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高松地方裁判所 昭和38年(行)4号 判決 1966年6月24日

原告 全財務労働組合 外四名

被告 四国財務局長

訴訟代理人 杉浦栄一 外七名

主文

原告全財務労働組合の本件訴を却下する。

被告が昭和三十七年十一月十日原告平尾久に対してなした国家公務員法第八十二条の規定にもとづく免職処分を取り消す。

原告戸祭忠男、同上川哲弘、同香川盛史の本件各請求を棄却する。

訴訟費用中原告全財務労働組合と被告との間に生じた部分は同原告の負担とし、原告戸祭忠男、同上川哲弘、同香川盛史の三名と被告との間に生じた部分は右原告三名の負担とし、

原告平尾久と被告との間に生じた部分は被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

第一、被告の本案前の答弁について、

本訴は、被告が原告戸祭忠男、同上川哲弘、同香川盛史、同平尾久に対してなした国公法第八十二条の規定にもとづく免職処分の取消を求めるものであるから、右法律関係の当事者とはいえない原告組合に、現行法上当然に右法律関係について管理処分権があると認める根拠に乏しく、従つて原告組合が免職処分を受けたその組合員である原告戸祭、同上川、同香川、同平尾等の利益を擁護するために自ら当事者として右免職処分の取消を訴求することは原則として認めることはできない。(昭和二六年(ク)第一一四号昭和二十七年四月二日最高裁判所大法廷決定、昭和二四年(ネ)第二九五号昭和三十五年十月二十一日同裁判所第二小法廷判決参照)

しかしながら、原告組合は、同組合自身の権利として、原告戸祭等の免職処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有するものである旨(原告等の請求原因(四))縷々主張するので、更にこの点について審按するに、先ず原告組合は、その所属組合員たる原告戸祭等免職者の一切の給与を支出し、本件免職処分撤回斗争の費用もすべて負担している。それ故将来国に対し損害賠償請求訴訟を提起するためにも本件免職処分の取消を請求する法律上の利益を有する旨主張するが、それが組合規約に基づくものであろうとも、かような事由により原告組合の蒙る不利益は単なる経済上の不利益であつて、原告戸祭等の免職処分を取消すこととの間に法律的関連がある法律上の不利益ということはできない。それ故原告組合のこの点の主張は理由がない。

次に、原告組合は、被告のなした原告戸祭等の違法な免職処分によつて、組合内部の団結権が破壊され、その有力な幹部を失なおうとしているから、自らの権益を擁護するためにも本訴提起の法律上の利益を有する旨主張するが、ただそれだけでは原告組合が原告戸祭等の本件免職処分の取消を訴求するについての法律上の利益ありとはいえない。

よつて原告組合の本件訴は当事者適格を欠く不適法なものとして却下すべきである。

第二、本案について。

原告等の地位、身分が原告等主張のとおりであること及び被告が昭和三十七年十一月十日原告戸祭忠男、同上川哲弘、同香川盛史、同平尾久に対し、原告等主張の処分内容によつて、国公法第八十二条の規定にもとづく免職処分を通告したことは当事者間に争がない。

一、そこで先ず本件処分につき原告等主張のような事実誤認の有無について判断する。

(一)  本件勤評反対斗争の経過

1 勤務評定制度

当時施行の国公法第七十二条(勤務成績の評定)及び人事院規則一〇-二(勤務評定)第四条は、所轄庁の長に、その所管に属する職員についての勤務評定の実施に関する規程を定め、これに基づいて定期的な勤務評定を実施し、その評定の結果に応じて所要の措置を講じなければならないことを義務づけている。しかして所轄庁の長の定める規程は、人事院の承認がない限り、次の如き右人事院規則の規定によらなければならないものとされている。(第四条第二項)

(い) この勤務評定は、職員が割り当てられた職務と責任を遂行した実績(勤務実績)を当該官職の職務遂行の基準に照らして評定し、並びに執務に関連して見られた職員の性格能力及び適性を公正に示すものであること(同規則第二条)

(ろ) またその方法は、職員の勤務実績を分析的に評価して記録し、又は具体的に記述し、これに基づいて綜合的に評価するものであり、かつ、評定の公正を確保するうえから、二以上の者による評価を含む等、特定の者の専断を防ぐ手段を具備するものであること(同規則第二条)

(は) 評定の総括的な結果は、三以上の段階に区分された評語をもつて報告書に記載するものとし、しかして、上位の段階の評語を決定される職員の数は、同一時期に評定された職員数のおおむね十分の三以内になるようにしなければならないこと(同規則第十五条)

(に) 各職員の勤務評定の結果は公開しないこと(同規則第十七条)

又所轄庁の長が勤務評定の結果に応じた措置を講ずるに当つては、勤務成績の良好な職員については、これを優遇して職員の志気をたかめるように努め、勤務成績の不良な職員については、執務上の指導、研修の実施及び職務の割当の変更等を行い、又は配置換その他適当と認める措置を講ずるように努めなければならないのである。(同規則第五条)

2 四国財務局における勤務評定

<証拠省略>によれば、大蔵省では、昭和二十七年度以来国公法及び前記人事院規則に基づいて勤務評定を実施しているが、その規程については原告組合の要望を尊重して前記人事院規則の各規定の範囲内で順次改正を加え、現在では昭和三十三年十月一日制定の大蔵省本省勤務評定実施規則(大蔵省訓令特第十一号)に基づいてこれを行なつている。従つて財務局においては、この規則に基づき、財務局長が実施権者となつて、毎年一回、大蔵大臣が定める時期(同規則第六条)に勤務評定を実施することとなつている。

ところで、右規則によれば、次のとおりに定められている。即ち、

(い) 勤務実績の評定は、役付職員については、責任感、判断力、企画力、統率力及び知識の五評定要素、一般職員については、責任感、知識、仕事の結果及び勤勉さの四評定要素に分析して評価し、具体的に記述を行い、これに基づいて綜合的評価を決定し、あわせて、執務に関連して見られた人物、能力、適性、家庭事情、健康状態等を記載することとなつており、(同規則別表第二A、B表)

(ろ) これらの評価は、その公正を確保するうえから、係員については係長、課長、部長が、また係長については課長、部長、局長がそれぞれ三次にわたつて評定を行なうことにより、適正なる結果を保障する措置が講じられている。(同規則別表第一)

(は) 次に、評定の結果は、各評定要素につきa(優良である)b(普通である)、c(良くない)の三段階の評語を附しこれらを綜合的に評価してA・B・Cの三段階の総括評語を決定する方法がとられている。(同規則別表第二A・B表)のである。

(に) 従つて大蔵省管下の四国財務局における勤務評定は、職員個々の実情に則した適正な人事管理を行なうための公正な基礎資料の一つとするために、法令、規則をもつて定められた制度であり、局長はこれを実施すべき義務があるのである。

3 原告組合の勤務評定に対する態度。

(1)  原告組合は勤務評定制度の実施以来常にこれに反対して来た。その理由とするところを要約すれば、

(い) 勤務評定は、職階制と職階給制度に結びつき昇任、昇格の根拠となり、特別昇給、勤勉手当に影響を与え、国家公務員の低賃金傾向を助長するものである。

(ろ) 勤務評定には、客観的な判断基準がなく、非科学的である。

(は) その結果として、いたずらに職員間に競争心をあおりたて、労働強化をもたらすものであり、一面においては管理体制を強化し、組合役員等活動者を差別し、ひいては労働組合の団結を侵害するものである。

というにある。

しかしながら、組織的に多数の人間を使用する者が、管理者に被用者の平素の勤務成績を判定させ、これに応じて昇給昇格その他の人事管理を行なうのは当然のことといわねばならない。しかして、近時組織の拡大と機構の分化が進むにつれ、この判定に管理者の恣意的な要素の介入する余地を少くし、それを可及的に全体的、綜合的、客観的なものとするため、判定の方法、手段を制度的に運営することが要請されているのである。そうして右の如き要請に基づいて前記のような勤務評定制度が、法定、実施せられ、勤務評定は前述のとおり適正な人事管理の公正な基礎資料の一つとするために行なうものであつて、その本質上賃金水準の高低にかかわりなく実施することを要するものである。しかも国家公務員の賃金水準は、中立的専門機関である人事院の勧告によつてこれを確保する途が法律上制度化されているのである。また成程現行の評定手段、方法は事物の性質上完全なものとはいえないかもしれないけれども、前述の如く、出来るだけ全体的、綜合的、客観的な評定が得られるよう人事院規則上種々の配慮が加えられ、大蔵省の実施規則もその範囲内において数次の改善を重ねて来たことは弁論の全趣旨に照して明らかである。それ故にこの勤務評定には、客観的な判断基準がなく、非科学的であるとしてこれを全面的に非難することは正当ではない。したがつてまた勤務評定のためにことさらに職員間の競争心をあおりたて、労働強化をもたらすものとはいえない。また勤務評定制度は一面においては管理体制を強化し、組合役員等活動者を差別し、ひいては労働組合の団結を侵害する旨の原告等の主張を認めるに足る資料はない。

これを要するに、原告組合の態度は、基本的には、現行の評定手段、方法の欠陥を指摘してその是正を求めるものではなく、勤務評定制度そのものを否定してこれを撤廃せしめようとしていることは、<証拠省略>に徴して明らかである。

被告は更に、原告組合の態度を目して、右勤務評定制度そのものを否定し、ひいては職階制、国家公務員給与制度等現行の国家公務員制度全体を否定するものに外ならない旨主張するけれども、これを確認するに足る資料はないから、被告の該主張は認められない。

(2)  なお、原告等は、原告組合が勤務評定に反対する特殊事情として、職員の多数に給与上のアンバランスがあることと、財務局組織の細分化、職務内容の異質性等が考慮されるので、仮りに勤務評定制度を容認したとしても、これらの特殊事情を解決しないで実施することは明らかに不当である旨主張するので検討する。

(い) 原告等のいう「給与のアンバランス」とは、人事院細則九-八-二の等級別資格基準表に定める昇格に必要な経験年数及び在級年数を充たしていても給与法第八条に定める等級別定数の制限によつて、昇格し得ない場合のあること及び右細則の経験年数換算制度により、学卒後採用されるまでの経験年数が、初任級の決定に際し、そのままの年数で号俸決定の基礎とされない場合のあること。並びに、上級制限の制度により、上位等級の初号俸に相当する号俸以下の号俸にしか決定されない場合のあることに伴ない、学卒後直ちに採用された職員に比し不利となつていること。を指すものの如くである。

しかしながら、右の如きは、給与号俸を人事院規則の定める基準に従つて決定するときは常に当然に生ずる問題でそれはあらゆる官庁に勤務する国家公務員全体に、共通する問題であつて、財務局職員のみの特殊の現象ではない。「賃金アンバランス集計表」の数字は、前記の人事院規則や細則を全く無視し、経験年数と在職年数を充してさえおれば、すべての者が一律に昇給し、また民間等の経験年数を有する者の初任給決定に当り学卒後直ちに採用された職員と同一に取扱うべきものとして算出した号俸と現実の号俸とを比較したものに過ぎないのである。従つて、<証拠省略>をもつてしては原告等の主張事実は立証するには足りない。

(ろ) 四国財務局では第一次評定の段階における被評定者が二名以下という部署のあることは当事者間に争がない。しかしながら、いわゆる十分の三Aの原則は、人事院規則一〇-二、第十五条により、最終評定者の段階における調整措置の基準であつて、第一次評定の段階において遵守すべき基準ではない。<証拠省略>により四国財務局においても、第一次評定者に対して、いわゆる十分の三Aの原則に従つた評定を求めたことはないことが明らかである。したがつてこの点に関する原告等の主張も認められない。

4 昭和三十七年度勤務評定と原告組合の反対斗争

(1)  原告組合の組織

原告組合の組織とその実体については、<証拠省略>を綜合すれば、原告主張(請求原因(三)1(2) <3>(イ))のとおりであることが認められる。

(2)  勤務評定の実施に当り被告のとつた措置について、

<証拠省略>によると

昭和三十七年度における勤務評定は、同年九月二十二日付秘第二一四八号大蔵大臣官房長依命通達により、評定時期を同三十七年十月一日とし、評定は十月十五日までに完了すること(特に完了の時期を厳守することが指示されたこと、このため四国財務局においては、九月二十八日付決裁文書をもつて管内財務部長及び財務局出張所長あてに勤務評定の実施を指示するとともに、十月一日本局部課長等幹部職員を局長室に集め、勤務評定は大蔵省本省勤務評定実施規則により公正に実施し、所定期日までに確実に提出するように指示して、勤務状況報告書をこれら部課長に手交したこと、

その際前年度迄の勤務評定においては必ずしも提出期限が遵守されたとはいえない実情にあつたので、特にこの勤務状況報告書の上部欄外右肩に、第一次評定者は十月八日までに、第二次評定者は十月十一日までに右報告書を提出するよう記載し、局長名の文書命令の形式をとつて、勤務評定の円滑適正な実施を期したこと、なお右の措置は全財務局の総務課長会議での申し合せに基づいて他の財務局においても一様に採用されたところであつて、ひとり四国財務局における被告のみが行つたものではないこと、しかして、この命令書は同日各課長を通じて第一次評定者である係長等に交付されたが、課長は交付に当り、「今回の勤務評定は義務命令になつているから」と説明し、「昭和三十七年十月八日」の期限を厳守するよう特に注意したことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(3)  原告組合の昭和三十七年度勤評反対斗争方針

