高松地方裁判所 昭和30年(行)5号 判決 1958年5月30日
原告 徳島運輸株式会社
被告 高松陸運局長
主文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告代表者は、被告が昭和三〇年二月一一日付高陸自認第一二八号をもつて原告に対し、「昭和二九年一〇月二一日付一般小型貨物自動車運送事業の経営免許申請はこれを却下する」とした決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、
一、原告は、昭和二九年六月二五日定款の認証を了した設立中の有限会社であるが、貨物の運送運搬並びに之に附帯する事業を営むことを目的とするものであるから、同年一〇月二一日付で徳島県知事を経由し被告に対して会社の成立を条件に一般小型貨物自動車運送事業の免許を求める申請書を提出したところ、被告においては右申請書を受理し、その旨公示するとともに調査を開始し、かつ聴聞を実施するなどして審査を遂げ、同三〇年二月一一日付で右申請の却下決定をし、これが決定書を徳島県知事を経由し、その際同知事が右申請は道路運送法第六条第一項第一号に適合しないものと認められ却下された旨の文書をも添え、同月一七日頃原告に交付した。けれども原告はそれに不服なので同法第一二一条及び訴願法第一条第三号により同年三月一二日被告に対し運輸大臣宛の訴願書を提出し、それが四月二三日同大臣に進達された。
しかるに、その後三ケ月を経過するも右訴願の裁決をされていないし、右却下決定には左記の違法があるので、原告は行政事件訴訟特例法第二条但書によりこれが取消を求めるため本訴を提起した(ところが、出訴後の同年七月一五日付で右訴願を却下する旨の裁決があつた。)。
二、しかして、原告が右却下決定に違法があると主張するところは、
(一) 道路運送法第六条第一項の規定による一般自動車運送事業の免許に関する処分は所謂法規裁量と解するを相当とする。だから、被告は原告の右免許申請につきその基礎となつている事実の有無を調査し、それにより得た客観的事実に基いてそれが同条の基準に適合するかどうかを判断し、許否を決すべきであるに拘らずその判断の基礎とした事実を誤認し、又は架空の事実を基礎として専恣な判断をした違法がある。
即ち、「原告の自動車経営は徳島市と鴨島町との間を一日二往復する貨物輸送計画となつており、鴨島町附近の農産物の徳島市向け積合輸送及び徳島市からの地方小売業者向け雑貨輸送であること、並びに聴聞会における申請書の答弁等を綜合すると、本件運送は積合自動車定期運行とならざるを得ないから、かかる経営は一般路線貨物自動車運送事業であつて一般小型貨物自動車運送事業ということはできないので、原告の申請を免許できない」というのであるが、
(A)(1)、原告主張の事業経営計画は、原告の申請書(乙第一号証の二)中「第五、事業経営が運輸に必要である理由」の項記載のとおりであつて、その事業区域は徳島市を中心とし徳島県内一円としたものである。このことは申請書添付の荷主要望書(乙第一号証の一九)の内容からも明らかであるから、被告の云う如く徳島市と鴨島町間を単に運送事業区域とするような小規模な貨物運送計画ではなく、又定時運送となるものではない。
(2)、又、原告の申請書に一車一日平均輸送回数二回と記したのは、午前中出動した運転手が正午頃帰り、給油等を終えて午後再び出動するので、かかる状態を記したまでに過ぎず、被告の云う如く、この二回稼動は定期運行制類似行為となるものでない。
(3)、かつ、定時運行制と云うには、使用路線を定めること、特定の路線につき、毎日そして時間を定めて運行すること及び、必ず荷受所を定め、荷受所毎の発着時刻を定めること等の要件を必要とするものであるが、原告の申請中にかかる要件に該当する事実は何等記されていない。
