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高松地方裁判所 平成15年(行ウ)6号 判決 2004年4月26日

原告 甲

被告 高松税務署長

藤目暢之

同指定代理人 横山和可子

同 小松一利

同 富﨑能史

同 中川義信

同 鈴木久市

同 友澤哲郎

同 倉本幸芳

同 浜渕一男

同 森田陽

同 吉岡義仁

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告が平成13年12月20日付けでした平成10年8月26日相続開始に係る平成10年分の相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成14年3月29日付け異議決定により取り消された部分及び平成15年3月20日付け審査請求に対する裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。

2  被告が、別紙1物件目録記載の土地について、平成14年3月11日付けでなした不動産差押処分(高松法務局平成14年3月12日受付第4424号による滞納処分による差押え)を取り消す。

第2  事案の概要

本件は、訴外乙(以下「乙」という。)の相続人の一人である原告が、乙死亡による相続に係る遺産の総額が相続税の基礎控除額を超えていないとして、相続税の申告書を提出していなかったところ、被告から、課税価額の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えているとして相続税の申告書を提出するよう慫慂されたものの、原告がこれに応じなかったことから、被告から、平成13年12月20日付けで平成10年8月26日相続開始に係る平成10年分の相続税の決定処分(以下「本件相続税決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」といい、本件相続税決定処分と併せて「本件課税処分」という。)を受け、その後、本件課税処分等に係る滞納国税等の徴収のため、平成14年3月11日付けで、本件相続に係る遺産である別紙1物件目録記載の土地についての差押え(高松法務局平成14年3月12日受付第4424号による滞納処分による差押え。以下「本件差押処分」という。)を受けたとして、被告に対して、本件課税処分(ただし、平成14年3月29日付け異議決定により取り消された部分及び平成15年3月20日付け審査請求に対する裁決により取り消された部分を除く。)及び本件差押処分の取消しを求めた事案である。

1  前提事実(後記(1)、(2)の各事実は当事者間に争いがなく、同(3)の事実は冒頭記載の証拠により認める。)

(1)  原告の相続について

乙は、平成10年8月26日に死亡し、乙の長男である原告、二男である丙(以下「丙」という。)及び長女である丁(以下「丁」という。)が乙を相続した(以下「本件相続」という。)。

(2)  本件課税処分及び本件差押処分等について

被告の原告に対する本件課税処分、本件差押処分及びこれらに関する本件訴訟までの経緯は、以下アないしコ記載のとおりであり、その要旨は、別紙2の課税等経過表及び差押処分に係る経過等記載のとおりである。

ア 本件課税処分

被告は、原告が、本件相続についての相続税の申告書を被告に提出していなかったところ、原告に対して、平成10年度の相続税について、平成13年12月20日付けで、課税価格を7441万5000円、納付すべき税額を923万7000円とする本件相続税決定処分及び無申告加算税額を138万4500円とする本件賦課決定処分を行った(本件課税処分)。

イ 本件課税処分(上記ア)に対する異議申立て

原告は、本件課税処分を不服として、平成14年1月16日、被告に対し、異議の申立てをした(以下「本件異議申立て」という。)。

ウ 督促状送付等

被告は、平成14年2月25日、原告が本件課税処分に係る国税を完納しないことから、原告に督促状を送付したが、原告はこれに応じなかった。

エ 本件差押処分

被告は、平成14年3月11日、本件課税処分に係る滞納国税等を徴収するため、別紙1物件目録記載の土地のうち原告の共有持分である3分の1を差し押さえた(本件差押処分)。

オ 本件差押処分(上記エ)に対する異議申立て

原告は、平成14年3月18日、本件差押処分を不服として、被告に対して異議申立てを行った。

カ 本件異議申立て(上記イ)に対する異議決定

被告は、平成14年3月29日、上記イ記載の原告の本件課税処分に係る本件異議申立てについて、本件課税処分において乙の相続財産として扱った乙の夫(平成3年1月18日死亡)の未分割財産に対する相続分2分の1相当額につき、乙が上記夫から生前贈与を受けていたため、民法903条の規定により乙には相続分がなく、乙の相続財産を構成しないことなどの理由から、本件課税処分の一部を取り消す異議決定を行った。

キ 異議申立て(上記オ)に対する棄却決定

被告は、平成14年4月11日、上記オ記載の原告の本件差押処分に係る異議申立てを棄却した。

ク 審査請求(本件課税処分について)

原告は、平成14年4月25日、本件課税処分に不服があるとして、国税不服審判長に対し、審査請求を行った。

ケ 審査請求(本件差押処分について)

原告は、平成14年5月10日、本件差押処分に不服があるとして、国税不服審判長に対し、審査請求を行った。

コ 裁決

国税不服審判所長は、原告からの本件課税処分及び本件差押処分に係る審査請求(以下、併せて「本件各審査請求」という。)につき、平成15年3月20日付けで、高松市鶴市町の田822平方メートル(以下「D土地」という。)、同所の田888平方メートルのうち現況宅地部分39平方メートルを除く849平方メートル(以下「E土地」という。)及び別紙1物件目録記載の土地田555平方メートルのうち現況宅地部分92.59平方メートルを除く462.41平方メートル(以下「F土地」といい、上記D土地及びE土地を併せた3筆の土地を、以下「本件各土地」という。)の評価の誤り等を理由として本件課税処分を一部取り消し、本件差押処分に係る審査請求を棄却する旨の裁決を行った。

