大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所丸亀支部 平成12年(ワ)137号 判決 2001年9月17日

原告

有限会社A

上記代表者清算人

原告

被告

上記代表者法務大臣

森山眞弓

上記代理人

丸山哲夫

渡部誠二

倉本幸芳

坂東利定

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1求める裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は、原告有限会社A(以下「原告会社」という。)に対し、金7031万8517円、原告甲(以下「原告甲」という。)に対し、金2282万9100円、及びこれらに対する平成9年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  仮執行宣言。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

(3)  担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第2事案の概要

1  本件は、原告らが、被告の丸亀税務署職員の所得税課税について、及び課税を行うに際して過失による違法行為があったとして、国家賠償法1条1項により、原告ら各自の被った損害の賠償及びこれらに対する損害発生後の民法所定率による遅延損害金の支払を求めるものである。

2  争いのない事実

(1)  原告甲は、香川県丸亀市土器町西C土地、D土地の各土地を所有しており、同所の建物(店舗)を平成9年11月27日以前所有していた。上記建物には、平成6年3月22日受付をもって、賃借権者原告会社の賃借権設定登記がなされ、平成9年11月27日受付をもって、売買を原因として原告会社への所有権移転登記がなされ、上記賃借権設定登記の抹消登記がなされている。

原告会社は、平成6年2月4日設立され、その資本金が800万円、代表取締役が原告甲である。

原告甲は、上記店舗及び給油所、駐車場である上記C土地、D土地の各土地を、原告会社に賃貸していた。原告会社は、上記給油所での石油類の販売及び上記店舗、駐車場の転貸を業としていた。

原告会社は、原告甲との関係で、所得税法157条1項にいう同族会社である。

(2)  平成9年8月4日、丸亀税務署職員乙(以下「乙」という。)が、原告会社の事務所で原告甲の税務調査をした。

その結果、同年9月24日、丸亀税務署職員乙と同じく丙(以下「丙」という。)は、原告甲に対し、原告甲の税務調査結果書類を提示して、次のとおり述べた。

即ち、原告甲に関して、所得税法157条(同族会社の行為計算否認)を適用する。原告会社は不動産管理会社である。その適正な不動産管理料は原告会社の不動産賃貸料の6パーセントと算出した。したがって、原告会社が収受した賃貸料から上記適正な不動産管理料を差し引いた金額が、原告甲の本来収受するべき賃貸料である。それに基づいて、原告会社の平成6年2月4日設立からの各事業年度分の確定申告書の損益計算書の純売上高の中で家賃、駐車場収入として計上している金額平成6年度分1353万8320円、平成7年度分1629万0480円、平成8年度分1629万0480円の中から適正管理料6パーセントを引いた金額平成6年度分1272万6021円、平成7年度分1531万3052円、平成8年度分1531万3052円合計4335万2125円が原告甲の収入金額となる。

他方、原告甲の所得税の確定申告書による各年度の申告不動産地代、家賃、賃貸料収入金額は、平成6年度分634万4800円、平成7年度分761万3760円、平成8年度分761万3760円合計2157万2320円である。

そこで、上記原告甲の収入金額から上記申告額を引いた金額である平成6年度分638万1221円、平成7年度分769万9292円、平成8年度分769万9292円合計2177万9805円が原告甲の不動産地代、家賃収入の計上漏れである。

その計上漏れ額に対する各年度の追徴本税額平成6年度分144万8000円、平成7年度分195万2700円、平成8年度分162万1200円3年分合計502万1900円を甲は各年度の所得税の修正申告書によって支払いしなさい。

(3)  平成9年9月26日、乙と丙は、原告らに対し、原告会社は原告甲の所得税申告を少なくするため設立した同族会社であり、現状での原告ら双方による平成6年3月22日賃貸借契約からの商売の営業を続ける限り、毎年同じように本物件家賃、駐車場収入に対する処分は同じだと説明及び処分による請求をした。

(4)  平成9年10月31日、税理士丁(以下「丁」という。)と丙との間で、原告会社の適正管理料を20パーセントとして計算する話が出された。

(5)  平成9年11月5日、原告甲は、丁税理士事務所で、丸亀税務署職員丙に、平成6年度、平成7年度、平成8年度の各所得税修正申告書に自己の印章を押して提出した。

(6)  その4、5日後、原告らは、丸亀税務署職員丙と同じく戊(以下「戊」という。)に上記修正申告書の返戻を強く要求したが、返却してくれなかった。

(7)  その後、丸亀税務署長己から、督促状により、原告甲の平成6年度、平成7年度、平成8年度分の各所得税の修正申告による所得税納付書税額合計296万3800円(他に1年間14・6パーセントの延滞金)が郵送された。

平成9年12月25日、原告甲は、戊に呼び出されて、丸亀税務署で、戊から、上記督促状による納付書税額の納付を強く催促された。

原告甲は、同日上記平成6年分の修正申告にかかる追徴税である本税93万9700円、過少申告加算税9万3000円、延滞税7万7300円、平成7年分の修正申告にかかる追徴税である本税100万4100円、過少申告加算税12万5000円、延滞税8万3000円、平成8年分の修正申告にかかる追徴税である本税102万円、過少申告加算税12万8000円、延滞税5万7700円を丸亀税務署納付担当へ現金で支払った。

3  争点

(1)  丸亀税務署職員の過失による違法行為の有無

(原告主張)

