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高松地方裁判所 平成4年(ヨ)61号 決定 1993年8月18日

債権者

飯間惠美子

外五〇八名

右債権者ら代理人弁護士

渡辺光夫

小林正則

大平昇

債務者

日本中央競馬会

右代表者理事

渡邊五郎

右債務者代理人弁護士

畠山保雄

田島孝

松本伸也

大庭浩一郎

主文

一  債権者らの申立をいずれも却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第一主要な争点

一本件は、債務者が高松場外勝馬投票券発売所及び払戻金交付所、通称「ウインズ高松」(以下「ウインズ高松」という。)の設置を計画している別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の近隣に居住する債権者らが、ウインズ高松の設置開業により予想される教育環境の破壊、交通渋滞・交通事犯の増加、暴力団の台頭等による犯罪の増加、公衆衛生条件の著しい悪化により、債権者らの人格権が侵害され、しかも、その侵害の危険が極めて差し迫ったものであるとして、主位的にウインズ高松の設置の差止め、予備的にウインズ高松での勝馬投票券(以下「馬券」という。)の発売及び払戻金の交付禁止の仮処分の申立をしている事案である。

二本件の主要な争点は、債務者がウインズ高松を設置して業務を行うことによる債権者らの人格権の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えることが認定できるか、その侵害が差し迫ったものであるため、ウインズ高松の設置を禁止する等の必要があるか否かである。

第二当裁判所の判断

一当事者(当事者間に争いのない事実)

債権者ら五〇九名は、本件土地の近隣(本件土地から約二キロメートル以内)に居住する者である。

債務者は、競馬法により競馬を行う団体として、日本中央競馬会法に基づいて、競馬の健全な発展を図って馬の改良増殖その他畜産の振興に寄与することを目的として設立された政府全額出資の特殊法人であり、農林水産大臣の監督下にある。

二ウインズ高松設置に至る経緯等(当事者間に争いのない事実、本件疎明資料により一応認められる事実)

1  債務者は、全国に一〇か所の競馬場、二二か所の場外馬券発売所(以下「場外発売所」という。)、二二か所の電話投票所を置いて業務を行ってきた。しかし、中央競馬が健全かつ手軽に楽しめるレジャーとして全国的に広まったにもかかわらず、未だ場外発売所の数は不十分であり、非合法なのみ行為も行われていたため、債務者は、ファンの要望に応えるとともに、のみ行為の排除の一助として、場外発売所の設備を図ることとし、その一環として、昭和六〇年ころから、債務者の施設の全くなかった四国において場外発売所を設置することを計画した。その計画は、阪急産業株式会社(以下「阪急産業」という。)が誘致者となって本件土地を購入し、馬券の発売等を目的とする建物を建築し、これを債務者が賃借して、開業するというものである。

2  債権者らは、昭和六〇年ころから、右の計画について、主として高松市鶴尾校区青少年育成白鷺会、鶴尾校区子供会育成会等の団体を通じ、教育環境の破壊、青少年の健全育成等の理由から反対を決議し、農林水産省、香川県知事、高松市長等への陳情、要望、反対署名運動等を行ってきた。なお、地元鶴尾校区五七自治会のうち五一自治会で設置反対決議がなされている。

3  債務者は、平成三年八月二九日、農林水産大臣に対し、競馬法施行令二条一項に基づくウインズ高松設置承認申請を行い、同年一〇月一八日、右申請の承認を受けた。なお、債務者は、同日、農林水産省畜産局長から、右申請承認までの経緯に鑑み、今後設置に当たって更に地元の理解が深まるよう極力努力されたい旨の行政指導を受けた。

ウインズ高松建設の起工式は、平成四年一月一六日行われ、平成五年春頃、施設は完成し、その営業用駐車場(合計地積三万四九五〇平方メートル)を同年六月までに確保したが、馬券発売等の業務は未だ開始されていない。

三ウインズ高松の概要等(当事者間に争いのない事実、本件疎明資料により一応認められる事実)

ウインズ高松の設置場所は、阪急産業所有の本件土地であり、同土地上に阪急産業により建設され、債務者が借受けて業務開始が予定されている建物は別紙物件目録二記載のとおりであり、ほぼ東西に走る国道一一号線と、ほぼ南北に走る国道三二号線との交差点の南東角に位置する。