(3)  本件相続に係る相続税の課税価額の内訳等について(甲3、7、17、乙1)

ア 相続財産の内容及び価額

被告及び国税不服審判長が、本件相続により原告、丙及び丁が取得した財産の内容及び価額並びにこれらを基に計算した相続税の総額は、別紙3の「相続税額の計算総括表」記載のとおりである。

すなわち、被告は、本件課税処分について、土地(本件各土地)を含む、家屋、有価証券、預貯金について、別紙3の「相続税額の計算総括表」における原処分欄記載のとおり評価したものの、本件異議申立てを受けて、本件各土地及び宅地の一部の評価額算出の過程における地積、宅地造成費、土地の形状等の条件による補正率等の誤りを認め、その他の土地の一部について、並びに有価証券及び預貯金については乙の夫の未分割財産の減算を行い、土地並びに有価証券及び預貯金についての価額を同表の異議決定欄のとおりそれぞれ変更する旨の異議決定を行った。そして、国税不服審判長は、原告からの本件各審査請求に対して、本件各土地について、市街地農地算出の過程における宅地造成費等の計算の誤りを改め、本件各土地の価額を同表の裁決欄のとおり変更した。

イ 無申告加算税について

さらに、被告は、原告に課されるべき無申告加算税の額については、本件課税処分決定時においては、同決定時における納付すべき税額923万7000円につき国税通則法66条1項及び2項により、上記税額(同法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に100分の15の割合を乗じて計算した金額である138万4500円としたが、別紙2「課税等経過表」における無申告加算税欄に記載のとおり、上記本件異議決定及び本件裁決を受けて、それぞれ104万2500円、100万9500円と修正した。

ウ なお、当事者間において、原告、丙及び丁が、本件各土地に係る部分を除き、本件相続により取得した財産の内容及び評価については争いがない。

2  争点

本件において、原告は、本件課税処分における本件各土地の評価方法及び評価額につき、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に、通常成立する価格で評価すべきであり、具体的には、①本件各土地と同市同町に所在する土地が国有地一般競争入札による売り払いが広告されていることから、この広告されている土地の売り払い提示価格、又は、②高松市鶴市町 田247平方メートル(以下「G土地」という。)の売買価格592万円あるいはこれに近似する本件各土地の固定資産評価額に基づいて算出されるべきである、③本件各土地のうちの水田についての被告の評価は、水田として営利不可能な価格であり不相当である、旨主張するところ、上記①ないし③によらずに本件各土地の評価を行った被告の本件課税処分は違法であると主張する(原告主張の本件各土地の評価額につき、別紙4の1~3参照)。

また、原告は、本件差押処分は違法な本件課税処分に基づいていること、本件差押処分は、本件各土地のうちF土地の全てを差し押さえたことは超過差押であることから本件差押処分は違法である旨主張する。

したがって、本件の争点は、本件各土地の評価方法及び評価額並びに本件差押処分の適法性であり、これに対する当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。

(1)  本件各土地の評価方法及び評価額について

ア 被告の主張

(ア) 相続財産の評価方法について

相続税法22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得時における時価による旨規定しているところ、同条に規定される時価とは、相続開始時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値をいうものと解するべきである。

そして、この財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないため、各種財産の客観的な交換価値を的確に把握することは容易ではなく、また、これを個別に評価するとすれば、その評価方式、基礎資料の選択の仕方及び評価者による判断等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が増大し、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれもある。

そのため、納税者間の公平を確保することのほか、納税者の便宜を図り、さらに、徴税費用の節減という見地からも、あらかじめ定められた評価方法により画一的に評価することが合理的である。

このような理由に基づいて、相続財産の時価の具体的な算定については、国税庁長官が各国税局長あてに発した昭和39年4月25日付け直資56ほか国税庁長官通達(平成10年9月10日付け課評2-10ほかによる改正前のもの、以下「評価通達」という。)及び毎年各国税局長が定める財産評価基準(以下「評価基準」という。)に基づいて行われるところ、かかる評価通達等による評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別な事情がある場合は格別、かかる特別な事情が認められない場合は、評価通達及び評価基準による評価方法は合理的である。

(イ) 本件各土地の評価額

① 評価通達による規定等

ⅰ 評価通達によれば、農地(田及び畑)のうち、市街地農地については、原則として宅地比準方式(評価対象農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として国税局長が定めた金額を控除した金額にその農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方式)により評価されることとされている(ただし、市街化区域内に存する市街地農地のうち、国税局長が倍率を定めている地域にある場合には倍率方式による。以上評価通達37ないし40)。

ⅱ また、宅地比準方式において計算の基礎とされる宅地であるとした場合の評価は、原則として、当該土地が市街地的形態を形成する地域にある場合は、その土地の面する路線に付された路線価を基とし、形状及び道路との関係等を考慮して奥行価格補正、側方路線影響加算及び不整形地補正等の所要の補正を行った金額により評価する方式(以下「路線価方式」という。)が採用され、それ以外の土地については倍率方式(固定資産税評価額に評価基準中の倍率表に定める倍率を乗じて評価する方式)によって算定される(以上評価通達11及び13)。