① 原告会社と原告甲に対し、丸亀税務署職員乙と丙、戊は、誤った税務調査方法と判断による結果、所得税法157条(同族会社による行為計算否認)を適用した。

上記適用が間違いである理由は、原告会社の行為又は計算が、原告甲の所得税の負担を不当に減少させる結果となる場合ではないからである。それは、原告会社の設立が被告の丸亀税務署職員や司法書士らの指導による公正なものであること、原告会社と原告甲の賃貸借契約における地代家賃の金額は、上記指導内容を理解して適正な金額を算出したことから言えるものである。

そうして、上記税務署職員らは、原告甲はその所得税を不当に減少させるため、自らが賃貸人となり、賃借人となる原告会社を設立したものとし、原告会社は不動産管理会社であり、適正管理料は6パーセントであると算出し、原告会社の賃料収入から上記6パーセントのみを差し引いた額を原告甲の賃料収入として課税する扱いをした。しかし、実質的に原告甲が賃貸人、原告会社が賃借人であって、原告会社は不動産管理会社ではなく、原告会社の得る賃料収入は、原告甲の収入となるのではなく、原告甲の不動産収入に関しては、原告会社への適正な賃貸料と思われる月額61万6000円が問題とされるべきであって、上記税務署職員らの扱いは間違いであった。

しかも、上記税務署職員らは、原告甲と原告会社とで、二重課税となるような計算否認をした。

② 乙と丙は、上記管理料6パーセントに基づいて、原告甲の平成6年度、平成7年度、平成8年度、平成9年度分までの不動産地代、家賃所得を算出加算させて、これによる追徴本税額の納付(更正)を要求した。原告らは、乙と丙に対し、上記所得税法157条の適用とその理由による処分は間違っていると強く趣意を説明したが、理解してくれなかった。その後も、乙、丙、戊は、長期にわたり、平成11年8月25日の原告会社解散時まで、原告らを誑すして誑かしながら執拗にその要求と所得税法157条の適用を原告らにし続けた。

③ その過程で、原告らは、平成9年10月31日、庚及び丙に、原告会社の不動産管理料を20パーセントで計算して追徴税額を算出することと、上記追徴税額から原告会社が各年度に支払った二重課税分を差し引くことを妥協案の条件として伝えた。これについて、丙は、同年11月5日、原告らに対し、これを受け入れて妥協すると約束し、原告らを期待させた。

④ 丙は、平成9年11月5日丁税理士事務所で、原告甲をして、平成6年度、平成7年度、平成8年度の白紙の所得税の修正申告書に印章を押捺させ、そのまま提出させた。原告甲は、上記③の丙の約束を信じて上記押捺提出をした。

その後平成9年11月8日頃、原告甲は、丁及び丙から、上記丙の妥協約束が、現実に二重課税分を差し引くのではなく、原告甲の平成6年度から平成9年度までの不動産所得加算分約2000万円に対し、原告会社が平成9年度から平成13年度の5年間損金約2000万円を計上する方法であると聞かされ、丙に誑すして誑かされたと思い、同月10日頃、丙と戊に上記修正申告書の返戻を強く要求したが、返却してくれなかった。

⑤ また、乙、丙は、平成9年9月24日頃、原告らに対し、原告甲の建物(店舗)、給油所を原告会社が買っていれば、所得税法157条の適用による本件処分はしなかったと言った。

丙は、平成9年11月5日、原告らに対し、原告甲の給油所の土地と建物(店舗)の土地の賃貸借契約をするか、建物(店舗)、給油所を原告会社が買えば、今後所得税法157条の適用をしないと言った。これは、原告らに対する欺罔に当たる。このため、原告らは売買する必要のない上記物件の売買契約をした。

⑥ ④の後、乙、丙、戊らは、原告甲と原告会社に対して、上記修正申告による税額296万3800円、即ち原告会社の不動産管理料を20パーセントとするが、二重課税分を差し引かない方法による金額の納付を強く請求し、平成9年12月25日原告をしてその金額等を納税させた。

(被告主張)

① 丸亀税務署職員は、平成8年分以前にかかる原告甲の所得税申告に対して所得税法157条を適用した。

本件不動産の賃貸借契約書によると、原告会社は、原告甲から転貸を条件として本件不動産を賃借し、原告甲に賃料を支払うとともに、Bにこれを転貸して転貸料収入を得ているから、実質的には、その差額が原告甲から原告会社に支払うべき不動産管理の対価(管理料)となっていると見ることができる。そうすると、本件不動産の賃貸料が不当に低額であるかどうかは、上記管理料が適正額であるかどうかの問題に置き換えることができるから、所得税法157条の適用に際して丸亀税務署職員が原告会社を不動産管理会社とみなしたことに誤りはない。また、本件不動産の賃貸料について、所得税法157条の適用の可否を判断するためには、同族関係にない不動産管理会社に本件不動産と同規模程度の建物又は駐車場の管理を委託している者が、当該不動産管理会社に支払う管理料の金額が上記委託者の得る賃貸料収入の金額のうちに占める割合と比準する方法によって、通常であれば支払われるであろう標準的な管理料の金額を算定し、これと本件不動産の賃貸料の金額とを比較検討すればよい。

その検討の結果、本件不動産の賃貸料は標準的な管理料の金額に比べて不当に低額であり、原告甲の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていると認められたので、丸亀税務署職員において所得税法157条を適用することが相当と判断した。

