静岡地方裁判所浜松支部 平成13年(ワ)411号 判決 2005年7月11日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 本訴請求について
(1) 原告B山松子及び同C川竹子と被告ファインとの間でなされた別紙一立替払契約内容一覧表記載の各立替払契約に基づく同原告らの同被告に対する支払債務がいずれも存在しないことを確認する。
(2) その余の原告らの各被告に対する債務不存在確認請求に関する訴え部分をいずれも却下する。
(3) 被告ファインは、原告兼反訴被告D川冬子らに対して、一九万四一二二円、原告兼反訴被告E原一江に対して、一四万〇一二二円及びこれらに対する平成一三年一一月八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) その余の原告らの各請求をいずれも棄却する。
二 反訴請求について
(1) 別紙二立替払契約一覧表中の「原告」欄記載の各原告兼反訴被告は、被告ファインに対し、同表中の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する同表中の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(2) 別紙三立替払契約一覧表中の「原告」欄記載の各原告兼反訴被告は、被告オリコに対し、同表中の「認容金額」欄記載の各金員及びこれに対する同表中の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(3) 原告兼反訴被告A川二江は、被告クオークに対し、一二万七六〇八円及びこれに対する平成一二年七月二七日から支払済みまで年六分(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。
(4) 被告らのその余の各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用の負担等
(1) 訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを七分し、その一を原告らの負担とし(ただし、反訴については、原告B山松子及び同D川竹子を除く。)、その三を被告ファインの負担とし、その二を被告オリコの負担とし、その一を被告クオークの負担とする。
(2) この判決は、第一項(3)及び第二項(1)ないし(3)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求の趣旨
一 本訴請求
(1) 別紙一立替払契約内容一覧表記載の各原告と各被告との間でなされた各立替払契約に基づくクレジット代金(支払総額欄記載の金額)につき、支払債務が存在しないことを確認する。
(2) 別紙一立替払契約内容一覧表記載の各被告は、これに対応する各原告に対し、同表記載の各既払金及びこれに対する被告ファイン及び同オリコについては平成一三年一一月八日から、被告クオークについては同月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴請求
(1) 別紙二立替払契約一覧表中の「原告」欄記載の原告らは、被告ファインに対し、同表中の「未払金額」欄記載の各金員及びこれに対する同表中の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から各完済まで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(2) 別紙三立替払契約一覧表中の「原告」欄記載の原告らは、被告オリコに対し、同表中の「未払金額」欄記載の各金員及びこれに対する同表中の「遅延損害金起算日」欄記載の各日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(3) 原告兼反訴被告A川二江は、被告クオークに対し、金二一万六〇〇〇円及びこれに対する平成一二年七月二七日から支払済みまで年六分(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告らが株式会社ダンシング(以下「ダンシング」という。)から寝具(商品名「テルマール」)を購入し、購入代金の支払について、被告らと立替払契約を締結したが、原告らとダンシングとの間でなされた寝具の売買契約とこれに付随して締結された後述するモニター会員契約とは不可分一体のものであり、この不可分一体の契約は公序良俗違反又は錯誤により無効もしくは詐欺により取り消されており、これを前提とした原告らと被告らとの間の立替払契約も無効となっているし、仮に、そうでないとしても、原告らは被告らに対して割賦販売法三〇条の四の規定による支払拒絶の抗弁を主張し得るとして、立替払契約に基づく支払債務が不存在であることの確認を求めるとともに、原告らが被告らに支払った既払金について、不当利得返還請求もしくは被告らの加盟店調査管理義務違反によって既払金相当額の損害を被ったとして債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求(なお、付帯請求の起算日は訴状送達の日の翌日である。)する(本訴請求事件)のに対し、被告らは、原告らの主張を争い、原告らに対し、立替払契約に基づく未払立替金等の支払を求めている(反訴請求事件)事案である。
二 前提事実(証拠により容易に認定できる事実)
《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
(1) 当事者及び関係者
ア ダンシング
ダンシングは、昭和六一年五月八日に設立された株式会社(代表者代表取締役D原晴夫(戸籍上はD原春夫、以下「D原」という。)であり、本店を兵庫県姫路市におき、寝装寝具等の販売を業としていたが、設立時は、健康茶・雑貨等の販売を主たる業務とする株式会社クローバー友の会という商号であったものを、平成九年二月一二日に商号を変更し、主たる業務も上記のとおり寝装寝具等の販売となった。D原がダンシングを立ち上げる際の資金として、ダンシングは、約二五〇〇万円を借り入れた。ダンシングは、E田株式会社(以下「E田社」という。)から仕入れた寝具(商品名「テルマール」、以下「本件寝具」という。)を原告ら顧客に対し、シングルサイズ(上掛布団、肌掛布団、敷布団、枕、上掛布団カバー、敷布団カバーのセット)を三六万円(税込価格三七万八〇〇〇円:仕入れ値五万円)、ダブルサイズ(同セット)を四六万円(税込価格四八万三〇〇〇円:仕入れ値七万円)で販売していた。ダンシングは、平成一〇年二月に大阪営業所(A田夏夫営業所長)を、同年四月に東京営業所(B野秋夫営業所長)を、同年一一月に熊本営業所を、同一一年四月には松山営業所を順次開設した。
本件寝具は、マイナスイオンを発する特殊繊維として特許を取得している「ステイヤーズ」を使用した健康布団であり、ステイヤーズは、大手繊維メーカーである富士紡績株式会社が製造、販売している。
イ 被告らを含むダンシングと加盟店契約を締結した信販会社
a 株式会社アプラス
平成九年八月ころ、加盟店契約を締結し、同年九月ころ取引を終了している。
b ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社
平成九年七月ころ、加盟店契約を締結し、同年一二月ころ取引を終了している。
c 被告クオーク(当時の商号は東京総合信用株式会社)
平成九年三月二八日、加盟店契約を締結し、平成一一年三月ころ取引を終了している。
d 被告オリコ
平成一〇年四月三日、E田株式会社の子番契約(被告オリコとE田社との加盟店契約にもとづくクレジット制度をダンシングに利用させ、ダンシングが被告オリコに将来負うべき債務につきE田社が連帯保証する契約)として加盟店契約を締結し、平成一一年二月ころ取引を終了している。
e 被告ファイン
平成一〇年一〇月一〇日、加盟店契約を締結し、平成一一年二月ころ取引を終了している。
なお、取引終了理由は、株式会社アプラスについては、会員が嘘の苦情を消費者センターに持ち込んだことから、株式会社アプラスが顧客とトラブルとなることを嫌って撤退したものであるが、他の四社は、役務を伴わないモニター料を支払う制度は問題があるとして撤退したものである。
ウ 原告ら
原告らは、ダンシングから本件寝具のシングルサイズ又はダブルサイズを購入し、モニター会員となってモニター料等の支払を受けるモニター会員契約を締結するとともに、被告らとの間で別紙二ないし四の各立替払契約一覧表の各「契約年月日」欄記載の日に、本件寝具の購入代金について立替払契約を締結した。
そして、原告らは、上記立替払契約に基づき、被告らに対して、同表の各「支払総額」欄記載の金員(立替払金、手数料の合計額)の支払を約し、各「既払金額」欄記載のとおり支払った(なお、原告ら主張の既払金額と被告らが主張する既払金額が異なるものについては、被告らが自認する額を既払金額として認定する。)。
原告らは、すべて後述するモニター会員であるが、原告らのほとんどが本件寝具を購入した動機として、モニター料を受給することにより、本件寝具の購入代金については、実質的には金銭的負担がないと思ったことをあげ、そのほかの動機として、本件寝具の効能や勧誘を断り切れなかったことをあげているが、モニター料が得られなくても本件寝具を購入したと思うと答えた者はほとんどいない。なお、原告兼反訴被告B原三江は、三名を勧誘してモニター料のほかに後述する紹介手数料を受け取っており、原告兼反訴被告C田四江も一名紹介して、紹介手数料を受け取っている。
(2) ダンシングの営業実態
ア モニター商法の開始
a モニター商法の概要
ダンシングは、当初、単純な布団等の訪問販売をしていたが、平成九年八月ころから、以下のような「モニター商法」と呼ばれる販売方法を考案し開始した。顧客は、ダンシングから本件寝具を購入し、その売買契約に付随してダンシングと業務委託契約(以下「モニター会員契約」という。)を締結することによりモニター会員として登録される。モニター会員契約によれば、モニター会員は、毎月発行される会報「ヴィヴァ・ヴィータ」を購読して、それに貼付されているアンケートに回答して、ダンシングに提出し(レポート業務)、また、一人一月五〇〇枚程度のチラシ配布業務を行うことを義務付けられ、その業務の対価として、ダンシングからモニター料として毎月三万五〇〇〇円を最長二四か月間、合計八四万円を受け取ることができる。なお、三か月以内に新規購入者を一〇名紹介すると、八四万円の先払いを受けることができ、新規購入者を一名紹介すると、その都度手数料として売買代金の三パーセント(シングルで一万〇八〇〇円、ダブルで一万三八〇〇円)を受け取ることができ、また、紹介による新規購入者が三名に達すると、三パーセントの手数料に加えてボーナスとして五万四〇〇〇円を受け取ることができるが、受け取ることができる合計額は八四万円が限度となっていた(以下、ダンシングが顧客と本件寝具の売買契約に付随して締結したモニター会員契約に基づくシステムを「モニター会員制度」という。)。
b モニター会員の業務の実態
モニター会員の業務のうち、レポート業務は、モニター会員となって一番最初に提出するファーストレポートと、毎月提出するマンスリーレポートがあったが、いずれのレポートも、質問事項が記載されている書面をダンシングがモニター会員に交付して、モニター会員がその質問に答える(○×方式)という非常に簡単なものであったが、同一人の筆跡で同一回答のレポートが出てきたため、ダンシングは、「ヴィヴァ・ヴィータ(VOL6)」(一二月一日発行)などで顧客に注意を呼びかけた。また、チラシ配布業務については、ダンシングが各モニター会員の実施の有無を確認していなかったため、ほとんどのモニター会員がチラシ配布業務を行っていなかったことから、平成一〇年一〇月一日以降は廃止された。なお、マンスリーレポートは平成一一年三月分以降不要となり、また、チラシを見て本件寝具を購入し、モニター会員となったものもほとんどいなかったように、モニター会員が行う業務は、ダンシングの営業活動、本件寝具の改良にはほとんど役に立っていなかったばかりか、その業務の実施をダンシングが確認してモニター料の支払をしていたわけでもなかったため、業務を行うか否かにかかわらず、モニター会員はモニター料の支払を受けることができた。
c 本件寝具の売買契約、モニター会員契約及び立替払契約の関係
