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高松地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決

原告 高石準一

被告 高松国税局長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は伊予三島税務署長が為した再調査の請求の却下決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の昭和二十六年六月二日付被告の決定は之を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として以下のとおり述べた。

原告は三島化学工業所の名称の下にターフヱルトの製造販売を業としてゐたものであるが昭和二十三、四、五年度の物品税、所得税、取引高税等合計金七十万七千百八十円を滞納したため、昭和二十五年十二月二十五日伊予三島税務署長より別紙目録記載の物件を公売処分に付され訴外三島工業株式会社が金百七十九万円で競落するに至つたが右処分は次の理由により違法である。

一、税務署長が別紙目録記載物件中宅地四筆の差押をしたのは昭和二十五年十二月二十一日(然らずとしても同月十五日)で同二十一日その旨の登記を了し原告は同日差押の通知を受けたものである。しかして公売公告は之より先同月十四日税務署前の掲示によつてなされ、次で同月二十四日愛媛新聞に掲載されたものである。従つて右公告は、(一)差押の効力発生要件と解すべき登記の日より七日前、差押の日よりも七日前(又は一日前)になされた公告で違法である、(二)のみならず別紙目録記載の物件は価格千万円を下らない、(本件訴訟上顕れた鑑定の結果に従ひその平均額を採るも尚三百七十五万円)ものでかかる高額の不動産等の公売に当つては国税徴収法第二十二条第三十一条の法意に照し当然新聞公告によることを相当とするもので従来の実例に於いても例外なくこの種のものは新聞公告に拠つているところで前記税務署長も一旦前記のように税務署前に掲示して公告したが新聞公告によるものを相当と認めて、前記の如く新聞公告をしたものである。しからば同公告より法定の十日間を経過せずして、同月二十五日為した公売処分は違法たるを免れない。

二、然らずとするも右公売手続は滞納税額を著しく超過せる差押に基いて行われた違法がある。即ち別紙目録記載の物件はその価格前記の如く金三百七十余万円を下らない。仮に公売価格を適正なものとしても金百七十九万円であるのに対し滞納税額はその半に満たない金七十万円余でありさらに後記のように国の優先徴収可能な額はわずかに金二十二万円にすぎない。別紙目録記載物件中機械類の一部もしくは土地のみでも後に滞納税額を超える次第であるからかかる過大な差押に基いて行はれた公売処分は違法である。

三、のみならず伊予三島税務署長は右物件を僅かに金百七十九万円に評価しこの評価に基き不当に低価な右同額で公売されたものであるからこの点からも違法である。

以上のような違法な公売を施行したのは元来原告は昭和二十二、三年頃からの不況のため、訴外伊予合同銀行三島支店より金百五十万円余を借受け別紙目録記載の物件に付いて工場抵当法第三条による抵当権を設定してをり、為に前記公売に因り国が右抵当権に優先徴収し得るのはわづかに金二十二万円余に過ぎないのであるが同税務署長は前記訴外銀行三島支店と右公売の買受人となつた訴外三島工業株式会社と相通じて同訴外銀行の債権額と優先徴収可能な金二十二万円余の支払ひに可能な程度の金百七十九万円を以て物件を評価し右買受人も同額で競落するに至つたものである。

以上のように同税務署長のなした公売処分は違法であるので原告は法定期間内たる昭和二十六年一月二十三日右税務署長に対し再調査の請求をしたが(異議申立書として提出)その宛先を誤り被告国税局長宛としたので被告としては直に之を原告に返送すべきが相当であるのにこれを遷延したため原告は遂に期間を失し同年二月一日更めて同税務署長に対し再調査の請求をしたが却下せられたので原告はさらに被告に対し適法期間内なる同年三月四日審査請求をしたところ同年六月二日之が棄却の決定が為され同月四日該決定を受領した次第である。

しかし右再調査請求が法定期間を経過してなされたのは前記のように同被告の責に因るものである。従つて又被告としてもこれを宥恕して審査請求を受理判断してゐるものである。よつて右決定の取消を求める為本訴請求に及んだものである。と述べた。

被告指定代理人等は原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を本案に付き、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め答弁として以下のとおり述べた。

本案前の答弁として原告主張の昭和二十五年十二月二十五日伊予三島税務署長が別紙目録記載の物件に対し公売処分をしたこと、昭和二十六年二月一日原告から之に対し再調査の請求がなされ同署長はこれを不適法として却下し原告はさらに同年三月四日被告に対し審査請求を為し被告が之を棄却したことは認める。従つて原告の本訴は適法な再調査、審査の手続を経てゐないもので不適法として却下さるべきである。尤も当初原告主張のように昭和十六年一月二十三日に原告は被告宛に異議申立書なるものを提出したがその内容は単なる陳情的なものに過ぎず原告主張のように伊予三島税務署長に提出すべき再調査請求書を単に宛先を誤つて被告に提出したものとは解し得ない。又被告が之を直に原告に返送しても到底原告が更めて期間内に適式の再調査請求書を提出することは不可能な状況にあつたものであるから被告の取扱の遷延により原告が期間を遵守し得なかつたものでもない。

