静岡地方裁判所浜松支部 平成9年(ヨ)48号 決定 1998年5月20日
債権者
小倉とみ子
(他七名)
右債権者ら代理人弁護士
秋山泰雄
同
上出勝
債務者
レブロン株式会社
右代表者代表取締役
ジョサイア・フローノイ
右代理人弁護士
福井富男
同
内藤潤
同
神田遵
主文
一 債権者らの申立てをいずれも却下する。
二 申立費用は債権者らの負担とする。
理由
第一申立て
一 債権者らが債務者の従業員たる地位を有することを仮に定める。
二 債務者は、債権者らそれぞれに対して、平成九年四月一日から本案判決確定に至るまで別紙「賃金明細書」の「合計」欄記載の金員を仮に支払え。
第二事案の概要
本件は、債務者の従業員であった債権者らが、債務者のした整理解雇の効力を争い、従業員たる地位の保全と賃金の仮払いを求める仮処分を申し立てたものである。
一 争いのない事実
1 債務者は、化粧品等の製造、輸出入、国内販売等を目的とする資本金一四億七〇〇〇万円余の株式会社である。
2 債権者らはそれぞれ、別紙「債権者一覧表」の「採用日」欄記載の日に債務者の従業員として雇用された者であり、後記の解雇通告の時点において、同表「勤務場所」欄記載の勤務場所において、同表「職種」欄記載の業務に従事していた。
3 債務者は、平成九年三月二八日付文書をもって、債権者らに対し、同年三月三一日をもって、債務者との雇用関係を終了させる旨通知(以下「本件解雇通知」という)し、債権者らを解雇した。
4 なお、債務者は、平成一〇年三月二〇日付け準備書面において、平成九年三月三一日付け解雇の意思表示が仮に無効であるとした場合は、債務者は予備的に、前記解雇時に提供した解雇条件を維持したうえで、右基本給九か月分を追加支払いする条件で、債権者らを平成九年一二月三一日付けで解雇する旨の意思表示をした。
二 争点
解雇の有効性
第三当裁判所の判断
一 疎明資料によると、次の各事実が一応認められる。
1 当事者
債務者は、昭和五四年に「レブコ株式会社」との商号で設立された会社であり(以下、右商号を用いていた当時の債務者を「旧レブコ」ということがある)、昭和三八年に日本法人として設立され、以後レブロンのブランドで販売されている化粧品の国内販売、製造、輸出入等の業務を行っていたレブロン株式会社(以下、「旧レブロン」ということがある)の子会社であったが、平成六年三月、旧レブロンから全営業を譲り受け、また、旧レブロンの全従業員の移籍を受けて、商号をレブロン株式会社と変更したものであり、旧レブロンと実質的に同一性を有する会社である。以下においては、特に必要のない限り、旧レブロンと債務者とを区別することなく、債務者という。
債務者は、アメリカに本社のある「レブロン・コンシューマー・プロダクツ・コーポレーション」(以下、「レブロンアメリカ本社」という)を唯一の株主とする。同社は、平成八年二月、ニューヨーク証券取引所に株式を上場して公開会社となった。
債権者らは、いずれも、債務者の従業員で組織するレブロン労働組合(以下「組合」という)の組合員である。
2 債務者の経営状況
債務者(会計年度を一月一日から一二月三一日までとする)は、昭和五四年度に約二億六八〇〇万円の当期損失を計上し、以後ほぼ毎年累積損失を増大させ、平成三年度は当期損失が約七九億五六〇〇万円、期末未処分損失が約一一四億二二〇〇万円、平成四年度は当期損失が約二六億三〇〇〇万円、期末未処分損失が約一四〇億五二〇〇万円、平成五年度は当期損失が約一八億九一〇〇万円、期末未処分損失が約一五九億四三〇〇万円となった。
平成六年度中に、前記のとおり、旧レブコに全営業を譲渡するなどし、同年度の債務者の当期利益は約一億九一〇〇万円となったものの、レブコの繰越損失が約五三億八四〇〇万円あったことから、期末未処分損失は約五一億九三〇〇万円となった。
そして、平成七年度に再び単年度損益が赤字となり、当期損失が約一億六九〇〇万円、期末未処分損失が約五三億六二〇〇万円、平成八年度は当期損失が約一五億二〇〇〇万円、期末未処分損失が約六八億六四〇〇万円と損失が増大した。なお、本件解雇通知後の平成九年度は当期損失が約一二億七一〇〇万円、期末未処分損失が約八一億三六〇〇万円である。
