静岡地方裁判所浜松支部 平成12年(ワ)54号 判決 2001年10月25日
静岡県沼津市<以下省略>
原告
X
訴訟代理人弁護士
大橋昭夫
同
久保田和之
愛知県名古屋市<以下省略>
被告
グローバリー株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
肥沼太郎
同
三崎恒夫
主文
1 被告は原告に対し、290万円とこれに対する平成12年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを5分し、その3を被告の、その2を原告の、各負担とする。
4 この判決は、1につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し、540万円とこれに対する平成12年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案
被告会社を介して先物取引をした原告が、これを担当した被告会社の従業員に商品取引所法等に違反する行為があったとして、交付した委託証拠金相当額(450万円)、慰謝料(45万円)、弁護士費用(45万円)の支払いを請求する事案である。
第3判断
1 甲号各証(第6号証を除く)、乙第1乃至第3号証、第6号証、第8乃至第10号証、原告本人尋問の結果(一部)、証人Bの証言(一部)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実を認めることができる(一部の事実については当事者間に争いがない)。
(1) 被告会社は、中部商品取引所、東京工業品取引所、東京穀物商品取引所、大阪商品取引所、関西商品取引所、関門商品取引所の取引員であって、商品取引所法に基づく上記各商品取引所に上場されている各商品の先物取引等の業務を行っている会社である。
Cは被告会社浜松支店営業部第一課課長、Bは同課課長代理、Dは同課係長、Eは同課外務員、Fは同支店営業管理部主任である。
原告は、昭和46年○月○日生まれの独身男子であり、平成6年3月、a大学商学部経営情報学科を卒業し、同年4月、沼津市内のb社に入社し、現在に至っている。
原告は、これまでに、先物取引をしたことはなく、株式取引をしたこともない。
(2)① 平成11年10月27日(水)午後6時ころ、被告会社のDから原告宅に、「資産運用はなさっていますか。先物取引をしてみませんか。」との電話があり、原告が、「先物取引については良い噂は聞かない。」と答えると、「それは誤解です。銀行に預けてもたかが知れている。資産を増やしてみませんか。白金がいいです。ロシアの供給が止まり、自動車の排ガス規制で需要が高まります。」と言い、両者の間で、以下、「ところで、貯蓄はどの位ですか。相場は年齢×10万円位ですが、その位ですか。」(D)、「はい。」(原告)、「100万円位出せませんか。」、「せいぜい75万円が限度です。」、「どの位まで増えればいいと思いますか。」、「100万円まで増えればいいんですが。」、「それ位であれば何の問題もありません。お話をさせていただきたいのですが、時間はありますか。そちらにこれから伺います。」、「今日はないけど、明日ならあります。」というような問答が交わされ、翌日午後7時に三島駅北口で会うことになった。
② 10月28日(木)午後7時、三島駅北口で、原告はDと会い、ファミリーレストラン「デニーズ」で、Dから説明を受けた。
Dは、先物取引はハイリスク・ハイリターンであると言いつつも、その危険性について、「我々もプロだから回避する方法はある。リスクヘッジというものがある。」と言い、又、追証について、「追証がなければ取引は継続できなくなって決済になる。」と説明しつつも、「我々もプロだから追証が必要になる前に手を打ちます。」と付け加えた。
その後、原告が約諾書に署名押印し、Dが、「白金が上がっている。取引を始めるなら早いほうがいいです。」と勧めたため、原告は75万円の証拠金で白金を始めることにし、翌日、75万円を授受することになり、Dが、「取引の内容を説明しに別の者が伺います。」と言い、翌日午後7時に三島駅で会うことになった。