なお、上記当該土地が市街地的形態を形成する地域に該当するか否かは、各国税局が定める財産評価基準書に示されており、それに該当する地域については路線価が定められている。

そして、宅地比準方式による場合の造成費相当額は、評価基準によれば、整地費、伐採・抜根費、地盤改良費、土盛費、土止費の合計額とされている。

② 本件各土地について

ⅰ 本件各土地は、いずれも市街化区域内に存在する市街地農地であるが、本件各土地が所在する地域は、高松国税局長が財産評価基準書によって倍率を定めている地域ではないから、本件各土地については、宅地比準方式によって評価することになる。

ⅱ また、本件各土地を宅地比準方式により算定する場合の本件各土地の基となる評価は、本件土地が、市街地的形態を形成し、路線価が定められている地域に所在することから、路線価方式によって算定されるべきである。

③ 路線価の算定

路線価は宅地の価額がおおむね同一であると認められる一連の宅地が面している不特定多数の者の通行の用に供されている道路(以下「路線」という。)ごとに設定され、その価額は、路線に接する宅地で、ⅰその路線のほぼ中央部にあること、ⅱその一連の宅地に共通している地勢にあること、ⅲその路線にだけ接していること、ⅳその路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであることといった事項すべてに該当するものについて、売買実例価額、公示価額、精通者意見価額等に基づいて設定された1平方メートル当たりの価額とされている(以上評価通達14)。

そして、各国税庁が評価基準として公表している具体的な各路線価は、おおむね次にような手順で設定される。

すなわち、主要な路線に接し、かつ、評価通達14に定める上記ⅰないしⅳに合致する土地(以下「標準地」という。)を選定する。なお、この選定に当たっては、地価事情が類似する地域ごとに、その地域における位置、形状等において標準的なものが選ばれ、これに加え、地価公示法6条に基づき国土庁土地鑑定委員会がその価格を判定した土地(以下「公示地」という。)や国土利用計画法施行令9条1項に基づき都道府県知事がその価格を判定した土地(以下「基準地」という。)についても標準値として選定する。このように選定された標準地につき、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額、精通者意見価格等に基づいてその価額が算定されることになるところ、通常これらの価額はある程度の幅をもつため、その価額の中庸値を標準値の価額として算定している。

そして、上記方式により算定される標準地の価額がその標準地の接する路線の価額(路線価)となるべきものであるが、実際に決定される路線価は、評価上の安全を考慮して、土地について自由な取引が行われるとした場合にその取引において通常成立すると認められる価格とされ(地価公示法2条2項)、国土庁に設置された土地鑑定委員会(同法12条)が毎年1回2人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、審査し、必要な調整を行って公示する(同法2条1項、同法6条)公示価格の80パーセント以内の水準を目途とした、いわゆる控えめな金額として設定されている。

したがって、上記方法によって算出される本件各土地についての路線価は、客観的交換価値としての時価を評価する根拠としての合理性を有し、本件課税処分における各具体的路線価は、それぞれ別紙5の1、6の1及び7の1の「評価の基とした宅地の1㎡当たりの評価額(路線価)」欄記載のとおりそれぞれD土地につき5万9000円、E土地につき8万8000円、F土地につき13万5000円であり、また、本件各土地における相続税評価額も、各路線価から造成費相当額(整地費、伐採・抜根費、土盛費、土止費の合計額)を控除した価額に本件各土地の地積を乗じた額であり、その具体的相続税評価額は、相当額は別紙5の1、6の1及び7の1の相続税評価額欄記載のとおりである。

④ 原告の主張に対する反論

ⅰ 原告は、本件各土地の評価方法について、本件各土地の近隣に所在する国有地一般入札売払い広告のNo104に記載されている高松市鶴市町所在の雑種地(以下「№104の土地」という。)の価額に基づいて評価されていないから本件課税処分が違法である旨主張する。

しかし、原告の主張する広告に記載されている価額は、最低売却価格であり、これは、売主による現地での説明がなく、調査確認は購入者自身が行わなければならないこと等の特殊性を有する競争入札を前提とした価格であり、本件で問題となる相続財産の時価、すなわち自由な取引において成立する価格とは前提を異にするものであるから、そもそも相続財産の評価額の基準となり得ないし、上記広告は、本件相続から約5年を経過したものであるから、№104の土地を相続時である平成10年当時の本件各土地の評価に際して比較する取引事例として用いることは合理的でない。しかも、№104の土地は、奥に細長い土地であり、香川県道檀紙・鶴市線に対して直角に面してなく、不整形である上、県道への出入口が交差点内にあり、使い勝手が悪い土地であり、地目が雑種地であるほか、市街地調整区域内にあるなど、本件各土地の形状やその他価格に影響を及ぼす要因が異なるのである以上、本件各土地の価格算定にNo.104の土地を用いることはできない。

ⅱ また、原告は、本件各土地の評価は、本件各土地に近隣する実際に取引が行われたG土地の売買価格ないしは本件各土地の高松市固定資産評価額を基に算定されるべきである旨主張する。

しかし、本件各土地とG土地とは、それぞれの土地のの形状等の画地条件が異なるし、本件各土地は、県道檀紙・鶴市線あるいは路線価図(乙5の2)に記載されているような道路に面しているのに対し、G土地は、路線価図にも記載されていないような里道に面しているぎないから、これらを同一に扱って評価することはできない。