3 従来の経営合理化策
債務者は、昭和五四年から平成七年ころまでの間の経営合理化策として、<1>昭和五六年四月、経営改善に伴う希望退職者の募集(約一五〇名を募集し、一二八名がこれに応じて退職)、<2>平成三年七月、袋井工場の閉鎖・移転に伴う希望退職者の募集(九一名を募集し、一二五名がこれに応じて退職)、<3>平成四年一二月、平成五年度ビジネスプランの人員体制に伴う希望退職者の募集(九五名を募集し、一三一名がこれに応じて退職)、<4>平成五年五月、札幌地区美容部員の派遣効率見直しに伴う希望退職者の募集(六名を募集し、七名がこれに応じて退職)、<5>平成六年三月、旧レブコに対する営業譲渡、<6>同年一二月、平成七年度ビジネスプランの人員体制に伴う希望退職者の募集(二〇名がこれに応じて退職)、<7>平成七年二月に、製品の海外生産移行に伴う希望退職者の募集(一〇名を募集し、四名がこれに応じて退職)を行ってきたが、これまで整理解雇がなされたことはなかった。
これら数次にわたる希望退職等の募集の結果、債務者の従業員数は多いときには約一二〇〇名いたが、平成八年七月には正社員が約二四〇名となった。
4 経営方針の変更
ところで、レブロンブランドの化粧品の販売は、従来、百貨店や化粧品専門店等を取引先とし、美容部員及び取引先販売員による化粧品のカウンセリング販売(いわゆる対面販売)方式により行われ、昭和五八年度には、その売上高は約一二二億円に達していた。しかし、こうした営業方式に伴う事業運営費が増加して、消費者広告・販売促進等への投資を十分に行うことができなくなり、販売高及び純利益が継続的に減少するようになり、平成三年度の売上高は約七六億円まで下落した。
債務者は、平成四年にセルフ・セレクション(消費者が自由に選択して購入する販売方法)による販売を開始することを決定し、右の販売はある程度の成功をおさめたものの、カウンセリング販売による売上は下落し続けたため、平成四、五年には、アルティマⅡブランドを再登場させるなどし、また、平成五年からは、各店舗ごとに成績評価分析を実施し、不採算店を閉鎖するなどしたが、売上は伸びず、平成七年度のカウンセリング販売による売上高は約一九億円にまで下落した。
他方、債務者の唯一の株主であるレブロンアメリカ本社は、長年の間、債務者の財政状態を黙許してきたが、平成八年二月、公開会社になったこともあって、債務者の財政状態をこれ以上放置することはできないとし、債務者について、<1>カウンセリング販売方式による事業部門全体を閉鎖する、<2>日本国内においてのみ販売される日本向け製品を除き、国内にある生産機能を米国に移転する、<3>各店舗向けの出荷業務は、主として卸売業者が取り扱う、<4>債務者は営業収益を確保できるように事業規模を縮小する等の方針を定めた。
これを受けて債務者は、平成八年三月、化粧品のカウンセリング販売活動を、同年九月を目処に終了し、将来はセルフ・セレクション事業とトイレタリーズ(ヘアケア製品であるシャンプー、リンス、ヘアパック等の販売)事業を中心とするとの内容の経営方針を決定し、また、セルフ・セレクション製品で国内生産を行っているいくつかの製品については、同年一一月以降は、海外での生産拠点へ生産を移行させる方針をたてた。
5 本件解雇通知に至る経緯
(一) 債務者は、右カウンセリング販売活動の中止に伴う人員削減のため、平成八年四月一〇日、組合に対し、対象者を、美容部員全員及び生産統括部一般職一五名のうち一一名、退職日を同年六月三〇日とし、退職金として会社都合退職金(退職金規定に定める勤続年数、会社都合乗率及び基本給により計算した退職金)のほか特別加給金(基本給の二か月)を支払うものとして希望退職者募集を行うことを申し入れたが、右申入れは、組合との交渉の結果、同月二五日に一旦撤回された。
