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高松地方裁判所 平成18年(ワ)100号 判決 2008年2月14日

原告

甲野太郎

(以下,「原告太郎」という。)

原告

甲野花子

(以下,「原告花子」という。)

原告ら訴訟代理人弁護士

安藤誠基

阿部晶子

同訴訟復代理人弁護士

古屋時洋

被告

JFEメタルファブリカ株式会社

(以下,「被告JFEメタルファブリカ」という。)

同代表者代表取締役

坪田一哉

同訴訟代理人弁護士

柳瀬治夫

徳田陽一

河村正和

被告

有限会社ナカ

(以下,「被告ナカ」という。)

同代表者代表取締役

中輝己

同訴訟代理人弁護士

嶋田幸信

主文

1  被告らは,連帯して,原告太郎に対し,金2958万8464円及びこれに対する平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割合による金員,原告花子に対し,金2922万9831円及びこれに対する上同日から支払済みまで年5分の割合による金員を,それぞれ支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを5分し,その2を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求の趣旨

被告らは,連帯して,原告太郎に対し,5040万5184円及びこれに対する平成15年4月22日から支払済みまで年5分の割合による金員,原告花子に対し,4968万5612円及びこれに対する上同日から支払済みまで年5分の割合による金員を,それぞれ支払え。

第2  事案の概要

本件は,平成15年4月21日に発生した,被災者を甲野次郎(以下,「次郎」という。)とする造船作業中の労災死亡事故について,次郎の両親である原告らが,造船業者である被告JFEメタルファブリカ及び同社の下請で,次郎の雇用主である被告ナカに対し,安全配慮義務違反による債務不履行責任,もしくは不法行為責任に基づく損害賠償を求めた事案である。

1  争いのない事実等(以下の事実は争いがないか,各掲記の証拠によって容易に認められる。)

(1)  当事者

原告太郎と同花子は,次郎(昭和60年6月*日生)の両親である。

被告JFEメタルファブリカは,鉄骨,橋梁その他鉄鋼構造物ならびにその部材の設計・製作・据付・修理及び販売,船舶部材・海洋構造物部材の設計・製作・修理及び販売等を目的とする会社であり,被告ナカは,土木鋼構造物原寸木型製作,建設鋼構造物の原図原寸加工,各種鋼材の溶接,加工,組立等を目的とする会社である(弁論の全趣旨)。

被告JFEメタルファブリカ丸亀工場には,大型工場(船舶組立工場)があり,同工場は,船舶の居住区,操舵室,船倉等の大型船舶(タンカー等)の各パーツを製造加工する工場である。

被告ナカは,原告JFEメタルファブリカの下請会社であり,同被告は,平成15年1月10日から次郎を雇用していた。

(2)  労災事故の発生(以下,「本件事故」という。)

ア 日時 平成15年4月21日午後2時15分ころ

イ 場所 丸亀市昭和町<番地略> 被告JFEメタルファブリカ丸亀工場大型工場内(以下,「本件事故現場」という。)

ウ 態様 次郎(事故当時17歳)は,倒れてきた重量のある鋼鉄製壁板の下敷きとなって圧迫死した。

(3)  本件事故状況

次郎は,被告ナカに雇用され,大型工場内の船舶ブロック組立作業現場及び部材工場で清掃作業に従事していた。

組立作業は,別紙図1のとおり,床板に壁板を直立させて床板と壁板の端部を溶接する作業である。

一般的な作業手順は,所定の床板面上にクレーンで壁板を定位置にセットし,床板と壁板を溶接してこれに固定した上下の羽子板に倒れ止め(鉄パイプ)の両端をボルト,ナットで連結し,次いで,ヒッパラー(留め金工具)とジャッキで床板と壁板を密着固定して十数か所に仮付け溶接し,壁板の転倒を防止するというものである。

上記作業は,溶接技術を持つ従業員が当たることになっている。

工場全体の総責任者は,被告ナカの専務取締役である一色昭雄(以下,「一色」という。)であり,組立作業の現場責任者は,被告ナカの従業員である二宮和夫(以下,「二宮」という。)である。次郎は,組立作業のうち,板継ぎ作業に属する補助作業員である。

次郎の直属の上司は二宮であり,同僚に三井正男(現姓 四谷,以下,「三井」という。)がいた。

次郎は,本件事故前,本件事故現場床面の清掃作業を命じられていた。

次郎は,平成15年4月21日午後2時ころ,清掃作業をやめ,三井に「何かすることないん」と仕事を求めたので,三井は,「壁でもつけよって」(丙4の1),「溶接でもしといて」(丙4の2)と指示した。

本件事故当時,仮付け溶接については,以前から熟練の従業員が次郎について半自動の溶接器具を使用して溶接技術を教えたことがあったので,仮付け溶接程度なら何とかできる程度にまでなっていた。

次郎は,三井の指示に従い,板継ぎ作業,すなわち壁板と床材の仮溶接作業を開始した。仮溶接は,三井が既に4か所はしていたが,全部で10〜12か所することになっていた。なお,本溶接作業は,熟練の溶接工がすることになっていた。

