静岡地方裁判所沼津支部 昭和62年(ワ)249号 判決 1994年2月23日
主文
一 被告らは各自、原告乙山夏男に対し、金一億三八七三万六三四一円及び内金一億二八七三万六三四一円に対する昭和六一年一二月二〇日から、内金一〇〇〇万円に対する昭和六二年七月一九日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは各自、原告乙山春男及び原告乙山花子に対し、各金五五〇万円及び内各金五〇〇万円に対する昭和六一年一二月二〇日から、内各金五〇万円に対する昭和六二年七月一九日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告乙山夏男のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告乙山夏男と被告らとの間においては、同原告において生じた費用及び被告らに生じた費用の三分の一を一五分し、その一を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告乙山春男及び原告乙山花子と被告らとの間においては、同原告らに生じた費用及び被告らに生じた費用の三分の二を被告らの負担とする。
五 この判決の第一、二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 被告らは各自、原告乙山夏男に対し、金一億五〇三〇万〇〇七三円及び内金一億三六六三万六四三〇円に対する昭和六一年一二月二〇日から、内金一三六六万三六四三円に対する昭和六二年七月一九日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 主文第二項と同旨
三 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件は、原告乙山夏男(以下「原告夏男」という。)が診療上の過誤により不可逆的な脳障害を負ったとして、原告夏男及びその父母である原告乙山春男(以下「原告春男」という。)と原告乙山花子(以下「原告花子」という。)が、被告A(以下「被告A」という。)及び被告B(以下「被告B」という。)については共同不法行為責任に基づき、右被告らを雇用する医療法人社団○○会(以下「被告医療法人」という。)については使用者責任に基づきそれぞれ損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実(以下、証拠によって認められる事実のみ証拠を掲記する。なお、成立に争いがないか、弁論の全趣旨から成立が認められる書証についてはその旨記載することを省略する。)
1 当事者
(一) 原告夏男は、昭和四三年八月二日父原告春男と母原告花子の長男として生まれ、昭和六一年一二月当時□□高等専門学校機械工学科に三年生として在学し、昭和六四年(平成元年)三月同校を卒業する予定であった〔原告の専攻、学年及び卒業予定については甲一〇の一及び原告花子本人(第一回)〕。
(二)(1) 被告医療法人は、静岡県三島市所在の病院(以下「本件病院」という。)の開設者である。本件病院は、内科、外科、整形外科、放射線科等を診療科目とするいわゆる総合病院であり、病床数約一二〇床、常勤医師二名を有し、周辺地域の医療活動に重要な役割を担う医療施設である。
(2) 被告Aは、昭和五九年から本件病院の病院長を務め、本件病院の医療管理全般につき責任を負うべき立場にあった。後記のとおり原告夏男が本件病院に入院した当時、本件病院には常勤の整形外科医師がいなかったため、常勤の外科系医師であり病院長である被告Aは、原告夏男の医療に関し主治医の立場にあった。
(3) 被告Bは、静岡県浜松市所在の浜松医科大学医学部付属病院に勤務する外科医師であり、本件病院の要請により、週一回程度本件病院の非常勤医師として勤務していた。
2 医療事故の発生とその経過
(一) 原告夏男は、昭和六一年一二月一三日午後一〇時一五分頃、原動機付自転車を運転中、三島市西若町内の市道の植え込みの鉄柵に左足を引っ掛けて転倒する交通事故を起こし〔以上の事実は甲一〇の一及び原告花子本人(第一回)〕、左下腿骨開放性骨折の傷害を負い、救急車で本件病院に搬送され、開放箇所の傷口を五針縫合する治療処置を受けたうえ、本件病院に入院することになった。
原告夏男は、その後、左足を牽引する状態で本件病院に入院していたが、その間被告Aは、同月一九日午後に原告夏男の骨折箇所に内固定手術を施行することとした。右手術は非常勤の勤務医である整形外科医師D(以下「D医師」という。)が、又その際の麻酔施行については被告Bがそれぞれ担当することとなった。
(二) 原告夏男は、同月一九日午後一時頃、内固定手術を受けるため手術室に入れられたが、原告夏男の左下腿の傷の状態を初めて見たD医師は、傷口の状況から内固定手術はまだ無理であり延期した方が良いと判断し、被告Aに相談した。そこで被告Aは、内固定手術を延期し、徒手整復ギブス固定を行うことに治療方針を変更し、D医師をして直ちに徒手整復ギブス固定を施行させることとした。そして、被告Bが被告Aの指示により静脈注射による全身麻酔を開始したところ、原告夏男は、右開始後の同日午後一時四七分呼吸停止に陥り、不可逆的な脳障害の状態となった〔脳障害が不可逆的であることについては甲七、八、一〇の一、原告花子本人(第一、二回)〕(以下「本件医療事故」という。)。
(三) 被告Aは、同日夕刻、原告夏男に高気圧酸素療法を受けさせるため、静岡県沼津市所在の△△脳神経外科医院に原告夏男を転送した。原告夏男は、同医院において同日から昭和六二年二月二六日まで高気圧酸素療法等の治療を受けた後、右同日更に浜松医科大学付属病院に転院し、同年六月二三日まで同病院にて入院治療を受けたが、両上下肢の運動障害、言語障害、視覚障害等の後遺障害が残り、現在身体障害者等級表一級(視覚障害、肢体不自由)の身体障害者に認定されている〔後遺障害に関する事実は甲七、八、一〇の一、一一及び原告花子本人(第二回)〕。
二 争点
1 本件医療事故の原因及び本件医療事故につき被告A及び被告Bに診療上の過失があるか。
(一) 原告らの主張
原告の脳障害は、以下に述べるとおり、主治医である被告Aをはじめとする本件病院の原告夏男の骨折に対する杜撰な術前管理、麻酔担当医である被告Bの通常なすべき術前状態の把握の懈怠(この点については主治医として術前状態を把握して被告Bに伝達することを怠った被告Aにも共同責任がある。)、及びそれに引き続く不十分な麻酔管理(特に呼吸管理)によって、重篤な低酸素血症が招来され、脳の酸素欠乏状態が脳に不可逆的な障害を負わせる時間継続した結果生じたものである。
