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静岡家庭裁判所 平成16年(少イ)2号 判決 2004年5月06日

被告人 U・M (昭和43.7.21生)外1名

主文

被告人U・Mを懲役1年6月に、被告人U・Hを懲役1年2月にそれぞれ処する。

被告人U・Hに対し、この裁判確定の日から3年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

分離前の相被告人Aは無店舗型風俗業を営むものであり、被告人両名は、その従業員として稼働していたものであるが、上記3名は共謀のうえ、B(昭和62年×月×日生、当時16歳)が、満18歳に満たない児童であることを知りながら、平成15年12月5日午前4時27分ころ、静岡市○○××番地の××ホテル○○××号室において、遊客であるCに対し、前記Bを児童買春の相手方として引き合わせたうえ、そのころ、同所において、同児童をして、前記Cを相手に口淫等の性交類似行為をさせ、もって児童買春の周旋をし、児童を淫行させたものである。

(証拠の標目)

<編中略>

(確定裁判)

被告人U・Mは、平成16年3月18日静岡地方裁判所で道路交通法違反により懲役8月に処せられ、同裁判は同年4月2日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人らの判示所為のうち、児童買春の周旋をした点は刑法60条、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律(以下「児童買春等処罰法」という)5条1項に、児童に淫行をさせた点は、刑法60条、児童福祉法60条1項、34条1項6号にそれぞれ該当するが、これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから、同法54条1項前段、10条により1罪として重い児童福祉法違反の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、被告人U・Mについては、前記確定裁判のあった道路交通法違反の罪と刑法45条後段の併合罪であるから、同法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示児童福祉法違反の罪につきさらに処断することとし、その所定刑期の範囲内で被告人U・Mを懲役1年6月に、被告人U・Hを懲役1年2月にそれぞれ処し、被告人U・Hについては、情状により、刑法25条1項を適用して、この裁判確定の日から3年間、上記刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法181条1項ただし書により被告人らに負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被周旋者であるCには被害児童が18歳未満の者である旨の認識がないので、本件につき児童買春周旋罪は成立しない旨主張する。

たしかに、児童買春周旋罪は、児童買春をしようとする者と児童との間にたって、児童買春が行われるように仲介することによって成立するものであるが、被周旋者において児童買春の認識(相手方が18歳未満の児童であることの認識)を有していることまでは要しないものと解するのが相当である。すなわち、児童買春等処罰法は、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することを目的として制定された法律であるところ、児童買春を周旋する行為は、被周旋者において児童買春を行う認識があるか否かを問わず、周旋行為自体により、児童に対する性的搾取及び性的虐待のおそれを生ぜしめるものであり、そのために、児童買春罪から独立し、同罪よりも重く処罰しているものと解されるところであり、児童買春罪に該当する行為を助長拡大する行為のみを処罰の対象としているものとは解しがたい。また、児童買春周旋罪が成立するためには、被周旋者において相手方が18歳未満の児童であることの認識を要するものと解すると、周旋者が児童の年齢を偽ることにより安易に同罪の適用を免れることになるが、かかる結果が法の趣旨と合致するものとは考えがたい。

以上のとおりであるから、被告人両名につき、児童買春周旋罪が成立するものと解される。

(量刑の理由)

本件は、分離前相被告人Aが営んでいた風俗業において、いわゆるヘルス嬢として稼働していた被告人U・Mと、その夫で、送迎運転手として稼働していた被告人U・Hとが、被告人U・Mの子である当時16歳の被害児童を、Aの営む風俗業に従事させたという事案であるが、本来であれば、児童の幸福とその健全な育成とを願い、児童を保護すべき立場にある被告人らが、率先してかかる犯行に及んだという点において、特異な事案である。人格の形成途上にあり、判断力等の未熟な児童を性的な業務に従事させることは、児童の心身に悪影響を及ぼすものとして処罰の対象となるものであるが、実の母親とその夫とがかかる行為に及んだことによって被害児童の心身に与えた悪影響は甚大なものがある。

そもそも本件被害児童には性的業務に従事する意思があったものではなく、借金を抱える被告人U・Mから数度にわたり勧誘された結果、かかる行為に同意したものであり、その点からも、被告人U・Mの責任は重大である。

被告人U・Mについては、上記事情に加え、同人は、本件と併合罪の関係にある道路交通法違反の罪により現在受刑中であること、同人の両親がその更生を願っていること、同人が本件を反省していること等の諸般の事情を考慮したうえ、主文の刑に処することを相当と判断した。

また、被告人U・Hについては、安易に本件犯行に及んでいる点については強く非難されるべきであるが、本件犯行への関与が比較的従属的、消極的なものであること、同人には前科前歴がなく、本件を反省していること等の諸事情を考慮し、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 内山梨枝子)

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