<証拠省略>を綜合すれば次の事実が認められる。

(い) 勤評反対斗争は原告組合が昭和三十三年の第五回大会において労働強化と差別をもち込み、職員間に反目競争意識をあおるものとして勤務評定制度に反対の態度を決め、その戦術として記入拒否、提出拒否を決定、組織して以来、毎年勤務評定実施の際には必ず斗争が組織されていた。そして逐年その斗争戦術も斗いの批判と反省のうえにたつて若干づつ変更されたが、本件の昭和三十七年度においても前年度と若干戦術が変更されている。即ち、昭和三十六年度勤評反対斗争方針は、公開、均一オールA、一斉提出であつたが、この方針は勤務評定の当面の当事者である第一次評定者のみに前記戦術行使の負担がかかり、斗いが全組合員のものにならないこと、斗争の負担が第一次評定者のみにいちじるしく集中する結果第一次評定者の中には勤評反対斗争を重荷と感じて当局から圧力に苦慮する者があること等にかんがみ、戦術を転換して「一定期間の記入拒否、提出拒否」としたものである。

(ろ) そこで原告組合の昭和三十七年度勤務評定に対する反対斗争の戦術は、中央委員長名をもつて各地本委員長、地協組長、支部長にあてて発せられた全財組第三号に、

「基本的に絶対反対の態度でたたかいを進めていきます。」「当面は、勤評を"

「対官交渉、抗議行動を軸とした"入拒否"

「今年度は、一昨年、昨年の""

「提出時期は中央本部の責任において決定しますが、その場合(十月十日ごろ)は全国一斉職場大会を開催し、同時に提出します。なおその時点においては、オールA公開を推進し、それが困難の場合は最低遅れ号俸のある組合員を優先的に評定するようにします。」

と明記されている。

しかして原告組合の四国地本では右の中央方針に基づいて、斗いの目標を「職場で勤評を骨抜きにし、人事管理、特昇の資料として使用させない。」ことに置き、斗いの進め方としては、「局長交渉、抗議行動を軸とする"

この点に関して原告等は、右の「対宮交渉を軸とした一定期間の記入拒否、提出拒否」とは、文字どおり「記入拒否、提出拒否」を意味するものではなく、官の指定した提出期日までは記入提出を拒否して、この間に対官交渉を行い、出来るだけ組合の要求するところを官に承認させ、おそくとも官の指定した提出期日には一せいに提出する予定であつたのであつて、官の指定した提出期日になつても「記入拒否」「提出拒否」をする意図は毛頭なかつたと主張する。

しかしながら、右の戦術を昭和三十六年度の戦術と比較すれば、

「基本的に勤務評定絶対反対の態度」に立つて「勤評を職場で無力化し、骨抜きにする」ために「オールA公開を推進」しようという根本的な方針においては昭和三十七年度も同三十六年度と全く変りがなく、ただ同三十六年度には直接第一次評定者に対してオールA公開の評定を行なうよう要請したため斗争が困難であつたので、同三十七年度では対官交渉を行つて官にオールA公開を承認させた上で、第一次評定者に記入提出させることとしたに過ぎないのである。そうして、原告組合としては、昭和三十六年度の四国財務局における反対斗争は官の指定した提出期限後も局長交渉を行い、局長に組合の要求項目を承認させ、大いに成果をおさめたと考えているのである。(もつとも被告においては、四国財務局において当時の長谷局長が真に原告組合の要求項日を承認したものとは考えていない。)

従つて、昭和三十七年度の戦術は、右の如き同三十六年度の四国財務局における斗争の評価を前提として、同三十六年度の戦術を部分的に修正したものと解すべきである。そうだとすれば、この新職術は、同三十六年度の四国財務局における斗争と同様に、各局でオールA公開という組合の要求を局長に承認さすか、少くともこれに近い組合としてある程度満足しうる結果を得るまでは、官の指定した提出期日後といえども第一次評定者に勤務状況報告書の記入堤出を拒否させた状態のまま局長交渉を続行し、中央本部が各局の交渉の成果を見定めた上で、全国一せいに勤務状況報告書を提出させようというものであつたことは明らかである。したがつて、「中央本部の責任において決定する提出時期」が官の指定した提出期日を予定していたものであるというが如きは、全く根拠のないものというべきである。<証拠省略>他に以上認定を覆すに足る証拠はない。

(4)  四国財務局における原告組合の昭和三十七年度勤評反対斗争の推進と被告の態度

<1> 四国財務局における原告組合の昭和三十七年度勤評反対斗争の推進。

<証拠省略>を綜合すると次の事実が認められる。

原告組合四国地本及び高松支部では前記全財務の勤評反対斗争方針を承け、その一環として、勤評反対、勤務状況報告書(又は勤評書)の提出拒否、オールA公開等の勤評反対斗争をすることに方針をきめ、

(い) 高松支部において昭和三十七年九月二十七日大巾賃上げ、勤評反対総けつ起のための職場集会を開き、勤評反対署名運動には全員参加し、勤評反対斗争終了まで「勤評反対」のリボン戦術をとることとし、

(ろ) 翌二十八日四国地本と高松支部役員数名が四国財務局前田総務課長を通じて被告に勤務評定に関する申し入れを行い、被告においてその翌二十九日午前十時から一時間に限り、四国地本、高松支部各別に交渉に応ずる旨回答したところ、原告組合側は官側(被告当局側)と四国地本、高松支部との合同交渉を固執してやまず、しかも被告に対する原告組合の右合同交渉の要求については十月一日から同月五日までの間数回に渉り執務に申し入れがなされたが、被告においてもこれに応じないで拒否し続けてきたのである。

<2> 四国財務局長の団体交渉否認の当否。

原告等は、四国財務局における勤評反対斗争が後記のような経過をたどつた最も根本的な原因は、当時の四国財務局近藤局長の違法な合同交渉拒否にある旨主張するので検討する。

(イ) 近藤元局長が団交を忌避し、組合と話し合うことを極力回避したか否の点についてみるに、近藤局長は昭和三十七年五月末四国財務局長として赴任したものであつて、右赴任以来わずかに約四ヶ月を経過したばかりであることを考慮すれば、仮りに組合との交渉が三回位であつたとしても、これをもつて局長が組合を忌避し、組合と話し合うことを極力回避したとはいえない。

(ロ) いわゆる合同交渉拒否について。

(I) 先ず国家公務員の対官交渉権について検討する。

元来争議権、団体交渉権及び団結権のいわゆる労働三権は不可分のものである。即ち争議行為を裏付けとしない団体交渉権は本来無意味であり、団体交渉をなしえない団結権も本来無意味である。したがつて実定法上国家公務員について当時施行の国公法第九十八条が争議権を剥奪(争議行為の禁止)しながら、職員団体の結成加入権や団体的な折衝権を認めたことは一般労働者の場合の団結権、団体交渉権、争議権の考え方とは別の考え方によつたものといわざるを得ない。すなわち国家公務員の職員団体結成加入権及び団体的な折衝権は一般労働者の場合の争議権と不可分の団結権、団体交渉権とは異なるものであり、争議行為の禁止と一体をなすものであつて、さきに述べた意味における団結権、団体交渉とは異なるものである。その理由は一般労働者の労働条件は原則論的について労使対等の場合において労働協約の締結その他によつて決定されうるに反し、およそ国家公務員の勤務条件は国民の意思の現れとしての法律によつて定められるということに存する。要するに国家公務員の勤務関係そのものが一般労働者のそれとは異なるものであり、即ち、国家公務員は「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」し、国民を使用者とするものであつて、その勤務条件については、政府においても本来これを決定しえないものである。以上の如く国家公務員の勤務関係は一般労働者の労働関係に比し特殊性を具有するところに右法条によるいわゆる労働三権制限の合理的根拠があるというべきである。(なお右法条の合憲性については後記参照)そこで公務員の団体的な折衝権につき同条第二項中に「職員はこれらの組織(組合その他の団体すなわち職員団体)を通じて、代表者を自ら選んでこれを指名し、勤務条件に関し、及びその他社交的厚生的活動を含む適法な目的のため、人事院の定める手続に従い、当局と交渉することができる。但しこの交渉は政府と団体協約を締結する権利を含まないものとする。云々」と規定されている。ここにいう勤務条件とは、同法第百六条第一項の「勤務条件」と同じであるが、給与、勤務時間等に限らず、交渉権を認めた趣旨から、さらに広く解するのが相当である。そうして「交渉の手続」については人事院規則一四-〇の定めに従わなければならない。ところで右規則には、

(い) 交渉は職員の団体の代表者と関係機関の長又はその正当に委任を受けた者とによつてたがいにとりきめた時間に行わなければならない。

(ろ) 交渉は、機関の長が適法に決定し及び管理する事項に限らなければならない。但し交渉は、懲戒に関する事項を含まないものとする。

(は) 交渉は人事院に登録した職員の団体によつてのみ行われなければならない。

と定められている。

右によれば、交渉主体並にその適格と交渉事項等について規定しているけれども、いわゆる合同交渉の点については何等の定めはなく、したがつて特に制限もない。それ故にこの点については交渉主体並にその適格は勿論であるが、交渉事項(特に具体的な交渉主体の権限に属するか告)を審査するほか、前記公務員に特殊な交渉権を規定した法律の精神に則り、従来の慣行その他条理に従つて決定するのほかはないものというべきである。

(II) 本件についてこれをみるに、

(い) 先ず一般論として、

(a) 四国財務局管内においては、職員団体なる原告組合の四国地本と高松支部は、共に単一組織下の下部機関であつて、夫々四国財務局長に対応する交渉団体の適格を有するものである。

(b) 交渉事項については、四国財務局長自身勤務評定を廃止し、あるいは実施するについての決定権のないことは明らかであるが、勤務評定を実施することによつて具体的に賃金その他の給与、労働時間、休憩、休日、休暇及び職員の転勤、降昇給等勤務条件に影響をもつ範囲内において、それについて職員はその評定権者である局長にその実施方法その他勤務評定の運用等につき組合の意向を伝え善処するよう要望するため、局長と交渉をもつことは許さるべきものと解するのが相当である。(もつともここにいう勤務評定そのものと、これが実施により職員の勤務条件に影響をもつ事項とを明確に区別することは甚だ困難なことであつて、具体的な場合に判定上疑義の生ずることは考えられる。)

(c) いわゆる合同交渉の点については、四国地本は四国財務局管内全体の共通の交渉事項もあれば、あるいは高松支部又はその他の管内支部のみに関するものもあると思われるほか、もともと交渉とは相手方のある行為であるので、何れの一方からも相手方へ押し付けられるものでないことは勿論、予め交渉事項を明らかにすることを要するものである。すなわち、「交渉に当つては、職員団体と当局との間において、議題、時間、場所その他必要な事項をあらかじめ取り決めて行うものとする」(昭和四十年法律第六十九号による第百八条の五第五項参照)のが当然である。

(ろ) そこで被告が、組合の「勤務評定の問題について」という合同交渉の申入れに対しては、常に四国地本と高松支部それぞれ個別になら交渉に応ずる旨回答してきたことは弁論の全趣旨に照して明らかである。そうして、被告としては.人事院規則一四-〇に基づいて、勤務評定実施規則所定の勤務評定そのものについては交渉事項ではなく、勤務評定の実施に伴なう個々の勤務条件に関する問題についてのみ交渉事項とすべきものと考えて、四国財務局管下の全職員に共通する勤務条件に関する事項は、四国地本と、四国財務本局勤務の職員のみの勤務条件に関する事項は高松支部とそれぞれ各別に交渉することが問題の解決により適切であると考えた旨主張するが、右人事院規則一四-〇は、合法的な職員組合の各級機関が個別的に又は合同して当局と交渉することにつき格別の制限を設けていないこと前述のとおりであるから、単に合同交渉であるという一事をもつて頭から交渉を拒否する態度は妥当ではない。即ち被告は一応予備交渉の段階において、四国地本と高松支部との交渉事項をたしかめた上、前記のような基準に従つてその諾否を決するのが妥当な措置というべきである。原告等は、四国地本と高松支部とが別々の要求、条件を出していた事実は全くない。そもそも勤務評定のような、職場の細かい要求と異なる全国的な問題については、中央、地本、支部は同一の要求をもつており、とくに四国においては、四国財務局は、松山、高知、徳島管内全部の統轄者であると同時に四国財務本局(高松支部が対応するもの)の統轄者であるから、権限からいつても、要求からいつても、むしろ四国地本、高松支部の合同交渉に応ずるのが自然であつて何一つ拒否する理由はない旨主張するので検討するに、交渉事項は機関の長が適法に決定し、及び管理する事項に限られることは前述のとおりであるところ、もともと前記原告組合の主張するいわゆる「オールA、公開」等の要求は原則論的には前記のとおり人事院規則一〇-二(勤務評定)第十五条及び第十七条等の規定の趣旨に反するような運用方を要求することに帰着する(もともと組合の当面の目的が勤評制度を骨抜きにするにあることは原告自身の認めるところである)のであつて、このような事項は勿論一財務局長の決定し、管理する事項とは考えられない。それかといつて、被告財務局長が右規則その他上司の命によつて実施する勤務評定によつて具体的に職員の勤務条件に如何なる影響があるかということを明示して交渉の議題を原告等から相手方に示したことを認めるに足る証拠もなく、原告組合が従来より前記のような勤評反対の主張をしてきていることを十分承知している相手方に対してただ「勤評問題について」と称してあくまでも唯一方的に自己の立場を固執して相手方に交渉方式までをおしつけることもまた必ずしも妥当ではなく、やむを得なければ一応個別交渉に這入つて交渉したところで、互に、四国地本と高松支部とに共通する事項については合同で交渉した方がよいということになれば、合同交渉が可能なこともありうるのであり、またさような措置をとるべきである。さようなわけで、互にもう少し柔軟な態度で臨むべきであつたとはいえ、一方的に被告の態度を目して違法視することはできない。