次郎は,一人で板継ぎ作業に従事していたが,午後2時15分ころ,転倒防止治具(倒れ止め棒の先端に付ける羽子板)の(仮)溶接部が破断し,鋼鉄製の壁板が外側(南側)に倒れ,次郎は,壁板と定(底)盤に挟まれて圧死した。

(4)  相続

原告らは,次郎の権利義務を2分の1宛相続した。

2  中心的争点

(1)  本件事故原因

(原告らの主張)

ターンバックルと組み合わされた羽子板の溶接不十分ないし仮付け溶接前の仮付け作業が不十分であったため,仮付け溶接作業をしている次郎に壁板が倒壊してきた。

(被告らの主張)

次郎は,二宮から指示された清掃作業を途中で放棄した上,さらに二宮に指示を仰ぐこともせず,三井の「仮付け溶接をするように」との指示に違反し,別紙図2の内側(北側)に掛けてあった引張り治具を取り外し,これを同図2の外側(南側)に掛け替えた上,ヒッパラーで引っ張り続けたため,同図2の内側に設置した倒れ止めの羽子板取付部を破損させ,壁板を外側(南側)に転倒させたことにより,圧死した。

(2)  安全配慮義務違反の有無(過失相殺)

(原告らの主張)

次郎は,被告ナカの直接の指揮監督下にあると同時に,被告JFEメタルファブリカの間接的な指揮監督下にあったところ,被告らには,次の安全配慮義務違反ないし過失がある。

ア 次郎のような未熟練作業者に対する安全教育義務を施さず,次郎に危険な作業を一人で行わせた。

イ 本件事故前,三井の行った仮溶接作業は,別紙図面「上から見たところ」のとおり,溶接ピッチ(間隔)や溶接幅,溶接範囲の点で作業標準に違反ないし逸脱しており,強度が不足していた。また,三井の行った転倒防止治具であるパイプとターンバックルの溶接作業は,作業標準に達しない不十分なものであったため,板壁は倒壊しやすい危険な状態であった。

したがって,次郎がヒッパラーを使用しなかったとしても,本件事故は発生した。

ウ 指揮監督系統がずさんであったため,三井は,年少未熟な次郎に対し,壁の密着作業の一部である仮付け溶接前の仮付け作業を命じた。

現場責任者の二宮は,年少未熟な次郎が仮付け溶接前の仮付け作業に従事しないよう絶対に禁止すべきであったのに,これを禁止しなかった。

次郎は,三井の指示を受け,上記作業を開始したところ,ヒッパラーを用いて隙間を塞ぐ必要があったため,ヒッパラーを使用し,本件事故が発生した。

エ 本件事故現場においては,ヒッパラー(レバーブロック)のフックやクランプの正常な使用が行われず,フックの点検管理もずさんであった。フックが急にはずれ,その衝撃力で鉄板が倒れた可能性がある。

(被告JFEメタルファブリカの主張)

大型工場内の業務については,被告ナカの指揮命令系統の下で業務が遂行されており,実質的に,次郎に対し,被告JFEメタルファブリカの指揮監督は及んでいない。したがって,被告JFEメタルファブリカは,次郎に対する安全配慮義務を負っていない。

(被告らの主張)

ア 被告ナカは,直立した壁板に通常予期し得る程度の外力が加わった場合でも壁板が倒れないよう十分な強度を有する倒れ止めを設置していた。転倒防止治具(倒れ止め棒の先端に付ける羽子板)も溶接強度を十分保持していた。

しかるに,次郎は,壁板内側(北側)に掛けてあった引っ張り治具を勝手に取り外し,これを壁板外側(南側)と定(底)盤に斜めに付け替え,かつヒッパラーを操作して壁板を引っ張ったことにより,壁板が転倒したと推測される。次郎の行為は,被告らには全く予期し得ない異常行動であり,被告らに安全配慮義務違反はない。

イ 次郎は,直属の上司である二宮から指示された清掃作業を放棄し,同人の指示を仰がず,三井に指示を求め,板継ぎ作業を行う業務命令違反をなし,本件事故を惹き起こした。

ウ 被告ナカは,正常な機能を有するヒッパラーを使用し,その使用方法も安全な管理下でのものであった。ヒッパラーの締め付け中,フックがはずれたとすれば,鉄板への締め付けが解除され,本件事故は発生しなかったはずである。したがって,ヒッパラーの使用方法や状態と,本件事故の発生との間に相当因果関係はない。

(3)  損害額

(原告らの主張)

ア 原告太郎の積極損害 114万7132円

(ア) 治療費 5250円

(イ) 諸雑費 4280円

(ウ) 文書料 1万2600円

(エ) 葬儀費用 112万5002円

イ 次郎の逸失利益 5037万1224円

459万8600円(平成15年賃金センサスによる中卒男子年収額)×18.256(就労可能年数50年に対応するライプニッツ係数)×(1−0.4(生活費控除))=5037万1224円