また、各修正年分について、原告の納税地であり本件物件の所在地を所管する丸亀税務署管内の上記のような不動産賃貸の同業者の賃貸料収入及び支払管理料の金額を調査し、管理料割合の平均を算出し、これに判例等の管理料割合を斟酌した上で、適正管理料割合を6パーセントと算定した。しかし、その後の原告側との話し合い等の結果、最終的には原告会社の適正管理料を賃料等収入の20パーセントとした。

② 所得税法157条の適用に関して、二重課税となるとの主張については、同条の規定により同族会社の行為又は計算が否認されるのは課税の計算上のみのことであって、同条の規定に基づく否認は法人が現実に行った行為又は計算の成否、当否に影響を及ぼすものではなく、また、課税の計算上も、否認されたもの以外の行為又は計算にまで考慮を払う必要はない。したがって、個人に対して上記規定を適用したからと言って、私人間の契約や行為が当然には無効となるものではなく、法人に対しても原則として否認の効果が及ぶものではない。

同条の適用に当たっては、所得税の課税主体(個人)に生じる税負担の減少とその不当性を検討すれば足りるから、原告甲の税負担を論じる際に、別個の課税主体たる原告会社の税負担の増減についてまで考慮する必要はない。

本件において、原告甲に同条が適用されたからと言って、原告甲と原告会社との間の賃貸借契約及び賃料支払の事実自体は影響を受けるものではないから、原告会社の申告した税額に変動は生じておらず、同原告に対して税金を還付するべき理由はない。

③ 乙及び丙は、平成9年9月24日以降、原告甲に対し、調査結果をもとに、所得税法157条の適用及び原告会社に支払われるべき適正管理料割合を6パーセントとする前提で、原告甲の不動産所得金額及び税額等を説明したが、理解が得られなかった。丙らは、丁税理士に対しても調査結果を説明し、修正申告書を提出するよう原告甲への説得を依頼していた。同年10月31日、丁税理士から、適正管理料の割合を20パーセントとする修正申告案が提示された。同年11月5日、丙は、丁税理士事務所で、同税理士と話し合い、適正管理料の割合を20パーセントとする案を受け入れることとした。その際、原告会社が納付した税金を還付する話は出ていないし、同原告の損金処理の話もなされなかった。そこで、丁税理士は原告甲を事務所に呼び出し、同原告に対し、管理料の割合を20パーセントとした場合の不動産所得の金額及び税額等を説明し、同原告も納得した。そこで、原告会社が収受するべき適正管理料の割合を20パーセントとして原告甲の平成6年ないし平成8年分の修正申告書を作成し、原告甲はこれらに押印の上、提出した。

ところが、原告甲は、後日、修正申告の内容が自分の考えと違っていることに気付いたとして、平成9年11月10日などに丸亀税務署を訪れ、丙らに対し、修正申告による処理に異議を唱えた。

④ 原告甲が修正申告書を提出した際に、二重課税分を差し引くなどという妥協案は出ていない。かえって、丁税理士も丙も、原告会社が支払った税金を二重課税分として還付することができないことは、原告甲に対して繰り返し説明していたのであって、税務署職員が原告らを誑かしたような事実はない。

⑤ 原告甲が平成9年11月5日に丁税理士事務所で平成6年ないし平成8年分の各修正申告書に押印したのは、白紙の修正申告書ではない。原告甲が上記押印をするに当たっては、丁税理士事務所の事務員3名が手分けをして所要の金額欄に修正申告にかかる金額を記入し、丁税理士が原告甲に記入済みの修正申告書を提示して中身を確認させた後、原告甲が自ら押印した。

⑥ 丸亀税務署職員が、平成9年9月に、原告らに対して、原告甲所有建物を原告会社が買っていれば、所得税法157条を適用しなかったと明言したかどうかは不明である。

仮に、上記発言をしたとしても、一般論としては誤りではない上、平成9年11月27日に、原告会社が原告甲から建物を購入した旨の登記があるところ、同年分からは、所得税法157条を適用していないから、上記発言は原告らに対する欺罔等に当たらず、違法ではない。

⑦ 税務署職員らは、度重なる原告甲の来署にも誠実に対応し、何とかその理解を得ようと説得に努めていたもので、同原告を誑かすような言動をした事実はなく、いたずらに税務調査の長期化を図ったということもない。

以上のとおり、上記職員らに何ら違法、不当な行為はない。

(2)  丸亀税務署職員の行為による原告の損害

(原告主張)

① 賃貸人原告会社と賃借人B株式会社(以下「B」という。)との本件物件の賃貸借について、平成9年9月末日から、Bから賃料を月額115万円から月額100万円に再三減額要求があった。

他方、原告らは、原告らへの所得税課税に関し、原告らの妥協の条件に対し、丙が妥協の条件を認めて妥協すると言ったため、原告会社を適正な法人と認めて許してくれると思った。そのために原告らはBの減額要求を引き延ばしていたが、平成9年11月11日、妥協の条件を誑すして誑かされたことにより、原告会社は原告甲と相談のうえ、上記賃貸借を解約した。

その結果、賃貸人原告会社は、賃料減額後の1か月につき100万円と駐車場賃料1か月につき16万8000円を平成9年10月から平成12年6月分まで収受することができなくなった。結果、原告会社は33か月分の家賃、駐車場収入3854万4000円の損害を被った。

