静岡地方裁判所浜松支部 平成13年(わ)339号 判決 2001年10月12日
主文
被告人を懲役2年6か月に処する。
この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,分離前のA及び同Bと共謀の上,中小企業雇用創出人材確保助成金(以下「本件助成金」という。)支給名目に金銭を騙し取ろうと企て,真実は,被告人が営む「C」と称する酸素濃縮器等の販売業においては,新分野進出等に伴う事業の用に供するための施設又は設備等の費用として300万円以上を負担したことはなく,労働者を雇用した事実も,その賃金を支払った事実もなく,「C」には本件助成金の受給資格がないのに,それがあるかのように装い,
第1平成12年10月12日ころ,静岡県静岡市a町b番地cの雇用・能力開発機構静岡センターにおいて,同センター職員D等を介し,同センター所長Eに対し,「C」が,F,G及びHを平成12年4月1日から同年9月30日までの期間雇用し,Fに対し150万円,Gに対し180万円,Hに対し192万円の,合計522万円の賃金を支払った旨記載した内容虚偽の中小企業雇用創出人材確保助成金・受給資格創業特別助成金申請書等を提出して,本件助成金の支払を請求し,同年10月13日Eをして,「C」に本件助成金の受給資格があるものと誤信させて,その旨支給決定をさせ,よって,同年12月1日静岡県a郡b町c番地のdのI信用金庫J支店の「C」名義の普通預金口座に261万円を振込入金させて,人を欺いて財物を交付させた。
第2平成12年12月5日ころ,上記雇用・能力開発機構静岡センターにおいて,同センター職員Kらを介し,同センター所長Eに対し,「C」が,L,M及びNを平成12年5月1日から同年10月31日までの期間雇用し,L及びMに対し各198万円,Nに対し192万円の合計588万円の賃金を支払った旨記載した内容虚偽の中小企業雇用創出人材確保助成金・受給資格創業特別助成金申請書等を提出して,本件助成金の支払を請求し,同年12月12日Eをして,「C」に本件助成金の受給資格があるものと誤信させて,その旨支給決定をさせ,よって,平成13年1月25日上記の普通預金口座に294万円を振込入金させて,人を欺いて財物を交付させた。
(法令の適用)
罰 条
第1,第2の各行為 いずれも刑法60条,246条1項
併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条,(犯情の重い第2の罪の刑に加重する。)
刑の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の事情)
1 本件は,被告人が共犯者らと共謀の上,政府の緊急雇用対策の一環として創設された中小企業雇用創出人材確保助成金(本件助成金)制度を悪用し,その受給資格がないのに,それがあるかのような書類を作出し,本件助成金支給決定機関である雇用・能力開発機構静岡センターから2回にわたり合計555万円を詐取したという助成金不正受給の事案であるが,私利私欲のために公的資金を騙し取ろうとした犯行の動機に酌量すべき点はない。
また,本件各犯行は,計画的であり,内容も大胆かつ巧妙で,態様甚だ悪質であるほか,本件による被害金額は少なくなく,他の被告人に比して被告人が得た額も多く,発生した結果も重大である。
そして,被告人が本件犯行を重ねて行っていたことからすると,被告人の規範意識と遵法精神には問題があり,その刑事責任は重い。
2 他方,本件犯行は,被告人が計画したものではなく,被告人の犯行への関与は従属的であること,被告人に前科はなく,本件を別にすれば,これまで格別問題のない社会生活を送っていたこと,被告人は,本件により得た金額に法定利息を付して返還しており,本件被害は実質的に回復されていること,また,被告人は,本件により初めて身柄拘束を体験し,本件各犯行を反省の上,法廷において,2度と悪いことはしない等と述べていること,さらに,被告人の妻が被告人の今後の監督を誓約していること等被告人のために酌むべき事情もある。
3 そこで,当裁判所は,これらの事情を総合考慮し,主文の刑を定め,その刑の執行を猶予することとした。
(求刑)懲役2年6か月
(公判に出席した検察官及び弁護人)
検察官 山田英夫
弁護人 原陽三郎
(裁判官 河田泰常)