本件寝具の売買契約とモニター会員契約は一応別個のものとされているが、本件寝具の購入申込みとモニター会員の登録は、「登録申請書面(兼商品購入申請書)」(甲九の一ないし四)という一通の書面でされていた(なお、モニター会員契約を売買契約とは別の書面により締結することも可能であったが、本件全証拠及び弁論の全趣旨によれば、別々に契約を締結した顧客はほとんどいなかったと認められる。)。この書面には、支払方法は、信販利用、カード利用、現金の三種類から選択できることとなっており、裏面には、「(株)ダンシングが主催するプランは、お客様の商品代金のお支払義務を保障するものではありませんので、予めご了承ください。」との記載もあり、顧客が信販利用を選択したとしても、顧客が信販会社に支払う立替金をモニター料の支払で保障するものではないこととされていた。また、モニター会員に登録するためには、本件寝具の購入が条件であるが、本件寝具を購入するためには、モニター会員に登録することは条件とはなっていなかった。
しかしながら、顧客が本件寝具を購入し、モニター会員登録をした際の支払方法として信販利用を選択すると、シングルサイズの二四回払いであれば、初回一万八四三二円、以降月額一万八〇〇〇円であり、ダブルサイズの二四回払いであれば、初回二万三五五二円、以降月額二万三〇〇〇円であるから、モニター会員は、モニター料と支払額との差額を月々の収入として得られることができたため、モニター会員に登録せず本件寝具のみを購入したり、信販利用をしなかった顧客はほとんどいなかった。
d ダンシングは、このようなモニター会員制度を利用したモニター商法によって、破産するまでの間に全国で一万四〇〇〇人以上に本件寝具を販売した。
イ ビジネス会員制度の導入
a ビジネス会員制度の概要
ダンシングは、平成一〇年一月ころから、以下のような「ビジネス会員制度」を導入した。顧客は、ダンシングから本件寝具を購入し、ビジネス会員として登録するか、モニター会員からビジネス会員に登録変更することによりビジネス会員として登録する。ビジネス会員は、新規購入者を一名紹介すると売買代金の八パーセント(シングルで二万八八〇〇円、ダブルで三万六八〇〇円)を紹介手数料として受け取る、紹介購入者が三名に達すると、一八万円がボーナスとして支給され、その段階でマネージャーという資格を得る。マネージャーは、自分の直接下位にある会員(一次会員)から、その六代下位にある会員(六次会員)まで、新規購入者ができる都度、売買代金の三パーセントのコミッション(ロイヤリティ)を得ることができる。ビジネス会員が紹介するのは、モニター会員でもビジネス会員でもどちらでもよいとされていた。
なお、モニター会員からビジネス会員に登録変更した後は、モニター料を受け取ることはできないことになっていた。
b ビジネス会員の勧誘
ダンシングは、ビジネス会員に対して、ダンシングが信販会社から渡されていたショッピングクレジット契約書や登録申請書(兼商品購入申請書)など、勧誘する際のビジネスキットを渡して、ビジネス会員やモニター会員の勧誘をさせていたが、ビジネス会員にとっては、実質的に金銭的負担なしに本件寝具を手に入れられる上、毎月モニター料と本件寝具の分割金との差額まで受け取ることができるモニター会員になるよう勧誘することは容易にできたことから、ビジネス会員制度は、モニター会員を激増させる要因となった。そして、ダンシングは、ビジネス会員に対して、モニター会員制度が成り立つ理由として、高額の広告費を支出するのに比べて、モニター料を支払って口コミで宣伝したほうが経費を抑えて宣伝効果もあること、ダンシングには、モニター料を支払うだけの資金があること、モニター会員の人数制限をしていること、モニター会員からビジネス会員に登録変更する者が多数いるから、二四か月にわたりモニター料を支払わなければならない人数は限られていること、ダンシングがこれで営業していることなどの説明をしており、この説明で納得したビジネス会員は、モニター商法に疑問を抱いた顧客に対して、同様の説明をしたり、モニター料が振り込まれている通帳を見せたりするなどして勧誘し、本件寝具の売買契約及びモニター会員契約を締結させた。なお、D原は、平成一〇年六月二八日以降に、信販会社からの電話確認の際、モニター会員が余計なことを言わないように連絡するようビジネス会員ら販売員を指導し、ビジネス会員らも、モニター会員に対して、信販会社からの確認のときは、聞かれたことだけに答えるよう言った。なお、本件原告のうち四名(B川五江、C原六江、D田七江、E野八江)を勧誘したビジネス会員であるD田九江は、モニター会員に対して、信販会社からの確認の電話があったときの対応について、特に指示しておらず、D野という男性も、同人から勧誘を受け、モニター会員となり、原告A野十江、同B田一美及び同C野二美をモニター会員に勧誘した原告B原三江も、信販会社からの電話確認に対する対応を指示していないが、原告D山三美を勧誘したB谷、原告E川四美を勧誘したA本五美は、返事だけ、「はい、そうです、と言えばいい」などと指示し、原告B沢六美を勧誘したE山は、そのほかに、余分なことを聞かなくていいと指示した。被告らから原告らに対して確認があった事項は、契約内容、クレジットの金額、名前、住所、生年月日、年齢、電話番号などであったが、モニター会員か否かなど売買契約のほかに付帯契約があるかなどの質問はなかった。
c モニター会員数についてのダンシングの対応
ダンシングは、当初モニター会員の募集を「今回一〇〇〇各限りです。」として、モニター会員の人数を限定するような広告をしていたが、平成一〇年五月ころには、すでにモニター会員は一〇〇〇名を超えていたにもかかわらず、ビジネス会員らに対して、モニター会員が定員に達したなどの説明をするなどして勧誘を制限することをしなかった。また、「ヴィヴァ・ヴィータ」(VOL3(九月一日発行)ないしVOL5(一一月一日発行))で、同年九月三〇日に第一次モニター募集を締切り、同年一〇月一日から第二次モニター募集を限定二〇〇〇名で実施すると告知したが、同年七月には、モニター会員数は二〇〇〇名を、同年八月には三〇〇〇名を、同年九月には四〇〇〇名を、同年一〇月には五〇〇〇名を超えていたのに対して、同月までにモニター会員からビジネス会員に変更をした会員は三四八名にとどまっており、モニター会員の限定は実態に即していないものであった。しかしながら、ダンシングは、後記ウのとおり平成一一年二月二〇日にモニター募集を締め切るまで、モニター会員の募集を制限する措置をとらなかったため、ビジネス会員の勧誘によるモニター会員の増加に拍車をかけた。
d モニター料支払の原資
ダンシングの主力商品は、本件寝具であり、モニター会員へのモニター料の支払やビジネス会員に対する手数料等の支払の原資は、本件寝具を購入した顧客から入る代金であったため、これらの支払を続けるためにダンシングは、本件寝具の販売を促進させざるを得なかった。
ウ モニター会員制度の維持
このようにダンシングは、モニター会員の増加に伴い、モニター料の支払が急増したため、平成一〇年一〇月ころ、モニター料の減額等の改正案を会員らに提示したが、すでにモニター会員を勧誘していたビジネス会員の強烈な反対を受け、改正するに至らなかった。
しかし、その後もモニター会員が増え続けたため、ダンシングは、「ヴィヴァ・ヴィータ(VOL8)」で、第二次モニター募集を平成一一年二月二〇日で締め切る旨通知したところ、同日までの駆け込みモニター会員が激増した。
エ テルメイト制度の導入
ダンシングは、平成一一年二月二〇日、モニター会員制度の廃止に伴い、以下のとおりの「テルメイト会員制度」を導入した。顧客は、現金又はカードで本件寝具を購入して会員となると、毎月三万五〇〇〇円の活動費を一年間にわたって受け取ることができる。会員にレポートの提出義務はなかったが、新規購入者を一名紹介するたびに、紹介手数料を受け取ることができたり、新規購入者が三名に達するとボーナスを手にすることができるのは、モニター会員制度と同様であった。これは、加盟店契約を締結していた被告らから、モニター会員制度について懸念を示され、契約の継続が難しかったために、信販利用をしない形でのモニター会員制度を継続することで顧客の獲得をねらったものといえる。
オ 被告ファインの支払留保
平成一一年二月ころ、被告ファインが本件寝具について立替払契約を締結した顧客に対して電話調査をしたところ、約八割がモニター会員であることが判明したことから、被告ファインは、同月一六日以降に承認番号を発行した一三八四件、総額五億四〇〇〇万円につき、同年三月一〇日ころ、商品発送済みのものも含めて、顧客らの会員資格、立替金の支払意思等について確認できるまで、ダンシングに対する精算金の支払を留保することとした。
しかし、ダンシングは、既存のモニター会員のみならず、被告ファインから支払を留保された件についても、同年三月、同年四月とモニター料等の支払をした。
カ いちご倶楽部制度の導入
(1)イのとおり、ダンシングは、平成一一年三月ころまでに信販会社との取引が終了したため、モニター料等の支払原資を獲得するために、「いちご倶楽部制度」を立ち上げ、同年四月一〇日から会員の募集を開始した。参加者は、登録費用二一〇〇円、年会費三一五〇円、広告チラシ購入費一万〇五〇〇円を支払い、新たな者を参加させると、子会員となり(一次会員)、子会員がダンシングに支払った広告チラシ購入代金の一〇パーセントである一〇〇〇円の紹介手数料が得られ、一次会員が新たな者を参加させると、一名あたり五〇〇円のロイヤリティが得られるが、四次会員で打ち切りとなるというものであり、約三九〇名が参加したが、モニター料支払資金を獲得するには至らなかった。
キ ダンシングの破産
前記のとおり、被告ファインから精算金の支払を留保された上、資金獲得のためのいちご倶楽部もモニター料の支払を確保できるほどの効果をあげることができなかったことから、ダンシングは、平成一一年五月二〇日に支払うべきモニター料として総額四億六〇〇〇万円の資金を準備できず、支払不能に陥り、営業を停止し、同月三一日に神戸地方裁判所姫路支部に自己破産を申し立て、同年六月三〇日、同支部から破産宣告を受けた。
(3) 被告ファインの精算金支払留保の処理
ダンシング破産管財人と被告ファインとは、原告B山松子及び同C川竹子を含む支払を留保した顧客(計一三五七件)について、取消処理をし、これらの者の被告ファインに対する分割払金支払債務は消滅した。
(4) 本件寝具の価格
兵庫県寝具技能会によれば、専門的知識を有する事項である、ウオール綿の効用、ステイヤーEわたの効用、効果、枕については、マグネットの効用、効果については触れず、ステイヤーズという特殊繊維を使って生産された商品の販売価格ではなく、本件寝具に縫いつけられた品質表示欄記載のとおりの製品であることを前提として、一級技能士が注文を受けて製作するものとして精算した価格が、シングルサイズで二万九七四〇円から四万四八六〇円、ダブルサイズで四万二八〇五円から六万四四七〇円であるとしている。
一方、ダンシングの仕入先であるE田社は、二〇〇一年一二月五日段階において、ステイヤーズを使用した本件寝具と同様のシングルサイズの布団セットを定価二九万八〇〇〇円(税込)(インターネット価格二四万八〇〇〇円)、ダブルサイズのセットを定価三八万八〇〇〇円(税込)(インターネット価格三三万八〇〇〇円)で販売している。
なお、ステイヤーズという特殊繊維を使用していないが、遠赤外線効果や磁気効果があるなどと宣伝している他社の布団セットは、シングルサイズを四〇万円以上、ダブルサイズを五〇万円以上の価格で販売している。
(5) 被告らのダンシングの加盟店調査管理状況
ア 被告クオークについて
被告クオークがダンシングと加盟店契約を締結した平成九年三月二八日時点では、ダンシングはモニター会員制度を採用していなかった。
ところが、平成九年一一月まで一桁であったダンシングの取扱件数が、同年一二月に四四件、平成一〇年一月に五四件、同年二月に一〇六件と急増したことから、ダンシングがシステム販売をしているのではないかと疑問を持った被告クオーク神戸支店営業課長A山一郎(以下「A山」という。)は、同年二月一八日、D原と面談した。すると、D原は、「訪問販売を行っていたが業績が伸びず、紹介販売に切り替えたところ、売上げが伸びた。顧客が布団を購入してモニター会員となり、購入者を一人紹介すれば、紹介料として三万五〇〇〇円を支給し、一〇人を紹介すると、一〇人分の紹介料三五万円に加えて、ボーナスとして四九万円を支給する。モニターとは単に会員のことであり、一代限りの紹介販売で横の繋がりだけなので、マルチまがいの商法とは違う。モニター会員数は二〇〇人である。」などと説明した。そこで、A山は、モニター会員に渡している書類があれば提出するよう要請したが、D原は、売買契約書も会員に関する書類は作成しておらず、作成する準備をしていると説明した。A山は、D原の説明を聞いて、ダンシングがシステム販売をしていないと理解し、それ以上何らの調査も行わなかった。