② 原告会社は給油所を経営していたところ、原告会社は、不良ガソリン、不良軽油を販売していたために丸亀税務署の税務調査を受けていると言った世上の噂と、長期にわたり不当な所得税法157条の適用による本件処分の継続(平成9年度分)のために、自由な商売ができず、販売数量の減少と、上記①の解約等により原告会社は損害を受けた。

上記処分継続のために、原告会社は、平成9年12月31日その経営の給油所を閉鎖し、平成11年8月25日、社員総会の決議により解散した。

その結果、原告会社経営による給油所の第1ないし第3期の売上総利益合計1479万7645円を1か月に換算して43万5224円となるところ、平成10年1月から平成12年6月まで30か月分の売上総利益1305万6720円の損害を被った。

③ 原告らは、平成9年11月27日、丸亀市土器町西所在の店舗建物を原告甲から原告会社に売買する契約をした。原告会社は、その代金と原告会社の受けた損害から会社再興と存続のために、同日、国民金融公庫から1500万借入をした。

④ その結果、原告会社は、平成9年6月30日の貸借対照表、損益計算書におけるまで利益を上げ、堅実な経営をしていたのに、平成9年12月31日の貸借対照表においては、負債の部合計2332万4730円、資本の部資本金800万円、剰余金マイナス579万4892円、うち当期損失661万7797円、損益計算書においては、営業損失693万9425円、経常損失、当期損失661万7797円と固定負債1500万円、合計負債損失額2161万7797円の損害を被った。

その中から、固定資産の不動産評価額290万円を引いた1871万7797円が損害額となる。

⑤ 以上の原告会社の損害合計金額は、7031万8517円である。

⑥ 原告甲は、上記原告会社の受けた損害と信頼回復と存続のために、不安と苦しさのために夜不眠による左耳鳴りがして病院からの睡眠薬を服用しながら会社の潔白を認めてもらうために丸亀税務署に行っていた。その苦しみを見て知って心痛していた原告甲の妻は、平成9年11月21日勤務中に交通事故により右肩骨折により入院した。原告甲は、取締役の手当1か月分を4分の1に減額した。

原告甲は、D土地と同土地上の建物(ガソリンスタンド構造物一式)、C土地と同土地上の建物(店舗)の賃貸人として、賃借人である原告会社から、地代家賃1か月につき61万6000円と消費税5パーセントを加算した64万6800円を平成10年2月まで収受していたが、本件によって、平成10年3月から平成12年6月まで28か月分地代家賃合計1811万0400円が原告会社から収受できなくなった結果、同額の損害を被った。

原告甲は、平成6年度、平成7年度、平成8年度の修正申告書による所得税の納付額296万3800円と、これを納付したことによる同各年度の市、県民税の過年度分175万4900円を平成10年1月26日に納付したことによって、その合計471万8700円の損害を被った。

したがって、原告甲の損害合計は、2282万9100円である。

(被告主張)

① 被告の税務署職員らに違法、不当な行為はないから、原告らが何らかの損害を被ったとしても、被告がその賠償責任を負う理由はない。

② 原告会社の平成9年12月期の損失や固定負債と税務調査との間に因果関係は認められない。

③ 税務調査と原告会社がBからの賃料減額要求に応じることができなかったこととの間に相当因果関係はない。

④ 原告会社の給油所閉鎖などによる売上総利益に関する損害主張については、給油所についての悪い風評がどのようなものか明らかでなく、税務調査との関連性は不明である上、税務調査が原因で給油所が閉鎖に追い込まれるような事態は想定できない。給油所の閉鎖は税務調査とは別の経営上の理由によるものであり、競合他社との競争による経営悪化が原因と考えられる。

⑤ 原告甲の地代家賃収受ができなかったことによる損害主張について、所得税法157条が適用されたからといって、原告ら間の賃貸借契約が否定されるわけではないから、原告甲が地代家賃を収受できなかったことと、所得税法157条の適用或いは被告の税務署職員らの税務調査との間に因果関係は認められない。

⑥ 原告甲の所得税と地方税納税にかかる損害主張について、上記納付税は、本来同原告が負担する税額であったから、これをもって同原告の損害に当たるということはできない。

第3争点に対する判断

1  税務署職員らの過失による違法行為の有無(争点(1))

(1)  原告甲に対する課税(所得税法157条の適用及びその適用方法)の違法性

① 甲第1号証の1ないし4、第2号証の2、3、第3号証の1ないし9、第4号証の1ないし3、第5号証の1ないし4、第8号証の1ないし5、第9号証の1、2、第10号証の2、3、第12号証の1、2、第13、第14、第17号証の各1ないし3、第18、第19号証の各1ないし4、乙第3号証の1ないし3、原告本人によると、次の事実か認められる。

ア 原告甲は、昭和44年以降、丸亀市土器町西973平方メートル(後記建物建築以降は宅地。以下「C土地」という。)、同所1162平方メートル(後記給油所設置以降は宅地。以下「D土地」という。)を所有していたところ、昭和46年以降、上記D土地において給油所を設置経営し、遅くとも昭和54年以降、上記C土地において、鉄骨造鋼板葺平家建店舗床面積547・24平方メートルの建物を建築所有して、これをスーパーマーケットに賃貸し、以上の給油所経営と不動産賃貸業を営んでいた。上記原告甲の建物賃貸について、遅くとも平成3年3月以降は賃借人はBであり、賃料は115万円であった。