それ故に合同交渉を拒否した被告の態度は、原告等主張のように単一組織としての職員組合の組織を認めず地区本部、中央の上部組織の指導を切りはなすことが、組合弱化の「長期の目的」を果すことになるという最も露骨な組織弾圧につながるものとは断定し難い。したがつて原告組合が個別交渉を強いられることは、そもそも出発点において組織分断を認め屈服することであると判断して抵抗したのは当然であるとはいえない。

更に原告等は、争議権を有せずただ「交渉」しかなしえない公務員組合にとつては合同交渉拒否のもつ違法性の重大さは、争議権を有する民間組合のそれとは比べものにならない程重要な意義をもつものである旨主張するけれども、もともと国家公務員組合における争議の禁止、団体交渉権の制限は国の公共的性格に由来するもので民間組合のそれとは異る制度であることは前述のとおりであつて、労使対等の場に立つて団体的行動をなしうることを原則的に認められている民間組合のそれと比較すべくもないものというべきであるから、ただ一概に前者を重大視することは正当ではない。

(は) <証拠省略>によれば、合同交渉問題はすでに原告等が極めて理解のある局長であつたという長谷前局長時代から問題のあつたところであるばかりでなく、これは四国財務局に限られた事柄ではないことが窺われる。そのようなわけで時には合同交渉を承認した例はあつたにしても、当局側が従来の慣行として合同交渉を承認してきたことを確認するに足る資料はないものというべきである。

(に) それ故に従来合同交渉の慣行が確立していたことを前提として一方的に被告の合同交渉拒否をもつて慣行に反する不当の措置であると断定することはできない。そればかりでなく原告組合の本件昭和三十七年度勤評反対斗争の方針その他の事情が前叙のとおりであることと併せ考えるならば、四国財務局において、原告等は合同交渉拒否その他の違法不当な被告の態度に挑発されてこれに抵抗したものであるとする原告等の主張は採用し難い。

(二)  原告主張の事実誤認の有無について。

1 本件各処分理由となつている事実の存否について。

<証拠省略>を綜合して次の諸事実を認める。

(イ) 十月二日の原告上川のマイク放送について(原告上川関係)。

(I) 原告組合四国地本及び高松支部において、前認定の昭和三十七年度勤評反対斗争の方針を決め、同三十七年九月二十八日右四国地本及び高松支部において勤務評定に関する合同交渉を申し入れたが、同月五日まで前記のとおりその交渉が進歩しないところ、その間において十月一日午後二時頃、被告が各課長からそれぞれ第一次評定者に対し勤務状況報告書を交付して、勤務評定実施を命ずるや、原告組合は直ちに掲示板、局庁舎食堂入口等に「勤評反対」「オールA公開」等と記載したアジビラを貼付し、局庁舎階下事務室において真鍋経理課長に対し勤務状況報告書の提出を延伸せしめようとする組合方針に従うよう要請した。

(II) かような状況下において、原告上川が十月二日午後四時五分頃勤務時間中四国財務局(以下単に局という)の階上、階下事務室において携帯拡声器も第一次評定者に対し勤務状況報告書に記入しないことを要請する趣旨の放送を行つた。そして右の放送は、勤務状況報告書を絶対記入しないように要請したというのではなくて、前認定の原告組合の方針に基づいて勤務評定についての話合を煮つあることができないので、十月二日の時点においては勤務状況報告書を記入しないよう要請したという趣旨である。

(III )(い) 当時階下事務室には約三十名の職員が執務しており、また階上の事務室にも約三十名の職員が執務していた。そして右放送の音量は職員のなす電話の通話に邪魔にならないようにするためには、放送を中止しなければならない程度のものであり、各事務室全体に聞える程度の大きさであつたのである。

したがつて、いずれの事務室においても執務中の職員の執務の妨害となつた。

(ろ) 右携帯拡声器の使用について、被告が勤務時間中に組合役員の行う組合決定事項等の通知連絡を容認してきた事実はない。のみならず、庁舎備付マイクの使用に関する話合の結果を確認した文書(甲第九号証)には、「簡単な通知事項、報告事項については総務係への通知を以て放送する。その他の事項については、総務課長に協議する」と明記されているのであつて、庁舎備付マイクを使用することも決して無制限に許容されていたのではない。したがつて、原告上川が組合の携帯拡声器を使用し、しかも総務係への通知その他の手続をとることなく右のような放送をなすことは甲第九号証等により被告側の承認している事項ではないものである。

(ロ) 十月三日の第一次評定者の会合について(原告戸祭、同香川、同平尾、同上川関係)

(I) 十月三日午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間勤務時間中、局食堂において高松支部が主催した第一次評定者の会合に原告戸祭、同香川、同平尾、同上川及び訴外大塚文男等が出席した。

(II)(い) 右会合が、「勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに何等かの決議をなし、或いは何等かの方針を決定した事実の有無について、その会合の目的が甲第七号証、同第四、五号証の各一、二に記載されている「用紙が配付されたら、所属長に対する抗議行動をいつそう強め、一定期間記入しないたたかいを組織します。提出時期は中央本部の責任において決定しますが、その場合(十月十日ごろ)は全国一せい職場大会を開催し、同時に提出します。なおその時点においては、オールA公開を推進し、それが困難の場合は最低遅れ号俸のある組合員を優先的に評定するようにします。それとても、所属長に対する抗議行動の強弱が大きく影響することを忘れてはなりません」という趣旨の組合の根本方針を第一次評定者に撤底をするために行なつたものであつた。このことは、いわゆる第一次評定者会議における論議の内容について、当時組合が発行した「斗争ニユース3」(乙第二十号証)に「高松支部では、三日、第一次評定者と執行部の合同会議を開き、

(a) 公開、均一評定

(b) 出すのも出さぬも、統一して行う。

(c) 執行部は課長説得を行うと同時に第一次評定者に対する圧力を排除する」と記載されていることからも明らかである。したがつて右会合は、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに行われたものというべきである。

(ろ) この会合は従前から慣行として全く公然平穏に認められてきたかどうかについて、従来、組合が主催して行つた第一次評定者の会合なるものも、必ず総務課長に届出でて、その許可を得た上で行なわれていたものであつて、無断で開催することが許されていたものではない。また昭和三十七年度の右会合についても、前田総務課長及び谷岡課長補佐が右会合の開催中に再度にわたつてこれを制止したにもかかわらず、原告等はこの制止を無視して右会合を続行したものである。

(は) 勿論右会合は事前に被告から許容されていなかつたものである。

(III ) 原告上川が右会合において勤務状況報告書の提出を延伸するよう、あおり、そそのかしたかどうかについて、同原告がこの会合で司会役をつとめ、「今年もオールA公開で行きます。したがつて一つ御協力を願う」及び「提出期日をいつにするかということは、現在局長交渉も出来ていないし、局長交渉のなりゆきをみてみないと、いつということはわからないと、今言えることは先に出すんだというような、なんて言いますか、ぬけがけの功名と言いますか、そういうことはやめて、出す時は一緒に出そうと、出すも、引くも皆んな一緒にしましよう。」と要請し、その結果、出席した第一次評定者が「勤評をオールA、公開、出すときは一緒に出す」という前述の如き組合方針に従う意思を固めたことは明らかであり、本会合における意思統一が後日十月八日において第一次評定者をして勤務状況報告書の官側への提出を躊躇せしめる心理的素因となつた。

(ハ) 十月五日の局長会見参加(原告戸祭、同香川関係)並に(ニ)局長退出妨害(原告戸祭関係)について。

(I) 十月三日午後十二時十五分頃より午後一時十五分頃までの間に亘り、高松支部は局庁舎階下事務室において臨時大会を開催して組合員より代表者十六名を選出した上、局長交渉にあたることを決議し、また同日午後二時頃から四時五十分頃までの間、共斗議長等八名が前田総務課長に対し、被告との会見の予備交渉を行つた上、来る十月五日午前十時三十分から賃金ベースアツプ問題と全財務の勤務評定についての交渉を軌道にのせることを主たる目標として、局長と共斗役員が会見した。また同日組合は局庁舎東門-正門-西門-に至る道路側外壁及び玄関等に「勤評反対」「局長交渉開催」を内容とするアジビラ六十二枚を貼付した。

(II) かくて十月五日局長室において午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間勤務時間中に行なわれた局長と共斗役員との会見に原告戸祭及び同香川がいずれも年次有給休暇の手続をとらないで、同会見に参加した。

(III ) 同日の右会見は一応十時三十分から十一時までと予定されていたところ、予定時間が過ぎたので局長は話合を打切つて暫く話合いに応じないで、十一時三十分頃もう話は聞くだけ聞いたと、昨日こういうことを言つたということで打切るということを言つて、暫く席にいたが、荻阪理財部長に、あとを頼むといい残して、予定の日銀における調査のため、局長室を出たところ、共斗の沢田副議長が「局長待てえ、逃げる気か」と大声を挙げながら局長を追いかけ、原告戸祭も、右沢田に続いて局長を追いかけた。沢田が階上おどり場で局長に追いつき、このとき局長は周囲の気配にそのまま階段を下りることに危険を感じ、一瞬立ち止まり、階段を背にした沢田と向い合い、原告戸祭がその近くまで来ていた。局長はやむなく、そのまま理財部事務室の南の入口から室内に入り、金融課と総務課総務係の席の間を北に進み、北側の窓口のところで南向きに立ち止つたところ、局長のあとを追う共斗役員及び原告戸祭等多数の者が一瞬にして局長を取り囲み、その周囲には二十人位の人垣が二重、三重に出来上つてしまつた。

その時局長を取り囲む人々が、口々に「局長逃げるとはけしからん」「会見中にだまつて飛び出すとはけしからん」「絶体出さん」「局長室へもう一回帰つて話を続けん限りは出さん」「ひきようや」等と騒ぐ中で、原告声祭は局長の直前でなにごとか大声でいいながら局長に詰めより、もつて当初局長室を出てから約十分間にわたり局長の退出の妨害となつた。

(ホ) 十月五日の原告香川等の経理課長要請について(原告香川関係)

十月五日午後一時三十分頃勤務時間中、原告香川が高松支部長大塚文男等と共に局経理課長室において、真鍋課長に対し、「局長交渉が成功するまでは勤評書の提出を督促しないでくれ」と要請した。そのことはすなわち「局長交渉によつて、満足しうる成果を収めるまでは、勤務状況報告書を提出しない」という組合方針に従つてくれるよう要請する趣旨であつたことは明らかである。そうして右要請が、勤評反対斗争中の組合活動の一環として行われたのであるから、その実態は単なる挨拶程度のものではなかつたのである。

なお、その所要時間も五分位の時間ではなく、勿論経理課長おいて右要請を諒承していたものではなく、同課長が、原告香川等と対談したのはただ断つても簡単に帰らないであろうし、この際むしろ組合の行動に逸脱がないよう説得した方がよいとする趣旨に出たものである。

(ヘ) 十月五日の原告戸祭の放送について(原告戸祭関係)。

十月五日午後三時頃勤務時間中、原告戸祭が局階上事務室において携帯拡声器を用い、執務中の職員に対して同日午前中の局長と共斗役員との会談及びその後の状況について放送した。そうして、前田総務課長が杉本総務係長をして、この放送の中止命令を伝達させたものであり、しかも同原告が右中止要求を受けた後も、なお放送を続けたのである。

右放送の当時、局階上事務室において執務していた職員は約三十名であり、右放送は携帯拡声器によつて階上広間事務室全体に聞える程度の大きさであり、執務中の職員がその方に気を取られていたのであるから、執務中の職員がこの放送によつてその執務を妨害されたことは明らかである。

(ト) 十月八日のいわゆる勤評用紙(勤務状況報告書)の組合保管について(原告戸祭、上川、香川、平尾関係)。

(I)(い) 勤務状況報告書の組合保管の決定

昭和三十七年度勤務評定については第一次評定者は勤務状況報告書を十月八日午後五時までに第二次評定者に提出すべき旨の局長の業務命令が発せられていたのである。

(a) 十月八日までの交渉経過

前記のように、四国財務局においても原告組合四国地本及び高松支部は全財務の勤評反対斗争方針を承け、その一環として、勤務状況報告書の提出拒否、オールA公開という勤評反対斗争をすることに方針を決め、同三十七年九月三十八日に被告に対し四国地本、高松支部のいわゆる合同交渉の申し入れをなしたが、被告は個別交渉なら応ずる旨を回答して譲らず組合側も十月一日から同月五日までの間数回に亘り執拗に申し入れをしたが、埒があかず、交渉は行詰り状況になつたので、T組合側は沼田委員長の現地派遣を受けて局面の打開をはかり、十月六日漸くにして八日午前十時から合同交渉を行なうことに被告の了承を得たのである。