その後、取扱件数は平穏に推移していたが、同年六月末ころより、ダンシングの取扱件数が再び急増したことから、再度調査することになり、A山は、D原の了解を得て、同年七月九日、ダンシングの研修会に参加したが、そこでは、モニター会員制度やビジネス会員制度についてなんら把握することはできなかった。
同年七月一四日、被告クオーク本社のお客様相談室に、匿名の電話で、「チラシのポスティングと簡単なアンケートに答えると、毎月三万五〇〇〇円がもらえると聞いたが、本当か。ダンシングが倒産しても、クレジット代金を信販会社の方で払ってくれるのか。ビジネス会員は、勧誘した顧客の七代目までの報奨金をもらえると聞いた。」などと問い合わせがあった。そこで、A山が、同月一六日、D原と面談し、ダンシングの販売方法について確認すると、D原は、「布団の販売代金以上のモニター料を支払えば、会社が破綻する。」と言ってモニター会員制度については否定したものの、ビジネス会員制度は認めた。
そのため、被告クオークは、システム販売(連鎖販売取引)にかかる立替払契約の締結をしない方針であったことから、ビジネス会員制度がシステム販売であるとして、D原に対して、ダンシングとの取引を中止する旨伝えたが、D原が取引の継続を強く要請したことや、既にダンシングに渡していた立替払契約書がビジネス会員らに渡っており、回収が困難であることなどの理由から、ダンシングとの取引を直ちに終了させることをしなかった。
イ 被告オリコについて
平成一〇年二月下旬、E田社から、被告オリコに対し、ダンシングをE田社の販売代理店として、E田社との加盟店契約に基づいて、被告オリコの立替払契約を利用したいと申し出があったため、被告オリコは、同年三月から受付を始めたところ、E田社から、ダンシングのクレジット申込み事務処理の負担が増大してきたことを理由に、ダンシングが直接被告オリコにクレジット申込みができるようにしてもらいたいと要請があった。そこで、被告オリコの営業担当者は、E田社の窓口担当とともに、同年四月三日、ダンシング本社を訪れ、D原と面談した。その際、D原は、「テルマールの直接販売、訪問販売のほかに紹介販売をしている。紹介者が顧客を一名紹介する毎に二万円、一〇名紹介するとボーナスを加えて五〇万円の紹介料を支払っている。」などと説明したので、被告オリコは、連鎖販売取引にかかる立替払契約の締結はしない方針であるとして、ダンシングの行っている販売方法が連鎖販売取引か否か確認したところ、D原は、紹介料は組織販売になるようなコミッションではないとしてこれを否定し、さらに、親番加盟店(将来ダンシングが負担する一切の債務について連帯保証)となるE田社のC山社長も否定した。
被告オリコは、D原の言葉を信用したが、当面は動向を見守る必要があると判断し、直接契約に切り替えてほしいという要請ではあったが、E田社を親番加盟店とし、ダンシングを子番加盟店とする、クレジット利用契約を締結した。このとき、被告オリコは、ダンシングから商品パンフレットは受け取ったが、紹介料については口頭で説明しているだけで書面はないということであったので、これに関する資料は受け取ることができなかった。なお、被告オリコは、ダンシングが作成している売買契約書の提出は求めておらず、D原が新たな営業体制をとって間もないなどと説明して決算書の提出も拒んだことから、決算書は受け取ることができなかった。
ところが、ダンシングの取扱件数は、取引開始以降、月間一五〇件内外と高い水準であったため、被告オリコは、ダンシングの販売方法が紹介販売から連鎖販売のようなものに変わったのではないかとの懸念を持ち、E田社及びダンシングについて、加盟店調査を行うこととし、同年七月中旬、被告オリコ大阪北支店長C林二郎(以下「C林」という。)は、E田社社長C山とともに、ダンシングを訪問した。そこで、D原は、「紹介手数料を支払うのは、布団を購入した会員が顧客を直接紹介した場合だけである。モニター会員は、継続的な販売活動は行わないが、チラシを配ったり、体感レポートを提出し、布団の効果等について口コミやチラシで広めて、顧客をダンシングに紹介すると、紹介手数料を受領できる。紹介手数料額は、購入者一名で商品代金の三パーセント、三名で同一五パーセント、六名で同三〇パーセントである。ビジネス会員は、紹介販売を継続的に行っており、購入者一名紹介し、契約を締結することで商品代金の八パーセント、三名で同五〇パーセント、六名で同一〇〇パーセントの紹介手数料を受領できる。」と説明し、E田社のC山社長も連鎖販売を否定した。この説明により、被告オリコは、ダンシングの販売方法に問題がないと判断した。
その後、ダンシングの取扱件数が増加していったが、被告オリコは、加盟店調査を行わなかった。
同年一〇月中旬ころ、顧客から、被告オリコのお客様相談室に、「ダンシングから布団を購入してモニター会員になると、月三万五〇〇〇円のモニター料を二四か月にわたってもらえるというが、もらって大丈夫か。」との問い合わせがあり、上記D原の説明と異なっていたことから、C林がD原に対し、モニター会員制度等について聴取したところ、D原は、ビジネス会員制度は、連鎖販売取引類似の制度であるが、組織化されておらず、また、モニター会員は、全体の一、二割程度であり、今後順次ビジネス会員に切り替えていき、来年度にはモニター会員制度は撤廃する旨説明した。そして、C林が会員制度の概要を記載した書面の提出を求めたが、D原は、説明会などを通じて口頭で説明しているだけで書面は作成していないとして提出を断った。
被告オリコは、上記顧客から、同年一一月上旬、モニター会員及びビジネス会員の制度の概要を記載した「ニュービジネス」という書面の郵送を受けたことにより、ダンシングの販売方法を知ったが、モニター会員が全体の一、二割程度であるというD原の説明を信じた。それは、モニター会員が大半であり、布団購入者がモニター会員かビジネス会員かのいずれかであったとするならば、いずれダンシングが破綻に至ることが明らかであり、利益獲得のための営利法人としての常識に反するような商売をするとは思いつかなかったからである。
C林は、同年一一月中旬、D原に対し、一定の猶予期間をもって、ビジネス会員制度を中止し、販売代理店として契約を転換すること、今後はモニター会員契約にかかる立替払契約は受け付けない旨申し入れた。これに対して、D原は、改善するが、ビジネス会員制度の変更等に時間を要するなどとして、平成一一年三月まで猶予を求めたため、C林もこれを承諾した。ところが、その後もダンシングの販売方法が改善されたことの確認がとれなかったため、同年一月中旬、E田社に対し、同年二月末をもって、ダンシングの顧客が被告オリコのクレジットを利用することを終了する旨通告した。もっとも、原告E海七美の契約については同年三月二日になされている。
ウ 被告ファインについて
被告ファインの本社第二営業部主任A沢三郎(以下「A沢」という。)は、新規顧客の開拓のため、平成一〇年八月二一日、ダンシング東京営業所を訪れ、B野秋夫東京営業所長(以下「B野所長」という。)と面談し、ダンシングが連鎖販売取引の方法により布団を販売している旨の説明を受けた。A沢は、同年九月一七日、再びダンシング東京営業所を訪れ、B野所長から、モニター会員制度やビジネス会員制度に関する記載のある概要書面と登録申請書、会社案内を受領しており、モニター会員制度、ビジネス会員制度の概要を理解していた。A沢は、同月三〇日、ダンシング東京営業所を訪れ、B野所長にモニター会員について説明を求めたところ、「モニター会員はダンシングの商品の研究・開発や、広告宣伝を行っており、全顧客のうちのごく一部である。短期間にモニター会員がビジネス会員に移行する。」などと説明を受けた。そのため、A沢は、ダンシングが行っている連鎖販売取引は適法であり、モニター会員も布団購入者の一、二パーセントにすぎないものと考え、その旨報告をして、これを受けた被告ファインは、同年一〇月一〇日付けで、ダンシングとの間で加盟店契約を締結した(なお、被告ファイン取締役で、第二営業部部長B林四郎(以下「B林」という。)は、A沢からの報告を受けて、まれに例外はあるものの、基本的にはモニター会員やビジネス会員ではない愛用者が被告ファインのクレジットの対象になる、と理解していた。
そして、被告ファインにおけるダンシングの取扱件数は、同年一一月から、四五五件、九六七件、一〇四八件、一八四一件と急激に増加していったが、A沢は、同年一〇月一六日に、ダンシング本社で、D原から、ダンシングの寝具の売上げが伸びており、全国に営業所の展開を進めているので、被告ファインとの取引も増加すると説明を受けていたこと、ダンシングの顧客からクレームが全くなく、立替金の支払も滞りなくなされていることから、異常な増加ではなく、ダンシングの販売方法に問題があるわけではないと考えていた。
ところが、平成一一年二月一日、被告ファインに、「チラシ配布等のモニター活動を行えば、毎月三万五〇〇〇円のモニター料が支払われるということであり、信販会社がクレジット代金の支払について保険をかけているので、仮にダンシングが倒産しても安全、安心であるというが、本当か。」という匿名の電話があったため、B林は、ダンシングの説明とは異なることから、A沢に対して、ダンシングに確認するよう指示した。そこで、A沢がダンシング総務部長に電話して確認すると、「モニター制度に関する電話内容は真実であるが、信販会社がクレジット代金の支払について保険をかけているなどというセールストークはしていない。販売員への指導を徹底する。」と答えた。しかし、ダンシング顧客の取扱件数が急増していることなどから、この説明では納得し得なかったB林は、同年二月一三日、A沢とともにダンシング本社を訪れ、D原及び総務部長と面談して、ダンシングのモニター会員数、モニター料の支払をどのようにしていくのかなどを尋ねた。すると、D原は、「会員数が一万三〇〇〇人で、そのうちモニター会員が五〇〇〇人である。大半のモニター会員が二、三か月でビジネス会員に移行するので、モニター料の支払は二か月、長くても三か月である。」と答え、モニター会員はごく一部であるという当初の説明と異なっていたことから、B林は、D原に対し、会員名簿等の提出を求めたが、D原がこれを拒否した。
そのため、被告ファインは、同月一六日、立替払契約を申込んだ二〇人に電話でモニター会員か否か確認したところ、全員がモニター会員であることが判明した。その後、同様に申込者二七〇人から二八〇人に対して確認したところ、約八割がモニター会員であることが判明した。
そこで、被告ファインは、同月一七日、D原に対し、同月二〇日締め分以降の精算金の支払を留保する旨電話で伝え、同年三月一〇日付け書面で、ダンシングに対し、販売方法に関する懸念が解消するまでの間、ダンシングに対する精算金の支払を留保する旨通知した。
三 争点
本件の争点は、①原告らとダンシングとの間でなされた本件寝具の売買契約とモニター会員契約の不可分一体性及びこれらの契約が公序良俗違反又は錯誤により無効もしくは詐欺により取り消されて消滅するか(争点一)②①により、原告らとダンシングとの間のこれらの契約が消滅した場合、これを前提とした原告らと被告らとの間の立替払契約も当然に無効となるか(争点二)、③①により、原告らとダンシングとの間のこれらの契約が消滅した場合に、原告らが被告らに対して割賦販売法三〇条の四の規定による支払を拒絶することの可否(原告らの事情、被告らの事情(加盟店調査管理責任))(争点三)、④原告らの被告らに対する既払金の不当利得返還請求、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求の可否(争点四)、⑤原告らが立替金支払義務を負う場合の支払うべき立替金支払債務の額(争点五)、⑥被告らが債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務を負う場合の支払うべき損害賠償債務の額(争点六)である。
(1) 争点一
ア 原告らとダンシングとの間でなされた本件寝具の売買契約とモニター会員契約の不可分一体性