(4)、又、鉄道路線に沿つているうえ、大型貨物自動車何台かによる既設定時運行貨物自動車運送業のある徳島、鴨島間において、小型自動車をもつて定時運行をしても採算のとれないことは明らかであり、原告はかゝる定時運行を計画しているものではない。
(B)、更に、被告において、原告の計画によると積合運送とならざるを得ないと云うが、原告の申請書添付「推定による一ケ年の取扱貨物の数量、種類及び其の算出の基礎」(乙第一号証の一二)からも明らかなように、輸送予定貨物の大半は建築資材、野菜等の貨物であり、その性質上小口貨物といえない、しかも、申請書記載の如く経営の合理化を計るため戻り車に農産物を積むのであり、かつこれが使用自動車は五〇〇キロ、七五〇キロ、一〇〇〇キロなど三台の小型車であるからその容量からして積合輸送はできない。その上、原告の計画は貸切を原則とし、家から家え迅速に運搬することを使命とするのであるが、他の物を積みうる余地があるときは、他の貨物も積載し、空閑利用を計画しているのであつて、かゝる空閑利用の計画は許さるべきである。従つて、積合運送と云われるような事実は何等存しない。
(二)、なお、既に徳島県下において一般小型貨物自動車運送事業の経営免許を受けている有限会社島陸小型運送の右免許申請書と原告の本件免許申請書とを対比するに、両者全くその要件たる記載事実が同一である。かくの如く、同じ要件を備えた申請に対し一方は免許し、他方原告のそれを却下するが如きはいわゆる法の下における平等の原則に反するものであるから、本件の却下処分は憲法第一四条に違反したもので、この点においても違法な処分と云うべきである。
三、被告は、右免許申請は道路運送法第六条第一項第三、四号にも違反するので該申請を却下したものであると主張するけれども、前記原告に交付された文書には、同条第一項第一号に適合しないものと認めると記されているのであるから、それ以外のかゝる主張は失当である。
仮に、右主張が許されるとしても、
(A)(1)、昭和二八年徳島県商進協同組合がした経営免許申請書中における「推定による一ケ年間の取扱貨物数量」なる記載が、本件申請のそれと同一であつたとしても、右協同組合と原告とが異なるは勿論その代表者も異つておる、しかも、前者は徳島市及び小松島市と郡部間の輸送であり、後者のそれとは輸送区域を異にしておるので、前者が当時その免許申請を却下されたからとて本件免許申請における計画の真実性を左右するに至るが如きものではない。
(2)、又、被告は、「本件免許申請における事実の本拠は徳島市であるが、代表者を始め事業に従事する社員などすべて鴨島町に居住しておるので、事業活動の正常化を期待しがたい放漫な事業計画である」と主張するけれども、原告の関係者一同が徳島市に移住することは容易で、かつ通勤しても僅か二十粁位に過ぎないので理由がない。
(B)(1)、更に、被告は本件免許申請に関し催された聴聞会当日、申請代表者に事業の収支計算書について説明を求めたところ、充分検討を加えていないことが判明した、このような事情があるからには前記第六条第一項第四号にも適合しないと主張するけれども、聴聞会当日原告の代表者は「右書面は他の社員が作つたのでよく内容が解らぬ」旨答えたに過ぎないのである。凡そ、法人である限り業務を分担しておるので、代表者と雖も一人で法人の事務すべてに通じていることは困難であり、従つて、かゝる発言をしたまでである、この一事をもつて原告の営業能力を云々するのは失当である。
(2)、のみならず、被告は、原告の代表者たる工藤健太郎は徳島県商進協同組合常務理事でもあるが、同協同組合所有の自動車に関し所謂自家用自動車の名義貸の常習者として車輛禁止の処分を受けたことがあるなど経営能力がないと主張するけれども、右処分を受けた運転手訴外森武見夫妻は現在日本には在住していない、又、人格を異にする別の法人の事件を本件に引用するのは失当であるし、原告の代表者には、本件免許申請をするにつき道路運送法第六条の二(欠格事由)各号に規定する欠格事由が存しないので、被告のかゝる主張は失当である。
