静岡家庭裁判所 昭和38年(少)1454号 決定 1964年2月08日
少年 N(昭一九・五・九生)
主文
本件を静岡地方検察庁検察官に送致する。
理由
(一) 罪となるべき事実
少年は自動車連転の業務に従事している者であるところ、
第一、昭和三八年二月○日午後〇時頃、自家用大型貨物自動車(静○せ○○○○号)を運転し、静岡市小鹿から同市辰起町へ向うため、時速約二五粁で同市○○町の道路を新静岡駅方向に向け進行中、同町○丁目○○番地附近において同一方向に向け自転車で右道路の左側を進行する山○富○(当七〇年)を追越そうとしたが、同所は幅員約一〇米の道路で、しかも、進路前方の両側に自動車が一台ずつ駐車しているため道路の幅員が狭められているのに加えて交通が頻繁であるから、斯る個所で道路の左側に駐車する自動車を通り抜ける際に右山○の自転車を追越すにあたつては直ちに停車できる程度に除行するのは勿論、自車が同人に接触しないように自車と同人との間に十分な間隔をとり進行するか、予め警音器を鳴らして同人に注意を与えて同人を安全な場所に停止させ、あるいは、自車を一且停止させて同人が安全な個所に移動してから進行する等の交通の安全を計つたうえ追越をし、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り殊に大型貨物自動車においては右に把手を切ると自動車の後部を左に振るから、左側を接近した距離で併進する人車に自動車の後部が接触することに注意を怠り、漫然、前記速度をやや減じたまま進行し、道路左側に駐車中の前記自動車の右側を通り抜けるため、自車の把手を右に切つて道路中央部に進出したため、自車の後部が左側に振れて、自車の左側を併進していた前記山○に接触し、その反動で同人を道路上に転倒させ、よつて同人に対し頭部外傷の傷害を負わせ、同月△△日午前三時四〇分頃、静岡県立中央病院において死亡するに至らしめた
第二、前記第一記載の交通事故を起したのに、被害者の救護並びに道路における危険を防止する等の必要な措置を講ぜず直ちにもよりの警察署の警察官に当該事故が発生した日時場所、負傷者の数及び程度等法定の事項を報告しなかつた、ものである。
右事実は下記の証拠により明らかである。
1 蔵田豊明の交通事故発生届及び同人の検察官並びに司法巡査に対する各供述調書
2 平野才市作成の実況見分調書三通
3 司法巡査作成の捜査報告書
4 松本和敏の司法巡査に対する供述調書
5 少年の審判廷における供述及び少年の司法警察員に対する供述調書
6 袴田文治作成の診断書
しかして第一の事実は、刑法第二一一条前段に、第二の事実は道路交通法第七二条第一項第一一九条第一項第一〇号にそれぞれ該当する。
(二) 検察官に送致する事由
少年は、昭和三四年一二月一五日、当裁判所において窃盗罪により保護観察に付されて静岡保護観察所の保護観察中の者であるところ、昭和三五年五月三〇日窃盗賍物収受の再非行につき保護観察中のゆえをもつて不処分となり、その後昭和三五年六月三〇日から昭和三七年八月二五日までに六回に亘り自動車の無免許運転により罰金に処せられ、ついで昭和三八年六月一九日及び同年一〇月一九日の二回に亘り業務上過失傷害罪によりそれぞれ刑事処分となつているところ、更に、本件を惹起したものである。少年は本件につき被害者側の不注意のみを責めて、自己の過失や責任につき何等反省をするところがない。
当裁判所は、少年の非行歴やその罪情に照して、本件は刑事処分が相当と認めて昭和三八年七月一〇日検察官送致をしたところ静岡検察庁は同年一二月二五日重要参考人(蔵田豊明)の供述がその後(家裁から受理後)かわり訴追が困難であるとして送致後の情況により訴追を相当でないことを理由に当裁判所に再送致をした。そこで当裁判所は本件につき再び調査審判をした結果、前記の各証拠資料により本件は有罪であることの心証を得られるところ、その罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認めるので、少年法第二〇条第二三条により主文の通り決定する。
(裁判官 相原宏)