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高松地方裁判所 平成4年(行ウ)4号 判決

原告

株式会社豊浜開発(X)

右代表者代表取締役

新浜安博

右訴訟代理人弁護士

白川好晴

被告

香川県知事 平井城一(Y1)

香川県(Y3)

右代表者知事

平井城一

被告

国 (Y2)

右代表者法務大臣

前田勲男

右被告三名指定代理人

栗原洋三

関安喜良

松尾一雄

清水邦夫

西川滋夫

金川明司

北井勝也

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  香川県では、事業者が知事に対し林地開発許可(変更)申請をしようとするときは、あらかじめ、その申請手続のための事前打合せ資料として正規の申請書の様式に準拠した文書及び添付書類各一部を県林務課に提出させた上、これをもとに同課職員が事業者との打合せによって申請書の形式、内容及び添付書類の適否等につき事業者を指導し、それが整備されることが確実視されるようになった後、右文書等を返戻し、あらためて、正規の申請書等各二部を所管の林業事務所を経由して知事に提出させることとしていることが、証拠に照らして明らかである。この事前打合わせ(行政指導)の制度は、森林法その他の法令に明文の根拠規定はないが、<1>林地開発行為の許可(変更)にあたっては、森林法はもとより、その他の各種関係法令に定められている規制や許認可等との相互調整が必要となりうるところ、これについての判断は、多方面にわたる複雑かつ専門技術的な性質を有すること、<2>林地開発行為の許可(変更)は、開発行為により、土砂の流出・崩壊等の災害、水害及び環境の著しい悪化のおそれがないと認められることが要件となっている(森林法一〇条の二第二項)ところ、これについての判断も、より高度の専門技術的な性質を有すること、<3>したがって、右関係法規や許可要件等に精通していない事業者が作成した林地開発許可(変更)申請書等を直ちに正規の申請として取り扱えば、多くの場合、申請内容が許可要件を充足していないものとして、不許可とし、あるいは申請取下げを促すという事務処理をせざるをえず、結局、不許可処分(申請取下げ)・再申請・再審査が繰り返されて、申請者に不利益となるばかりでなく、許可権者である知事の事務の停滞をも招来することなどからして、事前打合せ(行政指導)の制度には十分な合理性があると認められるから、もし形式、内容上問題のない申請書及び添付書類が提出されているのに行政指導の名目でこれに対する判断を回避するようなことがあれば格別、そうでない以上、法の運用として許容されるものというべきである。

2  右の事前打合せ(行政指導)が行われることは、原告の依頼を受けて申請手続にあたっていた八木利昭(以下「八木」という。)も、県林務課に赴いて担当職員から十分な説明を受け知っている(〔証拠略〕)。

また、正規の申請書は、事前打合せ資料を流用する場合もあれば、新たに作り直す場合もあるが、これが県林業事務所に提出されれば県の収受印を押捺している(〔証拠略〕)。本件申請書は、平成三年一二月一〇日に県林務課職員川波に提出され(争いがない。)、その時に川波名義の受付印が押捺されたことが認められるが、県の収受印が押捺された跡は全く認められず(〔証拠略〕)、また提出部数も一部であった(〔証拠略〕)。

更に、本件申請書の様式も、香川県が定める正規の林地開発許可変更申請書の様式と異なる点がある上、その内容も、開発区域の周辺部に配置することとされている三〇メートル以上の残置森林または造成森林が適切に計画されていない区域があったり、土砂採取後の原状回復方法として計画されるべき造成森林や法面緑化の計画が具体的でない、添付書類が不足している等の多数の不備事項があって、正規の申請書というにはあまりに不完全なものであり、担当職員らにおいて、本件申請書の内容につき、許可変更の要件の実体的審査がなされた形跡も窺えない(〔証拠略〕)。

3  以上を総合すると、本件申請書は、事前打合せ資料として県林務課に提出されたにすぎないと認めるのが相当であり、このことは、本件申請書に原告の代表取締役印が押捺されていたか否かにはかかわりがない。よって、本件申請書の提出により正規の林地開発許可変更申請があったとみることはできない。

したがって、原告の請求一1については理由がなく、同一2については、原告主張の林地開発許可変更申請が存在しないから原告適格を欠き、更に、同一3も取消しの対象となる行政処分が存在しないことに帰する。

二  争点2について

1(一)  被告知事は、平成四年一月三〇日、原告に対し、林地開発行為に係る事業実施状況の点検調査を実施する旨通知し、これに基づいて、同年二月五日、県林務課職員池田芳孝(以下「池田」という。)らが右点検を実施した(争いがない。)。この時、池田らは、前記第二、一9記載の各違反状況のほか、原告が、申請書及びその添付図書において、林地開発行為着手当初に設置し、林地開発行為完了後も存置すべき沈砂池を設置することとしているにもかかわらず、これを設置していないことを確認した(〔証拠略〕)ので、原告代表者に対し、許可区域外での開発行為の中止を指示した(争いがない。)が、この時、原告代表者や川邊から、右各違反状況はかなり以前に生じたもので現在は許可区域外での開発行為は行っていないとの話は全く出なかった(〔証拠略〕)。