(二) 債務者は、同年七月二日、組合に対し、対象者を、前同様、美容部員全員及び生産統括部一般職一五名のうち一一名、退職日を同年九月三〇日とし、退職金として会社都合退職金のほか増額した特別加給金(基本給の四か月)を支払うものとして、希望退職者募集を実施することを申し入れ、組合と繰り返し協議した結果、同年一〇月一一日、組合の同意を得て、対象者を、レギュラー美容部員在籍者一一八名中一〇八名、生産統括部一般職在籍者一五名中一一名、退職日を同月三一日とし、退職金として会社都合退職金のほか増額した特別加給金(<1>基本給の七・五か月分、<2>勤続満一年につき一万五〇〇〇円、<3>勤続二〇年以上の社員については一年につき三万円加算、<4>家族一人につき五〇万円)を支払うものとして、希望退職者を募集した。その結果、一一〇名の美容部員が希望退職に応じたが、生産統括部一般職からは、希望退職に応ずる者がなかった。
(三) 債務者は、同年一二月三日、組合に対し、対象者を、営業部員在籍者四一名中一一名、トレーナースタッフ及び営業管理スタッフ在籍者一〇名中五名の合計二一名とし、前同様の退職金を支払うこととして、希望退職者の募集を行うことを申し入れ、組合の同意を得て、希望退職者を募集したが、営業部員のうち一名がこれに応ずるにとどまった。
(四) 債務者は、平成九年一月二三日、組合に対し、対象者を、<1>生産統括部及び技術部から一一名、<2>営業全部門から一二名、<3>G&S(財務担当、人事部、秘書室)スタッフから四名の合計二七名、退職日を同月三一日、退職金として会社都合退職金のほか前同様の特別退職金を支払うものとして希望退職者を募集することを申し入れたが、組合はこれに反対した。
(五) しかし、債務者は、同年二月二八日の団体交渉において、組合に対し、「同年三月四日の夕方までに希望退職募集の内容の見直しを行い、具体的な希望退職プログラムを一週間ほどで実施したい」と伝え、組合の同意を得ないまま、同年三月四日、対象者を、マーケティング、マーケティング・サービス、マーチャンダイジングの正社員及び契約社員を除く、<1>生産統括部及びテクニカルサービス部から九名、<2>営業全部門から九名、<3>経理部・情報管理室・人事部・秘書室四名の合計二二名、退職日を同月三一日とし、退職金として会社都合退職金のほか前同様の特別退職金(<1>基本給の七・五か月相当額、<2>勤続満一年につき一万五〇〇〇円、<3>勤続満二〇年以上の社員については一年につき三万円加算、<4>扶養者一人につき五〇万円)を支払うものとし、募集期間を同月六日から同月一二日までとして、希望退職者を募集し、さらに、同月一八日、組合の同意を得て、対象者を、<1>生産統括部から九名、<2>右以外の全部署から一三名の合計二二名とし、退職金として会社都合退職金のほか増額した特別加給金(<1>基本給の九か月、<2>勤続満一年につき一万五〇〇〇円、<3>勤続満二〇年以上の社員については一年につき三万円加算、<4>扶養者一人につき七〇万円)を支払うものとし、募集期間を同月一九日から同月二四日までとして、希望退職者を募集したが、応募者は合計八名で、自己都合退職を申し出た二名とあわせても一〇名の人員削減にとどまった。
(六) この間の同年二月一三日ころ、債務者は、組合に対し、債務者が作成した個人別評価表の記入用紙の書式案を事前に組合に提示したが、組合はこのことについて協議を拒否した。その後、債務者は、個人別評価表の記入用紙を作成し、同年三月一〇日、各部門長に充て、右個人別評価表への記入を求めた。右個人別評価表は、<1>評価項目、評価ランク及び評価項目ウエイト付による評価点、<2>保有資格、専門知識・機能及び業務経歴、<3>現勤務地及び転勤の可否について記入を求める様式になっており、<1>については、「人事考課(一九九六年度評価)」、「業績」、「職務知識」、「協調性」、「信頼性」、「問題解決力」、「対人対応力」、「勤続年数」の合計八項目(営業系については、「人事考課(一九九六年度評価)」、「販売目標達成率」、「返品率」、「売掛金の回収・滞留状況」、「職務知識」、「協調性」、「信頼性」、「問題解決力」、「対人対応力」、「勤続年数」の合計一〇項目)について各評価項目毎に該当するランクの評価を記入し、ウエイトをかけて評価点を計算し、記入することとされ、<2>については保有資格、専門知識・機能及び業務経歴について具体的に記述することとされ、<3>については現勤務地及び転勤の可否について記述することとされている。