原告甲は、平成5年ころから、法人を設立してこれに上記事業を引き継ぐことを計画し、司法書士と相談し、法人設立及び課税関係の本に当たりつつ、丸亀税務署職員にも相談を持ちかけながら、法人設立計画を進め、その結果、原告会社を設立した。原告会社は、出資金額は総計800万円で、うち350万円を原告甲が、150万円を原告甲の妻辛が、150万円を原告甲の長男壬が、150万円を同人の妻癸が有している同族会社である。

原告甲は、原告会社設立直後の平成6年2月頃、原告会社との間で、上記給油所の土地及び地上のガソリンスタンド用の構築物、上記建物等を原告会社に対し、上記建物については転貸用に、それぞれ賃貸する契約を締結した。その賃貸期間は約20年間であり、賃貸料は、上記土地、構築物、建物を合わせて月額61万6000円(消費税別途)であった。なお、原告甲が、他に原告会社に賃貸したのは、原告ら住所地の建物の一部であり、これは原告会社の事務所用であって、その賃料は平成6年2月において月額5万円であった。

イ 以後、原告会社が、上記D土地上の給油所を経営し、かつ同土地の一部を駐車場とし、その24区画のうちBが21区画をまとめて専用駐車場として使う約定で、及び建物を店舗用として、いずれもBに賃貸していた。上記賃料は、建物分が平成6年3月以降月額115万円(消費税別途)であり、駐車場分は同年4月以降月額16万8000円(消費税別途)であった。なお建物賃貸借についてはBから敷金800万円が差し入れられた。

ウ 原告甲は、原告会社に対し、平成9年2月4日、上記D土地上に所有していた未登記の軽量鉄骨ブロック造平家建スタンド事務所、ブロック造平家建スタンド倉庫、ガソリンスタンド構築物一式を代金62万円で売渡し、同年11月27日、上記の建物を、代金760万円で売り渡した。原告会社は、同日、上記建物購入等のために、国民金融公庫から1500万円を借り入れた。

エ 原告甲が当初申告した平成6年、平成7年、平成8年の各年分の所得税確定申告のうち、不動産所得関係の内容は次のとおりである。

平成6年分

総合課税の所得金額

不動産 収入金額871万3800円

676万7718円

平成7年分

総合課税の所得金額

不動産  収入金額761万3760円

537万5409円

平成8年分

総合課税の所得金額

不動産  収入金額761万3760円

536万3277円

オ 原告甲が平成9年11月5日提出し、被告が所得税の課税をする根拠とした修正申告書の内容は次のとおりである。

平成6年分

修正前

修正申告額

総合課税の所得金額

営業

36万3110円

36万3110円

不動産

収入金額1319万9656円

676万7718円

1125万3574円

一時

1万1337円

1万1337円

合計

714万2165円

1162万8021円

所得から差し引かれる金額

合計

285万3810円

285万3810円

課税される所得金額

428万8000円

877万4000円

税額・差引所得税額・再差引所得税額

55万7600円

173万2200円

特別減税額

11万1520円

34万6440円

申告納税額

44万6000円

138万5700円

修正する額

93万9700円

平成7年分

修正前

修正申告額

総合課税の所得金額

不動産

収入金額1303万2384円

537万5409円

1079万4033円

合計

537万5409円

1079万4033円

所得から差し引かれる金額

合計

276万2130円

276万2130円

課税される所得金額

261万3000円

803万1000円

税額・差引所得税額・再差引所得税額

26万1300円

127万6200円

特別減税額

3万9195円

5万0000円

申告納税額

22万2100円

122万6200円

修正する額

100万4100円

平成8年分

修正前

修正申告額

総合課税の所得金額

不動産

収入金額1303万2384円

536万3277円

1078万1901円

合計

536万3277円

1078万1901円

所得から差し引かれる金額

合計

261万2240円

261万2240円

課税される所得金額

275万1000円

816万9000円

税額・差引所得税額・再差引所得税額

27万5100円

130万3800円

特別減税額

4万1265円

5万0000円

申告納税額

23万3800円

125万3800円

修正する額

102万0000円

上記各修正申告書のうち、不動産の収入金額は、平成6年分について、同年当初1、2月ころの原告甲が賃借人から受け取った賃料収入金額236万9000円とその後同年末までの原告会社がBから受け取った賃料収入から20パーセント控除後の金額1083万0656円)の合計額であり、平成7、8年分については、いずれも、各年に原告会社がBから受け取った賃料収入から20パーセント控除後の金額である。

カ 原告会社の解散前、代表取締役として原告甲、非常勤取締役としてその長男壬がいた。平成11年8月25日社員総会の決議により解散後の清算人は原告甲である。原告会社の平成6年から平成8年にかけての役員報酬として、原告甲の分は零であるが、壬の分が、平成6年分325万6000円、平成7、8年分各355万2000円支払われている。

原告会社に課税された法人税は、平成6年分が18万3300円、平成7年分が23万8000円、平成8年分が4万3300円である。

② 原告甲本人兼原告代表者本人(以下「原告本人」という。)は、原告会社を設立し、D土地、C土地と各土地上の給油所(構築物)、建物を原告会社に賃貸する際には、司法書士や税務署職員に相談し、本を読むなどして正しい方法として採用したのである旨、賃貸した際の賃料61万6000円は、固定資産税の3倍以上であり、公示価格ないし固定資産評価額の6パーセント(年率)にも相当するうえ、上記各土地をすべて駐車場として貸した場合に上げられる収入金額に相当するから、賃料として相当である旨、したがって、所得税法157条を適用するのは間違っている旨供述する。