(1) 原告夏男は、昭和六一年一二月一三日、交通事故による受傷のため本件病院に救急車で運ばれたが、当日同病院の非常勤当直医により傷口の消毒等の治療が行われたほかは、主治医の被告Aをはじめ被告病院の医師は、原告夏男の傷害が開放性骨折であったにもかかわらず、その後同原告が手術室に入室する同月一九日まで傷口の診察や消毒等の手当てを全く行わなかった。そして、右のような開放性骨折の場合、最も危惧されるべきことは傷口の化膿、感染の発症であるが、これを予防するため入院以来とられていた抗生物質の投与は同月一七日中止され、以降抗生物質は同月一九日まで投与されないままであった。
また、原告夏男は、交通事故による受傷によりかなりの出血をし、貧血状態にあったが、本件病院では輸血などこれに対応する措置を何ら取らなかった。
そのため、原告夏男は、同月一九日の麻酔施行当時、炎症が継続しており、感染の存在を疑わせる状態にあったうえ、相当の貧血状態にあった。
(2) ところで、一般に麻酔は、生体に必要な機能、すなわち呼吸、循環、代謝などに対し抑制的であるから、最も危険な医療行為の一つであり、感染や貧血等の存在はその危険性を明らかに増強させるものである。
原告夏男の骨折が開放性骨折であることは入院時のカルテや看護記録等を一読すれば明白であり、又血液検査結果等の診療関係記録を精査すれば前記のとおりの感染及び貧血の存在に気づいたはずであるのに、被告Aは、これらに注意を払うことなく、同月一九日、D医師から指摘された同原告の傷口状態から、予定していた内固定手術を徒手整復ギブス固定に治療方針を切り換えたものの、原告夏男の術前状態を伝達することも、又右術前状態の把握を指示することもしないまま、当日来院していた非常勤医師の被告Bに麻酔の施行を命じた。
(3) 一方、麻酔担当医である被告Bも、診療関係記録を精査することを怠り、原告夏男の前記のような術前状態を十分把握しないまま、同日午後一時三〇分頃、同原告に対し静脈注射(ラボナール等の注入)による全身麻酔を行った。
そして、右麻酔施行後呼吸抑制作用の強いラボナール等の投与により原告夏男の自発呼吸が抑制され、その後午後一時四七分頃、急激な血圧の低下、自発呼吸の停止があり、原告夏男は心停止ないし心停止同様の状態に陥った。午後一時五〇分頃、被告Bが原告夏男に気管内挿管による強制換気を開始したところ、動脈血中の低酸素状態は改善されたが、それまで同原告には自発呼吸が不十分な(有効でない)状態がかなりの時間継続した。しかし、被告Bは、その間の麻酔管理、とりわけ呼吸管理を十分に行わなかったため、原告夏男は右の間低酸素血症となり、その結果、脳を酸素欠乏状態に陥らしめ、同原告に不可逆的な脳傷害を負わせるに至った。
(4) なお、原告夏男の脳傷害が右下腿骨々折により惹起された脂肪塞栓症を原因とする脳の循環不全(脳脂肪塞栓)によるものでないことは以下の理由から明らかである。
すなわち、脳に脂肪塞栓が生じたのであれば、それ以前に肺毛細血管に脂肪塞栓が生じていることになるが、呼吸停止を起こした原告夏男に対しなされた気管内挿管の直後の動脈血ガス分析による酸素分圧は正常値範囲内の十分な高値を示しているなど、同ガス分析の結果からは同原告の肺に何らかの換気機能障害があったとは考え難い。また、原告夏男の胸部X線撮影の結果においても、脂肪塞栓症候群に見られる吹雪様陰影などの異常所見は全く認められない。さらに、気管内挿管後原告夏男の肺の循環機能は迅速に回復しているが、原告夏男の脳障害が脂肪塞栓症候群によるものであるとすると、脳症状と肺症状の経過があまりにもアンバランスであり、何故肺についてのみ回復が迅速で脳にだけ甚大な障害を残したのか全く説明がつかないのである。
(二) 被告らの主張
(1) 本件医療事故の原因及び過失に関する原告らの主張については全て争う。
本件医療事故の原因は後記のとおりである。
また、骨折に対する治療の基礎は骨折部位の安定であるから、骨折部位の治療をするため原告夏男に施されたスピードトラックを外し包帯を交換することは、骨折部位の安定ということから避けなければならず、したがって原告夏男の傷口の治療を継続して行わなかったことが被告Aら本件病院の医師らの過失であるとはいえない。また、原告夏男に対する手術予定の日の前日である昭和六一年一二月一八日の白血球数や体温及びCRP(炎症反応)等の数値は、受傷部位の炎症が沈静化していたことを証明するとともに、感染症の存在を否定するものであった。
(2) 原告夏男の脳障害は、呼吸不全によってもたらされた低酸素血症による脳の酸素欠乏を原因とするものではなく、左下腿骨々折により静脈に流入した脂肪滴により惹起された脳脂肪塞栓症候群を原因とするものである。その理由は以下のとおりである。
イ 脂肪塞栓症候群の診断基準は次のとおりであり、大基準の二項目以上又は大基準一項目、中小基準四項目以上が認められるとき脂肪塞栓症候群と診断される。
大基準A点状出血
B呼吸器症状及び肺X線病変
C頭部外傷と関連しない脳・神経症状
中基準A低酸素血症〔PAO2(動脈血酸素分圧)七〇MMHG以下〕
Bヘモグロビン値低下(一〇G/DL以下)
小基準A頻脈
B発熱
C尿中脂肪滴
D血小板減少
E血沈の促進
F血清リパーゼ値上昇
G血中遊離脂肪滴
原告夏男には、大基準C、中基準A・B、小基準A・Bに該当する症状がみられたから、同原告の症状は右診断基準を満たしている。
ロ 原告夏男に対する麻酔の開始は、昭和六一年一二月一九日午後一時四〇分であるが、同原告には右麻酔開始後一度たりとも心停止は起こっていない。さらに、血圧は午後一時四七分の直後に六〇〜に低下し期外収縮が現れたにもかかわらず、午後一時五〇分には一二八/四七と再び正常に回復している。
この事実は、午後一時四七分に起こった呼吸停止が換気障害の継続に起因するという見解と矛盾するものである。
ハ 麻酔施行後の午後一時五二分の原告夏男のPAO2は440.7MMHG、AADO2(肺胞−動脈血酸素分圧較差)は232.6MMHGであり、午後二時一〇分のPAO2は552.0MMHG、AAO2は130.6MMHGであった。ところで、一〇〇%酸素吸入時において、AADO2が一〇三〜一二三MMHGを超える場合、又はPAO2が五〇〇MMHGを下回る場合は病的異常であり(乙一三九)、又室内気吸入時の健常者のAADO2は四〇MMHGを超えない(乙一四〇)から、この場合PACO2(動脈血炭酸ガス分圧)を四〇MMHGとすれば、一〇〇パーセント酸素吸入時の健常者のPAO2は六三〇MMHG程度となる。したがって、原告夏男の右PAO2、AADO2の数値は異常であり、右異常は、気管内挿管による呼吸の改善後のものであることに鑑みると、肺部分の脂肪塞栓による拡散障害(肺胞から肺血管へのガスの通過障害)を意味するものといえる。
ニ 原告夏男は、△△医院に転院後目立った回復をみせていたが、同年一二月二五日痙攣発作を起こし、昏睡状態になるなど重度の脳神経症状を示した。酸素欠乏状態が原因で脳障害を起こした場合には、てんかんが起こりやすくなることは事実であるが、その場合のてんかんは回復が良好で昏睡が続くということはあり得ない。したがって、右一二月二五日の発作は二度目の脂肪塞栓の発症と考えないと説明がつかない。