③ⅰ 10月29日(金)午後0時30分、原告は、原告の勤め先のb社の本館の応接室で、被告会社のEと会い、75万円を手渡した。
ⅱ 同日午後7時、原告は、三島駅北口で被告会社のFと会い、近くのコンビニエンスストア「サークルK」の駐車場に駐車していた原告の自動車の中でビデオを見せて貰い、先物取引の説明を受けると共に、アンケート用紙に預貯金の金額等を書き込んでFに手渡した。
④ⅰ 11月1日(月)午前10時、Dから原告の携帯電話に、「タイミングを見て白金を仕込んでいくので、また連絡します。」との連絡が入った。
ⅱ 同日午後0時35分、Dから原告の携帯電話に、「最初は慎重に9枚買いましょう。」との、そして、午後1時、「9枚買いました。」との連絡が入った。
ⅲ 同日午後5時、被告会社のBから原告の携帯電話に連絡があり、「今度取引が開始されたブロイラーか鶏卵をやりましょう。これは私が責任をもって担当させていただきます。ブロイラーをやった他のお客さんは、一日で600万円が1000万円近くにもなりました。長期で運用する訳ではありません。短期で行きます。500万円位何とかなりませんか。今週一杯見てくれれば大台に乗りますよ。新しく始めて貰ったからには信頼を作りたいのです。どうにかお金の都合はつきませんか。」と言ってきた。
以下、両者の間で、「お金がありません。」(原告)、「現在の価格は高すぎます。深追いはしません。」(B)、「財形なので直ぐに出せるか分かりません。」、「定期預金でなければ、通帳と印鑑と免許証を持っていけば何とかなります。直ぐに元に戻せばいいだけですから。」というようなやりとりの後、原告が250万円用意し、翌日午前11時に三島駅で会って手渡すことになった。
⑤ⅰ 11月2日(火)午前9時、原告は沼津市内の労金で財形の解約手続をして、250万円の払戻を受けた。
ⅱ 同日午前9時45分、Bから原告の携帯電話に連絡があり、「お金は用意できましたか。」と問い合わせてきた。原告が用意できた旨伝えると、Bは、更に、「相場は今日もストップ安でもう間違いない。もう少し行きましょう。あと100万円何とかなりませんか。」と言い、原告が「もうお金を用意するのは無理です。」と答えると、「1枚でも多い方がいいんです。下がりきってしまえば終わりなんですよ。」と言って強く勧誘し、結局、50万円追加して、300万円用意することになった。
300万円用意できたので、原告がBに連絡を入れたところ、Bが「切替預り証は325万円で発行します。Eが受け取りに行きます。ただ、50万円は振り込んで下さい。」と言ったので、午前10時ころ、原告は東海銀行沼津支店から被告支店に50万円を振り込んだ。
しばらくして、Bから「50万円の入金の確認ができました。いいタイミングで仕込んでおきますので安心して下さい。」との連絡が入った。
ⅲ 同日午前11時、三島駅北口で、原告はEと会って、250万円を手渡し、325万円の切替預り証を受け取った。
ⅳ 同日午前11時30分、Bから原告の携帯電話に、「ブロイラー68枚の売り注文を行います。」との連絡が入った。
原告は、ブロイラー1枚が5万円と聞いていたので、「68枚では300万円と合わないのでは。」と質問すると、Bは、「白金の手をつけていない分を回しました。ここは1枚でも多い方がいい。もし3回ストップ安がつけば1000万円の大台に乗ります。」と答えた。
ⅴ 同日午後3時、Bから、仕事中の原告の携帯電話に連絡が入り、Bは、「ブロイラー68枚の売り建てをしました。明日は休みですが、明後日を楽しみにして下さい。」と言った。
⑥ⅰ 11月4日(木)午前9時30分、被告会社のCから原告の携帯電話に連絡が入った。
Cは、「やりました。大正解です。ストップ安ですよ。200万円以上の利益です。深追いはしませんが、まだ行けます。1枚でも多く行きましょう。」と、「もうお金がない。」と言う原告に対して強く勧め、結局、更に50万円振り込むことになった。
