高松地方裁判所 平成14年(わ)379号 判決 2002年11月28日
主文
被告人を懲役10月に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1 平成14年8月26日午後1時45分ころ,業務として普通乗用自動車(軽四)を運転し,香川県木田郡a町大字bc番地dの大規模集合小売店舗A店来客用北側駐車場内の通路部分のうち南北通路と交差する東西通路を西方から東方に向かい時速約10キロメートルで直進するにあたり,交差する左方通路の見通しが困難であったから,交差する通路の手前で一時停止又は徐行して左方通路の交通の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,右方通路で多数の客がいるのに気をとられ,左方通路の交通の安全を確認することなく前記速度で進行した過失により,折から左方通路から進行してきたB運転の自転車に気付くのが遅れ,同自転車右側部に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ,よって,Bに対し,加療約1か月を要する胸椎・腰椎圧迫骨折の傷害を負わせた
第2 平成14年8月26日午後1時45分ころ,不特定多数の一般車両等が通行している前記北側駐車場内の通路部分のうち南北通路と交差する東西通路を西方から東方に向かい,普通乗用自動車(軽四)を運転中,前記のとおりBに傷害を負わせる事故を起こしたのに,直ちにBを救護する等法律の定める必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法211条1項前段に,判示第2の所為は道路交通法117条,72条1項前段,119条1項10号,72条1項後段に(同法72条1項の「交通事故」とは,同法2条1項1号所定の「道路」における車両等の交通に起因するものに限られると解されるところ,本件通路は「一般交通の用に供するその他の場所」として同法2条1項1号にいう道路に当たる。)それぞれ該当するが,判示第2の所為は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として重い道路交通法117条,72条1項前段の罪の刑で処断することとし,各所定刑中それぞれ懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い業務上過失傷害の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役10月に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が大規模集合小売店舗の駐車場の通路部分を通行中,左方をよく確認せず進行し,Bが乗っていた自転車と衝突してBを自転車もろとも転倒させて怪我を負わせたにもかかわらず,その場から何もせずに逃走したという事案である。
本件北側駐車場は,周囲を取り囲む北側道路との間に2か所,西側道路との間に1か所,いずれもアコーディオン式門扉が設置されている出入口があるが,それらはいずれも昼間帯においては開放され自動車が自由に出入りすることが可能であり,その通路部分は,上記店舗の利用客のみならず,本来周囲の道路を利用すべき車や原動機付自転車なども多数通行しており,その中には直近の交差点の信号待ちを回避しようとして通路部分を通行するものも少なくない。その上,このような大規模小売店舗の駐車場内に多数の通行人がいることは容易に分かることであり,進行方向右側の他の客に気をとられたとはいえ被告人の過失は軽いとは言えない。Bは高齢であり,傷害の程度も重いものである。しかも,事故後,被告人はこのようなBを救助することなく逃走し,事故車両は盗まれた旨の被害届を出しており,被告人の犯行態様は非常に悪い。その意味で被告人の刑責は重いと言わなければならない。
他方,被告人は,当公判廷において真摯に反省の弁を述べていること,被告人の母親もその監督を誓っていること,判示第1の事実については被告人がことさらに乱暴に運転したとは認められないこと,被告人は本件事件を理由に前の職場を辞めており一定の社会的制裁を受けていること,被告人には懲役又は禁錮刑の前科はないことなど被告人に有利な又は酌むべき事情も認められる。
そこで,以上の事情を総合考慮し,今回についてはその刑の執行を猶予することとした。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑-懲役10月)
(裁判官 平出喜一)