(b) 十月八日の交渉経過

十月八日午前中、

<イ> 組合側から、最高責任者は以後沼田委員長であることの申出をした。

<ロ> 組合側から、交渉が九月二十九日から拒否された責任は当局にあり今後こういう交渉拒否はしない旨の要請があり、

<ハ> 組合側から勤務状況報告書提出についての文書命令の撤回要請があり、

<ニ> 組合側から、十月八日五時の期限は交渉に当つて支障もあるので十分話し合いをするために棚上げにしてほしい旨の要請があり、

<ホ> 組合側から、交渉中は勤務状況報告書提出の督促をしない旨の要請があり、

<ヘ> 双方昼休みの後、午後はもう一度話合いをすることを確認した。

同日午後一時二十分頃再開、

<イ> 組合側から再三に亘り、提出期限の延期の申出をしたが、局長は、午後五時の期限を延期することはできないと回答した。

<ロ> 組合側から局長に対し、十分の三Aとか、評定者の少数の場合はどうするかとか、アンバラの問題を出したところ、局長としては、そういう問題については既に初中会なり、総務課長にも話してあるので、各課長なりにきいてもらいたい旨の回答をした。

結局午後二時二十分交渉が決裂した。

(c) 勤務状況報告書保管は至る経過、とくに処分書にいう執行委員会なるものについて、

右のように午後二時二十分頃局長交渉が決裂したので沼田委員長以下四国地本、高松支部の執行委員等(約九名)は局庁舎内組合事務所に引き揚げたのであるが、沼田委員長に追随して五、六名の執行委員が一応決裂後の経緯についで階上、階下の職員に対して報告を行い、第一次評定者に対してはとにもかくにも頑張つてくれというような意味の要請をなし、階下徴収課の前まで降りて来たとき、しかしもうこんなことをしていたのではいけないということで、更に右の数名で第一次評定者に対して勤務状況報告書の当日の提出を見合わすよう説得に廻つたが、その頃官側では課長を集合せしめて、打合せをする等してその態度が意外に強硬なことを察知したので、五時の提出期限を間近に控えて緊急の措置として沼田委員長のほか四国地本及び高松支部の執行委員の数名が再度組合事務所に集合して、執行委員会を開催して「勤務状況報告書を組合で保管する」旨の決定をしたのである。

その決定をした時刻はおそくとも午後四時前後の勤務時間中であり、右会合の参加者は、沼田委員長のほか、原告香川(高松支部副委員長)、同上川(同書記長)、同平尾(同執行委員)及び訴外平川嘉一(同執行委員)、同大塚文男(高松支部委員長)等でありその主体は高松支部の役員で構成されていたものであつて、なお原告戸祭(四国地本委員長)及び訴外小田啓実(四国地本、執行委員)、同秋月勲(同執行委員)も同時刻に同事務所に居たものである。

そうして右会合が組合規約に定めた正規の執行委会員といえるかどうかについては、実際には、定足数に充ちた正規の執行委員会でなくても数人の執行委員が集つて一定事項の決定をすれば、これを執行委員会と理解し、又そのように称していたのである。そしてそのような執行委員会はいわゆる持ち廻り決議や、事後承認等の形で、執行委員会が成立したものとして取扱われていたのである。したがつて、本件の会合は、形式の如何にかかわらず少くとも俗に執行委員会と称されていた前記構成による役員の会合であつたと共に、当日在庁の全執行委員が右決定の趣旨に従い、勤務状況報告書の回収行為を共同して行つた(後記参照)ところよりして、右の決定も高松支部執行委員会の決議として取扱われたものである。そうであればこそ、全財速報、全財新聞及び第十回臨時全国大会議漢書にも、原告組合自ら、この会合を執行委員会或は、戦術会議と称している。

(ろ) 右決定に基づいて高松支部及び四国地本の役員が数名ずつ第一次評定者の席を廻つて右決定の方針に従うよう説得し、勤務状況報告書を回収したのであるが、このときにおける原告四名の行為は次のとおりである。

(A) 原告戸祭関係

原告戸祭は

<イ> 融資課において第一次評定者である福岡監査係長に対して他の組合役員である原告平尾、同香川、訴外平川、同美濃等と共に、

<ロ> 総括課において第一次評定者である望月総括係長に対し、他の組合役員である原告香川、同上川、訴外秋月等と共に、

<ハ> 管財課において第一次評定者である山下管財第一係長に対し、他の組合役員である原告上川、訴外小田、同平川、同高橋、同前田、同秋月、同大塚等と共に、

<ニ> 経理課において、第一次評定者である北村経理係長に対して、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるように説得し、

<ホ> 右管財課において右組合役員の回収説得を阻止しようとする塹江管財課長に対して妨害をし、

<ヘ> 更に右経理課において北村経理係長が真鍋経理課長に提出しようとした勤務状況報告書を同課長と引張り合つて同課長の制止を妨害した。

(B) 原告香川関係

原告香川は

<イ> 融資課において第一次評定者である福岡監査係長に対して、原告戸祭と同様に、

<ロ> 総括課において第一次評定者である望月総括係長に対して、原告戸祭と同様に、

<ハ> 主計課において第一次評定者である佐藤監査第三係長に対して、組合の人たち四、五人と共に、

それぞれ、勤務状況報告書を組合に預けるよう説得した。

(C) 原告上川関係

原告上川は、

<イ> 融資課において、第一次評定者である福岡監査係長及び湊監理係長に対して、他の組合役員である訴外平川、同太田、同前田、同美濃と共に、

<ロ> 徴収課において、第一次評定者である尾山収納係長に対して他の組合役員である原告平尾、訴外平川、同高橋、同大塚、同秋月等と共に、

<ハ> 総括課において、第一次評定者である福島管財総務係長に対して、他の組合役員である訴外沼田委員長、原告戸祭、同香川、訴外秋月等と共に、

<ニ> 管財課において、第一次評定者である山下管財第一係長に対して他の組合役員である原告戸祭、訴外小田、同平川、同前田、同高橋、同秋月、同大塚等と共に、

<ホ> 経理課において、第一次評定者である西山用度係長に対して、他の組合役員である訴外秋月等と共に、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるよう説得し、

<ヘ> 右融資課における組合役員の回収説得を阻止しようとする関口課長及び右管財課における組合役員の回収説得を阻止しようとする塹江課長に対してそれぞれ妨害をなした。

(D) 原告平尾関係

原告平尾は、

<イ> 融資課において第一次評定者である福岡監査係長に対して原告戸祭と同様に、

<ロ> 徴収課において、第一次評定者である尾山収納係長に対して原告上川と同様に、

それぞれ勤務状況報告書を組合に預けるよう説得した。

以上のとおり、原告等四名及びその他の四国地本、高松支部執行委員等の手によつて、第一次評定者二十一名(係長たる第一次評定者においてはそれぞれ一名ないし二、三名の係員の記入済の勤務状況報告書を所持していたのである)から右記入済みの勤務状況報告書を回収して組合に保管したものである。

(II)(い) 右勤務状況報告書の組合保管は第一次評定者の希望に基づいて行つたものかどうかにつき、

前認定のように当日午後二時二十分頃局長交渉が決裂したので、沼田委員長以下五、六名の執行委員(交渉委員)が局庁舎階上階下を廻つて組合員に対し決裂後の経緯について報告を行い、次いで再び第一次評定者に対して勤務状況報告書の当日の提出を見合わすよう説得に廻つたが、その間第一次評定者のなかには例えば望月総括係長等一部の者は官側との話合いが円満に行くまで提出しないで手許においておくという態度の人もいる反面、当局からは提出を督促されて板ばさみになるので、一時的に組合に預つてもらえばよいがという意見を提案した人(例えば徴収課の白井係長、尾山係長、金融課の獅子堀係長、木村係長、総括課の徳田係長等)もいたけれども、右獅子堀係長、木村係長等はその後、この提案に反して勤務状況報告書を課長に提出して出張してしまつたり、休暇をとつて帰宅してしまつたりし、右尾山係長か白井係長かが組合へ保管を頼む者が少ないときには自分の分も返してもらいたいと述べていたし、また山下管財第一係長或は北村経理係長等に対しては組合へ提出するようにとの説得が何回もくり返して行われていた。その詳細は次のとおりである。すなわち、十月八日午後経理課においては既に同課では北村、西山、多田の三係長は、五時には課長の方へ勤務状況報告書を提出すると相談し、四時頃目席にかえつてきた真鍋経理謀長にも官へ提出することを約していたところ、沼田委員長その他四国地本、高松支部の執行委員等が数名で何回も入室してきて、組合へ提出するよう説得したが、最後には午後四時四十五分頃原告戸祭ほか七、八名の執行委員が入室してそのうち一人である高橋健が、多田係長の机の引出を捜していたことがあり、また北村、西山両係長の両名は右七、八名の執行委員等が机をとりまいて「勤務状況報告書を組合へ預けてくれ」と云つたので、右両名は五時になつたら課長の所へ提出するからと同じようなことを何回も繰返して答えていた。その七、八名の執行委員の言葉は相当強く言つていた関係で、北村係長は顔を上げられずに下へ向いておつたような情況であつた。そうしているうちに北村係長は、高橋健が多田係長の机の引出から勤務状況報書を取り出したような状態が見えたので、これでは経理課の三名の係長の申し合せ事項はとても、実行できない、このままだつたらどうなるかわからないと考えたので、後へ向いて西山係長に「五時ということを決めていたけれども、それまでにはこの状態ではもてないからこのまま出しましよう」と話した。それで西山係長が北村係長の言うことを聞いてすぐ机の引出から勤務状況報告書を出して立ち上つて課長の所へ出そうというような状態であつたときに北村係長は執行部の人のいる所を押し分けて課長の所へ行つた。ところがそこで立つたま麦課長と話をしていた原告戸祭が右北村係長に「課長に出さなくても組合のほうに出してくれたらいいじやないか」と言つた。そこで右北村係長は「いや課長に出すんだ」と言つて、課長のテーブルの上に自分の勤務状況報告書の入つた封筒を置いて、「課長これを受取りましたか」ということを言つた。それと同時に原告戸祭が右報告書の上へ手を持つて来た。それと殆んど同時に真鍋課長も手をもつて来た。それで北村係長は「課長受取りましたか」と、二、三回課長に念を押し、課長が確かに受取つたと答えたので自席へ帰つたようなことがある。そうしてその間西山係長は課長の方へ出した形跡もなく、後で聞くと組合の方へ持つてゆかれた旨北村係長へ言明した。従つて以上のほか前認の状況等からみて、前記組合に預つて貰えばよいがという如き提案は執拗な組合役員の説得に困惑した第一次評定者等の遁辞に過ぎないとみられるのであつて、これをもつて「官に勤務状況報告書を提出する気持を失つた第一次評定者が自発的な提案をしたものであり、組合は受動的に、この提案を受け入れたに過ぎない」ものとみることはできない。

(ろ) 原告戸祭の「勤務状況執告書の組合保管」につき「あおり、そそのかし」の行為があつたかどうかにつき、原告戸祭は、四国地本執行委員長として、右高松支部執行委員会の決定した「勤務状況報告書の組合保管」の方針に従つて支部執行委員等と共に、同日午後四時頃から同五時頃までの間勤務時間中、右決定事項を支部組合員に通知し指導して前記のとおり執拗に説得して多数の第一次評定者から勤務状況報告書を回収して組合保管せしめたのである。

(は) 次に右決定は沼田委員長が行つたものであつて、四国地本、高松支部の役員等はその指示に従つたに過ぎないものかどうかにつき、

前認定の右決定に至つた前後の事情及び全国的単一組織の原告組合においては、下部組織の意向を尊重する実態をもつているもので、中央本部の方針に基づいて行う本件の勤評反対斗争の一環として、地方本部又は支部が具体的に或る戦術決定を行うような場合には、その主体は飽くまでも地本ないし支部であつて、中央本部派遣のオルグには決定の権限はなく、ただ決定に至るまでの指導をなすに過ぎないものであること等からみて右決定は沼田委員長が行なつたものではなくて、前記のように高松支部の執行委員会が行つたものとみるべきである。

(に) 本件勤務状況報告書の組合保管(回収)は官の異状な交渉態度に基因して発した切迫した状況を回避するため、やむを得ない唯一つの手段として行つたものかどうかの点につき、

前認定によつて明らかなように、従来合同交渉の慣行が確立していたわけでもないのであるから、被告が個別交渉を固執したというのなら、組合側もまた合同交渉を固執したというべきものであつて、具体的交渉に這入れないまま勤務状況報告書の提出日八日を迎えたのは、必ずしも被告のみの態度に基因するものではなく、また再開された八日の午前、午後に亘る合同交渉においても、内容の交渉に入れないまま組合は飽くまで当日五時の提出期限の延期を求め、双方とも交渉に行語りを生じ交渉は、遂に決裂したのである。而して本件勤評反対斗争の窮極の目的は、交渉の過程で勤務評定制度を骨抜きにするような何等かの条件(具体的にはオールA、公開の承認等)を振り付けることにあつたのであるから、勤務状況報告書の組合保管は原告等の右の目的達成のための手段というのほかなく、切迫した状況を回避するための真にやむを得ない唯一の手段ということはできない。