ホ 脂肪塞栓症候群の診断基準に肺X線像に吹雪様の陰影が認められることがあげられているが、全例に認められるものではないから、原告夏男の肺X線像に右陰影が認められなかったからといって、同原告の脳障害が脂肪塞栓症候群のあらわれであることが否定されるわけではない。
また、左大腿骨々折・右下腿骨開放性骨折等の傷害を負い、その後脂肪塞栓症候群と診断された本件病院の患者の場合の病歴と対比すると、一〇〇%酸素投与下のPAO2値は586.4MMHGで原告夏男の本件医療事故発生日のどの時刻の値より高い一方、肺X線像に吹雪様の陰影は認められないのであるから、原告夏男の場合も脂肪塞栓症候群の症状であるというべきである。
2 原告らの損害の発生とその額
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 事実経過
前記第二・一の事実に証拠〔甲四ないし八、一〇の一、一四、五三、乙一ないし一九、二〇の一ないし三、二一ないし二三、九〇、九四、九五、九七、九八、一一二、証人D、同駒田みき子、同宮崎東洋、原告花子本人(第一、二回)、被告B本人、被告A本人〕を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告夏男は、昭和六一年一二月一三日午後一〇時一五分頃、原動機付自転車を運転中交通事故を起こし、左下腿骨開放性骨折の傷害を負い、本件病院(病院)に救急車で搬送され、右骨折の治療のため本件病院に入院することとなった。同日本件病院に勤務していた非常勤の勤務医は、原告夏男の骨折部位の傷口を生食及び抗生物質で洗浄したうえ、傷口を縫合し、骨折に対しシーネ固定をした。
(二) 同月一四日、当日担当の非常勤医師は、原告夏男の右骨折に対しスピードトラック牽引を開始した。その際包帯交換とともに傷口の消毒が行われたが、以降後記手術当日の同月一九日に至るまで傷口の治療や消毒は行われなかった。
また、同月一三日の入院以降原告夏男に対し抗生物質(セファゾペン)が投与され、右投与は同月一七日まで継続されたが、同月一八日以降は中止された。
ところで、同月一五日に行われた血液検査及び生化学検査によれば、抗生物質を投与中であるにもかかわらず、白血球数が九六〇〇(正常値は三三〇〇〜八二〇〇)と正常値より高めであり、CRPはプラス四と炎症の存在が認められ、これらを総合すると、原告夏男には感染の疑いがあった。もっとも、同月一八日の血液検査によると、白血球数は六一〇〇と正常値を示していたが、生化学検査によるCRPはプラス三と炎症が継続していることを示しており、同月一九日午後四時二三分(後記麻酔施行後)の血液検査による白血球数は一万四九〇〇と再び正常値を超えていたことに照らすと、同月一八日の白血球数の減少は抗生物質投与による一次的効果の現れに過ぎず、感染は依然として継続していた可能性が高かった。
(三) 原告夏男は、前記交通事故による骨折のため出血をしたが、同月一五日の前記血液検査及び生化学検査によれば、赤血球数三四二万(正常値四一〇万〜五三〇万)、ヘモグロビン11.2G/DL(正常値一三〜一七)、ヘマトクリット値31.7%(正常値三六〜四八)、TP(総蛋白量)6.0MG/DL(正常値6.7〜8.3)であり、これらの数値は原告夏男のような健康な一八歳の男子には考えられないものであって、同原告の骨折に伴う出血が相当多量であり、同原告が貧血状態にあることを示していた。また、同月一八日の前記血液検査によると、赤血球数は三五八万、ヘモグロビンは11.5G/DL、ヘマトクリット値は33.1%であり、同月一九日の前記血液検査によると、赤血球数は三一八万、ヘモグロビンは10.4G/DL、ヘマトクリット値は30.9%であって、原告夏男は後記麻酔施行時においても貧血状態は改善されていなかった。
しかしながら、本件病院においては右貧血に対応する措置を何らとらなかった。なお、原告夏男が後記麻酔施行後転院した△△医院においては、同原告に対し、転院翌日の同月二〇日に四パック、同月二一日に二パック、同月二二日に三パックの輸血がなされている。
(四) ところで、原告夏男の主治医である被告Aは、同原告の左下腿骨々折に対し同月一九日午後に内固定手術を行うことを決定し、同月一七日か一八日頃、同月一九日に診療担当予定の非常勤の整形外科医師であるD医師にその旨を依頼するとともに、手術当日の同月一九日午前中、前記感染の可能性及び貧血状態にとりたてて意を払うこともなく、又これを告げることもしないまま、非常勤の外科医師である被告Bに右手術の際の麻酔の施行を指示した。
(五) 原告夏男は、同月一九日午後一時頃、骨折部位に対する内固定手術施行のため手術室に入れられた。手術室入室直前の原告夏男の体温は37.6度C、脈拍は九二、血圧は一三二/七四であった。ところで、原告夏男の骨折部位の傷の状態を手術室で初めて見たD医師は、同部位に約三センチメートル程の創があり、その周辺の皮膚が壊死していたのを見て、このような開放性骨折の場合に観血的手術を行うことは骨髄炎発生の危険性が高いと判断し、同原告に対する内固定手術の施行を中止し、徒手整復(ギブス固定)術に治療方針を変更し、その旨を被告Aに伝えて同被告の了解を得た。
(六) 被告Bは、原告夏男に対する治療方針の変更後も当初予定していたマスクで酸素を供給する方法により麻酔を施すこととし、麻酔方法としては静脈注射による全身麻酔によることとした。
被告Bは、同月一八日の前記血液検査及び生化学検査結果等を見たが、麻酔施行に支障はないものと判断し、午後一時四〇分、レペタン(鎮痛剤)0.3MG、ラボナール(麻酔剤)一二五MG、セルシン(鎮静剤)一〇MGを順次原告夏男に静脈注射し、麻酔を開始した。右薬剤はいずれも呼吸抑制作用を伴うものであった。D医師は、被告Bの施した麻酔処置が完了したのを確認したうえ、原告夏男に対し徒手整復術を開始した。
(七) しかして、麻酔開始後の午後一時四三分の原告夏男の血圧は一二五/五〇でありとりたてて異常とする値ではなかったが、脈拍は一二四と頻脈傾向を示しており、麻酔の影響による自発呼吸の不全状態とみることが可能な数値であった。
原告夏男は、午後一時四七分、血圧が八〇/四〇と低下し、深呼吸を一回したのち呼吸停止状態に陥った。原告夏男の顔面及び口唇にはチアノーゼが見られ、脈拍は七八と徐脈となった。その後原告夏男の血圧は更に低下し六〇〜となり、心電図モニターには波形PVC(心室性期外収縮)が現れるに至った。
被告Bは、原告夏男が呼吸停止状態に陥ったのを見て初めて同原告の異常に気付き、気道確保のためマッキントッシュで喉頭展開を試みたが、同原告の呼吸状態は変わらなかった。そこで被告Bは、午後一時五〇分頃、原告夏男に対し気管内挿管を施したうえ、バッグにより純酸素を強制的に送り込む強制呼吸の措置をとったところ、血圧は一二八/四七と上昇して回復し、脈拍は一四〇となった。