(原告らの主張)
本件寝具を購入してモニター会員となり、体験レポートを提出することにより、本件寝具購入代金を合計で上回るモニター料を受領することができるモニター会員契約は、ダンシング所定の契約書の形式からも、実質からも本件寝具の売買契約に付帯して締結されるようになっていたものであり(甲九の一ないし四)、売買代金を上回るモニター料を受領できることが布団購入の重要な要素となっていたものであるから、売買契約とモニター会員契約とは不可分一体の関係にあったものである。
(被告オリコの主張)
原告らとダンシングとの間で締結されたのは、本件寝具の売買契約とモニター会員契約の二個であり、本件寝具自体は既に引き渡され、売買契約上の債務の履行は完了しているから、売買契約に瑕疵はない。したがって、モニター会員契約上の事由をもって売買契約の無効・取消を主張することはできない。
仮に、モニター料を受け取るためには、本件寝具を購入することが前提であったにしても、本件寝具を購入するためには、モニター会員契約を締結する必要はなかったのであるから、契約は別個独立の契約であることは明らかであるし、原告らの動機がモニター料取得のためであり、本件寝具の購入がそのための手段であったとして一個の契約であると考えていたとしても、それは契約を締結する意思形成段階の問題にすぎず、契約の成立要件である契約意思そのものではないし、相手方であるダンシングの意思についてなんら明らかにされておらず、主観面でも契約が一個であるとは認められない。
イ 売買契約ないしモニター会員契約の公序良俗違反
(原告らの主張)
原告らとダンシングとの間でなされた売買契約は暴利行為であり、また、モニター会員契約は、破綻必至のマルチ類似商法であって、これらの契約は、以下のとおり公序良俗に反して無効である。
a 本件寝具は、シングルサイズで三万五六〇〇円ないし五万二二〇〇円、ダブルサイズで四万八九〇〇円ないし七万四七〇〇円程度の価値しかなく(兵庫県寝具技能士会の調査結果)、ダンシングがE田社から仕入れた価格もシングルサイズ五万円、ダブルサイズ七万円であったのに、通常の布団にはない特殊な効能が存在するかのように宣伝し、三六万円と四六万円という不当に高額な代金で販売していたもので、暴利行為である。
b 本件寝具販売代金を上回る合計八四万円のモニター料を原告らに対して支払わなければならなかったダンシングの負担とモニター料を受け取るために原告らが負っていたモニター会員としての業務の負担とは見合うものではなかったのであるから、モニター会員制度は、ダンシングが損をする契約であり、モニター会員が増加していけばいくほど、ダンシングの損失も増加していくという性格のものであった。
c そして、ダンシングは、当初、一〇〇〇人に限定してモニター会員を募集しているとして勧誘していたのに、平成一〇年五月には、すでにモニター会員数は一〇〇〇人を超え、同年七月ころには、二〇〇〇人の限度枠をも超過するに至ったにもかかわらず、モニター会員数を抑制するなどの措置を講じることなく、その後もモニター会員の募集を続けた。
d D原は、同年六月ころ、ダンシング専務取締役A田夏夫や営業統括本部長C谷五郎から、「このままでは月次のモニター料の支払が収入を上回り、破綻に陥る。」旨の報告を受けており、遅くとも同月ころには、モニター商法が破綻必至の取引であることを認識していた。
e その上、ダンシングは、モニター商法を連鎖販売取引であるビジネス会員制度と結合させて、更に発展、拡大させ、加速度的に破綻への道をたどり、多数の顧客に損失を被らせたものであり、破綻不可避の商法は、自由取引の枠組みを超える反社会的な性格を有するものであって、また、ビジネス会員制度と結合することによって、無限連鎖講の防止に関する法律一条の「終局において破綻すべき性質のものであるにかかわらずいたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分のものに経済的な損失を与えるに至るもの」とほぼ同視できるものであって、この点からも社会生活上許されない違法な取引である。
f さらに、ダンシングは、破綻必至であるモニター商法の実態を覆い隠し、モニター料の支払が受けられないおそれがあることを隠蔽して、組織的かつ巧妙な勧誘方法をもって、原告らの軽率さや善良さにつけ込み、売買契約ないしモニター会員契約を締結させたものであって、この点において欺瞞的であり、独占禁止法二条九項に基づく公正取引委員会告示一五号にいう不公正な取引方法の八項(欺瞞的顧客取引)、九項(不当な利益による顧客誘引)にあたり、公正な取引秩序を害するのみならず、「連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、故意に事実を告げない行為」にも該当し、特定商取引法三四条一項五号(名称変更前の訪問販売等に関する法律一二条一項五号)の立法趣旨にも抵触する詐欺的商法にあたる。
(被告クオークの主張)
a モニター商法も、口コミによる宣伝効果で布団が売れるようになれば、既に当事者となっているもの以外の者を関係に引き込まなくとも、既存加入者の利益配当を確保することが可能だったのであり、原理的に拡張し続けなければならないという必然性はなく、構造自体が必然的に破綻を招くような性質を有していたわけではない。また、本件寝具の販売が末端購入者から利益を吸い上げるための道具にすぎないわけでもなく、無限連鎖講等とその悪性の中核部分を共有していないから、破綻必至性をもって公序良俗違反とすることはできない。
b マルチ類似商法は、ビジネス会員についてであって、モニター会員である原告らについて、公序良俗違反を基礎付ける理由とはならない。
(被告オリコの主張)
a 販売促進のためにモニターを募集すること自体は、特に問題とされるものではなく、売上数量とモニター会員数との関連に留意しつつ経営することによって利益を挙げることが可能であるから、モニター会員契約自体が破綻必至とはいえないし、ダンシングのモニター会員契約においても、口コミによる宣伝効果で商品が売れるようになれば、モニター会員を募集しなくても、モニター料を確保することは可能だったのであるから、原理的に拡張し続けなければならない必然性もなかったものである。また、これまで破綻必至と認定されてきたマルチ商法と異なり、原告らは、他者を勧誘するか否かにかかわらずモニター料を受け取ることができるのであって、他者の勧誘は、モニター料支払の前提とされていないのであり、この点でもシステムとして破綻必至の構造とはなっていない。そして、ダンシングが破綻したのは、被告ファインが立替払いを留保したことにより資金不足に陥ったことに原因があるのであるから、ダンシングのモニター商法自体が必然的に破綻を招くような性質を有していたものではなく、公序良俗に反するとはいえない。
b 本件寝具は、大東繊維株式会社の特許により、富士紡績株式会社で製品化した特殊繊維「ステイヤーズ」を利用した商品であり、卸元であるE田社がインターネット通販で販売しているステイヤーズ布団の価格は、シングル二四万八〇〇〇円、ダブル三三万八〇〇〇円であり、他社では、特殊繊維を利用したものでない布団ですら三〇万円以上の価格で販売されている上、原告らが本件寝具を賞賛していることからすると、暴利行為であると評価すことはできない。
(被告ファインの主張)
a ダンシングには、本件寝具の純粋な愛用者もいたのであり、ダンシングが破産したことから直ちにモニター商法が構造的に破綻必至であったとはいえない。
b 本件寝具の仕入価格と販売価格との間に格差があったとしても、必要経費等の価格決定の事情を考慮しなければならず、格差があることから暴利であるとはいえないし、また、ダンシングと同様の販売店の販売価格を比較しても暴利とはいえない。そして、兵庫県寝具技能士会の調査は、本件寝具の特殊素材性を捨象した評価をしており、適正な価格ではないから、これを前提に暴利性を判断することはできない。さらに、原告ら本人尋問において供述した原告らは、一様に本件寝具の品質を賞賛しているのであって、価値がなかったとは主観的な面からも認められない。
c 連鎖販売取引自体は違法なものではなく、マルチ販売が直ちに公序良俗に反するものではないし、原告らは、全員モニター会員であって、販売には関与していないというのであるから、マルチ商法の問題は原告らには妥当しない。
ウ 売買契約ないしモニター会員契約の錯誤無効
(原告らの主張)
a ダンシングが破綻必至であり、モニター料が支払われなくなる蓋然性が高い契約であるにもかかわらず、これが確実に支払われると信じて本件モニター会員契約を締結したものであるから、同契約には要素の錯誤がある。
b 本件寝具の売買契約とモニター会員契約が別個の契約であり、本件寝具の売買契約自体に錯誤が認められないとしても、モニター料の支払を受けることが契約の動機であったものであり、売買契約の締結がモニター会員契約の条件となっていたこと、両者は同時に締結されていることからすると、その動機は、明示又は黙示に売買契約の意思表示の内容とされていた。
c 上記のとおり破綻必至のモニター会員契約であることを知っていたならば、売買契約を締結しないことは明らかであったのであるから、破綻必至であることを知りながらこれらの契約を締結したダンシングは、原告らが錯誤に陥っていることについて悪意であったといえるから、原告らに民法九五条ただし書の適用はない。
(被告オリコの主張)
a ダンシングのモニター商法自体が必然的に破綻する構造を有していたわけではなく、モニター会員契約が経済的に成り立ちうるものであったのであるから、モニター料が支払われるものと信じたとしても、客観的事実を誤信していたことにはならない。
b したがって、モニター料を受け取ることが売買契約の動機となっていたとしても、動機の錯誤も成立しないし、本件寝具の効能自体から購入を決めた者も存在するはずであるから、モニター料の受取りのみが動機であったものでもない。
c 原告らは、一旦はダンシングとの取引に不安を感じながらも、紹介者との個人的な関係から、同人らが「責任を持つ」などと約束したために、ダンシングとの売買契約ないしモニター会員契約を決断したものであり、モニター料がモニター会員契約どおりに支払われると信じたから売買契約ないしモニター会員契約を締結したとは認められず、原告らには錯誤はない。
d ダンシングのモニター商法が破綻必至のものであり、モニター料を受け取ることができないものが発生することが明らかであったとすれば、原告らも当然これを認識し得たはずであるから、原告らには錯誤に陥ったことに重大な過失がある。
(被告ファインの主張)
a 原告らがモニター会員契約を締結した当時、ダンシングの商法が破綻必至であったものではないから、錯誤の前提を欠いている。
b 本件寝具の売買契約を締結した者が当然にモニター会員契約を締結するわけでもなく、売買契約の履行は完了しているのであるから、売買契約自体に錯誤はない。
c 売買契約を締結した動機がモニター料の支払を受けられるものであったとしても、原告らは、ダンシングが将来債務を不履行するかもしれないということを予想しなかったにすぎないのであって、動機の錯誤に当たらない。
d 原告らは、売買契約の代金がモニター料の配当原資になることを容認した上、自らがモニター会員であることを隠して、単純な本件寝具の売買契約として立替払いを委託したのであるから、モニター料の支払原資を新規販売に頼っていることを知りながら、ダンシングが絶対に倒産しないと信じていたとするならば、その信じたことに重過失がある。
エ 売買契約ないしモニター会員契約の詐欺取消
(原告らの主張)
ダンシングは、破綻必至である契約であることを隠して売買契約ないしモニター会員契約を勧誘したものであり、これによって原告らは錯誤に陥って売買契約ないしモニター会員契約を締結したものである。
原告らは、被告らに対して、売買契約ないしモニター会員契約の詐欺による取消の意思表示をしている。
(被告オリコの主張)
ダンシングのモニター商法が破綻必至であったとはいえないのであるから、ダンシングには、原告らを欺罔して錯誤に陥れて契約を締結させようとする故意があったとはいえず、詐欺は成立しない。また、原告らは、取消しの事実についてなんら主張立証していない。
(被告ファインの主張)
ダンシングのモニター商法が破綻必至であったものでもなく、ダンシングは、モニター会員制度の改定、廃止を検討していた事実があり、当初から破綻を予定した商法であったものでもないから、欺罔行為も故意もない。
(2) 争点二(売買契約と立替払契約の一体性)