また、そもそも相続税は、相続による財産の取得による担税力の増加に着目して課される税であり、実質的には所得税の補完税としての性質を有し、相続が発生した場合にのみ課される税であるのに対し、固定資産税は、固定資産の所有の事実に着目して課される財産税であり毎年賦課されるものであることから、両者の目的、賦課方法を異にしている以上、相続税における土地の評価を固定資産評価額と同額とすることはできないし、原告の引用する固定資産評価額は平成15年度のものであり、平成15年度の地価は、相続時である平成10年の地価と比較すると大幅に下落しているから、平成10年当時の本件各土地の評価額とすることは妥当でない。

ⅲ そして、原告は、被告の本件各土地のうち水田についての評価は、水田として営利不可能な評価額である旨主張するが、かかる主張は、水田の評価額は稲作の営利収入を基礎として算出した価格によるべきであり、当該水田が将来生み出すであろうと期待される純収益の現価を求め、これを還元利回りで還元して価格を算出する収益還元法により求めるべきであるとの主張と解する余地がある。

しかし、上記水田は、賃貸されておらず、その予定もない自用の農地である以上収益還元法を評価方法とするには疑問があるし、収益還元法によれば、資産の収益性という極めて個別的な要因に基づき個々の評価額を算定せざるを得ず、納税者間の公平という相続税法の趣旨からみて合理性は有するとはいえず、失当である。

イ 原告の主張

(ア) 相続財産の評価方法について

相続財産である本件各土地の評価方法及び評価額は、当該物件を不特定多数の当事者間で、自由な取引が行われる場合に、通常成立する価格で評価すべきである。

とすると、本件各土地の評価も、本件各土地の近隣の土地における実際の取引価格を考慮して算定されるべきである。

そして、国有地一般競争入札売払い広告に記載されている№104の土地は、本件各土地のうちF土地の面する香川県道檀紙・鶴市線に面し、同土地から約1.7キロメートル檀紙寄りに位置し、同土地からの所要時間が自動車で2、3分にすぎないから、F土地の1平方メートル当たりの価額も、№104の土地のそれと同視しうる。

また、原告は、本件各土地の近隣の土地であるG土地について現実に取引を行ったところ、その取引価格は、高松市固定資産評価額と近似する。したがって、本件各土地の評価は、G土地の売買価格592万円あるいはこれに近似する本件各土地の固定資産評価額に基づいて算出されるべきである。

本件各土地のうちの水田についての被告の評価は、水田として営利不可能な価格であり不相当である。

以上の原告の主張に基づく具体的算定等は、以下の(イ)①ないし③のとおりである。

(イ) 原告主張の具体的算定根拠

① №104の土地に基づく評価

本件各土地の評価額は、№104の土地の価格を基に算定すると以下ⅰないしⅲのとおりになる。

ⅰ D土地について

№104の土地の1平方メートル当たりの単価である6万9547.15円に909番地1の路線価(5万9000円)のF土地の路線価(13万5000円)に対する割合である43.7パーセントを乗じた額(これは同土地についての別紙8「本件各土地の評価額について」の再評価欄記載の額である)に形状等を考慮した係数(奥行価格補正率0.91及び不整形地補正率0.98)を乗じ、その額から1平方メートル当たりの造成費を控除した額に地積である822平方メートルを乗じた額である1662万6594円から道路敷として提供するための減額相当額3万9139円を引いた1658万7455円となる。

ⅱ E土地について

№104の土地の1平方メートル当たりの単価である6万9547.15円にE土地の路線価(8万8000円)のF土地の路線価(13万5000円)に対する割合である65.18パーセントを乗じた額(これは同土地についての別紙9「本件各土地の評価額」の再評価欄記載の額である。)に形状等を考慮した係数(奥行価格補正率0.99及び不整形地補正率0.98)を乗じ、その額から1平方メートル当たりの造成費を控除した額に地積である849平方メートルを乗じた額である3095万2842円となる。

ⅲ F土地について

№104の土地の1平方メートル当たりの単価である6万9547.15円(F土地の1平方メートル当たりの単価と同じとみなす。同土地の別紙10「本件各土地の評価額」の再評価欄のとおり。)に形状等を考慮した係数(奥行価格補正率1.00及び不整形地補正率0.96)を乗じ、その額から1平方メートル当たりの造成費を控除した額に地積である462.41平方メートルを乗じた2836万1113円となる。

なお、以上ⅰないしⅲの計算は、別紙8ないし10の本件各土地の評価額記載のとおりであるが、同表の再評価記載の額以外の形状等を考慮した係数、造成費、地積の数字については、被告の本件裁決に用いられた数字と同一のものを用いている。