(七) 債務者は、同月一三日、一七日、一八日に組合と団体交渉を行い、同月三一日をもって、人員削減問題の決着をはかる旨の説明を行い、また、同月一三日には、組合に対し、「全社員を対象にして業績評価をしたうえで個別面談により希望退職者を募集したい」と伝えたが、組合は、退職強要になり、実質的な指名解雇であるとしてこれに反対した。また、債務者は、同月一七日までに、各職場の作業量、パート社員、臨時社員、外注社員に行わせるべき仕事はどれか等を検討し、部門別人員配置計画(書証略)を作成し、同月一八日、組合に対しても、右配置計画を配付した。右人員配置計画によると、債務者の配置予定人員は、オペレーションセンター八名、テクニカル・サービス部四名、営業部五三名等合計九六名となっているところ、平成九年二月現在の実配置人員はオペレーションセンター一七名、テクニカル・サービス部四名、営業部六二名等合計一一八名となっており、余剰人員は合計二二名とされている。
また、この間の同年二月下旬から同年三月一八日までに、債務者は、パート社員三一名の雇い止めを決定し、雇用契約の終了を通知した。うち、生産統括部においては、それまで合計二六名のパート社員が勤務していたところ、うち一六名が雇い止めの対象となった。
(八) 債務者は、部門別人員配置計画によると余剰人員が二二名と認められたところ、退職者が合計一〇名にとどまったことから、なお一二名の余剰人員があるものとして、同年三月二七日、組合に対し、翌二八日、債務者が選定した一二名の対象者(組合員一〇名、非組合員二名)と個人面談を実施して希望退職に応ずるよう最終的な説得を行いたい旨伝えたが、組合は、これに同意せず、組合員に対して債務者との個人面談に応じないよう説得したため、組合員は全員、会社との面談を拒否した。
債務者は、同月二八日、対象者一二名に対し、同月三一日付けで雇用契約を終了すること、退職金として会社都合退職金のほか希望退職募集時と同様の特別加給金(<1>基本給の九か月、<2>勤続満一年につき一万五〇〇〇円、<3>勤続満二〇年以上の社員については一年につき三万円加算、<4>扶養者一人につき七〇万円)を支払う旨の通知を郵送した。
6 被解雇者の選定過程
債務者は、被解雇者の選定にあたり、会社のビジネスニーズに沿って策定した部門別人員計画に基づき、前記個人別評価表に基づく人事評価が低位であった者から順に選定することとし、かつ、効率的業務遂行の面も選定の対象とするものとして、生産統括部浜松オペレーションセンターから七名、営業部門から五名を整理解雇の対象とした。債権者らのうち、五名は本件解雇通知当時、浜松オペレーションセンターに勤務していたものであり、三名は地方の営業所に所属してクラークとして勤務していたものである。
(一) 浜松オペレーションセンターにおける被解雇者の選定過程
浜松オペレーションセンターは、配送センター(物流センター)としての役割が主たるものであり、国内外から送付されてくる商品を貯蔵、保管し、取引先からの注文に従って国内に出荷し、返品を受領する作業をしている部署であるが、債務者は、カウンセリング販売の中止やセルフ・セレクション製品の海外生産移行等に伴い、浜松オペレーションセンター全体の化粧品の受注処理件数(取引先からの商品発注件数)が、平成七年度には一三万〇二八四件であったところ、平成八年度は七万五九四一件と減少し、同センターにおける仕事量も減少したこと、近時物流コストの削減は業界各社にとって経営上の緊急の課題となっているところ、債務者においても、コンピューター導入、機械設備導入等により業務の合理化を進展させてきたこと等から、正社員については七名の余剰人員があるのもと判断し、前記の人事評価の結果及び効率的業務遂行の面も判断基準として加味したうえで、会社の再建・維持に貢献することが少ないと判断した七名を被解雇者として選定した。なお、前記人事評価の評価項目の合計点が、債権者らよりも低位にありながら、本件解雇通知の対象とならなかった社員がいるが、右社員は、テクニカルサービス部に所属し、品質管理を担当していたため、同人の知識、技能、経験が会社に必要と判断された。