(ほ) 以上の如く、組合は勤務状況報告書の提出期限内における提出を阻止せんとして、まず第一次評定者の責任においてこれを実行させようとしたが必ずしもその協力をえられないことを知るや、組合が同報告書を保管することによつて、その実現を図つたのである。

而して、組合が、かかる行動に出たのは、「とにかく八日午後五時の提出は一応伸ばし、直ちに局長に再交渉を申入れ、更に話し合い、粘り強く勤務評定の内容について解決してゆこうと決断した」がためであつて勤務状況報告書の保管は交渉再開のための手段であつたことは明らかである。(もつとも八日午後五時過頃局長は高血圧のため高松病院に入院したため、六時頃直ちに交渉をもち、右報告書返還やアンバラ是正等について話し合おうとした組合の再交渉申し入れば不可能となつた。)この意味においては、原告等は右回収保管という当時施行の国公法第九十八条第五項の規定をもつて禁止された争議行為をなしたものであり、しかも組合が保管したのは単なる用紙ではなくて、その殆んどが記入済みの極秘の公文書であつたことは明らかで、その行為は極めて悪質のものである。

(チ) 十月九日の原告戸祭の沼田委員長同行について(原告戸祭関係)。

(I) 十月九日午前十時頃勤務時間中、局階上事務室において、沼田委員長が前日、勤務状況報告書を組合に保管した経過について執務中の職員に経過報告を行つた際、原告戸祭が沼田委員長に同行したのである。

(II) 右原告の同行につき前田総務課長の命を受けた杉本総務係長がこれを制止したのであり、しかも右のような勤務時間中の組合活動はたとえ短時間といえども従来の職場慣行上容認されていたものではないのである。

(リ) 十月九日の職場集会について(原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)

(I) 十月九日、局階下事務室において午後零時三十分頃より午後一時二十七分頃までの間、勤務時間に喰い込む職場集会が行われた。

もつとも、この集会の開催について被告が事前に許可を与えたことは明らかであるが、その際、勤務時間内に喰い込まないようにということをよく注意して許可を与えたものであり、午後一時十五分に、始業のベルが鳴つたのちにおける集会の継続について了承を与えたことなく、むしろ前田総務課長自ら中止解散を命じたにもかかわらず、これに従わず、勤務時間内に喰い込み午後一時二十七分頃に至つて、ようやく解散したものである。

(II) 原告戸祭等四名は訴外大塚文男等と共に、右職場集会に積極的に参加したこと及びその各人の行為の態様が次のとおりであることは明らかである。

即ち、原告戸祭は、地区管内各支部の斗争経過報告をし同上川は司会役をつとめ、大会宣言文を朗読し、同平尾は、中止命令を伝えようとした総務課長の入室を阻止し、同香川は中止命令を伝えようとした総務課長の行動を制止したものであつて、いずれも本集会の進行維持に積極的な役割を果したものである。

(ヌ)(A) 十月十日原告等四名の第一回総務課長抗議要求について(原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)。

十月十日午後二時頃から午後二時三十分頃までの間勤務時間中、原告戸祭、同香川、同平尾、同上川の四名が他の組合役員約六名と共に総務課長室において、前田総務課長の机をとり囲んで同課長に対し、十月八日に勤務状況報告書が組合へ保管されたこと等勤評反対斗争結果措置について、局長や総務課長は怪しからん等と相当大きく荒立てて抗議要求を行つた。

(B) 十月十日原告等四名の第二回総務課長抗議要求について(原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)。

同日午後四時三十分頃から午後五時頃までの間、原告戸祭、同香川、同上川、同平尾の四名は.訴外大塚文男その他の組合役員六名以上の者と共に、監察官室において総務課長に対し、いわゆる非行調査に立ち会わさすよう抗議要求を行つた。

その態様は通常の課長交渉ではなくて、原告四名を含む約十名の組合員が事前に都合をきくこともなくいきなり、四坪位の監察官室へどやどやと這入り込んできて、激しい剣幕で非行調査に立ち合わすよう、つめより、喰つてかかり、同課長が勤務の邪魔になるから仕事中だからいけないと、当該行為の初めと途中の二度に亘り注意し、退去を求めたにもかかわらず、これを無視して約三十分間執拗に、また荒々しく右行為を継続したのである。

その結果、同課長の勤務である右の調査の事務が妨害された。

(C) 十月十二日原告等四名の総務課長抗議要求について(原告戸祭、同上川、同香川、同平尾関係)。

十月十二日午後三時頃から午後四時三十分頃までの間勤務時間中、原告戸祭、同香川、同上川、同平尾の四名は、訴外大塚文男その他の組合役員六名位と共に、総務課長室において前田総務課長に対し、集会不許可、離席問題等について抗議を行い、同課長の勤務が妨害された。

その状況は右十名位の者が総務課長室におしかけ、同課長に対し次のような言動に及んだので務る。すなわち同課長め証言によれば、「いきなり組合員がわたしにあまり職員の離席をやかましく言うので総務課長の所へろくろく来れないと、そんな認識不足の課長もおるんだと、何故そんなにやかましく言うのかというようにいきなり抗議を受けた」、「先ず非常に声が荒々しいですね。口々に怪しからんと、語気が強かつたとか、平生とそういう状態が大分違つておつた」「総務課長怪しからんと、いわゆるぼろくそに言われておつた」「総務課長は一つもなつておらんとかいうようなことを盛んに言われておつた」ということである。したがつて正常な課長交渉ではなかつた。

(ル) 十月十二日の原告平尾のマイク放送について(原告平尾関係)。

十月十二日午後零時十分頃勤務時間中、原告平尾が階上事務室において、携帯拡声器を用いて、高松支部組合員に対し、同日、共斗か中庭で開催しようとした無許可の抗議集会に参加するよう呼びかけた。

而して、原告平尾が、右呼びかけを行つた数分前に被告が庁内億付マイクで右集会を禁止する旨の放送を行つているのであるから、同原告もこれを知らないはずはない状況にあつたのである。

以上の事実が認められる。ところで、

右(イ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(ロ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(ハ)(ニ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(ホ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(ヘ)の点につき.<証拠省略>証言中に、

右(ト)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(チ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(リ)の点につき、<証拠省略>供述中に、

右(ヌ)の(A)、(B)、(C)の点につき、<証拠省略>供述中に、

それぞれ右認定に抵触する部分があるけれども、いずれも前示各資料に対比してたやすく採用し難く、他に右認定を左右するに足る資料はない。

2 そこで以上認定の(イ)ないし(ル)のような事実が被告主張の懲戒事由に該当するかどうかについて判断する。

(1)  先ず右各事実についての違法の有無を検討する。

(イ) 前記(イ)の事実について。

(I) 先ず原告等は、前記合同交渉拒否の項でのべたように、局側は従来の慣行に反し、また何等正当な理由を明示することなく、一方的に合同交渉を拒否しながら、その結果として止むなく組合側が短時間の説明を行つたことをとらえて原告を処分するということ公平の原則からみて許されない旨主張するので検討する。成程被告が原告組合側の合同交渉を拒否し続けてきたことは幾分妥当性を欠いでいたとはいえ、法規に照して違法とはいえないものであつたことは前叙のとおりであるに反し、原告上川は公務員として職務専念義務があるにもかかわらず、勤務時間中において、前記原告組合の勤評反対斗争方針に従つて、その目的達成のために、局長交渉の経過並に局長交渉による成果の出るまで勤務状況報告書を記入しないことを要請する旨の放送をなし、もつて、前認定のような相当の時間、勤務中の他の職員の執務の妨害となるような結果を惹き起したのであるから、他に特段の事情がない限り違法というべきであつて、これを処分理由にしても公平の原則にも反するものともいえない。

(II) 原告等は、先ず一般的に言つて勤務時間中における組合活動も上司の承認、慣行の存在、その他対総務課長交渉の場合にその交渉を受けることが同調長の当然の職務内容になつている場合及び業務阻害が実質上存在しないこと等により違法性がなく正当である旨主張するので検討する。

先ず国家公務員の組合活動について。

国家公務員は、国公法第九十六条により、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない」と規定せられ、いわゆる職務遂行専念義務がある。そうしてこの義務から当時施行の同法第百一条の兼職禁止、職員団体の事務に従事することの禁止(いわゆる組合活動の禁止)及び、同法第百四条の他の事業または事務の関与制限等の措置がとられている。

そこで前示同法第百一条第三項は、「職員は政府から給与を受けながら、職員の団体のため、その事務を行い、又は活動してはならない。但し、職員は、人事院によつて認められ又は人事院規則によつて定められた条件又は事情の下において、第九十八条の規定により認められた行為をすることができる」と規定して、原則的にいわゆる専従職員のほかは組合活動を禁止した。ただ例外的にい

(い) 人事院規則一四-一「職員団体に関する職員の行為」

第二項により、「職員は、法(国公法)第百一条に基づき勤務を要しない時間又は前項の規定による場合(いわゆる専従)の外、あらかじめ承認を得た休暇期間中においても、次に掲げる行為を行うことができる。

<一> 職員団体に加入すること

<二> 職員団体の結成に参加すること

<三> 職員団体の役員選挙その他の投票に参加すること

<四> 職員団体の会合に参加すること

<五> 法(国公法)第九十八条に規定する当局との交渉の準備その他の目的で職員団体の代表者と会合すること

<六> その他職員団体の業務に参加すること

但し、第三項において「職員は、第五項に規定する行為を除き、前項に規定する行為その他国の業務以外のこれらに準ずる行為を勤務時間中にしてはならない。職員はこれらの行為によつて、勤務時間中における他の職員の勤務を妨げてはならない。」と定められている。

(ろ) 同上第五項により、「この規則のいかなる規定も職員が個人的又は登録された職員団体の代表者を通じ、人事院の定める手続又は条件に従い、団体協約を含まない適法な交渉を勤務時間中に行うことを妨げるものではない。」

とされている。

以上の法規の趣旨からすれば、もともと国家公務員の組合活動は例外的に認められているものであつて、殊に勤務時間中のそれは、勿論原則的には禁止され非常に制限されているものであつて、人事院の定める手続又は条件に従うこと、及び、団体協約を含まない適法な交渉を行う場合にのみ限られているものと解するを相当とする。したがつて、右許容された場合以外においては、

(a) 勤務時間中の組合活動につき、たとえ上司の承認又は慣行があつたとしても、原則論的には右の法規に違反するものというべきであるが、ただ組合活動にして適法なとき、その他その目的、規模その他態様等に照して実質上国の業務の正常運営を阻害しない程度のものについては条理上違法性の阻却さるべき場合がありうるに過ぎないものというべきである。

(b) 次に対総務課長交渉の場合にその交渉を受けることが同課長の当然の職務内容に属するときでも、それだけでは職員ないしは組合代表からの一方的な申出その他の方法による勤務時間中における職員ないし組合代表者の組合活動と適法視することはできない。ただ同課長が自己の職務上自らの申出によつて職員と交渉を持つた場合はもとより適法であり、または同課長が職員又は組合代表と異議なく交渉をもつたような場合には違法性が阻却されることがありうるのみと解する。

(c) 最後に職員の勤務時間中の組合活動によつて業務阻害の実質上存在しないときはどうかというに、国家公務員は国公法第百「条第一項によりその勤務時間(休息時間及び休暇を除く)及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない義務を負うものである。この職務専念義務の性質上、公務員が勤務時間中に自己担当事務を行わないで組合活動をすることは、特段の事情のない限りそのこと自体当然に正常な業務の運営を阻害する実体を具有するものというべきであるから、右組合活動は違法というべきである。

そこで原告等は、本件十月二日のいわゆる原告上川のマイク放送は従来の慣行即ち、二、三分の簡単な報告、通知事項は勤務時間中、官側のマイクを使用して行なうことさえ、総務係への通知をもつて足り許可を要しないとする慣行によつたものであつて、しかもその間被告当局は全く警告中止を行つていないし、その態様及び必要性、執務妨害のなかつたこと等いずれの点よりみても正当な職員組合の活動と認めるべきであつて、これを処分理由とすることは許されない旨主張するので検討するに、前叙により甲第九号証に記載のマイク放送は本件の場合には該当性がないこと明らかであつて、したがつて、本件の放送は従来の慣行によつたものとはいいがたく、しかもその放送の態様、時間、及び、執務の妨害になつている事実等を綜合すれば、本件マイク放送は本件勤評反対斗争の一環としての組合活動であつて、もとより正当な組合活動とは認められず、違法というべきである。よつてこの点に関する原告等の主張は採用し難い。それ故に原告上川はみだりに職務を放棄して右マイク放送により勤務中の職員の勤務を妨害したものというべきである。

(ロ) 前記(ロ)の事実について、

原告等は先ず過去数年間以上も局全体で慣行として認められてきた第一次評定者の会合を事前の通達もなく、会議が始つてから、その中途で中止を命ずることは、不当な慣行否認であつて、公平と信義則に照して重大な「処分」理由となりうる「中止命令」とみることはできず、まして、原告等主張のような事情のもとでは「処分理由」にいう「みだりに職務を放棄した」とすることは、従来の職員組合の「組合活動上の慣行」及び官側自らの「勤評実施上の勤務慣行」を正当の理由なく一方的に破棄するものであつて到底許されない。それ故右会合に参加したことを原告戸祭、同香川、同平尾について各処分理由とすること、ましてや、原告上川について、「第一次評定者に対して、勤務状況報告書の提出を延伸するようあおりそそのかした」ことを処分理由とすることは違法不当である旨主張するので検討する。