② G土地の売買価格及び本件各土地の高松市固定資産評価額に基づく評価

a G土地の売買価格592万円に基づく評価

原告は、平成13年9月20日、G土地247平方メートルを592万円で購入したが、この売買代金に基づき1平方メートル当たりの単価を計算すると2万3967.61円となるところ、これを基準とすると、D土地822平方メートルは1970万1375円、E土地849平方メートルは2128万3237円、別紙1物件目録記載の土地555平方メートルは1330万2023円となるから、合計5428万6635円となる(別紙4の2の「近隣水田売買の実例」参照)。

b 本件各土地の高松市固定資産評価額に基づく評価

別紙4の3「本件土地固定資産評価額」記載のとおり、D土地822平方メートルは、1891万7508円、E土地849平方メートルは、3213万6720円、F土地462.41平方メートルは、2456万5994円となるから、合計7562万0222円となる(なお、原告主張の2456万5994円の算出根拠については、F土地の1平方メートル当たりの単価を5万3126円とし、これに462.41平方メートルを除した金額と解される。)

③ 水田の評価について

本件課税処分における本件各土地のうち水田についての被告の評価は、水田として営利不可能な評価によっている。

④ まとめ

№104の土地に基づく評価をした場合、G土地の売買価格に基づいて評価した場合、高松市固定資産評価額に基づいて評価した場合の本件各土地の評価額は、上記のとおりであり、これらをまとめると、それぞれ別紙4の1~3、8ないし10記載のとおりとなる。

したがって、本件課税処分は、本件各土地について、原告主張のNo.104の土地に基づく評価、近隣に所在するG土地の売買価格に基づく評価、高松市固定資産評価額に基づいた評価もされておらず、本件各土地のうち水田については営利不可能な評価によっていることからすると、不特定多数の当事者間で、自由な取引が行われる場合に、通常成立する価格で評価したものといえず違法である。

(2)  本件差押処分の適法性

ア 被告の主張

(ア) 国税通則法37条1項では、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨、国税徴収法47条1項では、滞納者がこの督促を受け、その督促に係る国税を督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しなければならない旨規定されている。

(イ)① 被告は、平成13年12月20日付けで本件課税処分を行ったが、原告は、平成14年1月21日の納期限までに納付すべき税金を完納しなかった。

② 被告は、平成14年2月25日、原告に対し、本件課税処分により原告が納付すべき税金を納付する旨の督促状を送付したが、原告は、同督促状送付から10日を経過した日までに、納付すべき税金を納付しなかった。

③ 被告は、平成14年3月11日、本件差押処分を行った。

④ したがって、本件差押処分は、上記国税徴収法の規定に基づいて行われており適法である。

(ウ) 原告の主張に対する反論

① 違法性の承継について

原告は、本件課税処分は違法であり取り消されるべきだから、本件差押処分も取り消されるべきである旨主張する。

しかし、本件課税処分は租税の賦課処分であり、租税債権の確定を目的とし、本件差押処分は滞納処分であり、租税債権の強制的実現を目的とするといったそれぞれ異なる目的、法律効果の発生を内容とする独立の処分であるから、本件課税処分の瑕疵が本件差押処分に承継されるものではない。また、賦課処分の違法が処分の取消原因となるにとどまるときは、同処分が権限ある機関により取り消されない限り、これに基づく滞納処分は適法であるから、賦課処分の違法を理由として滞納処分の取消しを求めることは許されない。

したがって、原告の上記主張は失当である。

② 超過差押について

原告は、本件差押処分がF土地全部の原告の共有持分に対してなされたことにつき、本件差押処分は、同土地のうち、滞納額に見合う価格の面積の土地を分筆した上、その分筆した土地についてのみ行われるべき旨主張する。

しかし、そもそも本件差押処分は、F土地の原告の共有持分3分の1になされたにすぎないこと、同土地には未登記建物が存在し、公売する際に減価が認められること、滞納国税は、本件課税処分における相続税及び無申告加算税のみではなく、延滞税及び差押対象財産の鑑定費用等の滞納処分費も含まれていることから失当である。

また、国税の徴収のため滞納者の財産を差し押さえる場合、いかなる財産をいかなる範囲で差し押さえるかは、徴収職員の合理的な裁量に委ねられており、一般的には、差押財産の処分予定価額と徴収すべき滞納税額(延滞税等の附帯税も含む。以下同じ。)を比較して判定すべきものであるとしても、差押財産の価額が滞納国税額を超過した場合に、直ちに当該差押えが超過差押えとして違法となるものではない。

本件においても、被告は、原告の相続財産のうち滞納税額を満足させるに足りるものの中から複数の財産を差押えることなく、選択してF土地の共有持分のみを差し押さえており、同土地が一筆の土地であり不可分であるから、その評価額が原告の滞納税額を超過しているとしても、本件差押処分は違法ではないから、原告の上記主張は失当である。

なお、原告は、F土地の南端の隣接里道に平行し、均等幅の範囲の土地を分筆して差押えを行うべきである旨の主張をするが、このように区分した分筆を行うこととなれば、間口が狭小であること及び土地利用効率の劣ることによる減価等が発生し処分予定額が減価することが明らかであり、ひいては競売が実現されない可能性が増すので、原告の主張は失当である。

イ 原告の主張

(ア) 違法性の承継

本件課税処分が違法である以上、これに基づいて行われた本件差押処分も違法である。

(イ) 超過差押

F土地を差し押さえるにしても、それは、本件裁決における原告、丙及び丁の相続税額である2324万4000円を、同土地の路線価(13万5000円)に換算率80パーセントを除した16万8750円で計算した地積である137.75平方メートルを差し押さえれば十分であり、また、同範囲の位置についても同土地の南端の隣接里道に平行にして均等幅で137.75平方メートルと算定できる範囲について差し押さえるべきであるから、同土地についてそれを超えた範囲を差し押さえた本件差押処分は違法である。