ところで、午後一時五二分の血液ガス分析結果によれば、PAO2(動脈血酸素分圧)は440.7MMHG、PACO2(動脈血炭酸ガス分圧)は39.7MMHG、PH7.266(正常値7.37〜7.44)であり〔右PAO2とPACO2の値からAADO2(肺胞−動脈血酸素分圧較差)を求めると232.6MMHGとなる。〕、右PH値は原告夏男が心停止同様の状態に陥ったことを示す著明な代謝性アチドーシスを意味するものであった。被告Bは、午後二時頃、右状態改善のためメイロン四〇MLを投与した。
(八) その後原告夏男の血圧及び脈拍は落ち着きを示し(血圧午後三時一〇五/五〇、午後三時三〇分一一〇/五一、午後四時一〇四/五六、脈拍午後三時七〇〜八〇、午後三時三〇分一〇〇、午後四時八〇)、午後三時一〇分には自発呼吸も戻った。
また、午後二時一〇分の血液ガス分析の結果は、PAO2が552.0MMHG、PACO2が30.4MMHGであり(右各値からAADO2を求めると130.6MMHGとなる。)、午後四時四六分のそれは、PAO2が462.3MMHG、PACO2が50.0MMHGであった(右各値からAADO2を求めると200.7MMHGとなる。)。
しかし原告夏男の意識はなく、午後三時一〇分には全身強直性の痙攣発作が出現し、午後四時一五分には、軽度で数秒後には消失したものの、同様の痙攣発作が現れた。
(九) 原告夏男は、第一回目の痙攣発作が起こった頃の午後三時一〇分頃、脳外科の非常勤医師渡辺の診察を受け、胸部レントゲン検査や頭部CT検査を受けたが、レントゲン写真やCTスキャン上は胸部及び頭部とも何ら異常は見られなかった。
被告Aは、渡辺医師から原告夏男の脳に障害が起こっており、高圧酸素療法を施すのが望ましいとの指摘を受け、午後六時過頃、高圧酸素療法を受けさせる目的で、同原告を△△医院に緊急転院させた。
(一〇) 原告夏男は、同月一九日から昭和六二年二月二六日まで△△医院に入院して高圧酸素療法等の治療を受けた後、脳障害の改善治療及び骨折治療のため浜松医科大学医学部付属病院に転院し、同病院で同年六月二三日まで入院治療を受けた。その結果、原告夏男の意識は徐々に回復したが、脳の不可逆的障害に起因する四肢の運動障害(四肢麻痺)、言語障害、視覚障害(皮質盲)等の障害が残存した。
証人Eは、原告夏男が午後一時四七分深呼吸を一回したのちも自発呼吸があったかのように供述しているが、乙二〇の三(看護記録)の記載に照らし採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 原告夏男の脳障害の原因について
(一) 右1に認定した事実に基づき原告夏男の脳障害を起こした原因について判断するに、以下の諸事情に照らせば、同原告の脳障害は、麻酔の影響により生じた呼吸抑制・呼吸停止が低酸素血症をもたらし、その結果脳が酸素欠乏状態に陥らされたことにより生じたものと認められる。
(1) 原告夏男の麻酔に使用された薬剤が呼吸抑制作用を起こすことは前記認定のとおり(1(六))であり、また、麻酔施行時において同原告に感染の高度の可能性や貧血が見られた(1(二)、(三))ところ、証拠(甲五三、被告B本人、被告A本人)によれば、感染や貧血の存在は麻酔による呼吸抑制作用を更に増強させる要因となるものであることが認められる。
(2) しかして、原告夏男の呼吸抑制・呼吸停止は麻酔実施中に起こっていることは前記1に認定の事実経過から明らかであるところ、証拠(被告B本人)によれば、麻酔施行後同原告に見られた血圧、脈拍、呼吸状態の変動・変化やPVCの発現等の一連の経過は酸素欠乏症状の場合に見られる症状経過に符合することが認められる。
(3) 麻酔開始後の午後一時四三分には既に呼吸不全状態が生じていた可能性があることは前記認定のとおり(1(七))であるところ、右時刻に呼吸不全状態が発生していたとすると、原告夏男は麻酔開始後右時刻以前の時点から呼吸不全に陥っていった可能性もこれを否定することができないことになる。そして、原告夏男が△△医院に転院された際の申し送り事項と思われる記載の中に「無R七分程」(無Rとは有効でない呼吸を意味する。)という記述があることが証拠(乙九三、証人宮崎東洋)により認められることからすると、当日原告夏男の骨折の治療に関与した本件病院の医師等の関係者は同原告の呼吸不全状態が約七分間継続したと認識していたことが推認される。また、呼吸不全状態が発生していたと見ることの可能な前記午後一時四三分から原告夏男に気管内挿管が施された時刻(午後一時五〇分頃)までは約七分であることをも考慮すれば、原告夏男は少なくとも約七分間呼吸不全状態(その内午後一時四七分から一時五〇分頃までの約三分間は呼吸停止状態)にあったものというべきであり、更に午後一時四三分以前に既に呼吸不全が発生していた可能性があることにも照らせば、同原告が七分を超えて呼吸が抑制されていたことも十分考え得るものといわなければならない。そして、右呼吸不全の下で、原告夏男が心停止同様の重篤な状態に陥ったことは前記認定のとおり(1(七))である。
しかして、右呼吸抑制の程度及び継続時間は原告夏男に不可逆的な脳障害を生ぜしめるに十分であると考えられる。
(4) 原告夏男の呼吸停止後の純酸素投与による強制換気後のPAO2は、午後一時五二分の時点で約440.7MMHG、午後二時一〇分の時点で552.0MMHG、午後四時四六分の時点で462.3MMHGであり、AADO2は、右各時点でそれぞれ、232.6MMHG、130.6MMHG、200.7MMHGである(1(七)、(八))。
証拠(甲五三、六一、証人宮崎東洋)によれば、右各AADO2の数値はいずれも正常範囲内の値であること、また、右各PAO2の数値も、原告夏男に貧血があり、かつ、同原告が本件医療事故発生時まで約一週間病床にあったことを考慮すると、いずれも十分な高値を示していること、したがって原告夏男は、本件医療事故発生後は純酸素投与による強制換気により急速に正常範囲内のPAO2及びAADO2値を回復していることが認められる。
しかして、証拠(甲五三、証人宮崎東洋)によれば、拡散障害(肺胞から肺血管へのガスの通過障害。肺炎、無気肺、肺水腫、肺挫傷、気胸、脂肪塞栓や血栓等の肺栓塞等によって生ずる。)の場合にはPAO2値等の回復には数日間の経過が必要であり、右PAO2値等の強制換気後の急速な回復は、原告夏男に起こった酸素欠乏状態が呼吸抑制に基づくことを裏付けるものであることが認められる。
(二) 被告らは、原告夏男の脳障害は前記第二・二1(二)(2)記載の理由から脂肪塞栓症候群に基づくものであると主張する。そこで、以下これについて検討を加える。
(1) 第二・二1(二)(2)イについて
なるほど、証拠(乙一〇〇、一三五)によれば、脂肪塞栓は骨折の場合に起こりやすいこと、脂肪塞栓症候群の臨床診断基準の一つとして被告ら主張のような基準があることが認められる。
