静岡家庭裁判所島田出張所 昭和31年(家)756号 審判 1958年3月04日
申立人 佐藤辰造(仮名)
相手方 佐藤とみ(仮名) 外二名
主文
一、亡佐藤新一の遺産である別紙第一目録乃至第六目録記載の土地を、申立人佐藤辰造の所有とする。
二、申立人佐藤辰造は、相手方佐藤とみ及び同佐藤けいに対し夫々、金七万円を支払うこと。
理由
申立人の申立の要旨は、
亡佐藤新一は別紙第一目録乃至第六目録記載の土地を所有していたところ、昭和三十年二月○○日死亡したに因り相続が開始したので、その共同相続人である相手方佐藤とみは、右新一の配偶者として、右遺産の三分の一、相手方佐藤けいは、右新一の実子として、右遺産の三分の一、申立人佐藤辰造は、右新一の養子として、右遺産の三分の一を夫々相続したのであるが、右遺産は全部農地であり、これ等につき、小作人大野仙吉、永井寅一、山田甚一、岡田浩三、永井万吉、岡田金助等が小作権を有し、しかも相続人等は肩書地に居住する不在地主であるため、右遺産を小作人等に対し、売却する契約をなし、これが所有権移転登記手続をしようとしたところ、亡佐藤新一の戸籍簿に同人と親子関係のない、相手方野原みどりが二女として記載されてあり、このため、右移転登記手続に支障を来すので、右相手方野原みどりに対し前記事情を話して右移転登記手続に協力してくれるように頼んだが、同人は言を左右にして、これに応じない。よつて、当事者間に協議ができないから本件申立に及んだ、というにある。
そこで判断するに、
一、申立書添付の佐藤新一の戸籍謄本によると、同人は、昭和三十年二月○○日東京都○○区○町○丁目二十四番地において死亡したこと、相手方佐藤とみは亡新一の妻であり、相手方佐藤けいは亡新一と右とみ間の長女であり、申立人佐藤辰造は、昭和二十一年五月○○日右けいと婿養子縁組をなしたこと及び相手方野原みどりは亡新一と右とみ間の二女として記載されていることが明らかである。
二、ところで大沢圭一、同智雄、佐藤けい、同とみ、同辰造、及び野原みどり、同武男等の陳述によると、相手方野原みどりは、大沢圭一と亡野原トヨ間に、婚姻外の子として、昭和十五年一月○日出生したのであるが、実父大沢圭一は、自己の戸籍に右みどりを入れることにつき、家族に対する関係があり、好まないところから、実弟である亡佐藤新一に依頼し、右みどりを同人の二女として出生届をなさしめたため、みどりが戸籍法上亡佐藤新一と相手方佐藤とみ間の二女として違法に記載されたことが認められる。
そうすると、申立人としては、かかる亡佐藤新一の戸籍の記載の間違いを訂正してから、本件遺産分割の申立をなすことが事理にかなうこととなるが、更に、考えると、嫡出子でない者が、たまたま、戸籍簿に嫡出子として記載されたとしても、これがため該身分を取得すべき理由はないし、また、戸籍簿の記載は、その内容である身分関係につき、単に、一応の証拠となるだけであつて、絶対的公信力をもつものでなく、戸籍簿以外の他の証拠により戸籍簿の記載の内容が、真正の事実に反することを認めたときは、審判をなす必要な限度において、戸籍簿の記載に異なる真正の事実を認定することは、法律上許されるのみならず、戸籍訂正に関する戸籍法上の規定も、単に、戸籍の記載を真実に合致させるための手続を定めただけであつて、その訂正の手続を了した後でなければ、その記載と異なる事実の主張や認定を許さない法意ではないから、本件遺産分割の審判において、裁判所が、亡佐藤新一の戸籍の訂正をまたずして、前記証拠により、相手方野原みどりは、亡佐藤新一の二女ではなく、大沢圭一の婚姻外の子であるとして、その戸籍簿の記載に異なる事実の認定をなし、この認定のもとに亡佐藤新一の共同相続人である申立人佐藤辰造、相手方佐藤とみ及び同佐藤けいの三名が、本件遺産を分割することは、なんら妨げないといわなければならない。
三、次に、前記の通り、本件遺産の共同相続人は申立人佐藤辰造相手方佐藤とみ及び同佐藤けいの三名のみであるが、戸籍簿上相手方野原みどりも一応、共同相続人として記載されているため申立人佐藤辰造は、当裁判所に対し、相手方佐藤とみ及び同佐藤けいの他に、野原みどりをも相手方として昭和三十一年十月二十二日遺産分割を求める調停の申立をなしたところ、同人は調停に応ぜず、結局、同年十二月十八日該調停は不成立となつたものであるところ、かかる事件においても民法第九百七条第二項所定の共同相続人間に協議が調わないときに該当するものと考えて差支えないから、本件遺産分割の申立は適法である。
四、そこで、前記佐藤とみ、同けい、同辰造の陳述及び、申立書添付の登記簿の謄本によると、別紙第一目録乃至第六目録記載の土地は、いづれも、亡佐藤新一の遺産であり、しかして、申立人佐藤辰造、相手方佐藤とみ及び同けいは、これが遺産の共同相続人であるところ、右遺産の分割の方法については、申立人の意見の通り、相続人等は、右土地全部を現在の小作人大野仙吉等に対して売却する必要があるから、これが処分の便宜のため、右遺産に属する土地全部を、共同相続人である申立人佐藤辰造の単独所有となし、しかして、調査官松沢清の調査報告書及び本件記録編綴の農地売買契約書の写により、右土地全部の売買代金を金二十一万円と評価(右土地全部の価格は、合計金四十二万円相当であるが、これを小作人に売渡す場合の取引価格は通常価格の半値である)し、したがつて申立人佐藤辰造は、相手方佐藤とみ及び同佐藤けいに対し、いずれもその相続分に該当する金七万円を、それぞれ支払うことを相当であると認めるので、主文の通り審判する。
(家事審判官 相原宏)
(目録略)