しかし、所得税法157条の適用に当たっては、納税者に主観的に納税を回避しようとする意思があることを必要とはしない。そのうえ、不動産の賃貸収入が問題となる場合には、賃料相場がいくらかはともかく、納税者が得るべき収入を前提に、納付するべき税額が、同族会社が関係することにより不当に減少するかどうかを検討されるべきである。

この点、上記①の認定によると、平成6年から平成8年を通じて、C土地、その地上建物及びD土地の一部については、Bが賃借人としており、その賃料は月額115万円及び16万8000円で合計131万8000円(消費税別途)に達する。Bに対する賃貸人は原告会社であり、原告会社は、土地建物の所有者である原告甲からこれらを賃借し、Bに転貸しているのであるから、この転貸については、原告会社は不動産管理業がその実態であるものと見られる。そうして、原告会社は、この間、上記転貸の他に、D土地の他の一部を使用して給油所を経営していたところ、この給油所分を併せて、原告甲に賃料として月額61万6000円(消費税別途)を支払っていたに過ぎない。そうすると、原告会社の上記転貸による収益は、原告甲に支払うべき賃料を差し引いて、月額70万2000円を超え、Bから得る賃料収入の5割を大きく超えることとなる。しかし、証人丁、同丙に照らし、不動産管理会社の管理料相場は、賃借人から得る賃料収入の割合から見ても、上記のような大きな割合になることは考えられないのであって、原告甲と原告会社間の上記賃貸借における賃料額は、経済性、合理性を欠くこと甚だしく、異常なものと認めざるを得ない。そうして、上記賃料が通常の金額を定めた場合に比べると、原告甲は、本来はBから、同会社が支払う月額131万8000円の賃料から、不動産管理の経費を差し引いた程度の収入を上げることができ、その収入額に見合う不動産所得があり、これに見合う所得税を納税するべきであったところ、上記のように原告会社から月額61万6000円の賃料を受け取るに止まる処理をしたことにより、自らの受け取る賃料収入、ひいては不動産所得の額を大幅に減少させ、もって納税するべき所得税額を不当に減少させたものと言うべきである。原告本人は、原告会社が賃借人となってからも、原告甲の受け取る賃料は減少していないかのように供述するが、①認定のように、原告会社が賃借人となるより前の原告甲の受け取る賃料は建物分だけでも月額115万円であったから、実際に、受取賃料が大幅に減少していることは明らかである。

したがって、所得税法157条の適用が、所得税の負担を不当に減少させるとの要件を欠いていたなどとは言えず、誤っていたものとは認められない。

③ 丸亀税務署職員である乙及び丙が、原告甲について所得税法157条を適用する際、原告会社の受け取るべき適正管理料の割合を家賃、駐車場収入の6パーセントと見て、これのみを上記収入から除外し、残額を原告甲の不動産収入とする前提に、原告甲が行うべき修正申告における所得額及びこれによる納税額を算出し、原告甲にその納税を求めた点について、その相当性について検討する。

税務署職員らは、後に上記割合の6パーセントを20パーセントに変更して修正申告させ、納税させているところから、上記6パーセントがどれほど根拠が確かであったか疑問を差し挟む余地がある。しかし、上記①認定のBとの賃貸借の実態、とりわけ賃借人はB1社であり、賃貸対象物件は床面積の広い建物と駐車場の大部分のまとめ貸しであって、管理は困難とは言えず、しかも空地空室による収入低下の危険はあまり考えなくて良いこと、賃料額が大きいこと、また、証人丁によると、原告会社は建物の修繕もしていたと言うのであるが、甲第18号証の1ないし4に照らすと、その修繕費はそれほど多くなかったと見られることに照らすと、賃料収入に比べ、転貸の経費がそれほどかさむ要因は見当たらず、原告会社の転貸における経費の額、賃料収入に占める割合がそれほど大きいものとは考えにくい。そうして、乙第9号証及び証人丙によると、平成9年8、9月ころ、不動産管理の同業者について管理料の相場を調査したところ、賃料収入の6パーセントと見られる結果が得られたことが認められことにも照らすと、上記管理料を6パーセントと見て、本件に当てはめてその分だけをBから受け取る賃料収入から除外し、残額を原告甲の不動産収入と見るのは相当の根拠がなかったとは言えない。

次に、原告会社の受け取るべき管理料を20パーセントとして、原告甲の不動産収入を、原告会社が介在する期間について、原告会社のBから受け取る賃料収入から上記20パーセントを差し引いた金額相当額とし、これを前提として、原告甲にその不動産収入に関して修正申告させ納税させた点については、上述のところ及び乙第9号証、証人丙に照らし、相当の根拠が考えられ、何ら問題性があるとは認められない。

④ 所得税法157条の適用に関して、原告甲と原告会社との賃貸借契約の賃料額にかかわらず、原告甲の賃料収入をより大きいものと見て納税させると、原告会社の税務処理との関係で、二重課税となるかどうかについて検討する。

この点、二重課税が問題とされるべきなのは、上記所得税法157条の適用により、原告甲について、不動産所得が増え、これによる追加納税が生じる一方で、原告会社から原告甲が受け取った報酬等に所得税等の課税がなされていたことにより、原告甲に過重な負担が生じるような場合である。しかし、①認定によると、原告会社から原告甲に報酬を支払われてはおらず、この他、原告甲が、原告会社を通じて、上記不動産所得以外に何らかの所得を得たことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告会社を通じる原告甲の所得、納税があったとは認められないから、二重課税のおそれは認められない。