<証拠省略>によれば第一次評定者会議は昭和二十六年勤務評定制度が創設されたので同年初めて開催せられ、その後も度々あつたが、また同三十三年には現在の制度に改正されたので同年も開催せられ、その後同三十六年まで度々開催せられたが、何れも官側の主張で勤務評定の説明をするのが主たる目的であつたもので、職員組合が主催して開催することを認めたことはない。本件昭和三十七年の第一次評定者の会合も被告の認めたものではなかつたことは明らかであるから、原告等主張のような職員組合の「組合活動上の慣行」は存在しなかつたものというべきであり、しかも前田総務課長及び谷岡課長補佐が右会合の開催中再度にわたつてこれを制止したにかかわらず原告等はこれを無視して右会合を続行したのであるから、右慣行の存在を前提とする原告等の主張は理由がない。

それ故に、右会合に参加した原告戸祭、同香川、同平尾の行為は、職務放棄というべきである。

また原告上川の行為は、後述の「あおりそそのかし」の意義解釈に立つて前認定の事実関係をみると、みだりに職務を放棄して第一次評定者の会合に参加し、第一次評定者に対し前記勤務状況報告書の提出を延伸するようあおり、そそのかしたというべきである。

(ハ)(ニ) 前記(ハ)(ニ)の事実について。

(I) 先ず原告等は、十月五日の局長と共斗役員との話合いは前日から予定されていたものであるから、原告戸祭が共斗常任幹事の資格で、これに参加したのは当然であるのみならず、被告局長自ら何等異議をのべなかつたのであるから局長の了承があつたものと言わなければならない旨主張する。しかしながら共斗は国家公務員の職員団体のみならず、地方公務員の職員団体をも包含するものであつて、国公務第九十八条第二項にいう職員団体ではないから、かかる団体との話合について、かりに前日からの約束があつたとしても、いわゆる職員団体との交渉の如く、当然に職務専念義務が免除されるいわれはない。従つて原告が年次有給休暇をとることなくこれに参加したことは、許されないものであり、また原告戸祭が、右話合いの席に共斗と共にいたのを局長が知つていたとしてもそれだけで有給休暇をとることなく参加したことを了承したものとはいえないから、右原告の行為はみだりに職務を放棄し、勤務時間中に組合活動に従事したものというべきである。それ故にこれをとらえて職務専念義務違反として免職処分の一つの理由としても原告等主張のような信義則ないし公平の原則に反するともいえない。また原告等は、原告香川は大塚支部長の代理として高松支部の代表として参加したものであり、当日入室者の確認を行つていた須崎総務課長補佐及び前田総務課長の許可を受けて入室したのであるから処分理由にならない旨主張し、<証拠省略>によれば、原告香川は入室を阻止する須崎課長補佐の意に反して無断で入室したことが認められる。そればかりでなく、たとえ右管理者の入室時における承認があつたとしてもそれは右会見に参加する資格を認めたに過ぎず、有給休暇をとることなく、参加することまで許容したものとはいえない。それ故に原告香川の行為も、みだりに職務を放棄して右会見に参加したものというべきである。よつてこの点に関する原告等の主張は理由がない。

(II) 局長退出妨害の点について、原告等は「実際は交渉の途中、黙つていきなり部屋からとび出して行つた局長の非礼を共斗役員がとがめたものであり、原告戸祭等の組合員は何ごとかと思つてそのトラブルを横から傍観していたにすぎない。原告戸祭には意識的な「退出妨害」などは全くないのであるから、原告戸祭一人だけにつきこのことを処分理由とすることは原告戸祭を故意に「ねらいうち」するための作為と言わなければならない旨主張するので検討するに、成程共斗側は退出せんとした局長をつかまえて交渉の続行を求めたものであることは窺われるけれども、既に予め打ち合せていた交渉予定時間を三十分も過ぎて、用件のために後を部長にたのんで局舎を退出せんとする局長を原告等多数の者がこれを追つかけ廻して行われた前記認定の事実関係からみて原告戸祭の行為は単にその主張のような共斗と局長とのトラブルを傍観していたものということはできず、共斗の役員等多数の者と共に局長の退出を妨害したものと認めるを相当する。それ故に原告戸祭については官職の信用を傷けたものというべきである。

(ホ) 前記(ホ)の事実について、

原告等は、「原告香川等の右経理課長との話合いは五分ぐらいの挨拶程度のもので、経理課長も話合いの趣を諒承していた」ものであるから、「みだりに職務を放棄したことにはならない」し、それを処分理由とするのは、公平と信義誠実の原則に反し許されない旨主張するけれども、原告香川等は経理課長に対して勤評斗争中の組合活動の一環として本件要請を行つたことは前記のとおりであるから、その実態は、単なる挨拶程度のものではなかつたのであつて、しかも同課長もこれを諒承していたものでないことは前叙のとおりである。それ故に原告香川等の行為はみだりに職務を放棄してなされたものであつて、もとよりこれを処分理由としたとしても公平と信義則に反するものとはいえない。よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(ヘ) 前記(ヘ)の事実について。

原告等は、原告戸祭の右放送に対して、杉本係長より制止を受けたが、これは総務課長の中止要求ではない旨主張するけれども、<証拠省略>によれば、前田総務課長が杉本総務係長をして、この放送の中止命令を伝達させたことが認められるので、原告等の該主張は採用しない。

また原告等は、この事実を処分理由にすることは、前示(イ)の項において述べたように、正当な組合活動に対し、従来の慣行(甲第九号証に関するもの)を一方的に否認してなされたものであつて、違法不当であり、信義則に反し許されない旨主張するけれども、その理由のないことは前示(イ)の項において述べたところと同様である。よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

それ故、原告戸祭の行為は、みだりに職場を放棄して、前記放送を行いもつて、職員の執務を妨害したものというべきである。

(ト) 前記(ト)の事実について。

(I) 原告等は、本件用紙保管は、被告当局の違法不当な合同交渉拒否、これに引続く実質的交渉に扉を閉ざす不誠実さ、これによつて示された被告当局の組織否認、団結権侵害に対し、正に止むに止まれず最少限の組織防衛、勤評再交渉申入れ、及び第一次評定者保護の為、組合がとつた防衛的措置であつて、法秩序全体の見地から何等違法性がない旨縷々主張(原告等主張の請求の原因(三)、1、(3) 、(ト)、(III )参照)するので検討する。

本件において被告当局のとつたいわゆる合同交渉拒否の態度は必ずしも妥当とはいえないけれども、ただ、一方的にこれを違法視することはできないものであつて、従来合同交渉の慣行が確立していたことを前提として一方的に被告当局の合同交渉拒否をもつて慣行に反する不当の措置であると断定することのできないことは前叙のとおりである。そうして前認定の十月八日における合同交渉の経緯に徴しても交渉決裂の責任は双方にあるものであつて、必ずしも一方的に被告当局の不誠実を挙げることはできない。それ故に原告等主張のようにこれ等の行為が、被告当局の組織否認、団結権侵害に対するやむにやまれずとつた最少限度の組織防衛の措置とはいえない。そして本件勤務状況報告書の組合保管によつて、当局は勤務評定実施につき第二次評定者以後の段階で何等の支障が存しなかつたとはいえないばかりでなく、そのことの有無にかかわらず、原告等行為は、前示原告組合の「勤務評定制度を骨抜きにするという」勤評反対斗争、目的のための手段として行われたものというべきであつて、しかもそれは単なる勤評用紙ではなく、殆んどが記入済みの公文書の組合保管行為であつて、極めて悪質な争議行為であること前叙のとおりである。そうして原告等は一旦組合保管した勤務状況報告書を翌九日返還したけれども、その経緯等徴してみても、国家公務員制度における法秩序全体の見地からみて明らかに、違法なものである。

そうして下部組織の意向を尊重する原告組合の実態に鑑み、被告は、前記、回収説得を決定したのは高松支部であると判断したのであつて、右決定及び回収に参加した支部役員たる原告上川、同香川、同平尾については「みだりに職務を放棄し、支部が主催した執行委員会に参加し、共同謀議に参画し、」更に自ら、右決定に基づく争議行為の「実行に加担」したものであり、地本の役員である原告戸祭については「みだりに職務を放棄し」、高松支部の決定した争議行為に協力するよう、支部役員と共に第一次評定者を説得し、或いは課長の右説得阻止を妨害するなどして高松支部の争議行為をあおりそそのかしたというべきである。(後記(II)参照)。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用の限りでない。

(II) 原告戸祭の「勤務状況報告書の組合保管」という違法な争議行為の「あおりそそのかし」の行為について。

当時施行の国公法第九十八条第五項後段は、何人も、このような違法な行為(同項前段の禁止するいわゆる争議行為等)を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし若しくはあおつてはならない旨を規定する。ここにいう「そそのかす」行為及び「あおる」行為の既念について考えてみる、先ず「そそのかす」行為とは右の争議行為を実行させる目的をもつて、他の特定又は不特定の職員に対し、その行為を実行する意見を新たに生じさせるに足りるような慫慂行為をすることを意味し(昭和二七年(あ)第五七七九号昭和二十九年四月二十七日第三小法廷判決参照)、また「あおる」行為とは、右争議行為を実行させる目的で文書もしくは図画または言動によつて、他の特定又は不特定の職員に動きかけて、争議行為を実行する決意を生ぜしめるような、またはすでに生じている実行の決意を助長させるような勢のある刺戟を与えること、換言すれば相手方の感情に訴える方法により、その興奮、高揚を惹起させることを意味し、(昭和三三年(あ)第一四一三号昭和三十七年二月十一日最高裁判所大法廷判決参照)、いずれの場合においても右行為によつて相手方が現実に影響を受けることは必要としないが、客観的にみてその行為自体が職員の争議行為の実行に対して影響を及ぼす危険性があると認められるべきものであれば足りるものと解することができるが、その区分は必ずしも明確とは云い難く、むしろ前示国公法第九十八条第五項後段の規定の趣旨は、国の公共的性格にかんがみ、国の業務の正常な運営を確保するために、その職員の争議行為を単にその実行行為の段階において禁止するに止まらず、さらに予防的見地から、その実行行為の原動力となり、又はこれを誘発するおそれのある行為を直接禁止しようとするものであることからして、これを要するに、「そそのかし、若しくはあおつて」とは、国の職員が他の特定又は不特定の職員に働きかけて、国家事務の正常な遂行を阻害する行為をするようにしむける一切の行為を総称するものであり、従つて右争議行為の実行を指令指示し、当該指令又は指示の実行を鼓舞若しくは要求する意図をもつてこれを伝達する行為、あるいは演説、説得、いわゆるアジビラの配付、貼付等手段の如何を問わず、争議行為の実行を鼓舞し、慫慂し、説得する行為等は、それが客観的にみて国の業務の正常な運営を阻害する行為の実行に現実に影響を及ぼすおそれがあると認められる限り、右の「そそのかし、若しくはあおる」行為に該当するものといわなければならない。

以下被告主張の原告戸祭が「勤務状況報告書の組合保管」につき採つた行為が「あおりそそのかし」の行為に該当するかどうかについて検討するに、原告戸祭の前記(1) 及び(II)(ろ)に認定の事実関係から判断すれば、原告戸祭の十月八日午後四時頃から五時頃までの間高松支部執行委員会の決定した方針に従つて、右決定事項を右高松支部組合員に通知し、指導して、前記のとおり執抑に説得して多数の第一次評定者から勤務状況報告書を回収して組合に保管せしめた行為は、右「勤務状況報告書の組合保管」という違法な争議行為をあおりそそのかしたものというべきである。

(チ) 前記(チ)の事実について。

原告等は、原告戸祭が沼田委員長の報告に同行したのは、極めて短時間であり、従来の職場慣行から容認されて来たものである旨主張すので検討するに、勤務時間中の組合活動については当局において厳に戒められていたのである。従つてたとえ短時間にしろ勤務時間中り組合活動がおろそかに看過されていたのでは決してない。<証拠省略>によれば、原告戸祭の行為については、その所管である亀井課長も階上の事務室から融資課の部屋まで原告戸祭のあとを追つ行き自席へ戻りなさいと注意していることが認められるので、本件事実に対する管理者の注意が十分であつたことが窺われると共に、たとえ短時間であつてもみだりに職務を放棄したものというべきである。よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(リ) 前記(リ)の事実について。

原告等は、職場集会はその性質上、集会の結末をつけるのが大切で、これがために数分ないし十分の延長はやむを得ないことが多いので官側も従来慣行としてこの程度の延長はこれを黙認ないし承認して来ていたのである。それ故に、これをもつてもはや違法な時間内組合活動などというべきものではなく、職員組合の団結権を認め、その組織体たることを認める以上、組織運営上当然官側においても受忍すべき組合活動であつて、従前の慣行破棄を事前通告することもなくして右の如きものまでとらえて職務専念義務違反として処分しうると解するならば、国公法、人事院規則の右の如き解釈は著しく憲法第二十八条の違反の疑があり、信義則に反し許されない旨主張するので検討する。