ウ 次郎の慰謝料 3500万円

エ 原告ら固有の慰謝料 各250万円

オ 原告太郎

ア−42万7560円(既払葬祭料)+エ+(イ+ウ)÷2+450万円(弁護士費用)=5040万5184円

カ 原告花子

エ+(イ+ウ)÷2+450万円(弁護士費用)=4968万5612円

(4)  損害の填補

(被告らの主張)

ア 原告太郎は,平成15年8月8日,労災保険給付として,葬祭料44万4360円を受給した。

イ 次郎の内妻である丙川葉子(以下,「丙川」という。)は,労災保険給付として,次のとおり受給した。

(ア) 平成15年8月8日 一時金(特別支給金) 300万円

(イ) 同年10月15日 遺族補償年金 30万9662円

(ウ) 同年12月15日 同 10万9956円

(エ) 平成16年2月13日 同 10万9956円

(オ) 同年4月15日 同 10万9956円

(カ) 同年6月15日 同 10万9956円

(キ) 同年8月13日 同 10万9956円

(ク) 同年12月15日 同 22万0064円

(ケ) 平成17年2月15日 同 11万0032円

(コ) 同年4月15日 同 11万0032円

(サ) 同年6月 同 11万0032円

(シ) 平成18年4月 同 62万6560円

(ス) 同年6月 同 12万9132円

(セ) 同年8月 同 12万9132円

(ソ) 平成19年8月 同 74万1588円

ウ 上記労災保険給付は,損害の填補として,原告らの損害から差し引かれるべきである。

(被告ナカの主張)

丙川が将来継続受給する遺族補償年金も,損害の填補として原告らの損害から差し引かれるべきである。

(原告らの主張)

丙川は,本件事故後である平成15年8月6日,次郎の子でない葉治を出産しており,丙川と次郎の内縁関係は,錯誤に基づく無効な関係であるから,丙川が受給した労災保険給付を損害の填補として差し引くべきでない。

第3  当裁判所の判断

1  中心的争点(1)(本件事故原因)について

(1)  前記第2・1(争いのない事実等)と証拠(甲4ないし8,14,15の2ないし4,甲28(ただし,採用しない部分を除く。),乙2ないし5,乙8の1ないし15,丙1ないし3,丙4の1,2,丙5,6,丙7の1,2,丙9の1(ただし,採用しない部分を除く。),証人五木明夫,同一色,原告太郎(ただし,採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。甲28,丙9の1,原告太郎のうち,この認定に反する部分は,他の証拠に照らし,採用しない。

ア 次郎の雇用と業務

被告JFEメタルファブリカ丸亀工場には,大型工場(船舶組立工場)があり,同工場は,船舶の居住区,操舵室,船倉等の大型船舶(タンカー等)の各パーツを製造加工する工場である(乙1,2)。

被告ナカは,被告JFEメタルファブリカの下請会社であり,被告ナカは,平成15年1月10日から次郎を雇用していた。次郎は,約2か月半ないし3か月の期間雇用であり,平成15年1月10日から同月31日までは試用期間であった(丙2)。

大型工場全体の総責任者は,被告ナカの専務取締役である一色であり,組立作業の現場責任者は,被告ナカの従業員である二宮である。

次郎の直属の上司は二宮であり,同僚に三井がいた。

次郎は,大型工場内の船舶ブロック組立作業現場及び部材工場で清掃作業や板継ぎ作業の補助作業に従事していた。そのかたわら,次郎は,自動溶接機械による溶接作業の指導を受けていた。

次郎は,上部構造大組立作業の経験がなく,板継作業工程及び工法を知らなかった。次郎の習得した業務は,三井とともに,底の鉄板にアングルを溶接で取り付ける作業という初歩的なものであった。ヒッパラー使用の経験はないので,「これ以上締めれば危ない」という経験で体得する基準も理解できていなかった。

イ 労災事故(本件事故)状況

(ア) 次郎は,平成15年4月21日午後1時過ぎころ,二宮から,本件事故現場床面の清掃作業を命じられていた(丙3)。二宮は,本件事故現場の東側の大組立作業現場で作業をしていた。

(イ) 次郎は,同日午後2時ころ,清掃作業をやめ,三井に「何かすることないん」と仕事を求めたので,三井は,「壁でもつけよって」(丙4の1),「溶接でもしといて」(丙4の2)と指示した。

そして,三井は,現場西方にあった垂直用の鉄板をクレーンで現場まで搬送するため,本件事故現場を離れた。

仮付け溶接については,以前から熟練の従業員が次郎について半自動の溶接器具を使用して溶接技術を教えたことがあったので,仮付け溶接程度なら何とかできる程度にまでなっていた。

次郎は,三井の指示に従い,板継ぎ作業,すなわち壁板と床材の仮溶接作業(仮付け溶接前の仮付け作業)を開始した。仮溶接は,三井が既に4か所(別紙図面「上から見たところ」のアーク溶接痕(外)の西(右)側4か所)はしていたが,全部で10〜12か所することになっていた。なお,本溶接作業は,熟練の溶接工がすることになっていた。