ⅱ 同日午後0時30分、原告は農協と東海銀行から合わせて50万円の払戻を受けて被告支店に振り込んだ。
ⅲ 同日午後1時15分、Cから仕事中の原告の携帯電話に連絡が入った。
Cは、「いい情報が入りました。白金、ブロイラーは手仕舞いしましょう。アラビカコーヒーを買いましょう。ブロイラーよりコーヒーの方が利益率がいいんです。ブロイラーを止めてコーヒーにしましょう。白金は流れが悪いみたいなので一旦ここで止めましょう。ここで替えれば直ぐに大台に行きますから。」と説明し、原告が、「どんな情報なのですか。」と聞いたけれども、それには答えず、「今がタイミングなんです。」とだけ言った。
ⅳ 同日午後1時30分、Cから原告の携帯電話に連絡が入った。
Cは、「いいタイミングですからアラビカコーヒーを81枚買いましょう。」と言い、原告が、「一日でも長くブロイラーをやっていた方がいいのではないですか。」と躊躇していると、「そこが素人の考え方です。週末に一旦決済が入ることが多いのです。また、折り返し電話します。」と答えた。
ⅴ 同日午後3時、Cから原告の携帯電話に、「アラビカコーヒーを81枚買った。」との連絡が入った。
⑦ 11月8日(月)午後0時45分、Cから原告の携帯電話に連絡が入った。
原告が、「アラビカコーヒーが下がっているが。」と質問したのに対して、Cは、「一日の相場で判断して貰いたくない。素人には分からなくても、我々はプロだから。」と答えた。
⑧ⅰ 11月9日(火)午前10時、Cから原告に、「コーヒーの利益が出たので、ここで手を引きましょう。アラビカコーヒーを売りましょう。今、Bとシミュレーションしていますから後で電話します。」との連絡が入った。
ⅱ 同日午前10時30分、Bから原告に連絡が入った。
Bは、「ガソリンを89枚売りましょう。」と言い、原告が、「ガソリンは上がるのではないですか。だから買いではないですか。」と質問したのに対して、「ガソリンは上場した時に伊藤忠商事が買い込んだので高騰したのです。今は相場に比べて高いです。それに合わせて伊藤忠が売りを出しているのです。その流れに乗りましょう。これも長期ではなく、2、3日位、週末を目途にやって行きましょう。」と答えた。
ⅲ 同日午前10時45分、Cから原告に、「ガソリンを売りましょう。」との連絡が入り、原告が、「ちょっと待って下さい。」と言ったけれども、「いいですね。」と言って電話を切った。
ⅳ 同日午前11時30分、Cから原告に、「ガソリンを89枚売りました。」との連絡が入った。
ⅴ 同日午後11時、Bから原告の携帯電話に連絡が入った。
Bは、「今日の結果を見ましたか。粗利益が100万円を超えていますよ。今入ったニュースなんですが、外国の減産遵守率が下がっているんです。まだまだ行けます。お金、どうにかなりませんか。」と言い、原告が、「お金は本当に無理です。」と答えると、「私が言ったことが本当でなかったら、こんな時間に電話しません。他のお客さんも信用して貰って900万円用意して貰ったんですよ。もう少しで本当に大台なんです。1500万円も夢ではないんです。そうすれば1000万円戻して、500万円で運用して行けるんです。Bを100パーセント信じろとは言いませんが、120パーセント信じて貰って構いません。」と言って強く勧誘し、結局、25万円振り込むことになった。
⑨ⅰ 11月10日(水)午前9時、原告は、農協、労金、東海銀行から、合わせて25万円の払戻を受けて被告支店に振り込んだ。
ⅱ 同日午前10時、原告がBに25万円振り込んだことを連絡し、ガソリンが値上がりしていることを質問すると、Bは、「利益確定の動きがあって一時上がっているだけです。今現在は下がっているから大丈夫です。」と答えた。
ⅲ 同日午後1時、Cから原告の携帯電話に、「ガソリンを3枚売りましょう。」との連絡が入った。原告が、「大丈夫ですか。」と質問すると、Cは、「高値警戒感から売りを出してくるんです。大丈夫です。」と答えた。
