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静岡地方裁判所浜松支部 昭和41年(ワ)277号 判決 1968年7月03日

主文

一、被告等は連帯して、原告山川保に対し金一、八〇七、九二三円、原告山川純江に対し金一、六八五、六七八円及びこれらに対する昭和四一年一一月二八日より右各金員の支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告等のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その三を被告等の連帯負担とし、その一を原告等の連帯負担とする。

四、この判決は、原告等勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告等の申立

「一、被告等は連帯して、原告山川保に対し金二七一万円、原告山川純江に対し金二四七万円、及びこれらに対する昭和四一年一一月二八日より右各金員の支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、二、訴訟費用は被告等の連帯負担とする」との判決及び仮執行の宣言を求める。

二、被告等の申立

「一、原告等の請求はいずれも棄却する。二、訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求める。

第二、主張

一、原告等の請求原因

(一)  被告合資会社谷田産業(以下単に被告会社という)は土木建築請負業を営み、被告谷田亀市(以下単に被告谷田という)は被告会社の無限責任社員であり且つ現在同会社の清算人である。他方原告等は後記本件事故の被害者山川文子の父母である。

(二)  被告会社の従業員である自動車運転者訴外山下庄次郎は、昭和四一年四月一四日被告会社の保有する自動三輪貨物自動車(マツダ六二年式、浜松六す六五号)を運転し被告会社の業務に従事していたが、同日午後五時五分頃同車を運転して時速約三五粁で南進し、静岡県浜名郡湖西町新所岡崎梅田入会地一二番の八九地先道路(幅員約七米)にさしかかり、道路前方右側を歩いていた山川文子(当時六才)他二名の女児の側方を通過しようとした際、不注意にも同児等の動静を注視せず漫然自車を進行させた過失により、道路左側に向け横断しようとした右文子他一名に自車を衝突させて路上に転倒させ、よつて同日午後六時五分頃豊橋市二川町字中町一五一番地草野医院において右文子を脳内出血のため死亡するに至らせた。(以下単に本件事故という)

(三)  本件事故により原告側の蒙つた損害は次のとおりである。

(1) 治療費及び葬祭費等原告山川保につき金二四〇、六九九円原告山川保は故文子の治療及び葬祭の費用として合計金一五八、九〇六円を支出したほか、法要費として金八一、七九三円を支出した。

(2) 訴外文子が喪失した得べかりし利益 金一、二〇四、七三六円

右文子は、本件事故当時六才の健康な女児であつたところ、厚生省発表の第一〇回生命表(総理府統計局編第一六回日本統計年鑑による)によれば、六才の女児の平均余命は六五・五四年であるから、少なくとも同女は二〇才から五九才までの四〇年間稼働可能であり、その間女子としての平均賃金を得ることができたものというべきである。しかして労働大臣官房労働統計調査部編さんの「賃金構造基本統計調査報告」(前記統計年鑑による)によれば、わが国の全産業労働者(但し企業規模一〇人以上の事業所のもの)の女子の平均月間給与は、

(イ) 二〇才から二四才まで 金一五、九〇〇円

(ロ) 二五才から二九才まで 金一七、六〇〇円

(ハ) 三〇才から三四才まで 金一八、六〇〇円

(ニ) 三五才から三九才まで 金一七、九〇〇円

(ホ) 四〇才から四九才まで 金一七、五〇〇円

(ヘ) 五〇才から五九才まで 金一七、四〇〇円

であるから、将来同女は稼働により毎月右の金額を下らない収入を得るものとしてよい。そこで右収入を得るために必要生活費等の支出を収入の六割とみて右収入額よりこれを控除した残り四割が得べかりし利益であり、その額は