(原告らの主張)
ア 経済的一体性
信販会社は、手数料の取得、販売会社は、代金の即時一括受領という双方の経済的利益を追求するためにクレジット制度を創設し、両者は結びついているのであるから、両者は実質上経済的に一体の結合関係にある。
イ 法的一体性
個品割賦購入あっせん契約の法律関係は、販売業者と消費者間では売買契約、割賦購入あっせん業者(信販会社)と消費者では売買代金を消費者に代わって支払う立替払契約、信販会社と販売業者では加盟店契約の三者契約で成り立っているものであり、売買契約と立替払契約は、法的構造において密接に関係し依存しているものであって、特定の商品の販売を目的として立替払契約による信用が与えられ、与信は特定の商品の売買目的遂行以外のためには使用できないという関係にあるから、売買契約と立替払契約は目的拘束的な依存関係にあるから、一体の結合関係にある。
ウ 被告らの悪意又は重過失
そして、平成四年五月に通産省より、特殊な誘因方法等により商品を販売する加盟店については特に審査を強化し、継続的に徹底した管理を行うよう指導されていたこと、株式会社アプラスが平成九年九月まで、ゼネラル・エレクトリック・キャピタル・コンシューマー・ファイナンス株式会社が同年一二月までで取引を打ち切っているのは、ダンシングの商法の違法性に気付いていたものと推測されることも考えると、被告らは、ダンシングの破綻必至の契約の違法性について把握していたか、把握できる状態にあったといわざるを得ず、ダンシングの商法が公序良俗に反するものであることについて、悪意又は重大な過失があった。
エ 売買契約と立替払契約の牽連性
このように経済面でも法律面でも一体のものとして結合している関係の下では、消費者が販売業者に対して主張しうる事由については、信販会社に対しても主張できるのは当然であるが、さらに、信販会社との与信契約は、一定の有効な供給契約の成立を前提としているから、供給契約が不成立ないし効力がなくなった場合には、与信契約の前提が欠けることになり、立替払契約も消滅するというべきであり、また、被告らは、ダンシングの商法が公序良俗に反することを知っていたか、又は知らなかったことについて重大な過失があるのであるから、この点からも売買契約と立替払契約の牽連性を認めるべきである。
(被告オリコの主張)
ア 原告らとダンシングとの間の契約と原告らと被告オリコとの間の立替払契約は、契約の主体、目的及び内容を異にする別個独立の契約であって、売買契約の消滅によって立替払契約が消滅するものではない。
イ 割賦販売法三〇条の四の規定に基づく抗弁の主張は、消費者保護という観点から債権関係を相対的に定める私法上の原則の例外として、新設された創設的規定であり、購入者と販売業者間、購入者と割賦購入あっせん業者間の契約関係が法的に別個であることを前提としているものであって、あくまで支払停止の抗弁権の主張ができるのみであって、立替払契約の無効を導くものではない。
(3) 争点三(支払停止の抗弁に対する信義則違反の再抗弁)
(原告らの主張)
ア 信販会社の監督官庁である経済産業省(旧通商産業省)は、通達により、信販会社の加盟店の審査、管理を徹底し、消費者トラブルの防止に特に配慮する必要があると指導していたものであり、加盟店に関する情報や取引に関する知識が乏しく信販会社との間にも情報、交渉力の著しい格差がある消費者に対し、信販会社は、与信取引により利益をあげているのであるから、契約締結に際しては、信義則上、消費者に対して加盟店調査管理責任を十分果たし、消費者に損害を与えることのないクレジットを提供する義務を負っている。しかしながら、信販会社は、加盟店が倒産しようが、悪徳商法を行おうが、立替金支払債務を負う消費者から返済がなされる限りなんら損害を被らないことから、形だけの審査しか行っておらず、上記のとおりの指導がありながら、加盟店調査管理義務を怠ったものである。
イ 加盟店調査管理責任
a 加盟店契約締結の際の販売業者調査
信販会社は、販売業者との加盟店契約を締結する際、販売業者が取り扱う商品及びそれに付随する役務、商品の販売方法、業務内容を調査し、その経営状況を十分把握し、消費者に損害を生じさせる販売業者でないことを確認しなければならず、その結果、商品又は役務の提供を適正かつ円滑に行うことのできない販売業者又は倒産の恐れのある販売業者であることが判明すれば、加盟店契約を締結すべきではない。
b 加盟店契約締結後の加盟店管理
信販会社は、加盟店契約締結後、加盟店の信用状態を継続的に把握するとともに、加盟店が取り扱っている商品及び役務の内容並びに行っている販売方法を十分に把握する義務を負い、消費者に損害を及ぼす事実が判明した場合には、加盟店を指導し、改善が見られない場合には加盟店契約を解除すべき義務があるのであって、管理義務を尽くした結果、消費者に損害を生じさせるおそれがある場合、クレジットを提供しない、立替払いをしない義務がある。
ウ 被告クオークの加盟店調査管理責任
A山は、平成一〇年二月ころ、ダンシングの取扱量が急増したので、異常値管理として同年二月一八日、D原と面談した際、紹介販売をしているが、一代限りでマルチではないと説明を受けており、モニター制度については知らず、その際、登録申請書、概要書面等は取得していないなどというが、これは、加盟店契約締結後の販売業者の販売方法を把握する義務を怠ったものである。
エ 被告オリコの加盟店調査管理責任
被告オリコも、すでにモニター会員制度、ビジネス会員制度があったダンシングとの加盟店契約を締結した際、C林が、紹介販売と聞き、連鎖販売取引ではないかとD原などから事情聴取をしたが、これを否定したために契約をしたというが、概要書面、登録申請書をいずれも取得していないし、契約書の交付も求めていない上、原告らとの契約締結の際に、モニター会員か否かの確認もしていないというのであるから、加盟店契約締結の際の加盟店調査義務を果たしていない。
オ 被告ファインの加盟店調査管理責任
被告ファインがダンシングと加盟店契約を締結した際、すでにモニター会員制度、ビジネス会員制度があり、被告ファインは、契約締結の際、概要書面(甲一六の一、二)、登録申請書(甲九の一ないし四)、パンフレット類を取得しており、ダンシングの販売方法の内容を知っていたのであるから、原告らとの契約締結の際に、モニター会員か否かを確認しさえすれば、容易にダンシングの販売方法を把握できたのに、これをしなかった。
カ 支払拒絶の抗弁
a 売買契約の消滅に基づく抗弁
原告らは、売買契約が公序良俗違反による無効、錯誤による無効又は詐欺取消しを理由として、割賦販売法三〇条の四第一項の支払拒絶の抗弁を主張する。
なお、原告らは、ダンシング及びビジネス会員らの巧みな勧誘によって、破綻にいたることなど考えることなく、モニター商法に引き込まれた被害者であって、被告らと接触したのは契約確認の電話のみであったという事情及び前記のとおりの被告らの加盟店調査管理状況を考慮すれば、原告らが抗弁を主張することが信義則に反するという事情は認められない。
b 原告らのダンシングに対する不法行為に基づく損害賠償請求権との相殺
ダンシングの販売方法は公序良俗に反し違法であり、原告らに対する不法行為が成立するので、原告らが被告らに対して負担する立替払金支払債務相当額の損害賠償請求権を有している。したがって、不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権として、被告らに対し、相殺をもって支払拒絶の抗弁を主張する。
(被告クオークの主張)
ア 原告らの抗弁主張について
購入者は、売買契約上の抗弁を常に割賦販売法三〇条の四により割賦購入あっせん業者に対抗することができるわけではなく、支払拒絶の抗弁を主張することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には抗弁は切断されるのであるところ、原告らは、自らは何らの出捐もせず、ほぼ何らの労務の提供もすることなく、月三万五〇〇〇円の副収入を得るために、その情を知らない被告クオークと立替払契約を締結し、被告クオークに立替金を出捐させたものであって、その実質は、原告がダンシングに有償で名義貸しをしたにほかならないものであって、原告は被告クオークの出捐において不労所得を得ようとしたものであり、上記特段の事情があるから、原告が支払拒絶の抗弁を主張することは許されない。
イ 加盟店調査管理責任について
被告クオークは、ダンシングの契約件数が急増した時期に、マルチ類似商法の疑問を抱き、D原に事情聴取をしたところ、販売方法の変更をしただけで、マルチ類似商法などしていないと否定されたものであるし、その後も疑問を持った際に事情を問い質したにもかかわらず、モニター商法については確認することができなかったものであって、被告クオークがモニター商法を知ったのはダンシングが破綻してからである。そして、企業がモニターを募集して営業を行うことは、宣伝目的でなされている限りは、合理的な商法であるのであるから、これを怪しんで調査する義務はない。また、ほぼすべての顧客をモニター会員にしていて初めて、調査すべき義務が生じうるが、通常、営利企業がこのような自滅的な商法をするとは考えがたいのであるから、消費者からのクレームもなかった被告クオークには調査の端緒すらなかった。したがって、被告クオークは、ダンシングの行っていたモニター商法の実質を知らなかったし、知らなかったことについて無過失であるから、加盟店調査管理責任に反する事情はない。
(被告オリコの主張)
ア 原告らの抗弁主張について
a 原告らは、受け取ったモニター料の中から立替払金を支払ったものであり、その差額を利得した上、本件寝具も取得していながら、立替払金債務の不存在を主張しているばかりか、既払金の返還まで求めており、これが認められれば、原告らは何らの負担もなくモニター料と本件寝具を利得するという著しく不当な結果を招くことになる、すなわち、被告オリコの出捐において原告らは不労所得を得ることになるから、このような結論は信義則上認められない。
b 原告らは、「信販利用」「カード利用」「現金払い」という三種類の選択肢の中から、自らの責任で被告オリコとの間の立替払契約を選択したのであって、返済資金の目処が外れたというにすぎない事情から、立替払金の返済を拒むことは認められるべきではない。
c また、原告らは、知人から勧誘を受けており、情報も入手しやすかったのに対して、モニター料を得るという目的を秘して被告オリコと契約を締結したものであって、被告オリコは、原告らとダンシングにより情報を遮断されていたのであるから、情報収集能力の差異という観点から消費者を保護すべき事情は認められない。
d 原告らがモニター料を受け取ることに主たる目的があり、本件寝具を購入する意思がなかったとするならば、購入意思のない本件寝具を購入するためと偽って、また、割賦金の返済も自らするつもりはなく、モニター料が支払われる限りにおいて、その中から支払うという意思であったのに、これを秘して、自ら割賦金を支払うがごとく振る舞って、立替払契約を申し込んだものであるから、信販制度を悪用する意図を有していたというべきであって、背信性が顕著である。
e したがって、原告らが、割賦販売法三〇条の四の抗弁を主張することは、信義則上許されない。
イ 加盟店調査管理責任について
a 債権関係の相対的効力の原則からすれば、立替払契約の当事者でない加盟店に対する被告オリコの義務違反が、原告らと被告オリコとの間の契約関係に影響することはなく、立替払契約上の善管注意義務の内容として加盟店調査管理義務は発生しない。
b また、原告らが主張する加盟店調査管理責任の根拠としての通達は行政上のものであり、私法上の義務を発生させるものではない。
c 準委任契約の法的性質をもつ立替払契約の債務の本旨は、善良な管理者の注意をもって購入者が加盟店に対して負担した売買代金を信販会社が加盟店に支払うことに尽きており、被告オリコは、これを履行している。そして、売買契約においても目的物は引き渡されており、これ以上加盟店を調査する義務が発生する余地はない。したがって、加盟店の信用調査、顧客への説明が準委任契約に基づく善管注意義務の内容として発生することはない。
(被告ファインの主張)
ア 原告らの支払拒絶の抗弁の主張について