第3  当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  相続財産の評価方法について

相続税法22条は、相続税の課税価格となる相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得時における時価によるべき旨を規定しているところ、この時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解するのが相当である。

この点、相続財産の客観的な交換価格について、個別に評価する方法を採ると、その方式、基礎資料の選択の仕方等によって異なった評価価額が生じることを避けがたく、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれ等が生じる。

そこで、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされており、このように、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみても、合理性があるというべきである外、このように画一的な評価方法が形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平も実現できると解される。

したがって、かかる画一的な評価方法をすることによって、かえって実質的な租税負担の公平を害し、また、相続税法の趣旨や財産評価通達自体の趣旨に反するような結果を招くような特段の事情でない限り、上記財産評価通達に規定される相続財産の評価を行うことは適法であると解するのが相当である。

(2)  本件について

ア 宅地比準方式等による算定について

(ア) 証拠(乙2ないし4、5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、①本件各土地はいずれも、都市計画法7条2項の規定する市街化区域(すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域)に該当すること、②評価通達36の4の(2)では、同法7条2項に規定する市街化区域内にある農地は市街地農地とされていることから、本件各土地は評価通達における市街地農地であると評価されること、③高松国税局作成の平成10年度分の香川県財産評価基準書評価倍率表において、高松市鶴市町の市街化区域内の田、畑には固定資産評価額に乗ずる倍率は規定されていないので(同表の鶴市町部分の「市・調等の別」における「市」の固定資産税評価額に乗ずる倍率等のうちの「田」、「畑」欄には、「市比」と記載され宅地比準方式によって評価するべき旨定められているので、固定資産税評価額に乗ずる倍率の定めはない。)、本件各土地については、高松国税局長によって財産評価基準書により倍率を定めている地域とはされていないこと、④そうすると、評価通達の40によれば、本件各土地の評価方法について、宅地比準方式(その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額からその農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する方式)が採用されることになることが認められる。

(イ) そして、上記宅地比準方式における、農地を宅地の評価方法に準じて評価するとした場合の1平方メートル当たりの価額の算定についても、相続財産の時価の具体的算定について、あらかじめ定められた評価通達及び評価基準に基づいて評価する方法には原則として合理性があるのは上述のとおりであるところ、評価通達11(乙2)によれば、市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式によるものとされているところ、証拠(乙4、5の2)によれば、本件各土地は上記のとおり市街化区域内にあり、路線価方法による評価がなされる地域に所在することから、路線価方式により評価されることが認められる。

そして、路線価は、上記被告主張のような手順で設定され、公表されているものであり、その手順自体は客観的交換価値を反映し得る適正なものというべきであり、相続税法及び地価税法における土地の価額は、土地評価の適正化、均衡化の要請並びに土地の価額には相当な値幅があること、路線価等は、相続税及び贈与税の課税に当たって1年間適用されるため、評価時点であるその年の1月1日以後の1年間の地価変動に耐え得るものであることが必要とされる等評価上の安全性といった要請等より、地価公示価格と同水準の価格の80パーセントを目途に定めているのであるから、設定されている路線価は、原則として、客観的交換価値である時価を評価する根拠としての合理性が認められるというべきである(乙2)。

この点、証拠(乙4、5の2)及び弁論の全趣旨によれば、高松国税局作成の香川県平成10年分財産評価基準書路線価図において本件各土地の路線価は、D土地については「59」、E土地については「88」、F土地については「135」と示されており、財産評価基準書路線価図では、路線価は、1平方メートル当たりの価額を千円単位で表示されていることから、本件各土地の路線価は、D土地が5万9000円、E土地が8万8000円及びF土地が13万5000円であることが認められる。

(ウ) そして、証拠(甲5、7、17)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件課税処分にあたって、上記財産評価基準書路線図の路線価に基づいて、本件各土地が宅地であるとする場合の算定の路線価を、①それぞれ、D土地につき5万9000円、E土地の土地につき8万8000円及びF土地につき13万5000円として算定し、②これに形状等を考慮した係数を乗じ、③造成費を減じ、④地積を乗じて、別紙5の1、6の1及び7の1記載のとおりの計算をして本件各土地の評価額を算定している。

また、評価通達40において、造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を用いる旨規定されているのは上記のとおりであるが、証拠(甲5、7、17、乙5の1)によれば、上記評価倍率表の①整地を要する面積1平方メートル当たりの整地費が500円、②土盛りを要する体積1立方メートル当たりの土盛費が3100円、③擁壁を要する面積1平方メートル当たりの土止費が4万2000円とそれぞれ規定されており、被告が本件課税処分において造成費算定で用いた整地費、土盛費及び土止費も上記各価格に基づいて行われたことが認められる。

そして、前提事実、証拠(甲7、17)及び弁論の全趣旨によれば、本件異議決定、本件裁決に際して、本件各土地のうち、D土地では、土盛費、土止費等を、E土地については地積、地盤改良費等を、F土地については地積、伐採・抜根費等の価格について訂正して、それぞれD土地につき別紙5の2、3、E土地につき別紙6の2、3、F土地につき別紙7の2、3のとおりに修正したことが認められるところ、本件においては、本件異議決定、本件採決で取り消された部分を除く本件課税処分が本件の対象となっているものである。

