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高松地方裁判所 平成11年(ワ)221号 判決 2001年8月29日

主文

1  原告と被告間において、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、海砂利採取同意料及び土砂仮受金の各補償金の配分を受ける地位にあることを確認する。

2  被告は、原告に対し、金九四万五〇〇〇円及び及びこれに対する平成一一年五月一六日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。

5  この判決第2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  主文1項と同旨

(2)  被告は、原告に対し、二一二万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告の負担とする。

(4)  仮執行の宣言

2  被告

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  被告は、漁業を営む組合員の事業又は生活に必要な物資の供給等を事業とする漁業協同組合であるところ、平成九年一月一日、高松漁業協同組合(以下「高松漁協」という。)、高松第一漁業協同組合、高松相互漁業協同組合、高松市西浜漁業協同組合の四漁協が合併(以下「本件合併」という。)して成立した。

2  原告は、高松漁協の正組合員であったが、本件合併に際し、被告から准組合員と認定された。そこで、異議の申立をなしたところ、これが認められ、平成一〇年六月一八日、原告の正組合員(出資額九万円)となった。

3  被告は、第三者から影響補償として交付された海砂利採取等による漁業補償金(以下、単に「砂利採取同意料」という。)を正組合員に分配するにつき、原則として次のような区分によっている。以下のA、B、Cの順に配分額が低下する。

(1)  A・船頭(AはA1、BはA2)

A 自船で一年のうち七か月以上営業している者(ただし、のり、こまし等特殊漁を除く。)

B 一年のうち、自船で四か月以上営業し、半年を他に雇用されて乗船をする者

(2)  B・船頭

自船で営業するが(1)に該当しない者

(3)  C・船方

一年のうち、六か月以上他に雇用されて乗船をする者

4  原告は、船方に該当する。

5  被告は、平成一〇年から同一三年にかけての砂利採取同意料につき、次のような内容の決定を行い、同決定に基づいて男性正組合員に現実に配分した。しかし、原告を含む女性正組合員には配分しなかった。

(1)  平成一〇年一二月八日、正組合員(船頭Aクラス)に対し二五万円、船方に一二万五〇〇〇円

(2)  平成一一年一月二六日、正組合員(船頭Aクラス)に三万五〇〇〇円、船方に二万円

(3)  平成一一年二月一三日、正組合員(船頭Aクラス)に二〇万八〇〇〇円、船方に一〇万四〇〇〇円

(4)  平成一二年一二月ころ、正組合員(船頭Aクラス)に三三万円、船方(ただし、一名を除く。)に一八万円

(5)  平成一三年一月ころ、正組合員(船頭Aクラス)に三万三〇〇〇円、船方に一万六〇〇〇円

6  原告は、船方として上記(1)について一二万五〇〇〇円、同(2)について二万円、同(3)について一〇万四〇〇〇円、同(4)について一八万円、同(5)について一万六〇〇〇円(合計四四万五〇〇〇円)の配分を受ける権利を有する。

7  被告は、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、砂利採取同意料及び土砂仮受金の各補償金の配分を受ける地位にあることを争う。

8  被告が配分金に関し、原告を含む女性正組合員を除外したのは、夫とともに漁業に従事する女性を夫の手伝いと位置づけ、正組合員として待遇しないという男女差別の考えに基づくもので、このような不平等待遇は、原告に対する不法行為を構成する。被告が配分金に関してなした女性差別により、原告は精神的に重大な打撃を受けた。これを慰謝するには、一〇〇万円をもって相当というべきである。

9  原告は、被告の女性差別を止めさせるために弁護士に委任して本訴を提起することを余儀無くされたが、被告の負担すべき弁護料は六〇万円が相当である。

10  よって、原告は、被告に対し、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、砂利採取同意料及び土砂仮受金の各補償金の配分を受ける地位にあることの確認と金二一二万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一一年五月一六日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める。

第3  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5を認める。

2  同6を争う。

3  同7を認める。

4  同8、9の不法行為の成立を争う。

第4  抗弁

1  被告の自治権(地位確認請求及び砂利採取同意料の請求に関する。)

(1)  被告は、水産業協同組合法に基づいて設立された法人であり、団体自治権を有し、砂利採取同意料の分配に関しては、補償資格審査委員会の諮問に基づき、理事会が決定している。