ⅳ 同日午後1時30分、Cから原告の携帯電話に、「ガソリンを3枚売りました。」との連絡が入った。
⑩ⅰ 11月11日(木)午前10時、原告は、CかBに連絡を取ろうと、被告支店に電話をしたが、二人とも電話中とのことで、後で電話するとのことであった。
ⅱ 同日午後0時45分、Cらから連絡がなかったため、原告が被告支店に連絡したところ、Cが出て、原告が、「ガソリンが値上がりしているのはどうしたことか。」と質問すると、「為替の影響で値を上げているのです。何度も言うように、市場の大方の見方では高値警戒感から売りを出してくるんです。」と答えた。
⑪ⅰ 11月12日(金)午後0時45分、原告がCに連絡し、「ガソリリンが値上がりしているが。」と質問したところ、Cは、「為替の影響で値を上げていますが、市場の大方の見方では高値警戒感から売りを出してくるんです。」と答えた。更に、原告が、「原油の減産が延長するって話があるし、ニューヨーク市場もガソリンが上がっているじゃないですか。伊藤忠商事も新規で売りを建てたということは、手仕舞いの買いを決算した場合には、値上がりするのは見えているのではないですか。2、3日中、週末には仕切るって話じゃなかったですか。これ以上値が上がると元金を切ってしまうので止めたい。」と言うと、Cは、「為替の影響で値を上げていますが、何度も言うように、市場の大方の見方では高値警戒感から売りを出してくるんです。週明けの新しい情報待ちの状態なんです。ですから上がったとしてもたかが知れています。まだ待っていた方がいいんです。」と、原告の申し入れを聞こうとしなかった。
ⅱ 同日午後1時30分、2時30分、3時と、原告は、決済して貰うべく、Cと連絡を取ろうと、被告支店に電話したけれども、電話中ということで連絡が取れず、後から連絡するということであったが、その連絡もなかった。
⑫ⅰ 11月15日(月)、原告はCに連絡を取ろうと、午前中、何度も被告支店に電話したけれども、会議中ということで、取り次いで貰えなかった。
ⅱ 同日午前11時30分、Cから原告に電話が入った。
原告が、「ガソリンが急騰している。早く決済してくれ。」と言うと、Cは、「週明けで決済が入っているんです。今決済するのはタイミングが悪いです。午後になればこの動きも一時止まりますから、それまで様子を見ましょう。」と答えた。
ⅲ 同日午後1時、Cから原告に電話が入り、Cは、「これからタイミングを見て行きます。何とかお金を残すようにしますので、いつでも連絡を取れるようにしておいて下さい。」と言った。
ⅳ 同日午後2時30分、Cから原告に電話が入り、Cは、「枚数を切って行きましょう。それで今後につなげます。いいですか、まだ確定損益ではないのですから。タイミングを見てまた電話します。」と言った。
ⅴ 同日午後2時40分、Cから原告に電話が入り、Cは、「まず、最初の89枚の内の39枚と売った3枚の42枚を仕切ります。いいですね。3時過ぎに、又、電話します。」と言った。
ⅵ 同日午後3時、Cから原告に電話が入り、Cは、「42枚仕切りました。最悪の状態は避けられました。まだ今日の相場は動いているので、タイミングを見て行きますから、連絡ができる状態にしておいて下さい。」と言った。
ⅶ 同日午後3時45分、Cから原告に、「最悪の状態は回避できました。どうするか、また連絡します。」との電話が入った。
ⅷ 同日午後7時、Cから原告に電話が入り、追証の話になった。
原告が、「今日中に決済した方が損益が少なかったのではないか。」と質問すると、Cは、「損益を確定してしまっては、取り戻せない。今までも増えてきたではないですか。取り戻せない訳ではないんです。」と答えた。
その後、更に、両者の間で、「これからどうしたらいいのか。」(原告)、「先ずは追証を入れて下さい。」(C)、「幾らになるのか。」、「今、委託証拠金は450万円残っています。計算上、400万円近い金額がマイナスになっているので、450万円の半分の225万円が必要です。」、「それが払えないとどうなるのか。」、「即日決済になる。」、「不足金が出るとどうなるのか。」、「即日決済であるから、午後2時までに入れなければならない。不足金は最悪を考えて290万円位にはなる。」、「そんなお金はない。」、「明日の昼までにお金が必要なんです。」というような問答が交わされた。