したがって、被告の本件課税処分における本件各土地の評価は、本件異議決定、本件採決で取り消された部分を除き、評価通達の定める各規定に則して行われたものと認められる。

イ 特別事情の有無

(ア) №104の土地について

原告は、本件各土地の評価方法について、本件各土地のNo.104の土地の価額に基づいて評価されていないから本件課税処分が違法である旨主張する。そして、証拠(甲20)によれば、財務省四国財務局による「国有地一般競争入札のお知らせ」と題するパンフレットにおいて、①№104の土地を含む21件の土地の国有地一般競争入札(入札期間平成15年6月10日から同月19日まで)が案内されていること、②№104の土地が、香川県高松市鶴市町字相作に所在し、実測数量が567.96平方メートル、最低売却価格が3950万円である旨が記載されていることが認められる。

原告は、上記最低売却価格3950万円を実測数量567.96平方メートルで除した額である6万9547円を№104の土地の1平方メートル当たりの価額であるとして、№104の土地もF土地も同じ香川県道檀紙・鶴市線に面しているから、本件各土地についても、上記第2の2(1)イの(ア)及び(イ)のとおり、№104の土地の1平方メートル当たりの価額である6万9547円を参考にして、その評価額が算定されなければならないと主張する。

確かに、上記のとおり、№104の土地と本件各土地が高松市鶴市町内に所在し、証拠(甲20、乙4)によれば、F土地と№104の土地は、ともに、香川県道檀紙・鶴市線に面していることが認められる。

しかし、証拠(甲20)によれば、国有地一般競争入札においては、落札者と個別に打ち合わせのうえ契約の具体的日時が決定され、契約時には落札金額の10パーセント以上の契約保証金が必要であることや、国が所有権の移転登記を行い、登記済証を交付すること、登録免許税は、購入者の負担になるが、登記手数料は不要であること、各物件の現地での説明は行われず、入札参加者自身で現地及び諸規制についての調査確認を行う必要があることが認められ、これによれば、国有地一般競争入札制度における特別な手続、契約内容があることから、かかる国有地一般競争入札における最低売却価格が客観的交換価値としての時価を示すものとはいえない。

そして、証拠(甲20)によれば、№104の土地は、雑種地であるとされているところ、これは、田ないし畑である本件各土地とは、そもそも地目が異なるし、また、同証拠によれば、№104の土地は、市街調整区域に所在しており、市街化を抑制すべき区域とされていることが認められるところ(都市計画法7条3項)、一方、本件各土地が市街化区域(「すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」〔同法7条2項〕)に所在するのは上記のとおりであるから、№104の土地を本件各土地と同列に扱うことはなおさら困難である。

しかも、№104の土地は、平成15年6月10日から同月19日までの期間における入札の対象となっているものであるから、かかる入札における最低売却価格をもって、本件相続(平成10年8月26日)がなされた際の本件各土地の客観的交換価値を示すものとは到底認めることは困難であり、原告の主張は採用できない。

(イ) G土地の売買価格及び本件各土地の高松市固定資産評価額に基づく評価について

a 原告は、本件各土地の評価は、G土地の売買価格592万円に基づいて、別紙4の2のとおり算出されるべきである旨主張する。

この点、証拠(甲1ないし3、4の1、21)によれば、①G土地は、本件各土地と同じ高松市鶴市町に所在すること、②原告が、平成13年9月20日に、訴外戊より、G土地を592万円で購入したこと、③平成15年度の同土地の固定資産評価額は592万5530円であることが認められる。

しかし、本件相続は平成10年8月26日であるところ、G土地の売買契約が締結されたのは平成13年9月20日であり、時期が異なること、証拠(乙4、5の2、6)によれば、本件各土地とG土地とは、その位置(本件各土地は、県道檀紙・鶴市線あるいは路線価図に記載されている道路に面しているのに対し、G土地は、路線価図に記載されていない里道に面しているにすぎないこと)、形状等の画地条件が異なるにもかかわらず、原告の主張によれば、G土地の1平方メートル当たりの単価を本件各土地の単価と同一視して、それぞれの価格を計算しているもので、本件各土地のそれぞれ異なる条件を一切無視して計算しており到底合理的とはいえないことからすると、原告の主張を採用することはできない。

b また、原告は、本件各土地の評価は、本件各土地の高松市固定資産評価額を基に算定されるべきである旨主張する。

しかし、固定資産税は、固定資産を所有する者に対して、その当該固定資産を所有することから課税されるという、所有財産を考慮して、1年ごとに賦課されるもので、その賦課すべき額も毎年のその所有財産の価値の変動に応じて決定されるものであるのに対し、相続税は、相続といういわば被相続人の死亡といった、いつ生じるか明確でない事情によって、一回限りにおいて、富の再分配といった要請も考慮した上で賦課されるものであるから、両者の税の徴収の目的、内容が異なるのである。

また、原告が主張する本件各土地の固定資産評価額は、平成15年度のもので(甲21)、本件相続が生じた平成10年8月26日から相当期間経過したものであり、これをもって相続税の評価の基準とすることはできない。