しかしながら、原告夏男には本件医療事故発生当時感染の疑いや貧血が見られたとともに、呼吸不全も発生していたのであるから、右診断基準にあたると被告らが主張する各症状(ただし、低酸素血症を除く。)は、いずれも同原告の感染、貧血、呼吸不全を原因とする症状の現れであるともいえる(大基準C、小基準Aは呼吸不全による症状と、中基準Bは貧血による症状と、小基準Bは感染による症状とそれぞれ関連する。)。また、低酸素血症については、原告夏男の血液ガス分析の結果によるPAO2値は正常範囲内のものであったことは前記(一)(4)で述べたとおりであるから、原告夏男に同症状が存在していたとはいえないことになる。
したがって、被告ら主張の各症状は、一部認められないか、認められるとしてもそれは他の要因によって生じた可能性があるのであるから、原告夏男の症状が脂肪塞栓症候群によるものであるとする根拠とはなし難い。
(2) 同ロについて
また、原告夏男に心停止が起こったことを認めるに足りる証拠はないが、証拠(甲五三、証人宮崎東洋)によれば、低酸素血症がかなりの時間継続することによって、呼吸停止やギャスピング(ほぼ心停止前後に見られる喘ぎ呼吸)が起こったり、脳が不可逆的な障害を受ける一方、心臓は停止しないということはあり得ることが認められるから、被告ら主張の心停止の不存在や血圧の回復の事実は、原告の脳障害が呼吸不全とその継続による低酸素血症に起因するとの判断と何ら矛盾するものではない。
(3) 同ハについて
乙一三九には、一〇〇%酸素吸入時における健常者のAADO2は一〇三〜一二三MMHGであるかの如き趣旨の記載があるが、病的異常の場合のAADO2の数値については何ら触れておらず、したがって、右AADO2値をもって原告夏男のAADO2値の異常性を判断するのは相当でない。証拠(甲五三、六一)によれば、純酸素呼吸条件下でのAADO2が三五〇MMHG以下の場合は正常範囲内であることが認められるから、挿管による強制換気後の原告夏男のAADO2値は、前記のとおり((一)(4))正常範囲内の数値を示しているというべきである。
また、乙一四〇には、室内気吸入時における健常者のAADO2は四〇MMHGを超えないと読めるグラフが掲載されているが、一〇〇%酸素吸入時におけるAADO2又はPAO2の異常値については何ら言及がない。しかして、被告ら主張のPAO2は、乙一四〇の右AADO2の数値から健常者の一〇〇%酸素吸入時における数値を計算上求めたものであって、これをもって直ちに原告夏男のPAO2値の異常性を判断することは相当でないというべきである。
さらに、乙一三九には、一〇〇%酸素吸入時においてPAO2が五〇〇MMHGを下回る場合は異常であるとの趣旨の記載がある。右PAO2の数値を基準にすると、原告夏男の午後一時五二分と午後四時四六分のPAO2値は異常であるということになる。しかしながら、右数値に基づいても原告夏男の午後二時一〇分のPAO2は正常範囲内にあることになることや、前記のとおり同原告のAADO2値はいずれも正常範囲内にあること、及び同原告が貧血状態にあり、かつ、約一週間病床にあったこと等の事情を考慮すると、乙一三九に記載のPAO2の数値を基準にしても原告夏男のPAO2が異常値であるとはいい難いというべきである。
(4) 同ニについて
証拠(乙九四)によれば、原告夏男は、△△医院に転院後意識を徐々に回復し、昭和六一年一二月二四日には氏名年齢を不明瞭かつゆっくりではあるが発語できるようになるなどしたが、同月二五日痙攣発作があり、その後意識状態は同月二四日の状態からかなり後退したことが認められるところ、証人植村研一は、同月二五日の右痙攣発作は原告夏男に二度目の脂肪塞栓症が起こったと考えないと説明がつかない旨供述する。しかしながら、証拠(甲五三、乙三九、証人宮崎東洋)によれば、右痙攣発作の翌日である二六日の原告夏男の動脈血ガス分析の結果には何ら異常がないことが認められることに照らせば、右供述はこれを直ちに採用し難いといわなければならない。
(5) 同ホについて
肺X線像に吹雪様の陰影が認められないからといって(なお、原告夏男の肺X線像に異常がなかったことは1(九)に認定したとおりである。)、原告夏男の脳障害が脂肪塞栓症候群の現れであることを否定し得ないことは被告ら主張のとおりであるが、一方これを根拠付ける明確な資料もないことは以上にみてきたところから明らかである。
また、被告らは、本件病院で脂肪塞栓症候群と診断された患者の症状と原告夏男のそれとを比較すれば、同原告の症状も脂肪塞栓症候群に基づくものであることが肯定されるとの主張をするが、証拠(乙一一九ないし一二六、一三七)によれば、右患者の場合は原告夏男の場合とは異なり骨折箇所が多く、又右患者は安静時に意識障害が発現した点において麻酔施行下で発現した原告の場合と発現時の状況を全く異にすることが認められるから、原告夏男の場合と症状発現時の条件や状況を異にするケースとの単なる症状のみの比較をしても無意味であるといわざるを得ない。
(6) 以上の次第で、被告らの主張はいずれもこれを採用することができず、他に原告夏男の脳障害の原因に関する前記(一)に認定した事実を覆すに足りる証拠はない。
3 被告A及び被告Bの診療上の過失と被告らの責任について
(一) 前記1に認定の事実によれば、原告夏男の主治医である被告Aは、同原告に麻酔施行上のリスクとなる感染の高度の疑いや貧血が存したのにその把握を怠り被告Bに漫然と麻酔の施行を指示した点において、被告Aには本件医療事故につき診療上の過失があるものというべきであり、また、被告Bは、原告夏男に麻酔を施行するにあたり被告Aと同様に右リスクの存在の把握を怠ったのみか、麻酔施行中同原告に発生した呼吸不全状態に即座に対応せず同原告の呼吸管理を怠った点において、被告Bにも本件医療事故につき診療上の過失が存したものといわなければならない。
被告らは、本件医療事故の前日の血液検査及び生化学検査の結果は原告夏男の感染の存在を否定するものであったと主張するが、同日のCRPはプラス三と炎症が継続していることを示していたうえ(1(二))、原告夏男が手術室に入室する直前の体温は37.6度Cと高かったこと(1(五))に照らし、なお従前の血液検査や生化学検査の結果等一連の経過を子細に検討すれば、原告夏男に感染が継続していることを疑うことは可能であったというべきである。
(二) そうとすれば、被告A及び被告Bは共同不法行為責任に基づき、また、被告医療法人は被告A及び被告Bの使用者として使用者責任に基づき、それぞれ原告らが本件医療事故により被った損害を賠償すべき義務がある。
二 争点2について
1 原告夏男の損害
(一) 治療経過及び現在の状況等
