる職場放棄の結果として、従組の用務を行うことがあったとしても、このことから直ちに、前記のような争議状態の下において行われた本件各指名ストを、正当目的を欠き又はストライキ権の濫用であると速断することはできず、他に債務者の右主張事実を疎明するに足りる資料はない。

右各指名ストを違法ストライキであるとする債務者の主張は理由がない。

三  債務者は、別紙ビラ等一覧表記載(一)ないし(六)のビラ等には、事実無根ないし事実を誇張、わい曲した記載があり、これらは債務者の信用を毀損するものであるから、右ビラ等の配布は懲戒事由に該当すると主張し、債権者らは、右ビラ等配布は、正当な組合活動であると主張する。

一般に、労働組合が争議状態下において、争議の内容や背景事情についてその主張するところを一般市民等に知らせるため、ビラ等を配布することは正当な組合活動であるといえる。二で判示したところによると、本件ビラ等配布時において争議状態下にあったといえるのであり、また、(証拠略)によれば、別紙ビラ等一覧表の(一)ないし(六)記載のビラ等の内容は、表現において多少誇張されたところがあっても、従組の主張するところを表現したものと一応認められる。本件ビラ等の内容が右の範囲を超えて、ことさらに事実無根のことを記載し、わい曲して記載されたことを疎明するに足りる資料はない。したがって、本件ビラ等配布は、正当な組合活動の範囲内にあったということができる。

四  以上のとおり、債務者が懲戒解雇事由として主張する債権者らの行為は、いずれも正当な組合活動の範囲内にあることに加えて、債権者らの本件懲戒解雇に至る経緯と態様、債権者らが従組執行委員の半数を占め、しかも前記主要幹部を含むことに照らせば、右懲戒解雇は、債務者が従組の組合活動の中心をなしていた債権者らを嫌悪し、同人らの従業員としての地位を失わしめることによって、従組に打撃を与えることを意図してなされたものといわざるを得ない。それゆえ、本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるから無効というほかはなく、債務者と債権者らとの間には雇傭関係が存続するというべきである。

五  賃金債権と保全の必要性

成立に争いのない(証拠略)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、債権者らが本件懲戒解雇を通告された当時、別紙請求債権目録記載のとおりの賃金の支払を受けていたこと、債務者が、債権者らに対し、右通告以後、従業員として取り扱わず、賃金も支払っていないこと、債権者らは、これまで、債務者から支払を受ける賃金でその生計を維持してきたので、賃金の支払を受けられなければ回復し難い損害を受けるおそれがあることが一応認められる。

六  よって、債権者らの申請を認容し、債務者に申請費用の負担を命じた本件仮処分決定は相当であるから、これを認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中橋正夫 裁判官 塩月秀平 裁判官 生島恭子)

当事者目録

債権者 大橋光雄

(ほか四名)

右債権者ら訴訟代理人弁護士 福地絵子

(ほか三〇名)

債務者 株式会社駿河銀行

右代表者代表取締役 岡野喜久麿

右債務者訴訟代理人弁護士 橋本武人

(ほか六名)

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