(ウ) 次郎は,一人で板継ぎ作業に従事していたが,同日午後2時15分ころ,転倒防止治具(倒れ止め棒の先端に付ける羽子板)の床板との仮溶接部が破断し,鋼鉄製の壁板が外側(南側)に倒れ,次郎は,壁板と定(底)盤に挟まれて圧死した。

ウ 組立作業

(ア) 組立作業は,別紙図1のとおり,床板に壁板を直立させて床板と壁板の端部を溶接する作業である。

一般的な作業手順は,所定の床板面上にクレーンで壁板を定位置にセットし,床板と壁板を溶接してこれに固定した上下の羽子板に倒れ止め(鉄パイプ)の両端をボルト,ナットで連結し,次いで,ヒッパラー(留め金工具)とジャッキで床板と壁板を密着固定して十数か所に仮付け溶接し,壁板の転倒を防止するというものである。

上記作業は,溶接技術を持つ従業員が当たることになっている。

(イ) 被告JFEメタルファブリカが平成11年7月15日に制定した「上部構造の大組立作業の作業標準」(丙5)によれば,大組立作業の作業手順,内容は,次のとおりとされている。

ⅰ 工具の準備

ⅱ 定盤かさ上げ

ⅲ 大組立

a 壁材を仮置き場よりクランプハッカーで吊り取り込む。

b 壁取り込み時には,転倒防止用治具(パイプ+ターンバックル,引掛丸棒+ヒッパラー)を取り付けた後に,クランプハッカーを外すこと。

c 壁マークを確認し,取付け罫書線に合わせて仮付け溶接を行う。

d デッキプレートと壁の密着が悪い場合は,ヒッパラーで引き上げるか,定盤下よりジャッキアップする。

e 壁材が直立後は,ブラケット関係を取り付ける。

f 壁材取付後は,ピラーあるいはデッキ補強関係の部材を取り付ける。

g 自社移動用吊りピース及び搭載用ピースの取付けを行う(補強材含む。)。

h その他大組立で取り付ける全ての部材を取り付ける。

i 仮付け溶接は,長さ50mm,ピッチ350mmとする。

エ 丸亀警察署の業務上過失致死傷事件発生報告書(丙6,7の1,2)

丸亀警察署は,平成15年4月21日午後2時20分ころ,丸亀市消防から本件事故の届出を受け,本件事故現場において,業務上過失致死容疑事件で捜査を行った。

その報告書(丙6)によれば,別紙図面「上から見たところ」のとおり,底盤にアーク溶接痕,壁板にヒッパラーをかけたと思われる痕跡があった。また,別紙図面「床面に落ちていた血痕のかたまり(上から見たところ)」のとおり,血痕とヒッパラーがあった。

同警察署が平成15年4月21日午後2時40分から同4時40分にかけて撮影した写真撮影報告書(丙7の1,2)の写真番号39,40,42に血痕とヒッパラーが撮影されている。

同警察署は,事故原因を次のとおり推定している。すなわち,「床面の鉄板と壁面の鉄板の隙間がある場合,通称ヒッパラーと呼ばれる器具を使用するが,締め付け加減は経験と勘で行われている。また,ヒッパラーは,内側に掛けるのが通常であるが,現場の状況(ヒッパラーが死者の横に落ちていたこと)からして,死者は外側にヒッパラーを掛けた状態で使用していたもので,その上,力加減を誤り,仮付けしていた壁面鉄板が外側に引かれる形となり,溶接がはずれ,壁面の鉄板が倒れたと思われる。」

オ 本件事故原因に関する関係者の供述

(ア) 中輝己(被告ナカ代表者,丙1)

「次郎が,ターンバックルを真下でなく,斜めに掛けてしまったことが事故原因であると推測する。」

(イ) 一色(被告ナカ専務取締役・安全管理者,丙2)

「仮付け溶接は,三井が行った以外,2か所(壁の内側1か所,外側1か所で,いずれも壁の東端)に認められたこと,三井が使い終わり,壁の内側に吊していたヒッパラーが倒れた壁の外側に落ちていたこと,三井は,本件事故現場を離れる際,「溶接でもしといて」といったこと,次郎は,倒壊した壁の外側で壁の下敷きになっていたことから,次郎は,三井が本件事故現場を離れた際,自らヒッパラーを使用して,アーク溶接を行っていたのではないかと想像する。」

「次郎が,ターンバックルを真下ではなく,斜めにかけてしまったことが,本件事故原因と考えられる。」

(ウ) 二宮(被告ナカ・現場主任,丙3)

「鉄板は南方に倒れており,その下側にはヒッパラーが落ちていることから,次郎は,垂直に取り付けなければならないヒッパラーを角度をつけて取り付けてしまい,力を加えたために,鉄板が南方に倒れた可能性が十分考えられる。」

(エ) 三井(被告JFEメタルファブリカ(平成5年4月1日就職)から被告ナカに出向,丙4の1,2)