割賦販売法三〇条の四の規定は、購入者が販売業者に対し、商品自体や履行に関して主張しうる事由を抗弁事由として予定しているものであるところ、原告らがダンシングと締結した契約は、①本件寝具の売買契約と②モニター会員契約の二個であり、被告ファインが原告らの委託に基づき立替払いしたのは、①の売買契約代金であって、モニター会員契約を契約内容又は特約としたものではないし、また、原告らからの立替払いの申込みの際モニター会員であることも告知されていないこと、①の債務の履行は完了していることなどからすると、売買契約とは別個独立のモニター会員契約の無効が当然に抗弁事由になるものではない。
原告らは、「(株)ダンシングが主催するプランは、お客さまの商品代金のお支払義務を保証するものではありませんので、予めご了承ください。」と、モニター料の不払いを理由に立替金の支払を拒否できない旨明記されたダンシング所定の「登録申請書面(兼商品購入申請書)」により売買契約を申し込んだ上、モニター料を得るために本来必要ない本件寝具を購入したと主張しながら、そのことを被告ファインに秘匿して立替払契約を申し込んだものであって、ダンシングによる破綻必至のモニター商法に参加し、被告らによる立替金を配当原資としてダンシングが倒産するまで、モニター料という不労所得ともいうべき利益を享受し、モニター料の支払を受けて自らが利益を得ている間は、何らの主張もしなかったにもかかわらず、ダンシングが破産し、モニター料を得られなくなったとたんに一般消費者としての保護を求めているものであり、信義則に反し許されない。
また、原告らは、利得を目的として売買契約、モニター会員契約及び立替払契約を締結したものであって、これは商行為というべきものであるから、割賦販売法三〇条の四ただし書に該当し、支払停止の抗弁を主張することは許されない。
なお、モニター会員契約によるモニター料の支払が保証されていたものでもないから、モニター料の不払いを理由に支払の拒絶を主張するのは失当である。
イ 加盟店調査管理責任について
被告ファインは、ダンシングとの加盟店契約締結当時も、原告らとの立替払契約締結当時も、原告らが主張するようなダンシングの商法の情報を得ていなかったし、原告らも被告ファインにモニター会員であることを告知していなかったのであって、ダンシングの商法の具体的内容を知り得なかったものであるから、加盟店調査管理義務違反はない。このことは、被告ファインが匿名の電話による情報を端緒に、ダンシングや顧客への再調査をして精算金の支払を留保したというような迅速な対応をしていたことからも明らかである。
ダンシングの関係者は、被告ファインに対して、モニター会員数等について虚偽の事実を述べ、本件寝具の売買契約について立替払契約を締結した顧客がモニター会員であることを隠していたことなどからすると、被告ファインには、ダンシングのモニター商法を知ることができなかった。
(4) 争点四(原告らの被告らに対する既払金の不当利得返還請求、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求の可否)
(原告らの主張)
ア 不当利得返還請求
前記(3)のとおり、被告らは、原告らに損害が生じることを回避させることが可能であったのであるから、危険の公平な分担という点から、売買契約と立替払契約との間の消滅における牽連性を肯定すべきである。そうすると、売買契約が無効又は取消しによって消滅すれば、立替払契約も遡及的に消滅したことになり、原告らが既に支払った金員を被告らが受け取る法律上の原因がないことになり、原告らは、被告らに対して既払金につき不当利得に基づく返還請求権を有する。
イ 損害賠償請求
a 債務不履行に基づく損害賠償請求
立替払契約の法的性質は、準委任契約であり、受任者である信販会社は、立替払いをするにあたって善管注意義務を負っている(民法六四四条)が、前記(3)のとおり、被告らは、ダンシングの商法が違法であることを容易に知り得たのに、加盟店契約を打ちきることなく立替払いを実行したものであるから、被告らは、善管注意義務違反の債務不履行責任を負う。
b 不法行為に基づく損害賠償請求
被告らは、善管注意義務に違反して破綻必至のダンシングとの間で売買契約を締結せしめ、立替払いを行ったという違法行為が存在し、被告らとダンシングとの経済的関連性等からすると、被告らは、ダンシングの違法な販売行為を助長し、これに加功したものであるから、民法七一九条二項の不法行為責任を負う。そして、被告らが善管注意義務を果たして、加盟店契約を解除していれば、原告らは、被告らに対する立替払契約に基づく支払義務も免れたのに、善管注意義務に反して被告らが加盟店契約を解除しなかったことにより、原告らは、被告らとの間で立替払契約を締結して、この契約に基づき別紙立替払契約内容一覧表中の「既払金額」欄記載のとおり支払ったのであるから、既払金相当額の損害を負った。
(被告オリコの主張)
前記(3)のとおり、加盟店調査管理義務など存在しないのであるから、債務不履行責任、不法行為責任を負うこともないし、被告オリコとダンシングとの間に主観的にも客観的にも共同関連性は存在しない。また、原告らの既払金は、ダンシングからのモニター料によって支払われているものであり、原告らに損害はない。
(被告ファインの主張)
前記(3)のとおり、加盟店調査管理義務が立替払契約の内容となるものでもないし、立替払契約に関して、被告ファインに善管注意義務違反もないから、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任はない。また、原告らは、モニター料の支払及び本件寝具の受領という利益を得ており、損害もない。
(5) 争点五(原告らが立替金支払義務を負う場合の支払うべき立替金支払債務の額)
(被告らの主張)
原告らに対し、立替払契約に基づく別紙二ないし四立替払契約一覧表の各「未払金額」欄記載の各金額及びこれに対する遅延損害金の請求をする。
(原告らの主張)
争う。
(6) 争点六(被告らが債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務を負うべき場合の支払うべき損害賠償債務の額)
(原告らの主張)
被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき別紙一立替払契約一覧表の各既払金及びこれに対する遅延損害金の請求をする。
(被告らの主張)
争う。
第三争点に対する判断
一 争点一について
(1) 原告らとダンシングとの間の本件寝具売買契約とモニター会員契約の不可分一体性
前記第二の二(2)のとおり、本件寝具の売買契約とモニター会員契約とは形式的には別個の契約といわざるを得ない。しかしながら、本件寝具の申込みと会員登録とが一体となったダンシング所定の書式によって、両者の契約がなされていたこと、ダンシングは、顧客を勧誘する際、本件寝具の性能に加えて、モニター料によって、実際には金銭的な負担を伴うことなく本件寝具を購入することができる上に、利益も得ることができることをうたい文句にしていたものであり、原告らもモニター料と購入代金を一体のものとして両契約を締結するに至ったものであること、本件寝具を購入するためにモニター会員契約及びビジネス会員契約を締結しなければならないという制約はなかったものの、本件寝具のみを購入した者は皆無に近かったことなどからすると、本件寝具の引渡しがなされるだけでは、契約を締結した目的が全体として達成されたことにはならないという意味でモニター会員契約は売買契約の重要な要素となっていると認められ、以上のことから、両契約は密接不可分に結びついた契約であり、モニター会員契約の有効性如何は、売買契約の有効無効に直接関連するものと解するのが相当である。
なお、ダンシングは、自らが用意した一通の書面で両契約の申込みを誘引し、本件寝具の販売を拡張していた以上、両契約が不可分一体のものではないと主張できる立場にないから、ダンシングの主観的意図によって、上記解釈が変わることはない。
(2) 公序良俗違反について
ア 売買契約の暴利行為性について
原告らは、兵庫県寝具技能士会の調査による本件寝具の価格をもとに、暴利行為性を主張しているが、この調査は、本件寝具の品質の目玉ともいうべき「ステイヤーズ」という特殊繊維を使用しているという点を考慮に入れていないこと、また、前記第二の二(4)のとおり、ステイヤーズを使用した布団や他社のいわゆる高級布団の販売価格と比較して、本件寝具の価格が著しく高額であるとは認められないことからすると、原告ら主張の価格が本件寝具の適正価格であるとまでは断定できず、売買契約の暴利行為性は認められない。
イ モニター会員制度の破綻必至性について
a 被告らが主張するとおり、ダンシングが売上数量とモニター会員数との関連に留意して、口コミによる宣伝効果を狙ってモニター会員を募集し、商品の売上げが上がれば、モニター料の支払原資も確保できることになるから、モニター会員制度が構造的に破綻必至であるとまではいい切れない。
b しかしながら、単純な訪問販売では売上げが上がらなかったことから、モニター会員制度を発案したが、これだけでもなかなか売上げを上げることができなかったために、ビジネス会員制度を創設したという経緯及びモニター会員に課せられた業務内容からすると、モニター会員制度やビジネス会員制度における特典もないのに、モニター会員の口コミによる宣伝効果で、純粋な購入者が増加するとは考え難く、そうすると、ダンシングがモニター会員数を当初の予定どおり一〇〇〇名と限定し、モニター会員すべてがダブルサイズを購入したと仮定しても、ダンシングが支払うモニター料の総額は八億六四〇〇万円となり、約四億円をダンシングの自己資金から拠出しなければならないことになるが、ダンシングがこのような資金を本件寝具を販売する以外の方法で獲得しようとしていた様子はうかがえないことや、ダンシングがこのような多額のモニター料を支払うことができる自己資金を有していたこともなかったことに照らすと、当初から資金繰りに窮することは予想されていたものといわなければならない。
c しかも、ダンシングは、ビジネス会員制度を導入したことから、飛躍的に販売数を伸ばした一方で、モニター会員の急激な増加によって、当初予定していた一〇〇〇名限定のモニター会員数をまもなく突破することが予想できたにもかかわらず、モニター会員を募集人数の範囲内に収めるようにビジネス会員ら勧誘者に対して指導した形跡は全く見当たらないばかりか、すでにモニター会員数が三〇〇〇名を超えているにもかかわらず、第二次募集として新たに二〇〇〇名のモニター会員を募集し、モニター料等の支払額を減額するために、モニター会員制度等の改定を試みたが、ビジネス会員の猛反対にあり、従前の制度を維持した結果、最終的には、募集人数を大きく超える一万四〇〇〇名以上の顧客と本件寝具の売買契約及びモニター会員契約を締結したのである。
d このようなダンシングのモニター会員制度の運営及びダンシングの資金力並びにモニター会員を増加させるビジネス会員制度からすると、モニター会員制度は、早晩破綻することが明らかなものであったといわざるを得ない。
ウ マルチ類似商法
モニター会員制度は、連鎖販売取引であるビジネス会員制度が導入された後の会員数の急増からも明らかなように、加速度的に破綻への道をたどり、金銭的負担なく本件寝具が手に入る上モニター料という利益まで得られるということを宣伝文句として、多数の顧客をモニター会員として引き込み、本件寝具を購入させたものであって、ビジネス会員制度が導入されたのが平成一〇年二月であり、ダンシングが最後にモニター料を支払ったのが平成一一年四月であることからしても、大多数の顧客が本件寝具代金相当のモニター料を受け取ることができなかったのであるから、この意味で多数のモニター会員に損失を被らせたといえる。したがって、ビジネス会員制度と結びついたモニター会員制度によって、顧客獲得を目指したダンシングの破綻不可避の商法は、「終局において破綻すべき性質のものであるにもかかわらずいたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分のものに経済的な損失を与えるに至るもの」と類似した違法性のあるマルチ類似商法というべきである。
エ 欺瞞的勧誘方法