証拠〔甲七、八、一〇の一ないし七、一一、三四、四七、五〇、原告花子本人(第二回)〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告夏男は、前記のとおり△△医院更に浜松医科大学医学部付属病院で脳障害等の治療を受けていたが、浜松医科大学医学部付属病院の医師の勧めもあり、昭和六二年六月二三日、本格的にリハビリテーションを受けるため伊豆韮山温泉病院に転院した。転院当時の原告夏男の状態は、視覚障害(視力なし)や言語障害のほか、首も座らず、四肢の不随意運動があり、歩行不能等の障害があった。伊豆韮山温泉病院においては、原告花子が、原告夏男に、同病院が行う機能回復訓練のほかに、可能な限りの自主的訓練も行わせた。昭和六三年五月頃後記ドーマン療法の存在を知った原告春男と原告花子は、原告夏男の機能回復を願って、これを右自主的訓練の中に取り入れた。右訓練は、本人の努力は勿論のこと、両親とりわけ原告花子の介護なしには不可能なものであり、ほぼ終日に及ぶ程のものであった。その結果、原告夏男は、四肢の不随意運動が少なくなったり、同病院入院一年後には二分位立てるようになり、言語機能もわずかであるが回復した(首は同病院入院直後の昭和六二年八月頃座るようになった。)。
(2) 原告夏男は、平成元年九月九日、ドーマン療法による訓練に専念するため、伊豆韮山温泉病院を退院した。それは終日ほとんど休む暇もない程の訓練課題を家族とともにこなす激しくかつ厳しい訓練であり、そのため、原告夏男のみならず父母である原告春男や原告花子の強固な意思と忍耐を必要とした。そして、原告夏男とその家族の血の滲むような涙ぐましい努力、協力と訓練の結果、同原告の障害は、薄皮を剥ぐような形ではあるが、改善され、四肢の不随意運動はより少なくなり、転倒するなど正常な歩行には程遠い状態ではあるものの、一応自力で立って足を前に進めることができるようになり、言語障害については、舌が不自由で不明瞭ではあるものの、一応家族とは会話ができる状態になった。しかし、視覚障害は全く回復の兆しがなく、聴覚は驚愕反射が不完全で、大きな音に対し脳がコントロールできない状態、触覚はバビンスキー反射があるとともに触れた物を識別できない状態、手は物を握ることが一応できるが、指では掴めない状態、会話は家族とは一応できてもそれ以外の他人とは言語不明瞭のため困難な状態にある。原告夏男は、今後ドーマン療法による訓練を継続することにより遅々とした歩みではあるが、障害を少しでも改善できる可能性はあるものの、基本的には現在認定されている身体障害者等級表一級(視覚障害、肢体不自由)の身体障害者であることには変わらないものと予測される。
(二) 逸失利益(請求は六八九五万六〇八三円)
六八九五万六〇八三円
原告夏男は、本件医療事故により被った脳障害により終生一〇〇%労働能力を喪失したものというべきである。前記第二・一1(一)の事実に証拠〔甲一〇の一、原告花子本人(第一回)〕を総合すれば、原告夏男は、昭和四三年八月二日生まれで、本件医療事故当時□□高等専門学校機械工学科三年生として在学していた一八歳の健康な男子であり、二〇歳で同校を卒業する予定で、卒業後は機械技師を志望していたことが認められるから、同原告が本件医療事故に遭遇しなければ、二〇歳から六七歳までの四七年間少なくとも平均して全年齢男子高専卒労働者の平均収入と同額の収入を得られたものといえる。そこで、平成三年賃金センサス全年齢男子高専卒労働者の平均賃金(年額四八〇万四八〇〇円)を基準にライプニッツ係数により中間利息を控除して原告夏男の本件医療事故時の逸失利益の現価を求めると、七八三六万二九二四円〔480万4800円×(18.1687−1.8594)〕となるが、請求の範囲内でこれを認める。
(三) 慰謝料(請求は二五〇〇万円) 二〇〇〇万円
原告夏男は、高等専門学校に通学する前途有望な青年であったが、本件医療事故により若くしてその夢と希望を絶たれたのみか、激しい訓練により障害の一部に改善が見られるものの、前記のとおり回復し難い障害を負うに至り、身体障害者等級表一級(視覚障害、肢体不自由)の身体障害者として余生を送らなければならない悲惨な身となったものであり、その精神的苦痛は多大で察するに余りあるものといわざるを得ない。右事情のほか諸般の事情を考慮すれば、原告夏男の右精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料としては二〇〇〇万円をもって相当とする。
(四) 入院治療費の未払分(室料差額分)(請求は二七〇万〇二〇〇円)
二六二万二〇〇〇円
証拠〔甲三、一〇の一ないし六、一二の一・二、一四、原告花子本人(第二回)〕及び弁論の全趣旨によれば、△△医院及び浜松医科大学医学部付属病院の入院治療費並びに伊豆韮山温泉病院の入院治療費のうち昭和六三年一月末日までの分は、被告医療法人が全額支払ったこと、被告医療法人は同年二月一日以降の入院治療費の支払いを中止したが、その後の伊豆韮山温泉病院の室料差額分を除いた入院治療費については、原告夏男が身体障害者一級の認定を受けたため、身体障害者に対する更生医療給付及び原告春男の加入している東レ健康保健組合からの保健給付により補填されたこと、右室料差額分とは、伊豆韮山温泉病院の二人室、四人室、六人室の病室のうち二人室のみ使用料として差額室料がとられるものであるが、介添人を必要とする原告夏男の場合は退院した平成元年九月九日まで二人室を使用せざるを得なかったこと、右差額室料は一人四六〇〇円であり、原告夏男は昭和六三年二月一日から同病院退院までの差額室料を負担したこと、もっとも、原告夏男は、昭和六三年一〇月二八日から同年一一月一三日までの間はプレート板摘出手術のため浜松医科大学医学部付属病院に入院したので、その間の差額室料は支払う必要がなかったことが認められる。
そこで、原告夏男が負担した室料差額分合計を算出すると、二六二万二〇〇〇円(四六〇〇×五七〇日)となる。
(五) 入院雑費(請求は一一九万五二〇〇円) 一一九万五二〇〇円
原告夏男が本件医療事故により被った脳障害の治療のため昭和六一年一二月一九日から平成元年九月九日まで九九六日間入院治療を受けたことは以上に述べたところから明らかであるところ、当時入院雑費として一般的に一日当たり一二〇〇円程度を要したものと認められるから、原告夏男の右入院期間中の入院雑費の合計を求めると、一一九万五二〇〇円(一二〇〇円×九九六日)となる。
(六) 通院治療費(将来分)(請求は一七六万五五六七円) 〇円
証拠〔甲一六の一ないし四、原告花子本人(第二回)〕によれば、原告夏男は、伊豆韮山温泉病院退院後も同病院に週一回通院し、現在の一回当たりの通院治療費は二二二三円であることが認められるが、弁論の全趣旨によれば、現在右通院治療費についても身体障害者に対する更生医療給付及び東レ健康保健組合からの保健給付によって補填されていることが認められ、通院治療費については将来も右各給付により補填されることが予測されるから、将来分の通院治療費が原告夏男の損害にあたるとはいい難い。
(七) 通院交通費(請求は二二六万九五八四円)一二一万三二六二円
(1) 既経過分(平成二年一〇月末までの分)