と述べた。
(立証省略)
被告指定代理人等は、主文同旨の判決を求め、
答弁及び主張として、原告の請求原因事実は、却下処分に違法があるとの点を争い、その余はこれを認める。
一、本件免許申請却下処分は、以下述べるように、免許申請にかゝる原告の運送事業は道路運送法第三条第二項第六号の一般小型貨物自動車運送事業に該るものであるに拘らず、原告が行おうとするこれが事業計画などに顕われる事業の形態は如上一般小型貨物自動車運送事業に当てはまらないものである。のみならず、一般自動車運送事業の免許基準を定めた道路運送法第六条第一項第一、三、四号にも各適合しないと判断されたによるものであり、その間に原告主張のような違法のそしりを受けなければならぬいわれはない。
(一)、法第六条第一項第一号関係。
申請人提出の本件免許申請書によると、その経営しようとする自動車運送事業は一般小型貨物自動車運送事業であるが、
(1) その計画内容は対象を専ら中小企業者、農業生産者などの小口貨物のみに求め、推定による一ケ年間の取扱貨物の種類は多品目をあげる反面、年間取扱量は少量のものを計上しているので、申請書記載の計画自体からその輸送形態はいわゆる積合貨物とならざるを得ないことが容易に窺われる。
しかも、右申請に関し催された聴聞会における原告の代表者の説明によれば、右計画は主として右代表者の居住地である鴨島町附近生産の農産物を一日二往復にて徳島市内に向け積合輸送することを主たる目的としたもので、その帰り便を利用して徳島市内の卸小売業者から鴨島町までの間の地方小売業者に宛てた一般雑貨を積合輸送する計画であるから、一定の路線を運行するものであらうことが明らかであり、かつかゝる説明から推測される輸送は、いきおい主として毎日午前と午後定時に徳島、鴨島間の往復を企図しているのであるから、その事業種類は申請のように「一般小型貨物自動車運送事業」とはならないで、むしろ「一般路線貨物自動車運送事業」になるべき性質のものである。
(2)、更に、仮に、右申請事業に定時、定路の要素はないとしても、少くも前記のようにそれが積合貨物輸送となり、又はなる虞れが大である。然るに道路運送法第二四条の二で、一般小型貨物自動車運送事業の経営者は法定の場合を除いて、積合貨物の運送を禁止されているのである。
以上の如く、原告の計画その他により窺われる事業内容は、前掲一般小型貨物自動車運送事業形態に当てはまらないか、もしくは禁止を侵すが如きこととなるものである。だから、一般自動車運送事業の免許基準を定めた同法第六条第一項のうち、先づ第一号に所謂「当該事実の開始が輸送需要に対し適切なものであること」との要件を満さないから、同条第一項第一号に抵触するものとして却下した被告の処分は正当である。
(二)(A)、法第六条第一項第三号関係。
(1)、申請書中事業計画として記載された「推定による一ケ年の取扱貨物数量」は、原告の代表者たる工藤健太郎が常務理事の職にあるところの訴外徳島県商進協同組合が昭和二八年九月三〇日付で申請し却下せられた本件と同一事業種類の事業免許申請のそれと殆んど同一であつて、只僅かに前回の取扱貨物が主として徳島市南方小松島市横瀬町方面を対象としていたに対し徳島市、鴨島町などと若干変更したに過ぎず、漢字もそのまゝである。かようなことの窺われる計画であるからその直実性が疑わしい。
(2)、又、申請事実の本拠は徳島市とされているが、代表者を始め事業に従事する社員の居住地は鴨島町となつており、事業活動の正常化を期し難いことが明らかであり、従つて、放漫な事業計画と云わなければならない。
よつて、原告の申請の事業は「その遂行上適切な計画を有するものであること」との要件を欠くので、この点においても却下をまぬがれない。
(B)、法第六条第一項第四号関係。