本件解雇通知後、オペレーションセンターは、正社員八名の体制で処理されることになり(テクニカル・サービス部及び経理部を含まない)、他に、パートタイマー八名(フルタイマー七名、半日一名)が勤務しているほか、セルフ・セレクション製品の海外生産への移行にあたって、当初の予定は完成品を米国から輸入することになっていたところ、現段階では暫定的に半完成品を輸入し、最終作業をオペレーションセンターで行っており、このような仕事や返品業務等に従事させるため、臨時社員を雇用している。また、従来から、トイレタリー商品の受け入れ、出荷業務は浜名梱包株式会社(以下「浜名梱包」という)に外注しており、その従業員もオペレーションセンターの敷地内で働いている。
債権者小倉とみ子は検品業務、同溝口和江と同小宮つるは返品業務、同鈴木エツ子は納品伝票業務、同杉山義博は販促品出荷、新製品出荷を担当していたものであるが、これらの業務は現在、他の正社員やアルバイト社員等が担当している。
(二) 営業所勤務のクラークの選定過程
債務者は、平成九年四月まで、北海道、東北、関東、中部、関西、九州の全国六箇所に営業所を有しており、各営業所において、営業(美容部員によるセールスその他のセールス)と営業管理を行ってきたが、カウンセリング販売の中止に伴い、営業所業務の中心的存在であった美容部員の仕事がなくなり、営業所営業管理担当クラーク業務の業務量が減少したこと、また、カウンセリング販売の中止を契機として、債務者は、営業管理の仕事を東京で一括集中して行うこととし、東京本社において各地担当セールスマンと直接連絡を取り合い、営業活動を支援する体制を敷くこととし、担当セールスマンに対しては、ポケットベル、社内専用ボイスメール、携帯電話等の情報伝達手段を配備したので、営業所に営業管理クラークを配置する必要がなくなったものとして、前記人事評価の結果と効率的業務遂行の観点から、北海道営業所で主にカウンセリング販売に関連した営業管理の仕事に従事していた債権者兼平真理子、関西営業所でカウンセリング販売に関連した営業管理の仕事に従事していた債権者奥田勝彦、九州営業所で主にセルフ・セレクション販売事業に関連した仕事に従事していた債権者田中ひとみの三名と営業部員二名の五名を営業部門からの被解雇者として選定した。なお、クラーク六名、トレーナー一名、秘書一名の合計八名中、前記人事評価の評価項目の合計点が、債権者らよりも低位にありながら、本件解雇通知の対象とならなかった社員がいるが、いずれも東京勤務のクラークであり、前記のとおり営業管理の東京一括集中体制の実施の観点から選定の対象とならなかった。
北海道営業所は、カウンセリング販売中止後の時点で、八名(うちクラーク一名)が勤務していたが、本件解雇通知後、北海道営業所は東北営業所とともに平成九年五月閉鎖された。
関西営業所は、カウンセリング販売中止後の時点で、二三名(うちクラーク一名)が勤務していたが、本件解雇通知後、同営業所にクラークは置かれていない。また、同営業所は、同年六月規模が約六〇パーセント縮小された。
九州営業所は、カウンセリング販売中止後の時点で、一一名(うちクラーク一名)が勤務していたが、本件解雇通知後、同営業所にクラークは置かれていない。
二 いわゆる整理解雇が有効とされるためには、一般に、<1>人員削減の必要性、<2>人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、<3>整理対象者選定の合理性、<4>整理手続の妥当性の要件を満たすことが必要と解されるところであり、前記疎明事実に基づき、右要件の有無につき検討する。
1 人員削減の必要性