もっとも、原告会社は、①認定によると、平成6年ないし平成8年分の法人税を納めており、また、取締役である長男壬に相当の報酬を支払っているので、同人に対してこれによる所得税の課税があったものと考えられる。しかし、これらはいずれも納税者が原告甲とは別人である。また、原告会社に対する法人税課税が、出資金額の半分近くを有する原告甲に利害を及ぼすことは考えられるが、原告会社に課されていた法人税は比較的少額であること、上記①の認定事実及び乙第10号証によると、原告会社設立前、平成5年分の原告甲への所得税額は199万4400円に達していたところ、仮に原告会社が設立されなかった場合、原告甲への所得税額は、平成6年以降分も同程度に達したであろうと認められることに照らすと、所得税法157条の適用による本件修正申告の結果によっても、原告甲はかなり大きな税額減少を得たものと見られ、原告会社設立による節税効果は大きく、上記法人税の課税額を補って余りあるものと見られることに照らすと、原告会社の法人税課税の関係についても、やはり二重課税のおそれは認められないと言うべきである。

そうすると、所得税法157条の適用により、原告らに、二重課税のおそれがあるとは認められない。

⑤ 以上の検討によると、原告甲に対する本件の所得税法157条適用及びこれを前提とする不動産所得、納税額の算出、さらに納税させたこと自体に間違いがあるとは言えず、したがって違法性は認められない。

(2)①  原告本人は、平成9年10月31日、丙から、原告会社の不動産管理料を20パーセントとするとの案が出された際、それだけではだめであり、それに加えて、原告会社が支払った税金が二重課税となるので、それを原告甲への追徴税額から引くことを妥協の条件として提示した旨、そうすると、同年11月5日丁から、丙が原告甲の言った条件で妥協すると言っているとの電話があり、丁税理士事務所に赴いて、丙と約束をしたうえ、修正申告書に押印した旨供述する。

この点、乙第9号証、証人丁、同丙の供述も合わせると、平成9年11月5日より前に、原告甲は、上記二重課税分を引いてほしいとの要望を丁や丙に話していたことは認められる。

しかし、原告甲の上記供述は、平成9年11月5日丁税理士事務所における話の内容について具体性に欠け、その日、丁から電話で、原告甲の不動産収入から原告会社の賃料収入の20パーセントを差し引く妥協案がまとまった旨伝えられたことを、二重課税差引をも含めて妥協された趣旨と受け取り、これを丙との間でも確認したものと述べるに過ぎない内容と解される。

②  そうして、乙第5、第9号証、証人丁及び同丙によると、平成9年11月5日より前に、原告甲に対し、丁は、二重課税の差引の話はできない旨説明しており、丙も、直接間接に二重課税分を差し引くことはできない旨伝えていたものであり、上記丁からの電話は、二重課税差引の話を含まなかったものと考えられることに照らすと、上記原告甲の供述は措信しがたい。

③  次に、甲第15号証の1、2、乙第5、第9号証、原告甲本人によると、原告甲は、平成9年11月8日ころ以降、上記修正申告について、丁及び丸亀税務署職員らに対し、二重課税分の差引がなされないことに納得できないと言い出し、さらに、丸亀税務署に対し、丙らが二重課税分を返すとの約束をしたのに守らないから、納付書を返すと述べて納付書を返送し、修正申告書の返戻を求めたことが認められる。

しかし、これも、乙第5、第9号証、証人丁、同丙に照らすと、丙と原告甲との間において、平成9年11月5日の修正申告書作成以前に二重課税分差引の約束があったことを推認させるものとは言えない。

④  かえって、乙第5、第9号証、証人丁、同丙によると、平成9年11月5日丁税理士事務所で、先ず、丁が、丙と話をした結果、原告甲の不動産収入について、原告会社の管理料20パーセント差引をする案で妥協に達したが、それは、二重課税分差引をしない前提のものであり、丁はその理解のもとに、原告甲に電話連絡して妥協案がまとまった旨告げて原告甲を事務所に来させたこと、それから、丙及び丁、原告甲間の話で、平成6年、平成7年、平成8年の課税について、原告甲の不動産収入算出に当たり、原告会社の管理料として賃料収入の20パーセントを差し引く旨、その場合の追徴税額が確認されたが、その時二重課税分差引の話は出なかったことが認められる。

⑤  そうして、この他に、丙ら税務署職員が、原告甲の修正申告、追徴税納付に関し、二重課税分を差し引くようなことを言ったものと認めるべき証拠はない。

したがって、この点に関して、被告の税務署職員が、原告らを誑すして誑かすような言動をしたと言うことはできない。

(3)①  原告本人は、平成9年11月5日丁税理士事務所で押印し提出した平成6年、平成7年、平成8年の各修正申告書は、印刷文章以外は記入がなく白紙であった旨供述する。