(1)、本件申請の聴聞会において、原告代表者は事業収支計画について充分検討を加えていないことを明らかにしたが、かようなことは事業主宰者として知悉していなければならない事項であるから、結局、代表者の熱意が疑われ、事業遂行上充分な能力を有しないものと判断せざるをえない。
(2)、更に、右原告代表者たる工藤健太郎が、常務理事を勤めている前記徳島県商進協同組合は、その所有の自家用自動車について道路運送第一〇一条違反の行為により、昭和二七年一一月及び同二八年七月の二回に亘り車輛の使用禁止処分を受けたし、同二八年一月五日と同年九月三〇日とにした一般小型貨物自動車運送事業の免許申請をいずれも右違反の常習者として却下されたのである。
以上の事情から、本件申請の事業はその事業の執行をする原告の代表者が道路運送に関する遵法精神に欠如あるものと判断され、健全なる自動車運送事業の経営者としての能力を疑われるものであるから、この点においても申請は却下をまぬがれない。
(C)、ところで、被告が本件申請の却下処分をなすにあたり、前記理由から同条第一項第一、三、四号の各要件を欠くものと認めたのであるが、右各号はその一を欠く場合でも免許できない法意であること明らかである。しかも、第一号の要件はその他各号の基本的事項であるから、それを記載すれば他の各号も含まれるものと解されるし、申請の却下はその旨を申請人に通知すれば足り、その適用法条までも通知しなければならないものでない。従つて、被告が右第一号の外第三、四号にも該当しないことを判断し却下した処分に対する本訴において右第三、四号の要件に欠けると主張できるのは当然である。
二、原告は本件申請の却下は憲法第一四条違反であると主張するけれども、その前提とする訴外有限会社島陸小型運送の運送事業免許申請の諸要件事実と本件原告のそれとは必ずしも同一でない。仮に、殆んど同一事業形態のもとのあるとしても、右島陸小型運送に免許を与えたという理由のみで原告にも免許を与えなければならないものでない。従つて、原告の申請が前記法第六条第一項の要件を満たさない限り、他の事情がどうあらうとも、被告としては免許することはできないのであるからこの点の主張は失当である。
以上のとおりであるから、被告のした本件申請の却下処分は何等違法はなく、原告の請求は失当である。
と述べた。
(立証省略)
理由
原告は昭和二九年六月二五日定款の認証を了した設立中の有限会社であるが、貨物の運送運搬並びに之に附帯する事業を営むことを目的とするものであるから、同年一〇月二一日付で徳島県知事を経由して被告に対して会社の成立を条件に一般小型貨物自動車運送事業の免許を求める申請書を提出したところ、被告においては右申請書を受理し、その旨公示するとともに調査を開始し、かつ聴聞を実施するなどして審査を遂げ、同三〇年二月一一日付で右申請の却下決定をし、これが決定書を徳島県知事を経由し、その際知事がそれに、右申請は道路運送法第六条第一項第一号に適合しないものと認められ却下された旨の文書をも添え、同月一七日頃原告に交付した。けれども、原告はそれに不服なので同年三月一二日被告に対し運輸大臣宛の訴願書を提出し、それが同月二三日同大臣に進達された。しかるに、その後三ケ月を経過するも右訴願の裁決をなされていないことは当事者間に争がない。
原告は右申請の却下処分に違法があるから行政事件訴訟特例法第二条但書により、右訴願裁決を経ないでこれが取消を求めるため本訴を提起した(ところが、出訴後の同年七月一五日付で右訴願を却下する旨の裁決があつた)ものである。ところで、道路運送法(第四及び五条)による自動車運送事業の免許申請による免許は、その経営しようとする種類の自動車運送事業(同法第三条第二項所定)がその予定路線又は事業区域、事業計画などに徴し、同法第三条第二(又は第三)項所定にかゝる該当種類の自動車運送事業に該り、しかも、同法第六条第一項規定にかゝる各号の免許基準にも適合すると認定判断されるものでなければならないこと如上各規定及び同法に照らし明らかである。従つて、該認定判断もまた客観的に経験則に従つてなさるべきものであるから所謂法規裁量に属するものと解すべきこと原告の主張するとおりである。