前記のとおり、債務者は、昭和五四年以降、恒常的な赤字経営の状態にあり、昭和五七年以降、希望退職者の募集等、度重なる経営合理化が実施されてきたが、なお累積赤字は拡大し、平成七年度の期末未処分損失は約五四億円に及んだこと、そのため、債務者は、唯一の株主であるレブロンアメリカ本社の意向を受けて、平成八年三月、カウンセリング販売活動の中止、同事業部門の閉鎖、製品の海外生産移行、業務縮小等の経営方針を定め、それに伴い、カウンセリング販売活動に直接携わってきた美容部員及び関連部門の従業員について人員削減を行う旨決定し、組合との協議を経て、希望退職者を募集したこと、その結果、美容部員については目標数に達する応募があったものの、関連部門の従業員については目標数に達する応募がなく、債務者の策定した部門別人員計画によると人員余剰がなお一二名あるとされたこと、うち、浜松オペレーションセンターについてはカウンセリング販売の中止や業務の合理化に伴い業務量が減少したとして、地方営業所勤務のクラークについてはカウンセリング販売の中止や営業管理の東京一括集中体制がとられたことにより業務量が減少したとして、いずれも余剰人員があるものと判断されたことが認められるところであり、債務者は、会社は財政上破産寸前の状態になっており、本件のような合理化策を実施しないとすると、日本における事業を全面的に中止することも考慮せざるをえないと主張しているところ、右の判断過程に不自然不合理な点は認められず、右の人員削減は企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものと認められる。
債権者らは、債務者の経営方針は、債務者の営業状況のみによって決定されているのではなく、レブロンアメリカ本社の世界的を経営戦略に基づいて決定されてきたものであるところ、債務者は、本件解雇直後の平成九年度に基本給を一人平均一万一五八七円(基準内賃金約三・五六パーセント)増額し、平成一〇年度においても一人平均一万二一八三円(基準内賃金約三・六三パーセント)増額するなどの労働条件の改善を行うなど、なお事業の継続と発展の意欲を有しており、平成九年三月に人員削減を行わなければ会社の経営が危機に瀕するような状況にはなく、債務者は、経営赤字のために本件解雇に及んだのではなく、経営方針の変更に伴う労働力再配置の観点から余剰人員を削減しようとしたものである等と主張する。しかし、整理解雇の有効要件のひとつである人員削減の必要性とは、人員整理を行わなければ直ちに企業の倒産が必至であるという差し迫った状況にあることを要求するものとまで解することは困難であり、債務者がなお事業の継続と発展の意欲を有しているからといって、人員削減の必要性の要件を当然に欠くものとは言いがたく、また、レブロンアメリカ本社が従前、その経営戦略に基づき、債務者の長年の赤字経営を黙許していたからといって、累積赤字の増大を続けている債務者の現在の経営状況に照らすと、本件解雇時おいて、人員削減の必要性がなかったということも困難である。
また、債権者らは、少なくとも、浜松オペレーションセンターにおいては、本件解雇後においても、なお多数のパート社員、社外工が勤務しており、人員削減をする必要に迫られていたと認めることはできないと主張し、疎明資料によると、本件解雇後の平成九年一〇月二四日には、浜松オペレーションセンターにおいて、パートタイマー、外注社員、派遣社員合計四一名(臨時パートタイマーや一日限りの臨時作業員を含む)が勤務していたこと、債務者は、本件解雇直後の平成九年五月に女子長期アルバイトを募集していたこと、その後も、債務者の外注先である浜名梱包の子会社が浜松オペレーションセンターで勤務するパート社員を募集していること等が認められるところである。しかし、前記のとおり、債務者は、平成八年四月以降、生産統括部を対象とする希望退職者の募集を繰り返し行い、平成九年三月ころ、同センターにおける作業量やパート社員、臨時社員、外注社員に行わせるべき仕事はどれかを検討した結果、正社員七名とパート社員一六名を人員削減の対象としたものであり、これまで正社員の行ってきた作業のうち、臨時的・補充的作業や短期的作業については、パート社員に行わせるものとし、また、トイレタリー商品の出入庫・倉庫管理や化粧品の出荷作業等を、従来通り、倉庫管理・物流システムのトータル運営機能をもつ総合物流会社に業務委託するものとしていることは、事業コストを削減し、経営を合理化するのための措置のひとつとして是認しうるところであり、なお多数のパート社員や外注社員が勤務していることを理由に、人員削減の必要性がなかったものということはできない。