「垂直の鉄板を取り付けようと,自分が,4か所の仮付けを行った後,ターンバックルの支柱の溶接を行い,その後クレーンのフックをはずしているが,そう簡単に垂直に立てた鉄板が倒れることはない。次郎が,アーク溶接を行おうとして,ヒッパラーを鉄板の上部外側に引っかけ,それで垂直の鉄板を下方へ引っ張ろうとしていたものと思う。つまり,次郎は,垂直に立てた鉄板の外側に位置し,ヒッパラーを外側に引っ張りすぎて,外側に圧力がかかり,鉄板が外側に倒れてしまったものと考える。なぜそう思うかというと,倒れていた次郎の傍らには,ヒッパラーの工具が落ちていたこと,垂直に立てた鉄板の上部内側にヒッパラーの工具を掛けた痕跡が残っていたこと,次郎が溶接を行ったと思われる溶接痕が,本件事故現場の平らな面の南東側,つまり垂直の鉄板と重なった部分で2か所(東側で,鉄板の内側と外側の両方)についていたことから,次郎は,溶接を行ったものに間違いない。」(丙4の1)

「次郎がヒッパラーを斜めにかけた上,アーク溶接を行っていたことが本件事故原因と考える。その前段として,自分が壁の外側に足元の溶接を4か所行った際,あるいはターンバックルの溶接を行った際,その溶接が不十分であったかもしれない。また,次郎が,これまでに何度か自分と行っていたヒッパラーのかけ方が,垂直でなく,斜め外側の方へ引っ張ってしまったことも予想される。もう少し溶接を頑丈にしていたり,溶接個所を増やしておけば,壁が倒壊しなかったかもしれない。次郎は,ヒッパラーをかけた後,垂直でなく,斜め方向に締め付けたかもしれない。そうでなければ壁は倒壊しない。倒壊した壁は,デッキプレートの外周部分になるため,本来ならジャッキを使ってアーク溶接を行うところだが,自分は,付近にジャッキがなかったことから,ヒッパラーを使ってしまった。自分は,次郎に「溶接でもしといて」と声をかけた。自分としては,壁の下部分でデッキプレートとの隙間に溶接をしてくれと頼んだものである。そのため,次郎は,見よう見まねでヒッパラーを使ったものと思う。それも垂直に締め付けず,斜めに締め付けたものと思う。」(丙4の2)

(オ) 五木明夫(以下,「五木」という。被告JFEメタルファブリカ造船部部長,丙5)

「倒壊した壁に関して仮付け前の仮付けは6カ所に施されていた。つまり,三井がアーク溶接を行った以外に,2か所の溶接痕が認められ,その2か所のアーク溶接は,次郎が行っていたことになる。三井も,次郎に対し,「溶接をしといて」といったそうである。次郎が倒れていたのは,倒壊した壁の南側であり,壁は外側(南側)に向かって倒壊したことになる。次郎の傍らには,引っかけ丸棒とヒッパラーがあった。三井は,それらを使った後,壁の内側で,平らな鉄板の南西部付近に置いていたとのことで,それを次郎が使ったものと推測する。次郎が引っかけ丸棒とヒッパラーを使い,それを壁に引っかけ,壁と平らな鉄板の隙間を無くし固定させようとして,ヒッパラーを締め付けすぎたものと直感した。だから壁の倒壊事故になったものと思う。

ただ,自分は,事故原因として,次の4点に問題があると思う。

第1点は,三井は,大組立作業の部材は,ヒッパラーを使わず,ジャッキを使って壁と平らな鉄板を固定しなければならなかった。

第2点は,次郎は,ヒッパラーを使用したとき,下方のフックを真下にかけずに,角度をつけた場所にひっかけたかもしれない。

第3点は,三井が転倒防止治具として,パイプ+ターンバックルの溶接作業を行った際,平らな鉄板に施した溶接が不十分だった可能性がある。

第4点は,三井は,まだ見習いの次郎に「溶接をしといて」といったことに問題がある。

実際に事故になった原因としては,次郎の過失が大である。次郎は,自分勝手に溶接を行い,溶接だけならまだしも,引っかけ丸棒+ヒッパラーの作業を行っている以上,それが原因で事故につながっている状況に間違いないと推測される。

本件事故現場に三井なり二宮がいれば,絶対にそんなことはさせていないだろうし,その作業を制止していると思う。」

カ 被告JFEメタルファブリカの安全衛生会議における報告

被告JFEメタルファブリカの平成15年5月度・安全衛生会議兼安全衛生協議会における「災害報告書」(乙8の4)には,本件事故原因として,「①隙間を密着させる際,ジャッキが使用できる場所であり,ジャッキを使用するべきところ,ヒッパラーを使用した。②ヒッパラーを使用する場合でも,内側にかけるべきところ,外側にかけてしまった。③倒れ止めを固定する羽子板の溶接は,十分に行うべきところ,不十分であった。」と記載され,対策として,「①壁立て作業の作業標準にジャッキとヒッパラーの適用個所と使用方法を追記し,再教育を行う。②経験の浅い者(職種変更者も含む。)の一人作業を禁止する。ただし,定常作業のうち,上司が可能と認めた者を除く。③倒れ止め羽子板は,溶接長確保のため,75×75から100×100に変更する。④羽子板の使用は,溶接状態が確認し易いよう,長辺(8辺)を1回通り使用した物は廃棄する。再使用は禁止とする。溶接者は,溶接状態を確認し,名前を記入する。⑤倒れ止めの取付数を現行の3m未満1か所を,単独壁の場合,3m未満でも2か所に変更し,徹底させる。」と,記載されている。