前記のとおり、モニター商法が破綻必至のものであり、ビジネス会員制度を導入した平成一〇年二月以降、月別モニター会員数で、二月一一二名、三月二九〇名、四月三一九名と急激に増加して、モニター会員数がすぐに一〇〇〇名を超えることが必至であったにもかかわらず、ダンシングは、モニター会員の募集を打ち切るなど勧誘活動を制限しなかったばかりでなく、ビジネス会員から、モニター会員数について質問されても、モニター会員からビジネス会員に変更している者が多数いるなどと、虚偽の事実を申し向けて、勧誘活動を促進していたこと、現実には、モニター会員の人数制限などしていなかったにもかかわらず、あたかも人数制限をしているかのように装っていたことのほか、モニター会員制度が費用を抑えて効果の大きい宣伝方法であり、ダンシングにもメリットがあるなどと現実とはかけ離れた勧誘文言で顧客の不安を取り除いたり、モニター料が毎月振り込まれている通帳を示したりして、確実にモニター料が受け取れるかのような勧誘をして、当初、ダンシングにメリットのない契約であると不審に感じていた顧客を安心させて本件寝具の売買契約及びモニター会員契約を締結させたものである。
このような勧誘方法は、独禁法二条九項に基づく、昭和五七年公正取引委員会告示一五号の不公正な取引方法の八項(欺瞞的顧客誘引)・九項(不当な利益による顧客誘引)に該当する公正な取引秩序を害する違法な勧誘である。
(3) 小括
以上のとおり、モニター会員制度は、ビジネス会員制度と結びつくことによって、破綻必至の商法ということができ、また、破綻必至であることを隠して顧客を勧誘した詐欺的商法でもある上、被害の急速な拡大を招くマルチ類似商法にも該当するものであるから、公序良俗に反する違法な取引であると認められ、したがって、モニター会員契約は無効となり、これと密接不可分の関係にある本件寝具の売買契約も全部が無効となる。
二 争点二について
立替払契約と売買契約が相互に密接に関係していることは、原告らの主張するとおりであるが、割賦販売法(平成一二年法律第一二〇号による改正前のもの)三〇条の四の規定は、法が、購入者保護の観点から、購入者において売買契約上生じている事由をあっせん業者に対抗しうることを新たに認めたものであって、売買契約と立替払契約とは本来別個の契約であることを前提とするものであるから、購入者が売買契約上生じている事由をもって当然にはあっせん業者に対抗することはできない(最判平成二年二月二〇日判時一三五四号七六頁)。したがって、このような規定がない以上、別個独立の契約に生じた事情を他の契約で主張することはできないし、当然に牽連して他の契約の成否に影響を及ぼすことにはならない。そして、同条において対抗を認める抗弁には制限がないから、特段の事情のない限り、公序良俗違反を理由とする売買契約の無効(抗弁)を主張して、請求を拒むことができることからすると、売買契約が無効である場合に当然に立替払契約も無効となるという解釈をとることはできない。
そうすると、売買契約が無効であれば、立替払契約も当然無効となるという原告らの主張は採用できない。
三 争点三について
前記一、二のとおり、本件寝具の売買契約は公序良俗に反して無効であり、この無効を理由として割賦販売法三〇条の四に基づき、被告らに対し、立替払契約に基づく立替金の支払を拒否するという抗弁権を主張することができる。しかしながら、原告らにおいて、この抗弁権を主張することが信義に反すると認められるときにはこの限りではない。したがって、以下、原告らが抗弁権を主張することが信義則に反するか否か、検討する。
(1) 原告らの事情
ア 原告らは、モニター会員契約を締結することにより、モニター料に見合うだけの業務をすることなく、二年間にわたりモニター料を受け取ることができ、本件寝具の代金もその中から支払うことで、結局、金銭的負担なく本件寝具を手に入れることができる上、本件寝具代金との差額を小遣いとすることができるという、明らかにダンシングにとって経済的利得のない契約を不審に思いながら、モニター料の支払が確実に受けられて小遣いを稼ぐことができると安易に信じて本件寝具の売買契約及びモニター会員契約を締結して、本件寝具という商品のほかに、モニター料と立替金の差額の利得を得ている。
イ ダンシングは、ビジネス会員ら販売員を通じて、モニター会員に対し、被告ら信販会社から確認の電話があったときは、モニター会員であることや、モニター会員契約の内容を隠すように指導し、これを守っていたモニター会員も存在したことがうかがわれ、一部ビジネス会員や一部モニター会員がダンシングのモニター商法に加担していた事実も認められ、原告らにおいても、被告らに対して、ダンシングとの間でモニター会員契約を締結していることを積極的に告げた者はいない。
しかしながら、原告らが被告らから電話で確認された内容は、住所、氏名程度であって、ダンシングの販売内容、特に本件寝具の売買契約以外にも契約があるか否かを確認されたことはなく、原告らにおいて、モニター会員であるか否かを確認されたにもかかわらず、あえて虚偽の事実を述べて、モニター会員制度を被告らに隠した事情は認められないし、また、被告ファインが調査した際、約八割もの顧客がモニター会員であることをなんら隠すことなく答えていたことからすると、上記指導が徹底していたとはいえない。
(2) 加盟店調査管理義務の存否
割賦販売システムをめぐる消費者トラブルによる消費者被害が度々起こることから、旧通商産業省(現経済産業省)は、社団法人日本クレジット産業協会を通じて、同協会会員に対して、加盟店の審査・管理の厳格化、顧客の特殊な誘引方法等により商品を販売する加盟店の審査・管理について、継続的かつ徹底した管理を行うことを求める行政指導をしており、これが信販会社を法的に拘束するものであるとまではいえないものの、信販会社に期待されるものとして指針となっていたこと、立替払契約自体は、顧客と信販会社間の二者の契約であるが、この契約は、当然に加盟店と顧客との間の契約が存在することを前提としており、信販会社は、加盟店に対して、立替払契約の契約書を渡して、実質的に自らの顧客獲得の拡大を加盟店が顧客を勧誘することに委託して、利益を得る方法としているとみられること、割賦販売法三〇条の四の規定は消費者保護を目的とするものではあるが、信販会社側からみると、加盟店の商品等の販売により生じた事由について、顧客から支払を拒絶されるおそれがあるのであるから、支払を拒絶されるという不利益を回避し、自己の利益を守るために、不良加盟店を排除するというインセンティブが与えられているとみることもできること、信販会社が行っている立替払契約が、悪質な販売業者の不適正な販売行為を助長することがあるから、これを未然に防止する必要があり、これを防止できるのはクレジットシステムの開設者である信販会社であることなどに照らすと、信販会社には、悪質な販売業者によりシステムが悪用されないよう加盟店契約を締結する際の審査やその後における加盟店の調査・管理を適正に行うことが求められており、加盟店を調査・管理すべき義務が存するといわなければならない。
したがって、信販会社は、加盟店契約を締結することで、自己の利益を拡大することができるというメリットがある一方で、その加盟店に生じた事由についてのリスクも負わなければならないが、そのリスクをなくして、さらには消費者を保護するための不良加盟店の排除を実践できる者として、加盟店調査管理義務を負っているのであるから、この加盟店調査管理義務を怠り、漫然と加盟店契約を締結したのであれば、その加盟店に生じた事由について、顧客から支払を拒絶された場合の顧客らの主張が信義則に反しない一事情として考慮されるべきである。
そして、加盟店調査管理義務の具体的内容としては、加盟店契約を締結する際には、加盟店のパンフレット、広告、契約書面等の資料を取り寄せること等によって、加盟店が行う商品の販売方法を具体的に把握し、その内容を加盟店に質問するなどして加盟店の行っている販売方法に不審な点がないかを慎重に判断すべきであり、加盟店契約締結後においても、同様に加盟店の販売方法を把握するとともに、消費者に対する電話意思確認において契約内容を具体的に質問するなどして、加盟店の販売方法に変更がないかを把握すべき義務があるというべきである。
(3) 被告クオークについて
平成一〇年六月二九日に原告A川二江と立替払契約を締結した被告クオークに加盟店調査管理義務に反する事実があったかについて、検討する。
被告クオークは、被告ファインや被告オリコとは異なり、ダンシングがモニター会員制度を開始する前から加盟店契約をしていたものであるから、事後の調査のみが問題となり、取扱件数が急増した同年二月ころの対応が問題となるところ、被告クオークは、D原からの説明で、モニター会員が存在し、紹介料を支払うということを認識していながら、売買契約書も会員に関する書類も作成しておらず、作成する準備をしているというD原の説明を容易に信じて、それ以上の調査をしなかった。
確かに、この段階のD原の説明によれば、紹介料を支払ってもダンシングには利益があるし、紹介料稼ぎのために会員が購入者を勧誘して、契約件数が増加したという説明はそれなりに合理的なものである。
しかしながら、販売方法については、顧客に確認するなどの方法も考えられるところであり、これをすることも極めて容易であって、現に被告クオークの事務取扱規程でも、販売方法の確認は、日常の事務、調査確認でその大半が分かると記載されていることからすると、紹介販売をしているのに、売買契約書すら作成していないという不自然なD原の説明に照らせば、この段階で、被告クオークには、ダンシングの販売方法についてさらなる調査をすべき義務があったというべきである。そして、この段階では、ダンシングから信販会社に対する電話確認の際の対応についての指導はなされていなかったのであるから(第二の二(2)イb)、被告クオークは、ダンシングの販売方法の実態を十分把握し得たというべきである。
したがって、被告クオークには、加盟店調査管理義務を著しく怠って、ダンシングとの加盟店契約を継続したものといえる。
(4) 被告オリコについて
被告オリコは、ダンシングが高額な紹介手数料を支払うという特殊な販売方法をしていることを知らされており、直接契約を求められていたのに、子番契約に留めたのは、ダンシングの販売方法に不安を感じたからに他ならないと考えられるところ、単にD原の説明を信じたというだけで、販売方法を知りうる最も基本的かつ重要な売買契約書の提出すら求めなかったというのであって、その落ち度は重大であり、E田社の子番契約という契約締結の過程で、加盟店調査義務を著しく怠ったというべきである。
さらに、平成一〇年七月中旬において、ダンシングが当初説明していた販売方法と異なる販売方法をとっていたことが明らかになったにもかかわらず、D原の説明だけで、ダンシングの販売方法には問題がないと判断して、その後、同年一〇月中旬に至るまで、なんら加盟店調査を行わなかったというのであって、ダンシングに何かあったとしてもE田社の連帯保証のもとで被告オリコは損害を被らないことから、加盟店調査義務を怠ったとしか思えないような対応さえしている。
(5) 被告ファインについて
被告ファインは、ビジネス会員、モニター会員と記載されているダンシング所定の登録申請書を入手していながら、全会員のうちモニター会員の占める割合が一パーセントにも満たないという説明を信じていたというが、この書式による勧誘がなされることが前提であれば、モニター会員が継続的に勧誘されるのではないか、定員の限定をどのようにしているのか、について疑問を持つのが当然であると考えられるし、また、ごくわずかしかモニター会員としないというのであれば、「モニター」「ビジネス」という選択を求めるような書式にする必要はないこと、仮に、モニター会員の限定がなされないとすれば、ダンシングがモニター料の支払にいずれ窮することが明らかであることは、被告ファインにも認識し得たことなどからすれば、モニター会員数の限定をどのようにしているのかについてさらなる調査をする義務があった。
それにもかかわらず、会員数等についての資料の提出を何ら求めることなく、ダンシングの説明をあまりに軽信し、加盟店調査義務を著しく怠ったことにより、加盟店契約を締結したものである。
(6) 検討
ところで、顧客と加盟店との売買契約が公序良俗に反して無効であるとの理由について、顧客が信販会社に対し抗弁権を主張することが信義則に反する場合とは、顧客が加盟店の公序良俗に反する取引に積極的に関与して巨額の利益を得ているとか、信販会社に損害を与える目的で加盟店と共謀して取引に参加したなど顧客が加害者的な立場にある、もしくは信販制度を悪用する意図を有していたときに限るべきであり、結果的に公序良俗に反する取引に関与したにすぎない場合は含まれないと解すべきである。なぜなら、公序良俗に反して無効とされる取引に関与した顧客に落ち度があるのがほとんどであると考えられるところ、このような軽率であった顧客の抗弁権の主張を許さないとすると、公序良俗に反し無効とした意味がなくなってしまうからである。