その時、事前に連絡しておいた原告の両親が訪ねてきたため、原告はCに、「親が来たから相談する。」と言って、電話を切った。
原告は両親と相談した結果、不足金を出してでも決済することに決めた。
午後9時、Cから原告に電話が入った。
原告が、「相談した結果、不足金を出しても決済することに決めたから、決済して欲しい。」と言うと、Cは、「それはドブに捨てるようなものだ。決済するとなると、午後の相場で決済されてしまい、タイミングを見て損害を軽減することもできなくなる。追証を入れてくれれば一日の内でベストの機会を見て、そこで決済するから、不足金を出すよりダメージが少ない。」と言ったが、原告は、「あなた達は信用できないから決済するんです。」と言って電話を切った。
午後10時、Cから原告に電話が入った。
Cは、「追証を入れた方がいい。」と言い、原告が、「どうして決済できないのか。」と聞くと、「できない訳ではないが、追証の方がいい。」と繰り返し言った。
午後11時、Cから原告に電話が入ったけれども、原告は、「もう話すことはありません。弁護士と相談します。」と言って、電話を切った。
⑬ⅰ 11月16日(火)、原告は弁護士と相談し、連絡のあったCに対し、「もう話すことはありません。弁護士と相談して、内容証明書を送付します。」と伝えた。
ⅱ 同日午前11時45分、Cから原告に、「決済します。」との連絡があり、更に、午後3時、「決済しました。」との連絡があった。
(3) 以上の先物取引の経過は、別紙分析表のとおりである。
2 上記1の事実の経過から、被告会社のCらの言動について、以下のように言うことができる。
(1) 被告会社(の従業員)は、知識、経験及び財産の状況に照らして商品市場における取引の参加に適さないと判断される者を勧誘等してはならない(日本商品先物取引協会・受託等業務に関する規則-以下業務規則という-5条1項1号)。
本件についてこれを見るに、原告は、当時、28歳の独身男子であり、大学卒業後、b社に入社し、現在に至っている者で、これまでに、先物取引をしたことはなく、株式取引をしたこともなく、先物取引についての知識はなく、先物取引をするに十分な資金を有してもいなかったのであって、その知識、経験及び財産の状況に照らして適格性に欠けると言うべきである。
(2) 被告会社(の従業員)は、取引の仕組み及びその投機的本質及び預託資金を超える損失が発生する可能性のあることを説明しなければならず、それをしないで勧誘等してはならない(業務規則4条1項3号、5条1項4号)。
本件についてこれを見るに、10月28日、Dは原告と会い、原告に先物取引について説明したが、その内容を見ると、先物取引はハイリスク・ハイリターンであると言いつつも、その危険性について、「我々もプロだから回避する方法はある。リスクヘッジというものがある。」等と言い、又、委託追証拠金(追証)について、「追証がなければ取引は継続できなくなって決済になる。」と言いつつも、「我々もプロだから追証が必要になる前に手を打ちます。」等と言い、先物取引の仕組みとその投機的本質及び預託資金を超える損失が発生する可能性のあることを十分に理解させるための説明をしたとは言えない。
(3) 被告会社(の従業員)は、商品市場における取引につき、顧客に対し、利益を生ずることが確実であると誤解されるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘してはならない(商品取引所法136条の18、1号)。