予定されている業務内容は、次のとおりである。① 馬券の発売は、関西地区の中央競馬を主体とし(日本ダービー、有馬記念等の有名なレースは例外として発売)、開催日(土・日曜日が原則)は、年間一〇四日とする。② 開館時間は午前八時四〇分、馬券の発売時間は、午前九時から午後四時二〇分頃までとする。レースは概ね午前一〇時に第一レースが始まり、三〇分ないし四〇分間隔で順次行われ、午後四時過ぎに最終レース(第一一又は第一二レース)が行われる。この間、来場したファンは目当ての馬券を買ってすぐ帰るか、館内テレビで観戦等をする。③ 平日は、火曜日(営業しない。)を除き、午前一〇時から午後三時まで、払戻業務のみを行う。④ 発売馬券の種類は、単勝式、複勝式及び連勝式で五〇〇円単位とする。⑤ 一日平均来場者予測数約五〇〇〇名(計画当初予測、後に後記のとおり変更)

四受忍限度

債権者らの主張する生命、健康そして快適な生活を享受する権利としての人格権に基づいて、事前にウインズ高松の設置等を差し止めるためには、ウインズ高松が業務を行うことにより、現在の快適な生活環境等が悪化すると抽象的に予測できるだけでは足らず、債権者らの人格権への侵害の発生が具体的に予測され、しかもその程度が社会生活上受忍すべき限度を超えると認められる場合でなければならない。

右の見地から、債権者主張にかかる予測される侵害について以下検討する。

五教育環境の破壊について

1  当事者間に争いのない事実に本件疎明資料を総合すると、次の事実を一応認めることができる。

(一) 本件土地のある鶴尾小学校区内には、一四の保育所、学校等(①鶴尾保育所、②西春日保育所、③田村保育所、④勅使百華保育所、⑤愛育幼稚園、⑥勅使百華幼稚園、⑦鶴尾小学校、⑧鶴尾中学校、⑨大手前高松中学校、⑩大手前高松高等学校、⑪香川県立高松保育専門学院、⑫高松工業高等専門学院、⑬香川県立香川中部養護学校、⑭同県立高松養護学校)、二の福祉施設(⑮香川県身体障害者総合リハビリテーションセンター、⑯身体障害者療護施設たまも園)が存在し、そのうち、右⑨、⑩、⑫の学校以外の一三の学校、施設等は、ウインズ高松から半径一キロメートル以内にあり、その位置関係は別紙図面(一)のとおりである。また、これら全ての学校施設等は、ウインズ高松から徒歩で約一五分以内の距離にある。最も近い鶴尾小学校は、その校舎からウインズ高松まで約四〇〇メートル(ただし、右小学校の校庭とウインズ高松の第二駐車場間の最短距離は一〇〇メートル弱である。)の近い距離に位置している。

(二) 学生生徒又は未成年者(以下「未成年者等」という。)は馬券の購入等が禁じられているが、最近若者の間で競馬人気が高まり、東京都内の競馬場や場外発売所においては、平成三年一月から三月中旬までの間、未成年者等八六五人が馬券を購入して警視庁に補導され、大阪市内の三場外発売所においては、平成三年四月から八月までの間、未成年者等六八五人が馬券を購入して大阪府警に補導され(その中には、桜花賞レースで大穴を当て、払戻金一二万円を持っていた一五才の少年等が含まれていた。)、広島市内の場外発売所においては、平成四年九月ころ、一日一〇〇ないし二〇〇名の未成年者等が入場し、一日平均二〇ないし三〇人が未成年者等とわかり入場を拒否された。また、右東京都内で補導された未成年者等について馬券購入の動機を調査した結果について、「学校で流行している」36.3パーセント、「興味があった」16.8パーセントであった等の事実が報道されている。

(三) 農林水産省は平成四年一二月二一日付告示第一三〇九号により、改正された競馬法施行規則に基づき、場外発売所の位置等の基準として 学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設から適当な距離を有し、文教上保健衛生上著しい支障をきたすおそれがないこと等と明文で規定し、債務者に対し場外馬券発売所と文教施設等との距離的関係について相当の配慮を求めている。

(四)  右(一)ないし(三)の事実によると、ウインズ高松が鶴尾小学校等の教育施設に近接していることから、授業や通学等に影響を及ぼすとの不安や好奇心の強い子供達の射倖心をあおり、精神的に悪影響を与えるだけでなく、未成年者等が馬券を購入するようになるのではないかという懸念を債権者らが抱くことも理解することができる。