従来官の許可した職場集会において多少の勤務時間内に喰い込む延長がなされた場合に、事情によつては、官の黙認ないし承認がなされた事例はないとはいえないけれども、これを慣行として承認してきたことを認めるに足る証拠はないのみならず、前記認定のように、本件職場集会については、被告当局が許可を与えた際に、勤務時間に喰い込まないようにということをよく注意して許可を与えたものであり、また、始業のベルが鳴つたのちにおける集会の継続については総務課長自ら中止解散を命じたにかかわらず、原告上川、同平尾等において中止命令を伝えようとした総務課長の入室を阻止し又はその行動を制止したような事情がある。これらの事情等から判断すれば、原告等の本件行動は予定された職場集会がやむなく勤務時間内に延長されたということはできないものであつて、官側の中止解散命令を無視して強行的に続行されたものというべきであるから、これは明らかに違法というべきであつて、これをもつて職員の職務専念義務違反として処分しうると解釈しても、憲法第二十八条違反ともいえず、又信義則に反するともいえない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(ヌ) 前記(ヌ)(A)(B)(C)の事実について。

(A) の事実につき、

原告等は、総務課長は職務上、対組合交渉の事務をもつているものであり、本件前田総務課長が異議なく交渉に応じ、話合いは入つたのであるから、その議題は一応職員組合の交渉活動、苦情、要望の合理的範囲内にあるものとして正当な組合活動であつて、勿論総務課長の業務を阻害したことにならない旨主張するので検討する。総務課長の対組合交渉の事務並に対総務課長交渉の適否については、前示(1) (イ)(II)にのべたとおりであるが、原告等四名を含む組合役員約十名によつてなされた本件十月十日の第一次総務課長抗議要求については、その目的態様等から判断して到底正常な組合交渉とはいえず、したがつてまた前田総務課長において異議なく、これを受け容れたものではない。もつとも証人前田耕夫の証言によれば同課長が机上を整理して話し合つたのは、当初から右のような異常な抗議要求が行われることを予期しなかつたからであると述べているが、同課長としては当然のことである。

そうしてこれがために同課長の勤務を妨害したものというべきである。それ故に原告等の行為はみだりに職務を放棄して右抗議要求を行つたものというべきであつて、これを処分理由にしたとしても信義則に反する違法の処分ということはできない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(B) 事実について、

原告等は、本件第二次総務課長交渉は、本省から来高した増川、佐藤等の不当ないわゆる非行調査に抗議し、取調方法の改善、組合の立会の約束を要求するため再度取調中の監察官室に赴いてなされたものであつて、いわば職権濫用的な犯罪行為的な取調を行つているのに対し、その改善を求める交渉が或る程度相手方の意思に反しても継続しうることは正当行為論からしても、法益がほぼ均衡する限り認められなければならない旨主張するので検討する。

前記のとおり勤務状況報告書の組合保管という争議行為にまで発展した本件勤評反対斗争の事実調査として行われたいわゆる非行調査にしてその取調方法その他において原告等主張のような違法があつたことを認めるに足る証拠はなく、また前認定の原告等のなした抗議要求の態様等に照してそれは課長交渉の範囲を逸脱した違法な組合活動というべきであつて、何等の正当性はない。それ故原告等の行為はみだりに職務を放棄し、前田総務課長の勤務を妨害したものというべきである。したがつて、これを懲戒免職処分の理由としたとしても信義則違反とはいえない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(C) 事実について、

原告等は、本件原告等の行為も正常な組合活動の範囲を逸脱したものではなく、また前田総務課長も異議なく話し合つたのであるから、違法性は阻却される旨主張するけれども、原告等の本件抗議要求、交渉の態様は前認定のとおりであるところより判断すれば、右行為は到底正常な組合活動とはいいがたく、また同課長が異議なくその話合いに応じたものとはいえない。それ故に原告等四名の行為はみだりに職務を放棄し、前田総務課長の勤務を妨害したものというべく、この点に関する原告等の主張は採用しない。

(ル) 前記(ル)の事実について、

原告等は、共斗が開催しようとした抗議集会は同日昼休みに開催されたものであつて何等の違法もないのであるから、この集会に組合員の参加を呼びかけた原告平尾の行為自体何等の違法性はない旨主張するけれども、被告当局は、局舎内庭で開催せんとした右抗議集会は無許可であつて集会を禁止する旨放送しているので、その違法であること勿論であるから、これに参加を呼びかけた原告平尾の行為に違法性なしとはいえない。よつてこの点に関する原告の主張は採用しない。

また原告平尾の本件マイク放送に関してもいわゆる慣行並に甲第九条証の文書の存在を根拠として処分に値しない旨の原告等主張の理由のないことは既に前示(イ)において述べたところと同様である。それ故、原告平尾の行為はみだりに職務を放棄したものというべきである。

(2)  原告等の違法行為がいかなる法条に該当するかについて、懲戒処分書(乙第六号証の一ないし四)添付の処分説明書の順序に従つて詳述すると次のとおりである。

(A) 原告戸祭の違法行為の該当法条

原告戸祭は、

<1> 昭和三十七年十月三日午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間四国財務局庁舎内食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに高松支部が主催した第一次評定者の会同にみだりに参加し、職務を放棄した当時施行の国公法(以下同様とする)第百一条第一項、職員団体に関する職員の行為(昭和二四、五、九人事院規則(以下人規という)一四-一、三項前段該当)((ロ)の点)

<2> 昭和三十七年十月五日同局々長室において午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間に行われた同局々長と共斗役員との会見にみだりに職務を放棄して参加し(国公法第百一条第一項および人規一四-一)、三項前段該当)、同日午前十一時三十分頃同局々長が外出しようとした時、同局庁舎内において、それまで会談していた共斗役員等と共同して同局々長をしつように追いかけ、とり囲みその前方に立ちふさがり、その外出を妨害した(国公法第九十九条、第百一条、人規一四-一、三項前段該当)。((ハ)(ニ)の点)

<3> 昭和三十七年十月五日午後三時頃みだりに職務を放棄し、同日午前中の同局々長と共斗役員との会談およびその後の状況について、執務中の職員に対し、同局総務課長の中止要求に応ずることなく、携帯拡声器により放送を行ない職員の職務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヘ)の点)

<4> 昭和三十七年十月八日同局々長の業務命令により同日午後五時までに勤務状況報告書を第一次評定者が第二次評定者に提出することになつていたのを、同日午後四時頃から午後五時頃までの間みだりに放棄し、組合側に提出するよう第一次評定者をあおり、そそのかした(国公法第百一条第一項、第九十八条第五項後段該当人規一四-一、三項前後段)。((ト)の点)

<5> 昭和三十七年十月九日午前十時頃同局階上事務室において、沼田委員長が前日勤務状況報告書を組合に保管した経過について、執務中の職員に経過報告を行つた際、勤務時間中であるため、同局総務課長の制止があつたにもかかわらず、沼田委員長に同行し職務を放棄した(国公法第百一条第一項人規一四-一、三項前段該当)。((チ)の点)

<6> 昭和三十七年十月九日同局階下事務室において、午後零時三十分頃より午後一時二十七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((リ)の点)

<7> 昭和三十七年十月十日生後二時頃から午後二時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対斗争の結果、措置等について、抗議要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人親一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(A)の点)

<8> 昭和三十七年十月十日午後四時三十分頃から午後五時頃までの間みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人親一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(B)の点)

<9> 昭和三十七年十月十二日午後三時頃から午後四時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(C)の点)

(B) 原告上川の違法行為の該当法条

原告上川は、

<1> 昭和三十七年十月二日午後四時五分頃、みだりに職務を放棄し、四国財務局階上階下事務室において、携帯拡声器で第一次評定者に対し、勤務状況報告書を記入しないことを要請する趣旨の放送を行ない、勤務中の職員の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((イ)の点)

<2> 昭和三十七年十月三日午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間みだりに職務を放棄し、同局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに、高松支部が主催した第一次評定者の会合に参加し、第一次評定者に対し、勤務状況報告書の提出を延伸するようあおり、そそのかした(国公法第九十八条第五項後段、第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ロ)の点)

<3> 昭和三十七年十月八日午後三時三十分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局々長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、これを組合が保管することの共同謀議に参画し(国公法第九十八条第五項後段、第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)、同委員会終了後同日午後五時頃までこの実行に加担した(国公法第九十八条第五項前段、第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ト)の点)

<4> 昭和三十七年十月九日同局階下事務室において、午後零時三十分頃より午後一時二十七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((リ)の点)

<5> 昭和三十七年十月十日午後二時頃より午後二時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対斗争の結果、措置等について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(A)の点)

<6> 昭和三十七年十月十日午後四時三十分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(B)の点)

<7> 昭和三十七年十月十二日午後三時頃から午後四時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同調長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(C)の点)

(C) 原告香川の違法行為の該当法条

原告香川は、

<1> 昭和三十七年十月三日午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間四国財務局食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに高松支部が主催した第一次評定者の会合にみだりに参加し職務を放棄した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ロ)の点)

<2> 昭和三十七年十月五日同局々長室において、午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間に行われた、同局々長と共斗役員との会見にみだりに職務を放棄して参加した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ハ)の点)

<3> 昭和三十七年十月五日午後一時三十分頃みだりに職務を放棄し、同局経理課事務室において、経理課長に対し、勤務状況報告書の提出を一日でもおくらせる組合方針に従うよう要請した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ホ)の点)

<4> 昭和三十七年十月八日午後三時三十分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局々長の義務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、これを組合が保管することの共同謀議に参画し(国公法第九十八条第五項後段、第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)、同委員会終了後同日午後五時頃までこの実行に加担した(国公法第九十八条第五項前段および第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ト)の点)

<5> 昭和三十七年十月九日同局階下事務室において、午後零時三十分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国公法第百一条第一項、人現一四-一、三項前後段該当)。((リ)の点)

<6> 昭和三十七年十月十日午後二時頃から午後三時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対斗争の結果、措置について抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(A)の点)

<7> 昭和三十七年十月十日午後四時三十分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に、非行調査に組合員を立会わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(B)の点)

<8> 昭和三十七年十月十二日午後三時頃から午後四時三十分頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人現一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(C)の点)

(D) 原告平尾の違法行為の該当法条

原告平尾は、

<1> 昭和三十七年十月三日午前十時三十分頃より午前十一時三十分頃までの間四国財務局庁舎食堂において、勤務評定の適正な実施を妨害する目的のもとに高松支部が主催した、第一次評定者の会合にみだりに参加し、職務を放棄した。(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ロ)の点)

<2> 昭和三十七年十月八日午後三時三十分頃みだりに職務を放棄し、高松支部が同支部組合事務所において主催した執行委員会に参加し、同局々長の業務命令で定まつていた第一次評定者の提出期限を延伸し、これを組合が保管することの共同謀議に参画し(国公法第九十八条第五項後段、第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)、同委員会終了後午後五時頃までこの実行に加担した(国公法第九十八条第五項前段および第百一条第一項、人親一四-一、三項前後段該当)。((ト)の点)

<3> 昭和三十七年十月九日同局階下事務室において、午後零時三十分頃より午後一時二十七分頃までの間、勤務時間にくい込む職場集会に積極的に参加した(国法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((リ)の点)

<4> 昭和三十七年十月十日午後二時頃から午後二時三十分頃までの間みだりに職務を放棄し、同局総務課長に勤評反対斗争の結果、措置等について、抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(A)の点)

<5> 昭和三十七年十月十日午後四時三十分頃から午後五時頃までの間、みだりに職務を放棄し、同局総務課長に非行調査に組合員を立合わすよう抗議、要求を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(B)の点)

<6> 昭和三十七年十月十二日午後零時十分頃同局内庭において、共斗が開催しようとした無許可の抗議集会に、高松支部組合員が参加するよう再度にわたり、携帯拡声器で呼びかけた(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前段該当)。((ル)の点)

<7> 昭和三十七年十月十二日午後三時頃から午後四時三十分頃までの間みだりに職務を放棄し、同局総務課長に、集会不許可、離席問題等について抗議を行ない、同課長の勤務を妨害した(国公法第百一条第一項、人規一四-一、三項前後段該当)。((ヌ)の(C)の点)

以上のとおりである。

(3)  結論

以上のように原告等はいずれも四国財務局における昭和三十七年度勤評反対斗争として、法に定めた勤務評定制度の適法な実施を阻止妨害する目的のもとに、前記の如き勤務状況報告書の組合保管という争議行為を頂点とし、その前後にくり返された一連の違法行為をなし、もつて重要なる国家事務の正常な運営を著しく阻害したものであつて、同人等の行為はいずれも、当時施行国公法第八十二条第一号の「この法律又は人事院規則に違反した場合」に該当すると同時に、同条第二号の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」にも該当するものであり、被告がこの行為に対して本件懲戒免職処分をなしたことは当然であつて原告等主張のような違法ないし不当の瑕疵は存しない。

それ故この点に関する原告等の主張は採用しない。

二、前記国公法第九十八条の規定は違憲無効か否かについて。

本件処分は被告が原告戸祭等の行為が当時施行の国公法第九十八条第五項の規定に定めた争議行為ないし怠業行為に該当するものとして、同法第八十二条の規定を適用して行われたものであるところ、原告等は、この規定は憲法第二十八条の規定に定めた勤労者の基本的人権をいわれもなしに制限ないし剥奪した違憲の規定であつて、当然無効である旨縷々主張するが、公務員一般に対する労働基本権を制限することを定めた右国公法第九十八条の規定が憲法第二十八条の規定に違反しないことは既になされた最高裁判所昭和二十八年四月八日大法廷判決、同昭和三十年六月二十二日大法廷判決、同昭和三十八年三月十五日第二小法廷判決の趣旨に照して明らかであるから、この点に関する原告等の主張は採用のかぎりでなく、従つて右国公法第九十八条の規定が違憲無効であることを前提とする原告等の主張はいずれも理由がない。

