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高松地方裁判所 昭和47年(わ)413号 判決 1973年1月30日

主文

被告人を懲役四月に処する。

押収にかかるデリンジヤー型改造拳銃一丁(昭和四八年押第二号の一)、雷管(薬夾)一個(同号の二)および雷管(薬夾)二個(同号の三)は没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四六年一二月一〇日頃から昭和四七年五月二二日までの間、愛媛県今治市河南町三丁目アサヒ薬局南側空地西隅の土中にデリンジヤー型改造拳銃一丁、実包一発、雷管(薬夾)二個を隠匿所持したものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)

被告人の判示所為中、改造拳銃所持の点は銃砲刀剣類所持等取締法第三条第一項、第三一条の二第一号に、実包および雷管(薬夾)所持の点は包括して火薬類取締法第二一条、第五九条第二号に該当するところ、右は一個の行為にして二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により重い拳銃所持罪の刑をもつて処断することとし、その所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処し、押収してあるデリンジヤー型改造拳銃一丁(昭和四八年押第二号の一)は判示拳銃所持の犯罪行為を組成した物であり、同雷管(薬夾)一個(同号の二)は、判示実包を鑑定のため実射したもので、同実包の一部として判示実包所持の犯罪行為を組成したものというべく、さらに押収してある雷管(薬夾)二個(同号の三)は判示雷管(薬夾)所持の犯罪行為を組成した物であつて、いずれも犯人以外の者に属しないから刑法第一九条第一項第一号、第二項によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示拳銃、実包、雷管(薬夾)は、他の拳銃二丁、実包六個と共に、被告人が一括して所持していたものであり、これらの所持は本来包括的に一罪の関係にあるものであるところ、本件以外の拳銃、実包を所持していた事実については、すでに昭和四七年五月六日有罪の判決を受け確定しているのであるから、その確定判決の既判力は本件に及ぶものである旨主張する。

本件記録によると、被告人は、昭和四六年一一月初め頃、池田源次が改造拳銃を試射している現場に鳥生正之と共に通りかかつたことから、鳥生が池田から改造拳銃二丁を譲り受け、同日頃、被告人が鳥生からこれを預り、愛媛県今治市共栄町二丁目一番二二号都屋アパート内自室のタンス引出しの中に保管していたが、同月一〇日頃になつて、被告人は、池田に申し入れて同人から改造拳銃一丁、実包数個を譲り受け、拳銃三丁を一括して右タンス引出しに入れておいたところ、同年一二月一〇日頃、被告人が、他人を脅すべく、自室内で池田から自己が譲り受けた前記拳銃を実射したことから、警察の取調べを受ける事態を予測し、同日頃、鳥生から預つていたところの前記拳銃二丁を鳥生の輩下であり被告人の友人でもある玉川仁を自室に呼んで同人にこれを預けた後同日夜半池田から譲り受けたところの自己所有の前記拳銃一丁および実包一個、雷管(薬夾)二個を右同市河南町三丁目の実父方前のアサヒ薬局南側空地西隅まで持つて行き穴を堀つて土中に埋め隠匿したところ、玉川に預けた鳥生所有の前記拳銃二丁の所持が警察の知れるところとなり、捜査機関の取調べを受け、その拳銃二丁の所持の事実については、他の犯罪事実と共に起訴されて、昭和四七年五月六日松山地方裁判所で懲役二年に処せられて、同月二一日に確定したものであるが、この間、池田から自己が譲り受け、土中に埋めて隠匿していた前記拳銃等については捜査機関に露見せず、同月二二日になつて、警察から追求されてはじめてこれを自供して、同拳銃等が発見され、同日領置されたうえ、捜査機関の取調べを経て本件起訴がなされたものである。

ところで銃砲刀剣類、火薬類等の不法所持罪の罪数を定めるにあたつては、所持すなわち実力支配関係の形態を内心的物理的、時間的、空間的等諸般の関係を総合的に斟酌し、社会通念によつて決すべきところ、捜査機関の捜査をまぬがれるため等従前と異なつた動機、事情から、それまで一括して所持していたものを分割し、それぞれ他と区別し、場所をかえ、方法をかえて隠匿するに至つたときにおいては、新たに別個独立の所持を開始したものというのが相当であり(最高裁判所判決昭和二四年五月一八日刑集三巻六号七九六頁および同判決昭和三〇年七月一九日刑集九巻九号一、八八五頁の各趣旨参照)、被告人が昭和四六年一二月一〇日頃、警察の取調べを受ける事態を予測し、捜査機関の追求をまぬがれるため、鳥生から預つた同人所有の拳銃を玉川に交付して預け、自己が譲り受けた自己所有の拳銃等を他の場所に運んで隠匿したことにより従前の一括した包括的所持関係は二個に分割分離され、それぞれ別個独立の新たな所持となつたものと言うべきである。

従つて、判示拳銃等の所持は、前記確定判決にかかる拳銃等の所持とは公訴事実を別にするものであつて、本件は、右確定判決の効力を受けるものではなく、これと見解を異にする弁護人の論旨は理由がない。

よつて主文のとおり判決する。

(豊田健)

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