2  しかし、本件疎明資料によれば、次のような事実も一応認められる。

(一) 前記1(二)の新聞報道のケースは、遊戯施設が近くにあり、若者が集中しやすい、いわゆる都市化現象にも関係のある都市型施設の場合であり、ウインズ高松は高松市内といっても近隣に遊戯施設のない郊外型に該当し、郊外型の既設場外発売所である山梨県石和市所在のウインズ石和(昭和六〇年九月設置、その二〇〇メートル以内に甲運小学校、三〇〇メートル以内に石和南小学校が存在する。)や北海道室蘭市所在のウインズ室蘭(平成元年三月設置、その二〇〇メートル以内に本輪西小学校、三〇〇メートル以内に高平小学校、四〇〇メートル以内に港北中学校が存在する。)においては、未成年者等の馬券購入が社会問題化した形跡はない。

(二) 競馬法二八条は、未成年者等は馬券を購入してはならないとし、同三四条は、未成年者等であることを知りながら馬券を発売した者は、五〇万円以下の罰金に処せられる旨規定している。これを受けて、債務者においても未成年者等の馬券購入防止のため種々の対応策を講じてきた。即ち、例えば、ウインズ石和の場合、次のようなことを行っている。①未成年者等には馬券の購入が禁止されている旨を施設内でのテレビ・大型スクリーンによる放映、出馬表・レーシングプログラムでの告知、掲示、館内放送、新聞広告、ポスター、テレビスポット等による方法で広報を行う。②出入口に配置した警備員が、未成年者等と判断した者に対し、馬券購入が違法である旨を指導説諭し、入場を拒否する。③警備員が、常時施設内を巡回して監視し(特に、保安部の警備員は、制服を着用せずに施設内の監視を行う。)、未成年者等の馬券購入防止に注意を払い、発見した場合は説諭した上即時退場させる他、場合によっては臨場警察官に引き継ぐ等の措置をとる。また、警備部の一部警備員は、特に「補導」の腕章を着用して専ら未成年者等の対策に当たる。

債務者は、高松ウインズにおいても、同様な対策を講ずる予定であるが、なお具体的状況に応じて対策を講ずる予定である。

(三) 債務者は、他の場外発売所の場合と同様、地元自治会関係者等をもって構成する環境推進委員会(仮称)を設置して、業務開始後の具体的な状況に応じ必要な対応策を実施する用意がある。

(四) ウインズ高松における業務内容が前記三のようであれば、競馬開催日で、馬券を発売する土・日曜日に競馬ファンの多数来集することが予想されるが、その他の曜日(非営業日の火曜日は除く。)では、払戻業務のみであり、ファンの来集がある程度分散されるから、未成年者等が、ウインズ高松の業務と接触し悪影響を受ける機会は多くはないと予想できる。したがって、未成年者等が、その通学等との関係で、ファンの多数来集したウインズ高松の業務と最も強く接し、影響を受けやすいと思われるのは、土曜日(ただ、近時、私立の教育施設を除き第二土曜日が休校となっていることは顕著な事実である。)、しかも、午前九時ころから午後四時ころという開催時間からして、下校時においてではないかと予想される。

(五) ウインズ高松周辺の通学道路については、国道一一号線、同三二号線、県道川東高松線はいずれも歩車道が完全に区分され、横断歩道にも歩行者用信号があって設備が整っており、債務者は、ウインズ高松のある交差点付近には、警備員を配置し、車の整理と歩行者の安全確保を行う予定であり、通学児童の安全確保のために学校等から具体的な要請があれば、協議して対応していくことにしている。

右の事実によると、未成年者等において、馬券を購入する者が出ることを完全に防止することは不可能であり、風俗や教育上の悪影響を与えることを否定できないが、ウインズ高松が郊外型の施設であり、馬券の発売日も土・日曜日に限定されており、債務者においても相当程度の未成年者等への対策を用意し、さらに、臨機応変の措置を講ずること等を言明していること等に鑑みると、教育環境の破壊という債権者らの人格権の侵害が、具体的にどの程度予想されるのか明確とは言い難い。