原告の本案の主張に対し原告主張の事実中原告が三島化学工業所を経営しターフエルトの製造販売を業としてゐたこと、原告が昭和二十三、四、五年度に主張のような諸税を主張額滞納してゐたこと、伊予三島税務署長が昭和二十五年十二月二十五日原告主張の物件につき滞納処分による公売を為し右物件を金百七十九万円と評価し同額で訴外三島工業株式会社が競落したこと、之が公売公告は同月十四日税務署前に掲示してなされ、ついで同月二十四日愛媛新聞に掲載されたこと、原告主張の右物件が予て原告より工場抵当法第三条により一括して訴外株式会社伊予合同銀行に対する債務の担保に供せられてをり、国が右銀行に優先し得べき租税債権が約金二十二万円であることは認めるがその余の事実は総て否認する。

一、伊予三島税務署長が別紙目録記載の物件中宅地四筆の差押をしたのは昭和二十五年十二月十三日で差押調書謄本の送達は同月十六日迄になされてをり、同月十五日登記囑託を為し同月二十一日登記受付が為されてゐるものである。

(一)  原告は差押の効力発生要件である登記前に公告の行はれたのは違法であると主張するが登記は単に差押の対抗要件に過ぎず不動産差押調書の送達によつて生ずるものと解すべきであるから登記前にした公告と云へども違法ではない。しかし公告が右差押調書送達前に為されてゐるものとすればこの点は一応違法たるを免れないが滞納処分のように数段階を経て発展すべき手続にあつては公告後公売期間日までに有効に差押の効力が発生したときは公告に存した前記違法性は治癒されたものと解すべきである。

(二)  しかして公告は必ずしも新聞紙になすを要するものではないから前記税務署長が前記のように新聞公告をした日の翌日公売処分をしたとしても既に同税務署前に掲示した公告の日より公売処分の日までに法定の十日の期間の存する以上これにより適法な公告があつたものと云ふべきである。

二、別紙目録記載の物件は原告主張のように訴外伊予合同銀行に対する原告の債務の担保として工場抵当法第三条による抵当権の設定がなされているため一括して差押競売を行つたものであるから仮に物件が滞納額を超過してゐるとしても工場抵当法第七条に照し一括して差押公売したことは違法ではない。

三、又税務署長が別紙目録記載の物件を金百七十九万円に評価したことは前記のとおりであるが公売当時の右物件の価格は公売なる特殊事情、当時の製紙事業の景況その他の事情に照し税務署長の評価額相当の程度であつて何らその評価に過誤はない、仮に評価に過誤があつたとしても元来評価は税務署長の自由裁量に属するところで評価の誤りが条理を逸する程度に著しい場合にのみ違法性を帯びるに過ぎない、と述べた。(各証拠省略)

三、理  由

まず本訴提起の適否について判断する。

原告が昭和二十三、四、五年度の物品税、所得税、取引高税等合計七十万七千百八十円を滞納し昭和二十五年十二月二十五日伊予三島税務署長より滞納処分を受けたこと、昭和二十六年一月二十三日原告が之に対し被告宛に異議申立書と題する書面を提出し、次で同年二月一日前記税務署長に対し再調査の請求をしたこと、同署長が之を不適法として却下し原告はさらに同年三月四日被告に対し審査請求を為し被告は右請求を棄却したことは何れも当事者間に争がない。

国税徴収法第三十一条の三第一項によれば一般に再調査請求に対する決定に対し審査請求が為されたときは同時に再調査請求の目的となつた処分についても審査請求が為されたものと看做され、これに対しそれぞれ決定を為すのを原則とする。たゞ同法第三十一条の三第五、六項によれば法定期間経過後の再調査請求として所轄税務署長が内容の審査を為すことなく之を却下した決定に対し審査請求の為されたとき国税局長は原決定を相当とするときは再調査請求に対する決定についての審査請求を棄却すべきものとし審査請求と同時に為されたものと看做される再調査の目的となつた処分に対する審査請求は何らの裁決を要せずして当然棄却されたものと看做される。即ちこの場合には元々再調査の請求自体が不適法として却下されてをり審査請求に対する決定に於いて之を維持する以上再調査の請求の目的となつた処分に対しては実質的に審査すべきではなく又その必要もないので同法条はこの部分に付いては当然棄却されたものと看做して之に対する実体的判断を拒否してゐるところである。本件も又右の場合に該るところ成立に争のない乙第八号証(審査請求に対する棄却決定)によれば被告は原告の審査請求に対し再調査請求に対する伊予三島税務署長の却下の決定を相当とするとともに同税務署長の為した公売処分についても実体的にその当否を判断し之を適法として原告の審査請求を棄却してゐることが明らかである。