証拠〔原告花子本人(第二回)〕及び弁論の全趣旨によれば、原告夏男が週一回伊豆韮山温泉病院に通院するに要する通院交通費は、自宅から二日町駅までタクシー料金五八〇円(迎え料金八〇円を含む。)、二日町駅から伊豆長岡駅まで伊豆箱根鉄道運賃二五〇円、伊豆長岡駅から同病院までタクシー料金五〇〇円、同病院から伊豆長岡駅までタクシー料金五八〇円(迎え料金八〇円を含む。)、伊豆長岡駅から二日町駅まで伊豆箱根鉄道運賃二五〇円、二日町駅から自宅までタクシー料金五〇〇円の合計二六六〇円であること(なお、同原告が通院するためには、付添人一名が必要であるが、同原告は身体障害者のため本人、付添人とも鉄道運賃は半額となるので、伊豆箱根鉄道の運賃は二人で一名分で足りる。)が認められる。
原告夏男が伊豆韮山温泉病院を退院した翌日である平成元年九月一〇日から平成二年一〇月末までの日数は四一七日であるから、通院回数は五九回となるので、右期間中の通院交通費の合計は一五万六九四〇円(二六六〇円×五九回)となる。
(2) 将来分(平成二年一一月一日以降の分)
昭和六一年簡易生命表によれば昭和六一年当時一八歳の男子の平均余命は58.05年であるから、平成二年一一月一日当時二二歳の原告夏男は、以後も週一回伊豆韮山温泉病院に通院することとすると、右余命年齢である七六歳までの五四年間一年につき五二回の割合で同病院に通院することになり、右期間中の通院交通費の本件医療事故時の現価をライプニッツ係数により中間利息を控除して求めると、二一一万二六四四円〔2660円×52回×(18.8195−3.5459)〕となるが、将来の通院については明確な予測がつかない面もあるので、将来分の通院交通費は右額の二分の一の一〇五万六三二二円と認めるのを相当とする。
(八) 付添看護費(請求は二三七八万九五九二円)
二三七八万九五九二円
(1) 既経過分(平成二年一〇月末までの分)
証拠〔甲八、一〇の一ないし七、五〇、原告花子本人(第二回)〕によれば、原告夏男が本件医療事故による脳障害のため各病院に入院中は勿論のこと、退院後も付添看護を必要とする状況にあったため、原告花子が勤めを辞めて原告夏男に付添い同原告の看護に専念してきたこと、原告花子に差し支えがある場合には付添家政婦に依頼して原告夏男の付添看護をしてきたことが認められる。近親者の付添看護費としては一日五〇〇〇円と認めるのが相当であるから、本件医療事故の日の昭和六一年一二月一九日から平成二年一〇月末までの一四一三日間の付添看護費を求めると、七〇六万五〇〇〇円(五〇〇〇円×一四一三日)となる。
(2) 将来分(平成二年一一月一日以降の分)
原告夏男の前記障害の程度に鑑みると、同原告には終生付添看護が必要であることが認められるところ、将来の予測の不確実性をも考慮した同原告主張の額(一日あたり三〇〇〇円)をもって将来の付添看護費と認めるのを相当とする。そこで、平成二年一一月一日以降原告夏男の前記余命年齢である七六歳までの五四年間の付添看護費の本件医療事故時の現価をライプニッツ係数により中間利息を控除して求めると、一六七二万四五九二円〔3000円×365日×(18.8195−3.5459)〕となる。
(九) 訓練関係費用
(1) 原告夏男が伊豆韮山温泉病院退院後ドーマン療法による訓練治療に専念していることは前記のとおりである。
証拠〔甲五一、原告花子本人(第二回)、検証〕及び弁論の全趣旨によれば、ドーマン療法は、米国のフィラデルフィアにある人間能力開発研究所で脳障害児の治療にあたっているドーマン博士の指導による療法であり、自宅で家族の協力の下に毎日脳障害児の全身を強制的に動かすことにより、脳に刺激を与え、脳の麻痺部分の周辺の細胞にその機能を補わせるもので、毎日一〇数時間にも及ぶ集中訓練を長期間続けるものであること、もっとも、我が国の医療機関でこれを積極的に取り入れているところはないこと、しかし、我が国においてもドーマン療法により脳障害者が身体や機能障害を改善した例が報告されており、同療法による訓練治療を試みている脳障害者は数多くいることが認められる。そして、原告夏男の場合も、前記のとおり、ドーマン療法の集中訓練治療により、少しずつではあるが、運動障害や言語障害に改善が見られるようになった。したがって、ドーマン療法は我が国の医療機関に認められている治療法ではなく、これにより原告夏男の喪失した労働能力の改善までは望むのが困難な状況にあるが、同原告が人間としての生活を営むために要求される基本的な機能の回復、改善のために必要な療法であると認められるから、同原告がドーマン療法の訓練のため要した費用はその全額が本件医療事故と相当因果関係の範囲内にある損害というべきであり、また、証拠〔原告花子本人(第二回)〕によれば、ドーマン療法を中止すると、原告夏男の脳障害による身体障害等の改善は望めないのみか、改善が見られた機能も後退することが認められるから、同原告が同療法を今後継続するに必要な費用もまた右損害にあたるというべきである。
(2) ドーマン療法関係費用
イ 訓練用具等の作製材料代(請求は四万九八五九円)四万九八五九円
証拠〔甲一七の一ないし八、三五の六ないし九、原告花子本人(第二回)〕によれば、ドーマン療法を行うため、原告春男において、訓練用機具等を作製、設置したが、その材料代として四万九八五九円の費用を要したことが認められる。
ロ ビデオ講座受講費用(請求は五七万二二二一円)五七万二二二一円
証拠〔甲一〇の六、二二、二三の一・二、二四、二五、二六の一・二、二七の一ないし三、原告花子本人(第二回)〕によれば、ドーマン療法を行うために必要なビデオ講座が平成元年七月三一日から同年八月四日まで神戸市において開かれたが、同講座には両親で参加しなければならなかったため、原告春男と原告花子がこれに参加し受講したこと、そのために、同原告らは、受講料四〇万円(二人分)、宿泊夕食代一二万三八七一円、交通費往復四万八三五〇円の合計五七万二二二一円の費用を支出したことが認められる。
ハ レクチャーシリーズ受講費用(請求は五八万六三二〇円)
五八万六三二〇円
証拠〔甲一〇の六・七、二八の一ないし三、二九、三〇、三一の一・二、五〇、原告花子本人(第二回)〕及び弁論の全趣旨によれば、ドーマン療法による一段階上の訓練プログラムを受けるためには、東京において六回にわたり開かれるレクチャーシリーズを受講する必要があったが、原告花子が、平成二年一月一二日と一五日に行われた第一回講座と、同年七月一九日と二三日に行われた第二回講座に参加して受講し、第一回講座に参加するため合計九万四六四五円〔受講料七万六五二五円(五〇〇ドルを円に換算し、送金手数料及び電信料を加えた金額)、交通費一万八一二〇円(二日分)〕、第二回講座に参加するため合計一〇万〇七九五円〔受講料八万二六七五円(五〇〇ドルを円に換算し、送金手数料及び電信料を加えた金額)、交通費一万八一二〇円(二日分)〕の費用を支出したこと、原告花子は、残り四回の講座にも参加し、各回毎に少なくとも各九万七七二〇円の費用を要したことが認められる。
したがって、右レクチャーシリーズに参加するために要した費用の合計は五八万六三二〇円(九万四六四五円+一〇万〇七九五円+九万七七二〇円×四回)となる。
ニ 米国の研究所での診察関係費用(請求は一三二万二二六九円)
一三二万二二六九円