そして、池田は、同月一二日に川邊が県林務課を訪れた際にも、重ねて許可区域外での開発行為の中止を指導し(争いがない。)、同月一四日には、県林務課において、川邊と八木から現在の開発状況についての説明を受けたが、右両日とも、川邊らから、現在は許可区域外での開発行為を行っていない旨の話は全く出なかった(〔証拠略〕)。

その後、同年三月二日、池田らは、原告に対し、全域にわたる開発行為の中止を文書により通告し、更に同月五日、川邊に対し、再度全域開発行為の中止を通告した(争いがない。)。

(二)  以上の事実に加え、平成三年四月三日以降平成四年二月ころまでの間に、許可区域外の相当広範囲にわたって開発行為が進出してきていること(〔証拠略〕)、同月五日に池田らが点検調査をした際にも、あちこちに重機のわだちの跡が見られたこと(〔証拠略〕)等を考慮すれば、原告が平成二年一〇月末ころには許可区域外での開発行為を殆ど中止し、平成三年七月以降は完全に中止していたとする原告の主張は採用することができない。

2(一)  そして、原告のかかる違法開発に対しては、前記のとおり、被告知事が担当職員をして、再三にわたりその中止を指導してきたものである。

(二)  また、確かに県林務課職員が、原告に対し、林地開発許可変更申請手続をとるよう指導したことがあるが、これは、原告が許可区域外で開発行為を行っていたため、一旦開発許可変更申請の事前打合せ資料を提出させてその内容を検討し、更に現状をも考慮して、森林法上問題がなければ正規の変更申請をさせるという方向で指導をしていたものにすぎない。したがって、右指導は、右申請が当然に許可になることを前提としたものではなく、右指導をしたからといって、県林務課ひいては被告知事が、原告の許可区域外での開発行為を是認したことにはならない(〔証拠略〕)。

(三)  更に、林地開発許可申請書の開発行為の完了予定年月日及び林地開発事業工期延期届による完了予定年月日を経過後にそれぞれ林地開発事業工期延期届が出され、これがいずれも被告知事によって受理されているが、右完了予定年月日の経過により林地開発許可の効力が当然に消滅するというものではなく、したがって右工期延期届も一旦消滅した右許可の効力を復活させるという性質のものではないから、右経過後に提出された延期届を受理したからといって、被告知事が、原告らの違法な開発行為の続行を許したことにはならない(〔証拠略〕)。

(四)  また、原告に融資をしていた四国銀行阿南支店の支店長代理有岡正博は、平成三年一二月三ないし四日、池田に対し、原告の林地開発許可変更申請の可否を確認したところ、池田が、右申請につき、書類上に不備さえなければ変更申請は問題ないだろうと返答した旨証言する(〔証拠略〕)が、本件申請書は前記認定のとおり事前打合せ資料にすぎない上、その本件申請書もいまだ出されていない段階であるから、池田がかかる返答をしたかどうか疑問があり、仮に右の可否につき回答をしたとしても、その趣旨は、要件が充足していれば変更は認められるといういわば当然のことを述べただけである可能性も否定できず、右証言から直ちに、池田が変更につき色よい返答をしたとまでいうことはできない。

(五)  以上により、被告知事が、原告の各違反状況を不問に付し、これを宥恕していたと認めることはできない。

3  また、森林法が、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的として定められていること及び各規定の趣旨に鑑みれば、開発行為者が、開発許可の範囲及び許可条件に反する開発行為をしてはならないものはもちろん、右範囲及び許可条件に反する開発行為をした場合には、許可権者の監督処分の有無にかかわらず、自ら当該違反行為を直ちに中止し、早急に是正措置をとらなければならないものと解され、また、開発行為者の地位を承継した者は、前開発行為者のなした違反行為についての責任をも承継し、右違反行為についての是正措置を早急にとらなければならないと解される。

よって、平成四年三月六日現在、原告または吉野川石材によって形成された前記各違反状況が存する以上、原告は、同日までの間に被告知事が監督処分を行ったか否かに係わりなく、これら違反状況を早急に是正すべき義務を負っていたものであり、かかる状況下で発せられた本件中止命令が、著しく信義に反するとの原告の主張には何ら理由がない。

4  以上により、本件中止命令が違法であると認めることはできないのであるから、被告知事に対する右命令の取消請求及びこれを前提とする被告香川県及び同国に対する各損害賠償請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 山脇正道 裁判官 和食俊朗 森實有紀)

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