(2)  理事会は、砂利採取同意料が砂利採取による漁業事業体(世帯)の水揚減少の補償の趣旨で交付されるものであるから、その配分の単位を原則的に所帯を単位とすることを原則とした。このような考え方は、本件合併前の高松漁協においても同様であり、夫を補助するに過ぎない女性正組合員に砂利採取同意料を分配していなかった。

(3)  被告における女性正組合員数は、原告の主張のころには、三〇ないし三八名であるが、全て所帯主である夫の営む漁業事業体の一員(船方)として、従属的な立場で手伝いをしているに過ぎず、誰一人として、単独で事業を継続している者はいない実情にある。

(4)  被告理事会は、以上のような考え及び実情により、原告の主張する砂利採取同意料に関し、所帯単位で分配した結果、原告ら女性正組合員に結果として分配しないとの決定をなしたものである。女性正組合員が単独で事業を継続していない実情からすると、女性正組合員に砂利採取同意料を配分しても、夫に対する配分額がそれだけ減るから、一事業、一会計としてみると、家計に入る配分金は同額となること、女性正組合員は、事業主である夫から賃金の形で実質的に分配金を取得する可能性があること、男性の正組合員で船方をしている者については、砂利採取同意料を配分しているが、これはその男性の世帯主としての生活維持のために妥当であることからすると、十分に合理性があり、被告の自治権の範囲内である。

2  信義則ないし権利の濫用(前同)

(1)  被告は、当初、准組合員であった原告の異議に基づき、平成一〇年六月三〇日、原告ら女性正組合員全員を正組合員と認定したが、原告は、その資格変更を求めるにあたって、砂利採取同意料の分配を求めない旨を誓約し、これを信じた理事会において、正組合員の認定に踏み切った。

(2)  原告を除く、女性正組合員は砂利採取同意料の分配を求めていないし、その配分の単位を原則的に所帯を単位とすることに合理性があり、法律上、世帯単位で物事を定めている事例は、生活保護法農地法等多々あるところである。

(3)  以上によれば、原告の地位確認請求及び砂利採取同意料の請求は、信義則ないし権利の濫用として許されない。

第5  抗弁に対する認否

1  抗弁1につき

(1)  抗弁1の(1)を認める。

(2)  同(2)を否認ないし争う。

(3)  同(3)のうち、被告における女性正組合員が三〇名ないし三八名であり、単独で事業を継続している者がいないことを認める。

(4)  同(4)のうち、被告が女性正組合員に原告の主張する砂利採取同意料を配分しないとの決定をなしたことを認め、その余を争う。女性正組合員に砂利採取同意料を配分しないことに合理性はないから、被告の女性正組合員に砂利採取同意料を配分しない決定は、自治権の範囲内であるとはいえない。

2  抗弁2につき

(1)  抗弁2の(1)のうち、被告が准組合員であった原告の異議に基づき、平成一〇年六月三〇日、原告ら女性正組合員全員を准組合員から正組合員に資格変更したことを認め、その余を否認する。

(2)  同(2)を争う。

第6  再抗弁

1  信義則ないし権利の濫用の阻却

(1)  被告は、原告が高松漁協の正組合員であり、本件合併により当然に被告の正組合員となるべきところを准組合員と認定した。そこで原告は異議を申立て、やっと被告の正組合員になった経緯がある。原告はその際、砂利採取同意料の配分を受けないことを条件としていない。

(2)  原告は、高松漁協の正組合員であった当時、砂利採取同意料の配分を受けたことがある。ただし、場合によっては配分を受けなかったが、その理由は、同組合から個別に辞退して欲しいとの要請を受けて、原告自らの意思で配分を辞退したためである。

(3)  原告の主張のころに、砂利採取同意料の配分を受けた男性正組合員は約二八三名であるところ、その中には、他人の船の船方、船頭の船に同居の息子が船方をする場合、船頭のほかに同居の息子が船を所有して船頭となっている場合を含んでおり、これは明らかな女性差別である。

(4)  被告の分配方法には合理性がない。すなわち、被告は、女性正組合員に砂利採取同意料を配分しても、夫に対する配分額がそれだけ減るから、一事業、一会計としてみると、家計に入る分配金は同額となるというが、正組合員の全てが夫婦で構成されているわけでないから、分配金が同額とならないことは明らかである。その余の被告の主張にも全く合理性がない。