よつて、右の却下処分に原告主張のように違法があるかどうかについて審究する。
(一)、前認定のとおり、原告が被告に対し申請したのは、一般小型貨物自動車運送事業についての免許を求めるものであるところ成立に争のない乙第一号証の二によれば、右申請においては、経営しようとする自動車運送事業の種類は、一般小型貨物自動車運送事業で、その事業区域は徳島市とし、その事業計画につき、主たる事務所の位置を徳島市弓町三丁目一〇番地の四、事業用自動車を小型貨物自動車三輛、従業員の配置を本社に役員及び事務員各一名と運転者三名とするものとしてこれが免許申請をしたものであることを認められるが、他方成立に争のない乙第一号証の一乃至一九、第二号証の二、第三号証の一、二及び証人二宮長守、春木谷定行の各証言により真正に成立したものと認める乙第二号証の一、及び第五、六号証の各一乃至三(尤も、その内乙第二号証の一は原告において、供述者及び筆記者の各署名もないもので、かゝる文書は証拠とできず、又、その内容は原告の代表者の自白を内容とする唯一のものであるから事実認定の資料とすることもできない旨主張する。成程、同号証には供述者及びその筆記者の各署名もない、又それが本件申請に関する聴聞会における原告の代表者の供述の全部を録取したものでないことは原告の云うとおりであることを窺えるが、供述の要旨を前記証人等がメモした文書であることは充分窺えるところであつて、偽造したものでないことを認められる。しかも、証拠にできないなどの主張の如きは、刑事訴訟法上の証拠の法則と民事訴訟法上の証拠の法則とを混同した原告独自の見解であつて、当裁判所の採用しないところである。)並びに被告の保管にかかりかつ形式上被告から運輸大臣宛文書の原案であると認められるので真正なる公文書と推定すべき乙第一二号証、被告所管の徳島陸運事務所長の保管にかゝりかつ形式上同所係官の作成した文書(原案など)ないしは訴外工藤健太郎作成の文書であるから真正に成立したものと認むべき第一一号証の一乃至三、同両証人の各証言に弁論の全趣旨をも併せ考えると、右免許の申請書記載の事業経営が運輸上必要である理由や添付の諸書類並びに、聴聞、調査などにより右運送事業は徳島市の中小商工業者二十数名の小口貨物輸送迅速化の要望に応えるためと農産物を多量に生産出荷する鴨島町附近においては既存運送業者がその需要に応じきれず輸送難の情況にあると云う見透のもとに、徳島市から商工業者の小口雑貨貨物等の輸送をし、鴨島町から生産者の農産物などを運搬することを主とし、それには徳島市に営業所を設置すれば足り、鴨島町には原告の社員が住居しておるので営業に差支えることのないことも考慮のうえ企画されたものである。従つて、この運送形態は所謂積合貨物とならざるを得ないし、それを予期しているのである。しかも、徳島市と鴨島町との距離は約二十粁位であるし、如上の如き状況の積荷であるからその間を一日午前と午後との二往復するものと予定した。だから、いきおいその運行路線も一定するに至らざるを得ない状態であることを認められる(徳島―鴨島間に鉄道があり又貨物自動車運送業者があるとしてもこの認定を妨げられない)とともに、原告の代表者たる訴外工藤健太郎は訴外徳島商進協同組合の常務理事をもしており、同組合のした一般小型貨物自動車運送事業の免許申請を却下されているが、その理由中には「名義貸の常習者と認められたこと」も含められているよう窺われることも認められる。又、成立に争のない乙第一、八号証の各一乃至一九に弁論の全趣旨をも併せ考えると、原告の本件の免許申請の内容たる計画、立案の基礎は(必ずしも正確ではないが)前記却下された訴外徳島商進協同組合のした免許申請書を写し、一部の字句を修正したに過ぎないものである(事務所の位置が何れも徳島市弓町三丁目一〇番地であるし、右訴外組合の計画の基礎は組合員たる中小商工業者の便益を目的として商品などを運送するものであり、原告のそれは徳島市内外の一般中小商工業者の商品及び農家などの農産物の運送であるから、その品目及び一ケ年間の取扱予定数量も異る筈であるのに、「推定による一ケ年間の取扱貨物の種類及び数量並びに算出の基礎」における内容が青果物他七点の品目数量以外は全く同一の品目数量であり、かつその合計屯数は両者全く同一である)ことを認められる。他に以上各認定を覆すに足る証拠はない。
