大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和41年(ソ)2号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕一、本件抗告の理由は

抗告人、相手方間の善通寺簡易裁判所昭和三九年第(ハ)三一号家屋明渡請求事件につき、昭和四一年三月一〇日、同裁判所において訴訟上の和解が成立したが……同年同月一二日、右抗告人は、原裁判所に、右和解についての意思表示はその要素に錯誤があるとの理由で期日指定の申立をしたるところ、同年五月三一日右申立却下の決定がなされた。しかし右決定は失当であるのでその取消を求めるため本抗告におよぶ

というにある。

二、ところで、本件記録によれば、原審において、前記のとおり訴訟上の和解が成立し、その調書が作成されたこと、これに対し抗告人から前記のとおり期日指定の申立があつたこと、並びに右申立に対し原裁判所は、訴訟上の和解が成立し、和解調書が作成されたときは、確定判決と同様の既判力を有し仮に右和解に実体法上の瑕疵、例えば要素の錯誤があつても、右和解の効力は影響を受けず、訴訟は終了するとの理由で、前記期日指定の申立を却下したことが認められる。

三、しかしながら、訴訟上の和解は、当事者にその意思によつて紛争を解決する権能を認めた制度であつて私的自治に属する行為であるから国家の公権的判断である判決が確定した場合と全く同一の効力を有するものと解すべき必然性はなく、また、当事者の保護の面から考えても、訴訟上の和解は、実体法上の要件を完全に具備している場合にのみ確定判決と同一の効力を有し、実体法上の無効原因が存在する場合は、私法上の契約部分も、訴訟終了の合意も、当然無効であつて、訴訟はなお係属しているものと解するのが相当である。もつとも、原決定引用の如く、裁判上の和解は既判力を有する旨の最高裁判決(昭和二四年(オ)第一八二号、同三三年三月五日判決、民集一二巻三号三八一頁)があるが、これは罹災都市借地借家臨時処理法第一五条による裁判が「裁判上の和解と同一の効力を有する」という同法第二五条の解釈に関するものであるうえ、従来の大審院の示した、訴訟上の和解の既判力についてのいわゆる制限的既判力説を変更する旨明言していないし、また、その後右の説を前提とした最高裁判決(昭和三二年(オ)第一一七一号、同三三年六月一四日判決民集一二巻九号一四九二頁等)も存在するから、判例は、依然として右の制限的既判力を採用しているものと解すべきである。

四、従つて、右の如く、裁判上の和解成立後、当事者が訴訟物たる私法上の権利関係についての裁判上の和解が意思表示の要素に錯誤があるため無効なりとして期日指定の申立を求めたときは、裁判所は期日を指定し、その主張の如き要素の錯誤の有無を審理判断した上、相当の判決をなすべきものと解すべきところ、以上と見解を異にし、裁判上の和解ありたる以上は常に訴訟は完結し訴訟終了を来たすものと解し、本件期日申立を却下した原決定は失当であつて取消を免れない。(橘盛行 大石貢二 新田誠志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!