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高松地方裁判所 平成13年(行ウ)1号 判決 2001年7月09日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1請求

被告が,原告に対して,平成12年12月28日付け12議収第193号の2「情報公開請求却下通知書」でなした情報公開請求却下決定処分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,A町情報公開条例で定められた実施機関である被告に対し,平成12年12月定例A町議会における議事内容を録音したテープの一部についての情報公開請求を行ったところ,被告が同請求を却下する旨の処分をしたことから,同処分の取消しを請求している事案である。

1  前提となる事実(当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,香川県小豆郡αに住所を有する者であり,被告は,A町情報公開条例(平成12年3月31日条例第27号)(以下「本件公開条例」という。)において,情報公開の実施機関とされている者である(本件公開条例2条1号)。

(2)  原告は,被告に対し,平成12年12月21日付け情報公開請求書(本件公開条例6条所定のもの)により,平成12年12月定例A町議会においてなされたB議員の質問部分及びそれに対する答弁(回答)部分の収録された録音テープ全部(以下「本件テープ」という。)の公開を請求した(以下「本件請求」という。)。

(3)  これに対し,被告は,平成12年12月28日付け情報公開請求却下通知書(12議収第193号の2)をもって,本件テープは情報公開の対象となる公文書には当たらないとして、本件テープの全部につき,情報公開請求却下処分(以下「本件処分」という。)をした。

(4)  本件公開条例には,以下の各規定がある。

第2条(定義)

この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号の定めるところによる。

(1)  実施機関 町長,教育委員会,選挙管理委員会,監査委員,農業委員会,固定資産評価審査委員会,水道事業管理者及び議会をいう。

(2)  情報 実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム及び磁気テープであって,決裁又は閲覧の手続が終了し,実施機関において管理しているものをいう。

(3)  情報の公開

実施機関がこの条例の定めるところにより,情報を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう。

第5条(情報の公開を請求できるもの)次に掲げるものは,実施機関に対して情報の公開を請求することができる。ただし,第5号に掲げるものにあっては,そのものが利害関係を有する情報に限る。

(1)  町内に住所を有する者

(2)  町内に事務所又は事務所を有する個人及び法人その他の団体

(3)  町内の事務所又は事業所に勤務する者

(4)  町内の学校に在学する者

(5)  前各号に掲げるもののほか,実施機関が行う事務事業に利害関係を有する者

2  争点

本件の争点は,本件請求の対象とされた本件テープが,本件公開条例2条2号で公開の対象とされる「情報」に該当するかどうかである。

3  争点に対する当事者の主張

(1)  原告の主張

本件テープは,本件公開条例2条2号で公開対象とされている「情報」のうち,実施機関の職員が職務上作成した「磁気テープ」に該当する。

そして,本件テープは,決裁権限者の包括的指示ないし具体的指示に基づいて,公務員が公務として収録したものであるから,議事内容の手控え,メモ等とは性格が異なり,「決裁又は閲覧の手続」を予定しているものといえる。また,「決裁」とは,事務決裁規程等に基づいて,その事案の意思決定が行われることをいうのであるから,権限を有する者が当該情報に対して意思決定を行えば,決裁があったといえる。本件テープも,権限を有する者の指示によって収録されたものである以上,決裁の手続を経たものといえる。したがって,本件テープは「情報」に該当する。

(2)  被告の主張

本件公開条例2条2号にいう「情報」とは,「決裁又は閲覧の手続」が予定されるものに限定されるところ,本件テープは,地方自治法123条所定の会議録を作成するための補助的手段に過ぎず,いわば議事内容の手控え,メモ代わりのものであるから,およそ「決裁又は閲覧の手続」の対象となる性格のものではない。したがって,本件テープは「情報」に該当しない。

第3当裁判所の判断

上記第2の1(4)のとおり,本件公開条例2条2号において,「決裁又は閲覧の手続が終了」したことが,情報公開の対象となる「情報」に該当するための要件とされているのは,実施機関の職員が職務に関連して作成したメモ等,およそ決裁又は閲覧手続になじまないものを,情報公開の対象から外す趣旨であると解される。

そして,議会における議事内容を録音した録音テープは,議事内容についてのメモ等と同様,会議録を作成するための補完的なものであり,本件テープも,このような性質のものに外ならない(甲1,乙1,弁論の全趣旨)。とすれば,本件テープは,上記のメモ等と同様に,およそ決裁・閲覧手続になじまないものというべきであるから,本件公開条例に基づく情報公開の対象となる「情報」に該当しない。

したがって,原告の本件請求を却下した本件処分は適法である。

第4結論

以上によれば,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 溝渕勝 裁判官 田中一彦 裁判官 空閑直樹)

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