キ 丸亀労働基準監督署長に対する労災事故報告と同監督署の指導

(ア) 被告ナカの平成15年4月28日付け労働者死傷病報告(甲5)

「災害発生状況及び原因」として,「大型工場で上部構造用ブロックの組立作業をしていて,外周部の壁材と床面を密着させるため,ヒッパラーを使用しているとき,転倒防止治具の溶接部が破断して壁が倒れて,定盤と壁とにはさまれ受傷した。」,「今後の対策」として,「外周部の壁の密着は,ジャッキを使用する。転倒防止治具の本数を増やす(1本から2本)。転倒防止治具の溶接を充分に行う。」と記載されている。

(イ) 被告JFEメタルファブリカの平成15年4月22日付け災害報告書(甲7)

「原因」として,「①南側にヒッパラーをひっかけて引っ張った(推定)(北側にかけるか,あるいはジャッキを使用するのが正規)。②転倒防止治具の溶接部が破断した。転倒防止治具のTOP板との取付部の溶接が充分でなかった。③被災者は,上司の指示と異なる作業を同僚の指示で行った。」,「対策」として,「①転倒防止治具の羽子板を大きくして溶接を確実に行う(□75→□100)。②溶接後に再度確認する。スラグ除去後,目視にて溶け込み,偏肉等のチェックを徹底する。チェック表示の記入(白チョークにて氏名)を実施する。③壁の取付基準の見直しを行い,全員に周知する。単独にたてる壁3m未満でも2本とする。④指揮者の指示事項を遵守させる(全員に再教育を行う。)。」と記載されている。

(ウ) 丸亀労働基準監督署は,平成15年8月6日付け指導票(甲15の3)により,被告ナカに対し,次のとおり指導した。

「① 所定か所の仮付け溶接が終了するまで,転倒の危険がある加工材は,控えをとるだけにとどまらず,クレーンで吊ることなど二重の転倒防止措置を講じること。

② 年少者をはじめ未熟練作業者に対して,作業範囲,内容を明確に指示し,不用意に危険な作業に就くことがないよう作業指示を徹底すること。

③ 災害発生作業に未熟練者を就かせる際は,作業前に,作業標準の説明をはじめ,作業上の安全確保のための指示,指導,教育を十分に行うこと。

④ 年少者への作業・安全指示を組織的に明確に行うため,適任者の中から,指導責任者を選任し,常時,その者から,年少者への作業・安全上の指示,指導を行わせること。

⑤ 労働者に対し,日常的なKYT活動の充実,定期的な安全教育を実施し,継続的に安全作業に対する意識の高揚を図ること。」

(エ) 丸亀労働基準監督署は,平成15年8月6日付け指導票(甲15の4)により,被告JFEメタルファブリカに対し,次のとおり指導した。

「災害発生場所において,災害発生事業場と一体となった作業を行っていることから,災害発生にかかる作業標準書の見直しを含めた工場内の災害発生防止対策の検討,下請け事業場の労働者に対する安全教育の実施など下請け事業場が安全管理を行う上で,必要な指導援助を行うこと。」

(2)  上記事実によれば,本件事故原因は,入社して日が浅く,未熟練の若年労働者である次郎に対し,被告らは,大組立作業を単独でしないよう明確に注意をせず,また,十分な安全教育を施さなかったため,次郎は,現場責任者から命じられた清掃作業を了したと思い,三井に対し,「何かすることないん」と指示を仰ぐと,同人から,「壁でもつけよって」,「溶接でもしといて」といわれたので,三井が,既に,北側(内側)にパイプ+ターンバックルの転倒防止治具を施し,4か所(別紙図面「上から見たところ」のアーク溶接痕(外)の西(右)側4か所)に仮溶接をしていた作業を引継ぎ,一人で見よう見まねで壁材と床材の板継ぎ作業(仮溶接作業)を行おうとし,丸棒+ヒッパラーを使用して,別紙図面「上から見たところ」の「アーク溶接痕(外,内)の東(左)端2か所」に仮溶接をし,次いで,壁材の中央付近に仮溶接をしようとして,丸棒+ヒッパラーを使用して壁材と床材の隙間を塞ぐ密着作業中,ヒッパラーを斜めにかけ,これを強く締め付けすぎたため,三井が施していた転倒防止治具や仮溶接部4か所が破断し,壁板が外側(南側)に倒れ,次郎は,壁板と定(底)盤に挟まれて圧死したものと認めるのが相当である。