六交通渋滞・交通事犯の増加について

1  当事者間に争いのない事実に本件疎明資料を総合すると次の事実を一応認めることができる。

ウインズ高松の設置される本件土地は、前記三説示のとおり国道一一号線と同三二号線との交差点の南東角に位置しており、この交差点の交通量は県内屈指であり、平成二年一〇月の建設省の調査によると、一日当たり午前七時から午後七時まで、国道一一号線においては、西方から東方へ向かう自動車の数は一万六一三七台、東方から西方へ向かう自動車の数は一万四五一五台、北方から右交差点に連なる県道川東高松線においては一万二九三三台、南方から右交差点に連なる国道三二号線においては一万四一六〇台に及んでいる。本件土地を管轄する鶴尾派出所管内の平成三年の交通事故発生件数は二〇六件であり、高松南警察署管内で屈指の事故多発地帯である。

2  予測される来場者数、来場車両数等

(一) 本件疎明資料によると、次の事実を一応認めることができる。

債務者が、平成四年九月一一日、他に委嘱の上最初に調査した結果は、ウインズ高松への土・日曜日の予測来場者数は、一日約五〇〇〇人、予測来場車両数約二二〇〇台であったが、瀬戸大橋、高松・松山・高知自動車道の開通等ウインズ高松周辺の交通事情の変化によりファンエリアの拡大が予測されるため、再調査した結果、前同各日における予測来場者数は一日約七〇〇〇人強、予測来場車両数は一日約三二〇〇台強となり、最高滞留車両数は九二八台と算出された。一方、債権者らは、同様の計算方法によるも、予測来場者数は一日約一万五一〇〇人、予測来場車両数は一日約八〇〇〇台といった調査結果を提出している。しかし、この結果の数値については、債務者の前記調査の担当者から、係数の取り方や、来場交通手段の自動車への振り替えについて等種々の問題点がある旨指摘されている。

(二) 右の事実及び説示によると、来場者数、来場車両数等を予測することは困難であり、たしかに、本件疎明資料によると、ウインズ石和の場合、当初予想されていた来場数は一日約四四〇〇人であったが、業務開始一年後の一日平均来場者数は約六六〇〇人といわれており、ウインズ高松の場合も予測を上回る可能性を否定できない。しかし、債務者の調査に明らかに不合理といえる問題点を見出しえない以上、現時点では、債務者主張の来場者・来場車両の予測数を一応妥当なものとして、ウインズ高松周辺における開業後の交通状況の予測とその対策の当否を判断する前提とすべきである。

3  本件疎明資料及び審尋の全趣旨によると、債務者が、ウインズ高松のため設置を予定している駐車場の位置・規模、確保の状況、交通対策、警備員の配置予定等は次のとおりである。

(一) 予定している駐車場の位置・規模は別紙図面(二)のとおりであり、その面積及び収容可能台数は次のとおりである。

①第一駐車場 二万二四九〇平方メートル 約一〇〇〇台

②第二駐車場 一万〇八七〇平方メートル 約五〇〇台

③第三駐車場 一五九〇平方メートル 約八〇台

第一駐車場は、その一部をバイク及び自転車専用駐輪場に、残りを自家用自動車等で来場するファンのための駐車場に、第二駐車場は、専ら自家用自動車等で来場するファンのための駐車場に、第三駐車場は業務用の駐車場に各予定している。

各駐車場の用地の確保は、誘致者である阪急産業が当たっており、阪急産業が他から譲り受けもしくは借り受けた用地を、債務者が業務開始とともに借り受ける予定である。第一駐車場については、別表(一)記載の各土地を同表備考欄記載の所有者から阪急産業が譲受けもしくは借り受けを完了し(有限会社晃栄商事所有分は借受交渉中であり、また、同表に記載のない土地についても買受見込みのものがある。)、現在、駐車場とするための工事を実施中であり、第二駐車場については、別表(二)記載の各土地が予定されており、同表所有者欄記載の者から阪急産業が買い受けるとの前提で、国土利用計画法所定の手続中であり、同法の不勧告通知受領後直ちに売買契約が締結される見込みであり、わずかな整備で駐車場として利用可能な状態にある。

(二) ウインズ高松へ来場の車両の駐車場への収容について後記の退出方法も含め所轄警察署の指導を得て行うものであるが(所轄警察署からの指導はまだ行われていない。)、債務者は、概ね次のとおり計画している。