(5)  以上からすると、被告の信義則ないし権利の濫用の主張は失当である。

2  男女差別による決定の無効

被告に砂利採取同意料の配分に関して自治権があるとしても、その配分に関し、原告を含む女性正組合員を除外したのは、夫とともに漁業に従事する女性を夫の手伝いと位置づけ、上記第6の1の(3)のとおり、女性を正組合員として待遇しないという男女差別の考えに基づくもので、このような不平等待遇の決定は、男女平等の原則を定める憲法の趣旨に反するから、公序良俗に違反するものとして無効というべきである。

第7  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1について

(1)  再抗弁1の(1)、同(2)、同(4)を争う。

(2)  同(3)のうち、原告の主張のころに、配分を受けた男性正組合員が約二八三名であり、その中には、他人の船の船方、同居の船頭の船方及び船頭のほかに同居の息子が船を所有して船頭となっている場合が含まれていることを認め、その余を否認する。

2  再抗弁2について

憲法違反の主張を争う。

被告が女性組合員に砂利採取同意料を配分しなかったのは、一事業、一会計の観点からであり、妻が夫と共に働く場合には、夫に従属(雇用)しており、妻が正組合員として配分を受けると夫の配分が減るし、妻は夫から賃金として配分金の分け前を受領できる可能性もあるからである。このような一事業、一会計の観点から女性組合員に配分しない方法は、高松漁協当時からどこの組合でも同じであって、原告も長らくこれを異議なく承諾しており、被告はこれを踏襲したものである。原告は平成一〇年六月一八日、被告の正組合員となる際、その審査の段階において、砂利採取同意料の配分を求めないと言明したから、被告は原告を正組合員としたこと、被告には自治権があり、個々の配分に関しては総会の承認を得ていることなど一切の事情に照らせば、被告の女性組合員に対し砂利採取同意料を配分しない旨の決定が男女の不合理な性差別として憲法に違反し、公序良俗違反として無効になるとはいえない。

第8  当裁判所の判断

1  請求原因1ないし5については、当事者間に争いがない。

2  抗弁1のうち、被告が水産業協同組合法に基づいて設立された法人であり、団体自治権を有し、砂利採取同意料の分配に関しては、補償資格審査委員会の諮問に基づき、理事会が決定していること、被告における女性正組合員は、全部で三三名であるが、全て所帯主である夫の営む漁業事業体の一員(船方)として働き、単独で事業を継続している者はいないこと、被告理事会は、原告の主張する砂利採取同意料に関し、所帯単位で分配することにした結果、原告ら女性正組合員に分配しないとの決定をなしたことは当事者間に争いがない。

3  そこで、先ず、請求原因8、9(不法行為の成立)、抗弁2(信義則ないし権利の濫用)、再抗弁(男女差別による決定の無効)について判断する。

(1)  証拠(甲1ないし甲3、甲5ないし甲8、甲11ないし甲13、甲16ないし甲18、甲20、乙2、乙3、被告代表者代表理事、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 水産業協同組合法の一八条には、同法により設立された組合の組合員の資格につき、「当該組合の地区内に住み、かつ、漁業を営み又はこれに従事する日数が一年を通じて九〇日から一二〇日までの間で定款で定める日数を超える漁民」と定め、これを受けた本件合併仮契約書及び被告定款八条には、「この組合の地区内に住所を有し、かつ、一年を通じて九〇日を超えて漁業を営み、これに従事する漁民」と定めている。原告は、高松漁協時代から今日に至るまで、上記条件に合致し、漁業に従事している。

イ 本件合併以前の高松漁協においては、海砂利採取同意料の分配を、原告を含む女性正組合員にも分配した事例が多数回あった。原告は本件合併に際し、高松漁協の役員等から、当然に被告の正組合員になるとの説明を受けていたが、被告は、本件合併後、原告ら女性の漁業従業員全員(夫と共に漁業を営む全員)を准組合員と認定した。

