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高松地方裁判所 平成28年(む)190号 2016年12月12日

主文

高松地方裁判所が平成27年5月14日被請求人に対する窃盗未遂被告事件についてした刑の執行猶予(付保護観察)の言渡しは,これを取り消す。

理由

1 本件請求の要旨は,被請求人は,平成27年5月14日,高松地方裁判所において,窃盗未遂罪により,懲役1年,4年間執行猶予,付保護観察の言渡しを受け,同判決は同月29日に確定したが,被請求人は,上記の保護観察の期間内に遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いから,上記刑の執行猶予の言渡しの取消しを求める,というものである。

2 そこで,検討するに,一件記録及び口頭弁論の結果を総合すると,以下の事実を認めることができる。

(1) 被請求人は,平成27年5月14日,高松地方裁判所において,窃盗未遂罪により,懲役1年,4年間執行猶予,付保護観察の言渡しを受け,同判決は同月29日確定した。

(2) 被請求人は,同日,高松保護観察所に出頭し,更生保護法50条に掲げる一般遵守事項を遵守することを誓約した。

(3) このような状況の下,被請求人は,

ア 平成28年6月18日午後0時36分頃,高松市<以下省略>のA方南面物干場において,同所に干されていた同人所有の子供用肌着1着(時価約200円相当)を窃取し,

イ 同年7月7日午後4時15分頃,前記A方南面物干場において,同所に干されていた同人所有の子供用肌着1着及び子供服2着(時価合計約1100円相当)を窃取し,

ウ 同月23日午後1時10分頃,前記A方南面物干場において,同所に干されていた同人所有の子供用ランニングシャツ2着(時価合計約600円相当)を窃取し

て,同年11月21日,高松地方裁判所において,窃盗罪により、懲役6月の実刑判決の言渡しを受けた(同日,弁護人らから控訴の申立てがなされ,現在控訴中である。)。

3(1) 以上のとおり,被請求人は,保護観察期間内に,窃盗行為に及んでいるのであって,被請求人が,更生保護法50条1項1号に規定する「再び犯罪をすることがないよう健全な生活態度を保持すること」との一般遵守事項に違反し,遵守すべき事項を遵守しなかったことは明らかである。

また,被請求人は,平成26年1月28日,窃盗罪により懲役2年,3年間執行猶予の言渡しを受け,さらに,その執行猶予期間内に犯した窃盗未遂罪により,平成27年5月14日,懲役1年,4年間執行猶予,付保護観察の言渡しを受けている。このように,被請求人は,2度にわたって,社会内で更生する機会を与えられておきながら,それらの機会をいずれも生かすことなく,前刑の執行猶予の言渡しから1年ほどで,再び窃盗行為を繰り返すようになったのであるから,窃盗の常習性は顕著で,自力更生の意欲に欠けているというほかなく,このまま保護観察による指導援助を継続しても,社会内で被請求人が自力更生することを期待することはもはやできない。

以上によれば,被請求人は,保護観察期間内に遵守すべき事項を遵守せず,その情状は重いと認められる。

(2) この点,弁護人らは,①遵守事項違反の動機及び経緯に酌量すべき点がある,②遵守事項違反の態様が悪質とまではいえない,③被害結果が重大とはいえない,④被請求人は遵守事項違反について真摯に反省しており,今後自立更生していく環境も整っているなどとして,被請求人の遵守事項違反の情状は重いとはいえないと主張する。しかし,保護観察期間内に再犯に及ぶというのは,それ自体遵守事項違反として重大といえるし,被請求人は,保護観察期間内に,母親から金銭的な支援を受けたり,香川県地域生活定着支援センターからも自立支援を受けたりするなど自立更生に向けて相応の環境が整っていたにもかかわらず,再び窃盗行為を繰り返している。加えて,前記2(3)のとおり,被請求人が,現に,懲役6月の実刑判決の言渡しを受けていることも加味すれば,遵守事項違反の情状について斟酌すべき特段の事情は認められず,弁護人らの主張は採用することができない。

そのほか,弁護人らは,被請求人の持病や再犯防止のためにクレプトマニアの治療を受ける必要があること,同人に養育すべき子がいることなどの事情から刑の執行猶予の言渡しを取り消すべきではないなどとも主張するが,これまでの検討結果に照らせば,いずれの事情についても,刑の執行猶予の言渡しを取り消すか否かの結論を左右する事情とまでみることはできない。

4 したがって,刑法26条の2第2号,刑事訴訟法349条の2第1項により,上記刑の執行猶予の言渡しを取り消すのが相当であると認められるので,主文のとおり決定する。

(検察官多川国伸出席)

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