(3)  原告らは,本件事故後,ヒッパラーは,西側の金網上に落ちていたにもかかわらず,別紙「上から見たところ」では,「ヒッパラーをかけたと思われる痕跡は,東(左)端付近と中央やや東(左)側付近にあったことから,次郎は,本件事故発生時,ヒッパラーを使用していなかったと考えられる旨主張するが,三井は,4か所の仮溶接に使用したヒッパラーを,壁材の内(北)側にかけていたところ,本件事故後,ヒッパラーは,壁材の外(南)側で,次郎の傍らに落ちているのが発見されたことからして,次郎は,壁材と床材を密着させようとして,ヒッパラーを使用したものと認めるのが相当である。

そして,ヒッパラーの先端のフックを真下にかければ,容易に転倒防止治具や仮溶接部4か所が破断することはないと考えられることから,次郎は,ヒッパラーの先端のフックを斜めにかけて引っ張ったため,強く締め付けすぎ,転倒防止治具や仮溶接部4か所が破断したと認めるのが相当である。

また,原告らは,三井が施した仮溶接が作業標準(長さ50mm,ピッチ350mm)に違反し,強度不足であったこと,三井の施した転倒防止治具であるパイプ+ターンバックルの底面の溶接が強度不足であったこと,三井は,仮溶接を別紙「上からみたところ」の西(右)側4か所にしか施していなかったことが本件事故の原因である旨主張するが,上記のとおり,次郎が,ヒッパラーの先端のフックを斜めにかけて引っ張らなければ,転倒防止治具や仮溶接部4か所が破断することはなかったと考えられることから,上記主張は採用しない。

さらに,原告らは,次郎が使用したと認められるヒッパラーの先端のフックは,10パーセント以上開口しており,使用に耐えないものであったことが,本件事故の原因である旨主張するが,本件事故が,フックが外れたことに起因すると認めるに足りる証拠はなく,ヒッパラーの先端にフックを使用したこと及びフックの開口と,転倒防止治具や仮溶接部4か所の破断とは相当因果関係が認められないことから,原告らの上記主張も採用しない。

2  中心的争点(2)(安全配慮義務違反)について

(1)  被告JFEメタルファブリカは,大型工場内の業務については,被告ナカの指揮命令系統の下で業務が遂行されており,実質的に,次郎に対し,被告JFEメタルファブリカの指揮監督は及んでいない。したがって,被告JFEメタルファブリカは,次郎に対する安全配慮義務を負っていない旨主張する。

しかし,乙6の1ないし15,乙7の1ないし24,乙8の1ないし15,丙1ないし3,5,証人一色によれば,次郎は,平成15年1月10日,被告ナカに雇用されたが,被告ナカは,被告JFEメタルファブリカの下請として,同被告丸亀工場内の大型工場において造船業務を行っており,被告ナカの新入社員に対する安全教育は,まず被告JFEメタルファブリカにおいて一般的な安全教育を行い,その後,勤務先である被告ナカにおいて,さらに具体的な安全教育を行っていると認められること,被告JFEメタルファブリカは,毎月,被告ナカほか数社の下請会社を集め,被告JFEメタルファブリカ丸亀工場長を総括安全衛生管理者として,「安全衛生会議・安全衛生協議会」を開催し,安全衛生成績報告や災害報告をさせ,安全衛生目標を定めるなど,労働安全衛生について周知を図り,労働災害の防止に努めていること,被告JFEメタルファブリカは,同被告作成に係る平成15年5月1日付け「安全衛生管理編成表」(乙8の15)において,総括安全衛生管理者を被告JFEメタルファブリカ・六田工場長とし,その下に,順次,部安全衛生管理者(五木・JFEメタルファブリカ造船部長),大型工場安全衛生責任者(一色・被告ナカ専務取締役),班安全衛生責任者(被告ナカ・七瀬)を置き,七瀬の下に,二宮ら被告ナカの一般従業員が置かれる体制をとっていること,被告JFEメタルファブリカは,作業安全マニュアルとして,「上部構造の大組立作業」などの「作業標準」を定め,被告ナカの従業員らに対し,同標準に従って作業するよう指導していること,被告JFEメタルファブリカの五木造船部長は,丸亀警察署の取調官に対し,「本件事故は,被告JFEメタルファブリカ造船部の管理下に発生したものであり,自分がその管理責任を負うことは十分理解している。」旨供述していることからすれば,被告JFEメタルファブリカが,被告ナカの従業員であった次郎に対し,安全配慮義務を負うことは明らかというべきである。

よって,被告JFEメタルファブリカの上記主張は,採用しない。

(2)  そこで,被告らの安全配慮義務違反の有無について判断するに,本件事故は,前記1(2)のとおり,直接的には,次郎が,壁材と床材の板継ぎ作業(仮溶接作業)を行おうとし,丸棒+ヒッパラーを使用して,壁材の東端2か所に仮溶接をし,次いで,壁材の中央付近に仮溶接をしようとして,丸棒+ヒッパラーを使用して壁材と床材の密着作業中,ヒッパラーを斜めにかけ,これを強く締め付けすぎたため,三井が施していた転倒防止治具や仮溶接部4か所が破断したことによると認められる。

