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飯塚簡易裁判所 昭和38年(ハ)70号 判決 1963年7月22日

原告 秋本波津子

被告 西野宇太彦

右訴訟代理人 西野郁子

主文

被告は原告に対し、金五万円及びこれに対する昭和三八年七月二日以降右支払済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が振出日昭和三七年八月二九日、金額五万円、支払期日昭和三八年二月二八日、支払地振出地とも福岡県嘉穂郡稲築町鴨生、支払場所株式会社福岡銀行稲築支店と定め、受取人の記載のない白地約束手形一通を振出したことは当事者間に争いがなく、原告が現に右手形を所持すること、昭和三八年七月一日の本件口頭弁論期日に、原告が右手形の白地部分である受取人欄を秋本波津子と補充したことは訴訟上明らかである。

なお、被告主張の抗弁については、被告において原告がその主張事実を承知の上訴外川守末松から右手形の譲渡を受けた悪意の取得者であることまで主張しないかぎり、抗弁自体失当として排斥を免れない。

ところで白地手形は、後日手形要件が補充されてはじめて完全な手形となるにとどまり、その補充があるまでは、未完成な手形にすぎない。したがつて、すでに白地手形上になされた手形行為も要件補充のときにおいてはじめてその効力を生ずることになるわけである。それ故、白地手形の要件補充前の手形上の権利行使は全く無効であつて、その後に白地の補充がなされても先の権利行使の効力が追完されるものではないから、要件の補充により完全な手形となつた後、もしくはこれと同時にあらためて権利行使をしなければならないものと解する。

本件につきこれをみるに、本件白地手形は本件訴訟係属中である昭和三八年七月一日の本件口頭弁論期日に原告により白地の補充がなされたことは前示認定のとおりであるから、このときはじめて被告は該手形につき振出人としての責任を負うことになると同時に、訴訟による手形上の権利行使の効力を生じたものということができるから、これにより爾後被告は遅滞の責を負うものというべきである。白地補充前、支払期日に原告が支払のため右手形を呈示したことは被告の明らかに争わないところであるが、これにより何等手形の呈示としての効力を生じないことは前段説示のとおりである。

してみれば、原告の本訴請求中、被告に対し本件手形金五万円及びこれに対する右白地補充の翌日である昭和三八年七月二日以降右完済に至るまで年六分の割合による損害金の支払を求める部分は正当であるが、爾余の部分は失当として棄却すべきである。

よつて民事訴訟法第九二条但書を適用の上主文のとおり判決する。

(裁判官 片山欽司)

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