思ふに行政事件訴訟に於いていわゆる訴願前置主義の採られてゐるのは行政処分に対して一旦行政庁自体による是正の機会を与へんが為め行政庁をして実質的に再審査を為さしめるにあるから再調査の要求が期間経過の理由で実質的審理を拒否され形式的に却下の判断を受け之に対する審査請求も亦原決定を維持するに止るときはその後に提起された訴は前提たる訴願手続を経ないものとして却下を免れないが反対に仮令期間経過後の再調査として却下の決定を受けた場合でも之に対する審査請求に於いて本件の如く実質的に再調査請求の目的となつた処分に対し審理判断を加へたときは訴願前置の立前から一応有効な行政庁の判断を経たもので裁判所は之を無視し得ざるものと云ふべく、従つて前審手続を経ないものとして訴を却下することは出来ない。

即ち本件訴の提起は適法と云はねばならない。

そこで進んで原告主張の違法原因に付いて判断する。

一、別紙目録記載の宅地四筆について昭和二十五年十二月十四日税務署前に掲示して公売の公告が為されたこと、同月二十四日愛媛新聞紙上に公売公告が為され翌二十五日公売が施行されたことは当事者間に争がなく差押の施行が同月十三日であることは成立に争のない乙第十一号証によつて認めることが出来る。(右認定に反する甲第四号証の一乃至四の記載は採用しない)原告は差押は同月十五日なりと主張し之に先立つて同月十四日に為された公告は違法であると云ふが差押が右認定のように同月十三日である以上原告の右主張は理由がない。しかして差押の効力は差押調書の送達(又は他の方法による通知)によつて発生するもので登記は之が対抗要件に過ぎないものと解すべきであるから差押の登記未了の間に公告が為されたとしてもそのこと自体原告主張のように公告を違法ならしめるものとは解し得ない。しかし公告は差押の効力発生後之を為すべきものと解すべきところ本件差押の効力発生要件たる差押調書の送達が差押後公売期日迄に行はれたことは争ないがその日については被告主張のように十二月十六日迄なることを認めるに足る証拠はない。

しかし公売手続の如く数段階を経て発展する手続にあつてはその過程に於いて手続に右のような欠陥があつてもその後の経過においてその欠陥が補正され且つ公告期間も遵守され実質的に利害関係人に影響を及ぼさない場合には該瑕疵が治癒されたものと解するのが相当である。本件に於いても差押調書の送達前にした公告は一応その後の送達によつてその違法性は治癒されたものと云ふべきである。

二、次に原告は本件物件は一部のみの公売でも滞納税額を支払ふに足りるから全部について差押をしたのは違法であると主張する。しかし本件物件が訴外伊予合同銀行に対する原告の債務の担保として工場抵当法第三条による抵当権の設定が為されてゐたことは当事者間に争がないから同法第七条に照しこれを一括して差押公売したことを以て違法とすべきではなくこの点に関する原告の主張も理由がない。

三、そこで進んで本件物件の価格について考へるに、証人大西茂、和田清忠、石井寛次、大西義縁(第二回)の各証言、鑑定人田辺貢、汐月亀若、森川治三郎の各鑑定の結果を綜合すると本件物件の昭和二十五年十二月二十五日公売当時の価格は金三百万円を超えないものと認めることが出来る。右認定に副はない乙第四、五号証の記載証人森実棟太郎、森克己、大西義縁(第一回)村上恒一、大西清志、庄司徳三郎、藤枝豊の各証言、鑑定人藤枝豊(第一、二回)重松作平、高井清の各鑑定の結果は採用し難い。

しかして公売に当つては税務署長はその財産の価格を見積るべきものとせられるがこれが評価に当つては客観的な市価を基準として妥当な価格を見積るべきで特別の事情なくして著しく低廉に評価しかつ著しく低廉な価格で公売することは滞納者の権利を侵害するもので違法である。しかし個々の公売に於いては事情により市価どおりに公売し得るとは限らずかつ一般的にも公売価格は一般市価より相当下廻ることは通常の事例であるから評価並びに公売価格が市価より低廉な一事で直に該公売を違法と断定し得ない。

本件について見るに成立に争のない乙第六号証並びに弁論の全趣旨により明らかな当時の製紙業界一般が不況であつたこと、公売物件の特殊性、並びに公売なる特殊の事情等を斟酌して考へると前記公売物件の評価並びに公売価格は廉価に過ぎたことは否定し得ないが未だ以て著しく不当であつたものとは断じ得ない。

されば原告の主張する公売の違法原因は何れも之を採用し難く伊予三島税務署長の為した公売は適法で之を維持した被告の決定も亦相当であるから原告の本訴請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 合田得太郎 宮本勝美)

(別紙目録)

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