したがって、原告主張の本件各土地の固定資産評価額に基づいて算定される評価額が本件各土地の客観的交換価値を示すものとは認めることはできず、原告主張は採用できない。

(ウ) 水田の評価について

原告は、本件各土地のうち水田についての被告の評価は、水田として営利不可能な評価によっている旨主張するところ、その主張も結局は、被告による宅地比準方式によることが不当である旨の主張と解されるが、かかる原告の主張を裏付ける証拠はない。

ウ 小括

そして、他に、被告の評価通達に基づいた本件各土地の評価の算定が、実質的な租税負担の公平を害したり、相続税法の趣旨や評価通達自体の趣旨に反するような結果を招くような特段の事情を認める証拠はない。

また、本件課税処分において、被告が、原告に対して行った本件賦課決定の価額も、国税不服審判所長が平成15年3月20日の裁決の限度で正当である(本件賦課決定の価額は、別紙2の「納付すべき税額」〔ただし、附帯税の額の計算の場合に基礎額の税額の1万円未満の端数は、同法118条3項により切り捨てる。〕に15パーセントを乗じた額である。)。

以上のとおりであり、原告が取消を求める本件課税処分は本件異議決定及び本件採決で取り消された部分を除き適法であると認められる。

2  争点(2)について

(1)  本件差押処分の経緯、内容

①被告は、平成14年2月25日、原告が本件課税処分に係る国税を完納しないことから、原告に督促状を送付したこと、②被告は、原告が、被告の上記督促に応じなかったことから、同年3月11日、本件課税処分に係る滞納国税等を徴収するため、F土地の田のうち原告の共有持分である3分の1を差押え(本件差押処分)を行ったことは当事者間に争いがない(前提事実(2)ウ及びエ)。

そして、本件差押処分の手続は、納税者が国税を納期限まで完納しない場合に、税務署長が督促状によって、納付を督促すべき旨規定する国税通則法37条1項、督促を受けた滞納者が、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときには、徴収職員は滞納国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定する国税徴収法47条1項1号に基づいたなされたことが認められる。

(2)  原告の主張に対する判断

原告は、本件課税処分は違法であるから、本件差押処分も違法であると主張するが、そもそも、租税債権の確定させることを目的とする課税処分と確定した租税債権の強制的な実現を目的とする滞納処分は、それぞれ処分の目的、効果を異にする別個独立の処分であるから、本件課税処分が違法であることから、本件相続税決定処分及び本件賦課決定の後に、上記(1)のとおりに国税徴収法の定める適式な手続に基づいて行われた滞納処分が直ちに違法になるとは認められないし、そもそも、本件課税処分が適法であることは、上記1のとおりであるから、いずれにしても、かかる原告の主張は採用できない。

また、原告は、本件裁決における原告、丙及び丁の相続税額である2324万4000円を、同土地の路線価(13万5000円)に換算率80パーセントを除した16万8750円で計算した地積である137.75平方メートルを差し押さえれば十分であり、その位置も同土地の南端の隣接里道に平行にして均等幅で137.75平方メートルと算定できる範囲について差し押さえるべきであるから、本件差押処分は超過差押であって違法である旨主張する。

しかし、国税の徴収が最終的には差押財産の公売等の方法による換価を待って初めて実現されるものであることからすると、滞納者の所有に属する財産のうちいかなる財産を差し押さえるかは、徴収職員の合理的裁量に委ねられていると解するのが相当であるし、本件の場合には、本件各土地の中からF土地の一筆のみを差し押さえていること(甲3)からすると、仮に差し押さえた部分の評価額が、国税を超過するとしても、その一事をもって当該差押えを違法ということはできない。

また、原告は、F土地の南端の隣接里道に平行にして均等幅で分筆して差し押さえるべきであるとも主張するが、そのようにして分筆すれば、間口が狭小であることによる減価、土地利用の効率が劣ることによる減価等が発生することが予想されると共に、公売を行っても競落されない可能性も高くなることが予想され、そのため、国税の徴収が全うできなくなることも予測されるから、分筆した上での差押が相当であると認めることはできない。

そして、他に本件差押処分において、いわゆる超過差押ないし無益な差押え(国税徴収法48条)に該当する事情は認められない。

以上より、本件差押処分は違法である旨の原告の主張は採用できない。

3  結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊永多門 裁判官 角田康洋)

裁判官 谷有恒は、差し支えのため署名押印することができない。 裁判官 豊永多門

別紙1

物件目録

所在 高松市

地番

地目 田

地積 555平方メートル

別紙2

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別紙3

相続税額の計算総括表

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別紙4の1

相続税額の計算総括表

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別紙4の2

近隣 水田売買の実例

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別紙4の3

本件土地固定資産評価額

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別紙5の1

本件各土地の評価額について

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別紙5の2

本件各土地の評価額について

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別紙5の3

本件各土地の評価額について

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別紙6の1

本件各土地の評価額について

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別紙6の2

本件各土地の評価額について

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別紙6の3

本件各土地の評価額について

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別紙7の1

本件各土地の評価額について

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別紙7の2

本件各土地の評価額について

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別紙7の3

本件各土地の評価額について

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別紙8

本件各土地の評価額について

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別紙9

本件各土地の評価額について

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別紙10

本件各土地の評価額について

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