ウ そこで、原告は、被告に異議の申立をすると共に、香川県の水産課に対し、被告の男女差別の是正を指導するように求めた。被告は、香川県の水産課の指導を受け、原告ら女性の漁業従業員全員を正組合員に認定したが、原告との折衝の過程で、原告においては、砂利採取同意料の分配に関心があるのではなく、総会の出席や役員の選任権に重点をおいていると判断した。この判断も、被告が原告ら女性の漁業従業員を正組合員に認定した一つの契機となった。

エ 被告が女性組合に砂利採取同意料の分配をしないことに関し、平成一一年二月一五日開催の通常総会において、被告役員は、大略、「砂利採取同意料は、漁業への影響補償であるから、水揚量に応じて配分するのが基本であるが、被告は販売事業を取り扱っていないので、従前から一率で配分している。」「本件合併以前から女性組合員には配分していない慣行がある。」「女性に出さなくても主人に多く当たる方法を考えれば同じではないかという考えである。」「男の船方は、その八割までは家庭を持って雇われているので、生活権を侵すことができない。」などと説明した。

(2)  以上の認定事実及び既に判示の当事者間に争いのない事実に基づき、先ず、抗弁2(信義則ないし権利の濫用)につき検討する。

被告は、原告の異議に基づき、原告を正組合員と認定した際に、原告が砂利採取同意料の分配を求めない旨を誓約し、これを信じた理事会において、正組合員の認定に踏み切った旨主張する。確かに、被告は、原告との折衝の過程で、原告においては、砂利採取同意料の分配に関心があるのではなく、総会の出席や役員の選任権に重点をおいていると判断したことが認められるから、その折衝中に、原告において、原告の最大の関心事は、総会の出席や役員の選任権であって、砂利採取同意料の分配ではない旨発言したものと推認できる。しかし、原告ら女性組合員を正組合員に認定した契機の最大のものは、香川県水産課による指導であったと考えられるところ、本件審理における被告の態度からすると、被告において従来の分配方法の変更を余儀無くされることを恐れて、原告から前記のような発言を引き出した可能性も否定できない。ところで、仮に、原告に前記のような趣旨の発言があったとしても、原告は、本件合併の前後今日に至るまで、水産業協同組合法や被告の定款上の正組合員の資格を充足しており、本件合併により当然に被告の正組合員の資格を有してしかるべきであるのに、被告によって准組合員と認定され、これを是正するのは当然というべきであるから、同発言をもって原告を非難することは許されない。また、被告は、原告を除く、女性正組合員が砂利採取同意料の分配を求めていないし、その配分の単位を原則的に所帯を単位とすることに合理性があり、法律上、世帯単位で物事を定めている事例は、生活保護法、農地法等多々ある旨主張する。しかし、原告を除く、女性正組合員が砂利採取同意料の分配を求めていないことや法律上、世帯単位で物事を定めている事例があることをもって、原告の正組合員としての権利が制限されるものではないし、その配分の単位を原則的に所帯とするという被告の主張に合理性がないことは、後記の不法行為の成立及び再抗弁に対する判断のとおりであって、被告の同主張は採用できない。