そこで、既に認定説示したところを前提として、検討すると、前記(1)ア、イのとおり、原告らが利得しており、不審に思うことが当然であったダンシングのモニター商法を安易に信じたという点や被告らと立替払契約を締結する際、モニター会員制度について被告らに確認していない点に、落ち度があったことは否定できないとしても、原告らは、ダンシングの公序良俗に反する商法による詐欺的な勧誘によって、契約に引き込まれたにすぎないのであって、原告らがダンシングの商法が公序良俗に反するものであることを知りながら、あえてダンシングのモニター商法に積極的に関与していた事情はうかがえないし、また、原告らには、被告らに対して、モニター会員制度等の売買契約に付帯する契約があることを積極的に被告らに告知すべき義務があるわけでもなく(《証拠省略》も、消費者が信販会社に事実と異なることを答えた場合には、モニター料が支払われなくなっても、信販会社に対する支払をストップすることができない、としているだけであって、典型的な例として、商品以外の契約があるのに、信販会社から確認されても、売買契約以外にはないと答えること、があげられているのであって、告知義務があることを前提とはしていない。)、被告らから、この点を確認されたにもかかわらず、虚偽の事実を述べて、殊更にモニター会員制度を隠蔽したわけでもない。また、原告らは、自己が金銭を負担することはないということに魅力を感じたことを主要な動機として本件寝具の売買契約を締結したものであり、モニター会員制度がなかったら、購入しなかったというものではあるけれども、結局、モニター会員としてモニター料を受け取るためには、本件寝具を購入することが前提となっており、モニター会員としての業務も行う必要があったのであるから、本件寝具を購入する意思はあったものと認められるし、立替金の支払もモニター会員として得た金銭で支払うという意思であっただけであり、支払自体を原告ら自身がまったくしないという意識であったわけでもない。
以上によれば、原告らは、うまい話に軽率にも乗ってしまったものではあるが、ダンシングの詐欺的商法にひっかかった、いわゆる被害者であって、被告らの出捐において不労所得を得ようと意図していたわけでもなく、ダンシングに対して、有償で名義を貸して、被告らからの立替金を得させようと意図していたものともいえず、さらに、ダンシングと共謀してモニター会員制度を隠蔽して利益を得ようと信販制度を悪用する意図を有していたともいえないことに加えて、被告らの加盟店調査管理義務違反の事実を総合考慮すると、原告らが被告らに対して、抗弁権を主張することが信義則に反し、全く許されないとすべきほどの背信的な事情は認められない。
なお、本件寝具の購入が原告らのために商行為となる指定商品に係るものであるとは認められない。
(7) 原告らの利得と被告らの損失について
ところで、被告らは、加盟店調査管理義務を怠ったとはいえ、ダンシングから営業実態を隠されており、モニター会員制度について正確に把握することが困難であったという意味で被害者的な側面がある一方、原告らには、背信的な事情までは認められないものの、モニター料を取得できるという目先の利益につられるあまり、ダンシングが損をするというモニター会員制度が成立するものと安易に信じてしまったという落ち度があるという事情に照らすと、現在、原告らが本件寝具(原告本人尋問の結果によれば、ほとんどの原告が本件寝具の商品としての価値を賞賛している。)を受け取っており、また、受け取ったモニター料と立替金の差額という利得が残っているのに対して、被告らが立替金をダンシングに対して支払っているが、その支払った額と原告らから支払を受けた額との差額について損失を被っている点で、不均衡が生じている。
そして、ダンシングの営業実態からすると、ダンシングが原告らに対して支払ったモニター料の原資は、被告らが原告らと締結した立替払契約に基づく立替金によっているものと認められる。
したがって、原告らが被告らに対する未払金全額について、支払を拒絶できるとすると、原告らに落ち度があるにもかかわらず、被告らの損失において利得することを認める結果となり、公平の観点から見て妥当な結論ではなく、信義則上も認められない。
(8) 結論
以上によれば、原告らは、受け取ったモニター料総額から被告らに対して支払った額を控除した金額に本件寝具の価格相当額を加えた金額については、被告らに対して立替金の支払を拒絶することは信義則上許されない。
四 争点四について
まず、争点二についてみたとおり、本件寝具の売買契約が無効であることにより当然立替払契約が無効となるわけではないから、被告らにおいて、原告らが既に支払った立替金を不当に利得しているとは認められない。
そして、被告らには加盟店調査管理義務違反はあるものの、そもそも、加盟店調査管理義務はあくまで行政指導上、信販会社に求められた要請にとどまり、立替払契約を締結した個々の消費者との関係での個別具体的な義務違反とまでいうことはできないから、被告らと原告らとの間の立替払契約上の義務ということはできず、被告らが原告らに対して、同義務違反に基づく債務不履行責任を負うものではない。また、同義務に違反したことから直ちに、契約を締結した個々の消費者に対する関係での不法行為責任としての義務違反を構成するものでもない。
しかしながら、信販会社がこの加盟店調査管理義務に違反したことにつき、重大な落ち度があった場合には、信販会社が行っている立替払契約により悪質な販売業者の不適正な販売行為を助長する結果に結びついてしまい、しかも、それが個々の消費者の被害によって信販会社が経済的利益を得るといった結果となることを考えると、このような場合には信販会社は、個々の消費者に対する関係においても一定の限度(消費者が損害を被ったと認められる限度)で不法行為責任が発生することがあるというべきである。
本件では、前記三(3)ないし(5)認定のとおり、被告らはいずれも加盟店調査管理義務を著しく懈怠していたものであり(ただし、被告クオークは、事後の調査義務違反のみである。)、被告らに重大な落ち度があったことは明らかであるから、原告らに対し、一定の限度で不法行為責任を負うべきである。
もっとも、原告らは、前記三(8)のとおり、受け取ったモニター料総額から、被告らに対して支払った額を控除した金額に本件寝具の価格相当額を加えた金額について、被告らに対して立替金の支払を拒絶することは信義則上許されないことからすれば、その金額が過払いになっていない限り、原告らは損害を被っていないということができるから、被告らが負うべき不法行為責任は、その受け取ったモニター料総額から被告らに対して支払った額を控除した金額に本件寝具の価格相当額を加えた金額が過払いになっている原告らとの関係で、その過払いとなっている額の限度で負うとするのが相当である。
五 争点五について
(1) 被告らが請求できる金額の上限
原告らが全額について支払を拒絶できないのは、被告らの損失のもとに原告らが利益を残しておくのが妥当ではないことによるものであるから、被告らにおいても、ダンシングのモニター商法によって被告らが利益を得ることが相当でないことは当然であり、被告らが原告らから割賦手数料を受け取ることはできない。
したがって、被告らが原告らに対して請求できる金額の上限は、本件寝具代金(シングルサイズ三七万八〇〇〇円、ダブルサイズ四八万三〇〇〇円)から原告らからの既払金を控除した残額である。
(2) 原告らが被告らに対して支払を拒絶できない本件寝具の相当価格
本件寝具の価格については、ダンシングの本件寝具販売価格としての、シングルサイズ三七万八〇〇〇円、ダブルサイズ四八万三〇〇〇円、ダンシングのE田社からの仕入価格としての、シングルサイズ五万円、ダブルサイズ七万円、ダンシングの仕入先であるE田社の同種製品の販売価格としての、シングルサイズ定価二九万八〇〇〇円(税込)(インターネット価格二四万八〇〇〇円)、ダブルサイズ定価三八万八〇〇〇円(税込)(インターネット価格三三万八〇〇〇円)のほか兵庫県寝具技能会の調査結果など証拠上複数の価格が認められる。
そこで、原告らが被告らに対して信義則上支払を拒絶できない本件寝具相当価格について検討すると、公序良俗違反の商法により本件寝具を販売したダンシングに利益を残すような価格を原告らに負担させるべきではないこと、被告らの加盟店調査管理義務違反があること、原告らに背信的な事情までは認められないこと、さらに割賦販売法の趣旨である消費者保護の見地などの諸事情に照らせば、この価格は、本件寝具の適正販売価格ではなく、ダンシングに利益を残さずに、原告らが本件寝具を取得できる最低金額とすべきである。
したがって、シングルサイズを購入した者については五万円、ダブルサイズを購入した者については七万円につき、支払を拒絶できない。
(3) 原告らのモニター料受取総額
原告らの主張する受取モニター料は、別紙五「陳述書の主張」欄記載のとおりであるところ、これに「通帳」欄記載のとおり、甲五の一ないし五五の通帳入金額から認められる受取モニター料、各原告らの契約時期等を考慮すると、原告らの受取モニター料は「認定」欄記載のとおりであると認められる(「陳述書の主張」欄、「通帳」欄と異なる認定となった、原告A林十美については、通帳には、四月分の入金がされるまでの記帳がないところ、同日に契約した原告D海八美の受取額に照らすと四月分として二万三八八〇円受け取っているものとして認定し、原告C野二美及び同E本九美については、「契約年月日」欄記載の翌月から平成一一年四月まで、受け取ったものとして、初回二万九五七〇円、四月分二万三八八〇円、途中三万四三七〇円を受け取ったものとして計算したものであり、四月分として通常どおり三万四三七〇円受け取っている原告もいることに照らすと、最低額として認定したものである。なお、原告B原三江及び同C田四江については、紹介手数料を含んだ受取額である。)。
(4) 結論
以上の次第であり、原告らが被告らに支払うべき金額は、「受取モニター料等・認定」欄記載の金額にそれぞれの本件寝具相当価格を加えた額から既払金を控除した金額となるところ、原告B原三江及び同E本九美については、この額が上記(1)の被告らが請求できる上限額を超えているので、この上限額となり、また、原告D川冬子及び同E原一江については、この額を超えて支払っているので、被告ファインが請求する未払額全額について支払を拒絶することができることになる。
(5) なお、原告B山松子及び同C川竹子以外の原告らについては、各被告から別紙二ないし四立替払契約一覧表のとおり立替金請求の反訴が提起されているから、反訴について判断がされる以上、本訴である債務不存在確認請求は、確認の利益を欠くというべきであり(最高裁平成一六年三月二五日判決・判例時報一八五六号一五〇頁)、債務不存在確認請求に関する部分は却下を免れない。
六 争点六について
前記四のとおりであるから、原告らのうち、被告らに不法行為に基づく損害賠償請求ができるのは、別紙五のとおり、原告D川冬子及び同E原一江のみであり、原告D川冬子が被告ファインに対して、一九万四一二二円、原告E原一江が被告ファインに対して、一四万〇一二二円損害賠償請求できることになる。
第四結論
一 本訴請求について
(1) 原告B山松子及び同C川竹子の被告ファインに対する債務不存在確認請求は、これを認容する。
(2) その余の原告らの債務不存在確認請求に関する部分をいずれも却下する。
(3) 被告ファインは、原告兼反訴被告D川冬子に対して、一九万四一二二円、原告兼反訴被告E原一江に対して、一四万〇一二二円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成一三年一一月八日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払え。
(4) その余の原告らの請求は理由がないからいずれも棄却する。
二 反訴請求について
別紙二ないし四の各契約一覧表「認容金額」欄記載の金額及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで約定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないからいずれも棄却する。
三 訴訟費用
訴訟費用の負担について、民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千川原則雄 裁判官 久保孝二 石井寛)
<以下省略>