しかしながら,次郎が一人で上記作業をするについては,同人は,二宮や三井の指導の下,壁材と床材の溶接作業をするまでになっていた(丙4の2)ところ,被告らは,次郎が,三井から,「壁でもつけよって」,「溶接でもしといて」などと指示を受ければ,作業を無駄なく進行させようとして,一人で見よう見まねで大組立作業に従事することがあり得ることを予見し得たというべきであるから,被告ら(五木・被告JFEメタルファブリカ造船部長,一色・被告ナカ専務取締役,二宮・被告ナカ現場作業責任者)には,入社して日が浅く,未熟練の若年労働者である次郎に対し,大組立作業に関し,被告JFEメタルファブリカの定めた作業安全マニュアルに従った作業を行うよう安全教育を施さなかったこと,及び単独で危険な大組立作業を行わないよう明確に注意しなかった安全配慮義務違反があると認めるのが相当である。

(3) 被告らは,次郎が,直属の上司である二宮から指示された清掃作業を放棄し,同人の指示を仰がず,三井に指示を求め,板継ぎ作業を行う業務命令違反をなし,本件事故を惹き起こした旨主張するが,上記のとおり,被告らは,未熟練労働者である次郎が,二宮から指示がなくとも大組立作業に従事することがあり得ることを予見すべきであったと認められるから,安全配慮義務違反の責任を免れることはできない。

よって,被告らの上記主張は採用しない。

(4)  他方,次郎にも,二宮から指示を受けてもいないのに,一人で壁材と床材の板継ぎ作業(仮溶接作業)を行おうとし,丸棒+ヒッパラーを使用して仮溶接をしようとして,丸棒+ヒッパラーを使用して壁材と床材の密着作業中,ヒッパラーを斜めにかけ,これを強く締め付けすぎ,これが本件事故の直接的原因になったと認められることから,次郎及び原告らに生じた損害について,3割の過失相殺をすべきである。

この認定に反する原告らの主張は,採用しない。

3  中心的争点(3)(損害)について

(1)  原告太郎の積極損害 114万7132円

ア 治療費 5250円(甲9の2)

イ 諸雑費 4280円(甲9の1)

ウ 文書料 1万2600円(甲9の3,4)

エ 葬儀費用 112万5002円(甲10の1,2,甲11)

(2) 次郎の逸失利益 5037万0949円(円未満切り捨て,以下,同じ。)

459万8600円(平成15年賃金センサスによる中卒男子年収額×18.2559(就労可能年数50年に対応するライプニッツ係数)×(1−0.4(生活費控除))=5037万0949円

(3) 次郎の慰謝料 2200万円

(4) 原告ら固有の慰謝料 各200万円

(5) 以上合計

ア 原告太郎 3933万2606円

(1)+((2)+(3))÷2+(4)=3933万2606円

イ 原告花子 3818万5474円

((2)+(3))÷2+(4)=3818万5474円

(6) 過失相殺(3割)

ア 原告太郎 2753万2824円

イ 原告花子 2672万9831円

(7) 損害の填補(原告太郎) 44万4360円(葬祭料,争いがない。)

ア 被告らは,労災保険給付として,丙川の受けた既給付の遺族補償年金及び一時金(特別支給金)を損害の填補として,原告らの損害から差し引くべきであると主張する(被告ナカは,将来給付分の遺族補償年金も)。

しかし,労災保険法16条の2第1項によれば,「遺族補償年金を受けることができる遺族は,労働者の配偶者,子,父母,孫,祖父母及び兄弟姉妹であって,労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとする。」とされ,受給権者は,第1順位が妻(婚姻の届出をしていなくても,事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)とされており,甲15の1ないし17によれば,丙川は,次郎の内縁の妻と認められ,第1順位の受給権者として,遺族補償年金を受給していることが認められる。

そうすると,原告らは,次郎の両親として遺族補償年金の受給権者とならないのであるから,丙川の受給した遺族補償年金を原告らの損害から差し引くことはできないと解すべきである(最高裁判所昭和50年10月24日判決・民集29巻9号1379頁参照)。

よって,被告らの上記主張は採用しない。

イ 差引額 2708万8464円(原告太郎につき)

(8) 弁護士費用 各250万円

(9) 以上合計

ア 原告太郎 2958万8464円

イ 原告花子 2922万9831円

第4  結論

以上によれば,原告太郎の被告らに対する安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償請求は,被告らに対し,連帯して2958万8464円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成18年3月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容するが,その余は失当として棄却することとし,原告花子の上記同様の損害賠償請求は,被告らに対し,連帯して2922万9831円及びこれに対する上記同様平成18年3月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容するが,その余は失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田肇)

別紙

図面<省略>

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