以上認定のとおりであるから原告の計画する運送事業は徳島と鴨島との間において定つた路線を毎日午前と午後の二回に運行して積合貨物を運送することとなるものであるからその事業形態はむしろ「一般路線貨物自動車運送事業」(道路運送法第三条第二項第四号)に該るものと云うべきである。だから、それは「一般小型貨物自動車運送事業」の形態にあてはまらないので、これが免許申請はこの点において失当である。
仮に、右定期、定路の運行であると云うのが即断にすぎ、従つて、一般小型貨物自動車運送事業であるとしても、その事業形態は積合貨物の運送となり、それは一般小型貨物自動車運送事業では禁止されておる(同法第二四条の二)ところであり(原告の代表者は本件の申請が免許されたらこの禁止解除の許可を受ける予定であると云うけれども、それは将来のことに属するものであるから本件申請の審査には無視さるべきものである)、それを除外しては事業計画の基礎を失うに至るもので、事業すなわち経営の形態などと輸送需要との関係につき適切さを欠くものといわねばならない。従つて、同法第六条第一項第一号の「当該事業の開始が輸送需要に対し適切なものであること、」と云うに適合しないから、これが免許をすることはできないのである。
(二)、次に、却下処分は憲法第一四条に違反する違法があるとの点を判断する。
原告の全証拠によるも本件の免許申請と既に免許されている訴外有限会社島陸小型運送のそれとがすべての要件事実、事情においてほゞ同一であるとのことを認められない。却つて成立に争のない甲第八号証の一乃至六と前示乙第一号証の一乃至一九を対比すると両者の要件事実、事情が種々相違しているものであることが明らかである。そうすると、それが同一であることを前提とする右主張はこの点において失当というほかはない。
のみならず、凡そ、憲法第一四条の規定は、あらゆる場合、あらゆる点で絶対に平等であることを要求するものではなく、その要請そのものの中に合理的な制限を当然含んでいるものと解するを相当とし、右のことは行政上の事項についても云うことができる。そうすると、同一事情の案件の場合の行政処分は同じ結論となることは望ましいことではあるが、機械的な考え方のそれと異なること勿論であるから、たまたまその結論を異にするに至つたとしても、そのことから直ちに法の下における平等の原則に反したものと云うことはできないこと右説明により明らかである。
そうすると仮に、本件免許申請と訴外島陸小型運送のそれとがほゞ同一事実のものであるとしても、被告が同じように法律に基いて調査判断したものである以上仮令右訴外会社の申請が免許され、本件のそれが却下され、異つた処分となつたからと云つて憲法第一四条の所謂「法の下の平等」の原則に反するものとは云えない。
そうすると、被告の本件免許申請却下処分に、原告の主張のような違法は存しないと云わねばならない。
(尚、被告の却下決定にその具体的事由を示さなかつたのは、あるいは妥当を欠くものと云うことができるかも知れないけれども、違法とは云えないと解する。)
しかも、一件記録に徴し、他に瑕疵の認められない本件にあつては、原告の右却下決定の取消を求める本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して訴訟費用の負担を定める。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 太田元 秋山正雄 弓削孟)