(3)  同様に、請求原因である不法行為の成立及び再抗弁(男女差別による決定の無効)について検討する。

ア 被告は、女性正組合員に砂利採取同意料を配分しないのは、一事業、一会計の観点からして、妻が夫と共に働く場合には、夫に従属(雇用)しており、妻が正組合員として配分を受けると夫の配分が減るし、妻は夫から賃金として配分金の分け前を受領できる可能性もあるからであり、このような一事業、一会計の観点から女性組合員に配分しない方法は、高松漁協当時からどこの組合でも同じであって、被告はこれを踏襲したものであるから、合理性がある旨主張する。しかし、①男性正組合員が他人の船頭に船方として雇用される場合、②男性正組合員が同居の親である船頭の船に船方として漁業に従事する場合、③親の船頭のほかに同居の息子が船を所有して船頭となっている場合に、その男性正組合員には、砂利採取同意料を配分しているが(争いがない。)、所帯を単位とするというのであれば、②及び③については、同居は同一所帯といえるから説明がつかないし、①の場合には、女性正組合員と比較して余りにも差がありすぎて不公平である。この点について、被告代表者は、男性正組合員が船方として乗船する場合にも、この船方は、船頭が休んだときは、自らその船で操業するから、女性正組合員と異なる旨供述するが、このような違いがあったとしても、船方の意義を変えるほどのものではないうえ、自ら船で操業する可能性の多寡(他人の船を自由に使用できない。)、自ら船で操業する期間、漁獲高、自己の取り分など具体的な基准を設けていなければ、別途に取り扱う合理的根拠に欠けるというべきである。被告において、このような基準を設けていないことは、弁論の全趣旨に照らして明らかである。また、被告は、女性正組合員のうちに単独で事業を継続している者はいない実情にあることを前提にすると、女性正組合員に砂利採取同意料を配分しても、夫に対する配分額がそれだけ減るから、一事業、一会計としてみると、家計に入る分配金は同額となる旨主張するが、分配を受ける正組合員が全て夫婦で構成されていないことは、被告の主張からしても明らかであるから、この主張が失当であることは明白である。加えて、前記認定のとおり、原告は、高松漁協時代に砂利採取同意料の配分を受けたことがあり、女性正組合員において、砂利採取同意料の配分を受けない慣行があるとは認められないこと、女性正組合員が砂利採取同意料の配分を受ければ、配分を受ける正組合員の数が増え、他の組合員(夫)の配分率が減ることになるが、これは当然のことであって、何らの意味も持たないこと、妻は夫から賃金として配分金の分け前を受領できる可能性があるとしても、正組合員としての配分とは性質、内容が全く異なること、被告役員においては、砂利採取同意料が漁業への影響補償であるから、水揚量に応じて配分するのが基本であるとの認識があり、そうだとすれば、合理的に水揚量を把握ないし推計する方法は他に十分考えられることからすれば、女性正組合員に砂利採取同意料を配分しないことについて合理性があるとはいえない。そして、本件紛争に至る経緯(原告の准組合員から正組合員への資格の変更)及び被告が合併した当時の組合員資格審査委員会(被告理事会の諮問機関)の同委員会規定(内部規約)によれば、「女の人の正組合員は認めない。」と明記していることなどに照らせば、被告の男女差別の考えは顕著であり、被告の女性正組合員に対し砂利採取同意料を配分しない旨の決定は、男女の不合理な性差別を禁止する憲法の趣旨に反し、>民法上、公序良俗に反するものとして無効というべきである。原告の再抗弁には理由がある。

また、原告は、被告による男女差別により、精神的打撃を受けたことが認められるから、被告による不法行為が成立するというべきである。

イ 原告が船方に該当すること、被告が砂利採取同意料の船方への配分として、平成一〇年一二月八日に一二万五〇〇〇円、平成一一年一月二六日に二万円、平成一一年二月一三日に一〇万四〇〇〇円、平成一二年一二月ころに一八万円、平成一三年一月ころ、一万六〇〇〇円と決定し、既に四四万五〇〇〇円について、男性正組合員に交付済みであることについては、当事者間に争いがない。そうすると、被告は、船方である原告に対し、四四万五〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一一年五月一六日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払う義務がある。

ウ 原告が被告の男女差別により受けた精神的打撃に対する慰謝料としては、既に判示の事情及び原告が今も被告の正組合員であること、原告においては差別の是正を第一に目指していると考えられることなど一切の事情を考慮すると、四〇万円をもって相当とすべきである。また、被告の負担すべき弁護料(原告が原告代理人を選任し、本件訴訟を遂行していることは、当裁判所に顕著な事実である。)は、前記の事情を考慮すると一〇万円をもって相当というべきである。

エ 以上によれば、被告は、原告に対し、九四万五〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成一一年五月一六日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員を支払う義務がある。

4  次に、地位確認の請求について検討する。

被告において、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、砂利採取同意料の配分を受ける地位にあることを争っていることについては、当事者間に争いがない。そして、既に判示したところと本件審理の経緯に照らせば、被告は将来においても、女性正組合員である原告に対して砂利採取同意料の配分をしない蓋然性がある。したがって、原告においては、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、砂利採取同意料の配分を受ける地位にあることを確認する利益及び必要性があるから、これを認容すべきである。

第9  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、原告が被告における男性正組合員と平等の立場において、砂利採取同意料の配分を受ける地位にあることを確認し、被告に対し、九四万五〇〇〇円及びこれに対する平成一一年五月一六日から支払済みに至るまで年五パーセントの割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言につき、民事訴訟法の該当法条を適用して、主文のとおり判決する。

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