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静岡家庭裁判所沼津支部 昭和40年(少ハ)5号 決定 1965年9月04日

本人 T・R(昭二〇・三・二一生)

主文

少年院の長は、ひきつづき、本人を昭和四一年三月二〇日まで中等少年院に収容することができる。

理由

静岡少年院長の本件申請の要旨は、「本人は、昭和三九年一〇月一三日、静岡家庭裁判所沼津支部において、強姦致傷保護事件により中等少年院送致決定を受け、同月一四日静岡少年院に収容された者であるが、その後は反則行動もなく、順次進級し、また、保護者側の受入れ体制も次第に整えられて来て、昭和四〇年九月九日に仮退院をする予定である。しかし、本人の順調な社会復帰を期するには、仮退院後もなお相当期間本人に対する補導監督、保護者に対する助言指導等のため保護観察の実施が必要と認められるところ、このまま仮退院を許可すれば同年一〇月一二日をもつて仮退院期間が満了し、従つて保護観察もまた終了することになる次第であるから、万全を期し、一〇ヵ月の収容継続決定を申請する。」というのである。

そこで、まず、仮退院(それには保護観察が伴なう。)の期間を考慮して、これを延長するために収容継続決定をすることができるかどうかを考えるのに、少年院法第一一条第二項および第四項にいう「収容を継続する」とは、文字通り少年院における身柄の収容を継続することをいうと解する見解もあり、規定の文言上理由なしとしない。しかし・本退院は、本来、「在院者に対して矯正の目的を達した」と認められるときに行なわれるものであるところ(少年院法一二条一項)、本退院に先立ち、いわば試験的退院である仮退院が認められており(同条二項)、そして、仮退院者については保護観察(犯罪者予防更生法第三三条以下)および戻収容(同法第四三条)の規定が設けられているところから見ると、少年院法第一一条第二項にいう「在院者の犯罪的傾向がまだ矯正されていないため少年院から退院させるに不適当である」とは、単に在院者の少年院収容前における犯罪的傾向および少年院における処遇経過ばかりでなく、出院後帰住先に帰つた場合の予後をも考慮して判定すべきものと解するのが正当である。従つて、仮退院が予定されている在院者について、右の意味における犯罪的傾向の矯正の程度を考慮して、仮退院後、少年院法第一一条第一項により定められた時期において仮退院、従つてまた保護観察が打ち切られることが不適当と予測されるときは、同条項により定められた時期を延期し、仮退院、従つてまた保護観察の期間を延長するために収容継続決定をすることができるといわなければならない。そして、かような解釈は、少年院当局が、在院者が処遇の最高段階に向上したときは、本退院の予定時期まで収容を続けることなく、できるかぎり、保護観察所と連絡をとつて帰住先の環境を調整し、保護観察のもとで仮退院をさせ、もつて順調な社会復帰に努めている実情からも是認されるものと考えられる。

さて、少年調査記録、当庁家庭裁判所調査官の本件についての調査結果、参考人静岡少年院長の陳述および審判の結果により考察すれば、本人は、少年院収容前は恐喝未遂、脅迫、強姦致傷等の累次の非行に見られるような粗暴犯的傾向、無規律、放縦な生活態度が認められたけれども、少年院における教育によつて漸次反省と自覚を深め、その成績も良好であり、最近は養豚作業に従事し、昭和四〇年九月九日に仮退院をする予定であるが、仮退院により帰宅すれば父とともに家業の農業をするほか養豚をやつて行きたいと希望しており、家庭は父母健在、中流の農家であり、父母ももちろん本人の速やかな仮退院を望んでおり、また、担当予定の保護司は本人の自宅の近くに居住し、本人および父母とすでに相互に理解のある人である。しかし、反面、本人の知能程度は低く(いわゆる限界域と判定されている。)、父母も本人に対してはやや盲愛的であり、また、近時富士宮市内に不良青少年の少なくないことは顕著であつて、仮退院後、少年院における規律ある生活態度がゆるんで、享楽を求め、行状不良な者と交際する等の無反省な生活態度に変ずる虞れがないではなく、この点を考慮すれば、本人の健実な社会復帰を図るためには、少年院送致決定後一年を経る昭和四〇年一〇月一二日をもつて仮退院期間を終了させることは不適当であり、さらに相当の仮退院期間、従つてまた保護観察の期間を設ける必要があると認められる。そして、その期間としては、本件申請の一〇ヵ月はいささか長期に過ぎ、仮退院予定の日から約六ヵ月、本人が満二〇歳を終了する昭和四一年三月二〇日までと定めるのが相当である。

以上の理由により、少年院法第一一条第四項、少年審判規則第五五条に従い、主文のとおり決定する。

(裁判官 大久保太郎)

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