① 国道一一号線を西から来る車両は、別紙図面(二)H交差点(以下、特に摘記する以外は同図面を指す。)を直進させ、B地点から第二駐車場に左折進入させるか(この場合には、対向車両等との衝突事故発生の危険やH交差点での渋滞を招くおそれがあるので対策を検討している。)、H交差点を左折させC地点から第二駐車場に右折進入させる。

② 高松市街から国道一一号線で北から来る車両は、F交差点を右折させ、A地点から第一駐車場に左折進入させる。

③ 高松市街から県道川東高松線で北から来る車両は、I交差点を経て、C地点から第二駐車場に左折進入させる。

④ 国道三二号線を南から来る車両は、D、E、F各交差点を経て、A地点から第一駐車場に左折進入させる。

⑤ 国道一九三号線を南から来る車両は、F交差点を左折させ、A地点から第一駐車場に左折進入させる。

なお、車両の進入誘導については、事前にチラシの配付、広告等により第一及び第二駐車場への進入経路の周知徹底を図るとともに、周辺道路の要所に看板等により、あるいは警備員を配置して交通の案内と整理を行うこととする。

ウインズ高松へ来場の車両の駐車場からの退出については、A地点からは国道一一号線をH交差点方向に、B地点からは国道一一号線をF交差点方向に誘導する(なお、C地点からのH交差点方向への退出を行うか否かは検討中である。)

(三) 債務者は、ウインズ高松周辺の円滑な交通整理のため、警備員を交通の要所及び各駐車場内の七三ポストに配置(一ポストには常時一名の警備員を配置)する予定である。各駐車場内のポスト配置の内訳は、第一駐車場内に一四ポスト、第二駐車場内に八ポスト、第三駐車場内に一ポストという配置であり、各駐車場内の出入口の整理及び車両の誘導を行う。駐車場外の交通の要所には、五〇ポストの固定配置の警備員を配置し、別に、巡回警備の警備員を八ポスト配置し、各駐車場への誘導、違法駐車の防止、通行者の安全確保等の業務を行う。

(四) なお、来場車両が、予定されている広い道路を通行せず、近道をして生活道路に進入してくる場合に備えて、生活道路の入口に警備員を配置し、競馬ファンの車が入らないように規制するが、その場合、地元の車には、特定のステッカーを発行して区別する用意がある。

(五) 債務者は、高松駅あるいはその他の市内ターミナルからウインズ高松へのバス運行を計画し、当面は、概ね三〇分間隔で二台のバスを走らせる予定であるが、ファンの要望、業務開始後の来場者の状況から必要があれば台数を増加させる用意もしている。

(六) また、債務者は、他の場外発売所周辺でも組織しているような、環境推進委員会(仮称、地元自治会等地域の代表者等によって構成される。)の発足を予定しており、駐車場問題その他交通に関する問題が生じたときも、同団体を通じて適切な対応を行うこととしている。

4 そしてウインズ高松の設置により、四国四県から競馬ファンが多数来集することが予想される上、、本件土地の位置が交通の要所であることからすると、来場者及び来場車両が債務者調査の予測数で収まるか、また、債務者計画にかかる車両の収容、退出の方法により、果たして、現在以上の交通渋滞・交通事犯等を生ぜしめず、かつ、債権者らの歩行の安全を確保しつつ、スムーズな交通整理が可能なのか、不安がないわけではない。

しかしながら、来場者数、来場車両数等を完全に予想し、常にかかる問題の発生を完全に防止することは不可能である。少なくとも、債務者が計画した各駐車場はほぼ予定どおり確保できる可能性は高いといえるし、計画立案された交通対策も相当練られたものと一応評価される。そして、また仮に、ウインズ高松が業務を開始した後、来場者、来場車両等が予測数を上回ったり、駐車場出入口の間口が狭すぎる点などによりウインズ高松周辺で異常な車両通行の渋滞発生が予測されることその他交通対策上不備な点があることが判明した場合には、所轄の警察署等の指導を受けるなどして、渋滞発生予測個所より相当手前の道路脇に迂回要請の案内広告塔などを設置したり、地元の関係者と協議する等しながら適宜対応して、交通渋滞の緩和や解消を図ることができるのであり、債務者はそうする旨を明言している。

5 以上の事実及び説示を総合すると、ウインズ高松の開業によって、直ちに異常な交通渋滞や交通事故が多発するなどして、債権者やその家族らに受忍限度を超える被害を与えることを推認断定することは困難である。