2 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性
前記のとおり、債務者は、昭和五四年以降、数次にわたる希望退職者の募集、袋井工場の閉鎖、旧レブコに対する営業譲渡、不採算店の閉鎖等の経営努力を行ってきたが、累積赤字は増大を続けたため、平成八年三月にカウンセリング販売の中止等の新たな経営方針を決定したこと、その後、債務者はこれらに伴う人員の削減について希望退職者の募集によりその解決を図るべく、組合との協議を重ね、一部その要望を受け入れながら、特別退職金を増額するなどして、数回にわたり、希望退職者の募集を行ってきたが、なお、一二名の余剰人員を解消することができなかったものとして、本件解雇に及んだことが認められるところであり、債務者は整理解雇を回避するための努力を尽くしたものであって、人員削減の手段として整理解雇を選択することはやむを得ない必要に基づくものと認められる。
債権者らは、整理解雇に先立ち、退職条件を改善して希望退職者を募集し直すことや、パートタイマー・社外工の削減、一部の従業員の勤務場所あるいは職種を変更させて他部門に配置したりすることによって労働力の配置を調整し、余剰人員を吸収することが可能である場合もありうるのであるから、これらの手段を尽くしていない限り、整理解雇回避の努力を尽くしたということはできないと主張する。しかし、前記認定の本件解雇に至るまでの経緯、特に、債務者がそれまで特別退職金を増額するなどしながら、数回にわたり、希望退職者の募集を行ってきたことや、本件解雇通知前に、パート社員三一名についても雇い止めを決定し、雇用契約の終了を通知していること、各職場の作業量、パート社員、臨時社員、外注社員に行わせるべき仕事はどれかを検討したうえで、人員配置計画を策定し、最低限必要と認められるパート社員のみを雇用するものとしていること等に照らすと、債務者がさらに希望退職者の募集をせず、パート社員、社外工の削減を行わなかったからといって、整理解雇回避の努力に欠けていたものということは困難である。また、本件疎明資料によると、本件解雇通知に先立ち、債権者らにそれぞれ勤務場所あるいは職種の変更に応ずる意思の有無を質すなどはしていないものと認められるが、個人別評価表には転勤の可否について記入を求める欄があり、転勤の可否についても全く考慮の対象となっていなかったものとまでいうことはできず、また、債務者は、ほぼ全部署を対象として希望退職者の募集を行っていることや、債務者の策定した部門別人員配置計画等に照らしても、他部門の余剰人員を受け入れうる部署が現実に存在しえた可能性は乏しく、債務者が債権者らに対し、勤務場所ないし職種の可否は個々的に確認せず、他部門への配置について具体的に検討しなかったからといって、整理解雇回避の努力に欠けていたものとは認めがたい。
3 整理対象者選定の合理性
前記のとおり、債務者は、平成九年二月一三日ころ、個人別評価表の記入用紙の書式案を組合に示したうえで(但し、組合はこれについての協議を拒否した)、各部門長に当てて、個人別評価表への記入を求め、これに基づく人事評価が低位であった者から順に選定することとし、かつ、効率的業務遂行の面を選定の対象とすることとして、被解雇者を選定したものであり、債務者が不合理な解雇基準をたてたり、組合の意向を全く無視して評価基準をたてたりしたものではなく、具体的な被解雇者の選定過程は前記一6記載のとおりであって、右評価は従前定期的な考課を行ってきた各部門長が担当しているところ、その具体的な評価にあたって、重大な事実誤認や不公平で恣意的判断がなされたことを窺わせる資料や、債権者らに対して偏見をもってなされたことを窺わせる資料等はなく、被解雇者の選定は合理的に行われたものと推認されるところである。