証拠〔甲一〇の六、三三の一ないし二七、三四、五〇、原告花子本人(第二回)〕によれば、ドーマン療法を継続し一段階上の個別の訓練プログラムを受けるには、原告夏男が両親である原告春男及び原告花子とともに米国フィラデルフィアの人間能力開発研究所に出向き、ドーマン博士から直接診察指導を受ける必要があったため、原告夏男は、平成二年一〇月二〇日から同月二五日にかけて、原告春男及び原告花子とともに同研究所に赴き、ドーマン博士の診察を受け、今後の訓練プログラムを受けてきたこと、その費用として合計一三二万二二六九円〔渡航費用・国内交通費等九八万二二八〇円、診療費用二九万五八六八円(二二九〇ドル 一ドルを一二九円二〇銭で換算)、米国内交通費一万三一七八円(一〇二ドル 円換算率前同様)、ビタミン剤代金一万三三〇七円(103.10ドル 円換算率前同様)、その他一万七六三六円〕の費用を支出したことが認められる。
ホ パターニング訓練介添人費用(請求は一九〇万円) 一九〇万円
証拠〔甲一〇の六、三五の五・九ないし一二、三六、三七の一ないし一〇、五一、原告花子本人(第二回)〕及び弁論の全趣旨によれば、原告夏男は、平成元年九月から、自宅においてドーマン療法の訓練の一つとしてパターニング訓練を受けていること、右訓練は朝、午後、夕方と一日に三回行う必要があり、又これを行うためには五人の協力が必要であるところ、原告夏男の右訓練には可能な限り家族で行っているが、午後と夕方の訓練には人手が足りず、午後には近所の主婦四人に、夕方には他の一人に右訓練の手伝いを依頼し、一人当たり月一万円の謝礼(月額合計五万円)を支払っていること、原告夏男は右訓練を少なくとも三八か月継続したことが認められる。
そこで、右訓練費用の合計を求めると、一九〇万円(五万円×三八か月)となる。
ヘ 在宅訓練雑費(請求は五九一万八四九六円) 五九一万八四九六円
証拠〔甲一〇の六、三五の二ないし五・一〇ないし一四、三八、四九、原告花子本人(第二回)〕によれば、原告夏男は、平成元年九月からドーマン療法による激しい訓練をしているが、少なくとも従前の訓練により改善された機能の退化を防ぐため、今後も終生これを継続する必要があり、その意思もあること、しかし、原告夏男は、激しい訓練を一日中行うため、通常人より極めて多量のビタミンを摂取したり、カロリー補給の必要があること、また、激しい訓練により、衣服がすぐすり切れ衣料品代がかさむとともに、怪我が絶えず、薬品代がかかること、さらに、訓練のため、夏は冷房費、冬は暖房費がかなりかさむこと、右訓練のための雑費として毎月少なくとも三万円の出費があることが認められる。そこで、訓練雑費を算出すると次のとおりである。
A 既経過分(平成二年一〇月末までの分)
平成元年九月から平成二年一〇月までの一四か月分は四二万円(三万円×一四か月)となる。
B 将来分(平成二年一一月一日以降分)
平成二年一一月一日から前記平均余命までの訓練雑費の本件医療事故時の現価をライプニッツ係数により中間利息を控除して求めると、五四九万八四九六円〔3万円×12か月×(18.8195−3.5459)〕となる。
(一〇) 自宅改造費用(請求は二一二万七六五三円)
二一二万七六五三円
証拠〔甲三九の一ないし六、四〇の一ないし九、原告花子本人(第二回)〕によれば、原告夏男が自宅で機能回復訓練を行い自宅で生活することになったため、自宅のトイレ、洗面所、台所、浴室等を改造する必要が生じたこと、しかして、その工事費用として合計二一二万七六五三円を要したことが認められる。
(一一) 被告医療法人の支払分の控除
被告医療法人が原告夏男の介護諸費用として昭和六二年三月三一日三〇万円、同年四月一四日三八万六四八五円、同年五月一一日二五万円、同年六月一〇日三三万〇一二九円、同年七月二五万円の合計一五一万六六一四円を支払ったことは当事者間に争いがない。
そこで、(二)ないし(五)及び(七)ないし(一〇)の損害合計一億三〇二五万二九五五円から右支払額を控除すると、損害残額は一億二八七三万六三四一円となる。
(一二) 弁護士費用(請求は一三六六万三六四三円) 一〇〇〇万円
証拠(原告春男本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告夏男は、本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人らに委任し、報酬として認容額の二割にあたる金額を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の内容及び経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件医療事故による損害として被告らが負担すべき弁護士費用は一〇〇〇万円をもって相当とする。
2 原告春男及び原告花子の損害
(一) 慰謝料(請求は各五〇〇万円) 各五〇〇万円
原告春男及び原告花子は、原告夏男の両親として、長男である同原告を高等専門学校に通学させるまで養育し、その将来を期待し成長を楽しみにしていたところ、本件医療事故により同原告が終生介護を必要とする視覚障害(皮質盲)や四肢運動障害(四肢麻痺)等の障害を負う身体障害者とさせられ、今後同原告の介護に当たらなければならない状況にあることなど諸般の事情を考慮すれば、原告春男及び原告花子は、本件医療事故により、原告夏男が死亡したにも比肩すべき精神的苦痛を被ったものというべきであり、これを慰謝すべき慰謝料としては原告春男及び原告花子それぞれにつき各五〇〇万円を認めるのを相当とする。
(二) 弁護士費用(請求は各五〇万円) 各五〇万円
証拠(原告春男本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告春男及び原告花子は、本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人らに委任し、報酬として認容額の二割にあたる金額を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の内容及び経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件医療事故による損害として被告らが負担すべき弁護士費用は原告春男及び原告花子それぞれにつき各五〇万円をもって相当とする。
第四 結論
以上によれば、原告夏男の本訴請求は、被告らに対し、損害金一億三八七三万六三四一円及び内弁護士費用を除いた一億二八七三万六三四一円に対する不法行為後の昭和六一年一二月二〇日から、内弁護士費用一〇〇〇万円に対する不法行為後の昭和六二年七月一九日からそれぞれ支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余を失当として棄却し、原告春男及び原告花子の請求はいずれも理由があるので認容する。
(裁判長裁判官 新城雅夫 裁判官 園田秀樹 裁判官 髙橋光雄)