本件についてこれを見るに、Dは、原告が、「100万円まで増えればいいんですが。」と言ったのに対して、「それ位であれば何の問題もありません。」と言い、又、Bは、ブロイラーを勧めるに当たって、「他のお客さんは、一日で600万円が1000万円近くにもなりました。」と言い、更に、ガソリンを勧めるに当たって、「もう少しで本当に大台なんです。Bを100パーセント信じろとは言いませんが、120パーセント信じて貰って構いません。」等と言って、利益を生ずることが確実であると誤解されるべき断定的判断を提供してその委託を勧誘した。
(4) 被告会社(の従業員)は、商品市場における取引の委託につき、顧客に対し、顧客に迷惑を覚えさせるような時間に行う勧誘その他の迷惑を覚えさせるような仕方での勧誘を行ってはならない(商品取引所法施行規則-以下施行規則という-46条6号)。
本件についてこれを見るに、上記1(2)④ⅲ、⑤ⅱ、⑥ⅰ、⑧ⅴのように、Bらは、「お金がない。」という(事実、余裕がなかったが)原告に対して、お金を用意するように執拗に勧誘し(⑧ⅴの場合は、午後11時のことである)、原告に迷惑を覚えさせるような仕方で勧誘したと言うべきである。
(5) 被告会社(の従業員)は、顧客に取引の自己責任についての自覚を促すために必要な情報の提供をする等し、先物取引は投資者自身の判断と責任において行うべきものであることについて、顧客の理解と認識を得なければならない(業務規則4条1項5号)。
本件についてこれを見るに、原告は、白金、ブロイラー、アラビカコーヒー、ガソリンについて取引しているけれども、上記1(2)①、②、④ⅲ、⑥ⅲ、ⅳ、⑧ⅱ、ⅴ、⑨ⅱ、ⅲ、⑩ⅱ、⑪ⅰのように、白金については、「ロシアの供給が止まり、自動車の排ガス規制で需要が高まります。」という程度の、ブロイラーについては、「今度取引が開始されたけれども、現在の価格は高すぎます。」という程度の説明であり、白金、ブロイラーを止めて、アラビカコーヒーを買うについても、「いい情報が入りました。」と言うにとどまり、又、ガソリンを売るについては、原告が、ガソリンは上がるのではないか、だから買いではないかと言っているにもかかわらず、「今は相場に比べて高いです。」、「外国の減産遵守率が下がっているんです。まだまだ行けます。」といった程度の説明に終始していて、取引の自己責任についての自覚を促すために必要な情報の提供をする等したとは言えない。
(6) 被告会社(の従業員)は、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不相応と認められる過度な取引が行われることがないようにしなければならない(業務規則3条2項)。
本件についてこれを見るに、原告は、平成11年11月1日から16日までの、僅か半月の間に、4種類の商品について、合計250枚の取引をしており、その間に得た利益は全て委託証拠金に振り替えられていて、相場が逆に動けば、原告の資力からして、忽ち破綻してしまうであろうことは明白であったのであって、Cらの言動は上記禁止行為に該当すると言うべきである。
(7) 被告会社(の従業員)は、商品市場における取引の委託につき、転売又は買戻しにより決済を結了する旨の意思を表示した顧客に対し、引き続き当該取引を行うことを勧めてはならない(施行規則46条10号、業務規則5条1項6号)。
本件についてこれを見るに、上記1(2)⑧ⅱ、⑨ⅱ、⑩ⅱ、⑪ⅰ、⑫ⅱ、ⅷのように、Bが原告にガソリンを売ることを勧めたのに対し、原告は、ガソリンは値が上がるのではないか、だから逆に買いではないかと主張し、その後、原告が予測したように値上がりしたことから、原告が繰り返し懸念を表明したのに対して、Bらは、「利益確定の動きがあって一時上がっているだけです。」、「為替の影響で値を上げているのです。」等と言い、これに納得しない原告が、「2、3日中、週末には仕切るって話じゃなかったですか。これ以上値が上がると元金を切ってしまうので止めたい。」、「ガソリンが急騰している。早く決済してくれ。」と、繰り返し求めたにもかかわらず、これを聞き入れようとせず、挙げ句の果てに、追証を入れることを執拗に勧誘していて、Bらの言動が上記禁止行為に該当することは明らかである。