②  しかし、甲第14号証の1ないし3、乙第3号証の1ないし3、第5号証、証人丁、同丙によると、平成9年11月5日丁税理士事務所で、丙、丁、原告甲間で、原告甲の不動産収入額及びこれにかかる納税額の内容が確認されたのを受けて、丁税理士事務所の事務員3名が手分けして原告甲の平成6年、平成7年、平成8年の修正申告書の収入、所得、税額等、乙第3号証の1ないし3の各修正申告書に現に記入があるすべての所要事項を記入し、原告甲の氏名等も代筆し、そのうえ、控え用にコピーを取ったこと、その後原告甲が各修正申告書の原本に押印し、これを丙に渡して提出したこと、上記コピーは当日原告甲に渡されたことが認められる。

原告ら提出の上記各修正申告書(控え)の写しである甲第14号証の1ないし3には、縮小コピーながら、乙第3号証の1ないし3と全く同一書体の内容上の記載があるが、押印はないのであり、これは、証人丁らが述べるように、修正申告書用紙原本に所要事項の記載がなされた後、上記甲第14号証の1ないし3である写しが取られ、その後上記用紙原本に原告甲の押印がなされたことを示すものと考えられる。したがって、この作成経過に沿う上記証人丁らの供述は信を措きうるものであり、これに反する上記原告甲の供述は措信しがたい。

③  さらに、(2)で述べたところによると、上記修正申告書について、原告甲が、丙の二重課税分を差し引くことを含む約束を信じて、いわゆる誑すして誑かされた結果押印提出したとも認められない

④  原告らが、その後、丸亀税務署の丙と戊に、上記修正申告書の返戻を強く要求したが、返戻してくれなかったことは争いない。

しかし、上記修正申告書が、上記②に述べたように白紙に押印され提出されたものではなく、所要事項を記載したものに押印され、真正に成立し提出されたものと見られるものであり、さらに、上述のように、誑すして誑かされた結果押印提出されたとも認められない以上、その返戻を求めうるものではないから、上記返戻しなかったことを違法と言うことはできない。

(4)①  原告本人は、丙が、平成9年11月5日丁税理士事務所で、原告らに対し、原告甲と原告会社とが土地の賃貸し借りをするか、又は店舗を原告会社が買えば、今回の所得税法157条の同族会社の行為計算否認による処分はしないと述べた旨供述する。

証人丙は、日ははっきりしないが、原告甲所有の店舗を原告会社が買えば、所得税法157条は適用されない趣旨のことを言った旨供述する。

②  ところで、上記丙が行ったという発言にあるように、店舗建物が原告甲の所有ではなく、原告会社の所有となれば、原告甲に上記建物にかかる賃料収入はなくなり、上記建物の賃貸借に関して、原告甲が賃貸人となるところへ、原告会社が賃借人転貸人として介在することはなく、その敷地である土地についても、原告甲から原告会社に賃貸された上、第三者に転貸される事態は起きないと考えられるから、原告甲の賃料収入が、原告会社の行為又は計算により、不当に減少される事態は生じ得なくなると考えられる。なお、給油所については、もともと原告会社を通じての転貸ではないから、所得税法157条による行為又は計算の否認の問題は生じていないものである。

これに関して、原告甲は、平成9年中にD土地の給油所の構築物を、同年11月27日にC土地上の建物をそれぞれ原告会社に売り渡しているのであるが、証人丙によると、原告甲の平成9年の所得税についても、上記売渡より前の時期については、所得税法157条の適用はなされたものと認められるが、上記証人の供述に照らし、上記売渡以降の時期について、所得税法157条の適用がなされたことを認めることはできない。

したがって、①の発言を丙が行ったとしても、それが間違いであるとか、これが原告らを欺罔するものであるとか、その発言のために、原告らが不利益な行為をしたとは認められないから、この点に関し、税務署職員の言動に何ら違法性を認めることはできない。

③  平成9年9月24日頃に、乙、丙が、原告甲の建物及び給油所を原告会社が買っていれば、所得税法157条の適用及びこれに基づく処分をしなかったと言ったかどうかについて、これを認めるに足りる証拠はない。仮に、そのような発言がなされたとしても、これを違法と言うことはできないことは上記②と同様である。

(5)  原告本人は、丸亀税務署職員乙、丙らは、平成9年8月の税務調査以降、原告らに対し、聞く耳を持たないとか、文句言うななどと言い、間違った所得税法の適用があると言って脅かしたとか、その指示する金額による納税を強く要求した旨供述する。

しかし、原告甲への所得税課税について、被告の丸亀税務署職員らが所得税法157条の適用をすること及び不動産所得、納税額の算出、さらに納税させたこと自体に間違いがあるとは言えないことは(1)に述べたとおりである。また、乙第9号証、証人丙によると、丸亀税務署職員の乙、丙らは、原告甲が所得税法157条の適用や追徴課税について異議を唱え、自らの主張を繰り返し続けるのに対し、原告甲の言い分をそのつど聞いたうえ、法規定の趣旨や調査結果などにつき理解を得るための説明を繰り返したことが窺われ、これら証拠に照らすと、丸亀税務署職員らがその指示する金額による納税を強く要求したとの点は否定し得ないものの、そのほかに原告本人の言う、聞く耳を持たない等の言動をしたとの点は措信しがたいと言うべきである。そうして、上記納税を強く要求したとの点について、前述のとおり、課税の根拠がないとは言えないのであるから、これを違法視することもできない。このほか、上記(2)ないし(4)に述べた他に、被告の丸亀税務署職員らの原告らへの対応について、違法な言動を認めることはできない。

(6)  以上のように、本件において、原告主張に関して、被告の丸亀税務署職員らについて、違法行為を認めることはできない。

2  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 高田泰治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例