静岡家庭裁判所浜松支部 平成13年(少)132号 決定 2001年3月21日
少年 T・F(1982.7.12生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第1 Aと共謀の上、平成13年2月6日午前10時28分ころ、静岡県浜松市○○町××番地有限会社○△専用駐車場において、B所有の普通乗用自動車内から同人所有の手袋1点(時価約500円相当)、C子所有の軽四貨物自動車内から同女所有のワイシャツ等2点(時価合計約1500円相当)をそれぞれ窃取し
第2 同日午後4時53分ころ、同県△△郡△□町△□××××番地先□○川橋西端道路上において、△△警察署司法巡査D他1名が、同署交通取締用自動車で道路を塞ぐように停車させ、職務質問などのために停車するように求めたのにこれを無視し、同車両の右後部に自車を故意に衝突させて逃走し、上記両名の警察官の職務の執行を妨害し
第3 上記日時・場所において、△△警察署長が管理する上記交通取締用自動車の右後部バンパー等を損壊し(損害額約12万6378円)
第4 公安委員会の運転免許を受けないで、上記日時・場所において、普通乗用自動車を運転し
第5 同日午後6時10分ころ、警察官からの追跡を免れるため、同県△△市□△町×丁目×番地の××E方敷地内に忍び込み、もって人の住居に侵入し
第6 法定の除外事由がないのに、同日午前11時ころ、同県△△郡□□町内又はその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の鼻腔から吸引し、もって覚せい剤を使用し
たものである。
(適用した法令)
第1について、刑法60条、235条
第2について、同法95条1項
第3について、同法261条
第4について、道路交通法118条1項1号、64条
第5について、刑法130条前段
第6について、覚せい剤取締法41条の3第1項1号、19条
(処遇の理由)
1 本件は、少年が、成人同国人と共謀して車上盗を犯したところ(本件第1)、その容疑でパトカーの追跡を受け、これを振り切るために自車をパトカーに衝突させてバンパー等を損壊し(本件第2、第3)、その際、無免許で普通乗用自動車を運転し(本件第4)、そして、自車から降りて徒歩で逃走するさなかに民家の敷地内に侵入したことで現行犯逮捕されたものであるが(本件第5)、その当時、覚せい剤を使用していた(本件第6)というものである。
少年は、日系3世のブラジル人で、平成11年10月に就労目的で単身来日し、しばらく派遣社員として稼働したものの、派遣期間の経過により失職して無為徒食の生活を送るうち、普通乗用自動車を無免許で運転したことから、観護措置を経て、平成12年7月19日に不処分となった。しかし、少年は、前件審判後も本邦にとどまり、定職に就くものの、平成13年1月に失職後は不良交遊や夜遊びに明け暮れるなど乱れた生活を送るうち本件各犯行に及んだものである。
このように、少年の規範意識の欠如は顕著で、非行性の深化と広がりもうかがえる。
2 少年の資質等については、知的には優域であるが、自己中心性が強く、物事を客観的、慎重に捉える姿勢や柔軟性が乏しく、こうした性行が本件各犯行を含めた上記問題行動につながり、また、一連の法的措置を経ても内省が深まらない要因となっている。
3 家庭環境についてみるに、両親は健在であるが本国におり、少年が単身本邦に入国するのを黙認するなど、これまで少年を放任といってよい状態にしてきたのであり、加えて、本邦において少年に対して指導をすることができる親類等は存在しない。
4 以上の諸事情を総合すれば、少年が再度鑑別所に収容されて反省の機会を与えられたことなどを斟酌しても、本件各犯行の内容、性質のほか、上記のような少年の行動上や性格上の問題点、保護環境、指導経過等に照らすと、少年を社会内処遇にするのは妥当ではない。加えて、少年がこれまでに保護処分を受けたことがないこと、非行が深刻化したのは特に最近に至ってからであること、少年の資質、年齢、更生可能性等からすれば、少年が現時点において在留資格を有しないことや本邦に親族などが存在しないことなどを考慮しても刑事処分は相当ではなく、この際、矯正施設に収容し、これまでの行動傾向について十分に洞察させ、規範意識を養わせていくことが必要である。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 村瀬憲士)