(イ)の期間の合計金額 金三八一、六〇〇円

(ロ)〃 金四二二、四〇〇円

(ハ)〃 金四四六、四〇〇円

(ニ)〃 金四二九、六〇〇円

(ホ)〃 金八四〇、〇〇〇円

(ヘ)〃 金八三五、二〇〇円

となる。更にこれよりホフマン式計算法(単式)により中間利息(年五分)を控除した各期間毎の現在金額は、

(イ)の期間の合計金額 金一九五、六九二円

(ロ)〃 金一九二、〇〇〇円

(ハ)〃 金一八二、二〇四円

(ニ)〃 金一五九、一一一円

(ホ)〃 金二五〇、〇〇〇円

(ヘ)〃 金二二五、七二九円

右合計 金一、二〇四、七三六円

となる。従つてもし同女が本件事故にあわなければ、右合計金額を下らない現在の利益を得たものというべきである。

(3) 慰藉料

(イ) 訴外文子につき、金一五〇万円

右文子が本件事故によつて負傷し、死亡に至るまでに蒙つた精神的苦痛は甚大であるから、その慰藉料は金一五〇万円を下るものではない。

(ロ) 原告等につき、各金一五〇万円

原告両名は生来健康な右文子の成長を楽しみに幸福な生活を送つてきたところ、本件事故により突如として愛児の生命を奪われたもので、原告等の精神的打撃は甚大である。よつてその慰藉料は各金一五〇万円を下るものではない。

(4) 相続 原告等につき各金一、三五二、三六八円

原告等は訴外文子の父母として、前記(2)及び(3)(イ)記載の同女の損害賠償債権金二、七〇四、七三六円を各二分の一である金一、三五二、三六八円宛相続により取得した。

(5) 保険金の受領 原告等につき各金四九六、六九〇円

原告等は本件事故につき、自動車損害賠償責任保険金九九三、三八〇円を各二分の一である金四九六、六九〇円宛の支払を受け、(4)記載の各自の相続債権のうち訴外文子の得べかりし利益の喪失による損害賠償の元本債権に充当した。

(6) 弁護士費用 原告等につき各金一二万円

原告等は、本件訴訟代理人弁護士二名に対し本件の訴訟遂行を委任し、日本弁護士会報酬規程の最低料金による報酬を目的達成時に支払うことを約したので、右約旨に従い右弁護士等に対し手数料及び謝金として前記(1)、(3)(ロ)及び(4)の合計金額から(5)の金額を控除した金四、九五二、〇五五円に右最低割合以下の五分を乗じて算出した金額のうち金二四万円の各二分の一である金一二万円宛の債務を負担した。

(四)  よつて被告会社は訴外山下庄次郎の使用者として、又右車の保有者として、被告谷田は被告会社に支払能力がないので無限責任社員の立場において、連帯して、原告山川保に対し前項(1)、(3)(ロ)、(4)及び(6)の合計金額から前項(5)の金額を控除した総計金額金二、七一六、三七七円のうち金二七一万円、原告山川純江に対し前項(3)(ロ)、(4)及び(6)の合計金額から前項(5)の金額を控除した総計金額金二、四七五、六七八円のうち金二四七万円、及びこれらに対する本件訴状が被告等に最終に送達された日の翌日である昭和四一年一一月二八日より右各金員の支払済に至るまで年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払うべき義務があるから、その支払を求めるために本訴に及ぶ。

二、請求原因に対する被告等の答弁

請求原因事実(一)(二)はすべて認める。同(三)のうち損害の点はすべて否認。但し(5)の原告等主張のとおり保険金の支払を受けたことは認め、(6)の原告等主張の委任による報酬契約の点は不知。

第三、証拠〔略〕

理由

一、請求原因事実(一)(二)(被告等の地位、訴外文子と原告等の身分関係、被告会社が本件加害自動車の保有者であること、及び本件事故が被告会社の従業員である訴外山下庄次郎の過失によつて発生したこと)は当事者間に争いがない。

二、よつて次に本件事故によつて発生した損害につき、被告等がこれを争うので判断する。

(1)  治療費及び葬祭費等 原告山川保につき金一二二、二四五円

原告山川保は、訴外文子の治療費及び葬祭費等として金二四〇、六九九円を支出したと主張するが、〔証拠略〕によれば、同原告は治療費及び診断書料として金六、三四五円、葬祭費として金八二、〇五〇円、初七日の法要費として金二五、六五〇円、及び右葬祭等のために利用したタクシー料金として金八、二〇〇円をそれぞれ支出したことが認められ、結局合計金一二二、二四五円を治療費及び葬祭費等として支出したことになり、右金額を超える部分についてはこれを認める証拠がない。