三、本件処分は懲戒権の濫用に該るか否かについて。

(一)  原告等は、本件処分は次の理由により懲戒権の濫用であるから違法である。すなわち、

1 本件処分は、大蔵当局ないし被告が、原告組合、四国地本を破壊する意図のもとに強行した報復的措置である。

2 本件処分の主目的は、あらかじめ狙いをつけた人達を財務局から追放することであつた。その標的は原告戸祭等である。

3 被告は従来の職場慣行として行われていた点につき無警告で直ちにこれを違法と断定しており、また従来国の出先機関の長が天下り的に、企業に就職することにより生ずる行政阻害と今回、原告組合の行つた正当且つささいな組合活動といずれが実質的に国民に不利益になるかは明白のことであるから、国の業務を阻害したとの理由をもつて原告等を本件懲戒処分に付したことは被告の労務管理の信義誠実性に全く欠けることを示すと同時に組合組織を破壊しようとする意図を示すものにほかならないものであつて不当である。

4 本件処分はかつて官公庁にその例をみない程の苛酷なものである。同じ国家公務員であれば、省庁の別を問わず、概ねその処分基準は均一でなければならない筈である。しかるに本件処分は著しく均衡を失した苛酷な処分であるから、平等取扱の原則と公正の原則に反するものである。

旨主張する。

(二)  当裁判所の判断、

当時施行の国公法第八十二条によれば、職員が前記同条第一号又は第二号等の一に該当する場合において、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる旨規定されている。即ち国公法は第八十二条において公務員関係における秩序維持の手段としての懲戒について、その種類を定めると共に、懲戒処分をすることができる場合を規定している。懲戒処分の種類は右の四種類であつて、その軽重の順序は、免職を最も重い処分とし、以下同条にかかげられている順序に従つて戒告を最も軽い処分とするものと解するが、懲戒処分をすることができる場合は、本条規定によつて明らかなように極めて概括的に定められており、且つ、いかなる場合にいかなる種類の懲戒処分をすべきかについては何等の規定もない。そうして、右第一号又は第二号に該当する場合といつてもその規模、態様や程度は千差万別であり、極めて軽微なものから極めて悪質なものもあるであろうから、この違反に対して懲戒処分に付するには単に懲戒事由が存在するというだけにとどまらず、当該懲戒事由が懲戒処分の事由として客観的に妥当且つ必要なものであることを要することは勿論であるが、免職以下四種類の懲戒処分のうちいずれを選択するかはそれぞれの場合について懲戒権者たる行政庁の裁量によつて決定せらるべきである。なかでも、懲戒免職処分に至つては、今日の一般労使関係よりすれば、労働者又は公務員が一旦解雇又は免職されると再就職が容易ではなく、仮りに再就職の機会が与えられたとしても、年功序列型の賃金体系を主とする我が国の現状においてはかなり不利な条件の下に再就職を強いられること必至であり、結局解雇又は免職された労働者又は公務員は多く生活の基盤を失い、路頭に迷う結果とならざるを得ないことを考慮すれば、前示第一号または第二号等に違反したことを理由に前示国公法第八十二条に基く免職処分(懲戒処分)に付するには、その行為の態様、程度のほか、特に争議行為の場合には当該職員(公務員)の争議行為への参加の仕方、争議行為の実行において果した役割、地位及び、免職によつて当該職員の受ける打撃等を彼是考慮して、社会通念に照して客観的に妥当且つ必要なものであると認められる場合でなければならない。したがつて免職処分にして右の基準に合致する場合は適法であることは勿論であるが、比較的軽い違反行為をとらえて、免職処分を行うが如きは、客観的妥当性を欠き、職員の生存権に対する不必要且つ苛酷な侵害であり、ないしは右裁量の範囲を逸脱したものであつて、懲戒権の濫用として違法といわなければならない。

そこで以下本件について考えてみるに、原告戸祭等四名の行為は前叙のとおりであつて、原告等に対する本件免職処分は前記のとおり四国財務局における、昭和三十七年度勤評反対斗争に際し、原告等が行つた勤務状況報告書の組合保管という争議行為を頂点とし、その前後にくり返えされた一連の違法行為に対してなされたものである。しかも本件勤務状況報告書の組合保管ということは、単純に勤務状況報告書の提出を遅らせるような方法とは本質的に異り、かつて例を見ない異例の争議行為である。原告等が回収した本件勤務状況報告書は、決して単なる勤評用紙ではなく、局長命令をもつて各評定者に対し提出期限を明記し、文書命令の形を備えた勤務状況報告書であり、しかもその大部分が各評定者において既に記入済みの極秘の公文書であつたのである。かくの如き公文書を実力を行使して回収し保管することが許されるのであれば、官の威信も公の秩序も到底保持されるものではなく、原告等の行為が、正当な組合活動の範囲を逸脱した違法のものであることは前叙のとおりである。そこで、前記原告等の主張について順次に検討する。

(1)  報復的措置かどうかの点につき、

原告戸祭等四名に対する本件処分は右のような原告等の違法行為に対して国公法及び人事院規則に違反するところから同法第八十二条第一号第二号に基づき行われたもので、組合に対する破壊意図ないしは報復手段としてなされたものでは決してないものというべきである。

原告等は、更に、「高松支部が十月八日に第一次評定者から勤評用紙を預り再交渉を申入れたのに対し、被告は翌九日に交渉を再開すると言いながら、ひそかに本省と連絡し、予め手筈をととのえてあつた応援の係官を呼び寄せ十日から非行調査なるものを開始した」のは、「あらかじめ仕組まれた報復」を物語るものであると主張しているが、前記認定の勤務状況報告書の組合保管に至る前後の事情等から判断するに、被告側は原告等が右報告書を取り上げる等の常軌を逸した違法行為に出ることを全く夢想だにしなかつたのであり、右違法行為が発生した後に急遽本省へ調査官の派遣を要請したものである。また調査内容も局長の業務命令に反して報告書を第二次評定者に提出しなかつた当時の第一次評定者の行為を対象としたもので、予め手筈を整えて組合弾圧のための調査をしたものではないものというべきである。

更に大内事件については、本件処分とは何等の関係もない

もので、原告等が同事件をもつて、当局側が組合弾圧の意図を有するに至つたとなすのは、全く根拠のないものというべきである。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(2)  特定個人の狙い打ちかどうかについて、

原告等がその主張のような組合の役職その他共斗関係の役職にあつたことは争ないところであるけれども、原告等四名に対する本件処分は前叙のような事実関係を前提としてなされたものであることは前叙のとおりであつて、特に原告等四名が熱心な組合活動家であるということをとらえ、また特にいわゆる非行調査の段階においても原告等四名をマークして特別な調査をして、これらを殊更に免職処分に付したとは認められない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用しない。

(3)  被告の職場慣行否認の態度の当否並に、国の業務阻害の程度は軽微かどうかについて。

原告等は、四国財務局においては職場が組合活動の場であること及び原告等の属する原告組合四国地本並に同高松支部にはいわゆる専従職員がいないところから、勤務時間中に組合活動が職場慣行として行われていた。そして原告等のなした本件各行為は、右職場慣行に従つてなされたものであるにかかわらず、被告は慣行破棄の事前通告もしくは事前警告もなく本件処分を行つているが、それは、信義誠実性を全く欠くものであり、一面、組合組織を破壊しようとする意図の現れである旨主張するので検討する。

勤務時間中の組合活動は原則的には禁止され、ただ人事院の定める手続又は条件に従うこと及び団体協約を含まない適法な交渉を行う場合に限り認められているのみであると解すべきこと前叙のとおりである。それ故に右許容された以外においては、勤務時間中の組合活動につきたとえ上司の承認又は慣行があつたとしても原則論的には前記法規に違反するものというべきであるが、ただ組合活動にして適法なとき、その他その目的、規格その他の態様等に照して実質上国の業務の正常な運営を阻害しない程度のものについては条理上違法性の阻却される場合がありうるに過ぎないことは既に述べたとおりである。そればかりでなく本件原告等の行為については、その主張のような慣行の確立していたことを認めるに足る資料のないこと及び、原告等の行為は既にくり返し述べた如くその違法性は極めて大きい悪質なもので、もとより国の業務の正常な運営を阻害するものというべきである。それ故に本件処分につき原告等主張のような慣行否認による信義誠実性の欠缺はなく、また原告等の行為にして前記のとおりであるから、本件処分をもつて組合組織を破壊する意図に出たものということはできない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用の限りでない。

(4)  本件処分が苛酷、不均衡なものかどうかについて。

<1> 原告戸祭、同上川、同香川関係、

原告等は、本件処分は他の省庁の処分基準と対比しても、また本件勤評反対斗争の被処分者相互についてみても不均衡である旨主張するので検討するに、過去において財務局の如き非現業官庁においては勤務状況報告書を組合が保管したといつたような妨害行為が発生した事例は一度もない。また彼処分者間に不均衡があるとし沼田委員長に対する処分を一例として挙げているが、沼田委員長が発した指令には勤務状況報告書を組合が保管することまでは含まれていなかつた。

また同委員長が高松における現地指導に際し、右報告書の組合保管を指示したことはあるが、これは高松支部役員の強い提案に対してこれを承認して指示したものであつて、同委員長以外の原告香川、同上川等のように積極的に行動したものとはその事情を異にするものである。

また高松支部長の訴外大塚文男の行為と比較するに、証人平川嘉一、同大塚文男の各証言によれば、訴外大塚文男は昭和三十六年度の支部長たる訴外平川嘉一の後を受けて昭和三十七年度に支部長を引受けたのであつたが、機関責任としての責任は負うけれど、訴外平川が執行委員に留任するということで引受けたような事情にあり、また本件勤評反対斗争についてもあまり積極的でなく、十月八日の段階でもあまり組合事務所へ顔も出さないので、午後四時過頃組合事務所の方から呼ばれて同所に赴き、そこで前記のような決定をするに至つたものであることが認められるので、本件勤評反対斗争においても実質上の指導権をもつていなかつたことが窮われるので、前記原告香川、同上川ないしは同声祭等の責任が訴外大塚文男のそれに比して重かるべきことは明らかである。その他訴外高橋建その他の者等の責任と比較してみても、原告等主張のような平等取扱の原則ないし公正の原則に違反して著しく不均衡な処分ということはできない。それ故原告戸祭、同上川、同香川の前認定のような違法行為に対して前示国公法第八十二条の規定に基づく免職処分に付した被告の措置が懲戒権の濫用とはいえない。

よつてこの点に関する原告等の主張は採用の限りではない。

<2> 原告平尾関係、

原告平尾は高松支部の執行委員として、本件勤評反対斗争に加つたのであるけれども、その関与した程度、役割は前叙のとおりであつて、本件において最も重要視すべき勤務状況報告書の組合保管を決定した高松支部執行委員会における行動並に、これに基づいて行なわれた右報告書の回収という実行加担においても、高松支部の三役でもなく、特に他の執行委員等に比してより積極的な発言行動をとつた事跡も認められず、平執行委員として行動を共にしたものというのほかなく、その他本件勤評反対斗争における一連の行動においても右と略同様であるというべきである。

そこで本件における諸般の事情を彼是考合すれば、原告平尾に対する本件免職処分は、もともと前叙懲戒免職処分の基準に照しても苛酷に過ぎるものというべきであるばかりでなく、右は、高松支部長大塚文男の所為(前記(二)1、(ロ)、(ホ)、(ト)、(リ)、(ヌ)の(B)、(C)において認定した所為その他)又は中央委員長たる沼田委員長の所為(前記(二)1、(ト)(リ)、(ヌ)(A)(B)(C)において認定した所為その他)等につき支部長たる訴外大塚文男(停職九ヶ月)、中央委員長たる沼田委員長(停職三ヶ月)等に対してなされた懲戒処分に比して甚だしく重きに過ぎ、裁量を誤つたものというべきである。それ故原告平尾に対する本件免職処分は前記平等取扱の原則ないしは公正の原則に違反して著しく不均衡な処分というべきであつて、右の本件免職処分は懲戒権の濫用として違法というべきである。

よつて被告の原告平尾に対してなした本件前示国公法第

八十二条の規定に基づく免職処分は違法にしてこれを取り消すべきものとする。

四、結論

叙上説示により被告が原告戸祭、同上川、同香川に対してなした本件各前示国公法第八十二条の規定に基づく免職処分は違法ではない。しかして他に右処分を違法ならしめる瑕疵を認めるべき資料もないから右原告三名に対する本件免職処分は適法であつて、これが取消を求める右原告三名の各請求は失当であるが、原告平尾に対してなした本件免職処分は違法としてその取り消しを求める同原告の本件請求は正当として認容すべきである。

よつて原告全財務労働組合の本件訴を却下し、被告が昭和三十七年十一月十日原告平尾久に対してなした国家公務員法第八十二条の規定にもとづく免職処分を取り消し、原告戸祭忠男、同上川善弘、同香川盛史の本件各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 橘盛行 村上明雄 西川賢二)

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