(8) 以上の検討の結果によると、原告は被告会社に対し、民法709条、719条、715条に基づき、上記の事実関係によって発生した財産的損害の賠償を請求し得べきであるが、賠償を請求し得べき精神的損害を被ったとまでは言うことはできないとするのが相当である。
3 又、上記1の事実の経過から、原告の言動について、以下のように言うことができる。
(1) 先物取引の基本的な仕組みは、極大雑把に言えば、値上がりすると思われる商品を(安く)買って(高く)売る、値下がりすると思われる商品を(高く)売って(安く)買う、その値動きの予測との順逆によって生ずる差額が損益になるというものであって、それを理解することはそれ程困難なことではない。
しかしながら、特定の商品の価格がどう動くかを予測することは極めて困難なことである。何故なら、商品の価格は、商品の需給関係、為替レート、実質金利等経済的な要因に留まらず、投資家の思惑、自然現象、政情不安等、多くの要因によって左右されるものであって、そのような要因を的確に把握し、分析し、価格の動きを正確に予測することは不可能に近いと言っていい(そうして、又、不可能に近いと言っていい程困難なことであるということを理解することはそれ程困難なことではない)。
(2) 原告は、当初、Dから先物取引を勧められた際、「先物取引については良い噂は聞かない。」と言い、Cが、白金、ブロイラーを止めてアラビカコーヒーを買うことを勧めたときも、このままの方がいいのではないかと言い、Bが、ガソリンを売ることを勧めたときも、売りよりも買いではないかと言ったりしている(事実、原告の方が正しかったのであるが)ところからすると、原告は、先物取引の基本的な仕組みと商品の値動きを正確に予測することが困難なこと、即ち、先物取引がハイリスク・ハイリターンなものであることの認識を有していたと推認される。
それにもかかわらず、何故取引を始めることになったのかについて、原告は、Dから、「我々もプロだから危険を回避する方法がある。リスクヘッジというものがある。」、「我々もプロだから追証が必要になる前に手を打つ。」等と言われたからであるとするけれども、「リスクヘッジ」について更に突っ込んだ説明を求めた形跡はなく(説明を受ければ、安心できることではないことが分かった筈である)、又、常に、追証が必要になる前に手を打つことなど不可能なことは分かった筈であり、それにもかかわらず、何故取引を始めることにしたのかについては、結局、「我々もプロだから。」という言葉を信じたからと言うことになると思われるけれども、先物取引については、「プロだから。」という言葉など信ずるに足りないことは、先物取引について上記の程度のことを理解しているだけで分かることであって、本件取引によって原告に生じた損害については、一定の限度で原告の負担とするのが相当である。
(3) 原告は、75万円で先物取引を始め、その後、250万円、50万円、50万円、25万円と、Cらが勧めるままに取引しているが、Cらの勧誘が執拗であったにしても(事実、執拗ではあったが)、追証については、Cが入れることを執拗に勧めたけれども、原告がこれを峻拒し、それに対しては、Cらも為す術はなく、結局は、原告の要求に従わざるを得なかったことからすると、取引を断ろうと思えば断れないことはなかったと言うべきであり、その点からも、本件取引によって原告に生じた損害については、一定の限度で原告の負担とするのが相当である。
(4) そうして、以上の検討の結果からすると、原告が負担すべき割合は4割とするのが相当である。
尚、本件取引によって生じた損害について、相当な割合を原告が負担すべきであるとすることは、被告の主張するところであると解する。
4 以上の事実関係によると、原告が本件訴訟のために要した弁護士費用の内、20万円を被告において負担すべきであるとするのが相当である。
5 以上の次第で、原告の請求は主文記載の限度で理由がある。
6 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中優)
<以下省略>