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静岡地方裁判所沼津支部 昭和60年(ワ)291号 判決

一 原告が本件登録商標「成金さん」の商標権(本件商標権)を有していること、被告がその製造販売するまんじゆうの包装用紙に「成金まんじゆう」なる標章を付していることは、当事者間に争いはなく、証人高木広一の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第三ないし一八号証によれば、被告が被告標章の使用を開始した時期は昭和五六年五月二日であることが認められる。

二 そこで、本件登録商標「成金さん」と被告標章「成金まんじゆう」とが同一であるかもしくは類似するか否かにつき、検討する。

1 両標章の要部について

本件登録商標「成金さん」のうちの「さん」は、人あるいは屋号に付して用いられる敬称としての接尾語で右「成金」の従たるものにすぎず、それ自体特定の観念を生じるものではなく、他方、被告標章「成金まんじゆう」のうちの「成金」は、右「まんじゆう」を形容ないし限定するものとして用いられており、右「成金」と「まんじゆう」を分離してはそれが本来表彰しようとした観念とは全く別異のものとなると解される。

したがつて、両標章は、いずれも、その一部を分離されることなく一体のものとして覚知されるべきものであるから、本件登録商標及び被告標章の一部を取り出してそれを要部として比較するのは相当でなく、右両者は全体として比較されるべきである。

2 外観について

本件登録商標と被告標章のそれぞれの外観を対比すると、字数の点は、前者が四文字から成るのに対し、後者は七文字から成り、近似してはいないこと、また、文字構成においても、第一、第二及び第四文字を共通にしているにすぎないことが認められる。

したがつて、本件登録商標と被告標章が外観上類似するということはできない。

3 称呼について

本件登録商標から「ナリキンサン」なる称呼が、被告標章から「ナリキンマンジユウ」なる称呼がそれぞれ生じることは明らかであるところ、本件登録商標は全六音のうちの五音までを被告標章と共通にしている。

しかしながら、右各標章は、いずれも続けて一連に発音されるのを通例とすると認められ、また頭初の四音を共通にしているので、右共通の四音「ナリキン」に続く「サン」と「マンジユウ」の音数の相違はきわだつたものとなり、ひいては右各標章全体の称呼の差異を著るしいものとするから、両標章は称呼上類似するということはできない。

4 観念について

本件登録商標「成金さん」から生じる観念は「人・人物」であり、被告標章「成金まんじゆう」からは「食品・菓子」が観念されるのであつて、後者に「成金」が形容詞的に用いられているところから、その由来、用途等における前者とのかかわり合いをうかがわせないではないにすぎず、観念の同一又は類似をせんさくすべき場合にはあたらない。

5 以上のとおり、本件登録商標「成金さん」と被告標章「成金まんじゆう」は外観、称呼、観念のいずれにおいても同一でなく、類似していないと断ぜざるを得ないから、被告が被告標章を使用することが本件商標権を侵害していると認めることはできない。

三 よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。

〔編註〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

一 請求の原因

1 原告は昭和五五年四月一七日に設立された会社で、土産物用のまんじゆう等の製造卸売等を業とするものであつて、その業務に関し左記商標の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。

(一) 出願日  昭和五六年七月二九日

(二) 公告日  昭和五九年四月六日

(三) 登録日  昭和五九年一一月二七日

(四) 登録番号 第一七三二四五五号

(五) 商標   別紙商標目録記載のとおり「成金さん」

(六) 指定商品 第三〇類菓子、パン

2 被告は、原告が右商標登録の出願をした頃から、業として製造販売する商品であるまんじゆうの包装用紙に「成金まんじゆう」なる標章(以下、「被告標章」ともいう。)を付し、これを販売している。

3 被告標章「成金まんじゆう」は本件登録商標とその要部である「成金」が同一で、同一もしくは極めて類似する商標というべく、またこれを付したまんじゆうは本件商標権にかかる指定商品に属するから、被告が2のとおり「成金まんじゆう」なる標章を用いていることは原告の本件商標権を侵害するものである。

4 よつて、原告は被告に対し、商標法三六条により被告標章「成金まんじゆう」の使用差止を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、被告が「成金まんじゆう」なる標章の使用を始めた時期は否認し、その余は認める。その時期は原告の本件商標出願日より約三か月前の昭和五六年五月二日である。

3 同3の事実のうち、被告の製造販売する成金まんじゆうが本件商標権にかかる指定商品に属することは認め、その余は否認する。

三 被告の主張

1 「成金まんじゆう」は菓子業界において明治三八年頃から普通名称、いわゆる商品名として使用され、特許庁における昭和四五年以来の商標登録審査行政実務の一例を見ても「成金饅頭」は商品名とされている。「成金さん」という商標は、本来人に付ける接尾語である「さん」を付けまんじゆうを擬人化することにより、もはや慣用商標とはいえなくなり、登録を受けることが出来たのである。また特許庁の審査例において、出願された「成金もち」及び「成金おこし」という商標が既に商標登録済みの「名里錦豆」と類似であるとして拒絶査定されたことがある。本件登録商標「成金さん」も要部が「成金」とすれば同様に拒絶査定されたはずであり、登録を受け得たということはとりもなおさず「成金」が要部でないということである。即ち「成金さん」の特徴である擬人化の直接の原因が「さん」の部分にあり、相対的には「成金」の部分より「さん」の部分に要部があるといえる。ところが被告標章「成金まんじゆう」には本件登録商標の要部「さん」は存在しない。

2 更に、商品の包装用紙の外観上も、原告商品「成金さん」の表示は縦一行、被告商品「成金まんじゆう」の表示は縦二行で文字の配列が異なるとともに、それぞれの字体も相当に異なる。

したがつて、被告標章「成金まんじゆう」は本件登録商標「成金さん」とはその呼称、観念、外観のいずれの点においても同一でなく、類似していない。

3 被告は昭和五六年五月二日から「成金まんじゆう」なる標章を用いて販売を開始し、被告標章は原告が本件登録商標を出願した時には、商品の名称として需要者の間に広く認識されていた。したがつて被告は商標法三二条一項に基づき先使用による商標の使用をする権利を有する。

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