七暴力団の台頭、抗争、のみ行為を含む犯罪の増加について

一般的に、暴力団が競馬場等でのみ行為に関与することがあるといわれたり、賭博が犯罪の契機となりうること自体は一応認められるし、本件疎明資料によれば、現に、債務者の場外発売所であるウインズ錦糸町、同浅草、同後楽園、同石和においては、いわゆる予想屋が出没していることが認められるから、ウインズ高松周辺においても、のみ行為は発生しない等社会環境に何の変化もないとまで予測することはできない。しかし、債務者においては、他の施設において、所轄の警察署の指導を受けて暴力団関係者を施設内に入れないという抑止措置をとった実績があり、ウインズ高松においても同様の措置が期待できる。そして右のような抽象的な暴力団体による汚染の危険が予測されるからといって、そのことから直ちに、ウインズ高松の開業に伴ない、具体的に暴力団が台頭したり、のみ行為が増加したり、犯罪が増加する等の事実を予測することはできず、その他の社会環境悪化の事実を予測するに足りる疎明はない。

八健康被害について

1  ウインズ高松の業務が開始され、一日に五〇〇〇人から七〇〇〇人という競馬ファンが来場するとなると、周辺路上には、入場者の排出する多量の新聞紙、馬券、煙草の吸殼、空き缶等の塵芥が散乱し、痰、唾が吐き散らされ、立小便がされるのではないか、また、多数の来場車両が出入することに伴ない右自動車が通過し、あるいは駐車される地域では排気ガスによる大気汚染が高まるのではないか、さらに、レースの着順、払戻金額等の館内放送、警備員の笛の音、入場者の所持する競馬中継のラジオの音、入場者が的中又は外れた時に発する叫び声、交通渋滞により吹鳴されるクラクションの音等により相当な喧騒(騒音)状態が生ずるという懸念がないではない。

2  しかし、本件疎明資料によれば、例えばウインズ石和では、施設周辺の清掃を外注し、土・日・月曜日に一日につき一五人程度の作業員が巡回して清掃作業を行い、空き缶、紙屑等の塵芥の回収はもとより、駐車場付近道路際の草取り、側溝の泥上げ、河川堤防の草取り等の清掃も行っており、ウインズ高松においても同様の計画がある。また、五〇〇〇人から七〇〇〇人といった多数のファンの来場は、土・日曜日の昼間に限定されている。

さらに、ウインズ高松の業務により、如何程かの公衆衛生の悪化、騒音、排気ガス等が発生増悪するのに伴ない、債権者らが不快に感ずる事態が発生することは予想されるとはいえても、近隣の居住人の健康等に対する右公害等の侵害の内容程度に関して、騒音や大気汚染につき、行政上の規制数値を超えるものである点の主張及び疎明もない。

九そうすると、ウインズ高松が業務を開始した場合、債権者らにおいて、教育環境の破壊、交通渋滞・交通事犯の増加、暴力団の台頭等及び健康被害という生命、身体、快適な環境等についての具体的な人格権の被害が発生することを予測させるに足る疎明がないというべきである。

なお、本件疎明資料によると、ウインズ高松の設置に対して、債務者は、地元自治会等を通じて債権者らとしばしば話し合いの機会を持とうとしたが、債権者らは、昭和六〇年ころからウインズ高松設置の反対運動を行い、債務者の本件計画の進め方等が強引にすぎる等として終始話し合いに応じなかったため、債務者は、前記二2記載の団体を通じての話し合いを断念し、債務者においてウインズ高松建設によって影響を受けると思料した本件土地所在地の地元の六自治会の同意のみを得、鶴尾校区の他の五一自治会の同意がないまま、農林水産大臣の設置承認を受けた事実を一応認めることができる。

たしかに、前記二3で認定の農林水産省畜産局長の債務者に対する行政指導や、前記改正された競馬法施行規則及び場外設備の位置等基準に関する農林水産省告示の趣旨からすると、地元の同意を得ることが望ましいことはいうまでもない。しかし、この点は、違法性を検討する際問題になるとしても、予測される被害事実の確定という面では前記判断を左右するものではない。

一〇以上のとおりであるので、本件仮処分申立は、被保全権利の疎明がないから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官滝口功 裁判官和食俊朗 裁判官濱谷由紀)

別紙債権者目録<省略>

別紙物件目録<省略>

別紙図面(一)(二)<省略>

別表(一)(二)<省略>

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