債権者らは、債務者の評価基準項目は、いずれも極めて抽象的であって、評価者の恣意的、主観的判断の介入を許すものである等と主張するが、人事評価、成績評価を行う場合、その基準がある程度抽象的なものとなり、評価者の主観的判断の余地を残すものとなるのは避けがたいところであり、抽象的であることをもって、直ちに右基準が合理性を欠くものということは困難であり、債務者の作成した個人別評価表の評価項目が、通常人事考課において採用されている評価項目と比し、格別恣意的、主観的判断の介入の余地が大きいものとも認めがたい。
4 整理手続の妥当性
前記のとおり、債務者は昭和五四年以降累積赤字を増大させてきたものの、従来はレブロンアメリカ本社の経営方針に基づく営業を継続してきており、昭和五四年以降実施されてきた数次の人員削減に際しても整理解雇がなされたことはないこと、平成八年度中に美容部員一一〇名が希望退職の募集に応じ、カウンセリング業務廃止の目的は一応達成できたものとみられるところであり、これらの諸事情に照らすと、組合や従業員らとしては、人員削減問題の解決は希望退職者の募集等によってはかられ、整理解雇が行われることは予想していなかったものとみられ、債務者としても、従来、希望退職者の応募が目標数に達しなければ整理解雇を行う旨、組合や従業員らに明示的に告げたことはないこと、債務者は、平成九年三月中旬、組合に対し、同月中に人員削減問題の決着をはかる旨繰り返し説明し、その前後ころから、部門別人員配置計画の作成、個人別評価の実施等の作業を行うなど、本件解雇通知に向けての直前手続が、従前の債務者と組合との協議状況等に比し、性急になされた嫌いがあり、債権者らや組合にとって、本件解雇通知は唐突になされたものであり、組合と十分に協議を尽くさないままなされた一方的なものと受け取られたのも無理からぬところがあるものというべきである。
しかしながら、債務者は、平成八年三月に新たな経営方針を決定した後、カウンセリング業務の廃止やそれに伴う美容部員及び関連部門の人員削減について組合の理解を求めるべく、希望退職者の募集を一旦撤回したり、退職条件を改善するなど、ときには組合の要望を受け入れるなどしながら、組合との協議を重ね、希望退職により人員削減の目的を達すべく、その募集を繰り返してきたこと、債務者は、事前に個人別評価表の書式案を組合に示したり、個別面談の実施による希望退職者の募集を組合に提案するなどしたが、組合は、実質的な指名解雇に繋がるものとして、これらに関する協議を拒否してきたこと等の諸事実も認められるところであり、これらの事実に照らすと、整理解雇の実施の有無やその手段方法等に関する組合との事前の協議という面において不十分な面があったとの評価を免れないとしても、本件解雇がその手続上、妥当性を欠き、解雇権の濫用にわたるものと認められる程度に達しているといえるのかについては疑問の余地のあるところである。
そして、本件保全申立後、債務者は、解雇要件の有効性について主張をするなかで、人員削減及び整理解雇の必要性、被解雇者の選定手続等について債務者の主張を債権者らに伝え、また、本件保全手続内における和解交渉において、特別退職金を上乗せして支給する等の和解案を提示するなどしており、また、平成九年三月以降、人員削減の必要性等、整理解雇の他の有効要件の充足性の判断に変更を加えるような事情の変更があったものと認められない状況の下において、債務者のした予備的解雇の意思表示についてまで、その手続が妥当性を欠き、解雇権の濫用にわたるものとは認めがたい。そうしてみると、遅くとも、平成九年一二月三一日より後には、債権者らは債務者の従業員としての地位を有していないものと認められるから、現在においても、債権者らが債務者の従業員としての地位を有することを前提とする本件保全の申立ては、その被保全権利について疎明がないものというべきである。
三 以上のとおりであるから、本件申立てをいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 内山梨枝子)
別紙(略)