(2)  訴外文子が喪失した得べかりし利益 金一、二〇四、七三六円

〔証拠略〕によれば原告等主張のようなわが国の全産業労働者の女子の平均月間給与が原告等主張通りの金額であることを認めることができる。

ところで、幼女児の如き現在無収入の者でも不法行為により生命を害されたときは、不法行為なかりせば将来生存して稼働年令期間内に得べかりし収入を失つたものと認めるべきは経験則上当然であつて、当該幼女児の将来において得べかりし収入額については、幼女児が将来主婦ないし家族の一員として家事労働に専従する場合であると、家事以外の仕事に従事して稼働する場合であるとを問わず、通常人としての労働能力が明らかに欠除している等の特段の事情がないかぎり、少なくとも原告等主張の如き女子の平均月間給与によつてこれを算定するのが相当である。従つて、本件の場合右文子は当時六才の健康な女児であつたから(この事実は原告山川保本人尋問の結果によつて明らかである)少くとも二〇才から五五才に至るまでの期間稼働可能であると認めるべく、右の期間は、少くとも原告等主張通りの平均月間給与による収入を得たものと認めるのが相当である。しかして右文子の支出は原告等主張の如く多くとも収入の六割とみるのが相当であるから、右収入額からこれを控除した残り四割が得べかりし利益となりその額が原告等主張のとおりであることは計数上明らかである。更にこれよりホフマン式計算方法(複式)により中間利息(年五分)を控除した各期毎の現在合計金額は、

二〇才から二四才まで 金二一二、三二二円

二五才から二九才まで 金二〇六、三〇〇円

三〇才から三四才まで 金一九四、二七三円

三五才から三九才まで 金一六八、五七五円

四〇才から四九才まで 金二八七、八六八円

五〇才から五五才まで 金一五〇、八三七円

となり、右合計金一、二二〇、一七五円が右文子の死亡時現在の利益額であるところ、右金額は原告等の請求金額を超えているから、原告等の主張はもとより理由がある。

(3)  慰藉料 (イ)訴外文子につき金一五〇万円、(ロ)原告等につき各金七五万円、

訴外文子が本件事故により負傷し死亡するまでに蒙つた精神的苦痛及びその両親である原告等が右文子を失うことによつて蒙つた精神的打撃は、ともに甚大であることは想像に難くなく、よつてその慰藉料は本件に現われた全資料により、(イ)右文子につき金一五〇万円、(ロ)原告等につき特に原告等が右文子の取得した慰藉料請求権を相続し本訴においてこれを行使している事情をも斟酌し各金七五万円をもつて相当と認める。

(4)  相続 原告等につき各金一、三五二、三六八円

原告等が訴外文子の父母であることは冒頭に説明したとおりで、〔証拠略〕によれば右文子の相続人は原告等だけであると認められるので、原告等はその主張通り右文子の死亡により各金一、三五二、三六八円を相続により取得したと認められる。

(5)  保険金の受領 原告等につき各金四九六、六九〇円

原告等は、その主張通り保険金の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、従つて原告等主張の充当により前項(4)の金額が右充当額だけ填補されたことになる。

(6)  弁護士費用

〔証拠略〕によれば、原告等主張の通り訴訟委任にもとずく報酬契約があつてその金額が金二四万円であつたことが認められるところ、およそ交通事故の被害者側が加害者側から任意に損害賠償債務の履行を受けられない場合には訴を提起することを要し、そのためには弁護士に訴訟委任するのが通常であるから、これに要する弁護士費用も事件の難易の程度、請求額、認容額等諸般の事情を考慮し相当と認められる額が、右交通事故と相当因果関係にある損害とみるべきであり、これを本件についてみるに、右相当と認められる額は前記約定報酬額のうちの金一六万円とみるべきであり、原告等は各自右金額の各二分の一である各金八万円と同額の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

三、以上の次第であるから、被告会社は本件加害車の保有者として、被告谷田は被告会社の無限責任社員の立場において、連帯して、原告山川保に対し前項(1)、(3)(ロ)、(4)及び(6)の合計金額から前項(5)の金額を控除した額金一、八〇七、九二三円、原告山川純江に対し、前項(3)(ロ)、(4)及び(6)の合計金額から前項(5)の金額を控除した額金一、六八五、六七八円、及びこれらに対する本件事故後で本件訴状が被告等に最終に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四一年一一月二八日より右各金員の支払済に至るまで年五分の民事法定利率による遅延損害金を支払うべき義務を負うことは明らかである。

よつて原告等の被告等に対する本訴請求は右認定の限度において理由があるのでこれを認容し、その余の部分はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文第九三条第一項但書を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 久利馨 片桐英才 青木誠二)

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